○佐藤
公述人 本日は、お招きいただきましてまことにありがとうございます。
私は、ふだんは
経済学者でありまして、特に
地方財政関係のことを専門としておりますので、本日も、
地方財政絡みのお話を何点かさせていただければと思います。
皆様方のお手元には、ちょっと分厚いですけれ
ども、パワー
ポイントがございます。少し分量も多いので、かいつまんでの
説明になりますことをあらかじめ御承知おきいただければと思います。
一枚めくっていただきまして、二ページ目ですけれ
ども、これはもう御案内のとおりですけれ
ども、
平成二十七年度
予算におきまして、いよいよといいますか、
地方創生について本格的な取り組みが始まるということになるかと思います。特に、
地方財政計画というのがございますけれ
ども、そちらにおきましても、
地方創生に向けて一兆円の上乗せが図られるとか、あと、優先
課題推進枠として七千億円が計上されるとか、こういった措置がなされてきたわけです。
もう一枚めくっていただきますと、こちらは税制
関係でありまして、御案内のとおり、法人税の引き下げというのも来年度から始まることになっております。
法人税の引き下げといいますと、何となく、グローバル化への対応、国の話、国の
財政にかかわる話と思われがちですけれ
ども、これは
地方の
財政と密接にかかわってまいります。後ほど簡単に御紹介いたします外形標準課税とか、こういった
改革にまで及んでいますので、この法人税の実効税率の引き下げというのは、まさに国と
地方、両方の税制
改革の議論だということになるかと思います。
それからもう
一つは、
地域拠点
強化税制の創設ということで、本社機能を移すとか拡充するとか、こういったことに対する支援策というのが行われているわけでありまして、昨今、
人口消滅
可能性都市とかそういった議論がありますので、そういった
地方における
人口減に対する対応ということになってくるのかというふうに存じます。
さて、一枚めくっていただきますと、きょうのお話になってくるんですけれ
ども、新しい酒と古い革というので、ちょっとタイトルをつけさせていただいております。
地方創生というのは、これまでも
地域の活性化とか都市の再生というのはさんざん議論されておりますけれ
ども、ある
意味、少しそれらを改めて見直す形で、
地方創生という新しい酒が今、
予算の中で注がれようとしているんだと思います。ただ、それを受け取る
制度が果たして今のままでよろしいのかということは、我々は少し考えなきゃいけないのかなというふうに思っているわけであります。
もちろん、
制度の見直しということになりますと、いわゆる中
長期的な
観点からの議論にならざるを得ませんので、あした、あさって、性急に取り組むべきものではないかもしれませんが、ただ、私たちが今後、
地方創生に取り組む中において留意するべきことかなと思います。
いろいろあるんですけれ
ども、きょう大きく二つ御指摘申し上げたいのは、
地方交付税のお話と、法人課税に依存したと書いていますが、
地方税制についてということになります。
もう一枚おめくりいただきますと、では、今度、
地方交付税の話に入ってくるわけですが、これも御案内のとおりといいますか、
地方交付税といいますのは、もともとは、総務省さんが作成されますけれ
ども、
地方財政計画というものをベースに出されるものであります。
地方財政計画というのは、国の
観点から、これこれこれくらいのお金が
地方においてはかかるであろう、そういう見通しのもとで
歳出を計上し、それに対して見合いの歳入はどれくらいあるかということを調べ、足りない
部分をある
意味交付税という形で補填するといいますか埋めるというか、そういうふうな仕組みになっているわけです。
この交付税をめぐりましては、長らくいろいろな賛否両論があります。私はちょっと批判的な側であるということを少し御留意いただければと思うんですけれ
ども、ただ、もちろんそれに対して擁護する方もいらっしゃいます。
一方の批判というのは、
地方の甘えといいますか、言葉は悪いですけれ
ども、モラルハザードを助長しているのではないか、そういうふうな御指摘があります。
他方では、いや、そんなことはない、これはあくまでも国がいろいろと
地方に対して仕事をやらせているその結果なんだ、そういう御指摘もあります。
どちらかが間違えているわけではなく、これはまさに表裏一体の
関係にあるということをまず御指摘申し上げたいと思います。つまり、国の規制、それから
地方のいわゆる依存というのは、やはりある
意味表裏一体である。これを、前、東大にいらっしゃいました神野先生は、集権的分散システムという非常にうまい言い方をしていたと思います。
結果なんですけれ
ども、交付税というのには二つの顔があるんですね。私、
財政制度等
審議会というのに参加していますけれ
ども、
財政制度等
審議会において財務省さんの
資料の
説明を見ると、これは国の財源保障である、したがって、国が財源保障したとおりに
地方が執行することが求められると。そうしないことを、計画と決算の乖離とかいう形で、いろいろと議論の的になったりするんです。
他方、総務省さんのお話を聞くと、交付税というのは一般補助金であると。もちろん、交付税法第一条にもその旨は書かれているわけでありますが、
地方自治を促進するためのものであって、
地方自治体がむしろその用途については裁量を有するべきものであるということになっています。
これはどう理解したらいいのかなということなんですけれ
ども、
予算ベースと決算ベースと書いておりますが、
予算をつくるときは財源保障というところが重視されて、実際のお金の使い方、つまり
地方の決算ベースになってきますと、どちらかというと一般補助金的な性格を多く持つということになっております。このあたりが議論を非常に混乱させているもとになるわけです。
ちょっと一ページ飛ばして、七ページ目というところを見てもらった方がよろしいかと思うんですけれ
ども、
地方交付税につきましての建前と実際というところでありまして、建前は決して悪くないんですね。
地方交付税は一般財源であり一般補助金であり、まさに
地方自治の本旨に資する、そういう
制度であるということになるかと思います。
ただ、実態はと言われますと、最近でいうと行革インセンティブもそうですし、九〇年代に戻りますと、いわゆる事業費補正という形で公共事業をいろいろと促進したりということで、国の
政策誘導という面がやはりあるということになるかと思います。そういう
意味におきまして、実際のところ、一般補助金あるいは一般財源という本来の
制度の本旨に即した形の運営がなされているかというと、ちょっとそこは怪しいかなということなのかと思います。
この問題、国の
財政に密接にかかわってきます。来年度
予算は、
地方交付税は十五兆五千億円というふうな形で抑制ぎみではありますけれ
ども、やはり
社会保障に続いて大きな国の
予算項目ということになっておりますので、この
地方交付税をどうするかという問題は、ひいては国の
財政再建にかかわってくる問題であるということも考えなければならないかと思います。
では、一ページめくっていただきまして、どうしたらよいのかということについて、考え方をこう整理しませんかということなんですけれ
ども、交付税という
制度自体が悪いわけではないし、もちろん国から
地方への
財政移転というのは必要なものなんだと思います。ただ、その
財政移転の仕方が、これから
地方の主体性、
地方分権を進めていく、あるいは
地方創生を促していくという
観点から、今の仕組みでよいのかということは、やはり考えてみる必要があるのではないかというふうに思うわけです。
幾つか並べておりますけれ
ども、やはり国と
地方の役割分担というところは明確にしていかなければなりませんし、
地方の裁量を最大限尊重する仕組みにしていくべきであり、
政策誘導という性格はできるだけ抑制していく必要があると思います。その上で、あくまでやはり
財政規律を持たせるような仕組みにしていかないと、交付税も膨張していきますし、
地方財政の健全化もなかなか進まないということになってくるのかなと思います。
ちょっと細かいことをいろいろと書いているんですけれ
ども、時間の
関係上、ただ雑駁なアイデアだけ
説明させていただきました。
一ページめくっていただきますと、実はこれは随分昔に、私のほかに東大の岩本先生や大阪の赤井先生、慶応の土居先生とかと一緒に、こんな形で新しい
制度をつくりませんかという提言をしているんですが、大きく分けると、交付税の役割を二つにきれいに分けませんかということです。
財源保障という性格ならそれのための交付金、まさに一括交付金とかそういう性格だと思うんですけれ
ども、交付金という
制度と、それからまた、平準化が必要だということであれば
財政調整、そういう役割をやはり担わせることが必要であろうということなので、くどいようですが、別に交付税という
制度がだめだと言っているわけではなくて、その交付税の今の運営の仕方が本来の
目的に即しているか。それが
地域間格差の是正であれば、格差是正の役割に特化した
制度と、財源保障ということであれば、教育とか
医療とか福祉とか大事な
サービスがありますから、そういう
サービスに対する財源保障ということであれば、それに特化した仕組みをつくりませんかということになってくるかと思います。
時間の都合もありますのでちょっと飛ばしますけれ
ども、十ページ目の方に、そういう形で
財政移転の役割分担というのを少し整理しませんかという提案をさせていただいているわけであります。
そういう
意味におきまして、ちょっと今回の
地方創生に係る交付金はある
意味チャレンジングでありまして、交付金という性格上は、ある
意味地方の裁量、主体性が尊重されるべきものでありますが、ただ、
他方、なかなか
地方としましても、国の顔色をうかがいながら何か
地方創生の計画をつくるということになると本末転倒ということになりますので、ここは、
地方創生に係る交付金、新しい交付金をつくるということになっておりますので、やはりこういう
財政移転の本来の役割というのを勘案しながら、本来の趣旨に沿う形での
制度設計が求められるのではないかと思うわけです。
次をめくって、十一ページ目に行っていただきますと、二ということで、
地方税についてなんですけれ
ども、
地方税といいましてもいろいろたくさんあるので、今回お話ししたいのは
地方法人課税だけということになります。
御案内のとおり、今回、国が、国の
政策としまして法人税の実効税率を引き下げるということになりました。しかし、そもそもなんですけれ
ども、我が国の法人実効税率を高くしているのは何なのかといいますと、
地方の法人課税というのが非常に強いんですね。国の法人税だけいえば、改正前は二五・五%です。それに一〇%上乗せする形で三五%というのが、これまでの我が国の法人実効税率だったわけです。
この高い法人実効税率というのは、対外的に見れば我が国国内立地
企業の国際競争力の阻害
要因にもなりますし、国内的に見ると、これがすごく重要なんですけれ
ども、やはり
地域間の
税収の格差、それから
税収の不安定という問題につながっていたわけです。
そういう
意味におきまして、やはり
地方法人課税の見直しというのは、安定的で公平な
地方財政の運営というところから見ても、本来であれば近々の
課題ということになるかと思います。それに向けてということもあるんですけれ
ども、法人課税の実効税率の引き下げとあわせて、今回は外形標準課税の拡充というのが図られてきているわけであります。
外形標準課税については御案内のとおりなのかもしれませんけれ
ども、十二ページの次をめくっていただきますと、
参考までに外形標準の課税ベースというのが出ているわけです。
外形標準課税というのはよく二つの顔があると言われるんですが、
一つは付加価値税という顔を持っておりまして、計算の仕方として、法人の利益に支払いの利子とか人件費を足して計算していますので、実質的には付加価値税という性格があります。ただ、付加価値の中のかなりの比重が人件費なものですから、人件費課税だという批判もあるわけなんです。
この外形標準課税というのは、よい面もあります。よい面というのは、やはり広く薄く、応益性に即した課税ができるという面があります。それから、
経済同友会なんかも提言していたと思うんですけれ
ども、ある
意味、新陳代謝といいますか、産業の新陳代謝の促進材料にもなるだろう。不採算な
企業については、申しわけないですけれ
ども撤退を促す、そういう仕組みがあるからです。
ただ、理想的な外形標準課税は今申し上げたとおりなんですが、実態はと言われますと、今でも資本金一億円以上になっております。対象はあくまでもいわゆる大
企業ということになっておりますので、
赤字企業の全てが別に外形標準課税を払うわけではないということ。それから、そういう
意味においては広く薄い課税になっていないということです。
他方、資本金一億円以上でも、
地域に密着した中堅の
企業がまさにこれにひっかかってくると、やはり雇用のマイナス
要因になってしまうんじゃないか、そういう懸念もあるわけであります。
非常にその
意味においては、この外形標準課税、もろ刃の剣的な性格を持っている。理想的にうまくやれば本当は安定的で健全な
地方財政の基盤になりますけれ
ども、まかり間違えると、
地方創生、本来であれば雇用の促進、ここに関してマイナスの
要因になるかもしれないということです。
一ページめくっていただきまして、ではどうしたらいいのかという話になるんですけれ
ども、やはり全体として見ると、私たちは、
地方における
企業課税のあり方というのは、全体としては見直す必要があるだろう。もちろんゼロにしろということではないんです。
例えば、法人住民税の中には均等割という
制度がありまして、これは、ある
意味、
地域社会への参加費用として許容できるものだと思います。ただ
他方、高過ぎる
地方の法人税率というのは、
地域経済にとってもマイナス
要因になりますし、対外的に見ても、国際的に見ても、
日本の国際競争力の阻害
要因にもなりかねないということになるかと思います。
ではどうするかといいますと、答えはこれしかないかなというところなんですが、やはり、固定資産税とか個人住民税とか、そういう住民により広く薄く
負担を求める
方向に税制のあり方は転換せざるを得ないかなというふうに思うわけであります。それは、住民に対しては大きな
負担を求めるという
意見もあるんですが、ただ、応益課税という
観点から見れば、住民がある
意味行政
サービスに対して対価を払う、そういう本来あるべき
地方自治に近づける第一歩だと思います。
もちろん、所得の低い方がいます、今、格差の問題が懸念されていますので、こういう方についてはきちんと
給付の措置をとる。これは
消費税増税においても同じことなんですけれ
ども、やはり、そういう低所得者に対する配慮というのは、常にそれは
給付という形で行う。これをあわせて行えば、本来の
地方税、安定的で公平な、かつ応益に即して住民が
地域の
財政に貢献する、そういう本来の
地方自治のあり方に近づくことができるのではないかというふうに思うわけであります。
十五ページ、十六ページ目は税制のちょっと細かいところの話なので、時間も限られておりますので、十七の方に飛ばしていただきまして、
最後のお話にさせていただければと思います。
ここまでのお話は、何を言ってきたかといいますと、要するに、
地方創生という新しい取り組みの中におきまして、今ある
制度についても我々は見直す必要がありますねと。
一つは交付税です。交付税の本来のあるべき役割に、本来の姿に戻しませんかということですね。それから、
地方法人課税に依存している体質というのは、これはやはり見直していく必要がありますねと。なぜかというと、
地域間での格差とか
税収の不安定とか、そういった問題があるからです。
こういったことをあわせて
地方創生に私たちは取り組んでいくということになっていくと思うんですが、その
地方創生に向けての考え方についても、ちょっと整理していく必要があるでしょうということが十七ページ目にまとめられているとおりでありまして、というのは、どう整理するべきかということなんですが、
経済政策という顔と社会
政策という顔と、この二つをちゃんと峻別しませんかということです。
地方創生、実は、既にいろいろな提案がなされていると思うんですが、二つの顔があると思います。
一つは、やはり
地域経済の活性化、雇用の拡大、成長の促進という
経済政策の面。それからもう
一つは、お年寄りや子供たちが安心して暮らしていける、あるいは弱者救済という社会
政策の面があります。
どちらもすごく大切なんだと思うんですけれ
ども、ただ、二つは分けて考えないといけない。例えば、中心市街地の活性化であれ、コンパクトシティーであれ、
地域の再編成であれ、あるいは農業の振興であれ、その中には、これまでの
政策体系では、
経済政策、成長促進という面と、それから社会
政策、所得保障を含めた格差是正という側面と、二つが相混在する、そういう性格があったように思います。
ここをきちっと分けないと、本来自分たちで頑張れる自治体が頑張っていく、本来私たちが助けるべき自治体、
地域を助ける、こういう役割分担が、この
地方創生の
政策体系の中でできないということになってしまいますので、やはりそこは、どちらかを選べと言っているわけではなくて、めり張りをつけませんかということです。
やはり、
政策には本来それぞれ
目的があるわけですから、その
目的に即する形での体系づくりをしていかないと、いろいろな議論がチャンポンになってしまって、かえって混乱のもとになるかもしれないということです。
最後なんですけれ
ども、
地方分権がやはりこれから鍵になってくると思います。交付税の
改革であれ、法人課税に依存する
地方税体系の見直しであれ、最終的にやりたいのは、安定的な
地方分権というものを進めていくことだと思います。
なぜこの
地方分権が重要なのかといいますと、
地域住民のニーズに即した形での
財政運営というのは言うまでもないんですが、私たちは今未知の領域にいるわけでありまして、というのは、
高齢化が進んでいる、それから
人口が減少していく、これに対して私たちはどう取り組んでいったらいいのかということは、やはりやってみなきゃわからないことというのはたくさんあるんですね。
論より証拠といいますか、いろいろな自治体がいろいろな取り組みをして、その中でベストプラクティスを見出していって、それが普及していくという、例えば
医療に関して言っても、平均在院日数の問題であるとか医師不足の問題とか、いろいろな問題があります。格差是正についても、格差是正と言うのは簡単なんですが、誰をどう助けていったらいいのか、どうやって就労を促進していったらいいのかという問題、これは非常にチャレンジングなんです。
それについて、やはりいろいろな自治体がいろいろな取り組みをしていく、それを私たちは
政策実験なんて言い方をしてしまいますけれ
ども、その成功事例を集めて、それをデータベース化して世の中に普及させていくという、これを可能にするのが
地方分権ということになると思います。
そういう
意味におきまして、
地方分権を進めていくという
観点からも、こうした既存
制度の見直しというのは、やはり留意していく必要があると思います。
ちょっと
最後に書いてありますけれ
ども、この
地方創生を今後進めていくに当たって、始める前から言うのもなんですけれ
ども、やはり出口戦略というのはちゃんと考えなければならなくて、当然最初は支援しなきゃいけない、それは初期投資みたいなものですから、支援は必要かと思いますけれ
ども、最終的に、自立に向けて
地方に対して自助を求めていく、そういう体制づくり、ロードマップをつくっていくということは欠かせないかなというふうに思うわけです。
ちょうどお時間ですので、私の話は以上とさせていただきます。
御清聴ありがとうございました。(拍手)