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桑子参考人 桑子でございます。よろしくお願いいたします。
このような場でお話しさせていただくことは大変名誉なことでございます。
関係者の
皆様に感謝申し上げます。
これからお話しする内容ですけれ
ども、まず簡単な自己紹介をさせていただき、次に、私の中心的なポイントでございます
社会的合意形成の
プロジェクトマネジメントということについてお話ししたいと思います。
と申しますのも、
社会的合意形成の
プロジェクトマネジメントという観点から
原子力の問題を考えますと、その中に含まれる多くの問題が
社会的合意というものを必要としていると思います。そしてまた、合意を実現するためには、個々の
課題を
解決するプロセスを
プロジェクトとして考えなければならない、こういうふうに思うからです。
この
社会的合意形成の
プロジェクトマネジメントというのは、
一つの
社会的な技術、
社会技術でございますけれ
ども、それはどのようなケースに用いる
考え方なのかをお話しして、最後に、この
委員会においてどのようなことでお役に立てる
考え方であるのかをお話ししたいと思います。
前の
スライドをお願いします。
まず、簡単な自己紹介ですけれ
ども、私は、一九五一年に群馬県の利根川のほとりで生まれました。環境のことが好きで、この問題を考えようとして哲学に志し、東大で哲学を学びまして、東京工業大学に移りましてから文理融合型の大学院の設立にもかかわりました。そういうこともありまして、二〇〇〇年から、国交省、農水省、環境省等の公共事業で特に住民と
行政の間に厳しい対立があるような、そういうケースに参加を求められまして、具体的に
社会的合意形成をどういうふうに進めるかということの実践経験と理論的な考察を重ねてまいりました。この春に大学を定年になりまして、この法人を設立しておりましたので、この法人を中心に活動しております。
次をお願いします。
ここで申します
社会的合意形成、ソーシャル・コンセンサス・ビルディングと申しますけれ
ども、それは、公共的な
社会基盤整備あるいは税金を用いて進められる公共事業などで、多様な
関係者の間で
意見の対立がある、そのような場合に、これは開かれた話し合い、不特定多数の人々の間の話し合いが必要となりますけれ
ども、こういう不特定多数の人々の間での合意をどういうふうに導くかというその
考え方でございます。
社会的合意形成とは、広く開かれた話し合いによって、合意のない状態から合意に至るプロセスをマネジメントするということです。
この合意のない状態から合意が成立した状態へのプロセスを導くということで、先ほど
石橋さんからもお話がありましたような
プロジェクトマネジメントということが必要になる、これは
一つの
社会技術であるということです。
例えば、
先生方の御関心でいいますと、選挙戦に勝利するということを
一つの
プロジェクトとして考えますと、確かにそれをマネジメントすることは
プロジェクトマネジメントですけれ
ども、これは、同じ
意見の人々が一緒になってある目標を達成するということでございますので、
社会的合意形成の
プロジェクトマネジメントとは言いにくいことです。そういうことではなくて、むしろ、例えば、ダムの建設であるとかいろいろな公共事業に関して対立がある場合に、この
意見の対立をどういうふうにして合意に導くかということでございます。
こういうプロセスが欠けておりますと、対立、紛争になって、事業そのものが停滞いたします。そうしますと、事業コストが増大する、事業そのものが非効率化して、あるいは
社会的な
状況が変わったにもかかわらず、それに対して適切に適応できない、適合できないということになってしまいます。
社会的な、あるいは経済的な損失も大きくなり、地域の停滞をもたらすということで、人々に大きな不幸をもたらします。したがって、
社会的合意形成の
プロジェクトマネジメント技術は、そういう
意味で人々の不幸を回避するための
社会的技術であるということも言えるのではないかと思います。
原子力をめぐってもさまざまなケースで対立が起きておりますけれ
ども、こういう問題をどういうふうにしたらいいかということでこの
考え方を御提案させていただくということでございます。
次をお願いします。
私が従事しました例をお話しいたしますと、まず、島根県の斐伊川水系の大橋川周辺まちづくり
基本計画策定事業というのがあります。これは、国交省と島根県、松江市の共同事業でした。これは国交省河川整備計画というのをつくらなければいけないんですけれ
ども、それは治水を目標にする計画ですね。ところが、これをめぐっては、環境とか、景観とか、町づくり、いろいろな
人たちが厳しい
行政批判を展開いたしました。三年四カ月かけましたけれ
ども、これを何とかこの
考え方で
解決いたしました。
第二の例は、今も私、従事しておりますけれ
ども、宮崎の海岸侵食対策です。これは、
日本の海岸が、いろいろなところで砂浜がなくなっておりますけれ
ども、この砂浜を確保するということについては
皆さん同意しているんですけれ
ども、その方法をめぐって厳しい対立が生じておりました。コンクリート護岸あるいは巨大な突堤をつくるというようなことに対して、市民、環境を守りたい、あるいはサーファーの
人たちが厳しい批判を展開しておりましたけれ
ども、これも話し合いで、今までのような工法ではなくて、サンドパックという新しい工法を開発することによって
問題解決に至っております。
第三の例は、沖縄本島の北部に広がります山原の森というのがありまして、この亜熱帯林の問題に関して、環境
行政と林野
行政が地元を巻き込んで厳しく対立しておりました。これは、地元の国頭村というところが中心になりまして、多様な人々の
意見をきちんと取り入れた形で
解決に至って、国立公園化、それから
世界自然遺産登録も見えるようになっております。
第四の例は、島根県の出雲大社の神門通りということで、これは非常に衰退していた表参道を復活させるための事業でした。厳しいスケジュールの中で、
ワークショップ形式の話し合いだけでこれを成功に導いております。神門通りのにぎわいの復活と観光客の増加、地域経済の活性化に役立っております。
私がかかわりましたのは、主に国、県、市町村と住民の方
たちとの間の問題ですけれ
ども、というのは、つまり
行政の問題ですけれ
ども、ここは
立法府、
国会の
先生方の
委員会ということで、こういうところでお話しさせていただいたことは今まで経験がないんですけれ
ども、
一つの重要な
関係者、ステークホルダーとして、どんなことが考えられるのだろうかということですね。
今お話しした例をうまく合意に導くことができたということはどういうことかと申しますと、適切な
社会的合意形成プロセスを
プロジェクトとしてマネジメントした。
関係者に対する
情報の共有、開かれた合意形成プロセスを実現できた。多様な
関係者、ステークホルダーが参加できた。それから、事業を進める人々の間で、
情報と知識、目標とモチベーション、これをしっかり共有できたということですね。それから、これらを統括する
プロジェクトマネジメントチーム、モチベーションを持ったメンバーが
解決に向かってマネジメントできたこと。こういう要素がうまく実現できたということが挙げられると思います。
原子力問題の
解決ということを考えますと、この合意形成の
考え方から見ますと非常に難しいということがあると思います。
確かに、
原発の再稼働や、高レベル放射性廃棄物の処理問題、除染と地域への復帰、避難体制の構築、廃炉プロセスの構築、あるいは、さまざまな
仕組み、制度設計などの問題というのは、どれも
プロジェクトとして
社会的合意形成を適切にマネジメントすべき
課題であると思われますけれ
ども、この問題は、とにかく、ステークホルダー、多様な
関係者の利害が相当入り組んで、複雑になっている。しかも、長い歴史的な経緯がありますので、インタレストの対立、関心、懸念、利害
関係が非常に硬直化して、固定化してしまっている。これを解きほぐしながら
解決に導くのはなかなか難しい。コンフリクト構造そのものも非常に入り組んだ形になっているということです。
それから、これはエネルギーとか環境にかかわっていますので、こういう方面でもさまざまな難しい問題があります。いわゆるエネルギー問題をめぐっては、コモンズの悲劇あるいは資源の呪いといったような問題が指摘されておりますけれ
ども、そういう問題も含まれているように思います。
こういった難しい構造を
解決するための
社会的合意形成をどういうふうに進めるかという、合意形成の設計、運営、進行ができる、そういう技術と実行力が必要なわけですけれ
ども、
我が国ではこの方面の研究と技術開発は非常におくれております。それから、そういうものを進めようとしたときに、そういう進めるための環境整備がおくれております。
スライド五をお願いします。
そういうような
状況ですけれ
ども、本
委員会の役割について考えますと、多様なステークホルダーの中でとりわけ重要で特徴的な
立場に立っているものが、
国会のこの
委員会であるというふうに思います。
立法府という
立場上、その問題にかかわるステークホルダーとして、非常に重要な役割を担っているというふうに思います。
特に、
原子力規制行政、
行政とそれから
立法府との
関係、あるいは司法とのいわゆる三権分立の中で、それぞれの
機能がどういう
立場でこの問題に取り組むか、そういうことでございます。
先ほど御紹介ありましたように、
国会事故調は
七つの
提言を行っておりますけれ
ども、多岐にわたる
提言内容を実現するということを考えますときにも、どういうふうにそれを進めるかということをしっかり考えなければいけないというふうに思います。
以上のように考えまして、本
委員会に何か御提案できることはないかというふうに考えまして、次のようなことを挙げました。
とにかく、
原子力規制行政については、推進
行政と、つまり、
行政機関の中で
考え方の違いも見えます。それに対して
国会がどういうふうな形でかかわるかということをしっかり見据えなければいけないということで、
委員会の中にそういう多様な、技術的な知見も含みますけれ
ども、政治的、
行政的、経済的等の
社会的知見を持つメンバーによって
プロジェクトを立ち上げてはどうかというふうに思います。
それから、
原子力政策全体が含みます
社会的合意形成の
課題を
立法府の
立場から分析するということも大事なことだと思います。それぞれの
課題にかかわるステークホルダー、インタレスト分析に基づくコンフリクトの構造がどうなっているか、これを
解決するためには、一体どういう
考え方でどういうふうに進めて、そのプロセスをどういうふうに構築すればよいかということを検討することです。
特に、
国民もまた、私もかかわってきた事業では、住民、市民もまた対立
関係の中にあることが多いんですね。
国民の中にももちろん厳しい対立がありますけれ
ども、
先生方はその
国民から選ばれた
方々ですので、
国民の
考え方をどういうふうに
問題解決の中に組み込んでその方法を見出すかということも非常に大事なのではないかというふうに思います。
立法府としての活動ですので、
立法府としての
問題解決の措置の仕方、制度設計等、そういうものをどういうふうにして進めるかということについての
委員会の中の合意形成も大事だというふうに思います。
またさらに、もし
課題解決のための
プロジェクトチームが結成されるようなことがありましたら、その目標達成に向けての効果的な環境整備を進める、どういうふうに進めるかということをお考えいただくといいのではないかと思います。
私が申し上げる点は、以上の点でございます。
御清聴ありがとうございました。(拍手)