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参考人(
藤井伸生君) 失礼いたします。
お手元に資料が行っているかと思うんですけれども、「「福祉は人なり」といわれるが、その「人」はどう扱われてきているか」というふうに書いたものです。私、十五分間ということでありますので、もうここに書いたものに沿ってお話しさせていただきますので、この資料の方に目を通していただければ有り難いと思っています。
子ども・
子育て支援新
制度に関しては、私は様々な問題を含んでいると認識しております。ただ、今日はその人の問題、
保育士の問題に焦点を当てて、どのように扱われてきているのか、そしてどういう
課題があるかということについて述べさせてもらいたいと思います。
委員の皆様方においてはもう既に御存じのことが多いかもしれませんけれども、少し今までの
制度を振り返ってみたいということで、一番目に、
保育士の配置の一九四八年以降の流れを一覧表にしました。
私は、ある
意味この
時代は、
保育士の配置の拡充路線、
保育士をしっかりと配置し、
保育の質を高める努力が国においてなされたというふうに考えております。一九四八年において、ゼロ歳、一歳児十対一、
子供十人に
保育士一人という、当時は保母と呼んでいたと思いますけれども、十対一、二歳以上で三十対一であったわけですけれども、それが年々
充実していき、直近では一九九八年、ゼロ歳児三対一、一、二歳児六対一、三歳児二十対一、四歳児以上は三十対一というふうになってきました。
こういう
整備があったんですけれども、しかし
保育を担当する市町村レベルにおいては、もっとより良い
保育をしていきたいという
自治体の意向もあり、各
自治体において国基準以上の職員配置をするということをやってきています。例えば八王子市におきましては、一歳児においては六対一でいいところを五対一に基準を上げております。私が住んでおります京都市におきましても、一歳児について五対一、三歳児において十五対一、四歳児二十対一、五歳児は二十五対一というふうに、
自治体独自の財源を出し、このような配置基準を
整備してきています。完全に調べ切れておりませんけれども、
全国の市町村ではこういう努力がたくさんされているというのも
実態であろうかと思います。
こういう中で、
保育士の配置の問題につきまして、
政府が
待機児童解消緊急
対策を三月の末に出されておりますけれども、その中で、八王子市とか京都市のように上乗せをしている基準、これを国基準どおりに引き下げて、そこまでのレベルにして
子供を
入所させるようにという、そういう
対策を提起しています。これは私はびっくりしたという思いがとても強いです。
保育士の配置について、このような前進をしてきたということがあったことをひっくり返すようなことがあったことに非常に驚きの念を隠せません。
そして、こういう
保育士配置の流れがあったんですけれども、一九九八年において、私は規制緩和路線へ変更というふうに二番目に書きましたけれども、このような職員配置を高め質をより良くしていこうという流れがあったんですけれども、九八年辺りからどうも方向性が変わってきているという認識をしております。
細かな話ですけれども、九八年におきまして、ここに示された職員配置基準上の
保育士さん
たち、これにつきまして、例えば一九九八年のところの例として書いておりますけれども、これちょっと分かりやすくするためにこういう単純な式にしていますけれども、百十三人の
子供に対して
保育士十名であるところを八名でもよいというふうに、要するに短時間
保育士を二割まで入れてもいいということにして、常勤を削減してしまうようなものへと変わってきております。二〇〇二年においては、更にこのことが拡充され短時間
保育士の導入を、各グループに一名おればよい、ゼロから五歳児まで六組とすれば常勤は六名でよいというふうに変えていき、短時間
保育士、結局非正規職員を拡充する方向へと変えてきているということがあります。
次のページですけれども、さらに二〇一五年度、
子ども・
子育て支援新
制度がスタートしたわけですけれども、ここにおいて公的
保育として
家庭的保育、
小規模保育事業等が位置付けられました。小回りの利く少
人数の
保育、これは私は否定しませんけれども、この
事業において
保育士の配置の考え方が大きく変わりました。
家庭的保育につきましては
研修修了者でよい、小規模については、A型は全員
保育士ですけれども、B型は配置基準上二分の一の
保育士がおればよい、C型も
研修修了者でよい、
事業所内
保育においては、十九人以下の場合、小規模のA型かあるいはB型を使ってくださいというような基準へと変わってきています。二十人以上のところは、これは
保育所と同じ基準が適用されるということで、全員
保育士ということになっております。
ここで見て分かるように、
保育士を一〇〇%配置しなくてもいいような基準が設けられ、そういう運用がされているということが私は大きな問題を含んでいると思っています。
研修修了者、
子育て経験の方を
研修してもらって
子育て支援員にしていくということでやっているわけですけれども、既に
研修が始まっておりまして、私が見させてもらっている中で、
子育て支援員という方は三十・五時間の
研修を受ける、
プラス見学実習が二日という、これで
研修修了ということになります。ちなみに、私どもの大学でも養成しておりますけれども、
保育士養成というのは、最低二年間大学に在籍し、千二百九十七・五時間の学習をするということになっております。
研修修了者と比べて随分大きな開きがある。そういう
研修の、私的に言わすと不十分な中での
研修修了者をもって
保育士に充てていくということは大きな問題を持っているというふうに認識しております。
そういう中でありながら、今回、今皆さんのところでも
議論なさっているかと思うんですけれども、
企業主導型
保育事業が法律として通過しました。この内容について、まだ細かい運用についてはこれからというふうにも聞いておりますけれども、その中で、ここに書いておりますけれども、
人数に関係なく
保育士二分の一でオーケーと書いていますのは、
企業主導型の
保育、
事業所内
保育と言い換えてもいいんですけれども、今まで
事業所内
保育においては、二十人以上の場合は認可
保育所の基準を当てはめるということで
保育士でなければならないというふうになっていました。そこを今回、二十人を超えても
小規模保育のB型の基準、
保育士は二分の一おればよいという基準に当てはめるという運営案の要綱が示されております。一五年度において
保育士の配置を規制緩和したことを更に規制緩和をするという方向性で
企業主導型の
保育事業が進められようとしていることに大きな矛盾を感じています。
このように
保育士の配置が緩くなっていくということは、三番目に書きましたけれども、
子供の命が危ないということを言わざるを得ません。
最近、
内閣府におかれまして
保育施設等での事故の件数が発表されました。私はこの事故件数どうなったかということを非常に関心を持っておったんですけれども、今年におきましては発表が何か遅かったみたいで、数日前に発表をされました。
その数字を見たわけですけれども、ここに少し書いておりまして、全容ではありませんけれども、認可
保育所において二件の死亡事故、認可外
保育施設において十件の死亡事故が発生しています。認可
保育所というのは、基本的に配置基準上は全員
保育士を置きなさいということになっています。認可外
保育施設というのは、
保育士は配置基準上三分の一おればよいということになっております。この
保育士の配置基準の緩い認可外
保育施設において十件という多くの死亡事故が発生しております。
認可
保育所、認可外
保育施設、それぞれの
入所児童から換算していきますと、実に認可外
保育施設での死亡事故の発生率は認可
保育所の六十倍という非常に高い比率になります。やはり
保育士の配置が少ないということが残念な事故につながっているということを物語っているのではないかと思っております。そういう見地からしましても、やはり
保育士の配置が非常に重要であるということも指摘しておきたいと思います。
四番目に、
保育士の配置において、
小規模保育事業等、全員
保育士でなくてもよいというものが導入されたわけですけれども、このことについて私は、
児童福祉法に抵触しているのではないかという、そういう認識をしております。
児童福祉法第一条第二項というのは、「すべて
児童は、ひとしくその
生活を保障され、愛護されなければならない。」となっております。「ひとしくその
生活を保障され、」、その
保育園での
生活が
保育士以外の人でもよいという扱いはやはり等しい扱いではない、そういう
意味で一条二項に抵触しているというふうに言わざるを得ないと私は考えております。法解釈がなされているわけではありませんけれども、一
研究者としてこういう見解を持っております。
やはり今後の
保育士整備はとても重要なことであろうかと思いますけれども、
保育士の配置をきちんとし、認可
保育所を中心に
整備する、そして
保育士を一〇〇%配置するということが欠かせないと思っています。小規模の
保育も、先ほども述べましたけれども、私は否定するものではありませんけれども、認可
保育所の設置基準が二十人以上となっております。この基準をある
意味下げて、五人でも十人でもいい、そのような認可
保育所をつくることも可能でして、そういうことをすれば
保育士一〇〇%の
制度ができます。こういった点での
整備が私はとても重要ではないかということをお伝えしたいと思います。
このように述べていきますと、お金の問題がどうしても出てこようかと思います。財源をどうするのかということになるわけですけれども、今回、
企業主導型
保育事業におかれましても、
事業主
負担の比率というものが増えるということが出てきました。
仕事・
子育て両立支援事業において、
事業主の拠出金、これが今回、標準報酬の〇・一五%であったものを〇・二五%へと上げて財源を
確保し、
企業主導型
保育をやっていくということを聞いております。このことは非常に、
企業が一定
責任を持って
負担をし、経済発展のためにも
女性労働力を使うという
政府方針にも合致していることで、当然
事業主が
負担することは私は理にかなっていると思います。
そういう
意味で、こういう拠出金を引き上げたことはいいことではないかなと思ったんですけれども、一方で、新聞報道を見ておりますと、
雇用保険の保険料率を一%であるものを〇・八%へと下げました。これで、合わせますと結局
両立支援事業の引上げは相殺されてしまうということで、
企業にとっての
負担は結果的には上がらないということが用意されていたのかなというふうに思いまして、やはりまだ
事業主
負担をきちんと上げるという方針までなり切れていないというふうに私は思いました。
子ども・
子育て支援新
制度、これが政権が替わりながらいろいろ
議論をされてきました。当初新
システムというふうな
言葉で言われ、その後新
制度というふうに定着をしていったわけですけれども、新
システムとして
議論されていたときに、今回も導入されましたけれども、特別会計として、
子ども・
子育て支援に関するところの特別会計、
子ども・
子育て勘定というものをつくろうという
議論がありました。その中でモデルがフランスの
全国家族手当金庫を使われていまして、この内容も紹介されていました。このフランスの手当金庫から見ますと、
事業主が歳入総額の五一・四%を
負担するという、半分以上
事業主が
負担をするという仕組みを持っています。そして、賃金の五・四%を
事業主が
負担をすると。多く
事業主が
責任を持ってやるんだという中身があるわけですね。
こういうことを国も資料として出されたということは、
事業主
負担を何とか増やしたいという意向もあったかと思いまして、このことがより実現することを私は願っていましたけれども、先ほども申しましたように、十分な
財源確保を
事業主に求めるというところまでは行かずじまいに今なっているのが現状かと思っております。
新
システムとして
議論されていたときに、
社会全体、国、地方、
事業主、個人により必要な費用を
負担するという、こういうことが文章でも述べられていました。やはりこのことを誠実に全うしていただきながら、
財源確保をし、
保育士の配置をしっかりと賄い、命を大事にした
保育現場をつくっていただきたいということをお願いして、私の
発言を終わらせていただきます。
どうもありがとうございました。