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内田参考人 私は、
アジア太平洋資料センターと申しますNPO法人で
共同代表をしております
内田聖子です。きょうは、よろしくお願いいたします。
私どもは、小さなNPO団体、NGOなんですが、
WTOの時代から、通商
交渉それから
貿易協定の問題に取り組んできました。
先進国の政府や、特にやはり大企業、グローバルな大企業の声が非常に
交渉の現場では強いわけですけれども、そういう
立場からではなく、
世界の特に途上国、新興国の人々、それから、もちろん
日本の
国民一人一人、一般
消費者、主権者、そういう草の根の
立場の人たちから、
貿易協定のやはり負の側面というのもあるわけですから、そうしたことをずっと指摘してまいりました。きょうも、その
立場から
お話をしたいと思います。
私の
資料は、文章で恐縮なんですが、つけさせていただいています。
まず冒頭に申し上げたいのは、二年前にも国会で
TPP12の審議が行われたわけです。私も衆参で
参考人、公述人として、その際も出ましたけれども、まずもって今回の11の審議では前回のような特別
委員会というものが設けられず、この
内閣委員会そして外務
委員会で、比較すれば非常にわずかな時間での審議が、我々から見ればとても拙速に行われているように感じております。これから申し上げるように、この
TPP11そのものにも検証すべき点はまだたくさんありますし、それから国内への
影響というのもあるかと思います。そしてさらには、
日米の二
国間交渉への対応もあったりします。ですから、決して拙速な審議をするのではなくて、十分な時間をとって慎重に
議論していただきたいというふうに切に願っております。
その理由の大きな
一つは、やはり、二年前の
TPPを審議した際と現在では、激変と言ってもいいほど、
貿易交渉をめぐる
状況は変わったわけです。
この一ページに挙げておきましたけれども、
アメリカの
TPP脱退はもちろんのこと、イギリスが
EUを離脱したり、それから昨今では
アメリカと
中国の
貿易紛争のようなことも起こりつつあります。
それから、
貿易協定、
日本がかかわるものでいえば、確かに日・
EU経済連携
協定というのは合意に一旦至りましたが、これは当初の予定どおりの完全合意ではなくて、先ほども
鈴木先生から御指摘があったように、
投資家と国家の
紛争解決メカニズム、
ISDS、この
部分が全く決着をしない。
日本は
ISDSを主張しましたが、
EUは、もう完全に
ISDSを否定していまして、別な仕組みを提案しています。ですから、この
部分は
協定から切り離して合意せざるを得ないという問題も出ています。
それから、
中国、インドを含め、ASEAN諸国含め、アジアの国々と
交渉しているRCEP、これも
TPPと同じころ、二〇一三年ごろから
交渉しているわけですが、妥結に至っていません。ここには、後で述べますが、いわゆる
TPPレベルの強い規律、自由化の規律が決して受け入れられない途上国の声というものがあります。
そして、この間、
WTOの閣僚会合というのも昨年の末にあったわけです。もちろん
WTOは停滞していますが、基本的な前提として、今
議論している
TPPないしはほかの
メガFTAも、
WTOの体制を基礎にして、その一部例外を認めるというような形で、
FTA、EPAというものは成り立っているわけです。ですから、決して
WTOを我々は無視するわけにはいかず、今後どういう形で
WTOに向き合っていくのかということも、まさに今問われているわけです。
ですから、いわば
TPP11だけを
早期批准すればいいというだけの話ではなくて、あえて言えば、朝鮮半島の和平というか、非核化に向けた
動きというものが今急速に起こっていますが、これも、
中国、ロシア含めて、朝鮮半島含めて、今後の
日本の
貿易、経済に必ずかかわってくるわけですから、この激動するアジア情勢の中で、一体
日本がどういう通商体制をとるのか、どういう
戦略をとるのか、そして、どういう規律を埋め込んでいくことが
国民にとっていいのか、国益なのかということを
議論するのは、まさに今この国会だというふうに思っております。ですから、
TPP11という問題だけに押し込めずに、ぜひ広くて深い
議論をしていただきたいと思っております。
さて、私が挙げたい点としては、
TPP11、この二ページの一番というところに書きました。
TPP11の
戦略的な
意義という
議論はあります。それはそれで重要です。ただ、そもそも
貿易協定の目的は何かといえば、当然、経済的な利益を得るという重要な目的があるわけです。当然、分野によってはメリット、デメリットというのがあろうかと思います。
TPP12から11に変わりましたというときに何が大きく変わったかというと、この二ページ、三ページの図で示しましたが、
アメリカが抜けたことで、経済規模そして経済効果が激減しているわけですね。これは政府試算でもはっきりと出ています。
ですから、改めて、私は、二年前の
TPP審議、決して十分ではなかったと思っていますが、
TPP11になって一体どういう産業、どういう分野でメリットが生まれるのか、そしてデメリットがあるのか、規模が激減した中でなぜ11をこんなに急いで批准する必要があるのかということは、改めて考える必要があると思っています。
政府の試算の出し方にはいろいろな
議論があって、決して使われている経済モデルだけが私は正しいと思っていないんですが、それにしても、ここに出したように、当初、経済効果は、
アメリカを含む12では十三・六兆円、GDPでいえば二・五九%アップすると言われていたものが、11になれば、ほぼ半分に近いような、七・八兆円、一・四九%にしかならない。これを
国民にどういうふうに
説明しているのかという話です。
このときに、いやいや、
TPPは、経済規模、経済効果は減ったけれども、
戦略的な
意味があるんだというふうに言われても、
国民の実感レベルとしては到底、遠過ぎる話です。わかりません。
農業に関しては、11のころから
影響が大きいということで、
対策という話もされてきましたが、なぜか、この何がメリットかということに関しては非常に曖昧なんです。グロスで数字は出ますけれども、じゃ、どういう業種がどういう形でメリットを得るのかということは、政府の試算でも具体的には出せないということなんですね。そのような11というものをこんなに早急に批准してしまうということには、やはり大変疑問を感じます。
そして、四ページ以降ですけれども、11そのものは12の
協定をほとんどそのまま引き継いだ上で、二十二
項目の
凍結項目で一部停止をしているという形になっています。
テクニカルに幾つか指摘すると、テクニカルにというか、11に限って評価すると、たくさん疑問はあるんですが、ここに挙げたような、例えば四点ほどの疑問、これは国会でもぜひ
議論をいただきたい
部分です。
一つは
凍結項目。これは、
日本政府は特に何も主張しなかったというふうに言っています。
他国は、
アメリカの市場アクセスができるということの引きかえに、いろいろなものを譲歩したわけです、医薬品の特許の延長とか
知的財産とか。しかし、
アメリカが出た後は、メリットがないならこちらも譲らないよということで、停止を求めたわけです。これは、国益という
観点からいえば当然だと思います。どの国も、やはり国内的な声との調整をしながら、ぎりぎりの
交渉をしてきた。ですから、
アメリカがいなくなれば、これは嫌だよと。
そのことを
日本政府がしなかったということは、やはり素朴になぜなのか。たくさん譲ってきた
部分もあるんだろうと思います。であるならば、この
交渉の時点で言うべきだったと思っています。この問題が
一つ。
それから、特に農産品のセーフガードの問題などで、
アメリカが抜けたのに変わっていないという問題がいろいろと指摘をされていまして、それに対して政府としては、この
TPP第六条では見直し条項があるんだと。
これは、
アメリカが戻ってこないと見込まれる場合には、改めて十一カ国の中で
協議をして、いろいろ見直せるんだということを
説明されているんですが、この見直し条項の実効性ということについては非常に疑問です。これは、今回の審議の中でも、外務
委員会等々でもほかの議員が指摘されている点です。
それから、新規加入国をどんどんふやしたいという
方針でタイや韓国などなどが名乗りを上げているような
状況で、これは望ましいというのが
日本政府の姿勢なんですが、果たしてそうだろうかという疑問はあります。
例えば、タイに関して言えば、工業品の
関税というのはもうタイ側もほぼ撤廃していますので、輸出のメリットは
日本にありません。逆に、農産品の分野で言えば、タイの安いお米が今後入ってくるという懸念があります。こういう新しい国が入ればまた
影響は変わってくるということは当たり前にあるわけです。
このことを政府は、例えば国会の皆さんに対して、どのタイミングでどういう提起をして、そしてその
影響をどうはかり、そしてそれをどう承認していくのかという手続的なプロセスですね、もちろんそれは
国民にも
説明は必要だというあたりも今のうちからきちんと詰めておかないと、知らない間に、どんどんいろいろな国が入ってよかったねという話になってしまったら、実は、その国が
日本にたくさんいろいろなものを、農産品であれ工業品であれ輸出をして、
影響があるとかということにもなりかねません。ですから、11の
議論の際に、このあたりも詰めていただきたい。
それから、
対策予算というものも、この間、この二年で、
アメリカがいるという前提で既に巨額のものが使われているわけですね。これはおかしな話で、発効もしていない条約、これに
対策をするということで、既に多額の、税金ですけれども、出されている。
二年前に私も調べたところ、他国でこのように批准もしていない条約の
対策として予算を出して使っているという事例は、少なくとも
TPP参加国の中では見つかりませんでした。これは極めて異例な措置であり、改めて評価していただきたいと思います。
そして、
日米FTAの問題なんですね。これは、正式な
FTAになるのかどうかとか、二国間の
協議がどこまで動いたかという質問を皆さんがされているのを承知しておりますが、政府としては明確にお答えになっていない。むしろ、大丈夫ですとか、
TPP維持は譲りませんという見解が来ています。
ただ、私もいろいろな情報収集をしている中でいえば、もう
交渉は始まっているのかどうかとか、大丈夫です、そういう
状況ではなくて、先ほど
鈴木先生も指摘されていましたが、既にいろいろな
要求は来ていて、そして具体的に
交渉する場というのはもう六月にセットされているという
状況です。ですから、その枠組みが
FTAとか新
協議とかそういう問題ではなくて、
アメリカが今何を
日本に
要求してきているのか、これをまずきちんと把握して、分析をして、じゃ、具体的にどうするのかということが早急に
議論されなければいけません。これは
TPP11と分かちがたく結びついています。
なぜならば、
日本政府は
TPPを一方で推進しつつ、
アメリカには
TPPに戻ってくるように説得をするというふうに言っています、これは
日本のプランですけれども。ところが、
アメリカはそのプランというのはほとんど無視して二国間でやっている。この三つの課題というのは分けて考えられないわけですね。
ですから、ここに挙げました、具体的には四ページ以降に、今後
アメリカが何を
要求してくるのかということを、いろいろあるんですけれども、わかる範囲で記述をしています。
六ページ以降に具体的に書きましたけれども、農産物の輸出というのはもちろんのことです。それから、私が気になっているのは製薬業界ですね。
この間、
アメリカの業界団体、製薬団体は、
日本が二〇一七年に行った薬価制度改革、これは
日本として、主権国家として普通にやったわけですが、これに対して非常に激しく批判をしています。けしからぬと言っています。
それから、
日本が例えばジェネリック薬をできる限り保険の中で適用していくとか、高額なバイオ医薬品を少しでも価格を下げようという話を進めると、
アメリカの製薬業界というのはとことん批判をしてきています。
そして、この上の方に書きましたが、これを
日米経済対話の中で
議論していくということをもう明言しているわけですね。ですから、早ければ六月にもこの問題は出されてくる。それを見直さなければ
日本から
投資を引き揚げるぞということまで、
アメリカの製薬業界の方は言っている。
それから、韓米
FTA、これは再
交渉していました、
アメリカと韓国。ここで、結果的には韓国がかなり
アメリカに譲歩をした形だったと思っています。この経験は、今後、
日本が
アメリカから突きつけられる
内容というものに、非常に
参考になるものだと思っています。自動車に関する
要求は、もちろんあるでしょう。
それから、八ページに書きましたが、為替操作禁止条項、これは
TPPの中でも入るんじゃないか。
アメリカは、常に、
日本の円安誘導政策のようなことを為替操作だと批判して、これを
貿易協定で禁止させると言ってきました。韓国はこれをのんでしまったんですね、この条項を入れることを。ですから、
日本にとっても危機。
それから、鉄鋼、アルミとか、いろいろな問題があります。ですから、このことにどう対応するかということを含めて
議論しない限り、
TPP11の批准というふうにはできない、してはいけないというふうに思っています。
そして、気になるのは、つい二日前の報道で、八ページの下の方にありますが、日経新聞の報道にこういうことがありました。
読み上げますが、
TPP11では、発効まで米国との二
国間交渉に進まない、そういう申合せがある。もし合意を主導した
日本がこの約束を破って、批准もしていないのに
アメリカと二
国間交渉をすれば、一気に信頼を失いかねないと。
私は、これを見て驚きました。こんな合意があったのかと。これは政府に真偽をぜひお尋ねしたいところですが。もしこれが本当だとすれば、
日本は今、大変な袋小路に陥ってしまっているわけです。11の側には、発効するまで
アメリカとは
交渉しないと申し合わせておきながら、一方では、
アメリカからどんどん
要求が来て、もう来月には
交渉が始まっちゃう、一体どうするんでしょうという話で、これから
アメリカを説得するんだとか、
TPPの
ルールを
世界に広げていくんだとか、そういう展望というのは、私からすれば極めて非現実であり、そして楽観的であり、
日本の今の置かれている
状況、この危機等からすれば、かなり乖離していると言わざるを得ません。
国内関連法に関しては、知財の問題を挙げたかったんですが、ちょっと……