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参考人(高須順一君) 高須でございます。本日は、
発言の
機会を与えていただきまして、誠にありがとうございます。
私は、
日本弁護士連合会から推薦を受け、二〇〇九年十一月から
審議が開始されました
法制審議会民法(
債権関係)
部会の
幹事としてその
審議に参加させていただきました。そこで、今回の
改正法案に対する
日弁連の
基本的
立場を含めた私の
意見をまず
お話しさせていただき、その上で、今回の
改正項目の中でも、
市民生活あるいは取引社会との
関係において重要と思われる幾つかの論点について、今回の
改正法案に至る
法制審の
議論の
経過を
説明させていただきたいと思っております。よろしくお願い申し上げます。
まず、今回の
改正法案に対する
日本弁護士連合会の
意見、評価でございますが、
日弁連としては、今回の
改正法案について、
保証人保護の
拡充や約款
ルールの新設等、健全な取引社会を実現するために必要かつ合理的な
改正提案になっていると評価させていただいており、賛成という
立場を表明しております。
お手元の、配付をお願いしてあります
資料の四になりますが、
平成二十七年三月十九日付けの
民法(
債権関係)の
改正に関する要綱に対する
意見書がそれでありまして、一部にはなお道半ばという
部分はあるにせよ、一八九六年制定以来百二十年余を
経過した
民法、
債権関係法についてその現代化に真正面から取り組んだその意義は十分に盛り込まれた
内容になっていると評価させていただいております。
なお、
日弁連が今回の
改正法案についてどのような評価をしているか、また、
法制審議会の
審議に対して
日弁連がどのように取り組んできたかにつきましては、やはりお手元の
資料の二と三でございますが、
改正法案の評価、あるいは
日弁連のこれまでの
取組というA4一枚物のペーパーに、より見やすい形で記載されておりますので、これも御覧いただければと思います。この
日弁連の評価は、私
自身のそれと同様のものであります。
そもそも
民法という言葉についてでございますが、幕末から
明治維新にかけて活躍した津田真道によって初めて
日本語に翻訳され、以後定着した言葉とされております。津田がこの
民法、この
法律を
民法すなわち民の法と翻訳したことにはやはり意味があることであり、この
法律は民に寄り添い、民のためになる法でなければならないと思っております。
そのような
観点から考えた場合に、今回の
改正法案は、
保証人保護といった民の要請に応えるものであり、また、
日常生活を行うに当たり今やその存在を無視することはできない約款取引についても、その
規律を新たに設けることとなり、民の健全な
経済活動を支える重要な
ルールになると考えております。また、今回、
消滅時効制度などもより分かりやすいシンプルな
内容にすることが目指されており、全体として、二十一世紀に入った
日本社会において、津田がまさに
民法と名付けた法の
内容としてふさわしい
改正法案になっていると思っております。
以上のような視点から、今回の
法案に盛り込まれました重要テーマについて幾つか御
説明をさせていただきます。
お手元の
資料の一、「
民法(
債権関係)
改正法案の概略」、これは主に
関係する
改正法案を抜粋したものでございますが、これを御覧いただければと思います。
まず、
個人保証人の保護を強く意識した
保証法制の
改正でございます。様々な工夫が盛り込まれておりますが、中でも、今回の
改正において、
事業資金とするために金融機関から
融資を受けるようないわゆる
事業用
貸金契約について、
個人が
保証契約を締結する際には、
原則として、
保証人になろうとする人は、
公証人から一定の
説明を受けた上で、
公正証書で
公証人に対し
保証意思を有する旨を表示しなければならない、この
規律、
法案四百六十五条の六でありますが、この
規定は重要な
改正条文であると考えております。
保証人になろうとする人が、
保証契約締結に先立ち、直接の
利害関係を有しない
公証人と話をすることにより、よく考える
機会をつくる、その意味で、
保証人にならざるを得ない状況下にある人にいま一度考える
権利、熟慮する
権利を与えるものであると評価できるものと思っております。
個人保証人の保護という問題は今に始まったものではなく、古くから存在する問題ですので、一方では
保証契約が
経済活動において必要とされているという場面がある、このことを十分に踏まえて、一歩一歩進めていく問題であると考えております。
法制審議会において、
中小企業の資金調達の必要性、そのために
個人保証に頼らざるを得ない実情があることが参加メンバーである
委員から表明され、その点も十分に考慮した
規定として今回の
改正法案の
規律になったと
理解しております。今後、更に検討していくべき事柄が残されているとしても、百二十年余の歴史を経て、これまで相対でなされてきた
保証契約に
公証人が一定の関与をする
制度が設けられ、それをもってこれから
保証契約を締結しようとする
保証人によく考える
権利、熟慮する
権利が保障されることは大きいと考えております。
次に、
定型約款でありますが、この
規律も大変重要なものであると考えております。
日弁連も強くこの
規律の導入を主張してきた経緯がございます。
約款取引が現在の取引社会において日常的に行われているということは言うまでもないことだと思います。電車に乗れば運送約款、ホテルに泊まれば宿泊約款、携帯電話を購入すればそれに伴う分厚い約款というように、私たちはこの種の約款を介在させた
契約行為を
日常生活において繰り返し行っております。
しかしながら、約款の
内容を
契約締結時に確認し
契約を締結するということはまれだと思います。一定の約束事が書かれているのだろう、これぐらいの認識はあるとしても、その具体的な
内容はよくは承知していない、そのような取引が日常的に行われているということだと思います。約款を利用した
契約のことを希薄な合意などと呼ぶところです。このような中で、今回の
改正法案が
民法が
規律する約款の
内容を
定型約款として定義付け、さらに不当条項、不意打ち条項と呼ばれる
ルール、つまり
契約の拘束力から逃れるための
規定を設けたことは大変に意義のあることと考えております。
法案五百四十八条の二第一項は、約款を利用して行う
契約について、ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その
内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものである場合、これを定型取引として
民法の
規律の対象となることを明らかにしています。この定型取引の定義において、不特定多数との画一的な
契約を想定するのみならず、その
内容が画一的であることがその双方にとって合理的である、そのことを必要としている、その旨を宣言していることは重要だと思っております。あくまで
契約当事者の双方にとって
内容が合理的なものであることを要求し、そのような約款取引についてこれを保護し
規律するという姿勢を示したことは、約款取引が日常となっている現代の
契約社会において意義のある
改正になると思っております。
そして、この
法案五百四十八条の二第二項が、約款の条項については一定の場合には有効な合意にはならない、合意があるとはみなさないとしたことは、いわゆる不当条項、不意打ち条項と呼ばれていたものの明文化であり、現代約款取引において、認めるべき約定は認め、認めるべきでない約定は排除するという明確な
ルールを設けることができたと
理解しております。
そもそもが、約款取引が適正かつ実効性ある形で運用されることは約款を使用する企業にとっても重要なことでありますから、これらの
ルールの
明確化を実現したことは企業
経済活動の健全性の維持にも役立つものであり、調和的な
規定を作ることができたと
理解しております。
続きまして、
消滅時効制度の
改正でございます。
今回の
改正法案でも大幅な変更が試みられているところでございます。
民法が定める
規律というものの中には、専ら
法律家が
裁判等を行うときの
ルールを定めている、そのような
規律も存在いたします。私が
個人的には大変
関心を持っております詐害行為取消し権の
規定などがまさにそれに当たります。この詐害行為取消し権につきましては、
日常生活を営む中でお目にかかるようなものではないと思っております。
しかし一方で、
民法の
規律の中には、ごく普通の
日常生活の中で、
弁護士や
裁判所の関与など無縁の場面においても問題となるものがあると思います。
消滅時効などというのはまさにそのような
規律であり、一定
期間経過した後に支払を請求されたようなケースにおいて、それってもう
時効じゃないのということが脳裏をよぎるという場面が間々あると思います。
そのようなときに、さてどうするか、とりあえず
民法を見て確かめよう、今はインターネット全盛の時代でありますから、家庭に
六法全書がなくても、ともかくネットで調べようなんということは幾らでもあると思います。そんなときに
民法の
ルールが余りにも複雑だと、結局よく分からない、判断が付かない、諦めるとなってしまっては、もはや民のための
法律とは言えないと思います。ここではシンプルで分かりやすい
規律が必要になるところだと思っております。
今回、
消滅時効に関しては、話を複雑にしていた短期
消滅時効に関わる
規定を削除し、
債権の
消滅時効は、
権利を行使し得ることを知ったときから五年か、
権利を行使し得るときから十年のいずれか早い方、つまり主観的起算点と客観的起算点にそれぞれの一定の
時効期間を割り当てる一律の
制度としてこれを整理しています。
時効のような身近な
法律問題に関わる分野は、分かりやすいことが何よりでございます。そのような
改正法案になっていると思っております。
最後に、法定
利率を取り上げたいと思います。
これは私たちが日常に関わるという問題ではありませんが、万一のときに重要となる
規定です。現行
民法四百四条では法定
利率は年五分、五%と定められています。そして、この
利率が、例えば交通事故被害に遭ったようなときの
損害賠償金額の算定の際に重要な役割を有することになります。逸失利益に関する適正賠償額を定める際に中間
利息控除ということが問題になるということでございます。
この点、
平成十七年の
最高裁判決が、
民法は民事法定
利率により中間
利息を控除することを予定しているものと考えられると判断しており、そこで現在の
損害賠償実務では、年五%の割合による減額、つまり中間
利息控除が行われています。
しかしながら、バブル期の高金利の時代であればともかく、現在の経済環境では、現時点でもらった金銭を
銀行に預金したところでそれほどの
利息を期待することはできません。金融機関等にお金を預けておけば五%の運用益が生じて、結果的にそろばん勘定が一致しますよなどと言える人は恐らく一人もいないと思います。
そこで、この中間
利息のこと一つを考えても、今の法定
利率五%は社会の実情に合っていない、もっと低い
利率にする必要があるということだと思います。しかし一方で、余り急激な
利率の変更は、変更前のケースと変更後のケースで大きな違いをもたらすこととなり、それにより不利益を受ける人に不公平感をもたらすことになります。
改正の必要を感じながらも、
改正による弊害も危惧される。
法制審議会でもとても難しい
審議でありました。最終的には、大幅な
利率の変更を避け、
改正法を
施行する際の出発点となる
利率は年三%とする。その上で、今後の金利相場についてどのような急激な
変化があるかは分かりませんので、そのような大きな
変化があった場合には対応できるような緩やかな変動制を取るということも
改正法案の
内容となっております。極端な
改正にならないようにしつつも社会の実態に合わせる、このようなことを試みた
改正法案になったと思っております。
以上の次第であり、今回の
改正法案は、一八九六年、
明治二十九年以来の社会の
変化に対応するものであり、かつ公に対する民、この民に関わる、民に寄り添う
改正になっていると思います。まだまだ努力しなければならない問題、まだまだ考えなければならない問題もありますが、百二十年間
改正をしないできたという状況を考えれば、その全てを今回の
改正で解決するということは困難であり、今後も、民の法である
民法については、これを更に民のためのものにするための不断の努力を続けていかなければならないのだろうと考えております。
以上をもちまして、私の
説明とさせていただきます。御清聴ありがとうございました。