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指宿参考人 成城大学の
指宿です。
私は、専門が刑事訴訟法ですので、手続法の観点から
意見を申し述べさせていただきます。
カラー刷りの本日の陳述の
レジュメと、
資料を三種類、
資料一、二、三を用意しております。陳述はこのカラーの
レジュメに沿って申し述べさせていただきます。
最初に、一枚目の下に写真が張りつけてありますが、左側の二枚は
監視カメラです。よく御存じのものですけれども、これは大阪市西成区、いわゆるあいりん地区に警察が設置している
監視カメラでございます。これは警察官がカメラを操作することによって利用されています。真ん中の二枚ですが、上がGPSの発信装置で、これが最近話題になりました、車両等に取りつけてその移動履歴を警察が把握していたという装置でございます。下のものは、先ほど
加藤参考人が触れられましたけれども、大分県で発見された
監視カメラと同種のものであります。これはかなり、人の手をかりないでも機械が移動であるとかその出入りを録画する、そういう装置です。さらに右側のもの、これはそうした機器の設置すら不要の最新のテクノロジーでございます。
きょうは、こういった技術の進化に伴ってどういう
捜査手法が使われているかということも
お話ししたいと思います。
めくっていただきまして、さまざまな
捜査手法が今後もし
テロ等準備罪の
捜査を進めるとすれば
導入されるのではないかと予想されますところ、非常にたくさんございますので、きょうは、供述を取得するための取り調べと組織等に潜入する秘匿
捜査、そして人々の行動を
監視する
捜査手法について
意見を申し述べたいと思います。
まず最初に、取り調べですけれども、その下、これは、
世界各国の被疑者の取り調べの録音、録画をめぐる範囲を一覧できるように私が開発した可視化の概念マップと言われるものです。縦軸のY軸は、一回の取り調べでどの程度録音、録画することが
義務づけられるかということを示しております。右側のX軸は、どれぐらいの
対象犯罪が録音、録画の対象になっているかということです。
今般の刑事訴訟法の改正におきまして、
我が国では、記録対象を裁判員裁判対象事案と検察独自
捜査事件に絞っているところですけれども、この場合、Y軸は、全ての取り調べを録音、録画するとしても、
対象犯罪は非常に限定されております。私の計算では
我が国で行われる取り調べの〇・二%程度ではないかと思いますが、非常に、もうほとんどゼロに近いX軸の値になると思いますので、左上になります。可視化先進国と言われているイギリス等では右上に位置するのではないかと思います。
言うまでもありませんけれども、
テロ等準備罪の政府側が出された
対象犯罪はほとんどが可視化の対象になっていない、現状ではそうなっておると思います。
では、取り調べを適正化するには、こうした可視化の範囲を広げることは言うまでもありませんけれども、可視化先進国であるイギリスにおきまして、多様な取り調べの規制が行われてまいりました。
三ページ目の上段ですけれども、その
法律、PACEといいます。私はPACE効果と呼んでいるんですが、なぜイギリスで取り調べの規制が成功したかといいますと、録音、録画だけではございません、弁護人による取り調べの立ち会い、要支援被疑者への支援者の付き添いといったものが相まって取り調べの適正化が成功したと言われています。
では、取り調べの規制を成功させるには、さらにどういうことが必要かということを考えてまいりたいと思いますが、下の段に参りますけれども、オーストラリアの警察の法の専門家であるデービッド・ディクソン教授は取り調べを適正化するために五つの提案をなされていますが、本日は四番目に掲げています取り調べ官の訓練というところに着目してみたいと思います。
取り調べの録音、録画が進みますと、その媒体に記録されている取り調べ官の尋問技術の巧拙、うまい、下手が如実に記録されることになります。そこで、
世界各国では、取り調べ官の訓練、いわゆる取り調べ技法の開発が非常に進んでおるところです。
私は、イギリスの取り調べ技術訓練所という専門的な訓練所の視察に参りましたけれども、イギリスでは、取り調べの技法に応じて一級から五級まで階級が設けられておりまして、
テロ犯や連続殺人犯の取り調べはこの五級を獲得した者だけができることになっております。また、アメリカでも、
テロ犯等の取り調べについては専門的なチームが当たっているところですが、
我が国ではこのような技術が開発されているのか、私は存じ上げません。
では、続いて、ページをめくっていただきまして、二番目、秘匿
捜査について御紹介いたしたいと思います。
イギリスの例でございますが、イギリスでは二〇〇〇年に警察
捜査規制法という
法律ができまして、ここで行動
監視や身分秘匿
捜査について明確な根拠
規定が設けられました。さらに二〇〇五年には、そうした身分秘匿
捜査、つまり潜入
捜査官を、身分を秘匿したまま公判手続で匿名証人として証言させることを許容する
法律が生まれました。
ところが、二〇〇八年、当時の最高裁、現在の最高裁ですが、貴族院デービス
事件判決という判決の中で、この匿名証人手続について、これが欧州
人権規約に抵触するという驚くべき判断を示したわけです。
その三日後に、イギリス議会は緊急
立法をしました。というのは、そのデービス判決の時点で三百八十人の匿名証人が公判待機しておりまして、そのうちの十分の一が匿名
捜査官であった。つまり、この
法律が無効になってしまうと彼らの身分がばれてしまうということで、非常に危険が及ぶということで緊急
立法したわけです。それで、匿名証人を許容する手続が新たにつくり直されました。
しかしながら、その後、この潜入
捜査官によって起こされた非常に恐るべき
民主主義の破壊例が発覚したのが、二〇一一年のケネディ
事件と言われるものです。
これは、民間の環境NGOに七年間おとり
捜査官が潜入し、違法
活動を誘発していた、
犯罪行為を誘発していたというスキャンダルでございます。この七年間にわたって、イギリスの警察は何と、二十万ポンド、当時の金額にして三億円以上をこの秘匿
捜査に費やしていたと言われております。
二〇一三年にイギリスの下院の内務
委員会はこの調査報告書を出して、現在の潜入
捜査に関する手続では不十分であるので、
立法するように
勧告しているところでございます。
三番目に進みたいと思います。
捜査手法の
監視です。
こちらにつきましては、
資料の二に詳細な私の考えあるいは知見を述べておりますので、こちらを御参照いただきたいと思います。
まず、今般、三月十五日に最高裁判所の大法廷で判決が出たところでございますが、車両のGPS利用の追尾やあるいは人に対する長期間の
監視撮影など、テクノロジーを利用した
捜査手法が各国でも行われています。しかし、重要なことは、こうした
捜査手法について法的な規制がきちっと整備されているところでございます。
例えば、カナダでは、テレビカメラあるいは他の同種の電子機器の手段によってプライバシーに対する合理的期待を有しているような
状況で
監視をする場合の令状が定められております。アメリカの
ニューヨーク州でも、盗聴やビデオ
監視令状が
規定されているところでございます。オーストラリアのニューサウスウェールズ州でも、
監視装置規制法というもので、
一般的に承諾のない利用が禁止され、こうした利用についてはオンブズマンが監督するということになっております。
各国、事前規制や事後規制、あるいは令状の有無についてはまちまちでございますけれども、
立法府によってきちっとこうした
監視捜査に対する規制がなされているということを強調しておきたいと思います。
では、こうした
監視捜査の先にあるのは一体何なのかということでございますけれども、これが先ほど申し上げました、今日では設置等の手間すら不要な最新のテクノロジーが用意されているところです。
きょう御紹介するのは、ISMIキャッチャー、私は偽装携帯基地局と訳しておりますけれども、
先生方がお持ちのスマートフォンや携帯電話にはSIMカードが入っておりますが、このSIMカードには全て固有の番号が付されております。これが、インターネット・サブスクライバー・モバイル・アイデンティフィケーション、略称ISMIです。
このISMIを全く自動的に取得する装置がございます。これがISMIキャッチャーです。一定エリアで稼働する移動通信端末を通信事業者の協力なくキャッチできますので、令状を持って通信キャリアのところへ行く必要がございません。例えばこの部屋にこのISMIキャッチャーを置けば、
先生方あるいはここにおられる全ての方の携帯電話を把握することができる、そういう機械でございます。
これは、
もともと軍事技術として開発され、諜報機関や
法執行機関によって広く利用されるようになりました。一番有名なのが、冒頭、写真を添付いたしましたアメリカのハリス社によるスティングレーというマシンでございます。これにつきましては
資料三に詳しく紹介してございます。アメリカではこれが非常に問題になりまして、
法執行機関の利用について問題になりまして、現在、各州で
立法による規制が始まっているところでございます。
では、最後のページをおめくりください。
今般の最高裁判所の大法廷、三月十五日の判決が何を
意味しているのか、最後に申し述べたいと思います。
三月十五日の判決は、憲法三十
五条が保障する住居、所持品、書類の法的保護に加えまして、それらに準じて
国民をプライバシー権で守るべき新たな私的領域というカテゴリーを承認しています。そして、今回争点になりましたGPS
捜査のような長期にわたって人の行動を追跡し記録するテクノロジーを利用した
捜査手法によって私的領域が侵されるということを明らかにし、そうした
捜査手法を
立法によって規律することを
国会に求めたのでございます。
すなわち、最高裁判所の大法廷判決の最も重要な示唆というのは、任意
捜査の名の
もとにこれまで
我が国で繰り広げられてきたさまざまな
監視型
捜査に対して、
立法義務を
国会に明示している点ではないでしょうか。諸外国ではそうした
捜査手法につきまして法的規律を進めているのは申し述べたとおりでございます。
GPS
捜査や
監視捜査の
実態解明をまず行った上で、どのような規制手法が妥当なのかを
国会の場において御
審議いただきたいと思います。
最後になりますけれども、
我が国でこれまでもう既に
テロ犯罪、
テロ行為が行われてまいりました。どうしてそうした
テロ行為、
テロ犯罪を防ぐことができなかったのか、そういった国を挙げての御
議論あるいは研究調査というものを私は目にしたことがございません。
そうした過去起きた
事件に対して、どうして未然に防ぐことができなかったのか、また犯人を突きとめることができなかったのか、例えば、地下鉄サリン
事件をなぜとめることができなかったのか、なぜ赤報隊と言われる人たちを逮捕できなかったのか、なぜ警察庁長官銃撃
事件の犯人を突きとめることができなかったのか、そういった反省なしにこうした
テロを防ぐための
法案を用意するということは、私は合理性を欠いていると思います。
二〇一五年十一月にパリで悲劇的な同時多発
テロがございました。次の年、二〇一六年二月には、フランス議会は、どうしてそれを食いとめることができなかったのかということについて検証を行い、それに立った上での
テロ対策というものを打ち出しております。
ぜひ
国会の
先生方におかれましても、過去の経験に学んで、この国でどのような実体法の整備と
捜査手法の整備が必要なのかという冷静な御
議論をお願いして、私の
意見にかえさせていただきます。
御清聴どうもありがとうございました。(拍手)