○吉田博美君 自由民主党の吉田博美です。
私は、自由民主党・こころを代表して、
安倍内閣総理大臣の
施政方針演説について
総理に
質問いたします。
質問に先立ちまして、昨年十二月に新潟県糸魚川市で発生した大火において被害を受けられた皆様に心からお見舞いを申し上げます。自由民主党としても、二階幹事長を団長とする視察団を派遣して、現地の声を伺いながら迅速な対応に努めているところであり、今後とも復旧復興に向けて全力を尽くしてまいります。
さて、
安倍内閣が
政権に復帰してから五年目となりました。第一次
内閣を合わせた
総理の在任期間は、佐藤栄作、吉田茂、小泉純一郎各
総理に次いで戦後歴代四位となっています。
内閣支持率も高い水準を維持し、政界は安倍一強とも言われる状況です。
しかし、本当に世の中で言われるほど、
総理は人の意見に耳を貸さずに一方的に物事を進めているのでしょうか。
自民党、公明党の
政権復帰以降、私は参議院
自民党で、幹事長代理、幹事長代行、国対委員長、そして幹事長を務めてまいりました。しかし、その間に一度も
安倍総理から上意下達で指示を受けたことはありません。
総理だけではなく、官房長官、副長官など、官邸から一方的に指示をされたことは一度もないのです。全て相談をいただき、話合いの中で決められてきたのです。
一昨年の平和安全法制、昨年の
TPP関連
法案などのときも、
総理からの一方的な指示は一切ありませんでした。強いて言えば、平和安全法制の
審議に際して、デモ隊に一人でも死傷者を出してはいけないと強くおっしゃっただけです。
総理は、昨年五月には広島を、十二月には真珠湾を米国のオバマ前
大統領とともに訪問され、かつて激しい戦火を交わした両国の和解と
未来志向の関係を訴える
演説をされました。ハワイでの日系人との夕食会では、千人以上が詰めかける中、
総理は全てのテーブルを回って写真撮影に応じたと伺っています。
本当にこの人が、
日本を戦争する国にし、徴兵制を目指し、民主
主義を軽視するという、一部の
野党やメディアが言うような強権的な指導者なのでしょうか。メディアがつくり上げているイメージと実際の姿とは大きく異なっていると私は感じます。
私は、前回の総裁選のときには
安倍総理を応援しませんでした。しかし、
総理は、応援した人もしなかった人も公平に扱われます。私が
総理と直接お話しするときにも、
総理はとても丁寧に話を聞いてくださいます。一時間近くにわたってお話しすることもあり、耳障りなことも申し上げていますが、一度も嫌な顔をされたことはありません。誰とでも同じ目線で接することができるのが
総理の
最大の強みだと
思います。ですから、
総理は党内で幅広い支持を得ています。
総理には人の気持ちをつかむ力があるのだと
思います。
それは
国内にとどまらず、海外との関係においても当てはまります。
総理は、ロシアのプーチン
大統領との個人的な信頼関係を築かれています。米国の
トランプ大統領とも
就任前に会談され、気持ちをつかみました。今後会談を重ねる中で、更に信頼関係を強固なものにできるはずです。
世界のリーダーとファーストネームで呼び合う関係がつくれるのは、
総理の人柄のたまものであると
思います。
私は、
内閣とは一線を画す参議院
自民党の幹事長という立場ですので、どちらかというと、
総理に苦言を呈する役割が多くなっています。
そこで、あえて申し上げますが、私は、
総理が一番恐れるべきは、裸の王様になることだと
思います。
総理の周辺で誰も苦言を呈さなくなったときには、都合の悪い情報が上がらなくなり、バランスの取れた
判断ができなくなってしまうからです。そうならぬよう、これからも
総理には苦言を呈していきたいと
思いますので、よろしくお願いいたします。
さて、昨年、我々参議院
自民党では、初めて
女性の議員会長が
誕生しました。また、公明党におかれては、七年以上にわたり参議院議員が代表をお務めになっており、同じ参議院議員として大きな誇りであります。
野党第一党でも、昨年、民主党、
民進党を通じて初の
女性代表が参議院から
就任されました。
女性の活躍推進が叫ばれる中で、
女性の参議院議員が活躍されることも誇りに
思います。
しかし、
野党第一党の
女性代表は、
就任当初、
提案型、対案型という話だったはずですが、先ほどの
質問では
提案もされましたが、さきの
臨時国会での姿を見ていると、対立型、対決型であったと言わざるを得ません。
政府・
与党の
方針にただ反対し、対決するだけではなく、建設的な、そして
現実的な
提案を行うことで、
政権交代可能な
野党になってほしいと願っています。
与党と
野党がお互いに切磋琢磨し、
我が国の民主
主義を更に発展させていく、そんな関係をつくっていければと思っています。
では、
総理に対する
質問に入ります。
初めに、
経済財政政策について伺います。
今年は、
世界経済の動向について、これまで以上に注目が集まる年になりそうです。一月二十日、米国で
トランプ新
大統領が
就任いたしました。
就任演説では、米国の国益を最
優先にする
アメリカ・ファースト、米国第一を表明しました。
就任直後に公表した主要
政策でも、強固で公平な貿易協定で国際貿易を
経済成長や
雇用の回復に生かすことができるとし、
TPPからの
離脱やNAFTAの再交渉の開始など、米国第一の
考えが反映されています。
新
大統領は、自由で公平な貿易の重要性を理解されていると
考えますが、仮に、今後、
企業に対して米
国内での生産や
雇用を半ば強引に求める手法が取られるとすれば、
我が国の産業や
経済を含め、
世界経済にどのような
影響をもたらすのか、予断を許しません。
保護主義的な色彩の強い
経済政策が各国にも波及すれば、国際的な貿易や
投資が停滞するという
事態にもなりかねません。
経済の不確定要素が高まるとの懸念がある中、
我が国としては、
国際社会に対して粘り強く自由貿易の重要性を説き、
世界が
保護主義の連鎖に陥らないようにすることが大切であると
考えます。
そこで、まず本年の
世界経済の展望と、それを受けての
我が国の
経済財政運営についての基本的な
考え方を伺います。
次に、
平成二十九年度
予算案について伺います。
本
予算案は、
経済・
財政再生計画二年目の
予算として、
経済再生と
財政健全化の両立を実現する
予算となっています。
経済再生については、一億総活躍
社会の実現や
日本経済の
成長力を高めるような施策への重点配分がうたわれています。中でも、
日本の
未来を支える
子供たちのために、
経済事情にかかわらず、
希望すれば
大学に進学できるよう、返還不要の
給付型奨学金制度の創設が盛り込まれています。
一方、
財政健全化については、一般歳出全体や
社会保障費の伸びを抑制し、国債発行額を引き続き縮減する
予算となっております。
しかし、
予算の資料を見ますと、一億総活躍
社会や
経済再生に関する重要
政策でも百億円単位の項目が並んでおり、全体として小粒であるという印象も受けます。
本年四月から予定されていた
消費税引上げが延期された
影響で厳しい
予算編成であったことは十分理解できますし、国債発行も縮減したことでかなり緊縮度の高い
財政運営になっているように感じますが、
平成二十九年度
予算案について
総理はどのように評価されているか、御見解を伺います。
次に、
働き方改革について伺います。
総理は、昨年八月の
内閣改造で
働き方改革担当大臣を任命され、
内閣の重要課題としてこの問題に取り組んでいく
姿勢を示されました。また、昨年九月から
働き方改革実現
会議を開催して、
具体策が
議論されています。
総理は、この
会議の中で
働き方改革のテーマとして九項目を挙げられましたが、その中でも大きなテーマは、長時間
労働の是正と同一
労働同一
賃金であります。
長時間
労働の是正は、
我が国にとって高度
成長期以来の宿題と言ってもよい長年の課題です。これまで
我が国では、大
企業から
中小零細
企業まで、多くの
企業が社員の長時間
労働に依存してきたことは否定できない事実です。そして、
企業の中では長時間
労働をする人の方が評価されるという風土が存在することも、また事実であります。
昨年、
大手広告代理店の若手社員が過労自殺したことが大きく取り上げられましたが、長時間
労働を認めてしまうような風土が多くの
企業に広がる中で、
過労死や過労自殺といった痛ましい悲劇が後を絶ちません。命を絶つに至らないまでも、うつ病などの精神疾患の患者数は近年増加を続けています。こうした状況を改善するためには、個々の
企業の努力のみならず、
社会全体として長時間
労働に頼らない
働き方に変えていく必要があります。
また、長時間
労働の是正は、
女性の活躍や
仕事と
子育て、
介護との両立
支援という観点からも重要です。特に、
我が国の将来にとって大変深刻な問題である少子化への対策のためには、
子育てに時間を取れる
働き方を普及することが課題となっています。
このように、長時間
労働の是正が急務であることは論をまたないわけですが、一方で、
政府はこれまで、
労働規制を緩和し、自由な
働き方を可能とする方向の
改革も目指してきました。一部の
野党が
残業代ゼロなどと
批判した
労働基準法の改正案もそうであります。
一見すると、長時間
労働を是正するという方向性と自由な
働き方を認めるという方向性とは矛盾するようにも感じるため、
政府がどのような方向を目指しているのか、一部に不安や誤解もあるのではないでしょうか。長時間
労働の是正について基本的な
考え方と自由な
働き方を認めるという
考え方との
整合性について御見解をお聞かせください。
同一
労働同一
賃金については、昨年十二月に
政府の
働き方改革実現
会議が
ガイドライン案を発表しています。これを見ると、
正社員と非正規社員の間で
賃金に差を付けてよい場合とよくない場合が具体例をもって示されています。
それぞれの事例は、非正規社員の待遇改善という観点に立てば妥当なものであると
思います。ただ、気になるのは、同一
労働同一
賃金というのは正規と非正規の格差の問題だけなのかという点です。同じ
仕事をしている正規と非正規の間に差があってはいけないのであれば、同じ
仕事をしている若手とベテランの間にも
賃金に差があっていいのかという話が出てくることは避けられません。
例えば学校の教員やバスの運転手など、新人とベテランで外見上は同じような
仕事をしていても、
賃金が大きく異なるという場合はよくあるはずです。こうした場合の
賃金差を説明することが難しくなると、
我が国で広く行われてきた年功序列のシステムそのものが問われることになります。逆に言えば、同じ
仕事をしている限りは何年勤めても給料が上がらないという
事態もあり得ることになります。
政府としては、同一
労働同一
賃金は正規と非正規の間の格差に限った話であると
考えているのでしょうか。あるいは、将来的に年功序列を改めるなど、
我が国の
雇用体系全体の
改革まで視野に入れているのでしょうか。将来的にどのような
賃金・
雇用体系が望ましいと
考えているかが見えないと、雇う側も雇われる側も不安になってしまいます。将来的に目指している同一
労働同一
賃金の姿についてお
考えをお聞かせください。
次に、外交・防衛
政策について伺います。
本年は、主要国で選挙や
政権交代が相次ぐ重要な年となります。先日、米国の
トランプ大統領が
就任しましたが、四月及び五月にはフランスの
大統領選挙、九月にはドイツの連邦議会選挙が予定されています。また、時期は分かりませんが、韓国でも
大統領選挙が行われることになります。
米国の新
政権の動向も大いに気になるところでありますが、その他にも、ヨーロッパでの極右勢力の台頭や韓国での反日感情の高まりなど、
我が国にとっては注意すべき状況があります。昨年の英国のEU
離脱決定とも重なりますが、各国において内向きの
姿勢が強まっていると感じます。これが高じれば、各国の協調体制が揺らぎ、国際的な摩擦や紛争が増えるという
事態も懸念されます。
現在、G7諸国の中では
安倍総理とドイツのメルケル首相がベテランであり、存在感を発揮しています。今後の選挙などを通じて更に各国の指導者交代が進む
可能性もありますが、在任期間が長い安定
政権であるという長所を生かして、平和で安定的な国際協調体制の強化に向けて更なるリーダーシップを発揮されることを期待いたします。そこで、本年の外交の基本
方針についてお
考えを伺います。
次に、具体的な問題として、中国と韓国について伺います。
中国については、
我が国周辺や南シナ海において軍事的な動きをますます活発化させています。今後、
我が国周辺での軍事的な緊張が更に高まる
可能性も否定できません。
日本と中国との間では、最近、緊張関係ばかりが注目されますが、本来は長い友好の歴史があります。
総理も終戦七十年の談話の中で感謝を示されたように、中国に置き去りにされた三千人近い
日本人の
子供たちが無事
成長し、再び祖国の土を踏むことができたのは、中国の
方々の寛容な心のおかげでした。最近でも、中国からの観光客は年々増加し、昨年は六百万人を超えるまでになっています。多くの方が
日本の魅力を発見し、
日本人を好きになって帰っていかれます。
もちろん、中国の一方的な
行動に対しては、日米や他の周辺国が連携して抑制していくことも必要です。一方で、中長期的に、日中両国の友好関係を再構築し、前向きに協力し合う関係にならなければ、アジアの平和と安定は保たれません。今後の対中関係についてどのような
方針で臨まれるお
考えか、御見解を伺います。
次に、韓国との関係について伺います。
昨年十二月の朴槿恵
大統領の弾劾可決による職務停止や釜山の
日本総領事館前への慰安婦像の設置によって、それまで改善に向かっていた韓国との関係が一挙に不透明になりました。
私はこれまで多くの韓国の
方々とお付き合いをしてきましたが、
皆さん義理人情を大切にし、約束をしっかり守る人
たちです。そのため、どうして今回のような
事態になったのか、大変心を痛めています。在
日本大韓民
国民団でも、両国
政府が苦悩の末選択した結果である日韓合意の着実な履行と慰安婦像の撤去を訴えています。韓国
国民の中にも冷静で良識ある
判断を求めている人は多いと信じています。
政府としては、どのようにして今回の
事態を乗り越え、日韓合意の着実な履行と今後の日韓関係の発展を目指していくお
考えなのか、御見解を伺います。
次に、
社会資本の整備について伺います。
グローバリゼーション化の中で、産業活動を活発化させ、
経済の発展を図るためには、生産や物流の
効率化の基盤となる
社会資本の整備が不可欠です。今、G7各国は、
雇用を生み出す
投資を確保し、人と物の移動を容易にするために、いずれも厳しい
財政環境の中で、
社会資本のストック
効果に着目し、積極的に交通網などの
社会資本の整備に取り組んでいます。
特に、
人口減少に直面している
我が国では、他の先進国以上に、
労働力の
減少を補うべく
生産性を向上させ、
成長の基盤を確保するために、高速交通ネットワークなどの
社会資本を整備していくことがますます重要になっています。また、国土のバランスのある発展を実現するためにも、過疎に悩む
地方でも、人口集中に対応しなければならない都市でも、着実に整備を進めていくべき
社会資本はまだまだあります。
地球温暖化が
原因かもしれませんが、昨年の台風十号は過去にはない経路で
日本に上陸し、台風直撃への備えが薄かった東北や北海道に大きな被害をもたらしました。温暖化が進むと強い台風が発生する率が高くなるとの分析もあります。また、東海地震、東南海地震、南海地震のような巨大地震が発生するリスクも高まっています。
このような国土に住む我々は、
経済、暮らしが自然災害により致命的な被害を受けることを防ぐと同時に、万が一、被害を受けても迅速な復旧復興が実現できること、すなわち国土の強靱化を速やかかつ強力に進めていくことが必要です。自然災害は我々の準備を待ってはくれないのです。
社会資本整備を進めていくに当たっては、無駄を排除し、効率性を重視しなければならないことはもちろんですが、
社会資本そのものを無駄と決め付けて整備を遅らせることは、国際競争の中で
我が国の
経済活動を発展させる上でも、
地方創生を進める上でも、
国民の生命や財産を守る上でも、絶対に避けなければならないと
考えています。
我が国の
生産性の向上や
地方創生、国土強靱化の推進の観点から、
社会資本の整備をどのように進めていくお
考えか、お伺いしたいと
思います。
最後に、農業
政策について伺います。
農業
政策においては、農業者の方の
所得を向上させ、
安心して農業に取り組めるようにすることが何よりも大切な課題です。
そのためには、農業の経営力強化のための
支援が欠かせません。
我が国の農業従事者の平均年齢は六十六歳を超えているなど、農業の活性化は待ったなしの課題です。
安倍内閣では、農業の
成長産業化の実現に向け、農政全般にわたる抜本的な
改革を進めた結果、四十代以下の新規就農者が年間二万人を大きく超え、
統計開始以来最多となりましたが、更に新しい時代に向けた農業
政策への転換の中で
安心して農業に取り組めるよう、生産から加工、流通まであらゆる面で骨太の農業
政策を推進していく必要があります。
まずは、農業者の
方々が安全で質の高い農産物を将来にわたって安定的に生産できる
環境が必要です。こうして生産された優れた農産物が、
国内の
消費者にも行き渡るとともに、海外の市場でも高く評価され、輸出の増加につながるような
支援も必要です。生産基盤の強化と市場の拡大が農業者の
所得向上と更なる生産につながるという持続可能な農業をつくり出す好循環を生み出すことが
政府に求められる重要な役割です。
総理は、
施政方針演説の中で、八本に及ぶ農政
改革関連
法案を今
国会に提出し、
改革を一気に加速しますとおっしゃいました。この
改革の中で、農業者の
方々が
安心して農業に励み、市場の拡大と
所得の向上につなげられる仕組みづくりをどのように進めるつもりなのか、お
考えを伺います。
慰安婦問題に関する日韓合意のように、これまでお互いが身を削るような交渉を経て積み上げてきた合意を、気に入らないからといって一方的にほごにするような行為に対しては、
我が国は
国際社会の
責任ある一員として、断固としてノーと言わなければなりません。
各国が内向きの
姿勢を強める中で、今後、
我が国が
国際社会で果たすべき役割はますます重くなっていると言えます。
安倍総理におかれましては、たとえ相手がどこの国の誰であっても、
世界が
保護主義に陥ることのないよう、グローバリゼーションを推進する立場から強力なリーダーシップを発揮していただきたいと
思います。G7のベテランとして
総理はそれができる立場にあると
思いますので、大いに期待を申し上げて、私の
質問を終わります。(拍手)
〔
内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕