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野々山参考人 野々山でございます。
本日は、
意見を申し上げる
機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。
私は、適格
消費者団体京都
消費者契約ネットワーク、略称KCCNと言いますが、その適格
消費者団体の
理事長であります。
一九九八年に
消費者契約法の制定を求める団体としまして設立し、二〇〇二年にNPO法人化をいたしまして、二〇〇七年に
内閣総理大臣から認定を受けて適格
消費者団体となっております。以後、京都地域で、適格
消費者団体に与えられました
消費者団体訴訟制度に基づく請求権、差止め請求権を行使しまして、公正な
消費者契約の実現と悪質な
事業活動の是正に取り組んできております。
これまで、差止め訴訟は累計で十七件を超しております。これは、適格
消費者団体、全国で今十七ありますが、その中で最も多い数であります。
その中で、
消費者契約法に基づく訴訟も幾つかやっておるわけでありますけれども、使い勝手が不十分なところを実感しておりますので、その立場からまずお話をさせていただきます。
それからもう一つ、私は
弁護士でありまして、
弁護士として
消費者契約法などの
消費者法を行使しまして、
被害の
救済活動をしております。
また、
消費者契約法につきましては、二〇〇〇年に制定された当時に、
国民生活
審議会の特別
委員としてこの制定にも関与しておりまして、これまで、この
消費者契約法の
改正につきましては、継続的に、関心を持って取り組んで、
意見も述べさせてもらっているところであります。
そういう立場から、今回の
消費者契約法の
改正案について
意見を述べさせてもらいます。
まず、その評価でありますけれども、第一に申し上げたいのは、この
消費者契約法の
改正はぜひこの
国会で実現をしていただきたいということであります。
消費者契約法は、御承知のとおり、
事業者と
消費者の
取引を公正にする重要な
法律であります。
事業者はこの
法律によって販売
方法などを正していくという、そういう一つの
基準となっております。また、
被害が起こったときに、
消費者にとっては
救済のよりどころとなる
法律となっているわけであります。
最近、二〇〇〇年のころと比べますと、
高齢化、
情報化、国際化という新しい
環境が
消費者契約の中にはあります。それに伴う
消費者被害の増加があります。そしてさらに、成人年齢の引下げという
課題がありまして、今、この
国会でも議論をされているわけでありますけれども、もしそれが実現すれば、若者の
被害の増加が懸念されるところであります。そういうものに
対応するために、
消費者契約法の
改正というのは、この
国会でぜひ
改正する必要があるというふうに考えております。
ただ、後に述べますように、不十分点はあります。不十分点はありますけれども、不安をあおったり、感情、人間
関係を悪用したり、負い目を感じさせて
勧誘する場合などの取消しの
範囲が広がっております。そのような
改正が提案されておりまして、これは
高齢化社会、
若年者被害にとって重要な
改正でありますので、ぜひとも
改正の実現を強く求めるところであります。
ただ、しかしながら、
問題点があります。私は、幾つか
問題点があるわけでありますけれども、重要な
問題点が三つあるというふうに考えております。
一つは、余計なものが一つあります。それから、
不足しているものが二つあるということであります。
まず第一に、
改正法案の四条三項三号、四号に、不安をあおったり、人間
関係を濫用する
勧誘に対する取消しが
規定されているわけでありますが、その中に、
社会生活上の
経験の乏しいことからと
要件が付加されております。これは、不要となるとともに、中高年の
被害救済を狭める弊害のある
要件であるというふうに考えておりますので、ぜひとも削除すべきだというふうに私は考えております。
二つ目には、
改正法案には、九条一号の解約金
条項の無効を主張する際の
平均的損害という一つの
基準があるわけですが、その
基準について、
消費者が、
事業者の
平均的損害が何なのかについての
立証責任があるわけでありますけれども、それを軽くする
条項が、
消費者委員会の
報告書では
改正すべきだとされていたのが、落ちてしまっていること。これが二つ目に問題であります。足りないところの
問題点であります。
それから、第三には、今、最も重要な
課題となっております
高齢者などが判断能力
不足につけ込まれて
被害を受けるということがあるわけでありますが、そのような
勧誘に対する
取消権が認められなかったことであります。
さらに、幾つかの
問題点として残っているというふうには考えております。
まず
最初の、
社会生活上の
経験の乏しいことからの
要件について述べさせていただきます。
この
要件は、二つの新たな
困惑類型に付加されているものでありますが、この二つの新たな
困惑類型の特徴は何なのかといいますと、これは、
判断力が十分でない
状況を
事業者がつくり出して、これを利用する
勧誘の問題性に着目して取消しを認めたものであります。
このような二つの
類型の、
事業者がつくり出した
判断力が十分でない
状況についての
要件というものがあるわけでありますが、その
勧誘行為そのものについては、十分高いハードルで、しかも明確に
要件化されているというふうに考えております。そのため、
消費者側がどうかということにつきましては、これは、この問題のある
勧誘行為によって困惑したかどうか、
消費者が困惑したかどうかで判断すれば足りるというふうに考えております。
具体的にお話をさせていただきます。
改正法四条三項三号の過大な不安をあおる
勧誘の
要件につきましては、その
要件はどうなっているかといいますと、まず、ある方が、
消費者が願望があるわけですね。願望といっても、健康になりたいとか、あるいは子供の進学に悩んでいるとか、そういうようなことでありますが、そういう願望の実現に過大な不安を抱いていることというふうに言われております、
要件が。
過大とは何か。これは、その年代の
一般的、平均的
消費者に比べてより強く深刻に不安を抱いているということであります。
一般的な不安ではありません。より深刻に感じている、こういうことが一つの
要件であります。そういう方が
対象であります。
それから、さらに、それを知った
勧誘者は、その強く深刻な不安を抱いている
消費者の不安を更にあおることであります。したがって、深刻に健康のこと、深刻に子供の進学のことで悩んでいる人に対して、それを更にあおる、強調していくわけですね。そういう
勧誘をするということであります。
さらに、実績や科学的根拠などの裏づけなどのない、正当な理由がないことを、深刻な不安を抱いている
消費者にその願望の実現に必要であると告げる
勧誘をする。すなわち、根拠のないことを言って、その願望の実現に必要だということを言うことであります。深刻な悩みを持っている、深刻な不安を抱いている人に、それをあおり、かつ、根拠のないことを告げて
勧誘をしていく、こういうものであります。
そういうものは、それ自体極めて十分悪質であります。これを更に、
消費者が
社会生活上の
経験が乏しいということで、このような
勧誘をする
事業者を
救済する必要がどこにあるのかと私は思う次第であります。
次に、
改正法案の四条三項四号でありますが、これは人間
関係を濫用した
勧誘の
要件であります。
要件は、まず、
消費者が
勧誘者に恋愛感情などの好意を抱いていること。すなわち、
消費者側から
勧誘者に対して好意を抱いていることでありますが、更に
要件が必要です。
勧誘者が
自分に対して同様の好意を抱いていると誤信すること。両思い誤信
要件と言われておりますが、相手も
自分に同じような好意を持っていると誤信する。したがって、そこには誤った判断があるわけですね。
それで、それを知った
勧誘者が、その感情や誤信に乗じること。この人は、
自分は好きではないけれども好きだと思っているんだということを思って、それに乗じて、その上で、
契約をしなかったら
関係が破綻すると告げるんですね。
そういうことが
要件になっております。
このような、両思いと誤信している
消費者の感情に乗じて、買わなかったらこの
関係が破綻するぞというようなことを言っている、そういう恋人商法は、それ自体十分に悪質であります。これを更に、
社会生活上の
経験が乏しいか否かでこのような
勧誘をする
事業者を
救済する必要がどこにあるのかということを私は思っております。
仮に
消費者がしっかりしていれば、それは困惑をしなかった
消費者が取消しをできないという、
困惑類型でありますから、困惑はしなくちゃいけません。その困惑をしなかった
消費者が取消しをできないとすることで、悪質な
勧誘をした
事業者を
救済することで十分足りるというふうに私は考えております。
さきの本
会議の福井大臣の答弁では、本
要件を置かなければ、本来法が
規定していない場合についてまで取消しが主張されてしまうおそれがあるということでありますが、このような悪質性の高い、しかもかなり明確な、ハードルの高い
要件を満たした、どのような
事業者を、どのような事業態様を
救済するのか、必要があるのかということは極めて疑問だと私は考えております。
それから、
社会生活上の
経験の乏しいことからの
要件によって切り捨てられるのは、結局誰なのかという問題であります。これは中高年であります。
この
要件によって、
社会生活上の
経験がある
消費者は
救済されないということになるわけでありますが、
社会生活上の
経験がある
消費者は、
一般に中高年がその
対象になることは、もう文理上明らかであります。
しかし、上記の
事業者の積極的な問題のある
勧誘におきまして、中高年を排除する理由はないと私は思うところであります。むしろ、今回の
改正は、
高齢化社会ということへの
対応が重要な柱でありました。それが一つのミッションであります。それに、
高齢者の
救済を狭める
改正であっては絶対ならないと私は思っております。
この点、さきの本
会議で福井大臣から、総じて
経験の少ない
若年者は本
要件に該当する場合が多くなりますけれども、
高齢者であっても該当し得る、し得るですね。それから、霊感商法のように、
勧誘の態様に特殊性があり、積み重ねてきた
社会生活上の
経験による
対応が困難な事案では、
高齢者でも本
要件に該当し、
救済され得るという答弁でありましたが、これは、答弁全体を見れば、
高齢者の
保護が
若年者よりも薄くなるということを示しているわけであります。これを
解釈で
対応するということでありますけれども、それでも
高齢者の
救済が薄くなっていくということになるわけであります。
「
社会生活上の
経験が乏しいことから」の
要件は、
消費者委員会の
報告書にはなかったものであります。そういう
意味では、不意打ち的に導入された
要件であります。不要であります。今のように十分明確でハードルの高い
要件の中で、これを、弊害のある
要件を不意打ち的に導入することは問題があると私は考えております。
しかも、
解釈でいろいろ
対応するという御説明がありましたけれども、
消費者契約法の最終的な
解釈権者が
裁判所であることから、
解釈で
対応するのは
限界があると思います。
私どもが起こした裁判でクロレラチラシ配布事件というものがありまして、これは、
消費者契約法の
勧誘というものが、
消費者庁の
解釈の本では、
逐条解説では、チラシとか、それからインターネットの広告とか、そういうものは
勧誘ではない、こう書いてあったわけです。ところが、それを私どもが争いまして、最終的に最高裁は、そういうものも
勧誘に当たり得るという判断をしております。すなわち、
解釈されて、そういう
逐条解説とは異なる判断を
裁判所はし得るわけであります。
そういうことからしても、最終的な担保にはならないというふうに考えております。
今回の
消費者契約法の
改正が、何のために
改正されるのかをよく思い出していただきたいと思います。これは、増加している
高齢者被害の予防と
救済の
改正が重要な目的なはずであります。
高齢者の
救済の
範囲を狭める
要件をわざわざ設ける必要はない。しかも、その
要件は、
解釈でいろいろ考えなくちゃならないような不明確な
要件であります。このような、不明確かつ不要な、弊害のある「
社会生活上の
経験が乏しいことから」の
要件は、削除すべきであるというふうに考えております。
続きまして、九条一号の
平均的損害の
立証責任の緩和の問題について述べさせていただきます。
私ども京都
消費者契約ネットワークは、
消費者契約法九条一号に基づく差止め請求をしております。これは、苦情の多い、結婚式場の非常に高い解約金
条項があるわけですが、それの差止めをしております。
ところが、この訴訟をしますと、
損害を主張するだけで裏づけ資料を出さず、苦情が多いにもかかわらず、そのために敗訴してしまう、その
立証ができないということで敗訴してしまうケースがあります。
本来、当該
事業者に生ずべき
平均的損害を
消費者に
立証させるのは、不可能を強いるものであります。その
事業者、結婚式場がどんな
損害を受けるかは、私どもは外から見たらわからないわけであります。でも、それを
立証しろと。
立証しなかったら負けるわけであります。だから、
立証責任を転換するのが正しいやり方だと私は思っておりますけれども、少なくとも
推定規定を置くべきだというふうに思います。
今回の
改正の議論の中では、
消費者委員会の
報告書では
推定規定を置くことが提案されていましたが、これが落ちていることは非常に問題であります。
この点、福井大臣の答弁では、
消費者契約一般に通ずる事業の
内容の類似性判断の基礎となる要因を見出すことは困難だということで、類似性判断という一つの概念、それを法文化することは難しかったということで見送られて、今後の
検討になっておりますが、実は、九条一号を見ますと、「当該
消費者契約と同種の
消費者契約の解除に伴い」と書いておりまして、
立証しなくちゃいけないのは当該
消費者契約と同種の
消費者契約であります。例えば結婚式場のものとか、あと冠婚葬祭で一つくくることがあるかもしれませんが、解約料、あるいは結婚式の解約料とか、そういうことになるわけでありますが、そういうものであります。
比較するために
消費者が
立証するのは、他の
事業者の同種の
契約条項で足りるというふうに私は考えるところであります。同種であるが規模など類似性が異なるということは、これは
事業者が、
一定の、ほかはこんなふうになっているよということを証明したときに、いや、うちは規模が違う、業態が違うということを、
事業者の方で類似性がないことを
立証する、こういう形でやっていけばいいことでありまして、そういう形で十分法文化は可能だというふうに考えております。
さらに、足りないものの二つ目は、判断能力
不足そのものを悪用した
勧誘に関する
取消権が認められないことであります。
今回は、
事業者がつくり出すのではなくて、認知症になっているなど判断能力に、陥っている状態をそのまま利用する、そういうものにつけ込んで販売をしていく、そういう
勧誘方法についてはこの
取消権が認められなかったわけでありますが、これは、
高齢化社会の中ではこれこそ一番重要な
課題でありまして、こういう
状況濫用型の
取消権が認められなかったことは極めて問題があるというふうに思っております。
判断力不足に乗じて当該
消費者の生活に不必要な
商品、役務を目的とする
契約や過大な
不利益をもたらす
勧誘については、取消しを認めるべきだと思います。
その他にも幾つか問題があります。
約款の
事前開示の問題、
努力義務の考慮要素へ年齢が付加されなかった問題、それから、サルベージ
条項や
消費者の生命身体に生じた
損害の一部免除
条項の無効などが
規定されなかった問題があります。
それから、
最後に、これらの
法律の
改正は、もちろんぜひ今
国会で
改正していただきたいんですが、その後の執行、その実効化が重要であります。
これは、
消費者契約法を実効化するには、一つは、この
消費者契約法に基づき公正な
消費者契約の実現や
被害救済のために
活動している適格
消費者団体や
特定適格
消費者団体に対する支援の拡充をぜひお願いしたいということであります。
それから、もう一つは、これらの
法律の実効化のために、この
内容を広め、さらに、これを相談現場で使っていくのは自治体であります。そういう地方自治体の
消費者行政の支援、財政的な支援の拡充ということもぜひお願いをしたいと思っております。
以上、私の
意見を述べさせていただきました。
どうもありがとうございました。(拍手)