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参考人(
袴田茂樹君) 新潟県立大学の
袴田でございます。こういう場で私見を述べる
機会をいただいたことをうれしく思っております。
時間の
関係で、レジュメに従いまして私の
意見を述べさせていただきます。
まず、
北方領土問題の本質をどう
理解するかということでありますが、もちろんこれは元
島民の人道・人権問題でもあります。
平均年齢がもう八十何歳。それから、
漁業、資源、観光など、我が国全体の経済問題でもあります。それから、
長谷川さんがいらっしゃいますが、
根室を
中心とした北海道の
地域経済の問題でもあります。しかし、本質的な問題は、国家主権の侵害にいかに対応するかという、これがもう基礎の基礎だと。
日本人は
余りにもこういう主権問題というものに関しまして我々は鈍感だという、そういう危機意識を私は持っています。
二番目、
北方領土問題の原理原則の問題と、それから
平和条約交渉の基本方針をきちんと区別して
理解する必要があると、私は
外務省の人、
政府関係の人にも言っております。原理原則の問題というのは、歴史的にも
国際法的にも
北方四島は
日本の固有の
領土である。
平和条約交渉の基本方針というのは、これは常に首相や外相などが
日本の基本的な立場として述べている東京
宣言の言葉でありますが、四島の帰属問題を
解決して
平和条約を
締結するということであります。この区別が必ずしも
外務省関係者も十分
理解していられない方もいて、「われらの
北方領土」の前文、一六年版でもやはりこの辺が十分明確になっていないのを残念に思います。時間があったら補足の説明します。
それから、安倍首相の従来の発想にとらわれない新しい
アプローチ、この私は論理的問題点を指摘したいと思います。
プーチン大統領の
北方領土問題に対する姿勢は、私は、近年、強硬姿勢を強めているというふうに見ております。以前は
領土問題の存在を認めておりました。別の言葉で言えば、イルクーツク
宣言や、二〇〇一年、
日ロ行動計画、二〇〇三年の、東京
宣言の重要性を彼は署名して認めていたわけですが、しかし、二〇〇五年九月に、南クリルは第二次大戦の結果
ロシア領になったと、
文書でも認められていると、そういう言い方をするようになって、その後、この立場を変えていません。今、
下斗米先生がおっしゃった国際的な
文書でということは、私は、この立場を
日本も含め、アメリカも含めて国際的に認めさせたいと、その意図が私は出ているんだと思っております。
それから、安倍首相の新
アプローチの
ロシア側の
理解は、
領土問題は棚上げにして経済協力を推進するという、こういう
理解に、いろんな人と会っていますが、そういう
理解になっています。
先ほど脇さんがおっしゃいましたけれ
ども、これ経済
関係だけが進んでもらっちゃ困ると、こうおっしゃいましたけれ
ども、
ロシア側の
理解はそうです。
ロシア側の判断からしますと、論理的に考えると、
日本がこういう形で譲歩したわけですから、
ロシアのこれまで態度を強硬化したその対日姿勢は正しかったということにならざるを得ない、更に譲歩を得るためには一層これまでの方針を貫けばいいということに論理的になるのではないか。これは
皆さんに私が伺いたいことなんですね。
それから、六月一日の
大統領のサンクトでの記者会見の問題点なんですが、北朝鮮に対する日米韓の核、ミサイルに対する対応を、何と
プーチン大統領は、イランを口実にしたヨーロッパにおけるミサイルディフェンスシステムの配備と全く同じで、北朝鮮問題は単なる口実にすぎないと。だから、我々がどれだけ北朝鮮の核・ミサイル問題をといいますか、大きな脅威、喫緊の脅威として真剣に考えているかということを
プーチン大統領は全く無視するような
発言をしていることを私は驚きました。
それから、これは結局
世界が、
ロシアの周りの
世界がミサイルディフェンス網で
ロシアを取り巻いているという、そういう被害者意識。これは最近、アレクサンドル三世の言葉がよく想起されるんですが、ラブロフ外相も、昨年六月、その言葉をほぼ同じように繰り返しましたが、信用できるのは軍事力だけである、同盟国でも裏切るという、そういう言葉がよく想起されます。
もう一つは、日米安保条約ゆえに二島
返還も事実上困難であると、米軍基地の進出等の問題を取り上げながらそういう
発言をしたこと、これは
日本に強い失望感を与えました。
我が国の
ロシア認識と対ロ政策の問題点ですが、私は、首相官邸、それから経済省庁、
政治家、国際問題の専門家、メディアの多くの
方々に、もちろんいろいろ例外はありますが、やはり楽天的な甘い幻想があると見ております。
プーチン大統領の引き分けとかお互いの譲歩とか
平和条約締結は重要などの甘言に、甘い言葉に、ついついそれに飛び付いて幻想を持ってしまっているのではないかと。私自身は、
プーチン大統領だけではなくて、指導部や国民の発想法、心理、そういったものをリアルに
理解して対ロ対応、対ロ政策を
日本は考える必要があると思っております。
それから、
日本として、じゃ、いかにすべきかという問題ですが、民間企業が自らのリスクで
ロシアに進出するというのは、一般論としては、つまり対ロ政策など特別なそういうあれが
関係ないときには私は大いにやって結構だと思うんです。しかし、
政府が国民の税金を使って、つまり
政府が融資、投資あるいは企業
支援、リスクカバー、進出のリスクのカバーをする、これは国民の税金を使うわけですから、税金を使う以上、私は経済協力と
平和条約交渉はバランスを取って進展させるべきだと思っております。
共同経済活動について一言言います。
日本と
ロシアは、残念ながら立場が根本的に違う。
ロシアは、あくまで四島における
共同経済活動ですから、
ロシアの法の下でという立場を譲っておりません。
日本は特別の制度の下でというので合意したと言っていますが、
ロシア側はそれを認めていない。共同のプレス声明でもここは玉虫色で、それぞれ勝手な解釈ができるようになっております。そういう意味で、私はこの
共同経済活動、本来であれば大いに進んでほしいとは思うんですけれ
ども、現実的には極めて難しいと思っております。
以上です。