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参考人(
近藤聖司君) どうも皆さん、今日はありがとうございます。
今日、私
どもは、
中小企業による
地域産業資源を
活用した
事業活動の例ということで、この十年間、
四国タオル工業組合が行ってまいりました今治
タオルプロジェクト、すなわち今治
タオルをどのように
ブランド化をしてきたかという
お話を少しさせていただきます。
実は今年、
タオルが今治で作られて百二十年になります。その中で本当に幾多の大変な危機がありました。特にやっぱり一九九一年のバブルの崩壊後、
需要の減少と、あと海外からたくさんの安い
タオルが入ってきた。本当にこれで産地自体が五分の一にシュリンクしてしまいました。
そういう中で、二〇〇一年に国の方に繊維セーフガードの発動を要請したわけですが、これは当時のグローバル化の情勢の中で当然通るような形のあれではなかったわけですね。そういうことで、二〇〇四年にそれが却下されまして、それから我々の自立化のスタートが始まったわけですが、当然
ブランド化も進んでおりませんし、
個社がやっぱりSPAという形で前に出ていったわけですが、これはもう十分な結果は得られることができませんでした。
そういう中で、二〇〇六年ですか、JAPAN
ブランド育成
支援事業、ここに当時の理事長が手を挙げて、これにちょっと最後懸けてみようということで手を挙げました。当時、私は青年部の方の会長をやっておったんですが、またどうせ単年度の
事業で、適当なクリエーターか何かが来て知らない間に終わっていた、そういうものだろうというふうにたかをくくっていたんですけれ
ども、今回は、佐藤可士和さんという本当にすばらしい、人間的にもすばらしい方なんですが、この方が来ていただいて、当時まだ百五十社ぐらいございましたけれ
ども、同じ方向を向いていたのは十社でございました。インナーブランディングができていないうちにスタートしたわけです。
そういう中で、当時の理事長は大変御苦労があって三年で任期途中で辞めてしまったんですが、そういう経緯がありまして、当時セーフガードがもし発令されていたら今治
ブランドって今多分なかったと思います。今考えると、本当に発動されなくてよかったなとつくづく思っております。
佐藤さんに教わったことなんですが、これは今治、それと、今治より優れた
地域産品というのは本当に山ほど日本中にはある、ただ、それをきっちり消費者に伝え切っていないというところが問題だということですね。それで、佐藤さんは、まず継続的にそういうことをPRしていくために
ブランドマークが必要だということで、
手元に皆さんありますけれ
ども、このマークを作ってくださいました。長い間見ても飽きない、そして継続的に行っていくためにはやっぱり飽きのこない
ブランドマークが必要だということで、今本当にこのマークのおかげで我々はもう生き返ったと言っても過言ではないと思います。
そういうことで
ブランドマークができた。そしてその後、やっぱり
ブランドというのはマニュアルをちゃんと作らなきゃいけないということで、これはもう二年に一度
改正しますが、本当に一年に何回もみんなが寄り合って、そのときの時代に合ったマニュアルを作ってまいります。それをちゃんとみんなが遵守していくということが非常に大事だということを感じております。実は、この
ブランドマークの裏には全部通し番号が入っていて、これはどこの会社がどの
タオルを作ったか全部分かるようになっているんです。我々
組合が抜き打ち検査をして、やっぱり適合していないものには厳しく注意をしていく、そういった管理も
組合の方で行っております。
我々が今までできなかった、考えもしなかったことをいろいろ教えてくださいました。やっぱり一番大きなのがメディアに対する対応ですね。これをいかに上手にして消費者に伝えていくか、この辺の対応の仕方も教わりました。そして、佐藤さんが一番やっぱり我々に対して評価してくださるのは、それらの
ブランドを使ってちゃんと
組合が利益を出せる
事業を行っていく、そしてそれで継続的にPR活動を行っていく。今、海外展示会とか
人材育成、あと
タオルソムリエという
制度があります。これも
全国から
タオルソムリエを受けに来ます。今治にも受けに来ますけど、東京でも試験を行いますが、この辺を全部自分たちのそういった利益の中から賄っていくということでございます。
今、
組合の収入といいますと、この
ブランドマーク、これが、一年目が二百万枚、まあ大したことなかったんですね、一千万、大体五円で売っていますから。今が七千万枚です。この
ブランドマークだけで数億円。それと、あと実質
組合が運営しますウエブサイト、それとリアルショップで年間六億。そこに三億の仕入れが
組合員から発生しますから、かなりやっぱり大きな力となっていることは間違いないと思います。
あと、この中で佐藤さんに教えていただいたのは、こういった
ブランド化の過程をちゃんと映像に残しておきなさい、そして、いざというとき、それをちゃんとメディアに配信してきちんと使っていくということが大事ですよ。そして、今回、本をこの一年間で二冊出しました。読まれた方いらっしゃるかと思いますが、この本と、今回、百二十周年の本を出させていただいた。こういう形で書物にも残しておくということは大事ですよということを非常に教わっております。
このブランディングの中で何が大きく変わったか。まあ
タオル自体はみんな昔から真面目に作っておりますから、そんなに劇的に変わったわけじゃないんです。何が変わったかというと、やっぱり価格を含めた交渉力が随分上がってきたということです。
ブランドをバックボーンにその辺の力が随分上がってきた。そして、流通に対して物を言えるようになってきたわけですね。それによって各社の利益、これが随分向上して、今回の設備投資、またすばらしい
人材の
確保にも十分それが寄与しているということでございます。
本当に、この
ブランド力で一歩でも前に出ることによって、もしかしたら価格決定権まで我々が持つことができるようになる。実際、そういうふうにできている会社もございます。じゃ、今回の円安による原材料の高騰、これも十分これで、価格の交渉力が上がったことによって吸収できておる。そして、関連業界からの加工料の値上げについても皆さんにちゃんと還元できているという形で、本当にこの
ブランドがいい形で産地全体に寄与しているんだなというふうにつくづく感じております。
また、最近では、やっぱり
事業はうまくいっていても後継者がいない、だからそういうところで続けていけないというところがあるんですが、
企業価値が上がってまいりまして、有り難いことにMアンドAを掛けてくださる。町工場にちゃんと大きなところがMアンドAを掛けていただいて、雇用の継続とか、あと
組合員を減らすわけにはいきませんから、その辺が
組合員を減らさないでずっとやっていっている大きな要因になっております。
ただ、問題点も幾つかございまして、ちょっとやっぱり
ブランドが先走り過ぎていて、実際それぞれのメーカーが付いていけていないというところがございます。こういうところをこれからきっちり
整備していく。
そして、極論を言えば、各社がそれぞれの
ブランドを構築する、そしてその上に今治
ブランドが成り立つ、そういうふうになれば本当に足腰の強い
地域ブランドになっていくということで、その辺、様々な手を打っていかなきゃいけないんですが、今まで今治
タオルというのは
組合という面に対して
支援をいただいておった。これからそういうところを
整備していくためには、やっぱりこれからは点での
支援というのが、成熟したそういった、まあ成熟、ちょっと手前みそになってしまいますが、ある程度のところまで行けば、点での
支援というのが非常に大切になってくるんではないかというふうに感じております。
このブランディングを通じて幾つか感じたことがございます。一番大きく感じたのが、やっぱり一社二社で頑張ってみても何の意味もない。その巻き起こす渦というのは、そんなにやっぱり大きくないんです。最初、このブランディングが始まったとき、私も自社の
ブランドをやっておりますので、これで生きていけると十分思っていたんですね。まあ無関心だったんです。ただ、
組合の方にだんだんのめり込んでいくうちに、これはやっぱり
組合でやることってすごい意義があるなというふうに感じました。
個性のある
中小企業が
集積して、そしてそこで様々な個性のある商品を作っていく、これがやっぱり今治の魅力であって、例えばアメリカのノースカロライナにも大きな
タオル産地があったんです。それは、もう今治の産地より大きな
タオルの産地があったわけですね。ただ、でもそれ一社だったんです。その下請が何百社もそこであったわけなんですが、もう本当に一年か二年で全部なくなってしまいました。でも、今治というのは本当に小さな会社がたくさん
集積していて、五百軒で何とか百社残って、そして今復活してきているわけですね。極論を言えば、一千億の大
企業が一個ある町より、十億の
企業が百社ある、そういった町になるべきじゃないかというふうにつくづく感じております。
それと、今つくづく感じておるのが、
タオル単体ではこれからは非常に難しくなってくるなということを感じております。さっきから、
地域のいろんなコンテンツを結び付けてという話が出ておりましたが、これは本当に非常に大事になってくると思います。
まず、我々としては、今、しまなみ海道というすばらしい
観光資源がございます。ここはやっぱり、去年、世界からサイクリストが集まってきた。そこで、知事がサイクリング
タオルを作れと。サイクリング
タオルなんて今ゼロなんですね、売上げが。それをこれから伸ばしていく、世界に対して。これは、もう全部それはプラスアルファになっていくわけです。今、今治には世界から、特に台湾から、台湾のジャイアントといって世界で一番大きな自転車の支店が今治にあります。もう本当に台湾人の方が自転車でぐるぐる回っています。そういう方たちにも
タオルを向けて売っていくということを今やっておりまして、今台湾で非常に今治
タオルは人気になっております。地道な活動がやっぱりそういった好結果を生むということでございます。
あと、今治といいますと、今、FC今治、サッカーのチームですね。これは、本当にJリーグのずっとずっと下なんですが、岡田全日本の監督がオーナーになっていただいて、そして岡田監督も、この間
お話ししたんですが、
地域創生というのが私の頭の中にあると、サッカーを通じてこの
地方都市から元気になっていくんだということで、自らオーナーに手を挙げていただいて、今は年の半分ぐらい今治に住んでジュニアからの育成というのをやっております。
今治
タオルもずっとトップチームのサポートをやってきたんですけど、岡田監督が入って大手のところが入ってきて、今、ここに付けるマークが僕らのときは百万ぐらいだったのに今は五千万円になっちゃったんで、トップチームはサポートできませんが、今はジュニアのチーム、アンダー16の女子のチームがありますが、そこには我々今治
タオルとしてもサポートして、
タオルもそこに提供したりして、いろんな形で絡み合いながら
地域創生に貢献していきたいというふうに思っております。
また、あと今治には、
タオル以外にやっぱり大きな八千億の規模を持った造船という
産業がございます。実は来月、造船と一緒になってギネスに挑戦ということで、
タオルを数万枚使って船のモザイクを作る、それでギネスに申請するという、そういった
事業をやる予定になっております。造船は、進水式をやるたびに今治
タオルを使っていただいて、世界のお客さんに今治
タオルをどんどんどんどん使っていっていただく。そのお礼を込めて今度一緒にそういった
事業を行う。やっぱり、
地方でそういう
産業が集まっていろんなことをやるのは非常に大事なことだというふうに感じております。
あと、全日空さんという大きな飛行
機会社が我々の小さなところに目を向けていただいて、二週間前に全日空さんがアメリカのトーナメントを買い取ったんですね。そこで、最後に優勝者が池に飛び込む、そしてその後バスローブを着るというのを、これをフィーチャーしてくれたんです、今治
タオルを使いましょうということで。そして、全米に向けてそのビデオを使っていただいて放映してくれました。日本でもWOWOWで放送されましたが、そういうことで、本当に大きい会社小さい会社関係なくして、世界に向けて日本をPRしていくって本当に大事なことだと思います。
それと、今一番感じておるのが、結果が出なくてもずっとやっぱり
組合というのは活動を続けておくべきだと。どこかで歯車が必ず合ってくるんですね。今我々が成功している南青山の実際の店舗、これも昔、市が二億出してやってくれて、失敗失敗と言われたんですが、あの経験がないと今この成功はなかったと思います。
それとか、このPR活動を行っている中で、まあ不謹慎ですが、チャイナ・リスクが発生した。そのときに、やっぱり日本のものを買ってあげましょうという国民のそういう気持ちが、何にもやっていなかったら多分つながらなかったと思うんですが、やっぱりやり続けることということは意義があるなというふうにつくづく感じております。
海外展示会も一緒で、今すぐ結果が余り出ていないと言う人はいるんですが、様々な問題にぶち当たります。水の問題、硬水、軟水、それに
タオルが対応していかなきゃいけない。これは今やっておかなきゃ駄目だと思います。
それとか、これだけ流通が変わる中で、自分たちのスタンスをメーカーがどこに置くべきか、前に出るのか、ここでいいのかということを今非常に勉強しておる段階です。必ず五年後には結果を出してこの後に伝えていきたいというふうに思っております。
それと、今治が伸びた伸びたといっても、産地としては二〇パー以上伸びたんですが、全体の中ではたった二%なんですね。九%が一一%になっただけです、シェアでいうと。ということは、ほかに同じように二%伸びたら元気になる産地っていっぱいあると思うんですよ。そういうことを教育を含めて子供たちに伝える。自分たちの国で作ったものを自分たちが二%余分に消費するだけで国って元気になるんだよということは非常に大事だと思います。今治では、工業高校の先生が授業の中で
タオルのことを生徒に本当にきっちり説明してくれるんですよ。今治がこんなに元気になったことをみんなどう思う、うれしいと思わないかということをどんどん言ってくれるんです。僕らも授業に参加して生徒と対話していく、そういうことによっていい
人材を我々に送り込んでくれる、本当にいい循環になっているというふうに感じております。
最後、
一つ。これから世界の中で日本がどういう形で存在感を出していくか、これは、さっき言いましたように、一社二社じゃ駄目なんですね。やっぱり日本全体を
ブランド化して、そこからそういったメリットを下ろしていくということが大事だと思います。そういう意味では、これからは、さっき言いましたように、今治
タオルだけでは駄目、いろんなものが光る、引き出しがいっぱいある国になって、その中で今治
タオルが更に光るようになりたいというふうに努力をしてまいりたいと思いますので、どうぞこれからもよろしく
お願いいたします。