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公述人(
内田聖子君) 私は、
アジア太平洋資料センターと申します
NPO団体で
代表をしております
内田と申します。
私
たちの組織は
日本に基盤を置く
国際NGOですが、八〇年代以降の新
自由主義の促進や
自由貿易、
投資の
自由化の
推進がもたらした負の側面について、
途上国、
先進国の
市民社会とともに
調査研究や発信、
政策提言を続けてきました。
TPP以前の
WTOですとか
多国間投資協定、現在では
RCEPや
TiSA、新
サービス貿易協定等々の
メガFTAにも着目をしております。
今
TPPが直面している
状況というのは、まさに過去三十年の
自由貿易推進の歴史の失敗を如実に表していると
指摘したいと思います。その意味で、私
たちは今まさに、今後の
国際貿易の在り方、これを大転換を迫られているという歴史的な岐路に立っている、まずこの大きな認識が必要かと思います。
TPPだけではなく、
アメリカと
EUの
自由貿易協定、TTIP、それから
RCEPも、そして
TiSAも、非常に
交渉は難航し、進んでおりません。
日本と
EUの
経済連携協定も同じです。
これは、例えば先日のイギリスの
EU離脱ですとか、つい最近の
アメリカの選挙の結果、
トランプ氏が選ばれる、こういうところにも人々の政治的な意思として、
自由貿易のやり方、
ルール、
フォーマットそのものがもう立ち行かないと、これを示している
一つの証左であろうというふうに思っております。
今日は
TPPの中身の
問題点を十分に
指摘をしたいと思っておりますが、やはりその前に重要な点を申し上げたいと思います。それは、なぜ今この
国会の中で
TPP協定、
関連法案が粛々と
議論され続けているのかという点です。既に
衆議院の段階からもそうでしたが、
日本が急いで
TPPをこの
国会の中で
批准をするという合理的な理由は既にありません。
私の
レジュメ等々見ていただきたいんですが、外的な
要因としては、
アメリカの
大統領選の結果であるとか、それから
オバマ大統領の
残存期間、レームダック、ここでの
承認というのもほぼ
可能性はゼロです。伴いまして、
幾つかの国では、この
大統領選の結果を踏まえ、当面は
状況を静観するというような
態度を取り始めた国もあります。
今日、
マレーシアの
ムスタパ大臣が出した声明というのも
資料として付けておりますが、ここには、第六番目には、
マレーシアは
米国の
次期政権の下での
TPPの行方を見極めていく、
米国が
TPPを
批准しないと
決定した場合、ほかの
加盟国とともに次の
方針について
議論する。つまり、静観する、急がないという
方針です。という外的な
要因というのは
幾つかあります。
ただ、これ、
アメリカがどうとか、ほかの国がどうとか、そういうことで
国会が左右されていいのかという論もあると思います。そのとおりと思います。
では、
日本の
国会でどうなのかということは、四月の
国会も含めて、そして九月からの
国会も含めて、この衆参の
審議、私もできる限り見ておりますが、この
審議を通じて見えてきた様々な問題があると思います。
一つは、
TPPというのは大変膨大な領域をカバーする
協定です。
協定文だけでも八千ページ以上の
ページ数、それから
分野も二十一
分野にも至ります。この
国会で、やはり
農業の
関税問題が
中心になっておりまして、十分に全ての
分野が熟議されたとは到底思えません。
それから、
メリットがあるというようなこともいま
一つ具体的ではなく、そして
国民に行き渡るような
メリットがどこにあるのかという点が十分にまだ明らかになっておりません。
そして、
問題点の方は野党の
議員の方が次々と質問されておりますが、これは
秘密交渉で、
交渉の
プロセスは今も開示されない、話せないという壁にぶつかって、十分にその経過が分からないものですから
議論が深まらないんですね。
そして四点目は、やはりこの
審議を通じて、
TPPに入る、
批准するかどうかという以前に、既に今の
日本政府の例えば食の安心、安全に関する規制の
状況だとかというのは非常に問題があるということが次々と
指摘されてもおります。というように、とてもこのような
議論の
進行状況では、いいも悪いも
国民的な理解を得られていないというふうに思います。
そして五点目としては、さきの
衆議院の
TPP特別委員会では
強行採決というものが行われました。これは
国民から見ても到底受け入れられない非民主的な
決定だったと思っております。そして、こうした
状況を受けて、
世論は日に日に
TPPについて疑念と不安を高めております。
審議をすればするほど不安が高まる、分からないという方が多くなっている。そして、
慎重審議を求める声というものも各種の
世論調査で増えております。
そして
最後に、
トランプ氏の百日計画の
発言、つい先日ありました。これを受けて、
レジュメの七番に書きましたが、
安倍首相自身が
成長戦略を練り直さなければいけない事態にも至ったというような報道もあるほどです。これは確かにそうなんだろうと思います。
アメリカの
決定に
日本も影響せざるを得ませんから、
成長戦略全体を練り直さざるを得ないというところまで来ているわけです。
つまり、これまでは、
TPPで
成長するとか
海外の
成長を取り込むとか
グローバルマーケット、いろんなことが言われていましたが、
TPPは
成長戦略の柱として位置付けられていました。その柱が
発効するかどうかがほぼ
絶望視をされているという中で何もなかったかのように
批准を進めていいのかということが、これは私だけではなくて多くの
国民の方が思っていると思います。ひょっとすると、
政府・与党の
議員の皆さんの中にも、なぜ今これをやるのかとどこかで思っていらっしゃる方がいるのではないでしょうか。
次の項で申しますが、ですから、私は
批准という
プロセスを一旦停止するしかないと思っております。これは
承認の
プロセスを全て破棄せよということではなくて、
マレーシアが取った
態度のように、一度立ち止まって静観をする、
相手の出方を見ると。
アメリカの
市民、
国民でさえ、今、新
大統領に対してはこういうふうに言っています。シー・アンド・ウエートです。黙って見詰めて次の
体制を取ろうと。
アメリカの
国民ですらそう言っているという
状況の中で、どうして
日本が
国会で
審議を進めるのかという問題です。
ですから、私はまず、今、参議院で
公聴会を今日開いていただいているわけなんですけれ
ども、やはり即座にこの
審議を止めるということを御提案したいというのが一番の今日の強い思いです。
なぜそういうことを言うかというと、この
TPPの
発効がほぼ
絶望視されていく中で、実は既に
日本の中では様々な形で予算が執行されていたり、それから
TPP発効を見据えて、つまり
TPPを前提として様々な対策、それから例えば
中小企業に対する
投資をどんどん
海外でやろうというような
推進が各地で行われて、実際にそれを実行している
企業さんなんかもあるわけです。あるいは、農家さんで、私全国歩いていろんな方聞くんですけれ
ども、
TPPが
発効してしまえばもう
農業続けられないと、
TPPに背中を押されて
農業やめましたという方も多数おられます。等々、これ実はもう影響というのは既に実際上起こっていてということを鑑みますと、これ以上こうした影響、
TPPが
発効するからという名の下に、これ以上の規制緩和や一人一人の方の生業や人生の選択にまで関わっているという事態を放置することはできないと思っております。
予算に関しては、東京新聞が一昨日報道いたしましたが、既に
TPP対策大綱という下に予算が組まれています、一兆千九百六億円。このうち二〇一五年のものは既に執行されておりますし、二〇一六年のものも相当程度執行されているというふうに聞いています。
他国はどうなのかといいますと、ニュージーランドやオーストラリア、それから
アメリカは当然そうですが、
発効もしていない、それから
批准もしていないという状態の中で
TPP対策の予算を組んで執行しているような国などはありません。当然だと思います。その意味で、
日本は極めて異様な、異常な
状況をこの間つくってきたと言わざるを得ないと思います。
そして、いろいろと言いたいこともあるんですが端折っていきますけれ
ども、日米並行協議の問題を私はやはりこの
TPP発効が
絶望視される中で非常に重要な危機として感じております。
御存じのとおり、日米並行協議というのは、
日本が
交渉に正式
参加する前の二〇一三年四月に
アメリカとの間で始めた
交渉です。これは
日本が
参加するための前払あるいは入場料として
アメリカからの要求に相当程度応じた一方的で片務的な
交渉だということは、これは
TPPを
推進している有識者の方でさえこのような御
指摘をしております。
対象となる
分野は非常に多岐にわたっております。自動車から、それから食の安心、安全、急送便、知財、
投資等々、非常に多岐です。ところが、この全容はいま
一つ明らかになっておりません。
政府の公表している文書というのは手に入れておりますが、基本的には全部が開示されていないんだろうと思っております。
問題は、これが既に
日本国内においては
幾つかの
分野では
実現されてしまっているということです。私の
レジュメの四ページ目辺りにいろいろと書いておりますが、例えば保険
分野では、アフラックという
米国の外資系
企業が、かんぽ生命の新規参入を認めないということを
決定して、そして
日本の郵便局の
ネットワークを使って販売できるというようなことも実際に行われております。それから、食の安心、安全に関しても、既に規制緩和というのが、これ、ここに挙げているのは
米国の要求ですけれ
ども、進んでおります。
そして、その全容が分からない中で私
たちもいろいろと調べているんですけれ
ども、
一つ大変気になる記述が、この「ドキュメント
TPP交渉」という、これは日米の
交渉それから
TPPに関わった朝日新聞の鯨岡仁さんという方が最近出された本ですけれ
ども、日米並行協議についてこのように書いております。二〇一三年に始まった並行協議、途中端折りますけれ
ども、
アメリカではカトラーさんというUSTR
代表代行が来て、それから
日本では外務省の経済外交担当の森さんという方が
交渉していたんですが、ちょっとくだりを読みます。
カトラーは、
日本側の外務省経済外交担当大使、森健良に要求リストを差し出した。その内容は、米韓FTAに盛り込まれたものに似た、法外なものであった。
日本側は、
TPP交渉に入る前の事前協議で、
米国の自動車の
関税撤廃を
TPP交渉で最も遅いものとそろえるという条件をのまされた等々。いろいろと続くんですけれ
ども、そして一番重要なのはこの一文です。しかも、カトラーは丁寧に、
日本の法改正リストまでつくり、森に手渡したというふうに書いてあります。
こういう事実を
国民は少なくとも聞いておりません。
国会議員の
方々も、こういうリストを作られて、法律の改正リストを突き付けられたということを御存じなのかどうか私は分かりません。ですが、こういうところにまで
TPPと並行する協議の中でかなり攻められてきているという事実があります。
もう時間がないのでやめますけれ
ども、この日米並行協議というのはそもそも
TPPと並行して始まったものであり、
政府の見解としては、日米並行協議は
TPPが成立しなければ無効となる、意味を成さない、これが従来の説明でした。つまり、既に、
TPP発効してもいない、
批准もしていない中で、実際上私
たちの社会というのは変えられてきているわけですね。あるいは、水面下でいろいろなことが攻められているわけですね。
発効しなかったら、じゃ、どうなるのか。それは当然、何もなかった状態に戻していただかなければ困りますという話になっていきます。この辺りが全く不明瞭でよく分からないという領域なんですね。ですから、
TPPの行方がどうなるか分かりませんけれ
ども、私は冷静に、
発効しないときにこれらの責任をどういうふうに取るのか、そして原状復帰をどういうふうにして、そして次の
体制にどうやって臨むのかということこそが、今、
日本政府、与野党を問わず取り組むべきことであろうと思っております。
その他、
中小企業への
メリットが
TPPではやはりなく、むしろ打撃になるというお話もしたいと思っておりましたし、それからISD条項、これが大変私
どもも
懸念している
分野であります。こういうお話もしたいんですが、時間になりましたので、できれば後の御質問でいただければ、詳細を御説明したいと思います。
最後に、私の
レジュメの
最後の部分をちょっと見ていただきたいと思うんですけれ
ども、冒頭に申しました、今何が問われているのかという点です。
今ほど、
各国、いろんな
地域でこの
貿易や
投資というのが主要な政治課題になっているという時代はないと思います。非常に、
アメリカを見れば分かるように、政治的な課題に
貿易がなると。これはなぜかというと、これは冒頭申し上げたように、この三十年の
自由貿易の歴史というものが、確かに大
企業は多大な利益を得ています。租税回避等しながら肥え太っていったということがあります。しかし、問題は、それが人々に還元をされないということ。とりわけ
日本では、賃金は九七年度以降上がっておりません。
企業はもうけるんですが、人々は豊かになっていないと。格差が広がっている、あるいは
地域間格差というのも広がっています。大都市に集中しているんですね、
投資も、利益を蓄積していくのも。これは世界の各地で起こっている現象です。
このことの矛盾が露呈しているのが
アメリカでの選挙の結果であります。たくさんの報道にありましたが、
アメリカの地方都市で
地域が荒廃して、仕事を失って、ラストベルトと言われているところですね、白人の労働者の人が絶望をして
トランプさんに投票すると。これはコミュニティーももうぼろぼろですよ。仕事もない。私はこの光景を、
日本の報道を見ると、もしかしたら
日本の近未来を表しているんじゃないかというような恐怖すら思います。
ですから、今どういう
貿易が必要かという意味で問われているのは……