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参考人(
指宿昭一君) 私は、この
制度については反対であります。その理由を四点にわたって述べさせていただきます。
理由の一番が、まず家事労働の社会化と男女の平等な分担が進んでいない
日本の
状況を固定化するおそれがあるということです。今、
石破大臣からは、家事労働はとても難しくて大変なものだという答弁がありましたけど、残念ながら、
日本社会の中でそのように深く認識されている
状況ではないと思います。
政府が進めようとしている女性の活躍
推進のためには、
外国人家事労働者の導入の検討の前に、まず家事労働を社会化すること、そして男女の平等な分担を進めること、これを検討するべきだと思います。これらが進んでいない
状況において拙速に
外国人家事労働者の導入を行うことにより、家事労働の社会化と男女の平等な分担が進んでいない
日本の
現状が固定化されてしまうおそれがあると思います。
反対する二番目の理由は、虐待などの人権侵害の危険があることです。家事労働は、個人家庭という密室で行われることから、家事労働者が虐待等の人権侵害を受けやすいという問題があります。これは、シンガポールや台湾などの受入れ国においても、あるいは
日本においても
事例が報告されています。特に、海外においてはこの人権侵害が社会問題化しているということも
報道されております。
そのため、このような
状況に対処するために、二〇一一年六月十六日、ILO総会は、家事労働条約、ILOの百八十九号条約ですが、これを採択しました。しかし、残念ながら、
日本は同条約を批准していません。そういう
状況の中で受け入れることにより、人権侵害などの危険性が極めて高いと
考えます。
なお、今回の
政府方針によれば、個人家庭での住み込みという受入れではなくて、時間単位で家事
支援サービス会社が派遣するという形が想定されてはいます。それでも、労働する場所は個人家庭でありますし、また今後、
制度が住み込みを可能とする形に
拡大する危険がないとは言えません。
また、
外国人家事労働者の受入れは、
外国人技能実習生の受入れと同様な問題が生じるおそれがあります。
例えば、受入れが特定の家事
支援サービス提供企業によって行われるために、
外国人家事労働者には
雇用主を変更する、働く場所を変更するという自由が事実上認められない危険が高いです。そのため、
雇用主に対して権利主張ができなくなるおそれがあります。しかし、
外国人家事労働者の人権、権利を保障するためのシステムについては検討がなされていません。このような理由から、虐待等の危険が極めて高いと
考えます。
反対する理由の三番目は、将来、労働基準法の適用をされない
外国人家事労働者の受入れにつながるおそれがあることです。
既に
外国人家事労働者の受入れがなされている諸
外国においては、家事労働者に労働諸法令の適用が排除されている場合が多いです。
日本においても、労基法百十六条二項は、家事使用人、これが家事労働者に当たるわけですけど、この家事使用人への労働基準法の適用を排除しております。ただ、本条の家事使用人は、個人家庭に直接
雇用されるものなどのことをいい、家事
支援サービス提供企業に
雇用されるものは含まれないという通達があります。今回、
政府が導入する
制度は、家事
支援サービス提供会社に
雇用される形での受入れであるため、労基法が適用されることが前提となってはいます。
しかし、今後
制度が
拡大され、個人家庭に直接
雇用される形での受入れが認められていけば、労基法の適用は排除され、最低賃金などの労働諸法令の多くが適用されなくなり、権利保護のない安価な労働力を確保する
制度として悪用されていく危険があります。
反対する理由の四点目は、国民的議論が十分に行われていない
状況で、
国家戦略特区において試行的に導入すべきではないということです。
このような問題の多い
制度を国民的議論を行うことなく
国家戦略特区において試行的に導入することは許されないと
考えます。試行的導入の後に、労働法の適用されない、極めて安価で無権利の家事労働者を導入することになるおそれがあることも警戒しなければなりません。
また、先ほどから議論されているように、単純労働者あるいは未熟練労働者と言うべきではないかと思いますが、この未熟練労働者の導入を例外的にせよ認めるという大きな変化なわけですから、
特区における試行的導入というのは誤っていると思います。
以上の四点が私がこの
制度に反対する理由ですが、更に追加して一点の疑問があります。
現在、
外国人家事労働者を受け入れる必要が本当にあるのかということです。
家事
支援サービス会社において特に
人材が
不足しているという
状況にはありません。この
制度の導入が議論されるに至ったきっかけは在日米国商工
会議所、ACCJの二〇一三年六月十三日の
意見書ではないかと思われますが、こういうところから議論が出てきて、当初国内の家事
支援サービス会社が受入れに積極的な姿勢を示していたわけではありません。
日本人ではなく
外国人労働者を導入して家事
支援をさせることの理由として期待されているのは、低賃金ということだけだと思います。家事
支援サービスの
利用料を下げるために
外国人家事労働者を低賃金で受け入れるとすれば、誤った施策だと思います。
以上の理由により、私はこの
制度に反対します。