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参考人(
渡邊頼純君)
柳田会長、ありがとうございます。慶応大学の
渡邊頼純でございます。
本日は、こういう席にお呼びくださいまして誠にありがとうございます。どうぞよろしく
お願いをいたします。
いただいた時間は二十分ということでございますが、私の簡単な
略歴等につきましては既に
事務局からお配りいただいた
資料に出ていると思います。それを御覧になっていただければお分かりになっていただけると思いますが、私は大学の教師をしておりますが、過去にはジュネーブで五年ほどウルグアイ・ラウンド、これを、
日本政府の代表部の方と、それから、当時はガットでございますが、ガット
事務局の方、合わせて五年の間見ておりました。また、一番近いところでは二〇〇二年から二〇〇四年、外務省の
経済局の参事官ということで、当時
交渉が始まりました日・メキシコの
経済連携協定、こちらの
首席交渉官を務めさせていただいたことがございます。考えてみますと、まさにもうこの三十年から三十五年の間、国際通商の問題、これを大学で議論すると同時に、そういう
交渉現場に入って
交渉をさせていただいたということがございます。
そのようなことでございますので、今日はできるだけ、学者としての側面と実際に
交渉を見てきた人間という立場も踏まえて、少し、よりダイナミックな議論ができればなというふうに考えております。
お手元に既にカラーで
事務局で御準備いただいたものがございます。やっぱり大学の教師ですのでまず
最初は用語解説から入ったりしておりますが、幾つかキーワードがあります。
一つは、やはりWTOという貿易に関する国際機関でございます。そこでは、特に最恵国待遇といいまして国と国との間で差別をしないという
原則がございます。言わば、この最恵国待遇の
原則の例外として自由貿易
協定というものがある。この自由貿易
協定というのは、
TPPも基本的には自由貿易
協定ですし、それから
日本が
経済連携協定と言っておりますのも基本的には自由貿易
協定でございます。自由貿易
協定というのは、その域内の加盟国の中で
関税あるいは非
関税障壁といったようなものを
撤廃をして可能な限り自由で開かれた通商を行っていくと、そういうことでございます。
日本はこれを
経済連携協定と呼んでいるということでございます。
非常に重要なポイントとしては、このFTAのところに書きましたように、赤字で出ておりますが、実質上全ての貿易、英語ではサブスタンシャリー・オール・ザ・トレードと言っていますが、可能な限り実質的に全ての貿易をカバーするんだということが条件となってこの最恵国待遇からの逸脱が認められているというところがポイントでございます。
一枚めくっていただきまして、スライド三
ページでございますが、まず
最初に先生方と共有しておきたい
現状認識としてこの三枚目のスライドを書いております。つまり、国際秩序は現在大変動揺していると。それをあえて一つの表現でくくるとすれば、世界は現在、統合に進むのか、インテグレーションの方に行くのか、それとも非統合、あるいは分裂と言ってもいいかもしれませんが、ディスインテグレーション。統合に進むのか、あるいは非統合に進むのか。
ウクライナ情勢、ISISの問題、それから昨年議論になりましたスコットランドのイギリスからの独立、あるいはイギリス自身がこれからEUから離脱するかもしれないというような議論も現在行われております。そして、やはり中国が主導しておりますAIIB、アジアインフラ
投資銀行、あるいはBRICS銀行といったような、
アメリカが戦後の国際秩序をつくってきて、その基本にあるブレトンウッズシステム、これに対するチャレンジということが始まっている。こういうようなことを全て含めて、統合か非統合かというところで国際関係は大いに揺れており、どういう国際秩序がこれからできていくのか。これは、まさに今日のテーマであります国際平和、そして持続可能な
国際経済の秩序、それに非常に重い
課題を投げかけていると申し上げていいかと思います。
次のスライド、四枚目のスライドでございますが、タイトルはWTO体制と三つのメガ
経済圏というふうになっております。ここはやはりもう一度先生方と確認をしておきたい点なんですけれども、私の考えでは、今世界
経済というのは三つの成長の極があると考えております。
一つはEU。ここには五億人超の人間がいまして、二十八か国で一つの
経済共同体をつくっているというわけです。それが徐々に、
経済だけではなくて政治、安保の面でも緊密な協力、あるいは国家主権というものを超えたレベルでの統合が進められている。もちろん今ユーロの通貨の危機とかいろいろあるわけですけれども、一つの重要な
国際経済の一角を成していると。
大西洋を渡りますと、北米大陸には
アメリカを中心としてNAFTA、北米自由貿易圏というのがあるということでございます。そしてまた南
アメリカ大陸に下りますと、そこにはメルコスールといったような、これも南米共同市場という形で
経済統合を目指しているということでございます。
そこから太平洋を渡りまして東アジア。これが三つ目の成長の極だと思いますが、この東アジアには現在、ASEAN十か国、さらにはそこに日中韓を加えたASEANプラス3、さらには
日本が提案をしておりましたオーストラリア、ニュージーランド、インドを加えたASEANプラス6といった東アジアの枠組みがございます。この東アジアの枠組み、
日本が
主張しましたASEANプラス6が、現在はRCEP、リージョナル・コンプリヘンシブ・エコノミック・
パートナーシップということでRCEPとなっておりますが、これが東アジアのFTAを構築しつつあるということでございます。
二十一世紀の今日の
国際経済体制というのは、非常に興味深いのは、この三つの成長の極、あるいは三つの成長の極でそれぞれ
経済統合が進んでいるわけですね、EUとかNAFTAとかあるいは東アジアのそれでありますとか。面白いのは、EUと米州、それから米州と東アジア、そして東アジアとEUとの間に、御覧のように、例えば
アジア太平洋にはAPECがあります。そして、APECを見習ってアジアとヨーロッパの間にはASEM、アジア欧州
会合があります。そして、EUと米州との間にはトランスアトランティックがあります。こういう形でその三つの成長の極、三つの大きなメガ
経済圏が、その
経済圏と
経済圏を結ぶ地域間の枠組みがあるということが、これが二十一世紀の非常に興味深い
展開ではないかと思います。
そういうことからいいますと、一枚めくっていただきますと、メガFTAというのが現在
展開をしているということでございます。世界のFTAの数は現在二百五十二件あるとジェトロが調べて数を出しておりますが、つまり、やはり一つの大きなトレンドとして現在はこのFTAが随所にあると。その随所にあるFTAが徐々に収れんしつつあって、それが、
アジア太平洋では
TPP、あるいは東アジアではRCEP、
日本とEUとのEPA、さらには
アメリカとEUとの間のTTIPというように、メガFTAが一つのトレンドになってきているということが特徴ではないかと思います。
そこで、
日本のEPAが今日どういう状況にあるかというのがその次の図でございます。
これちょっとアップデートする必要があるんですが、締結済み十三件とありますが、さらにオーストラリアが、今年の一月十五日に日豪のEPAが発効しておりますし、また
日本とモンゴルとのEPAも署名が済んでおりますので、十五件と申し上げていいのかと思います。そういう形で
日本も積極的に
経済連携をこれまで
展開してきていると。
もう一度一枚めくっていただきますと、そこに先ほどの図にちょっと変化を加えた図が出ております。
それは、もちろん三つのメガリージョンがある、そして、そこにそれぞれ、APEC、ASEMあるいはトランスアトランティックという地域と地域を結ぶ枠組みがあるわけですが、そこから、赤字で書いてありますけれども、APECから
TPPが出てきて、そしてASEMから
日本とEUとのEPAが
交渉されている、そしてトランスアトランティックではTTIPが議論されているというふうに、この三つの成長の極を結ぶ三つの地域間協力の枠組みが、単なる協力の枠組みを超えて
お互いに権利と義務の関係を条約という形で、法的に拘束力を持たせた自由貿易
協定として現在
交渉をしているということでございます。それが
TPPであり、
日本・EUのEPAであり、そしてまた米・EU間のTTIPであると。そこでそういう法的な拘束力を持たせたものにアップグレードしたというところが、まさにその重要性かと思います。
その下の図は、広域FTAの枠組みとメンバーシップということで、それぞれがどういう重みを世界の貿易の中で、あるいは世界の総
GDPの中で占めているかということを描いたものでございます。
そしてまた、その次の図は、それを世界の
GDPにどういったパーセンテージで重みを持っているかということを示しております。
TPPは三八%、世界の
GDPの約四割でございます。また、JCKと書いてありますのは
日本と中国と韓国の三国間FTAですが、これができますと世界の
GDPの二割。それが核となってできるRCEPは二八%という
数字が出ております。そして、米・EU間のTTIPは何と四七%になる。
このように、世界のメガFTAというものが現在
交渉されていて、それが地域と地域の間のある
意味で障壁というものをできるだけ小さくして、物とか
サービスとかあるいは資本の動きあるいは人の動きというものをより活発にしていこうということになっているわけでございます。
メガFTAの各種統計的数値というものを次の十枚目のスライドに挙げてございますので、それを御覧いただきたいと思います。
特に
日本にとってどういう重要性があるのかということでございます。それがその次、また一枚めくっていただきますと十一枚目のスライド、そして十二枚目のスライドに挙がっている点でございます。
これを御覧になっていただきますと、
日本から対世界の輸出で見ますと、
TPPが御覧のように約三〇%という数値が出ております。そして、RCEPもやはり重要でございまして、四五・八%という
数字が出ている。一部、
TPPとRCEPではメンバーシップも重なっておりますけれども、どちらもやはり非常に重要であると。
また、右の円グラフは直接
投資の残高でございますけれども、これは
TPPが四一%、RCEPが三〇%ということで、御覧のように、貿易と
投資いずれを取りましても、
日本としては
TPPもRCEPも、つまり
アジア太平洋の枠組みもそれから東アジアの枠組みも極めて重要なものであるということがこの図から分かるわけでございます。
さらには、十二枚目のスライドを御覧になっていただきますと、二〇〇〇年の図が左側、二〇一〇年の図が右側ということでございますが、これは特に先生方によく見ていただければ幸いなんですが、何を
意味しているかといいますと、いわゆる中間財ですね、これは
部品ということになります。
それは電気、電子の
部品であったり、あるいは自動車の
部品であったりということになりますが、その
部品の、中間財の貿易のパーセンテージが七割あるいは六割というのが例えば紫色あるいは濃いブルーの色で示されているわけでございます。
ですから、例えば二〇一〇年の図、右側の図で見ていただきますと、
日本から中国への中間財の輸出というのは、実は輸出全体の六〇%強ですね、これが中間財の貿易としてなされているということです。同じく、ASEANから中国への貿易も見ていただきますと、やはり中間財の比率が非常に高い。しかも、ASEANには
日本から
投資が行きまして、ASEAN
各国、タイとか
マレーシアとかフィリピンとか、そういうところで作られた、
日本からの
投資を行った会社ですね、その会社がASEAN
各国で作りました
部品を中国へ輸出する。
日本とASEANから、中間財貿易は非常に比率が高いというのは、そこにまさに
日本の
企業の参画というのが非常に大きいということを
意味しております。
そして、中国からEUへ、中国から北米のNAFTAへというのは、今度は黄色ないしはオレンジ色の矢で示されております。これはどういうことかというと、中間財が比較的少なくて完成品の輸出が多い場合に黄色ないしはオレンジ色になっております。これはどういうことかといいますと、まさに
日本から出た
部品あるいは
日本の会社がASEAN
各国で作った
部品が中国へ行って、中国で完成品を作ってEUないしはNAFTAの非常にハイレベルのマーケットに輸出をされているということでございます。
ですから、このメカニズムをどう生かしていくかというのは、まさに
日本の国益にかなうかどうかという話になってくるところでございます。
二〇〇〇年と二〇一〇年、左と右を比べていただきますと、明らかに矢印が太くなっている。つまり、この十年間の間に
バリューチェーンあるいは生産ネットワークというものが更にアップグレードしたということが、量的、質的にアップグレードされたということが分かるわけでございます。
次のスライド、十三枚目、十四枚目というのも、同じことを別の角度から繰り返して申し上げていることでございます。
一枚めくっていただきますと、
TPPとRCEPにおける
交渉分野の比較といったようなものが出ております。
TPPにおける
投資。現在、世界的には貿易に関する
ルールとしてはWTOがございますが、
投資に関する
ルールは、残念なことに国際的な
ルールはございません。そういう
意味から、この
TPPにおいて
投資が議論されているというのは極めて重要なことだというふうに考えております。
既に
澁谷審議官の方から
ISDSについての言及がございましたけれども、
ISDSがあるということが、実はASEAN諸国ないしは他の諸国に進出をしておられる
日本の
企業にとっては一つの安心材料、セーフティーネットでございます。そういう
意味でこの
投資は非常に重要と。
それから、
ISDSですけれども、やはり
投資家、
投資をされる方々は、その
投資を受け入れてくれる国の裁判所がどこまで中立的なのか、特に
発展途上国のそういう裁判所の中立性には大変な不安を持っていらっしゃいます。ですから、インベスターが受入れ国の
政府を訴えることができるということが、文言が入るだけでも非常に有り難いというのが
企業の方の本音ではないかと思います。
そういう
意味で、
日本のEPAの中でも、これまで十五件結んでまいりました。しかし、その中で、例えばASEANでいいますと、フィリピンを除いて他のASEAN諸国との間では
ISDSを入れた
投資章ができ上がっております。
ISDSについては、次のスライド、十八枚目ですが、
アメリカ企業だけに有利ではないかということもよく
TPPに反対される方から議論されております。しかし、御覧になっていただきますと、必ずしも
アメリカ企業が一方的に勝っているということではない、
アメリカ企業も負けているケースも結構あると。
アメリカ企業の勝訴率というのは必ずしも高くないということを御覧になっていただけるかと思います。
あといただいたお時間は一分少々でございますけれども、既に
澁谷審議官の方から御
説明がございました競争をめぐる議論、特に国営
企業、ステート・オウンド・エンタープライズに関するこの議論も、将来中国などが
TPPに関心を持って入ってくるときのことを想定いたしますと極めて重要であるということが申し上げられると思います。
それから、また一枚めくっていただきますと、
政府調達のことが出ております。
政府調達というのは、どこの国でも大体その国の
GDPの一〇%ぐらいのマーケットということになっております。極めて重要な
政府調達のマーケットが
各国にあります。ところが、WTOの
政府調達
協定に入っております途上国というのは極めて少ないです。そういう
意味では、
日本がこれまで積み上げてまいりました二国間のEPA、あるいは
TPPの中でこの
政府調達が議論されるというので、大変
日本にとっては
メリットが大きいというふうに申し上げていいかと思います。
そういうWTOの
政府調達
協定に入っている国が少ないということですので、この
交渉の落としどころは、恐らくどこまでWTOの
政府調達
協定に準拠したレベルまで
各国の
政府調達のマーケットを開放していくか、広げていくかということだろうと思います。ですから、そういう
意味では、
TPPの
政府調達
交渉というのは
日本にとって非常に大きな
メリットがあると申し上げてよろしいかと思います。
まためくっていただきまして、二十四枚目のスライドでございますが、ここでは、RCEPという東アジアのFTAの枠組みと、同じく環太平洋の
TPPの枠組み、この両方に
日本はメンバーシップを持っております。
アメリカはRCEPには加わっておりません。関与しておりません。ですから、まさに
日本は東アジアとそして環太平洋とを結び付ける、そういう非常に重要な
役割を果たしているというふうに考える次第でございます。
一枚めくっていただきますと、
日本のセンシティビティーということで
農産品関税を挙げております。
いろいろ難しい産品がそこに挙がっておりますけれども、これについては、おおむね
日本はこの
関税を維持するということについて
交渉上成功しておられるように、報道されるところではそういうふうに申し上げていいんではないかなと思っております。なかなか難しい
交渉をやってこられた
政府の方々には心から敬意を払いたいと思います。
直近の動き、これにつきましては、あと議論の中で、
澁谷審議官あるいは私から知り得る限りの範囲で御
説明をさせていただければと思う次第でございます。
大変、
最後の方は少し長くなってしまって、二分ですか、超過しております。申し訳ございません。
以上でございます。ありがとうございました。