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参考人(
鈴木準君) 大和総研の
鈴木でございます。
本日はこのような機会をいただきまして、大変ありがとうございます。
私は、民間シンクタンクで
調査をしておりますその立場から、
信頼社会の
構築という基本に立ちましたときに
成長と
財政健全化の
実現をどうすればいいのかということ、なかんずく
社会保険としての
社会保障の
在り方について
意見を申し上げたいと思います。(
資料映写)
スライド一枚目が私申し上げたいこと、あるいは今後の
改革において必要な視点だと考えております。
第一に、現在と今後見込まれる高齢化率を踏まえますと、賦課方式だからこそ年齢だけで区別する
制度の見直しが必要ではないかということ。
第二に、
社会保障というのは、これは
政府の
財政制度を通じてやっておりますので、
デフレ脱却あるいは
経済成長に成功すればするほど金利が上がるかもしれない、あるいは団塊世代の人口動態を考えますと余り時間がない、もはや
議論の段階ではないのではないかということであります。
第三に、
社会保障の問題はずっと言われ続けていて、解決に向かっているという実感が余りない。具体的な数字でやはり選択肢を示していただいて、民主主義を通じてどういうふうにするか決めていくべきだろうというふうに思います。
それから第四に、
社会保障で、その
給付の効率化あるいは
負担の引上げが避けられないとすれば、それで経済とか
社会が立ち行かなくなったら元も子もないわけでありますので、それ自体やっぱり
成長戦略としてダイナミックに構想する必要があるのではないか。
第五としまして、
社会保障改革というのは、その時々の政権ですとかリーダーの問題意識に期待したいところでありますけれども、もう少し
国民全体の
社会運動といいますか、あらゆる主体が参加するような形でないとうまくいかないのではないかということを考えております。
二ページ目でございます。超高齢
社会に対応した
制度とする必要があるということと、それから
改革を急ぐ必要があるという趣旨の資料でございます。
ざっと御覧いただければと思いますけれども、私は、世の中では人口減少のことを少し心配し過ぎているといいますか、何かうまくいかないことを全て人口減少のせいにし過ぎているようなところがあるのではないかと。人口減少というのは、やっぱり
原因ではなくて結果ではないかと思います。反対に、高齢化に関しては、余りこれがもたらすであろう困難について軽く見過ぎているのではないかというふうに思っております。
三ページ目にお進みください。なぜ今人々が現在のシステムを持続性がないのではないか、先行きが暗いと考えているのかという点であります。
社会保障の財源としましては、今保険料三分の二ぐらい、それから税、言わば公費ですが、これを三分の一ぐらいというミックスになっているわけですが、まず、公費の
部分を見てみますと、右の図にお示しいたしましたように、九〇年代以降、
社会保障への公費
負担、この棒
グラフの赤茶色のところでございますが、
財政収支の悪化要因であり続けておりまして、また、そのインパクトもかなり大きくなっております。
二〇一二年の国会におきまして、立法府の御判断として
消費税を
社会保障目的税化し、あるいは税率を引上げを決めていただいたというのは歴史に残ることだというふうに私は思いますけれども、支出する側、お金を使う側の方の
改革が不十分のままですと、
消費税率をどこまで上げても
状況は良くならないのではないかというふうに多くの方が考えているように思います。
スライドの四枚目にお進みください。
今度は保険料の方の財源でございますけれども、
所得税とか
消費税の増税というのはもう百家争鳴になるわけでございますが、どういうわけか
社会保険料というのは静かに、しかし大きく増えてまいりました。左の図でございます。
私は、税と保険料というのは大きな違いがあるというふうに考えておりますけれども、強制的に徴収されて可処分
所得を減らすという点では保険料と税は同じでございますし、それから、雇主
負担の保険料というのも、これ
労働需要を減退させますので、そういう意味では広く家計
部分が
負担しているというふうにも考えられます。
右の上の図でございますが、これは家計
調査から税と保険料の
負担を見たものであります。これ、二〇一四年ですので
消費税率引上げの期間を、当然四月以降を含んでいるわけですが、
消費税対比なんかで御覧いただきましても、この緑色の本人
負担分だけでも、
社会保険料、これだけの大きさでございます。
右下の図を御覧いただきますと、ここでは家計
調査ベースの勤労者
世帯で、定額保険料である自営業者の方が入っておりませんし、それから家計
調査のカバレッジがどうかという問題ありますので、図で緑色のラインがこう逆進的なところまでは出ておりませんけれども、先ほど
大沢先生のところでもございましたように、
社会保険料というのは非常に逆進性を持つような、そういうところがございます。いずれにしても、低
所得層で
負担感が強いのは、
消費税というよりは
社会保険料の
状況にもはやなっているのではないかと。
社会保険というのは
財政といえども保険でありますので、
所得にかかわらず保険料の
負担率がそんなに変わらないというのはある意味合理性があるわけですが、その
レベルが全体としてどんどん上がってきているというのは大問題だと思います。
さらに、最近はその低
所得者の保険料
負担について、今度は
消費税増税財源で保険料を減免するということを一部やり始めているわけですが、こうすると、保険の原理といいますか、保険数理的な公正さという点ではだんだん税との境界がよく分からなくなってくる。さらに、
消費税増税は
消費税増税で、これ低
所得者対策が必要で、
給付と税制で配慮が必要だということになってきますと、一体どういう思想で
改革をやっているのか、その理解が非常に難しくなっている、こういう
状況ではないかと思います。
五ページ目にお進みいただくと、これも増え続ける
社会保障に関する費用
負担の問題意識でありますけれども、世代間で見ましたときに、やはりそれは
社会に大きな問題を投げかけていると思います。
経済学者の
先生方が世代会計という手法で世代間不公平の
議論をいろいろされておられますけれども、この左図のように、より直接的に、保険料の
負担率を見るだけでも世代によってこれほどの違いがございます。後の世代になるほど
負担率が高いということは、これはもちろん
高齢者が増えているので高くなってきているということでありますが、高齢化要因だけでは到底説明が付かない、つまり
高齢者向けの
給付の
実質的な一人
当たりの
レベルを上げてきた、これでこう上げてきているということがございます。
右図は貯蓄率ですけれども、最近の世代ほど貯蓄率が高い傾向があります。これは、
雇用が非
正規化しているとか、あるいは将来
社会保障で守られる度合いがこのままでは
低下するんじゃないか、そうしますと同じ
所得であっても貯蓄率は高くなります。こういう当然のことが起きていると。私は、個別には工夫すべき面がたくさんありますけれども、
高齢者向け
社会保障給付を
平均的に見ればかなり国際的にもトップクラスではないかというふうに見ております。
六ページでは、現在の
高齢者向け
給付を増やしていったらどうかということをちょっと詳しく数字で
議論させていただくことをお許しいただきたいと思います。
これ、左の図と右の表は同じものでございます。現在、六十五歳以上人口一人
当たりの
平均的な年金、医療、介護の受給額、これは
実質二百五十三万円です。これが五十年後、二〇六〇年、約五十年後ですね、二〇六〇年度にどうなるかを一定のマクロシナリオと整合的に試算した結果をお示ししております。
まず、
成長戦略に失敗して経済が低迷し続ける
ケース①、これで
制度現状維持、
改革なしの場合には三百二十九万円になりまして、
社会保障全体の
GDP比は、現在一九%が三一%、これ左の図の
横軸になりますけれども、膨れ上がります。これに対しまして、
成長戦略に一定の成功を収める
ケースの②、これでこの現状維持、
改革なしですと、四百二十三万円になりますが、
GDP比は二五%にとどまると。
ただ、いずれにしましても、この
改革をしませんと、
政府のプライマリーバランスはずっと半永久的に赤字でございまして、右の表の一番右側の列にございますように、現在一九〇%の公債等残高
GDP比、これが
ケース①でも
ケース②でも発散していくと。これは、現在の
社会保障制度はどこかで
財政的な破綻をもたらすのではないかということであります。
ところで、ここで
高齢者一人
当たりの金額というのは
物価で
デフレートした
実質額を御覧いただいておりますけれども、もっと重要であるのは賃金で
デフレートしたものであります。どうしてかといいますと、
社会保障制度というのは賦課方式でやっておりますので、
成長率の高い低いということではなくて、賃金との対比で
給付をどうしていくかということが
ポイントだからであります。
ケース①にしろ②にしろ、賃金対比の
高齢者向け
給付は、現在を一〇〇としますと、二〇六〇年には、マクロ経済スライドなんかをやりますので九二を、マクロ経済スライドをやったとしても九二を維持していると。
左図ですと、それが括弧の中に書いてある数字でございまして、この円の大きさが賃金で
デフレートした
給付水準を示しております。これ、イメージとしては、お隣に働き盛りのお宅がある
高齢者の
世帯の
生活水準が現在と比べて五十年後にどうなるかというイメージでこの丸の大きさをイメージいただければいいと思います。
さて、ここで、
財政健全化のめどとして、公債等残高
GDP比を五十年後に一〇〇%、今の半分ぐらいに下げるということを今から十年間で取り組もうとしたらどんな
改革が必要かということを考えてみました。ここでは、両極の
ケースとして、
消費税なんかを引き上げずに
給付抑制だけでやるというのが
改革A、それから、今後十年掛けてヨーロッパ並みには、
消費税を二〇%ぐらいまで上げて、同時に、足りない分は
給付抑制を行う
改革Bというのを考えてみました。
すると、低
成長の
ケース①の場合、
社会保障制度を全面廃止にでもしない限り、これは
改革Aでは
社会保障制度の持続性を回復できないということになります。もちろん、だらだらとやっていけば二一〇〇年以降ぐらいに公債等残高が落ち着くということはあるわけですが、今から十年間ぐらいで
改革をやろうとするとできないと。
それから、
改革Bの場合には、
消費税は二〇%にしつつ、
実質給付を現在から四割減らして百六十一万円ぐらいにすれば一応その
改革はできる、一〇〇%になると。ただ、これほど厳しい
高齢者向け
給付の抑制というのは政治的にも経済的にもできませんので、この
ケース①の
ケースというのは、やっぱり
経済成長あるいは人口の安定化の努力が必要だということを示していると思います。
では、②はどうかと。
成長戦略がある程度うまくいった場合ですが、
改革Aですと、
物価で測った
実質給付を現在から二割ぐらい減らして二百六万円に抑制できれば、
消費税は一応一〇%に上げるというのが
前提ですが、一〇%のままでも破綻はしないと。ただ、この場合でも賃金対比では四五ですから、ちょっと余りにも開き過ぎだと。
そして、
ケース②の
改革Bですね。これは
消費税を二〇%に上げて
給付を四百十二万円に維持できています。賃金対比では九二であります。これがそのもう
一つの極だということなんですが、仮に二〇二〇年代半ばまでに
消費税を二〇%までに上げるというのは大
議論になると思いますし、一方で、超高齢
社会の中で、賃金対比の
平均給付を今と余り変わらないことで許されるのかということもあります。
私はかねてより、これ賃金対比で七〇ぐらいにすべきじゃないかということを申し上げているんですが、それ、金額で申し上げると大体三百十万円とか三百二十万円。ここで是非御認識いただきたいのは、それは、今の二百五十三万円より減らすという話ではないということであります。実際にはいろんな
成長とかあるいは
改革の期間によって数字は変わってきますけれども、この円の大きさ、これをどれぐらいにするのかという選択がまさにどういう国家像を目指すのかということではないかと思います。
さて、
高齢者向け
給付をコントロールすることに合理性とか納得性があるのかということをスライド七から十一でお示ししております。
七ページの左図は御覧いただきましたとおりであります。
高齢者向けばかりが増やされてきたと。右図は、求職者
給付の実人数を失業者で割った割合をカバー率ということで示しているんですが、かつて一〇〇%でしたが、今は何と二〇%であります。これは違う
制度でいろいろカバーされているのかもしれませんが、それにしても、長期失業とか、あるいは一旦非
労働力化して
労働市場に戻ってきたときの対応とかが全くできていないという、そういうことではないかなというふうに思います。
スライドの八は、これ右図を御覧いただくと、
世帯主年齢六十歳以上ないし六十五歳以上の皆様の
消費は非常に伸びてきたし、ここ十年、二十年も堅調であると、一方で、現役層は
消費を切り詰めているということであります。
スライド九、これは、左図が
世帯の分布、当然高齢化しているので
高齢者世帯が増えて、壮年、
若者世代が減っているということですけれども、その右側の図でジニ係数を見ております。これも、ジニ係数、御存じのとおり、ゼロと一の間で数字が大きいほど不平等だということですが、もちろん
高齢者が若い人よりも過ごしてきた時間が長いですから、不平等になっている、
格差が大きいということは昔も今も変わりませんが、時系列で見れば、これは
高齢者では平等化が進んでいて、今、働き盛りあるいは
若者のところで非常に不平等が進んでいるということを見ていただけると思います。
スライド十、これはとても今の高年齢者の皆様はお元気だということでありまして、今、運動習慣があって健康維持を図っているのは
高齢者でありまして、現役はますます運動不足。右は体力テストの結果ですけれども、若い人の運動能力は落ちていますが、
高齢者はますます身体的にも強くなっていると。
高齢者が元気だというのはとてもすばらしいことですし、これからの
高齢者はITリテラシーも皆さんお持ちで、私は相当工夫すれば活力ある高齢
社会というのはできるというふうに思っております。
スライド十一は、主として
高齢者向けの低
所得者対策がかなり
制度縦割り型あるいは重層的になされつつある
状況というのは少し整理すべきではないかということであります。
平均的な措置として数百万人、数千万人という単位でいろんな配慮を広げていきますと、ますます
制度の持続性が疑われることになりはしないかと。引退層というのは当然、これは定義関係からして
所得がないわけでありますから、フローの
所得ないわけでありますから、それだけ見ると自動的に低
所得者になっちゃうと。
しかし、本当の弱者というのは、低
所得者ではなくて低
消費者だと思うんですね。ですので、先ほど御覧いただいたように、
高齢者は必ずしも
平均としては低
消費者ではないわけでありますので、マイナンバーも入りましたので、可能な限り本当の弱者にきめ細かく重点的に、しかし重複は避けながら目配りをしていく
方向が望まれるのではないかと。
ですので、スライド七から十一をまとめますと、もちろん
高齢者のフレイル対策とかそういうことは大
前提で重要ですけれども、少し
高齢者向けに寄り過ぎている
状況を、もう少し働き盛り世代、子育て世代、
若者世代、あるいは
子供たちに政策資源の配分の軸足を移していくべきではないかと思います。
十二ページから十五ページは、申し上げましたような視点の
改革について、もう
一つ重要な点として経済との関係であります。
こういう
改革を行えば、全体としては配分を変えつつも
給付抑制と
負担増ということになりますので、当然経済に悪
影響が出てくると。これに対する回答が必要なわけですが、十二ページの左図に御覧いただけるように、
政府の資金不足の幅を縮小させたいわけですが、民間部門の資金余剰幅を同時に縮小させないとこれは
実現しない、つまり二兎を追うしかないし、追うことが正しい政策であると。
これはもちろん民間部門の責任も相当大きいわけでありますが、
政府ができることとしてはこの
社会保障改革を
成長戦略に結び付ける。これまで
政府が直接現金や現物を必要なだけ、あるいは必要以上に全面的に配るという役割を担おうとしてきましたけれども、これだと幾ら
負担を増やしても足りないと。もう少し民間とその補完関係を強化して、最低限必要なところは、これは皆保険、皆年金でやりつつ、
社会保障ちょっと減っていく分というのは、これはやっぱり民間のところで補完していくようなそういう設計、あるいはそういうことをやっていく新しい産業や
雇用をつくっていく、こういう大きな構想が求められるのではないかと思います。
医療、介護、保育といったいわゆる官製市場というのは、これは需要の行列が御存じのとおりできております。これは、ですから余りうまくいっていないということだと思うんですね。ですから、そこにもう少し民間の知恵を入れていけないかと。何か全部民営化するとかそういう話ではもちろんなくて、そのミックスの仕方の工夫だということであります。そうでないと、少子化がますます進んで、経済もこの
社会保障も立ち行かなくなると。
そういう観点から、スライド十四と十五が最後でございますけれども、
政府が骨太の方針二〇一五に基づいて、今、経済・
財政一体
改革ということを行っておられて、非常に期待は大きいものだと思います。
これ、全府省庁が一体となって取り組むとされているわけですが、
社会保障につきましても四十四項目について
改革を含んでおります。私もその
議論に現在関与させていただいておりまして、だから宣伝しているというわけでは決してないんですけれども、この
改革というのは、先ほど申し上げた経済と一体的に物を考えているということで今までとは違います。
それから、既に二〇二〇年度までを照準に置いて個別具体的に
改革工程を詳細に決めまして、
改革の進捗を検証するルーチンとしてのシステムを確立しようとしております。これ、トップダウンで歳出にキャップを掛けるということではなくて、ボトムアップで
社会の効率性を上げようとしているという
改革です。
スライド十五には、
社会保障に関する
改革工程のエッセンスを掲載いたしました。
私が申し上げるのも僣越ですけれども、関係府省の皆様、極めて熱心にこの
改革に取り組まれていらっしゃいます。是非
先生方にも、御指導、御
協力を
お願い申し上げる次第でございます。
健康
社会を目指すためには
国民挙げての取組が必要ですので、現在をもっと
データで見える化して、専門家でなくても課題の存在ですとか現状を変える必要性が分かるようになって、それで広く
国民、住民の納得感を醸成しながら変えていく、こういうプロセスを進めようというのはチャレンジする価値のある取組だというふうに考えております。
以上、私の
意見陳述とさせていただきます。
御清聴ありがとうございました。