○川合孝典君
民進党・新緑風会の川合孝典です。
私は、
会派を
代表し、
公的年金制度の
持続可能性の向上を図るための
国民年金法等の一部を
改正する
法律案に対し、
反対の
立場から
討論を行います。
失われた
公的年金制度への信頼を取り戻すことは、
国民の老後不安を軽減する上で不可欠であります。安定した
公的年金制度の構築によって、冷え込んでいる
国民の消費マインドを上向かせる効果も期待できることから、景気対策としても極めて有効だと考えております。
今回の
改正案には、十分とは言えないまでも、短時間労働者への被用者保険の適用拡大の促進や
国民年金第一号被保険者の産前産後
期間の保険料免除による次
世代育成支援への配慮など、
公的年金制度の
機能強化に向けた評価すべき項目が含まれております。
しかし、その一方、限られた年金
財政の中で
持続可能性を追い求めようとした結果、
公的年金制度が本来果たすべき
役割である最低保障
機能の検証が全く抜け落ちております。また、GPIFの運用ポートフォリオの
在り方、多額の公的資金が株式市場や企業経営に与える影響などについても数多くの
課題が残されたままとなっております。
そして、何よりも問題なのは、将来の年金額を推定する上で最も重要となる年金
財政検証における
経済前提が、実体
経済を全く無視した内容となっていることであります。
前回
法改正後の
平成十七年から今に至る十二年間で七回も賃金変動率がマイナスになっているにもかかわらず、今後百年間、賃金、物価が共に上昇し続けるという前提に立った試算を行っております。
これではまともな
委員会審議ができないことから、厚生労働
委員会では、物価、賃金の実態に即した将来推計資料の
提出を
要求してまいりましたが、度重なる
要求にもかかわらず、
審議中に資料の
提出はありませんでした。
委員会の最終日となった昨日、ようやく塩崎厚生労働大臣からは、物価、賃金がマイナスになった場合の将来推計資料を年内に
提出する旨の答弁がございましたが、本来であれば、この資料に基づいて
委員会審議を行うべきであり、
政府の不誠実な態度には強い怒りを感じております。
今回の
法改正によって
国民の
皆様が受け取る年金額が一体どのくらいになるのかの検証すらできていない中、到底本法案に
賛成することはできません。
以下、法案の
問題点を指摘させていただきます。
まず、
公的年金制度の持つべき最低保障
機能が今回の
法改正で損なわれるおそれがあることについてであります。
安倍総理は
審議の中で、現在の夫婦での老齢基礎年金の満額支給額は、老齢基礎年金のみを受給する世帯の基礎的消費支出を上回っていることから、年金を減額しても大丈夫である旨の答弁をされましたが、老齢基礎年金の平均支給額は、現在、五万四千円程度であり、現時点で既に不足が生じております。
また、今回の
法改正で賃金・物価スライドが発動することになると、所得代替率に占める報酬比例部分と基礎年金部分との比重が変化し、基礎年金水準が著しく低下することとなります。さらに、この賃金・物価スライドでは、物価が上昇しても、賃金が下落すると賃金の下落率に合わせて年金を減額することとなりますので、老齢基礎年金のみで生活する世帯は、より厳しい
状況に追い込まれることとなります。
今回の
法改正によって、将来の老齢基礎年金額は、現在価値に置き換えると、およそ三万五千円から六千円程度になることが推計されております。現在、老齢基礎年金のみを収入とする高齢者は全国に七百六十七万人おられますが、夫婦でおよそ七万円の年金では、とても自立した生活は維持できません。
現在の受給者の年金額を減額することで、確かに将来
世代の年金額の下落を下げ止める一定の効果は期待できるのかもしれません。しかし、
公的年金制度が衣、食、住、衛生といった人間が生活していく上での最低限度の購買力を保障することができなければ、今後、生活保護に頼らざるを得ない高齢者が激増するおそれがあります。せっかく年金
財政の持続性を多少高めることができても、新たな
財政支出を迫られることとなり、
法改正の意味が全くありません。
現実に即した将来推計に基づき、
公的年金制度の最低保障
機能を守り、
国民の自立を支援することこそが現在求められていると思っております。
次に、GPIFについて指摘をさせていただきます。
平成十三年、年金積立金管理運用独立行政法人の市場運用開始後の累積運用実績が、現在に至るまで、およそ四十二兆円強に上ることはGPIFの公表資料からも既に明らかでありますが、実は、現在の運用
状況は決して楽観視できるものではありません。二〇一四年十月、GPIFの運用ポートフォリオが見直されて以降、本年九月までの八四半期の運用実績は僅か〇・五%、株式への投資比率を高める前に二・八%あったことを考えると、運用実績に急ブレーキが掛かっていることが、GPIFの高橋理事長への参考人
質疑で明らかとなりました。
無論、四半期ごとの運用実績で一喜一憂すべきではありませんが、リスク投資を行っていることによる運用実績の上振れ、下振れの激しさに対して
国民の信認が揺らいでいるということを
政府は重く受け止めなければなりません。
安倍総理は、本年五月の伊勢志摩サミットの折、当時の世界
経済情勢をリーマン・ショック前の
状況とそっくりだとおっしゃいました。ちなみに、リーマン・ショックが起こった二〇〇八年度、GPIFの収益率はマイナス七・六%、損失額は九・三兆円でありました。現在のGPIFのポートフォリオで同じことが起きれば、二十兆円以上の損失が発生することとなります。
リーマン・ショック再来の懸念を国際
会議の場で口にしながら、一方で被保険者の大切な老後資金である年金積立金のハイリスク運用を続けておられる安倍総理に強い憤りを感じております。
また、
政府機関であるGPIFが大株主になることで生じる問題への対応も全く不十分であります。
GPIFが大株主になることで、当然、企業経営に対して議決権を行使することが可能となります。GPIF法第二十七条の規定によって、厚生労働大臣は、GPIFに運用上の指示命令を行うことができることとされていますので、厚生労働大臣が主務大臣としてGPIFに圧力を掛け、保有株式の議決権を活用して企業経営に影響を及ぼすことが理論上可能となります。他の先進国のファンドでは、
政府から徹底的に運用機関を独立させる、又は民間資産への投資を禁止するといった
手段を講じることでこの問題に対応しておりますが、GPIFではこうした
議論は一切なされておりません。
国会の議決も予算措置も何も必要としないまま、企業経営に対する強力な
政策遂行
手段を
政府が持つこととなり、大変危険なことだと考えております。
最後に、
公的年金制度の
抜本改革の必要性について指摘します。
急速な少子高齢化が進展する現在の
日本において、老後の生活を支える安定した
公的年金制度を再構築する必要性はますます高まっていますが、
制度改革が
社会経済の構造変化に対応し切れておりません。
百年
安心とした
平成十六年の
法改正でも、
政府の
政策目標に寄り添った甘い将来推計試算に基づき
法改正を行った結果、僅か数年で
制度設計が破綻しましたが、今また同じ轍を踏もうとしております。年金
財政検証における
経済前提が外れた
財政的なツケを支払うことになるのは将来
世代であります。
二〇五〇年代には、
日本人の平均寿命は男性で八十五歳以上、女性で九十歳を超えると言われております。こうした超長寿
社会を想定して基礎年金の拠出
期間を延ばすことや被用者保険の適用拡大を更に進めること、さらには、低賃金で働く労働者にとって過度な負担となっている逆進性の高い定額保険料の
在り方などを速やかに
検討し、今から措置を講じなければ、近い将来より深刻化した年金
財政と私たちは向き合わなければなりません。
持続的な景気回復のためには、
国民の将来不安を取り除き、消費を活発化させることが必要であります。まともな将来の年金額の試算すら行わないまま、目先の財源にとらわれて、
公的年金制度のセーフティーネット
機能を低下させ、生活保護の増大と将来不安を助長しかねない今回の法案には断固
反対である旨申し上げ、私の
討論を終わります。
御清聴ありがとうございました。(
拍手)