○風間直樹君 先ほどの日銀の目的と手段の御
説明に比べるとちょっと声が小さくなられたようでありますけれども、実は、日銀の今の
金融政策の実態とFEDの実態、その中身についてのマスコミの報道、それから
岩田さんを始めとする学界の皆さんの理解と解釈、これが随分その実像とずれがあるんじゃないかというのが私の認識であります。
どういうことかというと、日銀は今、超過準備、日銀当座預金の残高の
増加というものを日銀の目標に掲げて、それを黒田
総裁が会見の中で天下に公にされて、そして
金融政策を進めている。一方で、FEDはそうはしていません。FEDが言っていることは、あくまでも長期金利水準を押し下げることによって
景気を下支えすることが彼らの目的だというふうに言っているわけであります。したがって、日銀との大きな違いは、この超過準備、当座預金残高の
増加を目標に掲げているか否かという点、これが大きいと私は理解をしています。
この点についての
岩田さんの御理解をちょっと確認をさせていただきたいんですが、お手元の配付
資料の一枚目を御覧ください。
これは、二〇一二年の
経済研究所年報という冊子に
岩田さんが書かれた論文であります。その中で特に私の目を引いた部分に傍線を引っ張りました。ここにありますように、
岩田さんはこう書いておられます。リーマン・ショック後、FRBはデフレでないにもかかわらず、デフレを絶対に阻止するために、マネタリーベースなどの流動性を大量に供給した。一方、そのFRBの
金融政策を見ている日銀、これは二〇一〇年頃から一二年頃の日銀のことを指していらっしゃるわけですが、デフレが続いているにもかかわらず、マネタリーベースなどの流動性の供給量をほとんど増やそうとしなかった。この日銀の行動は、FRBなどの世界標準の
金融政策の理論と大きく懸け離れた日銀理論の存在を知らなければ理解できない行動である、こうはっきり書いていらっしゃる。
ただ、これ、二〇〇〇年以降の日銀の取ってきた
金融政策と二〇〇八年リーマン・ショック以降のFEDが取ってきた彼らの
金融政策の実情を見ていると、本当にそうなのかなという疑問を感じるわけです。例えば、バーナンキ議長以下、二〇〇八年当時のFRBの幹部はこう言っています。〇一年から〇六年の日銀による量的緩和アプローチには効果がないと言明している、後ほど詳しく申し上げますが。
岩田さんの認識と全く違うんですね。
ですから、私は素朴な疑問を抱きました。もしかしたら、世界標準の
金融政策理論と大きく懸け離れていると御自身がおっしゃっているそれは、実は
岩田さん御自身の認識じゃないのかと。これからそのことを簡潔に述べたいと思います。
二〇〇〇年以降の日米の
金融政策、簡単に振り返ってみたいんですが、まず、二〇〇一年から二〇〇六年まで日銀の政策は、もうこれは言うまでもなく、量的緩和、事実上のゼロ金利の下で日銀の当座預金残高の拡大を図ったと。現在の比ではありませんが、それでも当時にしては思い切った拡大を図った。でも、マネタリーサプライは伸びなかった、物価も上がらなかった。それを見ていたFED、リーマン・ショックの後、二〇〇八年からどういう
金融政策を取ったのか。
私の手元に当時の、二〇〇八年十二月のFOMCの議事録があるんですが、そこからベン・バーナンキの発言、FOMCでの発言を引用したいと思います。
日本のアプローチ、量的緩和アプローチは、つまり〇一年から〇六年に取った日銀のアプローチは、中央銀行のバランスシートの負債側、特に準備預金やマネタリーベースの量に焦点を当てたものだ。その理論は、銀行に安いコストの資金を大量に配ることで、彼らが貸出しを増やし、それが広範囲にマネーサプライを
増加させ、物価を押し上げ、資産価格を刺激し、
経済を刺激するというものであると。バーナンキが言うとおりであります。続けて彼はこう言っています。量的緩和政策に関する私の評決は極めてネガティブだ。私には大きな効果が見えなかった。それゆえ我々は、FEDですね、量的緩和策とは異なる政策を
議論したいと。
つまり、
岩田さんが先ほどのこの配付
資料で書いていらっしゃるのとは全く異なって、日銀の例を踏まえて、我々
アメリカの
金融政策当局は、ゼロ金利制約の下ではマネタリーベースを幾ら増やしてもマネーサプライは伸びないんだと、物価は上がらないと
判断したんだと、こう言っている。この
判断によって彼らが
アメリカの
金融当局として目標に掲げたのは、物価の上昇ではなくて長期金利の水準の押し下げによる
景気の下支え。つまり、配付
資料の傍線引っ張りましたこの①、
岩田さんはデフレを絶対に阻止するためにと書いていらっしゃいますが、それでは十分ではない、長期金利水準の押し下げによる
景気の下支えをするために、その手段として
国債と住宅ローン担保証券の買入れを選択したと。同時に、ここが大事ですが、彼らは超過準備の
増加は目標にしていないわけであります。
このバーナンキの発言の後で、ドナルド・コーン副議長、そして現在の議長でありますイエレン各氏がバーナンキ氏と同じ認識を示しています。つまり、彼らは、日銀によるマネタリーベースの量に焦点を当てる政策には残念ながら効果が見えなかった、それゆえ
アメリカは量的緩和策とは異なる政策を
議論したいと、こうまで言っているわけですね。
この
岩田さんの文章に戻るわけですけれども、このような
アメリカ側の
議論を
考えると、その後の日銀、二〇一〇年から二〇一二年にかけての日銀がマネタリーベースなどの流動性の供給量をほとんど増やそうとしなかったと、こう
岩田さんは指摘されているんですけれども、それは当然じゃないのかというふうに思うわけであります。
岩田さん、この点はどんなふうにお
考えでしょうか。