○
参考人(
斉藤善久君)
神戸大学大学院国際協力研究科の
斉藤です。本日は、お呼びいただき、光栄に存じます。
私は、
外国人技能実習制度の適正化と拡大のためには、
技能実習生の送り出し側諸国における実情を正確に理解する必要があって、また、それら諸国と連携して
目的整合的で一体的な
制度としてこの
制度を再構築する必要があるんだけれども、本来的にはもう正面から移住
労働とか移民
労働を検討するべきじゃないかという
立場から、以下、
ベトナムにおける調査を通じて知り得たところを簡単に御
紹介し、また本
法案について思うところを数点申し述べたいと
思います。
私は、我が国及び
ベトナムの
労働法を専門としております関係で、その双方に関わる事柄として、特に
ベトナムからの
技能実習生の
受入れに係る問題を
制度と
実態の双方から
研究している者です。直近では、二〇一四年度に一年間、
ベトナムでの在外
研究の機会を与えられましたので、その後半の約半年間、
ベトナム側における
技能実習生の送り出しビジネスの
実態を探るために
現地の複数のいわゆる送り出し
機関に、何と申しますか、潜入して、ボランティアの
日本語
教師などとして勤務しながら、送り出し
機関の代表者や
スタッフ、そしてもちろん
技能実習生というか、正確にはその候補生ですが、これを
対象とする調査を行いました。
技能実習生が来日する以前において置かれているこういった背景や
状況については、我が国では例えば来日後
失踪してしまう者が多いその原因の
一つとして指摘されるなど、漠然とした理解は進んでいる感がありますが、特に
監理団体や
技能実習生が就労している
現場の
社長さんたちにおいては、いろいろあるけれどもそれは送り出し国側の内部の問題であって私たちは関知するところではないとか、あるいは私たちはちゃんと
日本の法律を守っているんだから関係ないよと、そういった態度が取られる場合が多くて、そのこともあって送り出し側も含めた
技能実習制度全体の総体としての問題
状況の解明や改善が進まず、国際的にいつまでもこの
制度は人身売買だとか強制
労働だというふうな不名誉な評価を返上することができないという
状況に置かれています。
この点については、我が国において、いわゆる
日本的な、言わば家族的な経営が失われて、
労働者を単なる
労働力であるとかコストというふうにしか把握できなくなってきていることの弊害がこんなところにも現れているのかなというふうに考えています。
大体そういった問題関心から私は
ベトナムでの調査を行ったわけですが、この調査は実際のところ非常に難航しました。すなわち、送り出し
機関の方が特にお金にまつわる事柄は余り言いたがらないのはよく分かるんですが、困ったことには、
実習生の側も幾ら個人的に仲よくなってもなかなか
実態をつまびらかにしてくれませんでした。
結局、何でそうなるかということには大きく分けると
二つの原因がありました。
一つには、彼ら自身が来日直前まで一体その送り出し
機関から幾ら請求されるかということを正確に知らされていない場合があるからです。この場合は、もう
日本側の
受入れ企業も決まって、ビザも取得して、場合によっては航空券も自腹で買わされて、あとはもう
日本に飛ぶだけという段階に至って初めて、例えば当初の提示額プラス三千ドル出さないと
日本に行かせないとか言われて、慌てて走り回ってそのお金をかき集めることになるわけです。
なぜそんなだまし討ちみたいなことになるかというと、これも大きく分けると
二つの理由があります。
第一には、送り出し
機関が候補者をたくさん集めるためです。送り出し
機関にとって候補者はお客さんであると同時に商品です。たくさん抱え込むことによって
授業料その他の収入が得られますし、
日本側との関係では在庫が豊富で多彩な方がいい。そこで、入所段階では候補者の負担額を安めに伝えておいて、最後の最後に高額の追加請求を行うわけです。第二に、高額の
授業料や手数料を徴収したり
失踪防止のための
保証金を納めさせたりしていることが、その
実習生、その家族を通じて
日本の、我が国の入管当局にばれた場合は、当該送り出し
機関からの
実習生はビザを出してもらえないとか入国できなくなるからです。そこで、ビザが発給されて確実に送り出せることになった段階に至ってから更に追加の手数料や
保証金を請求するという方法を取っているわけです。
私の教え子の中にも、その送り出し
機関での教え子ですね、の中にも、
日本へ飛ぶ当日になって、送り出し
機関にもう空港行きのバスが迎えに来て、仲間が続々とみんなそのバスに乗り込んでいるという、その段階になってまだ送り出し
機関から請求された金額が準備できなくて、もう家族がお金を工面して駆け付けてくれるのをずっと泣きながら座り込んで待っていたと、そういう若者もいました。
また、
実習生本人が問題
状況を話せないもう
一つの理由は、たとえ幾ら幾ら支払えということを事前に知らされている場合でも、これを秘密にするように送り出し
機関から言い含められていたり、あるいは脅されているからです。
すなわち、先ほど述べましたように、入管にばれると来日できなくなるし、来日後においても
実習の継続とか自分の
後輩たちの来日に影響するおそれがある。そうなると、送り出し
機関としても
保証金を返すこともできなくなるよとか言われているわけです。あるいは、どこかにチクったらおまえのその渡航は後回しにさせるぞとか、そういう脅しが掛かっているわけです。非常にずるいやり方だと
思います。
ちなみに、
ベトナム政府は、
日本向けの
技能実習生について、送り出し
機関が徴収する手数料や
保証金に関する上限を定めています。すなわち、手数料については、
日本で見込まれる収入の月額掛ける就労年数ということで、具体的には千二百ドル掛ける年数、したがって三年なら三千六百ドル、もし五年だとどうなるのか、本当に六千ドルになるのかどうかは未確認ですが、というふうになっています。
しかし、例えば、じゃ、そこで設定されている千二百ドルが実際にもらえるかというと、例えば岐阜のアパレルなんかでは実質的に最賃以下で働かされているところが少なくないことは、既に今国会においてもほかの方々から御
紹介があったところだと
思います。また、例えば、私が直接知っている事例でいうと、青森のある電子部品
工場ですが、ここでは完全時給制が取られています。もちろん、
技能実習生ですからアルバイトは禁止されているわけで、そうなるとゴールデンウイークがある月なんかは地獄だというふうな悲鳴が
本人たちから届いています。
そういった違法ないし特殊かもしれない
ケースは別としても、
授業料以外の手数料が三千六百ドルというのは高過ぎると
思います。しかし、実際にはその二倍程度の金額を様々な名目で徴収をしている送り出し
機関が少なくありません。
また、
保証金については、
ベトナム政府は
日本に渡航する
技能実習生については三千ドルを上限としてこれを要求することを送り出し
機関に認めています。そういう事情もあって、
ベトナム国内において送り出し
機関は、特に北部の送り出し
機関に多いんですが、割合大手を振って
実習生に
保証金を要求するわけですが、我が国の
制度上は
保証金を納めていると入国できなくなるわけで、我が国としては、このような
制度上の矛盾を送り出し側の各国とも連携して解決していく必要があると
思います。
なお、我が国においては、従前は、不当に高額の
保証金を納めさせられている場合のみ入国
審査の考慮事項とされていたわけですが、後に、二〇〇九年の上陸
許可基準令の改正で、金額によらず一切認めないという取扱いに変更されているわけですが、それが先方に、例えば
ベトナム政府なりにちゃんと伝わっていないんじゃないかというふうな気もいたします。
結局、我が国にやってくる
ベトナム人技能実習生の多くは、送り出し
機関で
日本語などを学ぶ間の家族の生活費、先ほどのソンさんのところだったら一年間ですよね、私が携わった中では、長い人で二年間も送り出し
機関に飼い殺しにされていた人もいましたが、そういった費用も含めて、来日した段階で既に八十万円から百五十万円、場合によってはそれ以上の借金を抱えてしまうことになります。多くの場合、家族や親戚の土地を担保に銀行から借りたお金でありまして、したがって、もし返済できなかったらもう帰る場所を失うことになりかねません。
なお、土地の問題に関連していうと、
政府が農民の土地を収用する場合に、保証に代えて、あるいは保証に加えて、
技能実習生などとしての
海外での就労を
サポートするという
制度も設けられています。この場合も、途中で
帰国してしまった場合などはお金も土地も残らないという結果に追い込まれてしまう点では同様かと
思います。
ベトナム人技能実習生の
受入れ企業の
社長さんたちはよく、
実習生はいろんな経費を考えると必ずしも安くないんだけど、でも休まないし、辞めないし、だから使っている、でもよく
失踪するんだよねというふうにおっしゃいますが、こういった背景から、実際上休めないし、辞められないし、場合によってはやむにやまれず
失踪して
不法就労してしまうわけです、肯定するわけではありませんが。
なお、借金に関連して言いますと、
技能実習生のこういった問題を議論する場合に忘れられがちな問題として利息の問題があります。
さきに御
紹介したような、渡航直前になって多額の追加的な支払を請求された場合なんかは特に、我が国でいうところの闇金に頼らざるを得ない人も少なくありません。これがなかなかえげつなくて、私も
ベトナムで試しに借りてみたことがあるんですが、
現地でそれなりに私は信用があると思っているんですけど、それでも利息が〇・三%、これは一日ですよ、そうしますと一か月で九%、一年だともう元本超えますね、ということになります。
さらに、こういった闇金の話は別としても、借金との関係で特に苦しい
思いをしている人々の例として、現在審議されている介護の分野での来日を目指している人々が挙げられます。
ベトナムでは、多くの送り出し
機関が我が国における
受入れの開始を見込んで、既に二〇一五年の夏ぐらいからはもう見切り発車的に介護職での
技能実習生の養成を始めています。もっとも、
ベトナムにはそもそも介護士であるとか介護施設といったものはほとんど存在しませんから、だから介護職はそもそも
外国人技能実習制度の
対象とはなり得ないはずの分野、職種というべきですが、実際にはそれまで看護師として活躍していた人々がその
仕事を辞めるなどして送り出し
機関で
日本語の勉強などをしており、しかし、一向に来日できないまま借金ばかりが膨らんでいくという
状況に置かれています。
まさに、我が国と送り出し国との間の連携不足、我が国の送り出し国側の事情や送り出される
技能実習生たち個々人の置かれている
状況に対する無関心、無責任によって生み出された被害者というべきです。
以上、送り出し国側の事情として
ベトナムを例として簡単に御
紹介申し上げましたが、本
法案の内容について、一点、思うところを申し上げさせていただきますと、新しい管理監督体制、管理監督
機関、
サポート機関を設置してみたり、あるいはより細やかな、細かな手続を設けてみたりするのも確かに
一つの改善策と言えるかもしれませんが、一体そのことによって生じる様々な直接、間接の経済的な負担が最終的に負わされるのは誰なんだということを慎重に考えてみる必要があると
思います。
間違っても、
人材育成による
国際貢献という、もはや誰も信じていない建前を維持するために、途上国から我が国に来てくれる若者たちを現在以上の苦境に追い込むような結果にならないように注意が必要です。
なお、本日は時間の関係でお金に関する問題ばかり中心に申し上げましたが、もちろん問題はそれだけではありません。
例えば、造船
技術者などのいわゆる職人さんは別にして、さしたる
技術もなくて、場合によっては高校を出たばっかりで何らの就労
経験も有しないような
技能実習生の中には、来日するまで一体自分が
日本のどこのどのような
会社でどんな
労働条件で働くのか、その所在地や基本的な勤務条件すら具体的に知らされていない者も少なくありません。
労働契約書面は、
本人たちが理解できない漢字で記載され、しかも
本人たちには交付されず、送り出し
機関の事務室に保管されていたりします。送り出し
機関側に言わせると、
技能実習生たちに事前に
失踪の準備をさせないための措置だということですが、許されない権利侵害というべきです。
また、来日後の彼ら、彼女らの多くが置かれている様々な権利侵害の実情については、既に多くの方々や媒体によって指摘されているとおりです。
私としましては、我が国が本当に
海外からの単純
労働力を必要としているのであれば、実際上移動の自由とか職業選択の自由が制限され、その他様々な権利侵害にさいなまれている現在の
技能実習生としてではなくて、正面から移住
労働や移民
労働者として受け入れた上で、ちょうど今般、
労働基準監督官を増員するということになったように聞いておりますが、
外国人労働者に
対応できる労基官も多数養成して配置する、そういった
対策を講じることを検討するべきなんだろうと考えております。
私からは以上です。
ありがとうございました。