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岩橋参考人 全国労働組合総
連合、全労連の副
議長で、働くものの
いのちと健康を守る
全国センターの事務局長をさせていただいております、
岩橋です。
委員の皆さんに、本日私が
意見陳述する
意見陳述書を配らせていただいております。それを読み上げて、
意見陳述を申し上げたいと思います。
まず、
雇用対策法の改正案についてであります。
雇用対策法は、言うまでもなく、
日本国憲法第二十七条一項の国民の勤労権に基づく、その実効性を確保する
法律であり、職業安定法とともに
日本の雇用関係法令の基本となる
法律であります。今回、
法律名を変更して、働き方
改革を
推進していく基本法と位置づけるというふうにされています。
まず、目的条文である第一条において、「雇用に関し」を「
労働に関し」に変更し、
労働生産性の向上等を促進してを挿入しておられます。雇用、雇われるから、
労働、働くへの変更は、明らかに、いわゆる雇用されない働き方の普及を意識してのことだと思われます。
労働基準法などの
労働者保護法や
労働保険、
社会保険も適用されないフリーランスと呼ばれている個人
事業主や請負、委託で働く
労働者扱いされない
労働者をふやそうという意図が感じられ、
労働者の雇用安定を図ることとは相入れないというふうに思います。
労働生産性の向上については、
労働生産性は、
労働強化をすれば向上するものであります。
労働生産性の向上を促進することが
労働施策の基本に置かれたら、
労働者の
労働や生活よりも
企業のもうけを優先することにつながってしまうのではないでしょうか。
雇用対策法が、
労働者の安定した雇用を確保することが目的の
法律から、経済
政策、
企業のもうけを優先し
推進する
法律に変質してしまうのではないかと危惧しているところであります。
また、国の施策に「多様な就業
形態の普及」を追加されておりますが、
労働者は、パート、アルバイト、派遣などの不安定な雇用や多様な就業
形態を求めてはおりません。多様な就業
形態という名で
使用者にとって思うとおりの働き方にしたいと考えているのは
使用者の方だと思います。
労働者は安定した働きがいのある人間らしい雇用を求めています。
雇用対策法でうたわれている「完全雇用の達成」を一層重視していただきたいと思います。
全体として、
雇用対策法を改正することによって、
日本の
労働法全体を、国民の勤労の権利を保障する
法律から、
企業のための
労働施策を総合的に
推進する
法律に変え、
社会施策としての
労働政策から経済
政策としての
労働政策に大転換しているように思われてなりません。
次に、今回提案されているいわゆる
高度プロフェッショナル制度は、現行
労働基準法が定める
労働時間
規制を年次有給規定を除き全面適用とする
制度であります。これまでの変形
労働時間制、みなし裁量制、適用除外とは全く異質の
制度であります。
裁量
労働制は
業務の遂行を
労働者の裁量に任せなければならない、管理監督者は経営者と一体的な立場で
労働時間法制による保護が基本的に必要とされない者という限定があるのに対し、
高度プロフェッショナル制度にはそうした限定が全くありません。今回提案されている健康確保
措置、一
年間を通じて百四日かつ四週間を通じて四日以上の休日と五日の年休付与、健康診断の実施などをとれば、年三百六十五日の残り二百五十六日、
使用者の指揮命令による無限定の長時間が可能となる
制度であります。
私
たち労働者は、私
たちの生きている資本主義
社会においては、
使用者に時間決めで
労働力を売り、その対価として
賃金を得て生活をしているわけですが、この時間決めということがなくなれば、奴隷
労働と全く変わりがなくなってしまいます。今回提案されている
高度プロフェッショナル制度は、その名称と大きく違い、現代の奴隷
制度と言わざるを得ない
制度であります。
加藤厚生
労働大臣は、無制限の長時間
労働が可能となる指摘に対し、そのような働き方は想定をしていないと答弁をされています。
しかし、
日本の
労働者の働き方の
現実はどうでしょうか。ブラック
企業、ブラックバイト、
過労死、過労自死、長時間過密
労働の蔓延、メンタルヘルス不全や、パワハラ、セクハラなどハラスメントが頻発をする大変深刻なひどい
状況にあります。こうした
状況のもとで
高度プロフェッショナル制度が
創設をされたら、一層ひどい事態になることは想像にかたくありません。
労働時間法制は、
労働者にとっては働き方の問題でありますが、
使用者にとっては使用する
労働者の働かせ方の問題であります。どこまで
労働者を働かせることが法的に可能なのかという問題であります。
事実、坑内
労働は一日につき二時間を超えてはならないと定められていますが、トンネル採掘の現場では、一日十時間まで
労働者を働かせてもいいんだと解釈され、
運用されているところであります。
高度プロフェッショナル制度が
創設をされたら、対象
労働者を年百九日休ませれば、あとは自由に働かせることができるということになると思われます。高度専門
業務として
業務が限定され、平均
年間給与が三倍以上と、比較的高い所得保障があっても、そうした
労働者が
過労死、過労自死してもよいということには絶対になりません。
派遣
労働をめぐるこの間の推移を見れば、年収要件は必ず引き下げられ、対象
業務は拡大されていくと思わざるを得ません。
過労死、過労自死の頻発が予想される現代の奴隷
制度とも言える
高度プロフェッショナル制度の
創設は、絶対にやめていただくことを強く要望するものであります。
時間
外労働の
上限規制についてであります。
安倍首相は、今回の働き方
改革に当たって、長時間
労働を
是正すると強調され、電通で過労自死をされた高橋まつりさんのお母さんにお会いされ、二度と悲劇は繰り返さない、
過労死、過労自死を一掃すると約束をされました。問題は、今回提案されている時間
外労働の
上限規制案でそのことが
実現するかどうかであります。
皆さんも御存じのとおり、
厚生労働省は、脳・心臓疾患の
労災認定における
労働時間数の
業務起因性の判断基準を明示しています。つまり、
過労死につながる脳・心臓疾患は、残業時間が月四十五時間を超えると発生する危険が生じ、それを超えれば超えるほどその危険性が強まるということであります。そうであるならば、月四十五時間を超える時間
外労働は禁止すべきではないでしょうか。
ところが、今回の案では、
労使が合意をすれば、月百時間未満、二カ月から六カ月で八十時間以内の時間
外労働が年六回まで認められています。これで
過労死、過労自死を一掃することはできません。長時間過密
労働はなくならず、悲劇が繰り返されることになってしまいます。
月百時間、二カ月から六カ月で八十時間という
上限は、
過労死を始めとする脳・心臓疾患の
労災認定基準そのものであり、そうした、人が死ぬかもしれない、殺されるかもしれないという基準を法制化をすることが、近代法治国家、民主主義国家で果たして許されるのでしょうか。私は、絶対に許されないと考えているところであります。
月百時間未満、二カ月から六カ月で八十時間以内まで
労働者を働かせることができるとすることは、立法その他国政の上で最大の尊重を必要とされている生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利を著しく侵害し、健康で文化的な
最低限度の生活を営むことができなくなるということであり、私は、
日本国憲法に違反する違憲立法でないかと思うところであります。
私は、働くものの
いのちと健康を守る
全国センターの事務局長をさせていただいていますので、時間
外労働の
労働者の命と健康に与える影響について付言させていただきます。
まず、
労働者の命と健康の捉え方について、やはり、
労働は
労働力の消費であり、生活は
労働力の再生産であります。
労働者の命と健康は、
労働と生活の両面で全面的に捉えることが必要です。
研究によれば、
労働に関する時間が十・五時間以下なら、つまり通勤時間と残業時間が一・五時間、
労働時間が八時間以内なら、帰宅後の食事や入浴、睡眠に影響を与えないが、これを超えると、まず趣味や娯楽の時間が削られ、次に新聞、読書や勉強の時間が、そして食事や入浴、
最後に睡眠時間が削られるとなっています。だんだん、
労働時間が長くなるほど非文化的な生活になるわけであります。
時間
外労働四十五時間、八十時間、百時間の持つ
意味については、見ていただきたいと思いますが、月四十五時間で、八時に出勤して八時に帰る、生活時間と
労働時間が一緒だということになります。月八十時間では、八時に出勤して十時帰宅、睡眠時間が六時間しかとれない。月百時間では、十一時帰宅で睡眠時間が五時間で、一カ月で脳・心臓疾患を起こすという基準であります。
時間も来ているようですから、もう一つだけ申し上げたいと思います。
安倍首相の、二度と悲劇は繰り返さない、
過労死、過労自死を一掃するという言明を
実現するためにも、時間
外労働の
上限は月四十五時間、年三百六十時間とし、特例や適用除外は一切設けないよう、心からお願いをします。
大阪・泉南アスベスト訴訟において、最高裁は、
厚生労働省がアスベストの
規制を怠ったことに対して、国は、
労働者の生命、健康被害を防止するために、できる限り速やかに、技術の進歩や最新の医学的知見に適合したものに改正すべく、適時かつ適切に
規制権限を行使しなければならないと判じました。この判旨は、引き続く建設アスベスト訴訟にも基本的には引き継がれています。
私は、この見地は、アスベストの
規制だけではなく、
過労死や過労自死をなくすための
労働時間の
上限規制に当たっても当然貫かれるべきだと考えています。すなわち、
過労死、過労自死につながる脳・心臓疾患を生じさせる危険がある月四十五時間以上の時間
外労働を
規制しない
現状は、国の
労働者の生命、健康被害を防止するための
規制権限の不行使に当たり、違法状態ではないかと考えているところであります。
あとのところは読んでいただいて、以上で
意見陳述を終わらせていただきます。
ありがとうございました。(
拍手)