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枝野幸男君 私は、
民進党・
無所属クラブ、
日本共産党、自由党及び社会民主党・
市民連合を代表し、
安倍内閣不信任決議案について、提案の趣旨を説明いたします。(拍手)
まず、
決議案の案文を朗読いたします。
本院は、
安倍内閣を信任せず。
右決議する。
〔拍手〕
本国会では、
国民生活に多大な影響を与える重要な
法律案などが幾つも
審議されました。
環太平洋パートナーシップ協定及び
環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う
関係法律の整備に関する
法律案、いわゆる
TPP、
公的年金制度の
持続可能性の向上を図るための
国民年金法の一部を改正する
法律案、いわゆる
年金カット法案、そして、
特定複合観光施設区域の整備の推進に関する
法律案、いわゆる
カジノ法案などであります。いずれも
無理筋の
法案であり、
無理筋の三点セットと言わざるを得ません。
しかも、これらの
重要案件の全てが、十分な
審議時間もとられないまま、強引な
国会運営で採決されました。特に、
カジノ法案は、
衆議院でわずか五時間余りしか
審議をしていません。さらに、質疑の際に質問がないといって
般若心経を唱えた
与党議員すらいました。
国会質問をなめているとしか言いようがありません。
総理は、本国会の冒頭で、建設的な議論をして結果を出したい旨おっしゃいましたが、一体どこが総理の述べた
建設的議論なのでしょうか。
カジノ議連の
最高顧問だった
安倍総理が、あなたの好みに合った結果を出すことが目的なら、国会での
審議はどうでもよいということなのでありましょうか。
総理は、これら
法案等の
審議について、不十分な
審議時間や
強行採決の問題を追及されると、国会で決めることですからと逃げ口上を述べるばかりであります。しかし、
議員立法である
カジノ法案を含め、
最大与党である
自由民主党の総裁でもある総理が
最終決断を下す
最高責任者であることは、誰の目にも明らかであります。
さらに、
国会答弁で総理は、何時間
審議しても同じと、
国会審議の意義を否定するかのごとき暴言を言い放ちました。
確かに、議会の
議員数だけの問題なら、何時間
審議しても、結論を変えることは困難であるかもしれません。しかし、国会の
存在意義は最終的な多数決だけではありません。議会での議論を通じて政府・
与党に再考を促すこと、そして、
主権者である
国民各層に、どのような案件が議論され、何が争点であるのかを伝えること、これらも大切な議会の機能であります。
再考する意思の全くない硬直的な政府・
与党の姿勢は
議会制度の趣旨に反するものであり、国民に案件や論点の周知を図る機能を無視することは、よらしむべし、知らしむべからずという姿勢であると言わざるを得ません。
このような総理の暴言を、到底立法府として許すことはできず、これだけでも
不信任に値いたします。
安倍内閣は即刻退陣すべきであります。
以下、さらに具体的に、本
決議案を提出する理由の一端について説明をいたします。
まずは、
TPPです。
安倍総理は、世界の首脳で最初に
トランプ氏との会談を実現したとして注目を集めました。しかし、総理がアルゼンチンでの
記者会見で
米国抜きの
TPPでは意味がないと訴えた直後に、
トランプ氏は、
大統領就任初日に
TPP離脱を通告するとの方針を表明いたしました。総理は、
日本国を代表して恥をかきに行ったようなものであります。
女性や民族などに係る
問題発言の多い
トランプ氏を、十分な根拠なく信頼できるとまで持ち上げたことも、
国際社会に違和感を与えています。
言うまでもなく、
米国抜きで
TPPは発効しません。既に世界は、
TPP発効を前提としない新たな
経済連携の枠組みに向けた動きを模索し始めています。しかし、
安倍総理は、この
状況下においても、国内における強い反対を押し切って
TPPに突き進んでおり、国際的な潮流から
我が国だけが遊離する状況をつくり出しています。
また、総理は、国会の場において、
TPP協定について国民に丁寧に説明し、理解を得るべく最大限努力すると何度も言ってきました。しかし、
ノリ弁当と批判をされた資料の提出に象徴されるように、政府が十分に説明を尽くし、国民の理解が得られたとは到底言えません。
さらに、
TPPの発効に備えた
関連法案についてまで採決を強行したことは、支離滅裂であります。
TPPの発効を前提とした
国内対策と
TPPが発効しない場合の
国内政策では内容が大きく異なるはずであり、今議論しなければならないのは、
TPPが発効しない場合のさまざまな
国内対策だったはずです。今国会で
強行採決してまで
TPP協定と
関連法案を成立させる必要は全くありませんでした。
安倍総理の見識が疑われます。
TPP協定等は、その内容も問題であります。
私は、輸出や投資を拡大して国富をふやし、
我が国の
生活者、
消費者に恩恵をもたらすために、高いレベルでの
経済連携を実現することが極めて重要であることには異論ありません。さきの
参議院選挙でも、
民進党は、
アジア太平洋貿易圏、いわゆるFTAAPを初めとして、
経済連携を積極的に推進すべきという立場を明確にしています。
しかし、個別具体的な
経済連携協定の是非を判断するに当たっては、本当に
生活者、
消費者に恩恵をもたらすのかどうかを総合的に勘案し、新たにどのようなメリットが得られ、また守られるべきものがしっかり守られているか、その中身を十分に見きわめることが必須であります。
その点、今回の
TPP協定の内容は極めて不十分と言わざるを得ません。
特に、
国会決議違反は重大な問題であります。例えば、
農業分野のうち、米については
関税率が維持されるものの、現行の
ミニマムアクセス枠に加えて、新たに無税で輸入される
特別枠が七・八万トン設定されることとなりました。
このことを初めとして、農産物重要五品目で多くの関税が撤廃、削減され、
関税割り当ての設定がなされるなど、守らなければならないいわゆる
聖域分野で相当な譲歩を余儀なくされています。これは、二〇一三年の
衆参両院における
農林水産委員会決議に明白に違反をしたものであります。
自由民主党は、二〇一二年十二月の第四十六回
衆議院総選挙において、
安倍総裁のもと、聖域なき
関税撤廃を前提にする限り、
TPP交渉参加に反対すると明確に公約に掲げました。全国に、「ウソつかない。
TPP断固反対。ブレない。」と記された
自民党のポスターが張り出されました。
明らかに
公約違反であります。
自民党は、聖域に手をつける
TPPには反対ではなかったのですか。このようなうそとごまかしの
安倍総理と
政権与党の姿が
政治不信の主たる原因となっていると指摘をせざるを得ません。
次に、いわゆる
年金カット法案であります。
年金は、老後の生活を支える最後の柱です。そして、
年金の
ルールを変更することは、現在の
年金受給者だけでなく、将来世代の方々の
老後設計にも多大な影響を与えます。
そのため、
年金制度を大きく改正する内容の
法案については、
衆議院で少なくとも三十時間前後の
審議を行い、議論を尽くして結論を得てまいりました。
しかし、今回の
年金カット法案の
衆議院委員会での質疑時間は、わずか十九時間であります。
委員会での質疑で出されたさまざまな
問題点について明確な答弁がなされないまま採決が強行されました。
特に、
審議の際に重要な
前提資料となる
制度改正の影響をあらわすまともな試算の提出について、
委員会で繰り返し求めても、政府は拒み続けました。最終的には、一時的に賃金がマイナスになることも踏まえた試算を公表するとしましたが、遅きに失し、国会で改正後の具体的な姿を前提とした議論はなされませんでした。
このようないいかげんな
審議で、多くの国民に影響を与える
年金改悪を強行することは、到底容認できるものではありません。
年金カット法の最大の問題は、物価が上がっても、賃金が下がれば
年金が下がるという新
ルールです。そもそも、
賃金水準と
物価水準と、状況によって
年金額の基準となるべき水準を都合よく使い分けるというのは、まさに
御都合主義そのもの、筋が通りません。
その上、この
年金カットの新
ルールが発動されると、一度下がった
年金は二度と物価に追いつくことがなく、
受給開始後の
年金の
実質価値は一方的に下がり続ける制度となっています。これでは
年金の
最低保障機能を損なうこととなってしまいます。しかも、物価が上がっても賃金はなかなか上がらないというのが、
アベノミクス四年間の実態であります。
現時点の
年金受給者の生活はもとより、
年金の
所得代替率が三割カットされることになっている将来世代の
老後生活も成り立たなくなる
可能性があります。その結果、
生活保護に頼らざるを得ない
高齢者が激増すれば、
年金財政の帳尻は合ったとしても、
生活保護で
国家財政が大赤字になるだけです。
安倍総理はこのことを全く理解していないと言わざるを得ません。
しかも、この制度の施行は五年も先、まだまだ先です。今、拙速かつ強引に採決を急ぐ必要は全くありません。どさくさに紛れて、国民に知られないうちに評判の悪いことを進めてしまおうという意図であったと断じざるを得ません。
今後も、医療や介護といったいわゆる
現物給付に対する
費用負担増の計画がメジロ押しです。そして、その後に急激な
年金カットが続くことになります。
少子高齢化社会において、生活の保障と
基礎年金のあり方の議論こそ、今最も重要な課題であります。その
場しのぎの
年金カット法で
現行制度を温存することは、結果的に将来世代にツケを回すことになります。今こそ、生活していける
年金額の確保、世代間の公平の向上に向けた
年金の抜本的な改革にこそ取り組むべきであります。
次に問題なのは、IR
法案、いわゆる
カジノ賭博解禁法案であります。
TPPの関連や
年金カット法案は、
カジノ法案と比較をすれば、不十分ながらも、議論の時間は若干とはいえありました。しかし、この
カジノ法案については、
衆議院で極めて短時間の議論しかなされませんでした。
批判の高まりを受け、ようやく
参議院においては、参考人質疑を含めた、これも、でもわずか十六時間程度の
審議を行い、微修正が行われましたが、
審議過程の問題、そして明確にすべき内容についての問題、さまざまな
問題点が残されています。
まずは、
審議のあり方です。
かつて、この
法案の議論をスタートさせる際には、その前提として、平成二十六年六月十八日、
内閣委員会の理事会で次のような合意がなされました。一つは、
国家公安委員長が常時出席すること。二つ目に、
内閣委員会が所管をする関係大臣は
要求ベースで出席すること。三つ目は、地方の意見あるいは司法の制度、そして国土交通、さまざまな
委員会との連合審査などを含めてきちっとした議論をすること。こうした点が合意をされていたはずであります。
しかし、今回、これらの合意は全く守られませんでした。わずか五時間少々の
審議で、既になされた合意に反して採決を強行する。断じて容認することはできません。
内容的にも、まだまだ議論は、不十分どころか、入り口に立ったにすぎない。多々問題があります。
まずは、何といっても、賭博である
カジノをどうして違法性阻却できるのかという問題であります。
賭博という刑法上の犯罪、この違法性阻却を認めるとすれば、目的の公益性、運営主体等の性格、収益の扱い、射幸性の程度、運営主体の廉潔性、運営主体の公的管理監督、運営主体の財政的健全性、そして副次的弊害の防止、これらについて、それぞれ十分な検証が必要であります。しかし、これらの点について、何ら明確になっていないどころか、何らの説明すらなされていないと言わざるを得ません。
例えば、入場料と
納付金の規定は、国及び地方公共団体は、別に法律で定めるところにより、
カジノ施設を設置及び運営する者から
納付金を徴収することができる、十二条。そして、国及び地方公共団体は、別に法律で定めるところにより、
カジノ施設の入場者から入場料を徴収することができる、十三条。いずれも、できる規定が置かれただけであって、実際にどのレベルの入場料や
納付金がこれによって徴収されるのか、全く示されていない。これでは違法性阻却の判断ができるはずがないじゃありませんか。
そして、
カジノ議連の
最高顧問であった
安倍総理が強く主張している
経済効果です。
法案の立法目的にも、経済の活性化が掲げられています。しかし、その
経済効果は、十分な検証の上に評価されなければなりません。現実になされているのは、プラス面のみが試算され、経済的なマイナス要因の
可能性について、客観的な検証は全くと言っていいほどなされていません。しかも、諸外国を見ると、アメリカのアトランティックシティーやマカオ、韓国などの
カジノで、減収やあるいは撤退が見られているのが現実であります。
マネーロンダリング対策の問題もあります。
そもそも、
カジノ内での資金の流れを全て捕捉することは技術的に甚だ困難であります。法令に基づいてさまざまな届け出を求めたとしても、
マネーロンダリングを完全に防ぐことはできません。
治安対策も問題です。
カジノ営業を行う事業主体から
暴力団を排除するための制度を整備するとされていますが、一次的な事業主体としての参入はできなくても、事業主体に対する出資や従業員の送り込み、事業主体からの委託先や下請への参入等は十分に可能であります。
暴力団が関与すれば、襲撃や拳銃発砲等の威力を行使する事態も懸念され、
カジノの従業員や利用客、何よりも
周辺地域の住民等に被害が及ぶ
可能性があります。
そして、何といっても、言わなければならないのは
ギャンブル依存症の問題であります。
厚生労働省自身が実施した
ギャンブル依存症に関する調査によれば、日本においては、成人男性の九・六%、成人女性の一・六%が病的賭博とされ、世界各国と比べても高い傾向にあります。
ギャンブル依存症が疑われる患者は推定で五百六十万人以上にも達しています。一旦発症した
ギャンブル依存症への対策は甚だ困難であり、
ギャンブル依存症の患者を新たに発生させない取り組みこそが重要であります。
カジノの収益によって
ギャンブル依存症対策を推進すると言っていますが、
ギャンブル依存症対策を
ギャンブルの収益で行う、本末転倒であり、
ギャンブル依存症対策は別途しっかり行うべきものであります。
ギャンブル、賭博は、誰かの損失によってほかの誰かが不労所得を得るものです。しかも、依存症によって生活の全てを失い、家族まで不幸に陥れるリスクがあります。百歩譲って
経済効果があるとしても、このような性格を持つ
ギャンブルによって景気をよくし、
ギャンブルによって地域活性化を図るというのが、
安倍総理の言う美しい日本なのでしょうか。
国際観光産業振興議員連盟、いわゆるIR議連の
最高顧問であった
安倍総理は、常々、
カジノを含む
特定複合観光施設を今後の日本の
成長戦略の目玉として検討していく考えを表明し、
自由民主党議員らが
議員立法で国会に提出した
法案についても、総裁として成立を目指す考えを示していました。
このように、
安倍総理が
カジノ法案を成立させたいという強い意思があるならば、なぜ政府提出
法案としなかったのでしょうか。また、議員連盟の
最高顧問に就任していることを二〇一四年十月の
委員会審議で問われ、慌てて顧問を辞任する表明をしたのはなぜなのでしょうか。まさに、何か後ろめたいことでもあるのではないでしょうか。
安倍総理は、女性の活躍推進を掲げましたが、女性たちが何を最も必要としているかを見きわめ、抜本改革に踏み込むことはありませんでした。
保育園落ちた日本死ねに象徴される、働く女性が必要としている保育園、保育士の不足問題や配偶者控除の見直し、女性と男性との賃金格差など、
カジノの推進や
年金カットよりも、そして発効のめどがない
TPPよりも優先して議論をしなければならない課題は山積をしていますが、解決には全く至っていません。
安倍総理の掲げる女性活躍推進は口先だけと言わざるを得ません。
安倍総理は、外交問題でも、
TPPだけでなく失態を続けています。
安倍総理の
見込み違いからパリ協定の批准がおくれ、パリ協定締結国による初会合の場では、協定の具体的
ルールづくりの議論に、議決権を持つ批准国として参加できませんでした。
南スーダンPKO実施計画の変更では、閣議決定で任務遂行型の武器使用権限を伴う駆けつけ警護任務を付与したため、地元の武装グループとの交戦の
可能性が高まっています。にもかかわらず、驚くべきことに、
自衛隊の安全確保措置や第一線
救急救命体制は不十分なままです。
自衛隊の皆様の命を軽々しく考えていると言わざるを得ません。
安倍総理が最大のスローガンとして掲げている
アベノミクスも限界が明らかです。今年度税収
見込みは一・九兆円も下振れになっています。株価の上昇や円安による輸出企業の見かけ上の収益増はもたらしても、実体経済を改善することはできていないのです。
アベノミクスの失敗は、もはや誰の目にも明らかです。
そもそも
安倍総理は、日本経済低迷の原因がどこにあるかという、その本質を見る見方が間違っていると言わざるを得ません。
確かに日本は貿易立国です。輸出企業、輸出産業は大変重要です。しかし、バブル崩壊以降二十年余りに及ぶ景気低迷の主たる原因は、輸出産業の不振ではありません。新興国の成長によって、輸出産業が厳しい競争にさらされているのは、
先進国共通の課題であります。そして、
先進国相互で比較をする限り、日本の輸出産業は、十分、他の
先進国と互角以上に頑張ってきています。にもかかわらず、
先進国の中で日本が唯一と言っていいぐらい経済が低迷しているのは、ひとえに内需が低迷しているからであります。
日本経済を復活させ、
国民生活を向上させるポイントは、内需にこそあります。にもかかわらず、輸出産業を中心とする大企業の収益にのみ拘泥し、
年金カット法や昨年の派遣法改悪など、
消費者の購買力を低下させ、
消費者心理を冷え込ませる政策を推進したのでは、消費が伸びるはずがありません。
そして、今度は、この経済失政をごまかすための
TPP、
年金カット、そして
カジノ法案です。
TPPで日本の経済収支がよくなる、
年金をカットすることで将来の
年金が確保される、
カジノが
成長戦略の柱になる。しかし、これらの発言は余りにも現実離れしていることは、ここまでるる述べてきたとおりであります。経済再生につながるどころか、経済失速を加速させるとともに、まさに本来美しい日本を
安倍総理みずからがぶち壊すんです。
これらの重要
法案等について、
強行採決を含めた強引な
国会運営で採決するなど、国権の最高機関である立法府を内閣の下請機関としか見ない安倍政権のおごり高ぶった姿勢は、断じて容認できません。
まだまだ申し上げたいことはあと三時間ぐらいありますが、最後に、私は、この国と
国民生活を守るため、
安倍内閣は
不信任されるべきであると皆様に心よりお訴えをし、趣旨説明とさせていただきます。(発言する者あり)