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参考人(
高橋博君) はい、じゃ失礼して、座らさせて陳述させていただきます。
今回の新たに
創設が予定されております収入
保険事業、この両
事業の
実施者としての立場から本日は
意見を申し述べさせていただきたいと存じます。
最初に、これまで農業共済制度が果たしてまいりました機能、役割並びにその実績について簡単に触れさせていただきたいと存じます。
農業共済制度は、昭和二十二年の制度発足以来、本年で七十周年を迎えるわけでありますけれども、この間、
我が国の農業
災害対策の基幹的
セーフティーネットとして、
災害による損失を補填し、農業の再生産が阻害されることを防止する、これを目的といたしまして、長きにわたり幾多の
自然災害に対して被災農家への
支援並びにこれを通じた
地域経済の安定に貢献をしてまいったところでございます。
御承知のとおり、広域的
災害として大冷害のありました
平成五年には、水稲を中心に五千四百八十七億円の共済金を支払い、また、同じく冷害年の
平成十五年でも千八百七十一億円の共済金の支払いをしているところであります。
近年におきましても、東
日本大震災を始め、地震、大型台風、豪雪、集中豪雨、竜巻、ひょう害など、全国各地で過去に経験したことがないというような表現そのものが陳腐化するほどに頻発をしております甚大な
自然災害などに対しまして、農業共済団体といたしましては迅速な損害評価と共済金の早期支払に努力してまいっているところでございます。
また、共済金という金銭的な給付だけではなく、家畜について見ますと、農業共済団体の家畜診療所の獣医師などによります常日頃からの診療はもとより、さらには、口蹄疫や鳥インフルエンザなど大規模伝染病が発生いたしました際には、これら農業共済団体の獣医師あるいは職員が防疫
措置の一翼を担うなど、
地域の家畜衛生にも大きな役割を果たしてまいったところでございます。
このような中で、
平成二十七年の
農業共済事業の引受戸数は延べ百八十九万戸、その内訳を見ますと、当然加入制ということもあり、水稲、麦の加入率は九割を超える大きな高位となっております。また、乳用牛なども九割以上でございます。畑作物については七割、園芸施設は五割ということになっておりますが、果樹については残念ながら二四%と、他の作目に比べますと低くなっております。
次に、農業共済制度を運営いたします農業共済団体につきましては、従来は、
地域レベルでの農業共済組合又は市町村が農家との間で共済
関係を結び、その共済責任を保険する都道府県単位の農業共済組合連合会、さらにはこの保険責任を更に再保険する
政府という三段階制で運営してまいったわけでありますけれども、近年では、組織及び業務の効率的な運営を目的といたしまして、合併による組織整備を強力に推進しております。現時点におきまして、三十の都府県で連合会も吸収しましたいわゆる一県一組合を実現し、
政府との二段階制に移行しております。さらに、今後におきましてもこのような動きを加速することといたしております。
次に、今回の改正
法案についてでありますが、冒頭に申し上げましたとおり、農業共済制度は、今年、制度施行七十周年となるわけでありますが、この制度は、これまでも農業をめぐる諸事情の
変化に対応いたしまして、その時々の農業、農業生産の実態に応じた
法律改正が行われてまいりました。しかし、前回の
法律改正は
平成十五年でありますので、今回の改正までに十四年が経過をいたしました。この間、農業、農村の
変化は著しく、その中で、
農業経営の
セーフティーネットに対する
農業者のニーズなども大きく
変化をしております。また、農業政策全体を見ましても大きく
変化をし、新たな施策が展開されてきており、このような状況を踏まえ、今回の改正に至ったものと認識しております。
すなわち、昨年十一月に農業競争力強化プログラムを新たに加えるなどの
農林水産業・
地域の活力創造プランが改訂され、その一環として収入保険制度の導入及び農業共済制度の見直しが位置付けられたのでありますけれども、今回の改正は、
法律の題名自体が変わるということに端的に表れておりますように、制度発足以来最大の改正となったと認識をしております。
このように、改正
内容が膨大かつ多岐にわたるため、ここでその全てにつきましてお話しすることは
発言時間の制約もあり難しいため、制度
実施者の立場からの
意見ということで述べさせていただきますことをあらかじめ御容赦をいただきたいと存じます。
最初に、今回新たに設けられます
農業経営収入保険事業、いわゆる収入保険についてであります。これにつきましては、今回の
法案の中で、私ども農業共済団体が
実施することとされております。過去三年間にわたり国から収入保険制度検討
調査事業を受託し
実施してきたという実績を重ねまして、かつ、収入保険の
実施主体として国から御提示されました中立的な立場で
事業を
実施することができることなどの四条件を充足し得る唯一の組織としての責任と自覚を持って、組織を挙げてこの収入保険の
実施の準備を進めようとしているところであります。
具体的には、収入保険の
実施主体として
法案に規定されました全国連合会を新たに立ち上げるなどの組織体制の整備や、保険に不可欠な電算処理システムの開発、また農家への
説明推進に必要なタブレットなど端末機材の整備などについて、
法案成立後、本格的に取り組んでまいることとなります。
しかしながら、
平成三十一年産からの
事業実施が予定されているわけでございますが、農家の加入申請はその前年、すなわち来年の秋から冬になるわけであります。それまでに万全の体制を整えておく必要があります。今申し上げたような組織、事務処理体制の整備、さらには、後ほど申し上げますが、農家への丁寧な
説明の
実施ということを考えますと、時間的に余裕があるとはとてもは言えない状況であります。
是非とも、本
法案につきまして早期に成立をいただき、政省令を始めといたしました制度の詳細を早く御決定をいただいた上で、今申し上げたような準備あるいは農家への
説明に取りかかれますよう、よろしく御
審議のほどお願いをいたしたいと存じます。
次に、今申し上げましたような農家、
農業者に対する丁寧な
説明ということについてでありますが、今回の収入保険の導入により、農家は、収入保険に新たに加入をするのか、あるいは従来どおり農業共済と米などのナラシ対策、あるいは野菜価格安定制度などに引き続き加入をするか、そういったものを自ら判断し、選択する形となっております。農家が自己の
経営に適した政策を選択できるということになるわけで、従来のように一つの政策が全ての農家に一律に適用されるという形とは異なります。その意味では、画期的な仕組みの
創設とも言えます。
もちろん、一方で、どちらに加入すればよいのか分からない、どう判断したらよいのか分からないといったような
農業者の声も数多くございます。このような声に対しましては丁寧に対応しなければなりません。そこで、先ほども少し触れましたけれども、各制度の比較が庭先で簡便にできるようなタブレット端末機材など
説明ツールの整備も必要ではありますが、何よりも、この推進を図る私ども農業共済組織の役職員の意識改革が極めて重要であり、その徹底を図ってまいりたいと考えているところであります。
それはどういうことかと申し上げますと、これまで私ども農業共済組織は、
災害対策の基幹的
セーフティーネットとして、言わば縁の下の力持ちとしての役割を担ってきたわけでありますけれども、今回の収入保険の導入により、これからはそこにとどまらず、農家の
経営の
発展をどのように支えていくのか、損害の補填だけではなく、農家が
経営改善を進める方向を選択する際に、その手助けをしていくということが求められることになります。
このような新たな業務を円滑かつ適切に進めるためには、これまで以上に農業の現場に入り、その実務に日頃から携わり、知識を蓄えつつ農家の
方々に対応していくということが必須であると考えております。また、JAや農業
委員会など他の農業団体や都道府県、市町村とのお付き合いについても、従来の
災害担当部局にとどまらず、農政一般の担当部局との連携も一層深くしてまいりたいと考えているところでございます。先生方には、これらの点につきまして、なお一層の御指導をお願い申し上げたいと存じます。
なお、今回、収入保険の
対象者は
青色申告者となります。
青色申告の普及については、JAなど
関係団体とともに、これを集中的に進めることとしております。また、あわせまして、職員の資質向上を図るため、全国で税務署の職員の方などを講師にお招きしての税務に関する研修も開催しているところでございます。
次に、農業共済制度の見直しについてであります。
今回の農業共済制度の見直しの中で私ども
実施主体として一番気掛かりなのは、やはり米、麦の当然加入制の廃止、あるいは、経過期間はございますが、一筆方式などが廃止されることであります。
米、麦におきまして高い引受率を維持してきましたのは、当然加入制であるということはもとより、圧倒的多数を占める一筆方式など、
地域の要望に応じた引受方式の提供あるいは損害防止
事業の
実施など、様々な工夫が講じられてきたということも大きな理由であります。
これらが今回廃止されるというようなことになるわけでございまして、今後の農家の加入率の低下が懸念されます。
実施団体といたしましては、これまで以上に加入推進に力を入れていかなければならないと考えております。そのためには、先ほどの繰り返しになりますが、私どもとしては、これまで以上に農業の現場に出かけ、実務に
関わり、農家との信頼のきずなを高めるとともに、備えあれば憂いなしという自助、すなわち自ら助けるということに対する農家の一層の理解を求めてまいりたいと考えております。
この点に関しましては、国におかれても、様々な農業政策を展開する際におきましては、このような自助の仕組みである農業共済あるいは収入保険への加入を前提とするという、いわゆるクロスコンプライアンスの考え方を採用していただきたいと強く希望するものであります。
農家が
経営改善を図るにしましても、
災害対策を含めたリスクヘッジについて一定の
措置を自分なりに講ずるというのは、
経営体としては当然の考え方でございます。この自助を前提とした上で、共に助ける共助、そして公が助ける公助があるんだと考えます。
このような考え方の下、全国の組織を挙げて、農家が無保険になることのないよう、農業共済あるいは収入保険への加入の維持推進に全力を尽くしてまいりたいと考えております。そもそも農業共済は、その
事業運営に農家自らが、全国で十四万人の損害評価員として、また、同じく十七万人の共済部長として積極的に関わっている組織であり、自分たちの組織としての意識を大事に農家の理解を得てまいりたいと考えております。
なお、家畜共済の見直しについて触れさせていただきます。
今回の家畜共済の見直しは、畜産・酪農農家の制度改善の要望が相当程度反映したものとなっておりますし、また、事務の効率化、合理化の点で大幅な改善が図られております。家畜の
異動の都度
農業者が申告する仕組みから、期首に年間の飼養
計画を申告し、期末に掛金を調整するなど簡素化をする、あるいは、共済事故一件ごとに国が再
保険金を支払う仕組みから、年間の共済金支払額が一定の水準を超えた場合に国が再
保険金を支払う方式に変更するなど、私どもが従来から要請してきた事項であり、高く評価しております。
最後になりますが、制度改正後のフォローアップについて申し上げたいと存じます。
今回の
法律改正は、冒頭申し上げましたとおり、収入保険の新たな
実施並びに農業共済制度の大変革となります。このような大きな制度改正の場合、過去におきましては、例えば果樹共済あるいは畑作物共済、園芸施設共済を新規に
実施する場合には、五年間の試験・試行期間を経た上で本格
実施へ移行してまいりましたが、今回はこのような試行期間は設けられておりません。現状の農業、農村の
変化の速さを見れば、過去のように試行期間を設けるというようなスピード感では対応が難しいということは理解できます。
ただし、このような全く新しい保険制度の
創設あるいは既存制度の大変革であれば、実際に施行した段階で初めて認識できるような課題も出てこざるを得ないのではないかと考えております。今回、
法律案では、当初の
法案では五年後、その後、衆議院段階で四年後となりましたが、見直しを行うことが明記されておりますけれども、実際に施行された段階でいろいろな課題が生じた場合、今回、政省令で定めるとされた範囲も拡大されていることでもあります、四年を待たずに臨機応変に弾力的あるいは柔軟な対応を取っていただきたいと要望をいたします。
農業共済制度、収入保険共に国が制度設計を行う公的な保険であります。その安定的かつ適切な
実施を担う私どもといたしまして、改めて、今申し上げましたような弾力的な対応も含め、国による適切な御指導と制度の企画運用をお願いしたいと存じます。
以上、本日は
農業共済事業並びに予定されております収入
保険事業の
実施者としての立場から
意見を申し述べさせていただきました。
御清聴ありがとうございました。