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政府参考人(宗像直子君) 御指摘のとおり、第四次革命の進展に伴いまして、いろんなインフラ機器が
ネットを通じてつながってきてまいりますので、機器間の無線通信に関する標準の
規格、その
実施に必要な特許、つまり標準必須特許をめぐるライセンス交渉は大きく変わってきております。
御指摘のとおり、今までであれば、このような標準必須特許をめぐるライセンス交渉は
情報通信
業界の
企業同士を中心に行われてまいりましたので、多くの場合、クロスライセンスによる解決が可能でしたし、互いに相手が保有する特許の
権利範囲であるとか必須性であるとか、
価値について相場観をある程度
共有できておりました。
ところが、標準必須特許のライセンス交渉が
製造業や
サービス業といった異業種との間でも行われるようになりまして、クロスライセンスによる解決が困難になるとともに、相場観も懸け離れてきているということで、これをめぐる紛争に対する不安の声が高まっております。
このような
状況を踏まえまして、特許庁は当初、御指摘のとおり、標準必須特許の
実施を求める
企業の申立てに応じて行政が強制
実施権を設定しましてその適正なライセンス料を決めるという、そういう裁定
制度の
導入を
検討しておりました。しかし、
検討の結果、やはり裁定
制度はなかなか難しいかなというふうに認識いたしました。
具体的には、
実施者が
権利者とのライセンス交渉に誠実に応じないで
権利侵害を続けた場合これに対する対応ができないということで、
権利者と
実施者の
バランスを欠いていること。それから、
日本で強制
実施権を設定しても
日本の外では通用いたしませんので、グローバルな解決につながらないこと。それから、特許庁が個別の紛争に介入をしまして適切なライセンス条件を設定できるのかということについて疑問の声も多かったということ。それから、途上国が
日本を先例としまして強制
実施権の
導入を積極化する可能性を含めまして、国際的にも懸念の声が強いということがございました。
一方で、ライセンス交渉に入るに当たりまして、有益な
情報を分かりやすく
提供してほしいというニーズもございます。このため、標準必須特許に不慣れな
企業が安心してライセンス交渉に臨めるように、内外の
情報を集約した手引を策定しまして、交渉当事者間の参考に供することといたしました。
昨年秋を中心にしまして、
アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどの主要国を訪ねまして、専門家や実務家と
意見を交換いたしまして、今年三月にそれを踏まえて手引の原案をパブリックコメントにかけました。その直後には国際シンポジウムを開催いたしまして、その場でもコメントの提出をどんどん出してくださいとお願いをした結果、国内外からほぼ同数、合計五十以上のコメントがいただけました。
この交渉の手引は法的な拘束力を持つものではございませんで、現段階で内外の裁
判例やライセンス実務などの動向を踏まえまして、どう行動すれば誠実な交渉態度と認められて、
実施者は差止めを回避し、特許権者は適切な対価を得られやすいかということについて
説明を試みております。これによって交渉が円滑化されて紛争が未然に防止され、あるいは早く解決されることを期待しております。
標準必須特許をめぐる
状況が大きく変化しておりますので、この手引は随時見直しをいたしまして、生きた手引であり続けるようにしたいと考えております。今後、裁
判例の更なる蓄積や、各国の政府機関や
企業、有識者の
意見を踏まえた透明性の高い見直しのプロセス等をつくってまいりたいと存じます。