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参考人(
竹中治堅君)
竹中でございます。
今日は、国の
統治機構に関する
調査会にお招きくださいまして、とても光栄に感じております。大変勝手なことを言うかもしれませんが、
一つの
意見として
参考にしていただければ、一
研究者として、そして一
国民としてとても光栄に感じる次第です。どうぞよろしくお願いいたします。
そして、何か今までにない
改革案ということで
大山先生がすばらしい案を出されて、自分もかなり考えてきたつもりなんですが、ちょっと
大山先生には及ばないかもしれないなと思っているところでございますが、始めさせていただきます。
まず
前提は、既に
大山先生もさんざん強調されたことなんですけれども、
参議院はとても強いということですね。
参議院の目指すべき姿を考える
前提として、
参議院の
独自性を考えなければならないと思っております。
日本は
議院内閣制を取るということを習ってきているわけですが、その中でも、
参議院は独特の地位があるということでございます。
議院内閣制はどういうものかといえば、
内閣の存立は
議会の信任によると。要は、
議会の多数派から
支持を得られる人が
首相になって、その
首相になった人が
内閣を
構成する、そして
内閣は
議会を
解散可能だし、
議会は
内閣不信任案を可決することができると、これが
議院内閣制だと思うんですね。
この
関係が実は
日本国で成立しているのは
衆議院と
内閣の間だけでございまして、
参議院と
内閣の間にはそういう
関係は全く存在していないわけですね。
首相指名選挙というのはもちろんございますが、これは
衆議院の
議決が優先する、そして
参議院議員の
方々の任期は六年間保障されていますので
解散がないと。
ですから、
議院内閣制というのは、基本的には
立法府の多数派が
行政権をコントロールしておりますので、
行政府と
立法府が対立して国政が停滞するということはそもそも考えられていない
制度だと私は理解しています。ただし、
日本国の場合、
日本の
統治制度の中では
内閣と
参議院が、要は、
内閣は必ずしも
参議院の多数派によって
支持されるということを保障している
制度ではないわけですね。
憲法は、
内閣と
参議院の多数派が異なる場合に、要は、
内閣が
参議院の多数派によって
支持されていない場合にどういう
解決策を用意しているかというと、これは
衆議院を
参議院に優位させることによって解決しようとしているわけです。ただし、御
案内のとおり、
衆議院の
参議院に対する
優位性というものは極めて弱いわけですね。三分の二の再
議決要件、そして三分の二が確保されている場合でも、御
案内のとおり六十日ルールというものがございますので、再
議決を使うのはかなり難しいということがございます。
なので、
考え方によっては、
参議院は
解散されないので
内閣の最
重要法案を仮に否決した場合でも
ペナルティーはない、
ペナルティーという
言い方は変ですけれども。もし仮に
衆議院が
内閣の最
重要法案を否決した場合には、
内閣は
解散・総
選挙をすることによって
国民に信を問えるわけですけれども、
参議院に対してはそういう手段はなかなかないと。もちろん、小泉さんはいろいろなことを考えられて
衆議院を
解散したわけですけれども、それはやはり。ただし、
参議院自体は
解散されない、
ペナルティーがない。ですから、
考え方によっては
参議院の方が
衆議院よりも強いかもしれないと、その
法案を否決するというか、
法案をブロックするという
意味においては
参議院はより強いかもしれないということですね。
そして、
予算や
条約も
衆議院が優位するわけですけれども、大体
関連法案を伴っておりますので、ですから
関連法案とセットじゃないと、
予算が承認されても、あるいは
条約が批准されても実際に執行はされないので、
参議院はそこでも、
予算や
条約に対しても強い
影響力を及ぼしていると。ですから、
考え方によっては、
首相を指名するという
権限を除けばむしろ
参議院の方が
衆議院に優位しているぐらいの力を持っているというのが
参議院の、これが現実だと思います。
なので、一九九九年以来、
参議院は
政権の
構成にも強い
影響力を及ぼしていると。これは今に始まった話じゃなくて、
ワンマン首相と言われた
吉田茂首相も、
参議院で多数派の
支持勢力を確保していなかったのでとても御苦労をされて、
参議院で何とか多数派を組むために
連立工作を
参議院の
少数政党に対して働きかけるという歴史的事実がありますので、これは今に始まったことではないということですね。
参議院の
影響力を見る場合に、ともすれば
参議院における
法案審議というものが、世論というか我々一般のマスメディアなどでは注目されることが多いと思うんですが、この
政策決定過程、
政治過程全般について
参議院の
影響力というのは見るべきであろうというのが私の考えです。
そうしますと、では
平成年間に、
平成になってから
参議院はどういう
影響力を行使できたのかというと、多くの
重要法案を否決したり、あるいは修正してきました。そして、先ほども少し申し上げましたけれども、
政権の
構成に大きな
影響を与えております。これは、基本的には
参議院で
過半数を獲得するために組まれてきている
連立内閣です。
そして、
大山先生も既に
お話しになりましたけれども、この
平成、特に二〇〇〇年代に入ってからの特徴は、
参議院の多数派と
衆議院の多数派が異なる、そして、二大
政党が衆参をまたぐ形で浸透しまして、
自民党政権の福田、
麻生内閣、
自民党政権に対しては、
参議院で
民主党を
中心とする野党が
過半数を取ったことを利用して徹底的に
政策立案を妨害すると。そして、そういうふうにやられたからというわけではないと思うんですが、今度は
民主党政権に対して
自民党と
公明党はやはり多くの
政策立案を妨げたということがございます。そして、さらに
野田内閣に対しては、
参議院で
重要法案を、
言い方は悪いかもしれませんが、
人質に取って
解散を要求すると。ということで、
政権の命運すらも
参議院が握るというような強い
影響力を保持してきたわけです。
そして、第二次、第三次
安倍内閣になってからは
参議院はどういう
影響力を及ぼしているかというと、一番顕著な例は、先般来注目されてきました
集団的自衛権の行使に関する
憲法解釈変更及び
安保法制の
内容について、これはもちろん、
連立内閣の内部で
公明党がより厳しい条件を求めたことによって、実際
自民党が考えていたよりもより厳格な
内容になったと私は理解しております。これも、
公明党と
自民党が何で
連立内閣を組んでいるかといえば、それは大きな
理由があるかもしれませんけれども、その最大の
理由はやはり
参議院で
過半数を獲得することが
目的なので、こういう形でもやはり
参議院は
影響力を行使しているんだというふうに理解するべきだと私は考えております。
基本的にこれまで
参議院がどういう
役割を果たしてきたかということをまとめますと、
参議院は、
内閣と
衆議院が一体となって行う
政策立案、特に立法を
抑制してきたということで、その
抑制すると同時に、一種の多様な
意見も
反映させてきたということだと思います。
これは、そもそも
二院制を設けている
目的は何かといえば、それは
抑制と
均衡、そして
多様性の
反映ということなので、その
目的に沿う形で
参議院は機能を果たしてきたと思うんですが、ともすれば、やはり
特例公債法案を
人質に取るとか
重要法案を
人質に取って
解散を要求するとか、ここ近年ではやや行き過ぎていて、これは必ずしも
国民の理解を得られるものではないのではないかと、これはもう
大山先生が先ほどおっしゃったとおりでございまして、私もそのように考えております。
ということで、
政策、要は
参議院における
法案審議だけを見ると必ずしも
参議院の
影響力というのは注目されないかもしれないですけれども、その全
過程を見ることによって、
参議院はとても強い
影響力を果たしているということが分かるということです。
それでは、
参議院はどういうことを目指すべきなのかというと、基本的には
二院制の
目的を果たすこと、これは
抑制と
均衡と多様な民意の
反映ということだと思うんですが、やはりある程度
影響を
発揮しているということを
国民に分かりやすく見せないと、
参議院は何をやっているんですかということにやはりなってしまうので、この見える化ということが必要なのではないかと。
もちろん、
政治家の
方々、閣僚、
首相は
政治のプロですから、
参議院の
影響力を織り込んで、その前の、
参議院の
法案審議に至る前に、もう
内閣の中で
法案を準備する
過程、それが駄目ならせめて
衆議院で
法案修正ということで、
参議院に来る前に決着させようとする強いベクトルが働くわけだと思うんですね。ただ、一部の
重要法案については、やはりある程度
参議院で
法案修正をしないと、
国民にはやはり
参議院が
影響力を行使しているということは伝わらないんだと思うんですね。
私は
参議院のことを
研究しておりますと言いますが、多くの人は、そういう話を聞いて
参議院って何やっているんですかと、大変失礼な
言い方かもしれませんが、そういうことを言うわけですね。これは、もっと
重要法案を、例えば
安保法制だって
参議院で修正というのが一面トップに飾るようなことが続けば、
国民は、ああ、第
二院はちゃんとチェックしておるじゃないかということになると思うんですが、そういうことを果たしていないということがあります。
それから、やはり一層の
政策立案、提言、多少センセーショナルな形でもいいかもしれません。
調査会が三つありますから、そこを利用して国が抱える問題に関して積極的に提言されれば、やはり
参議院の
存在感というのは更に増すのではないかと思います。
そして、この
抑制と
均衡と多様な民意を
反映させるために更に細かく見ていきたいんですが、まず考えるべきは、現行
憲法の枠内で何ができるかということです。これは、やはり更なる
選挙制度改革をする必要があるだろうと。
多くの
参議院議員の方からすると、四・七五から三・〇まで行ったんだから、もうこれで十分ではないかと思われている方は多いかもしれないんですが、しかし、まだ較差は残っているわけですね。そして、多くの一人区があります。一人区があるので、今は必ずしもそうなっていませんけれども二大
政党制が成立しやすくなって、二大
政党制が成立しやすいがゆえに、
参議院で強い勢力を取った野党第一党が、
参議院で与党が
過半数割れした場合にその状況を利用して次の総
選挙で自分たちが
政権を取れるように、有利な状況にするために徹底的に
政権を追い込むというベクトルが働いてしまうので、やはり一人区は解消していくべきではないかと思っています。
そして、何よりも強調したいのが、先ほど来
大山先生と私が言っていることなんですが、
参議院が強いからこそ、そういう強い
権限を有している院に代表される
方々は平等原則を徹底する形で選出されるべきであると。なので、一票の価値の平等は原則として貫かれるべきで、三・〇二では不十分でありまして、これは限りなく一に近い数字に持っていくべきだろうということで、あと、
衆議院の
選挙制度との
関係も考えるべきだと思っています。ですから、
衆議院の小
選挙は
政権選択、
参議院選挙は多様な民意を
反映させるということですね。ですから、私がふさわしいと思うのは、ブロック別の大
選挙区制にして、ブロックの
定数をブロック
ごとにすれば、かなり一対一に近い一人一票の原則を貫く形で
定数配分もできますし、大
選挙区にすることによって中小
政党も
当選しやすくなるので、そこで多様な民意も
反映させやすくなるのではないかということですね。
あともう
一つは、これはもういろいろ
改革案は既に出尽くしているなと思っているんですが、
一つ言われていないことが両院協
議会ですね。
これ、今の両院協
議会だと、
衆議院で賛成した側と
参議院で反対した側から十対十ずつ出てきて、また三分の二以上の人が賛成しないと成案ができないので、これじゃ成案まとまるわけがないんですね。なので、両院協
議会は、これは国会法で
内容を規定できますので、両院協
議会を全国会
議員集会にしてしまうと。そうすると、
衆議院と
参議院で、基本的には多分
衆議院の
意見が通りやすくなるんですが、
衆議院の間でもかなり
意見が割れているような非常に競ったような状況ですと、
参議院議員の
方々がどう判断を下すかというのがその成案を取れるかどうかということに
影響力を
発揮できるので、これはちょうどバランスが取れた
二院制、
二院制の
目的を考える上でバランスの取れた両院協
議会になるのではないかなと考えております。
そして、
憲法改正、もう今の現行
憲法にとらわれず、
憲法改正も考えて
参議院のどういうことを目指すべきかと考えた場合に、まず
一つは、六十日ルールの再検討が必要でしょう。これは、この目まぐるしく変わる今日、基本的に六十日ルールが使われる場合はどういうことが起きているかというと、六十日間
法案がたなざらしにされる危険性がかなり多くて、そんなに待っていられないのではないかと、やはりこれは三十日ぐらいに短縮するべきではないかと。
それから、再
議決要件をどう考えるかということがとても重要だと思います。三分の二の再
議決要件を維持するのであれば、やはり平等原則は徹底していただきたいと。三分の二再
議決要件を緩和して再
議決要件を二分の一にするんだったら、最終的には、
衆議院の
選挙制度が最近進んでおりまして平等原則が徹底される方向に行っておりますから、民主主義の基本である多数決原理が働く
衆議院の
意見が最終的には通るということを
前提とするならば、様々な
選挙制度を考える、一人一票にとらわれず、
定数較差にとらわれず様々な
選挙制度を検討する余地が出てくるのではないかと。
一つは、
大山先生もおっしゃっていたように、純粋な
都道府県代表制にしてしまうということですね。それからもう
一つは、年齢別
選挙区制ということも可能なのではないかと。これは、ゼロ歳から十歳、十歳から二十歳、二十歳から三十歳、三十歳から四十歳、四十歳から五十歳、大体十歳置きに代表を決まった数を選ぶということでございます。
日本はシルバーデモクラシーということが言われておりますけれども、このままいくと、高齢者の
方々の方が未来を担う若者よりも多数になってしまうかもしれないということですね。それはやはりいろいろ問題が多いのではないかということで、各年代
ごとに平等の
発言権を認めるということも
参議院で考えてもいいのではないかと思います。
そして最後に、
憲法改正する場合には、
日本の
参議院の
独自性を分かりにくくしているのはやはり
参議院が
首相指名選挙を行っているということだと思いますので、これはいっそ廃止してしまうということで
参議院はもう
内閣から独立しているんだということをより明確に、自らこの
権限を手放すことによってというか、
参議院の独立性というものがよりはっきりして、独立した
立場から
政策立案に関与するんだということを、
参議院の独立宣言みたいなものかもしれませんけれども、そういう改正も考えていただいてもいいのではないかなと思いました。
以上、簡潔ではございますけれども、私の
意見を述べさせていただきました。
どうもありがとうございました。