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参考人(
野村一路君) 本日は、
国民生活・
経済に関する
調査会に、スポーツを通じた
社会参加ということで、スポーツを取り上げていただいたことに非常に感謝を申し上げます。
どうしても、これまでスポーツというものの
価値というものが
国民の間でやはりそれほど重きを置かれていなかったというようなことがあったわけですけれども、二〇二〇のこともあり、スポーツというものが非常に重要なものであるという認識が広まっていくということに対して感謝を申し上げる次第です。(
資料映写)
本日は、障害者スポーツやアダプテッドスポーツの
現状と
課題というテーマでお話をいたしますので、最初に、障害者スポーツというものはどういうふうに考えるのか、アダプテッドスポーツをどういうふうに考えるのかという、少し言葉の共通理解をするために簡単に御説明を申し上げたいのですが、まず、障害者スポーツというものをどう考えるかということなんですが、一般の方々は、障害者スポーツといえば、ああ、ああいう、あの、ほら、車椅子を使ってバスケットボールをやっているとか、テレビに出てくるボッチャだとかというふうに、そういうものが障害者スポーツだというふうに認識をされておられる方が多いわけです。しかしながら、障害者スポーツというある特定の領域あるいはカテゴリー、そういったものはないというのが私の
立場でございます。
というのは、じゃ、高齢者スポーツあるいは女性スポーツといって何がしかの方々を特定のスポーツに当てはめるということはあり得ないわけで、全ての方が全てのスポーツができるというのが、これがスポーツの本質でありますので、障害者スポーツというのは、障害のある方がスポーツをするというのではなくて、スポーツをする方々の中に何らかの障害のある方々がいらっしゃるというふうに考えるというのが大前提だろうというふうに考えております。この辺の問題は後で
格差という問題にもつながってくる問題ですので、後ほどまた御説明をしたいと思います。
そして、アダプテッドスポーツということに関しましてはどう考えるかということなのですけれども、アダプテッドスポーツというのは、簡単に申しますと、障害のある方だけの問題ではなくて、幼児から高齢者、あるいは体力の低い方々、それぞれの方に合ったスポーツ活動をどのように提供するかということを考えるという
考え方でございます。ですので、カバーする範囲としては、障害者スポーツというよりもアダプテッドスポーツの方が領域としては広いという
考え方で、こちらに基づいて、何らかの障害のある方にどのようにスポーツを提供し、そしてスポーツを通じて
社会参加をするかということを考えていくというふうにお考えいただければよろしいかというふうに思います。
次のページですけれども、何らかの障害のある人のスポーツを通じた
社会参加を考える背景といたしましては、これはもうよく
委員の
皆様御存じのように、何らかの障害のある方が、昨年度の白書の統計の推計値ですけれども八百六十万人と、もう無視ができない、マイノリティーではないという、そういう数になってきております。
この数は、今後ますます増えるという
要因はあれど、減るという
要因は少ないわけで、そうなりますと、ますますこの方々がどのように
社会に参加をしていくかということは非常に重要であるということが
前提条件としてありますし、さらには、自立した生活を求めるならば、その方々に運動、体を動かすということを通じて、より健康な文化的な生活を営むということをどのような仕組みでサポートしていくかということは非常に重要だということになろうかと思います。
続きまして、
現状なんですけれども、これはスポーツ実施率で見ますと明らかなのですが、何らかの障害のある方の週一回以上のスポーツ実施率というのは一九・二%という数字が出ております。障害のない方の四二・五%に比べて明らかに低い、週三回以上になっても明らかに低いということで、実施率が低いということで、違いがもう歴然としているということがございます。
このような
状況をつくり出す
要因というものはたくさんあるのですけれども、本日は時間の関係で
幾つかのトピックスに限ってお話をさせていただきたいと思うんですけれども、やはりスポーツを実施するかどうかということを考える上で非常に重要なのは、幼少時期に運動やスポーツ活動を
日常の生活でしっかりとやっていくかどうかというところが非常に大きな
要因になっております。特に、脳の発達
段階、幼児期から小学校高学年まで、この時期に運動やスポーツを好むという
状況にするかしないかがその後の運動、スポーツへの参加ということに大きな影響を与えているということがございます。そうなりますと、何らかの障害のある幼児児童にとりまして、
一つは特別
支援学校での体育あるいはスポーツの
状況というのは非常に重要な要素を占めております。
そこで、
調査の結果を見ますと、今の
現状の特別
支援教育を必要とする幼児児童生徒
たちは、いわゆる一般校、一般級に通学、通級する
割合が増えているのですけれども、それの結果としまして、特別
支援学校は非常に重度化しております。重度化をしているわけですから非常に一人一人の個別対応が必要になっているわけですが、残念ながら、教員の中で保健体育の免許保持者の
割合が非常に少ないということ、かつ保健体育の教員免許を持っている中で特別
支援学校の教員の免許の持っている
割合が半数と非常に少ないということ、よって、体育の授業がきっちりと行われていないという
現状がございます。それから、課外活動としての部活動も十分に行われていないという、そういう
現状がございます。つまり、原体験として運動やスポーツに接する
機会が制限されているというところから、長じて運動やスポーツに接するということが少なくなっているということがやはり問題として挙げられるというふうに考えております。
次のページでございますが、それではなぜ特別
支援学校で体育やスポーツ活動がそのようにきちっとできないのかということなんですけれども、まず
制度的な問題からいいますと、保健体育科の教員免許を取得するカリキュラムの中に障害のある幼児児童生徒に対する指導科目が必修化されておりません。よって、保健体育の免許は持っていても、何らかの障害のある
子供たちに対して適切な指導ができる教員が少ないということがあります。特に小学校、小学部というふうに特別
支援学校では申しますけれども、小学部では体育の専科教員が配置がされておりませんので、小学校の体育の授業というものが十分に行われていないという問題がございます。
当然、特別
支援学校分校、分級では小規模校が多いので、集団でスポーツを行う、あるいは体育の授業を行うということができないということも
一つの
要因になっていて、
社会参加、つまり多くの人と関わるという経験自体も少ないというようなことも挙げられております。また、通学バスというようなものを利用する学校が多いわけですので、どうしても部活動というものができにくいという
状況がございます。
それぞれいろいろ事情はあるのですけれども、原体験として、こうした
教育の場でも十分な運動やスポーツ体験がされていないというようなことがございます。
一方、
地域における障害のある人のスポーツ参加の
状況を見ることが大事だと思っております。つまり、学校卒業後、卒後の運動、スポーツの体制を整えるということは非常に重要な
課題なわけですけれども、その受皿となるものがどのように準備されているかということを見ますと、
一つトピックスで今日挙げましたのは、障がい者スポーツ協会というものが全国都道府県、指定都市に置かれるということが望まれるわけですけれども、残念ながら、今、中核市において、まだこの障がい者スポーツ協会というような体制が整っておりません。あるいは、障害のある方々が使うことができる占有のスポーツ施設が未設置の都道府県、政令市、あるいは市区町村が非常に多く、共有施設であってもなかなか利用できないという、こういった
現状があります。つまり、学校の卒後、極端にスポーツの実施率が下がるというような
現状がございます。
さて、次のページに参りますが、何らかの障害のある方々がスポーツ・レクリエーション活動を実施する主な目的というものの結果をグラフで示しましたが、健康の維持・増進、あるいは気分転換・ストレス
解消といった、これはスポーツに共通する個人の健康を維持するといったようなところは同じ傾向なのですけれども、御注目いただきたいのは下から二番目、その他の上ですけれども、健常者との交流というのが〇・八%と極めて低くなっております。
スポーツを通じた
社会参加ということを考えるならば、スポーツを通じて障害あるなしにかかわらず
地域におけるあらゆる人との関わりというものを持つ必要があるにもかかわらず、残念ながら、こうしたスポーツを通じて障害のない方との交流というのが極めて低いという、こういう結果を見ますと、やはりスポーツを通じた
社会参加というものが十分にできていないという
現状を示す
一つのデータであろうかと思います。
あるいは、右側にありますこの活動を行う相手を見ていただきたいのですけれども、一人でやるというのが最も多く、その次に家族でやるという、極めて限られた人、あるいは仲間とやるというのではなくて一人でやるというのが多いというのが
現状としてございます。友人というのが第三位に上がっておりますけれども、ここは少し分析を必要としますが、同じような障害種別あるいは障害の
程度、こうした方々は仲間としてクラブをつくったりということは可能なのですけれども、この仲間というのがどうもそういうところが多いということが推測されます。
そして、一番注目をしなければならないのは、この項目の中に、
地域のスポーツの愛好者、つまり
地域で何らかのスポーツを行っている方々と一緒にやるという、そういう相手という項目自体が立てられていない。つまり、そういう事例が少ないということになります。よって、スポーツを通じた
社会参加というのは非常に重要だという認識は、これはどなたが考えてもそうなのですが、実態としてはそれができていないということが言えます。
もう
一つ、それを示すグラフを御覧いただきたいと思います。障害のある方々にとってスポーツ・レクリエーション活動を実施するためのバリア、障壁があるかといいますと、一番下に特にないというのが三〇%があるのですが、では、七割はやはりあるというふうに感じているわけです。
その障壁の一番トップが体力がない、特に病弱な方あるいは重度重複障害のある方にとっては、この体力がないということは答えとして出てくるということはあり得ることなのですが、ですから、なお一層、自立して
社会人として
社会に参加をしていくためには体力を付けなければいけないわけですので、その方に応じた運動指導、そういうものがされるべきだというふうに逆に言えるわけです。
さらに、金銭的な余裕がないというのが第二位に挙がっております。特に、何らかの障害のある方にとって器具、用具、そうした配慮がされることはこれは必要なわけですけれども、例えば車椅子ユーザーに関していえば、
日常の生活用の車椅子は補助がありますけれども、競技用の車椅子となりますとこれ自己
負担になります。四十万から六十万ぐらい最低でもいたしますので、こうしたものが準備できるかということになりますと、こうしたものが準備できないがためにスポーツ活動に参加できないという面がございますし、遠隔地に行かなければ同じような仲間が得られないというようなことで、
経済的な余裕がないためにスポーツ活動に参加できないというようなことが挙げられるのではないかと思います。
中間にいろいろな項目が挙げられておりますが、やはり、そうした自分自身がやりたいと思うものがない、あるいはその障害に適したスポーツ・レクリエーション活動がないといったような、こういう回答が出てくることは、原体験としてそうした活動に参加したことがないがためにこうした回答が出てくるという要素。それから、人の目が気になるとか、一緒に活動している人の迷惑じゃないかと考えるといったような、こうした心のバリアフリーというものが進んでいないという側面がやはり
要因として挙げられると思います。
このようなことを考えますと、やはり
現状として、障害のある方でパラリンピックに出るようなトップアスリートは、これは少し別の
考え方をしなければならないのですが、圧倒的多数を占める重度な障害のある方あるいは重複障害のある方、そしてこうしたスポーツに接したことがない方が多数を占めている中で、こうした方々のスポーツを通じた
社会参加を考えるということは非常に重要な
課題であるというふうに考えております。
最後のまとめとしてポイントを挙げておきたいと思っております。
これまでの歴史的な経緯を考えましても、スポーツを通じて障害がある方が
社会参加をする場合のバリアとなるものを考えるときに、やはり身体障害のある方が先んじてスポーツを通じてというふうになってまいりましたが、なかなか、知的障害あるいは精神障害、発達障害も入りましたので大分
研究も進んでおりますが、身体障害に比べますと、この障害種間の
格差というものは、やはりこれは
現実にあろうかと思います。
あるいは、障害の
程度、軽度であれば自分でスポーツの場に行くということができるわけですけれども、重度、最重度となりますと様々なサポートが必要になって
支援も必要になってまいりますが、そこが
制度的に不十分であるがためにスポーツに参加できないというような、そういった障害のレベル間の
格差というものがあろうかと思います。
あるいは、生活
状況による
経済的な
格差として、やはり就労ができるかできないかということによっても変わります。在宅であるか、施設入所であるかによっても、施設入所であれば施設長の判断によって大きくスポーツ活動ができるかできないかということが左右されますので、就労施設の施設長もそうなんですけれども、そうした認識あるいは理解が得られるかどうかということによっても大きく変わってまいります。
また、同じ障害種の中でも、どうしても障害のレベルが同じ人同士でやろうとする傾向があります。というのは、その方がやりやすいからです。異なった障害種が一緒になってやるとなると、やはりそれなりに難しさが出てまいりますが、
地域を見ますと、同じ障害種、同じ障害の
程度の
人たちが集まってスポーツ活動をやるということは、やはり
地域の住民を見ますと、それは簡単なことではありません。様々な人が
地域の住民を構成しているわけですので、様々な
人たちが一緒にやるという、そういった仕組みづくりがなかなか浸透していないというのが
現状でございます。
また、
地域による
格差というのもございます。先ほども申しましたように、
制度的にあるいはハード的にスポーツ施設が障害のある方も十分に使えるかどうかというような、そういうスポーツセンターの有無、あるいはこうしたハード面のみならず、
情報あるいは人、特に指導をする人の有無といったような、そういったものの
地域による
格差というものも非常に大きな
要因として挙げられます。
障害者基本法では、第二条の定義に、
社会的な障壁があるということを明記されたのが直近の改正でありました。この中で、事物、
制度、慣行、そして最後に観念というものが述べられております。つまり、
人々の物の
考え方、これが心のバリアフリーなのですが、やはり今パラリンピックというものが非常に注目を集めておりますが、これは非常に特別なそうしたトレーニングを積んだ
人たちが参加できるものであって、圧倒的多数な、そうした大会に参加できない
人たち、あるいは参加しようとしない
人たち、そういう
人たちをしっかりと、スポーツを通じて
社会参加をするということになった場合、こうした風習あるいは慣行というものも大きな
要因ですが、特に
人々の意識、
価値、そうしたもの、観念ですね、これをどのようにこれから変えていくかということが、これからの障害のある方のスポーツを通じた
社会参加ということを考える上では重要な要素であるというふうに考える次第であります。今回、このことを材料にして、また
質疑の中でこの話題を深めていただければというふうに思います。
発表は以上でございます。ありがとうございました。