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2015-05-13 第189回国会 参議院 国際経済・外交に関する調査会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成二十七年五月十三日(水曜日)    午後一時開会     ─────────────   出席者は左のとおり。     会 長         柳田  稔君     理 事                 上野 通子君                 滝沢  求君                 中泉 松司君                 小林 正夫君                 河野 義博君                 柴田  巧君                 紙  智子君     委 員                 赤石 清美君                 石井 浩郎君                 石井みどり君                 長峯  誠君                 二之湯武史君                 羽生田 俊君                 福岡 資麿君                 三宅 伸吾君                 山田 修路君                 大野 元裕君                 加藤 敏幸君                 福山 哲郎君                 牧山ひろえ君                 谷合 正明君                 市田 忠義君               アントニオ猪木君    事務局側        第一特別調査室        長        松井 一彦君    参考人        東京大学大学院        法学政治学研究        科教授      藤原 帰一君        公益財団法人公        共政策調査会研        究室長      板橋  功君        放送大学教授   高橋 和夫君     ─────────────   本日の会議に付した案件国際経済外交に関する調査  (「国際平和と持続可能な国際経済実現に向  けた我が国外交役割」のうち、国際テロを含  む国際平和実現に向けた諸課題我が国取組  の在り方について)     ─────────────
  2. 柳田稔

    会長柳田稔君) ただいまから国際経済外交に関する調査会を開会いたします。  国際経済外交に関する調査を議題といたします。  本日は、「国際平和と持続可能な国際経済実現に向けた我が国外交役割」のうち、「国際テロを含む国際平和実現に向けた諸課題我が国取組在り方」について参考人から御意見をお伺いした後、質疑を行います。  本日は、東京大学大学院法学政治学研究科教授藤原帰一参考人公益財団法人公共政策調査会研究室長板橋功参考人及び放送大学教授高橋和夫参考人に御出席いただいております。  この際、一言御挨拶を申し上げます。  各参考人におかれましては、御多忙のところ本調査会に御出席いただきまして誠にありがとうございます。  各参考人からは忌憚のない御意見を賜りまして、今後の調査参考にいたしたいと存じますので、何とぞよろしくお願いをいたします。  本日の議事の進め方でございますが、まず、藤原参考人板橋参考人高橋参考人の順でお一人二十分程度御意見をお述べいただいた後、午後四時頃までを目途に質疑を行いますので、御協力をよろしくお願いいたします。  なお、御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、藤原参考人から御意見をお述べいただきます。藤原参考人
  3. 藤原帰一

    参考人藤原帰一君) 本日は、参議院国際経済外交に関する調査会にお招きいただきまして誠に光栄に存じます。藤原帰一でございます。  本日は、国際政治の中でも、特にテロまた中東について御専門の方がこの後お二人おいでですので、大きな枠組みのようなことを中心に申し上げることになろうかと思います。とはいいながら、だらだらしゃべるのもなんですから、このレジュメ一枚物がありますけれども、大まかに言えば(4)のところですね。  今、安全保障課題で大きいものを二つに分けますと、第一は破綻国家国際介入課題です。破綻国家統治をする力を失った政府を指しておりまして、現在では破綻国家という言葉を嫌って脆弱国家と呼ぶことが増えました。これは厳しい言い方をすれば学術的な概念ではなくて、現実に破綻国家が増えてきたので、そういう言い方は何だと言われるような状況になったんだと、そうお考えになって結構だと思います。  ここでの問題は、権力が非常に弱い政府、そこで、しかもテロ組織などが成長していった場合に、ただ脅して相手を屈服させるというやり方が効かないんですね。抑止、つまり何かやったら仕返しをするぞという脅しを事前に明確に伝えることで相手行動を抑えることが極めて困難な領域です。ということは、こちらは戦争をするか放置をするかというとても嫌な選択に迫られることになってしまう。この破綻国家問題がいろいろなところで噴き出しているのは御案内のとおりだと思いますが、シリア、さらにイラクの一部、またほかにもリビア、ソマリア、そして今大きな問題となっているイエメンなど、様々な地域権力真空に近い状態が生まれてしまいました。これ一つ。  それから二つ目ですけれども、ここで地域覇権というちょっと聞き慣れない言葉を使っています。これについては後で申し上げますけれども、中国ロシア台頭によって国際関係どう変わっていくのか。気の早い人は、世界主役アメリカから中国に替わる、いや、ロシアなんだ、国際政治全体の覇権の問題で議論される方もおいでになりますが、これは詳しいお話をすることができないので結論だけ申し上げてしまえば、恐らくそういうことじゃない。世界全体の覇権がどう動くかということよりも、東アジア地域における中国地域覇権、また旧ソ連地域中心とした領域におけるロシア地域覇権、これが次第に拡大する、これをどうするかという問題があります。  (1)に戻りますけれども、これも大きな話ですが、今我々がどんな時代に生きているのか、東西冷戦が終わってからの時代を十数年、前半と後半に分けて考えてみましょう。  東西冷戦が終わって最初の十数年間は、国際関係が比較的安定している、資本主義という経済的な制度民主主義という政治的な制度中核として、ヨーロッパアメリカの圧倒的な軍事的、経済的影響力が保たれ、それによって国際関係も安定するという、今から見れば希望的な観測流れていた時代であります。歴史の終わりなんという元気のいいことをおっしゃる方もいらっしゃいました。フランシス・フクヤマですね。今はその時代ではないということなんですね。  もし資本主義民主主義という二つ制度によって世界が安定を保つということになれば、これはリベラリズムの国際政治考え方が文字どおり実現しちゃうことになる。アダム・スミスのように自由貿易によって国際関係が安定するとか、あるいはイマヌエル・カントのように共和主義の成立によって世界が安定するとか、そういった非常に理想主義的な考え方ヨーロッパアメリカで広く持たれた時代ですけれども、それが後退したのは二つ転機によるものでした。  一つは、アフガニスタンイラクへの介入です。アフガニスタンイラクへの介入が勝ったのか負けたのか、なかなか判断付きづらいと思いますけれども、大事なことは、冷戦が終わって最初の十年間は国際政治を揺るがすと考えられていなかった世界周辺における紛争世界中心の安全を脅かす、同時多発テロ事件ですね。そして、軍事的に優位なんだから抑え込めるだろうと思ったんだけれど、占領でつまずきます。占領によって多くの犠牲を払うことになり、結果的には不十分な成果のまま撤収することになってしまう。周辺への介入とその挫折という問題を抱えてしまったわけです。  もう一つは、世界金融危機です。これは文字どおり、今日は頭出しさえできないんですけれども、冷戦が終わってから最初の十年は、新興経済地域に大変な勢いで資本流れていった時代です。安定した先進国経済は、成長率はたかだかゼロから四%の間しか見込めない。成長率が見込めるのは新興経済圏ですから、そこにお金が流れた。流れたんですけれども、しかし非常に不安定です。そして、世界金融危機を引き金として、基本的に現在でも続いていると思いますが、新興経済圏でのバブルが崩壊するということが続いている。今、新興経済圏の中で比較的持続した安定を保っているのは中国だけであり、その中国も今減退しているさなかなんですね。  この市場の拡大に対する希望的な観測も破れていったのとほぼ同じ時代に、中国ロシア軍事的にも経済的にも台頭し、同時に、それまで欧米諸国との安定した関係を第一にするという政策から外れていきます。力が付きましたから、それまでのような欧米との協調第一という路線を取る必要がなくなってくる。これが権力台頭という問題ですね。ここのところをどう捉えるか。  現在の時代ですけれども、私は権力競合という言葉を使っています。国際政治概念では、覇権の交代、主役が替わることを権力移行と言っています。権力移行という言葉は使う必要がありません。最終的にはそうなる可能性があるかないか私は分かりませんが、現在その状況ではない。  しかし同時に、中国ロシア中心に、それまでのヨーロッパアメリカ影響力に挑戦をする主体が出てきた。競合関係が生まれたわけですね。それだけで大きな問題が生まれるんです。例えば国連で何かを決めようというときに、冷戦終結最初の十年間では拒否権の発動が非常に少ない。これが、その後になると、言うまでもなく急増することになります。前もありましたけど、今はもう国連で、安全保障理事会案件を出すこと自体が難しい。シリアがいい例ということになります。  細目について、破綻国家についてここで申し上げるのは僅かにとどめておきましょう。ただ、ここで申し上げておきたいのは、アラブ民主化破綻国家との関係、とても嫌な問題ですね。  民主化が行われた後、民主化を求めた人たち思いどおり政府ができ上がることはまずないと言っていい。むしろ、民主主義ってこんなものなのかという制度になるんですが、ところが、中東北アフリカにおける民主化流れでは、ほかのラテンアメリカ、東南アジア、あるいは旧ソ連東欧諸国と違う大きな現象が現れました。これは、民主化によって破綻国家が生まれてしまうという変化であります。  それは言うまでもなく武力弾圧を続けたからですけれども、武力弾圧を続けることに対抗して軍事介入をする側も、軍事介入する意思が乏しいときには当然リビアのようにすぐ兵力を撤収するわけですね。その後に権力真空が生まれてしまう。また、逆に、その介入をするのが嫌だと、それをしない場合には、現在のシリアイラク御覧のように、統治崩壊が起こる中で急進武装勢力が割拠する状況になってしまいます。このようにアラブの春がアラブの冬に変わっていくわけで、この過程で武力が拡散します、内戦が戦われますから。  民主化というのは、普通武力を持っていない人間ができるだけ人を集めて闘うわけですけれども、戦闘じゃないですね、ところが、相手が兵隊を使えばこれは武器で応じるしかない。となると、人を集めるという運動よりは、軍事専門家テロリストといった人たちが集まることになってしまう。武力が拡散した後で強い政府をつくることができなければ武力の拡散が続く。ここで新政権は、リビアでさえそうですけれども、武装解除を試みますけれども、できない。できないということは、武力を持った集団が国内に割拠した状態が長続きするということになってしまいます。これは、権力破綻が長期化する非常に大きな条件になるわけですね。  そして、ここで国際介入をする、しない。ここの中にはイラク戦争に御賛成の方も反対の方もおいでだったと思いますけれども、大きな流れで見ますと、アフガニスタンイラク、この二つでは非常に積極的な介入をしているんですね。相手政府を倒すことまで見込んだ軍事介入をする。しかし、転機が訪れた。というのは、占領破綻しましたから、軍事介入する意思が非常に弱くなる。軍事介入する場合も、小規模で短期間に撤収することを考える、地上軍はできる限り送らないという方向になってくる。つまり、占領する意思が乏しいんですね。占領で失敗しましたから、占領する意思が乏しいという状況が生まれたんですけれども、このことが、仮に軍事介入をした場合でも後に破綻国家を残す可能性を増やしてしまいました。  次の問題ですけれども、どのような場合に介入するのか。当然のことながら、独裁政権に自由を脅かされている人たち犠牲者ではありますけれども、しかしながら、その政権を倒すために軍事介入するのか。すべきだというのがもちろんイラクのときの議論になっていましたけれども、今は逆転して、各国の自衛と関わりが乏しい状況では介入しない方向に動いています。ですから、破綻国家は基本的に放置される流れになっている。その中で、国連が果たす役割は小さくなりました。これはすぐ後で申し上げることですけれども、権力競合と結び付いたお話になります。  現在、アメリカ政策は大きく御存じのとおり変わっておりまして、イラクへの軍事介入を再開しましたけれども、ちょうどカーター大統領と似ているんですが、カーター政権ベトナム戦争の後、軍事介入をしない路線をずっと取った政権でしたが、アフガニスタン侵略の後、方針を一転する。一転するんですが、任期のさなかには成果が出ません。結果的にはレーガン候補大統領選挙で大敗を喫することになる。  今どの辺にいるかといえば、オバマ政権イラク、さらにシリアへの軍事介入に転じたんですけれども、目立った成果が生まれていない。むしろアメリカ政策に対するフラストレーションが高まっている。これはアメリカ国内でもそうですけれども、後ほどほかの先生からお話があろうかと思いますが、サウジアラビアを始め、地域各国アメリカ関係にもこれが波及するという見取図です。  時間が随分なくなりましたから、中国ロシアに移っていきましょう。  中国ロシア、両方とも、東西冷戦が終わった後、欧米諸国との安定した経済的な関係を第一に進めてきました。ロシアの場合にはエリツィン政権が一番だったと思いますが、プーチン政権最初の四年ほど、やはりアメリカ、さらにEUとの協調を第一にする方針を取ります。中国の場合も、これも御案内のとおり、トウ小平時代経済台頭路線をその後の政権も基本的に引き継ぐ。  しかし、力が付いてきた。力が付いてくると、今度は競合が生まれます。これまでの言うなりにならないということになる。それが権力競合の問題ですが、中国ロシアでどちらがより短期的な危機をつくり出すのかということについて言えば、おまえは中国に甘いんだという議論をされるのを覚悟で申し上げれば、これは間違いなくロシアの方が大きな問題です。というのは、ここでの地域覇権意味が違うからなんですね。  中国は、東西冷戦が終わったときにも国家の解体は経験していません。もちろん、外洋地域における様々な勢力拡大を目指していることは不思議な埋立てなども含めて既に御案内のとおりでございますけれども、これは言ってみればプラスアルファ。もちろん、中国側は明代の時代勢力圏を回復するんだという元気のいいことを言っていますけれども、これは近代に入ってからの領土を奪われた存在じゃないんですね。  ロシアは全く違います。ロシア東西冷戦の言わば負け組であり、東ヨーロッパ諸国がモスクワの影響力から離れるばかりか、ソ連に加盟していた共和国が独立して、そしてバルト三国のように、事もあろうにNATOに加盟するような国も現れる。敵になっちゃったわけですね。ですから、ロシアの場合には、新たな勢力圏を獲得する、増やすということではなくて、奪われた勢力を回復するという目的が出てくるわけです。  これは単なる領土的な野心の問題ではない、むしろ国内政治と密接につながっているわけでございまして、国内ロシアのRTR、国営放送御覧になりますと、ロシアの外のロシア人がいかに迫害されているか、いじめられているか、こんな報道ばっかりされているわけですね。ウクライナはそのような報道が繰り返された相手でしたけれども、嫌なことを申し上げれば、リトアニアについても同じような報道があります。  リトアニアにはこの危機は広がらないと私は今のところ希望的な観測を持っているんですけれども、それは、ウクライナには派兵しないしウクライナには軍事支援はしないけれども、それは、ウクライナは要するに政治的に極めて脆弱で、そこに支援をしてもざるになるからだ。しかしながら、リトアニアを始めとしたバルト三国はNATO加盟国です。EUにも加盟しています。リトアニアはユーロさえ、三つ目ですが、導入しました。ここでロシア介入したということになれば、NATO安定性に関わる問題なので、リトアニアには手を出させないよというところでオバマ政権が動いているというのが現在の基本的な見取図です。ということは、逆に言えばウクライナは見捨てるということですから、ですから、ウクライナ情勢がどんどん悪化する中でロシア影響力拡大するということですね。  中国は今どこにあるのか。中国は決して我々が望ましい政策を取っているわけじゃもちろんありませんけれども、現在の状況を一口で申し上げれば、習近平の下で、党が政府を、また党が軍を統制するという方向に大きく動いています。これは、政府が党から自立し、さらに軍が政府、党から相対的な自由を拡大していった胡錦濤時代とは正反対なんですね。胡錦濤時代には政府と軍の関係が非常に悪化しておりまして、政府が弱かったんですね。それを変えていくために党がコントロールをするという方向に言わば逆戻りしてしまった。トウ小平と全く同じことをやっているんです。  その結果、中国民主化はかつてなく絶望的な状況になっていますけれども、同時に、軍に対する統制はかつてよりは回復した状況になっていると思います。このことは、我々が望む政策を取るということではありません。ではありませんが、しかし、交渉の余地がある主体になっているということですね。  あと三分となりました。突然、日本選択に飛ぶことになりますが、この議論との関係から申し上げておけば、破綻国家との関わり日本はどんな出番があるのか。テロに屈しないとか、元気のいい言葉言葉として結構なんですが、具体的に何をするのか。  ここで、例えば軍事介入の一環を日本が担うという議論は、もちろん議論としてはあり得る。ただ、実戦経験が乏しい。憲法九条の問題じゃありません。実戦経験が乏しいというよりほとんどない軍隊を送ることは、憲法改正などに向けた動きとしてはシンボリックに国内政治上の意味はあるかもしれませんが、現場で持つ意味は大したことはありません。  ここで何が重要かといえば、何よりも破綻国家拡大を食い止めなくちゃいけない。それをしていく上で日本が比較優位があるところはどこかといえば、難民支援です。難民支援は、UNHCR、緒方貞子先生、そしてJICAなどの活動もあって、難民支援では随分実績を収めてきました。  これは、非軍事領域にとどめるという意味ではありません。むしろ、難民支援という意味は、難民が出ていくような状態を防ぐ前に、まず難民が安定した状況を獲得できる、そして、その地域が安定しているだけじゃなくてテロの拠点にならないように十分な統制実現した状態をつくっていって、面としてそれを広げていくということです。  現在、ヨルダンの難民キャンプは既に破綻した状況にかなり近づいておりますし、トルコの場合には、国連難民キャンプを受け入れなかったものですから、トルコの中にかなりの急進勢力が入ってしまったというふうに推定されています。この辺り、トルコ国境での難民支援活動トルコ国連が入ることを嫌がるから難しいというのは、御案内の方はこの中に多いと思いますけれども、この危機はこれから広がります。というのは、イスラム国に対する戦闘の重点がシリア北部に動くことはまず間違いないから。そして、問題なのはトルコシリア国境です。こういったところでは、日本は相対的には役割を果たすことができるだろうと思います。  本当にあと一分になりました。  中国ロシアに対してということで、何を用心すべきか。基本は抑止です。相手行動に対して事前に報復を予告することで行動を抑える。  それで解決できない問題が一点あります。小規模紛争のエスカレートです。例えば、尖閣の沖合で日中が衝突した。この場合に、アメリカ日本支援するとは限りませんね。その状況で、希望的な観測に沿って中国が急進的な行動を取る可能性がある。ウクライナも典型的な例です。ここでは、紛争エスカレーションにおける抑止の限界を我々は目の当たりにすることになる。  としますと、抑止は重要なんですが、同時に、抑止ばかりではなくて、それとは別の紛争エスカレーションを止めるための手だてが必要だということになります。  もっと申し上げることはございますけれども、時間が来ましたので、お話は以上とさせていただきます。  ありがとうございました。
  4. 柳田稔

    会長柳田稔君) ありがとうございました。  次に、板橋参考人から御意見をお述べいただきます。板橋参考人
  5. 板橋功

    参考人板橋功君) 公共政策調査会板橋でございます。  本日は、国権の最高機関であります参議院においてこのような所見を述べる機会を与えていただきましたことに深く感謝申し上げますとともに、大変光栄に存じます。  私は、テロリズム問題、とりわけ国際テロ情勢とかテロ対策専門でございます。今日のテーマであります中東におけるイスラム過激派動向国際社会対応在り方及び我が国役割の中でも、とりわけ私は、国際社会対応在り方及び我が国役割について、これを中心お話しさせていただきたいと思います。  その前に、若干、国際テロ情勢について見解を述べさせていただきたいと思います。  なお、イスラム過激派組織動向につきましては、後ほど御専門高橋先生より詳しい御所見が述べられると思いますので、私は簡単にこの部分は述べさせていただきます。  それでは、レジュメに沿って御説明申し上げます。  まず、国際テロ情勢変化でございますが、先生方も御案内のとおり、国際テロリズムというのは冷戦構造崩壊により大きく変化いたしました。一九八九年の十一月にはベルリンの壁が崩壊し、東欧諸国民主化しました。九一年十二月にはソ連邦が崩壊し、独立国家共同体が創設されたわけであります。  このようなことから、テロリズムも、共産主義イデオロギーを標榜するテロ、反資本主義ですとか反帝国主義ですとかあるいは反米ですとか、そういうものから、宗教や民族、分離独立などを標榜するテロへと変化していったわけであります。  また、アルカイダの形成、台頭でございますが、冷戦構造崩壊を挟んだ二つ戦争が大きく関わっていると私は考えております。  まず、冷戦構造下での戦争でありますアフガニスタン戦争ですが、一九七九年十二月にソ連軍アフガニスタンに侵攻するわけであります。それとともに、世界中からイスラム若者たちアフガニスタンに入り、ソ連軍と十年にわたる戦いを行ったわけであります。結果、ソ連軍アフガニスタンから撤退し、世界中から集まったイスラム若者たちは勝利するわけであります。実は、これが後のアルカイダ中核になるわけであります。  もう一つ戦争ですが、これは、冷戦崩壊期のまさに湾岸危機湾岸戦争であります。一九九〇年に、御案内のとおりイラクがクウェートに侵攻し、アメリカ中心として砂漠の嵐作戦が展開されました。なお、このときに米軍サウジアラビアに駐留したわけであります。御案内のとおり、サウジアラビアは、メッカ、メジナの二大聖地のあるところであります。  この二つ戦争によりアルカイダは形成され、台頭したわけですが、その後の九・一一の後、アフガニスタンへの軍事行動イラク戦争により、アルカイダのみならず、国際テロ情勢は大きく変容していくわけであります。  アフガニスタンへの軍事力の行使ですが、これ、あえて戦争という言葉を使っていません。これは、九・一一はまさにアルカイダによるテロでありましたが、この拠点がアフガニスタンにあったということで、ここに対する軍事行動、まあ後の状況を見ますと戦争と呼んでいいかもしれませんが、九・一一後の当初はやはりアフガニスタンへの軍事行動という言い方をするのが適切かと私は考えております。  この攻撃によってアルカイダアフガニスタンの中枢機能を失います。また、イラク戦争によってイラクやイエメンでの活動を活発化させるなど、変容するわけであります。さらに、○○のアルカイダ、例えばイラクアルカイダですとか、フランチャイズ化されたような形態を取るわけであります。あるいは、イラクアルカイダから実は現在問題になっているISILの台頭に至るわけであります。  イラク戦争は、テロリズムを研究している者から見ますと、テロ組織のフランチャイズ化や過激化、あるいは今問題になっているホームグローンやローンウルフ、ISILの台頭などを招き、まさにテロの裾野を拡大させたと言ってもよいかもしれません。  次に、ISILによる邦人殺害事件の日本へのテロの脅威についてお話ししたいと思います。  その前に、ISILとは一体何なのか。私にも実は詳しいところは分かりません。恐らく欧米諸国でも完全に実態をつかんでいるとは言い難いと思います。起こっている現象を見ますと、どうもやはり単なるテロ組織ではないという印象を受けます。  我々が目にするものは、指導者と言われるバグダディの映像ですとか、外国から集まってきた戦闘員の映像、これはよく目にしますが、果たして本当に中枢は誰なのかというのがよく分かりません。ただ、今回の日本人人質殺害事件を見ますと、どうも、やはり旧フセイン政権時代の情報機関やあるいはバース党の人間が関わっていないとこういう展開にはならないんじゃないかと思うところが多々あります。  あるいは、奪った兵器を翌日には使いこなしている、こういうところを見ますと、恐らく旧フセイン政権時代の軍隊の上から下まで、将官から下士官、兵まであらゆる階層が関わっているのではないか。例えば、奪った戦車を翌日には使っているということはどういうことかというと、前使っていた人間が使っている。  あるいは、一瞬のうちにして、去年の六月からですが、面で支配をしています。単なるテロ組織には面で支配するということはなかなかできません。よく考えてみますと、もし当時のフセイン政権時代の軍人が関わっているとしたら、守っている方ですから弱点がよく分かります。そうするとつじつまが非常に合うのでありますが、実はこの実態がよく分からない。  私はテロリズムの研究者ですので実態面から見ていますが、恐らくここの部分は地域の研究者やあるいはイスラム教を専門とする研究者の人たちが解明することと期待しております。  ということは、どうも単なるテロ組織ではないなということであります。それから、シリアとかイラクにおいては、やはり明らかに内戦の当事者であると見なければいけないんだろうと思います。  さて、日本国内の脅威でありますが、確実にISILの邦人人質殺害事件以降、日本の脅威は上がっていると見るべきだと思います。私は、日本国内でのテロについては若干楽観視をこれまでしてきたのですが、とても厳しい状況にあるという認識を持っています。  その脅威ですが、三種類考えられます。一つは、外国からテロリストが入ってきて日本テロを行う。この際、日本で一旗揚げてやろうと思うテロリストが出てきても不思議ではない状況にあります。それから、国内の外国人、これが過激化しテロを行うという可能性も十分今は考えられます。それからもう一つ、今までは余り考えてこなかったんですが、御案内のとおり、昨年、日本人、北海道大学の学生がISILに参加しようとしています。あるいは、NHKなどの報道ですと、ISILとツイッターでやり取りしている人物がいるというような報道もあります。ということは、日本人が過激化する可能性もある、これは否定できないという状況にあると考えております。  この三つの脅威、国内においては存在するであろうと思います。いつ起こっても不思議ではないなと思っております。  それから、日本の権益を狙った在外における脅威ですが、これは、アルカイダやISILはもちろんのこと、当該国や地域におけるテロ組織、あるいは当該国や地域におけるアルカイダやISILの支持者。例えば、カナダの議会がISILの支持者によって襲撃された事件があります。今回の事件を契機に、実はカナダの議会を狙わなくても、そこに観光に来ている日本人を狙ってもいいんじゃないかという論理が成り立つようになりました。ということは、世界中どこにいても日本人が狙われる時代になったということです。  外務省は、恐らく初めてだと思いますが、広域情報というのをこの邦人人質殺害事件以降出しました。実はアメリカでは既に出ていまして、ワールドワイドコーションというんですが、アメリカ国務省は、全世界にいるアメリカ人に向けてテロの脅威が高まっているという警告を、恐らく九〇年代から出しています。そういう時代にもしかしたらなってきた、日本人が世界中のどこへいてもテロのターゲットになってきたという時代になったと言えるかもしれません。  それから、日本はこれから重要な国際的なイベントを控えています。まだ会場は決定しておりませんが、来年、G7サミット、それに伴う大臣会合等、多数の国際会議が開かれることになります。それから、二〇二〇年の東京オリンピック・パラリンピック。こういった国際的な重要なイベントというのは常にテロのターゲットになってきました。ですから、こういった重要行事を控えた日本というのは、やはりプレゼンスが高まる、脅威が高まると考えなきゃいけません。  それから、ISILによる邦人人質殺害事件後に、新潟在住のジャーナリストがシリアに渡航しようとして外務大臣から旅券返納命令を受けましたが、私はこれは極めて妥当な判断だったんだろうと思っています。この地域は、ISILのみでなく、多くの武装組織が三つどもえ、四つどもえで戦闘状態にあります。ですから、どこの武装組織に拘束されてもおかしくない状況だったと思います。今現在がどういう状況か分かりませんが、当時はかなり厳しい状況にあっただろうと思います。  それから、北大生がISILに戦闘員として参加しようとして強制捜査を受けたわけですが、このときは、初めて刑法九十三条、私戦予備及び陰謀の罪による強制捜査が行われました。考えてみますと、国連でも二〇一四年の九月二十四日に外国人テロ戦闘員に関する安保理決議というものが採択されております。これは、ISIL等に参加しようとする自国民をなるべく出国させないという措置をとるべきだという決議であります。我が国においても何らかの法的な措置がやはり必要なんだろうと実は思います、これに対応するためにですね。  それから、国際社会対応在り方でありますが、私は二〇一〇年に「対テロ戦争の終焉」という論文を書かせていただきました。今日皆さんのお手元にお配りしてありますが、この趣旨は、テロの脅威がなくなったということではありません。対テロ戦争はまさにテロ拡大させてしまった。  アメリカのシンクタンクでありますランド・コーポレーション、実はこのランド・コーポレーションというのは、テロリズムの分析を七〇年代、八〇年代から、早くからやっておる機関であります。テロリズムに関する分析ツールをブライアン・ジェンキンスという当時の政治科学部長が開発して、これが恐らくいろんなテロリズム研究に波及していったと承知しております。そういう機関であります。このランド・コーポレーションが報告書を出しています。テロ組織の打倒というタイトルですが、テロリズム軍事力では解決しない、戦争という概念を用いるべきではなく、従来のテロ対策、カウンターテロリズムに立ち返るべきであるとしています。  国際政治学者ジョセフ・ナイでありますが、本日、この緑色の表紙の資料の百ページから百一ページにもナイ氏の論評が掲載されていますが、彼は、イラク戦争の後、テロとの闘いという言い方はやめるべきだ、テロ軍事力では解決しないとも述べています。  テロ対策の基軸はどうあるべきなのか、テロ対策の基軸というのは軍事なのか、あるいは司法、法執行なのか。  振り返ってみますと、日本アメリカ民主主義国であります。民主主義の基本は法の支配。テロリズムは法の支配によって対応すべきであると私は考えます。ただし、自爆犯は法廷では裁けないという問題も存在しますが、やはり基軸は司法、法執行、インテリジェンスであるべきであると考えます。  ただし、テロ対策の一環としての軍事力の行使はあり得るというのが私の考えであります、基軸ではありませんが。例えば、一九九八年の八月の東アフリカ大使館爆破事件、米国大使館爆破事件の後に、アメリカアフガニスタンとスーダンにトマホーク巡航ミサイルを撃ち込みました。スーダンの問題はちょっと別なんですが、アフガニスタンは明らかに当時からアルカイダの基地に対する攻撃です。これはテロ対策上の軍事力行使として、当時から私は正当化されるものだと考えておりました。  国際社会は、改めてテロの闘いから国際的なテロ対策の枠組みを再構築すべきではないかと考えます。これは、テロとの闘いから、司法、法執行を基軸として、インテリジェンス、外交、資金規制、開発援助などを含めた総合的、包括的なテロ対策の国際的な枠組みの再構築を行う必要があると思っております。  だんだん時間がなくなってきましたが、次に、我が国取組在り方について述べたいと思います。  まず、日本テロ対策ですが、これは二つの側面から見なきゃいけません。当然、G8の一角を成し、国際社会における責任ある立場にありますので、国内でのテロ対策と同時に国際協力を行わなきゃいけない、この車の両輪であるわけであります。  日本テロ対策というのは、国内でやはりテロを起こしてはいけない、未然防止、それからループホールになってはいけない、抜け穴になってはいけない、テロの温床や抜け穴になってはいけない、そのための対策を取らなきゃいけないということであります。我が国も、二〇〇四年に北海道洞爺湖サミットへ向けてテロの未然防止に関する行動計画というのを作りまして、種々のテロ対策を講じているところであります。しかしながら、今後の課題としては、テロ対策基本法やテロ組織の指定制度、あるいはテロ対策のための本人確認制度、あるいはテロリズムに対する国家基本戦略の策定等がなされていませんので、これらは必要かと思います。それから過激化対策というのも不可欠であります。  次に、対テロ国際協力でありますが、国際協力は、単に国際社会や他国への協力ということだけではありません。国際協力によって、実は我が国我が国の在外権益も守られるということであります。とりわけ東南アジア諸国中心に、キャパシティービルディング、テロ対処能力の向上や捜査能力の向上ということをやってきましたが、これは我が国の安全に直結するとともに、在留邦人の安全にも寄与してきたわけであります。日本政府は、幾つかの分野においてキャパシティービルディング支援を積極的に実施してきています。また、ISILの邦人殺害事件以降は、アフリカ諸国へのキャパシティービルディングの支援を表明しています。  ということで、こういった人道的な支援、あるいは民生面での支援、非軍事面での支援中心に行うことが我が国役割であると考えます。それから、当然ながら、在外日本権益のテロ対策も行わなければいけません。  最後になりますが、日本は、やはり非常にテロの脅威の高い状況にあるということを認識する必要がある。また、一六年のG8サミット、それから二〇年のオリンピックに向けてテロ対策を強化する必要がある。そして、テロ対策は総合対策で、あらゆる力を集結して対応すべきであると。そして、最後ですが、日本は国際的なテロ対策の枠組みの再構築の主導をすべきではないかと思います。  以上で私の話を終わらせていただきます。
  6. 柳田稔

    会長柳田稔君) ありがとうございました。  次に、高橋参考人から御意見をお述べいただきます。高橋参考人
  7. 高橋和夫

    参考人高橋和夫君) 高橋でございます。  私は、三つの点についてお話ししたいと思います。一つは、いわゆるイスラム国、ここではISとして言及いたしますけれど、ISをめぐる現地の情勢について。二つ目は、ISに対する日本のこれまでの対応について一つ二つ意見を述べさせていただきます。最後に、これからどう立ち向かっていくのかという、三つの点でお話しさせていただきます。  まず、現状でありますけれど、結論から申し上げますと、ISのピークは過ぎた、しかしながら、まだまだ脅威は残っているということだと思います。  軍事面で見ますと、昨年末、そして今年の一月にかけて、ISがシリアの北部、トルコ国境の町コバニという都市に対する攻勢を掛けました。コバニに突入し、その一部を占領したんですけれど、コバニに住んでいる、ここはクルド人の町ですから、クルド人の激しい抵抗を受けるということで、ある意味ISが初めて陸上戦闘で苦戦をしたという戦闘になります。  これに、クルド人を支援するという意味で、アメリカ軍を中心とする有志連合の空爆がこの地域に集中して行われるということもありましたし、同じクルド人ですけれど、イラク北部からクルディスターン自治政府の民兵組織、ペシュメルガと現地では申します。ペシュメルガとはクルドの言葉で死に向かう者と、非常に勇敢な兵士として彼らは知られているんですけれど、日本風に言えば決死隊というようなニュアンスでしょうか。ペシュメルガの支援もありました。  こんなこともあって、結局このコバニの町から掃討され、多数の遺体を残してイスラム国が撤退すると。これ以前にイスラム国の大きな敗北はありませんでしたし、恐らくこれ以降に大きな陸上戦闘での勝利は想定できないんではないかと思うわけですけれど、イスラム国不敗の神話に傷が付いた戦闘だったと思います。  そして、今年の三月、イラク中部の都市ティクリート、ここは去年の夏以来、ISが制圧していた都市ですけれど、このティクリートに対するイラク中央政府軍の攻勢がありまして、シーア派の民兵、あるいはイランの革命防衛隊の軍事顧問団、さらにはアメリカ空軍の支援もあって、このティクリートを三月の末、四月の始めにイラク中央政府側が奪回いたしました。ティクリートを守っていたIS側は全滅したわけです。  そういう意味では、コバニ、ティクリートと二つの大きな戦闘でIS側は連敗したわけで、IS側には神が付いている、負けないんだという不敗の神話は完全に崩れ去ったように思います。そういう意味で、軍事面ではIS側の劣勢は明らかになったと思います。  経済面で見ましても、ISの収入源の柱と言われているのは石油の密輸出でありますけれど、この石油関連施設への有志連合側の空爆が激しく、ISが制圧している地域の石油産業は大きな打撃を受けたと見られています。これは、例えば夜間のIS支配地域の衛星写真などを見ますとほぼ真っ暗でして、電力が回っていないという事実からも傍証できるかと思います。  さらに、三月にISの指導者、自称カリフのバグダディが空爆によって重傷を負ったというような情報も流れておりまして、バグダディは、昨年の六月に映像で現れて以来、その後一切公衆の面前に姿を現しておりませんので、バグダディ死亡説もありますけれど、少なくとも大きな傷を負っているというのは事実だと思います。  こういうふうに、軍事面、経済面、そして政治面でIS側が劣勢に立っているという事実は確固たるものとして判断されます。  しかしながら、じゃ、これで全く脅威が去ったのかということなんですけれど、まだまだだと言わざるを得ません。イラクにおいては、イラク中央政府軍、あるいはクルドの民兵、あるいは今アメリカイラク中央政府が試みておりますスンニ派の部族の抱き込みなどという戦術が取られておりまして、ある意味アメリカイラク中央政府軍はパートナーとしてイラクにおいてISと対決していくというシナリオが見えているんですけれど、シリアに関してはまだまだパートナーとなるべき自由シリア軍が育っていない。あるいは、シリアにおいて、シリアのアサド政権をまず倒しに掛かるのか、あるいはIS対策を重要視するのかということで、トルコアメリカの間のギャップというのも見え隠れしておりまして、イラクに関してはシナリオが見えているけれど、シリアに関してはまだ先が暗いという状況だと言わざるを得ません。  また、先ほど板橋先生からお話もありましたように、恐らくこのISの中にはサダム・フセインの軍隊にいた将兵が関与していると思われるんですけれど、サダム・フセインの軍隊には化学兵器を担当する部隊もおりましたので、将来追い詰められた場合、この部隊が少なくとも簡単な化学兵器をまた造る、使うという可能性は否定できないように思われます。また、サダム・フセイン政権は大量破壊兵器を持っていなかったということになったわけですけれど、イラクにはサダム・フセイン政権が廃棄処分にした大量の化学兵器がある意味転がっているわけです。その化学兵器を再利用するというような可能性も視野に入れておく必要があろうかと思います。  そういう意味では、脅威は去った、大きな脅威、ピークは過ぎたけれど、脅威はまだまだ続いていると言わざるを得ないわけです。  それから、もう一つの脅威というのは、ISがイラクシリアでの軍事的な脅威になるというよりは、ISあるいはISのライバル組織と見られているアルカイダなどが世界中イスラム教徒にテロを呼びかけているという事実であります。この件に関しても既に紹介がありましたけれど、こうした組織に属さない過激化した人が立ち上がってテロを行うというのは、組織に属さないだけに当局としてもなかなか掌握が難しい、阻止が難しいということになります。一匹オオカミ的テロ、ローンウルフテロと呼ばれますけれど、こうしたテロが既にオーストラリア、カナダ、フランス、アメリカで起こっておりますので、今後ともこの一匹オオカミ的テロの脅威は続くものと予想せざるを得ないということだと思います。  ISの問題は確かにイラクシリアを舞台として展開されているんですけれど、それは、イラクシリアというのはある意味、画面でありまして、その光源はヨーロッパにある移民社会の矛盾、移民二世、三世、四世が社会に溶け込んでいないという問題、あるいは中東の他の社会での失業問題ということでありまして、そうした光源がISという画面として我々の目に映っているわけですから、そうした社会問題に取り組まない限り、このISという現象は消え去るかもしれないんですけれど、また形を変えた過激な運動が起こってくるのではないかと懸念されます。  二つ目のポイントで、日本のISへの対応について、私は二つだけ意見を申し上げさせていただきたいと思います。  一つは、このISに関していかにして情報を取るかということなんですけれど、日本においては非常に情報が少ないということなんですけれど、たまたまISの関係者と人脈があるということで、IS支配地域に自由に出入りできるジャーナリスト、そしてイスラム法学者がいたんですけれど、この二人の行動が、ある意味、当局の動きによって止められてしまったという事件がありまして、私はこの二人の思想を必ずしもよしとするものではないんですけれど、せっかくこの二人が現地に入って、目撃談を含め情報を持って帰ってくるのに、止めてしまったのは残念だなという印象を持っております。  それから、第二点目でありますけれど、非常に残念なことに二名の日本人がISによって処刑されるという事件がありました。この問題に関して日本対応がどうであったのかということは全国民が興味を抱いている点でありますけれど、政府部内で検証する委員会が立ち上げられたということで、私はこの検証をしようという姿勢に拍手を送りたいんでありますけれど、しかしながら、検証するための委員会が政府部内で立ち上げられたのでは、政府が行ったことを政府が検証するわけですから、国民全体から見て、客観的に独立した評価が行われたんだという認識を持つのが難しいように思われます。せっかく検証をなさるんであれば、政府から離れた第三者による独立した委員会であれば、より多くの国民が客観的な評価であるという認識を持ってその報告を受け入れられるのにということで、いささかこの点に関しても残念な気持ちを抱いております。  最後に、これからどうするかということなんですけれど、二つの点を申し上げておきたいと思います。  一つは、これまでの日本対応は、難民に対する支援、そして難民を受け入れている周辺国に対する支援に軸足を置いて展開されてきました。シリアの人口は二千二百万、二千三百万と言われておりますけれど、国内難民を含めると既にシリアだけでも千万人が難民になっている、海外、周辺国に流出した難民は、あるいは周辺国から見れば流入した難民は三百万人と言われています。トルコ、レバノン、ヨルダンなどはもう大変な、あるいはイラクも含め、大変な難民を受け入れるための負担に苦労しているわけです。  私もヨルダン北部の難民キャンプを視察いたしましたけれど、もう難民キャンプとはいえ、一つの巨大なテントの都市ができ上がっている。そうした都市が幾つも幾つもあるわけで、ヨルダン、レバノン、いずれもそれほど豊かな国ではないわけで、その負担の大きさというものは想像に余りあるものがあります。その中で、日本政府がこうした難民への支援を積極的に行っているということに対しては私は拍手を送りたいと思います。  ただ、この難民支援、そして難民受入れ国支援というだけでは一つ足りないものを覚えています。それは、国連を始め、これだけの難民が出ている中で、各国難民を受け入れてほしいという要請を出しているわけであります。  昨年、欧米など二十五か国が十四万人の難民の受入れを発表しているんですけれど、昨年のデータですけれど、私が見た範囲では、日本が受け入れた、認定した難民はゼロ名であります。これでは、いかにも国際貢献国家、積極的平和外交という言葉をバックアップするには心もとない数字であるかと思います。  難民を受け入れるというのはある意味大変な負担を伴うわけですけれど、しかしながら、長い目で見れば難民はその国にとって資産になり得るわけで、アメリカのキッシンジャー国務長官もドイツからの難民でありますし、ビル・クリントン大統領時代最初アメリカの女性国務長官マデレーン・オルブライト氏はやはりチェコスロバキアの難民であります。難民を受け入れることがその難民を通じてその出身地の情報を取るということにもつながるわけで、積極的な面にも目を向けていただきたいというのが私の一つのお願いであります。  それから、二つ目の点でありますけれど、これからイラクはどうなるんだろうか、シリアはどうなるんだろうかということなんですけれど、私は、先は読み切れないという謙虚な前提に立って政策を立案すべきだと考えております。  現在、例えば日本政府イラクのバグダッドに大使館を開き、非常に危険な状態の中で外務省の皆さん、本当に日本イラク外交関係を維持してくださっています。これに対しては敬意の念を表したいと思います。もし仮にイラクの中央政府の力が再び強くなってイラク全体を掌握するようになれば、中央政府と強いパイプを維持しているという日本外交が大きく報われることになると思います。  しかし、逆に、残念ながらイラク中央政府は再びイラク全土を掌握することが結局はできないという事態も想定されるわけです。となると、イラクという国が分裂、良くても連邦化という方向に更に進むということになりますと、イラク中央政府以外ともやはり関係を構築しておく必要があるかと思います。  私としては、というふうに考えますと、イラク北部において自治を行っているクルディスターン自治政府との関係の強化というのが日本外交選択一つとしてあっていいのではないかというふうに考えています。現在、イラク北部は治安も比較的安定しておりますし、経済も繁栄しています。政治も安定しています。ある意味では、ドバイと見間違うほどのバブル状態でもあります。  クルディスターンの政府としても、日本との関係を深めたいというような意向を持っております。既に、アメリカロシア、ドイツ、イラン、トルコなどが領事館を維持しておりますから、日本政府としてもいち早く、できるだけ早い時期に領事館を設置して、クルドの人々との深い広い関係を構築していくというのは悪くないのではないかと思っています。もし仮にイラクの中央政府の力が強くなって、イラク全体が統一国家という体裁を取り戻すとすれば領事館業務に徹すればいいわけですし、もし仮にイラクという国が残念ながら統一体としての体を成さなくなった場合は、その北部に日本外交の足場を築いておくというのは長期的には重要な布石かと考えております。  情報までに申し上げますと、イラク北部のクルディスターン自治政府のマスード・バルザーニ大統領が先週ワシントンを訪れておりまして、オバマ大統領、バイデン副大統領と会談しております。アメリカはもちろん、クルド人の協力の下、ISとの戦いを進めたいという意向からの特別の配慮をしたんだと思うんですけれど、アメリカでさえここまで踏み込んでいるということを考えれば、日本がこの地域外交的プレゼンスを高めていくことに国際社会からの、あるいはイラク中央政府からの反発も少ないかと考えております。  私の御報告は以上にさせていただきます。  ありがとうございました。
  8. 柳田稔

    会長柳田稔君) ありがとうございました。  これより質疑を行います。  質疑を希望される方は、挙手の上、私の指名を待って質疑を行っていただきたいと存じます。  委員の一回の発言時間は答弁を含め十分以内となるよう、また、その都度答弁者を明示していただきますよう御協力をお願い申し上げます。  質疑及び答弁とも、御発言は着席のままで結構でございます。  まず、大会派順に各会派一人一巡するよう指名したいと存じますので、よろしくお願いします。  それでは、質疑のある方は挙手を願います。  二之湯武史君。
  9. 二之湯武史

    二之湯武史君 自民党の二之湯武史と申します。  今日は、参考人の方々、お忙しい中おいでいただきましてありがとうございます。  今日は国際テロということがテーマなんですけれども、この問題に関しては、今現在起こっている顕在化された出来事並びにそういった情報という面と、私はやっぱり忘れてはならないのは、そういったものが生み出される構造といいますか、若しくはそういう構造ができ上がった本質的な問題、課題、こういうところにいまいち、何というんですかね、議論が深まっていないような私は気がするんですね。  例えば、今こうだと、例えばISでも今こういう状況でこういう勢力がいて、こういうつまりリアルタイムの情報というのはどうしても情報価値がありますから、そういったものに我々も飛び付いてしまいがちなんですが、では、なぜ今現在そういったテロが起こっているのか、若しくはそういう集団が成立し得ているのか、こういったことを掘り下げていきますと、私はこれ大変歴史的にもまた文化的にも根深い、若しくは時間軸の長い話になってこようかというふうに思うんですね。  少なくとも、今、板橋先生もおっしゃいましたが、アルカイダ並びにタリバーンはソ連のアフガン侵攻に源流を発すると。つまり、もう既に三十五年以上の時間が流れているわけですね。また、その根本の一つにもヨーロッパの移民の問題があると。これも二世、三世という話になってきますと、少なくともヨーロッパの植民地政策が終わった第二次大戦後でありますとか、それぐらいの時間軸になってくると思うんですね。そうなると、六十年、七十年という時間軸が存在するわけです。  もっと言いますと、これは高橋先生だったと思いますけれども、今日、事前にお配りいただいていた資料の中にパキスタンとアフガニスタン国境線の問題がありましたね、デュランド国境線と。これはイギリスの外交官が引いた国境線がいまだにその地域の部族の中で国境を分断しているという結果があると。それは恐らく、アフリカを始め世界中あらゆるいろんなところに、かつてのヨーロッパの植民地においてはあらゆるところに存在をする問題であって、こういったものはイギリスの中東支配が始まった十九世紀半ばにすら事の根源を遡っていくような、そんな問題だと思うんですよね。  そういった中で、まずお伺いをしたいのは、我々、日本にいて、そして様々な情報に接しますが、これよく考えると、ほとんどアメリカ若しくは欧米からの文脈、文化的な視点で物を考えているんだろうなと思うんですね。例えば民主主義であったり自由であったり、そういった価値を、ある種その相手国の文脈若しくは文明、文化的な理解をやや欠いたような視点で、自由がないから駄目なんだ、民主主義でないから危険なんだと、こういう面がどこかにありはしないかと、相手の文化に対する理解というものですね。若しくは、それぞれの地域における例えば宗派間若しくは部族間の様々な歴史的な経緯というものがあり、そういったものがその地域独特の秩序というものを構成して、絶妙なバランスで秩序が構成されていた中で、それは客観的に見れば独裁政権というふうに見えるかもしれませんが、ある種、もう一方でいいますと、そういった様々な文化的、部族的なバランスを維持したような秩序が成り立っていたとも言えると思うんですね。  そういったものを無視をしてか、それとも、そういったものを理解しつつもそうせざるを得なかったのか、特に最近のアフガンやイラク戦争においてはそういった戦争統治が思うように進まない、そして、そういった本当はテロを根絶しようとした闘いが結果的にテロを増長するというか、テロ勢力を更に広げてしまうような結果となってしまっていると。  こういうアメリカ中心とした西側諸国政策行動、こういったものに対する私はまず理解というか総括というのがなければ、我が国の基本的な外交的な立場も、一方的にそういった立場に立ってもよいものなのか、それとも、もう少し我が国が伝統的に取ってきたように慎重に中立的な立場でもっと中東に関わっていくべきなのか、こういったことが思うように議論されていないような私は気がするんですけれども、これは三参考人に簡潔にというか、できるだけ短くお答えをいただきたいんですが、非常に難しい話ですけれども、お願いします。
  10. 藤原帰一

    参考人藤原帰一君) 複雑な長い歴史があるということに反論をするつもりはありません。ただ、これでは問題の把握になるかどうか実は分からないんですね。また、植民地支配がいけないんだという話に持っていけば問題が説明されるというものでもありません。絶妙なバランスの秩序とおっしゃったものを具体的に解明することがいかに大変なことなのかは、地域研究をした者は誰でも知っていることです。ですから、問題をつかまなければいけない。  では、どこに問題があるのか。非常に大きなポイントは、欧米諸国政策一般ではなくて、また民主化へのアプローチ一般でもなくて、その土地を支配している権力を倒してしまうこと、この一点に尽きます。それをイラクでやっちゃったんです。今は戦争を戦わないアメリカの下で混乱が広がるという恐慌的な事態になっていますが、その前に要らない戦争を戦ったわけですね。  イラクのフセイン政権は明らかに独裁政権でしたけれども、領土を支配する力は持っていた。私はこの戦争には反対でした。その戦争の大きな引き金となっていた議論は、正気とは思えませんけれども、民主化を広げていく機会になるだろうと。本当にそう思っちゃったんですね。いかにアメリカでもそのような政策を遂行する人ばかりではありませんけれども、あれはイスラエルのため、あるいは石油のためじゃなくて、本当に民主化が広がるという思い込みがあったんです。  結果的に何があったかというと、そこで実効的な支配をしている権力を倒してしまって権力真空をつくっちゃったんですね。これに対する反対はリベラリズムではありません、むしろリアリズムです。悪い政府であっても、そこを支配している権力を倒した場合には権力真空が生まれるという問題があるんです。ほかにも様々な問題がありますけれども、この一点にとどめておきましょう。  ヨーロッパアメリカ一般の問題というよりも、実効的な支配をしている政府を倒すことがどのようなリスクを伴うのかを考えることが今重要です。このことは同時に、中心拠点、悪者を倒せば問題が解決するといった単純化をしないことが必要なんですね。安定した統治が広がることなしにはこの問題の出口がない、それだけ申し上げておきましょう。
  11. 板橋功

    参考人板橋功君) 二之湯先生のおっしゃることは、もうまさにその側面があると思います。それから、藤原先生が言われた独裁政権を倒したときの問題、これも当然あると思います。  九・一一以降のイラク戦争に至るまでの経緯を振り返ってみますと、これは「対テロ戦争の終焉」の中にも書いているんですが、当初九・一一にイラクが関与していたと米国は本気で思っていたところがあって、ところがその根拠は全くない。当時、我々テロリズムを研究している人間からすると、アルカイダとそもそもフセインとはベクトルが違い過ぎる、接点はないだろうと。そこにいろんなこじつけがあって、ドイツでイラクの情報機関とアルカイダの人間が会っていたとか、そういう端緒だけを捉えて関係があるんじゃないかと言ったわけですが、それも実は破綻して、アメリカは次にどう言ったかというと、大量破壊兵器がイラクが持っているから攻撃しなきゃいけないんだと。これも破綻して、最後は中東民主化というものを大義にしてイラク戦争を行ったと。  結局、対テロ戦争でも何でもない。そもそもがそこのところでイラク戦争の間違いがあるわけで、先ほど藤原先生も御指摘になりましたけれども、絶妙なバランスの下に、民族とか部族とか、そして独裁者が絶妙なバランスの下に成り立っていたところを完全に崩したというのがイラク戦争なんだろうなと思います。  よく考えてみますと、ブッシュの父のブッシュ大統領のときに、なぜバグダッドまで行かなかったのかと。やっぱりそれなりの父ブッシュさんは見識があって、恐らくあのときバグダッドまで行っていたら今以上にもっと大変な混乱が中東で起こったんじゃないかと。やはり大統領の見識というのも一つありますし、私はアメリカのいろんな学者というのは層が厚いと思っていたんですが、意外や、でもそうでもないのかなとも思ったりもしております。  取りあえずは以上で。
  12. 高橋和夫

    参考人高橋和夫君) もう申し上げることが残っていないんですけれど、私はやはり二之湯議員のおっしゃるように、歴史的な認識は重要だと思います。そして、現地のバランスを壊すということが混乱を招くということも御指摘のとおりだと思います。  ただ、じゃ、フセインの独裁が良かったのかということに関しては、もちろん現在のスンニ派地域の混乱を見て非常に残念に思うところではありますけれど、しかしイラク北部のクルド人はフセインを倒したことは絶対良かったというふうに、少なくても二割の人は思っています。六割のシーア派はどう思っているかというと、やはりフセインを倒して良かったと思っているわけです。もちろん、みっともないから、アメリカありがとうなんて思っていても言いませんけれど、イラクの大半の人はやっぱり独裁を倒して良かったと思っているんだと私は信じています。  ただ、残念ながら、スンニ派地域がこれだけ混乱しますとイラクの安定というものはないわけで、バランスを保つのがいいのか、あるいは壊した後の混乱を引き受けるのがいいのか、なかなかそれは前もってどちらがいいとは言いにくいなと思います。ただ、これを言うと非常に日本のメディアでも学会でも評判は悪いんですけれど、私はイラク人のマジョリティーはアメリカに感謝していると思います。
  13. 二之湯武史

    二之湯武史君 終わります。
  14. 柳田稔

    会長柳田稔君) 大野元裕君。
  15. 大野元裕

    ○大野元裕君 民主党・新緑風会の大野元裕でございます。  三先生、本当に今日はありがとうございました。また、三先生それぞれとまさか国会の場でこのような形で議論ができるというのはちょっと懐かしく感じておりますし、先ほどの二之湯先生の空白と統治イラクの話については、十年ぐらい前ですか、藤原先生とNHKの特番でたしか対談させていただいたテーマで、非常に懐かしく思い出させていただきました。これを続けたいんですが、それ以外にもたくさん興味がある話があるので、一人の先生方にお一つずつ質問をさせていただきたいと思っております。  一つ目ですが、藤原先生が、そして高橋先生難民の問題、取り上げられました。難民国際社会の取扱いについては、私、以前から限界が来ているのではないかと常に思っておりまして、藤原先生にまず御質問ですが、難民キャンプについては、国連若しくは国際社会は非常な性善説に常に立っているのではないかと思い続けています。  一九九〇年代のイラク北部のマフムールキャンプはPKKの巣窟になりました。あれは自主性を重んじたからだというふうに思っています。あるいは、去年の八月の六日か七日にシンジャールとモスルダムがやられた後にイラク北部にカウルグスクというキャンプができたときに、実は当初やはり自主性を重んじてやったんですが、うまくいかずにすぐキャンプを解散してしまいました。他方で、難民に人道支援を行おうとしても、まさに高橋先生御指摘のとおり、人口の半分がIDPを含めて難民ですから、どれだけ支援しようとも砂漠の中の水の一滴にすぎないと思っています。  そうすると、今までのような性善説に基づいた、人道主義に基づく難民の扱い方というのは果たして結果的に難民にとってもいいかどうか、あるいはその社会にとっていいかどうかというのは大きな疑問だと思っていまして、藤原先生取り上げられたので、まずは藤原先生にこの質問を。  そして二つ目には、板橋先生でございますけれども、板橋先生はもうテロの御専門でございますので、特に日本の対処についてお話をいただいたので。  実は私、イナメナスのときも今回も両方すごく強く感じていたのは、我が国は、先生も御指摘のとおり、いわゆる縦割りというか、あらゆる力を結集した対応、これがほぼできてないんじゃないか。NSCできた後も一緒だと思っています。  例えばイギリスなんかだと、例のコブラですか、みたいなものが官邸にはできたり、あるいは外務省ではコンシュラー・クライシス・グループですか、要するに外務省の中に警察が入って交渉ができるチームがつくる。日本の場合は、ヨルダンでも警察は一切大使館に来なかった。結局、人質交渉なんかしたことがない外務省がずっとやらされた。結局それは縦割りの責任逃れだったと思うんですけれども、そういった組織が日本にはないし、あるいはアメリカのDHSも同じパターンだと思いますが、そういった意味では、どの国のどういった組織を日本が学んでいってつくればいいのかというのは、是非先生に具体的に教えていただきたいというふうに思います。僕、コブラなんか一番いいと思っていますけれども、是非先生に教えていただきたいというふうに思っています。  三番目に、高橋先生にお伺いをしたいと思いますけれども、高橋先生の御指摘どおり、私もあの検証については同感でございます。  その上で、北イラクですが、実は我が参議院は、多分一九七〇年代以来初めてだと思いますが、去年の八月に議員派遣として北イラクに与野党の三人の派遣団を出して、北イラクに対して、そことの関係というものを、ODA派遣団出しています。これ、多分非常に我が国としては画期的だと私は思っていますけれども、ただ、その二日後に空爆が始まり、台なしになってしまいましたが。  他方で、イラクに対する、特に北イラクも含めて我が国政府取組というものは多分政策がほぼなくて、特にポスト三十五億ドルがないんだと思っています。ポスト三十五億ドルのイラク、北イラクとの関わり方について、是非高橋先生の御知見を賜りたいと思います。  ちょっと一気にではございますが、三つ質問させていただきます。
  16. 藤原帰一

    参考人藤原帰一君) 今は、まさに核心をつく御指摘でした。難民支援日本の比較優位だと申し上げたときに、間違っても現在の難民キャンプのままで大丈夫と考えていません。  第一のポイントは、何よりも破綻しているんですね。もう全くキャパシティーを超えた規模に広がっていて、それ自体が問題。まあ、もうヨルダンの場合にはそちらの方が先というぐらいでしょうが。その次が、今おっしゃった、これは難民キャンプでは一般的に出てくる問題なんですけれども、紛争再発の原因になります。武装勢力が、その活動する拠点を難民キャンプにつくってしまう可能性があります。これは古くもカンボジア難民時代から我々は何度も見てきた事例です。  そして、ここで面倒な問題があるのは、自治とそれから治安のバランスなんですね。難民キャンプにおいては、自治を認めないことは基本的に不可能です。ごく少数のグループで難民キャンプを維持するときに、その住民の自治を受け入れないということはできない。しかし、それをすることがもし権力の移譲になってしまうとすれば、まさにおっしゃった問題、紛争再発の根をつくってしまうことになる。  ここでポイントになるのは、治安と自治の分業なんですね。ところが、この問題をよく自覚されていて随分経験もあるんですけれども、キャパシティーを超えた難民を引き受けた場合には自治と治安の分業をすることができなくなって、結果的には全部丸投げになっていきます。丸投げになってくると、紛争再発の拠点という悪い方向が強まることになってしまう。  そうしますと、今いろいろ空爆やっていたりするわけなんですが、ポイントは、むしろ難民キャンプにおけるロブストなパワーをどう確保するかということなんです。これは、国連ということでできるのかというのが第一。国連難民キャンプ各国政府の管轄を基本的に外れますから、各国政府は嫌がるわけですね。トルコはそれを嫌がって、そして国連のキャンプを受け入れないという基本的な問題があります。  それをしていくための一つの方法は、既に幾つか事例があるんですけれども、長くなりますからやめますけれども、軍事力について、国連の枠組みの中での軍事力という形にしないということなんですね。恐らくNATO中心になると思いますが、NATO中心の兵力の配置を求めて、ユーゴスラビアは一部これやりました、そして一方では、難民支援の枠組みについても国連のような排他性をつくらない。それによってホスト国との関係は安定するとともに、十分な資本と人、軍隊の流れを確保していくということです。これをしない限りは、難民キャンプが言わば二次災害をもたらすということを阻止できない。  これくらいにしておきましょう。
  17. 板橋功

    参考人板橋功君) ありがとうございます。  大野先生とは長い付き合いでありますし、実は、今日お配りしているこの「テロにどう立ち向かうか」という「外交フォーラム」の前の章の論文は、大野先生がたしか書かれていたような記憶があるわけですが。  確かに、私も二十七、八年、このテロ対策とか邦人の安全対策の問題に関与していますが、まだまだ政府が一体となって一丸となって対応しているかというと、それはなかなかそう言い難い面があるなとは思っています。ただ、二十数年前よりは、実は企業の体制より政府の体制の方が整ってきたのかなと感じているところがあります。  一つは、これは最近の話なんですが、外務省でもエマージェンシー・レスポンス・チーム、ERTをつくりましたし、それから警察の方ではTRT、TRT—2というのがあって、別個に行動はしていますが、それなりの意思疎通はあるのかなと思っていますし、TRTも外交旅券でたしか行っているはずですので、そういったことからすると外務省との関係もあると思いますし。それからNSC、ちょっとまだできたばかりというのがありますし、事態室とNSCの役割分担がどうなるのかというのもまだはっきりしていないところがある。これはまたちょっと時間が必要なのかなと思っています。  それから、先生から英国のコブラの話が出てきましたが、私はかねがね、このペーパーでも指摘したんですが、イギリスには実は内閣官房の附置機関で、いわゆるクライシスマネジメントを研修するアカデミーがあって、そこで各省とか民間人も入って、同じ知識レベルというか教育を受けるようなシステムがあります。これは、各省庁だとか、あるいは場合によっては民間の企業の人たちも入って、同じ場で議論をしたりして共通の言語とか共通の意識とかそういうものをまずつくるのがいいのかなと、実は前々から提唱しているんですが、この際、我が国においても、危機管理とかテロ対策というのはもう重要な課題であるということは明らかでありますので、そういった危機管理に関するアカデミーみたいなものをやっぱり内閣官房の下につくって、そこで各省庁や民間あるいはいろんな機関が集まって、同じような研修を受けて同じような共通言語を持つと。  もう一点だけちょっと指摘させていただきますが、私、二十五年ぐらい前、たしかビエンチャンというタイの国境で人質事件というか誘拐事件、これは三井物産の事務所長さんが誘拐された事件なんですが、そのときにこの件について取材に行ったことがあって、そのときに、当時は外務省が対応していたんですが、タイ警察から、言語が通じない、オペレーションの言語が通じないというので、警察から書記官が出ているんだから警察の書記官を出してと言われたと。これは今は相当改善されてきていると思いますが、そういった、捜査機関は捜査機関、警察は警察、軍隊は軍隊で独特な言語をそれぞれ使っていますので、共通言語を知るということは非常に重要なことなのかなとそのときに感じました。  以上でございます。
  18. 高橋和夫

    参考人高橋和夫君) イラク北部では既にJICAも活動していますし、その他の地域の治安が必ずしも芳しくないということで、日本人が安心して活動できるところがイラク北部に限られているということもあると思いますし、また、外務省も、領事館までは開いていませんけれど事務所を置くということで、外交レベルでもできる範囲で動こうとしているように思います。それ以上の詳しい情報は持っておりません。  ただ、私が実際にイラクで見たのは、日本のNGOがイラク活動していますし、また海外のNGOが日本人の職員を今送り込もうとしています。そういう意味では、イラクで着実に、ゆっくりではありますけれど、日本人の存在感が増してきているとは思います。具体例を挙げますと、最初行ったときはそうではなかったんですけれど、二回目に行ったときは既に日本のJCBカードが通用するようになっていますし、そういう意味では日本人の存在感がだんだんと増してきていると。で、先ほど大野先生から御指摘があった、与野党の議員の先生方が行かれたということで、政府、野党を超えたコンセンサスがあって、この問題に日本の関与を深めていこうという姿勢が見えるのを私としては非常にうれしく思っております。  もう一つ申し上げたいことは、現地では既に韓国が非常に存在感を増しておりまして、現代を始め各社が出ていっています。これはもちろん、日本の自衛隊が南部のサマワに出ていったのに対して韓国はクルド地域に軍隊を派遣していたという、そういう経緯もあるわけです。ただ、現地のビジネスマンなんかのお話を聞きますと、どうして日本の企業は出てきてくれないんだと、韓国の企業には感謝しているけれど、我々は日本の企業も歓迎したいということですので、外務省、JICAが一歩出ようとしている中で、是非とも日本の企業の方にも出ていっていただきたいなという感覚を持っております。
  19. 大野元裕

    ○大野元裕君 ありがとうございました。
  20. 柳田稔

    会長柳田稔君) 河野義博君。
  21. 河野義博

    ○河野義博君 公明党の河野義博でございます。  今日は、三人の参考人先生方、ありがとうございました。  私の方からは、板橋参考人に三点質問をさせていただきます。  まず一つ目。先生の御提言の中で、国際的なテロ対策の総合的、包括的な枠組みを再構築、これは日本がリードしていくべきという貴重な御提言を承りました。私自身もその必要性を感じておりますけれども、具体的にどの機関に権能を持たせて取り組んでいくかということに関して御提言を頂戴できればと思います。  二点目が、我が国の直接的なテロ対策という観点から申しますと、軍事的、武力的な脅威への備えというのももちろん必要なんですけれども、地理的な要因を考えますと、サイバー空間ですとかインフラシステム、また橋梁を含めて、発電所もございます、原発もございます。そういった分野へのテロ対策といった取組も急務であると私承知をしておりますけれども、この点に関して行政府、立法府に対して御提言があればお聞かせをいただきたい。  三つ目なんですけれども、事前配付の資料の中で、先生からインテリジェンスの強化、また防衛駐在官を増強していく必要があるという御提言を賜っております。私もそのとおりと思っております。一方で、情報収集といった観点からは、いろんな網をそれなりには張り巡らしているのかな、いろんなチャンネルを持っているのかなという気もしております。一方で、最大の課題は、その集めた情報をどう有機的に使うのかという制度がまだまだ足りないという認識を私は持っておるんですけれども、そもそものその情報レベルが世界標準にどの程度の実力、日本が持っているのかという点、また、その情報をどう使っていくかという課題にどう立ち向かっていくかという点で御提案をいただければと思います。  よろしくお願いします。
  22. 板橋功

    参考人板橋功君) まず、ちょっと三点目の方から答えさせていただきます。  私は、この二十年間、三十年間ぐらいで日本の情報収集能力とか提供能力ってかなり進んできて、いや、十分とは言いませんよ、でも進んできているのかなと実は思っています。  一点ですが、まず、外務省でやっている海外安全情報というのがあるんですが、これは私は物すごいシステムだと思いますね。こういった類いの情報を民間に提供するいろんな専門会社はあるんですが、英国あるいは米国系の。私は、それに匹敵するというか、それ以上の情報を提供していると思っているんですね。ただ問題は、民間側に使いこなせる人間がいないというところが大きな問題なんですね。  なぜかというと、そもそもその海外安全情報のもとというのは、警察や防衛やあるいは邦人保護をやっている専門家が書いているわけですね。ですから、あるいはその現地の治安機関や現地の軍と常に情報交換をしている人間がもとを書いているわけですから、それなりのその行間を読むといろんな情報がそこに入っている。でも、残念ながら、民間サイドにそれを読める人間がいないというのが今、情報の、せっかく政府は提供しているんだけど民間で使いこなせないという問題が一つあるのかなと実は思っています。  もっとインテリジェンスの問題まで遡りますと、当然ながら在外で活動するインテリジェンス機関ってあった方がいいと思います。あった方がいいけど、そんな簡単に、じゃ今日つくりましたって、機能するのかと。恐らく二十年、三十年掛かるでしょう、機能するまでには。  じゃ、誰がそれを役割を担うのかと。若干、国内の情報収集だとか、あるいは外務省の情報調査局ですとか内閣情報調査室で関わっている人たちはいますが、これはここで申し上げるのがいいのかどうかよく分かりませんけれども、恐らくどこの国のインテリジェンス機関も、在外で情報収集をするというのは非合法活動も行うという前提だと思います。日本でこの議論をすると、その前提が成り立つのかな、理解を得られるのかなということが非常にあります。日本の公務員が例えば在外に行って非合法活動を行う、これは現実的問題なんですね。ほかの国の情報機関というのはそれは当たり前なわけで、こういう議論をしていかなければ真の情報機関をつくるということにはならないんだろうと思います。そういった意味で、まだまだ国民的な議論が必要な課題なのかなと思っています、三番目については。  二番目ですが、ちょっと反対から行きますが、おっしゃるとおりで、これは二〇年にはもうオリンピックが迫っているわけで、サイバー空間に対する対応ってもう待ったなしでやらなければいけない問題だと思います。  現に前回のロンドン・オリンピックのときでも、ロンドン・オリンピックのサイバー対策をやった人たちの話を聞きましたけれども、やっぱり物すごい脅威があったわけですね。実際にオリンピックのサイトには相当な攻撃があったというふうに聞いています。もちろんブロックしていますが。そういうサイバー空間での対応、もちろん軍事的な対応も含めてそうなのかもしれませんが、サイバー空間での対応というのはやはり日本の喫緊の課題だと思います、テロ対策は。  それから、国際的なテロ対策の枠組みですが、やっぱり日本国内では内閣官房が中心となっていくべきだと思いますが、何しろこれは国際的な枠組みを再構築しなければいけませんので、国連なのか、あるいは今はASEANでもこういったテロ対策取組をして日本も相当支援をしたりしていますが、そういう一定エリアのものを再構築していくのか、あるいは国連のやっているテロ対策、いわゆる軍事面を除くテロ対策の再構築をしていくのか。日本が、じゃ、どこが主導していくのかというと、やっぱり内閣官房かNSCになってくるんだろうと思いますね。  これは先ほどもちょっと申し上げましたけれども、誰もが恐らく軍事力ではテロは解決できないということは薄々、恐らくアメリカも感じているし、イギリスも、イギリスは公式なレポート出ていますし、感じていると思うんですね。国際社会でも薄々は感じているけれども、そこをもう一回、対テロ戦争から引き戻す、カウンターテロリズム世界に引き戻すというのを誰が主導するかというと、私は日本というのは非常にいい地位にいるんじゃないかなと思いますね。中東に対するスタンスもそうですし、東南アジア諸国に対するスタンスもそうです。  それから、最後にもう一点だけ申し上げますが、実はアメリカも、軍事力の行使だけではなくて、ある程度イスラム諸国も含めたこういった非軍事面でのテロ対策の枠組みができないか、実際に動き始めたわけですけれども、そこにイラク戦争が起こり、それが頓挫してしまったということがあるわけですね。実際にインドネシアとかマレーシアとかそういう国も、いわゆる軍事力が主軸ではないテロ対策の枠組みというのがちょっとできかかった時期があったんですが、残念ながらイラク戦争によってそれが全部御破算になって、御破算までは行きませんけれども、思うようにいかなかったという側面があると思いますので、そろそろみんな国際社会もだんだん気付いてきていますので、もう一回そのカウンターテロリズムの枠組みというものを構築する必要があるんだろうなと思っています。  以上でございます。
  23. 河野義博

    ○河野義博君 ありがとうございました。
  24. 柳田稔

    会長柳田稔君) 柴田巧君。
  25. 柴田巧

    ○柴田巧君 維新の党の柴田巧です。  今日は、三人の参考人の皆さんにはお忙しい中御出席いただいて、またそれぞれのお立場から貴重な御意見をお聞かせいただきまして、私からも感謝を申し上げたいと思います。  まず最初に、私からも板橋参考人にお聞きをしたいと思いますが、先ほどのお話にもありますように、これから私どももいつ何どきテロに巻き込まれる、あるいはその標的になる可能性が大きくなったと思っております。    〔会長退席、理事小林正夫君着席〕  終わりの部分でお触れにもなりましたが、来年はサミットがございますし、また、言うまでもありませんが、二〇二〇年にはオリンピック・パラリンピックもございます。サミットも、ロンドンで行われた際にはやはりイギリスの中でテロが起きたり、オリンピックについては、ミュンヘンを始めしばしばその標的になっているわけです。  テロ対策専門家のお立場から見ておられて、現時点で、サイバー攻撃のお話もありましたが、それ以外で例えばこういうところが盲点になっているんじゃないかとか、あるいは、準備態勢が進みつつありますが、こういうところがどうももっと充実すればいいんじゃないかといったようなところがあればまず教えていただければと思います。
  26. 板橋功

    参考人板橋功君) ありがとうございます。  先生案内のとおり、まさにグレンイーグルスのサミットのときにロンドンでテロが起こったり、国際的なこういう行事というのはやはりどうしてもテロのターゲットになりやすいという側面があると思います。現に北海道洞爺湖サミットのときに、実はこれはグレンイーグルスの後だったものですから、開催地である北海道洞爺湖と同時に首都東京が狙われるんじゃないかということがあって、二正面作戦と称して首都東京の警戒も相当、当時しました。  実は、今度のサミット、まだ開催地決まっていませんが、私は、首都東京だけではなくて、あらゆる日本の都市が前回の洞爺湖サミット以上の警戒をしなきゃいけない状況なのかなと思っています。主要都市は全て、大阪も福岡も札幌も全てと考えています。それから、主要な集客施設、大規模集客施設あるいは大規模ショッピングモール、鉄道。そうすると、狙われそうなところは全てじゃないかと。そのとおりです、それだけの脅威が今国内で上がっていますよと。  私は、どっちかというと今までは楽観視をしてきた方です。このISILの事件がある前は、まあ、そうはいっても日本ではなかなかやりにくいだろうなと。ただ、最近いろんな条件が整いつつあります。一つは、簡単に入手できるもので強力な爆発物ができるということ。これは今、警察でもその原料となるような化学物質については相当量販店や薬局等にお願いして注意を払っていますが、割と簡単に、ネット上で作り方も載っています。ですから、ヒットエンドラン、ぽっと日本に入ってきて、昔は要するに爆発物とか武器を日本で入手するって非常に難しかったんですが、そこが今、一つ簡単にできてしまうというところです。  それからもう一つが、これはアルカイダの九・一一を企画したハリド・シェイク・モハメドというのが証言しているんですが、日本で日韓ワールドカップの際にテロを行おうと思ったけれども、日本にはインフラがなくてできなかった、インフラというのは仲間ですよね、がなくてできなかったということを証言しているんですが、やはり仲間が武器や爆発物を調達したりターゲットを視察していろんな情報を収集して、ここに仕掛けたらいいんじゃないか、ここを狙ったらいいんじゃないかと。ですから、インフラがないとできなかったということですが、今やまさにグーグルアース、グーグルストリートを見ればある程度のターゲットまで絞れてしまうというような状況になってきて、こういったテロに使われるようなインフラというのが充実してきてしまった。今回のドローンなんかもそうですけれども、そういったテロに使われるようなものというのが、いろんなインフラ自体が整備されてきたと実は思っているんです。    〔理事小林正夫君退席、会長着席〕  そろそろ、ドローンの問題も実はそうなんですけど、私は、テロ対策のための本人確認法とかあるいは登録制度とかというのをつくった方がいいんじゃないかと。例えば、携帯電話とかあるいは預金口座がいわゆる特殊詐欺に使われる、そうすると、今、みんな本人確認をしていますよね。預金口座の場合はテロ資金規制の方が強かったわけですけれども、やはり例えばテロ対策のための本人確認法あるいは登録法みたいなのをつくって、別途法律で指定するのか政令で指定していくのか分かりませんけれども、ああいう危険なものについてはすぐ対応できるような体制というのを少し整えなきゃいけないのかなと。  だから、ドローンの問題にしても、今ある既存の法律だけで対応できるのかなと、電波法とかいろんなものでできるのかなと、ちょっと。私自身は、もうこの際と言ったらおかしいですけど、やっぱりオリンピックを控えて、もう少しそういった法制面も充実させる必要があるのかなと思っています。  以上です。
  27. 柴田巧

    ○柴田巧君 どうもありがとうございました。  もう一つ板橋参考人にお聞きをしたいと思いますが、こうやって国内テロ対策を充実強化すると同時に、先ほどもお触れになったように、テロの国際協力、やはりテロリストに安住の地を与えないというか、しっかり国際的に協力、一致してやっていくべきだと思います。  これまでもテロ対処能力や捜査能力の向上に我が国は貢献してきたと思いますが、これから先、今申し上げた対処能力や捜査能力を上げるために、東南アジア諸国等々でどういうことが特にこれから力を入れるべきかというのが一つと、いろんな、ある意味テロ対策にもなるんだろうと思いますが、人道支援、民生面の支援ということもお触れになりましたが、いわゆるそういう国々でグッドガバナンスが実現できるような法制度支援など、これはODAでもやっているところがありますが、こういったところを、日本の経験、実績を基にそういうグッドガバナンスを実現させていく上で大変日本としては強みを生かしてやれる分野だろうと、それがまたテロ対策にもつながるんじゃないかと思うんですが、そこら辺について板橋参考人のお考えをお聞きをしたいと思います。
  28. 板橋功

    参考人板橋功君) ありがとうございます。  ちょうどレジュメの三枚目の対テロ国際協力というところにちょっと書かせていただきましたが、これは外務省を中心に、警察、あらゆる役所、海上保安庁なども絡んでいるわけですが、東南アジア諸国中心に、出入国管理、航空保安、それから九番のテロ防止関連条約等の分野においてと、こういった九つの分野において東南アジアへ積極的に支援をしております。私も実は航空保安の分野でインドネシアで講演させていただいたこともあります。  とりわけ先生がおっしゃったように、法制度の整備でテロ防止関連諸条約と書いてあるのは、これテロ関連条約を批准するための国内法の整備について実は支援をしているわけですね。これ非常にいいと思います、こういう支援が。実際にもうやってきていますので経験があるわけです。今度は、その東南アジアの経験を基に、中東とかアフリカ諸国にこのキャパシティービルディング支援を広げようという方向であると伺っていますので、非常にそういう意味では、日本のまさに、何といいますか、やるべき支援をやってきているのかなと思います。  ただ、ちょっと残念なことに、これ外務省の国際テロ対策協力室というのがあって、九・一一以降できたんですが、ほとんど専門にこういったことをやっていた部署が今なくなってしまいまして、幾つかの部署がくっついた組織になっていて、もう随分予算も相当削られていると話を聞いております。  やっぱり今こそこういった分野での支援日本は必要なんだろうと思いますので、むしろ、先生方の御理解を得て、もう少し積極的な支援を展開できるようにした方がいいのかなと私自身は思っております。これは、御案内のとおり、外務省だけではなくてあらゆる省庁がノウハウを持っているわけですから、例えば港湾とか海上の問題でしたら海上保安庁が持っているわけですし、捜査支援でしたら警察が持っているわけですし、そういう英知を結集して対応していくという必要があるのかなと思います。  以上です。
  29. 柴田巧

    ○柴田巧君 時間が来ました。ありがとうございました。
  30. 柳田稔

    会長柳田稔君) 市田忠義君。
  31. 市田忠義

    ○市田忠義君 日本共産党の市田忠義です。  今日は、大変貴重な御意見をありがとうございました。  国際テロにどう対処するか、日本がどう貢献するかというのは極めて今日的に重要な問題だと思うんですけれども、私はテロ根絶のために少なくとも次の三つの原則が必要じゃないかというふうに考えているんです。  一つは、やはりテロが生まれる根源の除去、貧困をなくし、地域紛争を平和的に解決すると。もちろんテロの根源は貧困だけではなくて様々な要素がありますし、富裕層も最近では参加しますから総合的に見るべきですが、いずれにしても、対症療法だけではなくて、やっぱり根源の除去。それから二つ目に、テロを特定の宗教や文明と結び付けないと。私は、テロとの闘いというのは、いわゆるイデオロギー闘争、特定の価値観や思想との闘いではなくて、犯罪との闘いというふうに捉えるべきじゃないかと。それから三つ目に、やっぱりテロ根絶は国連中心に、国際法、国際人道法、基本的人権と両立する方法でやらないと、結局テロリストを喜ばせるだけじゃないかというふうに考えています。  そういうことを前提に、現実のISの問題ですが、これは高橋参考人にお聞きしたいんですけれども、当面の問題としては、国連のISに関する安保理決議、例えば資金源断つとか外国人戦闘員の流入を阻止すると、これを各国が共同して進めるということが大事だと思うんですが、もう少し中長期的に見た場合に、今、これは板橋参考人もおっしゃいましたが、国際社会全体がテロ・過激主義対策について、軍事偏重からテロの根源に取り組む包括的、多面的な対策へと進みつつあると。今年の二月のアメリカが主催した閣僚会合なんかでもそういう流れが、これは国連関係者からもアメリカの幹部からも、軍事だけでは解決できないという声が上がっています。  そういう点で、そういう世界流れとの関係国際テロにどう対処すべきか、日本がどう貢献すべきかという問題について、高橋参考人の御所見を伺いたいと思います。
  32. 高橋和夫

    参考人高橋和夫君) 御意見ありがとうございます。御質問ありがとうございます。  私も、やはりテロを特定の宗教と結び付けて語るということが誤解の根源だと思います。アメリカで例えば銃の乱射事件があったとしても、普通はキリスト教テロリストによる銃の乱射事件とは報道されないんですけれど、ただ単に精神的に問題のある人物が銃を乱射したというふうに報道されるんですけれど、これがイスラム教徒が関わりますと、必ずイスラム急進派によるテロというような非常に偏った報道がなされ、これがやはり我々のテロ問題の理解を難しくしているというふうに、全く同感でございます。  この括弧付きのイスラム国、IS問題、短期的には軍事力で抑え込むという面がやむを得ないんですけど、中期的にあるいは長期的にどうするのかという点でございますけれど、このISの台頭の背景にあるのがイラクの混乱、シリアの内戦という理解に立ちますと、イラクの混乱をどうやって収めるかということで、もちろん問題はイラクの人口の二割程度を占めるスンニ派地域の混乱が主にありまして、スンニ派の人々の、自分たちの利害が必ずしもイラクの政治に反映されていないというところにあるわけで、中期的な問題としては、イスラム国を倒した後、いかにしてこのスンニ派の人々が、自分たちの気持ちが反映された政治であるかということを納得していただくかということにありますから、スンニ派の住民をいかに政治に巻き込んでいくかという、彼らの利害をどうやってイラクの政治に反映させていくかということに尽きるかと思います。  さて、さらに長期的な問題になるんですけれど、日本イラクに対してどういう関係を持ち得るのかということになりますけれど、日本は、サダム・フセインの時代イラク経済建設に非常に大きな役割を果たしておりまして、スンニ派の人々と決して悪い関係ではないわけです。それから、クルドの方々も大変親日的な感情を持っておられますので、そういう意味では、日本が対話を促すという役割を果たすことは十分に可能かと思います。日本外交がそういう話合いの場を提供するということは、それが直接イラクの平和をもたらすということではなくて、環境づくりに関しては役割を果たせるのではないかと思います。  例えばパレスチナ問題でありますけれど、もちろん日本の動きによってパレスチナ和平というのが実現されたということではないんですけれど、現在、イスラエル側、そしてパレスチナ側の代表者を呼んで日本で非公式な会議を行うという作業はずっと続けられていまして、これが双方の理解の促進に一役買っているということもありますので、そうした役割日本が果たすということは十分にあるかと思います。  また、シリアの将来に関しましても、シリアのアサド政権日本が何ら敵対する理由はございませんし、また、反アサド勢力にしても日本に対して特別な悪意を持った人々というのがそんなにいるとは思えませんので、難民支援難民の受入れ等の平和的な手段によって、将来シリアの人々が、それを望むというのが前提になりますけれど、対話を望むのであれば、日本がそうした場所を提供する、フォーラムを提供するというようなことは十分あり得るんではないかと思います。  やはり、御指摘のように、国連の枠組みで動くということが平和のために重要でありまして、国連の枠組みを外してしまっては、例えばロシア中国の協力が得なければ全く和平への動きというものは期待できないわけですので、あくまで国連の枠組みを尊重しつつという日本が伝統的に大事にしてきた価値観を守っていくことに、長い目で見ると、イラクにおいてもシリアにおいても日本が平和のために貢献する道筋ではないかと私は考えています。
  33. 市田忠義

    ○市田忠義君 時間がなくなりましたので、板橋参考人に。  テロ対策専門家でいらっしゃるわけですけれども、今日の御発言の中でも、あるいはお書きになったものを拝見していますと、中東諸国において日本武力行使に関与しない方がよいと思いますと、米国と一線を画すことも必要だということも指摘されていますし、国際テロ対策の枠組みで、今後も軍事力の行使には参加せず、周辺国に人道支援をする姿勢を貫いてほしいということも、これは朝日のインタビューでもそういうことをおっしゃっています。  なぜそういう結論になるのか。私はこの結論に全面賛成なんですけれども、歴史と事実が証明していると言えばそれまでですけれども、こういう結論を導き出される、何というか、背景にあるものを簡潔にお述べいただけないでしょうか。
  34. 板橋功

    参考人板橋功君) 一つは、この「対テロ戦争の終焉」というところにも書いてありますが、やはり根本的にあるのは、軍事力ではテロは解決しないというのが私の根本にあります。  それから、アメリカも、実はこれはまだ九・一一以降も崩していないんですが、テロ対処の原則として、先生おっしゃったとおり、犯罪と捉える、テロリストを法廷に引き出してきて裁くんだというのがアメリカにとっても大原則なわけです。  ただし、先ほどもちょっと触れましたけれども、自爆テロ犯を法廷に引きずり出すことができないという問題もあり、アメリカにとっては事前に彼らを制圧するという方法も一つの方法だということだったわけですが、九・一一以降の状況を見ていますと、やはり軍事力では解決できないという、これはもう明らかでありますので、そういった意味で、日本役割としては実は非常にいい位置にいるじゃないかと、中東諸国に対してですね、親日的なところも多いしですね。それが逆に、それを推進することによって日本の脅威度を下げていくことにも寄与するんじゃないかという視点でございます。
  35. 市田忠義

    ○市田忠義君 終わります。
  36. 柳田稔

  37. アントニオ猪木

    アントニオ猪木君 日本を元気にする会の、本当は元気ですかをやるんですけど、行きますか。元気ですか。ということで、済みませんけれども。  ということで、テロの問題、いろいろ参考になる話を聞かせてもらいました。私も一九九〇年に、前回議員になってすぐにイラクに飛び込んで、私の担当がサダム・フセインの息子さんのウダイ・フセインという、最近映画でよく出てくるんですけど、大変悪いやつに描かれていますが、実際は、人質の奥さんと一緒にいて、うちの三歳の子供が、今この子にとって一番お父さんが必要なんですと涙ながらに訴えたら一緒に涙を流したという。人は、出会って話し合って心を開けば、全てではないにしても道が開けるかなと。  私も、一九七六年なんですが、アリ戦の後に向こうのチャンピオンが挑戦してきて、それでその後ヒーローになりまして、行くと大変な人が歓迎してくれますけど、そのときにペシャワールの難民キャンプへ訪れまして、本当に大変な人がアフガンから流れていて、そのときにいろいろ、食料もそうですが、一番欲しいものというのは井戸が欲しいということで、やはり水が足らなかったということで、そんな注文もありました。  ソマリアも行きまして、ちょうど自衛隊が行く前でしたが、本当にこれは生き地獄というのはこういうものかなという。シールが貼られたテントの下に、遠くから逃げてきた、それが国連支援の下で、地べたにみんな横になって、お母さんはもうおっぱいがないんですね、食べていないので。それで、子供が地べたの横に寝ているんですが、国連の職員が来て脈を取って、それを白いシーツの上に巻いてそのまま持っていってしまう。普通なら泣き叫ぶお母さんも、その先にお父さんがいたと思うんですが。そんなような生き地獄の体験を見てきましたけど。  そのような、今どうしたらこのテロという問題は、ここに藤原先生書いておられる、ブッシュが最初に、イスラムに手を付けるなというのが原則だったんですが、イスラム最初に侵攻したというのが始まりで、その後イラク戦争になって、そして今日に至りますが、その辺についてちょっと、この経緯について質問をさせていただきたいと思います。
  38. 藤原帰一

    参考人藤原帰一君) かなり広いお話になるのを、要点をまとめるのが難しいんですが、イスラムという焦点がアメリカ外交にどう生まれてきたのかということで考えますと、これは、決定的な瞬間は何よりも九月十一日の同時多発テロ事件。その前に導火線はありました。既に、湾岸戦争の後、冷戦終結期ですけれども、サダム・フセイン、イラク政府との関係湾岸戦争が終結した後でも国内政治の争点となります。  私はこの湾岸戦争において越境攻撃を控えたことは正当だったと考えていますけれども、それはもう今は改めて説明するまでもない状況になってしまったと思いますが、攻撃すべきであった、フセイン政権を倒すべきであったという議論が出てくるんですね。そして、これはアメリカの講釈になりますが、議会制民主主義への転換が様々な地域、ラテンアメリカ、東南アジア、あるいは旧ソ連東欧諸国などで進む中で、中東だけが残されているということが問題になります。  制度の問題で申し上げますと、地域専門家が国務省で大幅に交代して、民主化を進めるとかいったアジェンダ、争点を第一にした組織がクリントン政権時代に生まれます。このことが、板橋先生がおっしゃったこととつながるんですが、地域専門家の判断が政策に反映しづらい仕掛けをつくってしまいます。  結果論から申し上げますと、中東民主化の非常に大きな機会をお父さんのブッシュ大統領が逸してしまったというところから、これは少数派の意見でしたけれども、フセイン政権を力によって倒すべきだという議論がクリントン政権のさなかに繰り返される。そして、クリントン政権のときには、空爆をして地面から空を攻撃する拠点を破壊しては、しかしながら軍事行動はそこにとどめるというイタチごっこが続いてきたんですが、子供の方のブッシュ大統領が生まれて、二月ですか、やはり同じような事件が起こります。このときにも、こんなイタチごっこを続けることはない、やはりあの政権は倒すべきだという元気のいい議論が出てくる。  念のために申し上げますが、このときにイスラム社会全体に対する偏見とかあるいは反発とかがアメリカ外交を支配していたとは必ずしも言えません。というよりは、言うことができません。これはマイノリティーの議論でした。ですから、二〇〇一年の春に私が国務省の皆さんなどからお話をお伺いしたときには、本当に簡単に言えば、そんな素人みたいなことを言っている、とんでもないといった議論で、ほとんど一蹴していたんですね。それが九月の十一日、同時多発テロ事件で全部転換することになりました。  説明が長くなり過ぎました。このお話を更に広げて申し上げますと、最初の方でお話に何回か出てきましたが、根源ということを市田さんがおっしゃって、それから最初の御質問で二之湯さんですか、やはり構造的な問題に目を向けるべきだというお話がありました。このことで申し上げれば、イスラム系の移民を抱えている社会における中東諸国との関係、これが大きな争点となっていて、しかもイスラム系の移民に対する迫害の強化、ムスリムはテロリストだといったような動きがオランダからデンマークといったところにまで広がってしまっている。アメリカの場合にはイスラム系の住民の数が少ないですから、ですから移民問題ということに必ずしもならないんですが、そのことは逆に現実離れした悪魔的なイメージを非常に広げやすい土台があるということです。日本は、今のところその中には入っていません。イスラム教徒だから敵だといった観念が生まれるほどイスラム教徒に出会った人がそもそも少ないという状況でしょう。  ただ、今申し上げたように、敵と味方をそれぞれ一括するような認識が一旦社会の中に生まれてしまいますと、これを増幅するような扇情的な政治家と結び付いて一気に紛争が根深いものになってしまいます。残念ながら、この状況ヨーロッパの比較的移民問題が少ないとされていたところまで今広がっている最中だという認識です。  以上です。
  39. アントニオ猪木

    アントニオ猪木君 そうですね。イスラム世界から私もモハメド・フセインという名前をいただいておりまして、イスラムから見た世界という、どうしても我々は日本から見た、欧米から見たイスラム世界というふうになってしまいます。  先日、一月、マララ女史に会ってきまして、やはり彼女もああいう事件に遭って、本当に十七歳の女の子が大したものだなという感銘を受けましたが。  やはりパキスタンとアフガニスタン国境、それからペシャワールというのがありますけど、そこのペシャワールでも難民あるいは平和の祭典ということで三年前にやりましたところ、ちょうど国交六十周年ということで開催したところ、ペシャワールでやるんじゃ外務省は後援はできませんと言って降りたので、結構ですということで強行しましたら、前後一週間テロ行為が一切起きなかったという。スポーツ交流、これがどういうあれだったか分かりませんけど、とにかく向こうの現地の人たちもびっくりしているわけなんですがね。それで、一つには、ワガという町があるんですが、パキスタンとインドの国境で、これは本当に軍人さんが行進をしてショーになっていて、そういうような平和を訴えていくというのも大事かなということで。  高橋先生に、最後に放送関係ということで、やっぱり教育が一番大事じゃないかとマララも言っておりましたけど、その辺についてお聞かせください。
  40. 高橋和夫

    参考人高橋和夫君) 私、ちょうど三年前パキスタンに行っておりまして、ホテルに猪木議員が現れて猪木議員の現場での活躍というのを身近に見て、前から現場に飛ばれる姿勢に敬意を払っておりましたので、現実に見せていただいて非常に感銘を受けました。  さて、教育の問題でありますけれど、やはり、これはもちろん言うまでもないことなんですけれど、教育が変わらなければ中東イスラム世界は変わらないと。特に重要なのは男性の教育よりも女性の教育で、マララさんがおっしゃっているとおりだと思います。  イスラム世界は男女隔離だとか男女差別だというようなことが非常に言われますけれど、例えばパキスタンでは女性の首相が誕生しております。トルコでも女性の首相が誕生しております。我が日本では、ここにいる皆さんに頑張っていただかないとまだまだということで、国会議員に占める女性の割合で見ても必ずしも日本はトップの国ではないということで、イスラム世界から見ても、日本社会の女性の社会進出の遅れというのはかなり気になるところであります。  女性の教育がどのくらい社会を変えるかということになるんですけれど、例えば隣の国のイランの例ですと、男女隔離をするということで、男性のお医者さんが女性を診れなくなったということで、女性の医者が要るということで、女性の医者というのが大変増えています。また、イランでは今大学生の過半数は女性になっていますし、そういう意味では非常に大きな進歩が見られて、しかも女性が教育を受けるということで家族計画の知識なんかも広がりまして、出生率というのも劇的な激減、低下を見せるということで、女性に教育を与えるということが恐らくイスラム社会をいい方向に変えていく大きな原動力になるんだと思うわけで、我が国イスラム社会への支援の重点の一つとしては、中長期的には教育、なかんずく女性の教育ということに軸足があってもいいのかなというふうに思っています。  もう一つ申し上げますと、現在、発展途上諸国はどこでもそうなんですけれど、大学で勉強したいという若者が急激に増えて、既存の大学だけでは対応できないということで、実はこれは放送大学のような通信制の大学、特にインターネットを使った大学というのが急激に学生を集めています。恐らく普通の通う大学の学生よりは通信制の大学生の方が数が多いというような状況が既に生まれているわけで、日本の発展途上諸国への教育支援という面でも、一つの柱は女性教育への支援、もう一つの柱は通信制教育への支援ということが考えられてもいいのかなというのを猪木議員の質問を受けた機会を使いましてお話しさせていただきました。  ありがとうございます。
  41. アントニオ猪木

    アントニオ猪木君 時間が来たので終わります。ありがとうございます。
  42. 柳田稔

    会長柳田稔君) 以上で各会派一巡いたしましたので、これより自由に質疑を行っていただきます。  質疑のある方は挙手を願います。  谷合正明君。
  43. 谷合正明

    ○谷合正明君 公明党の谷合でございます。  私からは、藤原先生に御質問させていただきたいと思います。  日米同盟と中ロ政策のところで、抑止の効用と限界について最後述べられたかと思います。その中で、抑止を基本としつつ、しかしながら抑止だけでは小規模紛争のエスカレートを防げないという話がありました。そこで、そのときは時間切れだったと思うんですが、小規模紛争のエスカレートを防ぐ手だてというのは具体的にどういったものなのか。  まさに我が国が抱えている現実的な安全保障の脅威というのは、私もそう思うんですが、やはりグレーゾーン地帯のいわゆるエスカレーションだと思っております。是非この点についての御所見を伺いたいのと、抑止を基本としつつ、その抑止政策が逆に周辺地域に何か逆効果になるような、よくマスコミが指摘するような、そういうことが実際あるのかというところについても御所見を伺いたいと思います。  それから二つ目ですが、難民支援なんですが、私もずっと国内外の難民政策に関わってきたものですから、今日、藤原先生高橋先生がそれぞれ難民支援について触れられたということは非常に興味深く思いました。そこで、難民支援に比較優位があると、我が国支援として比較優位があるとされたその理由についてお伺いしたいと思います。  教育とか医療とかいった人間の安全保障という一環の中で私は大事だと思っているんですが、特に難民支援について言及されたことはなぜなのか。これは北欧地域なんかも当然そういう人道支援やっているわけでありますけれども、我が国が、難民支援が、そこにどういう思いが込められているのか。  また、この難民支援も、突き詰めていくと、難しいのは、高橋参考人が言われていたように、実際我が国にどれだけ受け入れる準備をしていくのかということだと思うんですが、これについて、私も毎年UNHCRのハイコミッショナーとも会ってシリア難民の問題について協議はしていますが、現実的に、日本に来たとしても、せいぜい二桁とかそんな数だと思うんですね。ですから、数の貢献というのはなかなか難しいんだと思います。何百万人発生しているシリア難民我が国だけの一国の受入れで、その寄与度という意味では非常に低いんだと思います。  しかしながら、政治的には非常に大事なことだとは思うんですが、実際、先生が考える難民支援の具体的なものというのはどういうものなのか、併せてお伺いしたいと思います。
  44. 藤原帰一

    参考人藤原帰一君) 二点お答えいたします。  第一の抑止の問題は、大変古いジレンマですね。相手に対して攻撃をしたら反撃をするぞと明確な脅しを事前に加えておいたら、攻撃の効果を恐れた相手は攻撃しないだろう、これが二国間の非常に古典的な抑止在り方です。  この抑止が緩まる、抑止安定性が損なわれる状況は二点あります。  第一は、我々が核の傘とか呼んだりしますけれども、拡大抑止という言い方の方が正確です。核兵器とは必ずしも限らない。つまり、第三国、同盟を結んでいる第三国が関与する可能性ですね。これは自分の国が攻撃されたから反撃をするというのと違って、同盟国が攻撃されたのに対して行動するということになりますから、確実性がかなり下がります。確実性が下がるということは、攻撃する側は同盟国支援をしないだろうと考えて行動をする可能性が生まれるわけですね。これが一つ目です。  二つ目の問題はシグナルの不明確性であって、必ず相手に反撃をするぞというそのメッセージが明確に伝わらない可能性です。ちょっと何か大学の授業風になってきましたけど、これを今の話に持っていくと大変現実的なことになるわけですね。  というのは、例えばアメリカ中国関係を考えた場合に、両方とも正面から大戦争をする意思がないという仮定をしましょう。この仮定は十分成り立つ仮定だろうと思います。ですから、米中直接の戦争は回避したい。同時に、日本に対して何らかの攻撃があったときに、アメリカ日本支援しなければ同盟の安定性が失われることになります。となると、アメリカ行動せざるを得ないことになる。ここで明らかなジレンマが生まれるわけですね。これが小規模紛争のエスカレートという問題と、それから拡大抑止がセットになった事例になります。  このような場合には、行動が当然ながら確実ではないので、強気で押しまくる側が相手から譲歩を勝ち取る、瀬戸際政策が成功する可能性があります。力任せに中国行動をして、結果的には日本アメリカも後退したという結果になる可能性もある。その結果を恐れれば、自分が戦う意思がない戦争を戦うという結果になってしまいます。  このような状況で何をしたらいいかといえば、これはポイントは非常に明確なんですね。つまり、大規模戦争の回避についての信頼醸成なんです。  この問題、例えば領土問題についての合意形成は極度に難しいと言っていいでしょう。もちろん相手の側の肩を持っているわけではありませんけれども、領土についての国際的な合意をつくることは極めて困難です。ギリシャ、トルコを例に取っても幾らでも例がありますね。しかしながら、大規模な紛争にエスカレートすることを回避するようなことはできる。ただ、大規模な紛争にエスカレートすることを回避するなんて合意なんてできやしないんですね。  そこで、どこにポイントを置いていくかといえば、現在は海上の安全通航というところにウエートを置いているというのが私の理解ですね。これは日本政府アメリカ政府も求めてきたところですけれども、ニュアンスは非常に明確なんですね。つまり、領土問題を棚上げするわけじゃない、うちの要求をやめるわけじゃないけれども、しかし紛争のエスカレートについては共に回避するというメカニズムをつくるということです。  米ソ冷戦時代には、これは核の管理という形でつくられました。核兵器、特に減ったわけじゃありません。だから役に立たないという議論がありましたが、実は東西冷戦が終わる過程で、アメリカソ連、両方とも強硬派を抱えている中で冷戦が緩やかに終わっていくという仕掛けをつくる上では、結果的にはSALT交渉に関わっていたアメリカソ連専門家が大きな役割を果たすことになります。つまり、抑止に加えて、簡単に言えば交渉が必要であり信頼醸成が必要だということになります。  これは、日中間では今のところやっと動き始めたというのが私の認識です。そして、ロシアとの間では、今、メルケル首相が中心となっていますが、残念ながら全く効果が上がっていません。ですから、こちらの紛争はまだ拡大する可能性がある状態というところです。  長くなっていますけれども、難民についてですね。  日本難民支援で大規模なものは何よりもカンボジア難民に対する支援という形で始まりました。これは、政府とそれからボランティア、NGOを含む形で、日本では一番最初の大規模な難民支援と言っていいだろうと思います。それからずっと、その後、アフガニスタンからあるいはコンゴ、さらにソマリアに至るまで相当の活動実績があります。  その中で何よりも重要なのは、JICAがかなり危険性の高い地域での活動を長期間にわたって継続したということです。これは頭が下がる。危険性が高い、しかも軍隊のバックがあるというわけではないところで長期間の活動を、例えばアフガニスタンで、あるいはスーダン、後に南スーダンになる地域の中でも危ないところで進めてきました。  そのような実績があった上でなんですけれども、緒方先生が人間の安全保障などという言葉を使いながら、ODAの対象が紛争地域に次第に移っていくところと合わさって、言わば政策としての難民支援というところにまで広がってきたというのが私の理解であります。  そうはいいながら、先ほどの大野先生のお答えにもつながるんですが、現在の難民支援をただお金と人を増やせばいいかといえば、それはそうではない。というのは、目的は、難民支援とは安定した地域をつくっていくということだからなんです。  先ほどから申し上げていることですが、テロを根絶する方法はなかなか難しいんですけれども、その一つの条件は、破綻国家において安定した統治をつくっていくことです。そして、外から占領することで安定した統治をつくるという幻想は多分捨てた方がいい。とすると、結局、安定した地域を領土的に緩やかに、しかもその土地の自治を前提としながら広げていくという方法しかないということになります。難民キャンプを広げていくというのは基本的にはそういう相対的な安定した地域を広げるということですから、これは難民支援とそれからかなり強い軍事的な関与とセットになっていなければいけない。ここで軍事的関与という怖いことを言いましたが、重要なことは、軍事的な関与が、紛争拡大ではなく、むしろ紛争の終結に結び付いているということを明確に示さなければいけないということです。  最後に、難民について補足ですけれども、私は、難民の受入れ以前に何よりも求められるのは、難民が自分の国に帰って安定した暮らしを営めること、これが第一だろうと思います。また、我々が紛争が悪化しているかどうかを見るときのバロメーターは、難民が出ているのか、それとも戻っているのかということなんです。戻りたいんです。戻りたいけれども安定していなければ戻ることができない。これを紛争のバロメーターとして我々はよく使っています。  と申し上げた上で、日本難民支援のこれまでの実績が、国内難民を引き受けたくないから、だから難民支援しているんだろうという批判にさらされてきたことは事実ですし、多分その事情は実際にあるんでしょうね。ですから、その点では高橋先生と私は同意見でありまして、結果的には大量の難民引受けということにはならないでしょうが、難民をできる限り受け入れず、しかしながら外で難民支援するというこの使い分けはもうかなり無理になっているんじゃないかと思います。  長くなって恐縮です。
  45. 谷合正明

    ○谷合正明君 ありがとうございます。終わります。
  46. 柳田稔

    会長柳田稔君) 他に御発言ございますか。──他に御発言もないようですから、本日の質疑はこの程度といたします。  一言御挨拶を申し上げます。  藤原参考人板橋参考人及び高橋参考人におかれましては、長時間にわたりまして貴重な御意見をお述べいただき、おかげさまで大変有意義な調査を行うことができました。調査会を代表し、各参考人のますますの御活躍を祈念いたしまして、本日のお礼とさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)  本日はこれにて散会いたします。    午後三時二十分散会