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参考人(
竹信三恵子君) 私は実は長く新聞記者をやっておりまして、そのときから非正規雇用がどんどん増えていくということで関心を持ってまいりました。その中で
若者、女性に特にその比率が高いということで、
若者の働き方にもずっと取材をしてまいりました。二〇一一年から今の大学で教員として働き始めるようになり、そこで実際に
若者たちの就職とか
考え方とかに触れていくようになり、かなり危機感を抱いています。
どういうことかといいますと、ほとんど若い
人たちは、
自分が働く権利とか、どうやって
自分の問題を解決していいのかという知識を持っていないということです。最近はキャリア教育が盛んになって、
会社にちゃんと入る、
仕事を見付ける、そういうような教育は随分広がってきました。ただ、そのときに、何か不当な目に遭ったり困ったことに遭ったときに、
自分を助けてくれるものは何なのかと、どういうような権利があって誰に
相談すればいいのかというような、言ってみたら働く人にとってはもう基本的な知識というようなものについてほとんど知らないということが、実際、授業なども通じて分かってきたということです。そのために何冊か若い人向けの働く本も書きましたけれども、ちょっと今日はその
状況について
お話をしまして、何が必要なのかということを皆さんと共有していけたらいいなというふうに思っております。(
資料映写)
ということで、資料なんですけれども、まず、そんなこと言っても若い人はそんなに大変じゃないだろうとか、若い人に
貧困なんかないだろうと、こういうようなのが一般的な世間の見方ではないかと思います。我慢が足りないからすぐ辞めるのだということもよく聞きます。なので、まず
統計で、若い人の失業とか若い人の
貧困とかということについて、やはりその世代が大変に圧迫といいますか影響を受けているということを確認しておきたいと思います。
最初にお示ししましたこれは、年齢合計を一〇〇としたときの失業率ですね。
若者の失業率なんですが、これで見ると、一番高い、上の方にあるのがこれ
若者、特に十五から二十四歳の
若者の失業率が他の年齢と比べて高いということが分かると思います。
それから次に、特に低学歴といいますか余り学歴が高くない方ですね、大卒じゃない
人たち、こういう方々の失業率が高いということで、学歴による
格差というものがとても響いてきてしまっているということが一点。
それから、
貧困というので見ますと、二つの山ができているのがお分かりになるかと思います。一番右側が高齢の方の
貧困率ですけれども、左側のちょっと、十五から二十四歳ですかね、ぴょこっと上がっている山があります。ここで見ますと、若い方の
貧困率がやはり高いということが見えてくるわけです。
こういう客観的な
数字を基にしまして、何でそんなことが起こり得るのかということをちょっと考えていきたいと思います。
一つは、若い方が働き始めたときの
労働条件の悪さということなんですね。非正規比率も高いですし、それから正規でも賃金は安い、非常に実は不安定です。しかも、それを何とか補填していくはずである親世代も、一九九七年以降どんどん賃金が下がり続けていますので、
貧困化が進んでおります。教育費が削減されていまして学費が高騰していますので、それに伴って奨学金を借りる学生も増えています。それを返せないということで、
仕事に就いて返そうと思うのですが、そこの賃金や
労働条件が非常に低いということが多く、返し切れないで破綻してしまうというケースも少なくないということです。
しかも、破綻以前にそういうような圧迫された
状況にあるので、何か声を上げてそのことを訴えていくことがもうできないんですね。辞めたらもう終わりだと思っていますから、黙っています。だから、見えてきません。そうすると、若い人は別に何も困っていないんじゃないかとか、わがままだから辞めるんだろうとか、我慢が足りないんじゃないかといった、そのような
考え方がつい出てきてしまうということだと思います。
しかし、これを実際、私の記者時代の取材から、最近の
若者の
状況への
調査を見ますと、違うということが分かります。
例えば、ここに製造業
派遣の解禁などの規制緩和とありますが、元々男性の大卒以下の若い方のお
仕事の安定職場としては製造業があったわけですけれども、この製造業の工員さんが、実は製造業
派遣等々の規制緩和の中で正規の職が失われていくという事態が男性にも起きています。そういう中で、男性の賃金とかそれから雇用の不安定とかということが若い世代でも出てきているということが
一つ。
それから次に、キャバクラ
調査と書いたので何でいきなりキャバクラなんだと皆さん驚かれたかもしれませんけれども、これは御存じのように、接客ですね、お酒を飲んでいろいろ人と
お話をして
相手をする女の人、若い女性の職場です。最近、実はちょっと、キャバクラだからと言ってはおかしいんじゃないかみたいな、そのような偏見を裏切るかのように、ごく普通の女性
たちがそこに働きに行っているということをお耳にされた方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。
私は実は、そこで働く
人たちの
労働組合、キャバクラユニオンと提携しまして、今聞き取り
調査を進めているところなんですが、ここで見ると、見えてくるのは女性
たちの昼間の
仕事の不安定さと低賃金さなんですね。例えば、マッサージとかそれから美容師さんとか、いろんな専門職がありますけれども、そこがやはりかなり徒弟制的であったり不安定であったり賃金が安かったりするので、それだけの賃金では
生活が成り立たないわけです。まして奨学金の返済などを抱えていますととても難しいということになり、そこで、手っ取り早く入職できて、しかも一見時給が高そうに見えるので大丈夫かなといってそこに入っていく、そうするとそこでいろんな人権侵害に遭うというようなことが見えてくるということなんですね。
ここにもちょっと書きましたけれども、言ってみたら女性専門職が低賃金化している。介護や保育の低賃金化はよく言われていますけれども、美容師、エステ、申し上げました。専門学校に行けば何とか
仕事がゲットできていいだろうと思って、大卒は
お金が掛かるので、高校出てから一遍専門学校に行くという方は多いです。でも、専門学校で資格を取っても、全部とは言いませんが、その中には資格を取ったからといって
生活できる賃金がもらえるような
仕事にすぐ就けるわけではないということが出てきているわけですね。そういう方々で、女性の中で取りあえずということで接待業に行くというのが広がっているということです。
ですから、
生活が懸かっておりますからユニオンができるわけです。遊びで行っているわけではないからです、ということですね。その方
たちが
労働条件をちょっと良くするためにどうすればいいのか、困ったらどこに言えばいいのか。いろいろ
相談しても、どうせ水商売でしょうと言われて
相手にしてもらえないことが多く、それでユニオンをつくったという、そのような形になっておりますので、そこと提携して、今何ができるかを考えているところです。なので、いわゆるスキルが必ずしも
貧困脱出にはつながらないという構造になっているということですね。
そう申し上げますと、有名
企業に行ってちゃんと正社員就職をすれば大丈夫なんじゃないかというふうにお思いになる方もいらっしゃると思いますが、実は、特に営業職などを
中心にかなり問題が見えてきております。特に、名前は挙げませんけれども、大手の
企業の中の営業職で、女性のですね、完全歩合給で働いているというケースがあります。これが分かったのが、実はキャバクラ
調査の中で分かってきたわけです。どうしてキャバクラで働くようになったんですかというふうに聞きますと、それは、正社員で採ってくれると思って喜んで入っていったら完全歩合給で、下手をすると、ノルマが達成できない月には
社会保険を払ってしまうと
収入がゼロになってしまったときがあった、それなのでキャバクラに働きに行って何とかつないだという、そういう体験談が出てきたからです。これまで十人聞いて、うち二人がそういう事例で挙がってきております。
ということで、ベテラン営業員の方は
収入はおありになるんでしょうけれども、もう市場が限られてきてしまっていて、その方々で顧客さんは満杯になってきてしまっているので、後から入職した若い営業マン、営業員
たちは大変厳しいということが出てきているということですね。そうなると、もう先が見えないという気持ちになってきて、辞めてしまう。
結婚に行く人もいますし、そうではなくて、こういったお
仕事で取りあえずということで命綱にするというケースも出てきているということです。
つまり、ばくっと言いますと、非正規化が極めて進んでいることがまず
若者の
貧困の
一つですね。それから、正社員が、今申し上げましたように非常に劣化してきているということ。これは、正社員の中で、今女性の営業職の話をしましたけれども、男性でも実はある親御さんからの聞き取りで出てきた話がございます。
どういうことかといいますと、息子二人が正社員に入ったので、ああ、この時代に良かった良かったというふうに思って大喜びしたと。ところが、一年か二年したら契約社員に変わってしまったと言うのです。それを聞きますと、それはこらえ性がなくて正社員で頑張れなかったからではないのかとつい思ってしまうんですが、事情を聞くと違っておりました。つまり、何時間働いても、固定残業制などがあって、裁量
労働制とかいろんなものがあって、働いただけの賃金がもらえない、全てサービス残業になってしまうという苦情です。ところが、契約社員は、時給は確かに高くはないかもしれないけれども、働けば働いただけ賃金がもらえるのでまだましだと言って転職されていったと、そういう親御さんの
お話です。
ですから、これは、今の
労働法制の中で高度プロフェッショナル
制度とか裁量
労働制とか挙がっておりますが、使い方を間違えるとそういった現象の温床になりかねないということにも御注目いただきたいと思います。
もう
一つ気に掛かっているのが、バイトという名前の児童
労働といいましょうか。昨年十二月に茨城県で十五歳の少女が転落、労災死に遭いました。この方は、屋根の上で太陽光パネルの清掃をしていて、屋根が破れて落ちた、十三メートル下に落ちて亡くなりました。そのときに安全帯も着けていなかったということです。バイトということになっていたので非常に軽く見られがちですが、実は、これは年齢からいっても
労働の形態が過酷であるということからいっても、児童
労働、悪い形の児童
労働であるというふうに考えられます。
似たようなことで、二〇一二年に栃木県の中学三年生の十四歳の男子生徒が夏休みのアルバイト中に解体工事の現場で作業中に亡くなっています。これは大きなニュースになったので、覚えていらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。このときは、当時の新聞報道によるものなので裏付けを取っていないのですが、雇用主の解体
会社の社長さんが、そのときに中学校や親からの強い依頼があって約二十人中学生を雇っていたということを証言しているということなんですね。
ですから、かなり雇う側の方も、人手不足やそれからやっぱり特に中小
企業の経営の悪化等々で安い
労働力をどこからでも採ってきたいという気持ちになっている。それから、大手でいえば、経営がグローバル化で不安定化する中で、できる限りその
リスクを働き手に転嫁したいという気持ちになっている。そのような中で、一方で、働く側の若い方は、親御さんの
支援が受けられない、それから奨学金という負担が掛かってきている、そういう中で辞められない。
立場が弱いということのプッシュ、押し出し要因とプル、引っ張り要因の二つが合致してしまいまして、そこで若い方の
労働の劣化が起こっているんじゃないかというふうにも考えられます。
これはちょっと試みに労基署で摘発された児童
労働なるものの件数を見てみたんですが、これで見ますと、たしか二〇一一年から、じわじわですけれども件数が増えていますね。これは摘発の事件が大きいと増えてしまうので、一概にこれが実際に児童
労働がどんどん増えているという証拠として使えるかどうかは分かりませんけれども、ちょっと気になるところです。
景気が良くなってくると風俗系又は接客系で未成年の女性を雇っていくということは当然ありますし、それから、今回のように、建設関係の
労働力が逼迫している中で、一部、ちょっと呼び出して簡単に使える
労働力としてアルバイトという名前で若い方を使っていく。そのときに、非常に抵抗力がないですから、そのようなことについての、安全措置についての知識がないということ、大変大きな問題になると思います。
かつては高所の作業というのは専門職の成人男性がやっておりました。ですから、もし安全帯がないなどということが分かれば、これはおかしいじゃないかといって抗議をしたはずです。それがアルバイトという名前で使われているために言えないということになってきてしまうわけです。
ということの
問題点というのは何かというと、若い方が
会社に入ること、
仕事をゲットすることについては非常に熱心なんですね。だけれども、
自分たちがじゃ入った後どうなるかということについての想像力が全くないです。どうしてキャリア教育として
会社に入ることがそれほど発達したかというと、私
たちの頭の中では終身雇用の
イメージがありますから、とにかく一遍
会社に入れれば何とか後はなるはずだと何となく思っているわけです。でも、それは定年まできちんと雇ってくれて、だんだん
労働条件が上がっていくという時代の話です。
よく考えてみますと、入った後、解雇はよく起きていますし、しかも、電通の件にありますように、過労自死、過労自殺ですね、自死や、それから過労死というケースが若い方にも頻発してきています。そこまで行かなくても、先ほど申し上げましたように賃金が非常に低下している、
生活できないから掛け持ちをして働いているなどという事例まで出てきており、在学時代から奨学金の問題もあるし大変なのでアルバイトをするという、かなり半
労働、半分の
労働ですね、という形での働き方の中で、もう若い方
たちは一遍
会社に入れば上がりという話ではなくなってきているわけですね。
ここにありますように、これは例の接客系で働いていらっしゃる三十代男性でしたけれども、もう雇用なんという言葉は私
たちの世代の間では存在しませんよと言い放っておられました。要するに、もういろんなぐじゃぐじゃの融解状態が起きておりまして、従来型の働くということがもう頭の中に
イメージができないということですね。それプラス、それをどう考えるかという枠組みを教えられていないわけです。とにかく押し込めばいいという教育が横行しているので、入った後こういう権利を使いなさい、本当はこうです、本来はこういうことが決まっていますということがほとんど出てきていないということです。
ですから、学生
たちに聞いてもこんなことを言うんですね。賃金って労使交渉で決めるのはおかしいでしょう、
会社が決めるんじゃないですか。賃金は労使交渉で決めるものですよね。つまり、私
たちが
自分の
労働力を売る、それを交渉して幾らでもって買ってもらうかで値決めが起きるというのはごく普通の話です。それを、
会社の言ったとおりに働かなくちゃいけないのが当たり前だと思っている。それから、長時間
労働で過労死すると先生は言いますけど、
会社は長時間働いてもらわないともたないんです、慈善事業じゃないんですから、先生は甘いんですと、こういうふうに言われたことさえあります。それから、長時間
労働がいけないと言いますが、ゆとり世代ですぐ
会社を辞めてしまう根性のない若い社員がいけない、これは
自分たちのことを言っているわけです。最低賃金なんか上げない方が、上げたら
会社が潰れるから、困るからやめましょうとか。
最後には、先生、
労働組合って悪い
人たちなんですよねとか。もうすごいですね。
とにかく、
自分たちがどっちの側にいるのかが全然分からなくなっていて、働いて、その権利を誰が守って、誰に頼めばいいのかということが全く分からなくなっている。
こういう話を授業の中で、いや、本来はこういう権利もあって、働く側が守られないと
会社だって本当困るんだよという話をしますと、あっ、そうだったんですかというふうに彼らも気付くわけですね。そして、安心しましたと言います。これまで、
会社に行ったら何でも
会社の言うことを聞かなくちゃいけないのかと思って暗い気持ちになっていたけれど、味方になってくれる人もいるんですねと言われて、私は率直に言って、もう泣きました、本当に。でも、明るい気持ちになれましたと彼らは言いました。味方になってくれる法律とか
相談窓口があるんなら、ひどい目に遭っても何とかなるかもしれないなという気持ちになれたと言うわけです。そういう気持ちを何とか若い
人たちに教えてあげていただきたいと思うわけです。
実際、その授業をした後で、アルバイトで、調べてみたら
自分のところのお店の給料が最低賃金を下回っていたということが分かって、店長に交渉したら、ああ、悪かったと言って上げてくれたという事例とか、有給休暇はバイトでも取れるんですよねといって言ったら、店長は、私も取っていないと言ったのですが、でもまあしようがないなと言って、試験の前に有給休暇をくれて勉強ができたとか、いろんなことがそれなりにはできるようになってくるわけです。
ということで、私が申し上げたいことというのは、若い
人たちに、単に
会社に入ったり、働く、
仕事をゲットするということ、これもとても大事なことなんですけれども、それだけではなくて、働く権利、どうすれば身を守れるのか、何が困ったら守ってくれるのか、そういう原則を知る教育が必要なんじゃないかというふうに考えているわけです。
皆さんの、議員さん
たちの御活躍でワークルール教育推進法というものも近く出るという
お話になっていると伺っています。これをちゃんと早くまず出していただきたい、決めていただきたい、通していただきたい、これが非常にまず重要なことです。そうしないと、学校の方は、
労働の権利とかそんなことを教えてしまうと
会社に嫌われて就職が悪くなるんじゃないかとすごく心配しているんですね。なので、先生が少しやる気があって教えようかなと思って教えても、校長先生が、そんなことが知れ渡ったらうちの学校から就職が出なくなるというふうに極端に解釈をして、ちょっと引けてしまうというケースもあると地方では聞いています。なので、まず、それはそんなにとんでもないことではないのだということをきちんと法律を使って知らしめていただきたい。そうしないと、本当に学生
たちはやられっ放しになってしまい、それこそ黙って死んでいく、黙って辞めていく、
労働条件上げられないというふうになっていきかねません。
ただ、それだけでは足りないのです。なぜかというと、働く権利を知っているだけでは働く権利は使えないからです。
相談窓口として彼らを支えてあげるものがもっと必要です。
労働組合が今一七%ぐらいまで組織率が下がってしまっていまして、そういう
意味でいうと、地域の小さい
労働組合とか、それから
労働弁護士さん
たちの
相談窓口、又は行政の
相談窓口、こういったものに電話で、一体
自分の今のこの症状は大丈夫なのか、そうじゃないのかということを聞くということがすごく重要になってきます。ですから、こういう
窓口ももっと早く整備していっていただきたいというふうに思います。
アメリカでは、やはり雇用がかなり劣化していますし、非正規化も進んでおりますけれども、州によってはワーカーセンターといって、そういった
相談に乗るようなセンターをつくっています。二百ぐらいあるそうです。州によってはそこに
補助金を出しています。
そのような形で働く人の背中を押してあげないと、結局産業がどんどん悪くなっていくと、それが全部働く人に掛かってきてしまって、働く人が良くしてくれという声が上がっていくことによって、産業ももっと食べさせられるいい産業に変えていこうというマインドが出てくるんだと思います。単に働く人の言いたい放題言わせろと言っているのではないのです。いい産業をつくるためには、働く人からも、八時間働いて帰れるぐらいの賃金水準はどうやったらつくれるのか、それから、サービス残業なくすにはどうすればいいのかという押し返しの動きが出てくることで、産業界の方もいい
仕事をつくれるような産業をどうすればいいのかということを一緒に考えていけるのではないかと思います。ということで、是非その点についての御協力をよろしくお願いしたいと思います。
ありがとうございました。