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岩井茂樹君
ODA調査派遣第三班について御報告いたします。
当班は、本年二月十六日から二月二十四日までの九日間、
カンボジア王国、
シンガポール共和国及び
ミャンマー連邦共和国に
派遣されました。
派遣議員は、三宅
伸吾議員、古賀之士議員、
竹谷とし子議員、
山添拓議員、そして
団長を務めました私、
岩井茂樹の五名でございます。
今回
訪問した三か国の現状は、これまでの歴史的歩みや地理的条件等の違いから大きく異なりますが、とりわけ後発開発途上国であるカンボジア及びミャンマーが
成長を持続していくためには、戦略的な
インフラ整備と
経済発展を担う
人材の
育成が極めて重要となります。
本日は、今回の
調査から得られた知見に基づき、
派遣団が考える
ODAに係る
課題につきまして、その
概要を御報告いたします。
まず、
インフラ整備をめぐる
課題について四点申し上げます。
第一に、質の高い
インフラ整備を行うメリットの周知の
必要性であります。
ODAによる
インフラ整備の際、
我が国は事前
調査を入念に行い、ライフサイクルコストを勘案した質の高い援助を行っておりますが、
訪問国からは、財政上の制約がある中で、当面は量的な拡充や
整備のスピードを優先したいという見解が示されました。
中長期的に見れば効率的かつ信頼性も高い
我が国の質の高い
インフラ整備のメリットについて、
相手国の理解を深めるべく丁寧に
説明することが必要です。また、スピードと質の両立ができるよう、
円借款等の使い勝手の
向上とともに、
相手国が真に必要としている
支援を十分把握し、柔軟に
対応する
姿勢が一層求められております。
第二に、官民パートナーシップ、PPPを活用した
民間企業等との
協力の推進であります。
ASEAN地域における膨大なインフラ需要に必要な
資金を賄うためには、
民間の
資金とノウハウの活用が不可欠です。カンボジアでは既に
空港、発電等の
分野でPPPによる
インフラ整備が行われていますが、公共事業運輸
大臣からは、
インフラ整備のためのPPPへの
日本企業の
投資が要望されました。
このように、ニーズに応えるためにも、
ODAを触媒として
民間投資を呼び込み、PPP活用の加速化が必要であります。その際、
相手国政府や
地元の
人々のニーズ等に十分配慮したきめ細やかな
取組を行うことにより、
相手国と
我が国のウイン・ウインの
関係を構築することが不可欠であると考えます。
第三に、
我が国の
技術の維持、継承であります。
今回
視察したプノンペンのプンプレック浄水場では、北九州市を
中心に長期にわたる
技術協力が行われております。漏水等のために水道料金を徴収できない割合である無収水率の大幅な低下と
水質改善を実現し、プノンペンの奇跡と呼ばれるこの事例は、地方公共団体による水ビジネス展開の
成功事例の一つとなっております。このような
継続的な
技術協力は、
我が国の
技術者が高い
技術やノウハウを発揮する機会にもつながり、橋梁やダムなどの既存
施設の
老朽化とその対策等が問題となっている
分野においても、
技術の維持、継承の上で有効な
取組であります。
第四に、更なる
道路整備の
必要性についてであります。
カンボジアの
首都プノンペン、ミャンマー最大の
都市ヤンゴンでは、慢性的な交通渋滞が発生し、円滑な物流等を大きく阻害しており、
両国が
経済発展を図る上で更なる
道路整備が喫緊の
課題であることを強く認識しました。
なお、二〇一六年十一月に本格稼働した電子通関システム、MACCSをミャンマーにおいて
視察しましたが、国境を越える物流の円滑化の上で通関手続の効率化、簡素化は不可欠であり、通関に係るシステムの導入とその運用のための
人材育成も必要であることを申し添えたいと思います。
次に、
人材育成をめぐる
課題について三点申し上げます。
第一に、
産業人材育成における
現地ニーズの把握の
必要性であります。
経済発展著しいカンボジア及びミャンマーでは
産業人材の
育成が急務であることから、
両国において
日本人材開発センター、
日本センターを
視察いたしました。
日本センターは、ビジネス
人材育成と
日本との人脈形成の
拠点として設置されたものであり、各国において重要な
役割を果たしています。しかし、
日本センターと他のビジネススクールとの差別化には
課題もあり、今後、
日本センターが財政面、運営面で自立を図り、
活動を
継続していくためには、
日本型経営を学ぶことのメリット等を周知するとともに、
現地の経営者等のニーズをより丁寧にくみ上げることが求められます。
なお、
産業人材の
育成に関して、ミャンマーにおいて、一般財団法人海外
産業人材育成協会、HIDA
関係者との
意見交換も行いました。HIDAが実施している
日本国内研修は、
日本への理解を深める上で
意義のある
取組ですが、
研修生が
帰国した後も
日本との
関係が途切れることのないよう、
研修生による同窓会等を活用した更なる
取組を
継続して行うことが必要であります。
第二に、
教育に対する長期的な
支援の
必要性であります。
教育は、国の根幹や将来像に大きな
影響を及ぼす重要なものでありますが、内戦等の
影響により
教育システムが崩壊したカンボジア、暗記
中心型の
教育が続けられているミャンマー共に、
教育を量、質共に抜本的に改善することが急務となっております。
カンボジアでは、草の根・人間の安全保障
無償資金協力による比較的少額の
支援で校舎の新設等が行われたケオポア中学校を
視察いたしました。ケオポア中学校では、二部制
授業が解消されるなど
教育環境が大幅に改善しており、この
無償資金協力による校舎
建設は、
人材育成の有効な
支援策の一つであると認識しました。
ミャンマーでは、初等
教育の改善に向けた
支援の
状況をヤンゴンの基礎
教育研究開発センターにおいて
視察しました。
我が国の
支援は、教科書やカリキュラムの改訂にとどまらず、学習
評価や教員養成の改善等を含めた包括的なものであります。従来ミャンマーでは、児童生徒が自ら考えて
課題に対処する指導が行われていなかったことから、指導、
評価を行う教員の
研修、
意識改革も極めて重要であり、息の長い
取組が求められます。
第三に、シンガポールと
我が国が
協力して
技術協力を行う二十一世紀のための
日本・シンガポール・パートナーシップ・プログラム、JSPP21における
アフリカ支援の更なる
強化についてであります。
シンガポールは一九九二年から開発途上国に対して
技術協力を実施しておりますが、
同国は
技術協力以外の
支援を行っておらず、まさに
人材育成を
支援の
中心に据えております。
外務副次官からは、JSPP21はASEAN地域における
日本の
存在感を高めるものであるとの見解が示されるとともに、シンガポールがJSPP21を実施するメリットとしては、
日本の専門性と地理的優位性を享受できる点が挙げられました。
JSPP21の更なる展開に当たっては、シンガポールにとって足掛かりの少ない
アフリカにおける
取組を一層
強化することにより、
日本、シンガポール
両国が互いに
役割を補完し、JSPP21が両者にとってより有
意義なものとなると考えます。
最後に、
インフラ整備、
人材育成以外の
課題について三点申し上げます。
第一に、幅広い視野を持った法
制度全体の
整備の
必要性であります。
開発途上国が自立的
発展を遂げ、公正かつ安定的な社会運営を行うためには、その基盤となる法
制度の構築が不可欠であることから、今回の
調査では、ミャンマーの
首都ネーピードーにおいて、法
整備も含め様々な
分野で政策形成に携わる
JICA専門家との
意見交換を行いました。
法
整備に係る
我が国の
支援は、
相手国の主体性を尊重したきめ細やかなものであると高く
評価できる一方、広く全体を見通したプラットフォームの構築に至るような
制度全体の構築は苦手であるようにも見受けられます。個別の法律の制定
支援にとどまらず、他の
制度も含めた広い視野を持つとともに、法
整備後の運用面まで含めた
支援の
強化が求められます。
第二に、NGOを始めとする多様な主体の更なる連携
協力の推進であります。
開発途上国の
支援において、
現地に深く根差して
継続的な
活動を行っているNGOの
役割は非常に大きいものがあります。ミャンマーにおいて
我が国のNGO
関係者との
意見交換を行った際、より
効果的な開発途上国
支援を行うためには、
支援に関わる多様な主体が有する知識や人脈等の共有に向け、相互の連携を深めることの
重要性が指摘されました。
既に一定の連携
協力は行われておりますが、
JICAの
現地事務所を核として、より戦略的なネットワーク形成と相互の信頼
関係の醸成が必要であると考えます。
第三に、介護に係る
ODA実施の
可能性であります。
今回の
調査では、ミャンマーにおいて、国立で唯一の高齢者向けデイケアセンター及び同センターと連携して介護
人材の
育成と
日本語
教育を実施しているポールスター介護サービス社を
視察いたしました。これは、
我が国を始めとするアジア地域において人口減少社会が進展する中、
我が国が高い知見を有する介護
分野は、将来的には
ODA案件となる
可能性があることから、
現地ニーズの把握に向け
調査を行ったものであります。
ミャンマーでは、これまで介護は家族によって担われてきましたが、高齢者の増加や核家族化の進展に伴い、
我が国同様、介護サービスの提供や公的な介護
制度の導入が必要となる
可能性があります。現時点では、ミャンマーにおける介護サービスの提供は緒に就いたばかりであり、
人材育成を始め、
我が国の
支援が必要となる余地は大きいものがあると感じました。その反面、介護は
民間企業が率先して取り組んでいる
分野であることから、今後介護
分野で
ODA支援を行う場合は、
民間企業との
役割分担を十分考慮に入れることが必要であります。
以上が、第三班が今回の
調査を通じて認識した
課題であります。
我が国の
ODAはこれまで大きな成果を上げておりますが、より一層戦略性を持ち、
相手国と
我が国双方の国益にかなう未来への
投資となるよう、その
在り方について改善を続けていくことが必要であります。
終わりに、今回の
調査に当たり、
関係者の皆様には多大な御
協力をいただきました。改めて深く
感謝の意を表し、私からの報告を終わります。
以上でございます。