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参考人(
大山隆久君)
皆さん、こんにちは。
日本理化学工業、
大山と申します。
本日は、このような
場所でお話をさせていただく
機会を頂戴し、本当にありがとうございます。
障害を持った
社員から教わったこと、
気付きの中で得た御提案をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。(
資料映写)
まず、
弊社の
会社の概要ですけれども、
昭和の十二年、東京の大田区で操業を開始をいたしました。今年で八十一期目になります。
黒板で使う
チョークを作る
会社でして、体に優しい、食べても害のない
炭酸カルシウム製の
ダストレスチョークという
商品名で、そういった
商品を主力に製造販売する小さな文具のメーカーです。
工場は
神奈川県の川崎と北海道の美唄というところに二か所ありまして、全
社員が八十五名おります。その
うちの六十三名が
知的障害の
社員で、その六十三名中、
重度の方が二十六名おります。
重度というのは
IQ四〇以下ということで、字の
読み書きとか
数字の
理解は難しいかなという
人たちです。その
障害者雇用のスタートというのは
昭和三十五年からスタートしておりますので、ちょうど来年で六十年になります。
どういう
会社の
状況かということで、
うちは十二月決算なものですから直近の
数字を持ってまいりました。
売上高八億四千八百万です。本当に小さな規模です。
うちのその
売上げの半分以上はやはり
ダストレスチョーク、
黒板で使う
チョーク、また
黒板拭きとか、そういった関連の
商品で占められています。本当に小さな、
チョークの
マーケットというのは小さな
マーケットなんですけれども、一応国内のシェアは六〇パー以上はあるかなと
思います。
でも、全く
危機感しかないというか、全く余裕がある
状況ではなくて、もう三十年以上前から
少子化というのは始まっておりますし、九〇年代に入るとPCが普及をして
授業の形態がどんどん変わって、二〇〇〇年代になると、もう
ICT化でこういうプロジェクターとか
電子黒板が導入されるようになっていますので、板書での
授業というのが本当にますます減ってきている
状況の中でその
危機感ということです。
利益については、
経常利益五千九百八十四万ということで、
売上げに対しては七%ぐらいです。
自己資本比率については六九・六一ということで、少しずつ安定できるような
状況をつくろうということで重ねてきております。
弊社の
経営理念ですけれども、ここに書いてあるとおりです。一番大切にしていることというのは、やはり
理解力の差というのはみんなそれぞれ違いますから、その中で
相手の
理解力に合わせる、その中で教えるとか段取るということを一番
弊社の中で大事にしていることです。やはり伝わらなければ意味がありませんので、ただ
言葉で伝えれば伝わる
人たちでもないですので、いろんな模索をしながらその
相手の
理解力に合わせるということを大事にしております。
我々、この
経営理念の中に二つの
ミッションを入れておりまして、全
従業員の
物心両面の働く幸せということと、一番
最後に書いてある、
障害者雇用に
こだわり、より良い皆
働社会の
実現に貢献しますと書いてあるんですが、この皆
働社会ということ、
弊社の
会長がずっと
思いを持って伝えてきていることです。今日、
皆さんに是非ここの
部分、後ほど御説明をさせていただきたいと
思います。
ここは私の私見になるんですけれども、
知的障害の方ってどういう方
たちが多いのかなということで少しお話しさせてもらいたいんですけれども、まず、苦手なところ、
臨機応変に
作業をすること。
やはり非常に
こだわりの強い
人たちが多いものですから、なかなか、次、じゃ、こうしようというふうになったときに、切替えが難しいというんですかね、そこの今やっていることにこだわっていってしまうということが多いものですから、なかなか
臨機応変な対応というのがちょっと難しいかなというところはあります。ただ、みんな
成長しますので、ここもちゃんと克服もしていきます。
次いで、
自分のことを正確に
言葉で伝える。
なかなかその表現の、何というか、スムーズに
言葉にならない人もおりますし、
言葉自体にならない
社員もおります。ただ、だからってコミュニケーションができないわけではなくて、短い
言葉だとか単語で酌み取ることというのは
幾らでもできるし、その表情だとかそういうことで、逆に知る
努力につながるというか、
言葉に頼らないで知る
努力につながるので、我々にとっては逆に良いことにもなったりもします。
三番目、字の
読み書きや計算。
先ほど
IQ四〇以下という話をしましたけれども、これも、だからって
仕事ができないわけではなくて、それに代わることを考えればいいわけで、例えば、文字の
認識が難しければ、色が分かれば色で感知すればよいですし、時間の見方が分からない人がもしいれば、昔は砂時計とか、今は
キッチンタイマーとか、時間を表すものって
幾らでもあるわけですから、そういうことでその苦手なことを超えていく
工夫はできるかなと
思います。
一つ、今日持ってきたんですけれども、これ、でき上がりの
チョークなんですけど、JISの規格でちゃんと何ミリ以上何ミリ以下と決まっているんですね。その中で我々も作るんですけど、普通は、長さだと定規を使うと思うんですね、測って何センチ以内だから
オーケーとか、太さだったらノギスを使うと思うんですけど。ただ、やっぱり
数字が苦手な人に、じゃ、
検査をどうやってしてもらえばいいかなということで、我々が実は採用しているのはこういう
治具なんです。
ちょっと見づらいと思うんですけれども、ここ、今
段差があるんですね。だから、どう使うかというと、ここに
チョークを当てて、この
上限と
下限の間にいてくれれば、要は結果が合えばいいわけですから、これをすれば、長さはこれで
オーケーなんだということをもう見るだけで分かるんですね。今度、太さについても、ここの幅が
上限で、これ、実は
真ん中に
段差があるんですけど、ここが
下限になっていて。どういうことかというと、もしここで止まってしまったらこれは太過ぎるから駄目ですよ、今度これが
真ん中で止まらずに下まで行ってしまったら細過ぎるから駄目ですよ、この間でこうやって止まる
チョークは
オーケーですよと言ったら、みんな
うちの
社員分かるんですね。
だから、
検査というとどうしても
数字を使わなきゃいけないというイメージあるかもしれないですけれども、要らないんですね。だから、こういう、結果を合わせるためにこういう
治具を考えればいいだけなので、まあ
一つの例ですけれども、こういうことをちょっとした
工夫で十分彼らは大きな
戦力になってくれるということです。
続いて、
長所の
部分ですが、
自分が
理解したことを一生懸命に集中して
仕事をしてくれる。
まあ、本当にこういう
機会はないと
思いますけれども、もし
うちの
工場に来ていただけたら、邪念なく働く姿というのは本当にすごいなと思うし、
単純作業かもしれないですけど、その
持続力というんですか、それを一心にこうやっていくあの力というのは、もう到底僕なんかまねできないですし、やっぱり
うちの宝はそこだなと思うし、いつもできることを精いっぱいその
現場でやってくれる
人たちなんですね。だから、今日行っても、一週間後でも、一か月後でも、一年後でも、
うちのその
現場の雰囲気というのは変わることがない。これが我々の宝だなというふうに思っています。本当に
職人のようにやってくれる
人たちです。
続いて、風邪で休まない人がほとんど。
確かに苦手なことはありますけれども、体は元気なんですね、本当に休まない。休まないというのも、これは
責任感で休まない。やっぱり、
自分が
会社に行かないと
会社が困るんだ、我々みたいな小さな
会社というのは、一人がやっぱり休まれてしまうと誰かがそこをバックアップしなきゃいけない、そうすると本当に予定どおり組めなくなっちゃう。だから、毎日ちゃんと来てくれるというのは物すごく大きな貢献なんですね。その体の丈夫さ、あるいは
自己管理ということもそうですし、
責任感の中で彼らは大きな
戦力になってくれています。
最後、
手順どおり仕事をしてくれるので、
けがに至らない、特に
重度の人と書きました。
これ、どういうことかというと、もうそのとおりその
仕事をしてくれるので、
仕事のやり方のとおり、決められたとおりにやってくれるということは、そのとおりの結果が出るんですね。僕みたいに、もうこれ面倒くさいからこうやっちゃおうとか適当なことをやるから、不良になったり、あるいは下手すると
けがとか、そういうことになる。だから、そのとおりやってくれるということは、こちらも
信頼ができるんですね。そのとおりしかやらないということは、余計なことを考えずに済みますので。だから、
けがに至らないというのは、特に
重度の人の方は、
こだわりの強さとか
手順どおりに踏まないと逆に気が済まない
人たちもおりますから、逆にそれが
長所になるということです。
信頼につながるということです。
こういう
社員に我々
支えてもらっている
会社なんですけれども、安定した強い
経営ができてこそと、今後の目指すところに書きました。
私ももう二十数年この
会社に入って時間がたつんですけれども、やはりもう六十年前からそういった
障害者雇用をやっているので、彼らが
戦力になってやっていること
自体がもう当たり前になっていて、我々
ボランティア企業でも何でもないですし、
一般企業ですから、ちゃんと
利益を出して継続していく
会社です。ですから、
戦力の
社員がたとえ
知的障害の
社員であっても、その中で我々やっているわけですから、そこに、
経営理念の中でも徹底的にこだわるということを言っている以上、そこに言い訳をしてもしようがない。ですから、それがもう当たり前の姿に実はなっていて、先ほど申し上げたように、
職人のように本当に
一つのことを、きちんと
理解したことをやり続けていくあの
人たちに
支えられているんですが。
実は、二〇〇八年に私、
社長にさせてもらって、ちょうど十年ぐらいになるんですけれども、当時がちょうどリーマン・ショックが起きた年で、いろんな働き方とか生き方を見直すタイミングだったと思うんですね。そこで、実は、
カンブリア宮殿という
番組に取り上げていただいて、初めてその
番組を通して
自分の
会社を見たときに、ああ、こういう
会社ってなきゃいけないんだなということをすごく
思いました。だから、
日本理化学がというよりも、こういう
会社がなき
ゃいけないなというふうに今更ながら思って、やはり、僕らの中で当たり前になっている、彼らの、
障害のある方の能力の高さとか素直さとか純粋さとか
人間力の高さと、これを
世の中にちゃんと伝えなきゃいけないんだな、
自分たちの
会社の中で完結するだけじゃいけないんだなということ、だから、こういうことを
世の中にちゃんと伝える、正しい情報を伝える、もちろんできるできないっていろんなことも含めてですけれども、それが僕らの
使命なんだなということを気付かせてもらって。
だとすると、何が一番大事かなって思ったときに、やっぱり
経営がちゃんとできていなかったらこれ
説得力にならないなということで、やはり強い
経営、安定した強い
経営ができてこそだなというふうに
思いました。
企業の目的とここに書いてありますけれども、全
社員の
物心両面の働く幸せの
実現。これはもうどの
企業でも同じことだと思うんですけれども、やはりその
物心の物というのは、
生活の豊かさ、これが、みんな
生活懸かっているわけですから、この水準をいかに上げていけるかということは幸せのところに直結することですし、ただお金を稼ぐためだけに
会社があるわけではないので、心の豊かさ、それはやっぱり働く幸せということだと
思いますので、
うちの
会長が
障害者雇用をしていく中で
支えとなった禅のお
坊さんから教えていただいた
人間の究極の幸せということ、人から愛されること、人から褒められること、人の役に立つこと、人から必要とされること。この四つの
うちの愛されることはともかくも、それ以外の三つというのは、働く
現場だから、働く場だからこそ与えられる幸せなんだということをその禅のお
坊さんから教えていただいて、
企業の
役割というのはそういうことなんだということを
支えにして、そういう
企業を目指そうということで今の今までやっております。
もう
一つ、目指すところということで、
経営理念の中でも言った皆
働社会の
実現ということなんですけれども、これはどういうことかと申しますと、かつて
うちの
会長がヨーロッパに
障害者雇用の視察にたまたま行かせてもらう
機会があって、そのときに、ベルギーという国であった、実際にあった
制度で、まあ今そのとおりあるかどうか分からないんですけれども、
重度の
障害をお持ちの方を
一般の
企業が採用したときに国がその
最低賃金分をバックアップするという
制度があったそうで、とにかくこれを
日本に取り入れてほしいんだというのが
うちの
会長の、また我々
日本理化学の
ミッションとして、これを
世の中に今一生懸命伝えていることです。
これ、もしそれが
実現するとなるとどういうことがあるかということですが、まず、その働く御
本人について、まず、
最低賃金分バックアップをしてもらえるということは、そのお
給料分で
自立ができるということ。
うちは
神奈川県ですから
最低賃金が九百五十六円。そうすると、役職の手当とか賞与とか関係なくしても、大体月額十四、五万になるんですね。だから年間二百万ぐらいにはなるのかなと思うんですけれども、それに
障害年金とかを、六、七万ですから、足せば優に二十万を超えていける。だから、
自立がその御
本人ができるし、
健康保険とか
厚生年金、
自分で支払ができるんですね、
企業に属するわけですから。
やはり働くということは、稼ぎをするだけじゃなくて、やっぱり
人間的な
成長の場ですので、働く幸せ、やっぱりその人が役に立って、ありがとうと言ってもらえることが働くことだと思うので、その
自己認識というんですか、
自分の
存在意義も確認できる、そういう働く幸せを
実感できるんじゃないか。
じゃ、二番目に、その受け入れる
企業ですけれども、
企業にとっては、その方、まあ確かに
重度の
障害の方かもしれないけれども、その人が役に立つところをいかに見付けてあげることができたら、その人が貢献してくれる分が全てその
企業の
経営強化というんですか、
競争力につながる、そういう
メリットがあるということです。
三番目、じゃ、国についてはどうかということですけれども、二百万、先ほど言いましたけれども、じゃ、持ち出しをしなきゃいけないんじゃないかと、確かにそのとおりだと
思います。
ただ、
うちの隣にも
福祉の
施設があるんですが、そういう
場所で例えば二十歳から六十歳まで四十年間
ケアをするとなると、まあいろんな試算あるんですけど、一億五千万ぐらい掛かると言われているんですね、四十年間。計算しやすいので一億六千万だとすると、一年間四百万、
国費から、
社会保障費から支払っているわけです。ですから、もしこういう
制度があれば、二百万、半分を
国費からも削減できるんですね。だから、国にとっても
メリットがありますし、御
本人から
健康保険だ、
厚生年金ということを逆に支払ってもらえる、そういうことにもなるわけです。
四番目、これは御
家族です。
障害をお持ちの御
家族にとって、例えば御両親の
立場だったら、先にやはり順番的に、残していかなきゃいけない。だから、そのときに、
一般企業で就職をしてちゃんとお
給料のそういった
自立ができているということは物すごく大きな
安心につながるわけです。まあ我々もいろんな御父兄といろんな話をしますけれども、やはりそういったところの大きさというのは
実感もしています。ですから、
家族の中の
安心につながるということ。
最後、五番目は、
福祉の
先生方ですね、
施設の。今、やはり
工賃を稼ぐために、
先生自らいろんな内職の
仕事を先頭を切ってやってくださって、それで通所されるその方
たちの
工賃を一生懸命稼いでくれている。本来だったら
生活の
ケアをするのが本来
先生たちの
仕事だと思うんですけれども、だから、もしこういう
制度があれば、働くことは我々
中小企業に任せてくれればいいんですね。我々
中小企業というのは、
手取り足取りこうやって教えていく
場所ですから、マニュアルに頼らずに。だから、そういう
場所にも預けてくれたら、
福祉の
先生たちは
生活の
ケアに集中ができる、そうしたらその御
本人もより
成長につながって
安心して
生活ができるんじゃないかなということです。
ですから、この五方一両得なんて書きましたけれども、いろんな方がこの
制度があると幸せを
実感できるんじゃないかなと思っています。
そういうことで、是非御検討いただければと思うんですが、これ
憲法にも書いてあるんですね、
幸福追求に対する
国民の
権利。これ
権利で、みんな幸福を追求できる。やっぱり働くことも幸福の一部だと
思いますから、ここを追求していくこと。二十七条では、「すべて
国民は、勤労の
権利を有し、
義務を負ふ。」、
権利と
義務というふうに言っているんですね。だから、働くことは
義務なんです。
ですから、国は是非、その場を提供していくということがやはり
憲法に書かれているとおりのことだと
思いますので、是非そういう御
理解をいただけると有り難いなと
思います。
安倍首相も一億総
活躍社会とおっしゃっている、もうこれ多分同じことなのかなと勝手に思っていますし、まさに
人間だ
けが持つ
共感脳、
共感脳というのは、
人間はみんな人のために役立つことに幸せを感じる脳を与えてもらっているそうなんですね。ほかの動物にはない、
人間だ
けが持たされた脳というのが
共感脳。ですから、この
人間だ
けが持つ
共感脳を満たすこと、多くの人が
社会に役立って、ありがとうと言われる
社会へ、そう
憲法に書いてあるのです。
うちの
障害のある
社員たちが
戦力として
会社を
支えてくれています。それが
一つの証明になっているんじゃないかなと
思います。
最後に、
糸賀一雄先生の「この子らを世の光に」という御著書にあることですけれども、戦後、
重度の
障害者とともに歩まれて、命を懸けて
障害者福祉を切り開いた方ですけれども、その御本の中にこの文章がありました。
精神薄弱児の生まれた
使命があるとすれば、それは世の光になることである。親も気付かず、
本人も気付かない。この宝を
本人の中に発掘して、それをダイヤモンドのように、磨きを掛ける
役割がある。そのことの
意義に気付いたら親も救われる。
社会も浄化される。そして
本人も
生きがいを感ずるようになる。
私は、人の役に立つことが
自分の
存在を確認できることにつながり、プライド、自信、そしてその
責任感によって、人からの
信頼、そして幸せの
実感につながっていくのだと確信をしています。このことを
社員から教わりました。誰もが人の役に立ち、必要とされる
社会づくりが、まさに
ユニバーサルデザインな
社会であり、私
たちが目指す
社会なのではないでしょうか。
御清聴ありがとうございました。