○藤島
参考人 藤島でございます。
本日は、
お話しさせていただく機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。
私がこれから申し上げることは、お手元の資料をごらんいただいて、そしてお聞きいただければと
思います。
一応、その資料にテーマが振ってございまして、
卸売市場の社会的
役割と
市場法改正に関する懸念ということでございますが、これから
お話し申し上げる
内容は、二枚目の、ページでいきますと一ページに当たりますが、そこにございますように、三つほどに分かれております。
まず、
中央卸売市場法成立の経緯ということでございますが、この
中央卸売市場法ができたのは
米騒動がきっかけですということがよく言われております。それは確かに間違いではないんですが、しかし、厳密に考えますと正しくないだろう。
どうしてそうなのかと申しますと、
米騒動が起きたときに、国が、あるいは地方自治体が行った対策というのは、公設
小売市場をつくることでございました。公設
小売市場というのは、御存じのように、
生産者の方が生産物をそこに直接持ち込んで
消費者に直接
販売するような施設、あるいは、公設
小売市場の中で営業する
小売業者の方が
生産者から直接買い取って
消費者に直接
販売するという施設でございます。つまり、中間の
卸売業者、あるいは問屋、あるいは
小売業者を除けば、それらのマージンがなくなるのでコストは安くなるだろうというような考えでつくられているところでございます。
そのことが国あるいは地方自治体によって非常に推奨されたわけでございまして、例えば、次のページといいますか、三ページ目のところの表を見ていただくとおわかりいただけますように、
大正七年の
米騒動後、わずか二年のうち、百カ所余りの公設
小売市場ができております。
しかし、この公設
小売市場につきましては、実は十分な
機能を発揮できなかったということがございます。
と申しますのは、早くも
大正十年に東京市会で、現在の公設
市場は、この公設
市場というのは公設
小売市場のことですが、現在の公設
市場は、いまだ十分その目的を達するに足らずということで、中央公設
市場、つまり
卸売市場ということでございますが、
卸売市場をつくるべきだという意見が出されます。そして、さらに、京都市会あるいは名古屋市におかれては、自分たちはこのような
仕組みの
中央卸売市場、中央
市場とそこに書いてありますが、
卸売市場をつくりたいということまで言われるようになります。その結果としてといいますか、そういった経緯を経て出てきたのが
中央卸売市場法、
大正十二年にできたということでございます。
ですから、
大正七年に
米騒動があって、五年間のタイムラグがあったというのは、即
中央卸売市場法ということではなかったからだということになります。
そのような経緯でできた
中央卸売市場法ですから、非常に重要なことは、やはり低コストで物を供給する。
米騒動そのものが
物価高騰で起きたわけですから、できるだけ低コストで物を供給しましょう、しかも安定的に供給しましょうということになりました。その低コストにつきましては、例えば、
卸売業者の委託手数料については公が定めますよ、皆さん方、自由に勝手に決めて高い利益をとってはいけませんよということがあります。
そして、二つ目には、
取引方法でございますが、委託競り原則でしてくださいよ、自分たちで買い付けて、そして相対で
販売するという形で利ざやを自由に取ってはいけませんよということが行われたわけです。つまり、業者が大きな利益を得ることを防止しようということが行われたということになります。そのことが、結果として、今日に至るも、
卸売業者、
仲卸業者の方々の利益率の低さにつながっております。
御存じのように、
卸売業者、
仲卸業者の方々の利益率というのは〇・一、二%、あるいは、高くて〇・五%前後ということになります。この利益率がいかに低いかというのは、先日、トヨタの全体の
販売額と営業利益額を見ていただければおわかりいただけるかと
思います。新聞報道によれば、トヨタの全体の
販売額は、
販売台数一千万台だということもございますけれども、三十兆円でございます。営業利益は二兆四千億円、八%です。つまり、
卸売市場の
卸売業者、
仲卸業者の利益率というのは、トヨタの十分の一どころか、二十分の一、三十分の一というふうに非常に低いということになっています。そのため、これは、
卸売業者、
仲卸業者の経営体質の脆弱性という問題で
指摘されることもあります。
そして、さらに、そのコストを削減するために、国や地方自治体が施設を整備いたしますよということになります。そして、
卸売市場の管理
運営は地方自治体が行います。そのかわり、業者の方たちは低い利益率ですから、我々も低い家賃でといいますか、使用料でお貸ししますということで、言ってみれば、業者と地方自治体等が組むことによって低コストの供給システムができたということになろうかと
思います。
ただ、この地方自治体の管理
運営につきましては税金が投入されるということで、その点が問題にされることもございます。
そして、このような形でできた
卸売市場、
中央卸売市場というのは、非常に特徴的な
市場でございます。これは、欧米の
卸売市場、あるいは中国や東南アジアの
卸売市場、アフリカの
卸売市場とは大きく違っております。
どのように違うのかというと、五ページ目のところに幾つかありますが、特に特徴的なものとして、一つは
卸売業者が少数だということです。どのように少数なのかといいますと、例えば、水産物部、青果部あるいは花卉部、食肉部と、各部ごとに
卸売業者の数は一ないし二になっております。築地
市場の水産物部は
卸売業者七社ということで、これはちょっと例外的に多いんですけれども、一般的には一ないし二です。築地
市場の青果部も一
卸売業者となっております。
そのような形で、
卸売業者の数が少なくて取扱
規模が大きいということで、多種多様な品目が大量にまとまった形で入荷できるということになっております。
また、もう一つ大きな特徴としては、
卸売業者と
仲卸業者が存在するということでございます。
この
卸売業者というのは、言うまでもありませんけれども、
生産者、出荷者側に立って、できるだけ高く
販売しようという立場にありますし、
仲卸業者というのは、これは仕入れ業者側の立場に立って、できるだけ安く仕入れようということでございます。つまり、立場の違う業者が
卸売市場の中で活動している。その結果として、やはり、価値を厳密に見きわめた
価格形成ができるんだということになってくるかと考えております。
そういった形で、非常に多種多様なものが集まり、かつまた、価値についても正確に判断するということが行われているものですから、現在でも、スーパーマーケットといいますか、量販店といいますか、そういったところも
卸売市場から仕入れている割合が極めて高いということになります。
実は、御存じのように、欧米では、スーパーマーケットが出てくると
卸売市場は衰退するということが言われております。これは、日本の
卸売市場とシステムが違うからだというふうにお考えいただいてよろしいかと
思います。
そういった
卸売市場ですから、非常にさまざまな
機能、非常に特有な
機能等を果たしております。
卸売市場の
機能としてよく言われるのは、六ページ目のところに書きましたように、1から4でございますが、そういったようなことを言われますけれども、もちろんこういった
機能を果たしておりますが、それよりも更に深い
機能を果たしているだろう。というのは、七ページ目のところになりますけれども、少なくとも、そこに挙げたような三つの
機能を果たしているだろう。
一つは、非常にオープンな
取引を実現する
役割、
機能である。これはどういうことなのかと申しますと、必要とする人々が
卸売市場を利用できるんだということでございます。例えば、
生産者の方々は、生産したものを誰でも
卸売市場に持っていけば
販売してもらえるということになります。ただ単に
販売してもらえるだけではなくて、次の図二の一から図二の三を見ていただきたいんですが、そこではキュウリとサンマと輪菊を例として取り上げておりますけれども、そういったものの入荷量が日によって大きく
変化するのをこれから読み取っていただけるかと
思います。
実際、御存じのように、農業生産にしても漁業生産にしてもそうですけれども、これは日によって大きく収穫量、漁獲量は違ってくるわけです。そういったものを全て
卸売市場は対応しますよということになります。こういうことは、実は、御存じのように、契約
取引などでは到底できない話です。
卸売市場があるからこそこういうことができる。ということで、
生産者の方々も、もしものときは
卸売市場に出すことができるんだということで、生産に専念できる、安心して専念できるということになるだろうと
思います。
一方、
小売業者の方々も、いつでも、必要があれば
卸売市場に行って仕入れることができるということになりますから、日本の場合は、先ほどの
お話もございましたように、非常に寡占率が低い、大手の量販店の寡占率が低い。つまり、自由競争が
確保されているということになるだろうと
思います。もちろん独占
禁止法も、これは必要かとは思っておりますけれども、こういった自由競争を
確保できるようなシステム、これは非常に重要かなというふうに考えております。
そして、さらには、先ほども述べましたけれども、立場の違う二種類の業者が活動することによって、非常に厳格に価値を判断し、そこから
価格が形成されてきているということが大きな
機能として挙げられるだろう。
その結果として、これはいろいろなことがございますけれども、例えば我々のような
消費者であったとしても、実は、
価格を見て価値を判断することができるということになります。我々のような一般の
消費者が、例えばマグロを見て、幾つかのマグロが並んでいて、その価値を判断せいと言われても困るんですけれども、値段がついて、違いがあれば、そして、その値段の違いが
卸売市場で価値に基づいて決まってきているんだということになれば、我々は
価格を見て価値を判断できる、これを買ったらばおいしいのかなというようなことを判断できるということになります。
さらには、
卸売市場は、先ほどから申し上げていますように、非常に、コスト面でもかなり低く、低いコストでもって物を供給するというようなことがありますから、我々の生活の豊かさにも大きく貢献しているということも挙げられるだろうと
思います。
そういったようなことで、このような
卸売市場に特有な
機能を果たすことによって、
卸売市場は社会に大きく貢献できているというふうに考えてもいいだろう。つまり、そういった
意味で、非常に高い
公共性を持っているんだというふうに考えてもよろしいかなと思っています。ただ、そういった
卸売市場だからといって、時代の
変化の中で、改革ももちろん必要でありましょうし、
市場法の
改正というのも必要になってくるだろうと
思います。
ただ、今回の
市場法の
改正に関しては幾つかの懸念もございます。
一つは、
開設者の件でございます。
開設者が民間企業になるということ、これが一概に悪いというわけではありません。例えば、
地方卸売市場でも民間企業が
開設者になっております。しかし、
地方卸売市場と
中央卸売市場では取扱
規模が違うんだということは考えなければならないだろうと思っております。
そして、もしも民間企業が
開設者になったときにどういうことが起きるのか。これはさまざまなことが起きる
可能性があろうと
思いますが、一つは、
市場使用料、施設使用料が上がるということは十分に
可能性があるだろう。
実は、先日の報道で、浅草の浅草寺の仲見世商店街の家賃が、昨年までは一平米当たり千五百円であったのが、一月一日から一万円になったということを聞きました。そして、八年後には千五百円の十六倍ほどの二万五千円ぐらいですか、になるんだということを聞きましたけれども、それはどうしてなのかというと、その仲見世商店街の施設は、もともとは東京都が所有していた、それを昨年お寺さんに譲ったということで、その使用料が、使用料といいますか家賃が上昇したんだという話だったかと
思います。
卸売市場の場合も、そういう
可能性が多分に出てくる。
実は、先ほども申し上げましたように、
卸売市場というのは極めて営業利益率が低い。この営業利益率の低さというのは、トヨタと比較することはともかくとしても、例えば
卸売市場の施設の利用料が全体の
卸売額に占める
比率と比較しても、営業利益率の方が低いんです。
ですから、もしも使用料が倍になったらば、即赤字になってしまう。企業としては当然、ですから、赤字のままで済むということにはならないわけです。となると、手数料を上げざるを得なくなる。手数料を上げるということは、
価格が上がるということになるだろうと
思います。
この
価格が上がるというのは、
消費者にとってはもちろんデメリットです。それだけではなくて、
生産者にとって、じゃ、メリットなのかというと、これは、
生産者の方が、
価格が上がって手取りがふえるというのであるならばメリットかもしれませんが、単に手数料が上がって
価格が上がるということになると、それは
生産者の方にとってもデメリットにほかならないだろう。
それどころか、現在、既にもう高齢化が進んでおりまして、実は私も高齢者の仲間入りをしているんですけれども、高齢化が進んでおりまして、年金暮らしの方がどんどんどんどんふえている。さらには、そういった高齢者の方々を介護して離職される方々もふえている。こういった方々が生活していく上で物が上がっていいんだろうか、生活の基本的な物資が上がっていいんだろうかという問題がありますので、その辺のところは十分に御検討いただければ。
できましたら、そうならないためにも、地方自治体が
開設者を継続できるような
方法というのをお考えいただければ大変ありがたいかなというふうに思っております。
そして、もう一つのことでございます。
済みません、ちょっと時間がオーバーして申しわけありませんが、もう一つのことは、やはり
卸売市場の将来に関してのことなのでございますけれども、これは御存じのように、今度の新しい
卸売市場法の中では、
卸売市場の適正な配置という言葉がなくなってきておりますし、また、
卸売市場整備基本方針もなくなりますし、
中央卸売市場整備基本方針あるいは都道府県
卸売市場整備計画もなくなっていくだろうというふうに考えられます。
そうなりますと、今後、
開設者の権限が強化されるということもありますので、それぞれの
卸売市場がてんでんばらばらに、統合、合併、あるいは新設、廃止といいますか、そういったようなことなどが進められるのかな。そうなってくると、
卸売市場システムが非常に不安定化してくる
可能性があるんじゃなかろうか。となると、これは
生産者にとっても、あるいは仕入れ業者にとっても、
卸売市場を利用する方々にとって非常に問題になってくる
可能性があるのではなかろうかなというふうに考えております。
そうならないためには、できることならば、
卸売市場流通のビジョンと申しますか将来方向についても、整備基本方針等はなくなりますけれども、将来方向についてもできるだけ示すようにしていただければというふうに考えております。
以上、時間がオーバーして申しわけございませんでしたが、私の方の意見とさせていただきます。
どうもありがとうございました。(拍手)