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大城参考人 おはようございます。
一般社団法人裁判員ネット代表理事で
弁護士をしております
大城聡と申します。
きょうは、
裁判員ネットの
活動を
中心にして、
市民の
視点から見た
裁判員制度の現状と課題について
お話をしたいと
思います。
裁判員裁判が始まって、見て聞いてわかる
裁判になる、
裁判員が
法廷で見て聞いてわかるということになったので、実は、
傍聴席から見ても、
裁判員とほぼ同じ
状況を
市民が見ることができます。そういった
意味で、
制度開始当初から、
裁判員裁判の
法廷を傍聴して、
裁判員裁判を
市民の
視点から検証するという
市民モニターというものをやってまいりました。また、あわせて、
裁判員経験者にインタビューを行い、
経験者ネットワークという取り組みでは、
交流会で
裁判員経験者の
お話をこれまで二十一回聞いてまいりました。きょうは、そういった
裁判員経験者もしくは
裁判員になるかもしれない
市民の
視点から
お話しできればと
思います。
その中で、私が一番強く感じているのは、これまで
専門家に委ねられていた
刑事事件の問題、
刑事司法の問題を
自分のこととして受けとめる方が非常に多いということです。これは、
経験者の
お話の中でとても印象深く思っている点です。
このような
お話を聞く中で、現在、政府から出されている
法律案の
改善点だけではなくて、これから
お話しする三つのテーマについても、ぜひ、
裁判員として主体的に
参加をするために
体制づくりをする、そのための見直しをしていただきたいと思っております。
資料の二ページ目から具体的な問題を書いておりますので、ごらんください。
まず第一の点は、
裁判員の
体験を
市民が共有できるようにすることです。
現在、
裁判員の
候補者には、
自分が
裁判員の
候補者であることを公表してはいけないという
禁止規定が
裁判員法にあります。また、
裁判員を
経験した人には
守秘義務が課されている。この
二つの壁があって、
裁判員の
経験を
市民が共有できない
状況になっていると
思います。
これまで
裁判員候補者の
通知を受け取った方は百九十七万人ですので、有権者の五十三人に一人が実は
裁判員候補者の
通知を受け取っていることになります。ただ、私が
お話を聞いていても、それほど
裁判員制度の話が会話で出るわけでもないですし、
社会の中に
制度として定着しているとは言えないのではないかと
思います。これは、いろいろな
世論調査の結果を見ても明らかなことだと思っております。
裁判員候補者であることを公表することを禁止する
規定の
趣旨は、
裁判員候補者に不当な
働きかけがないように平穏を保つという
趣旨で設けられているんですが、毎年秋に二十万人から三十万人の人に一斉に発送する
候補者通知を受け取ったからといって、御
本人も、どの
裁判を担当するかわからないんですね、その
時点では。当然、
働きかけのしようがないというか、不当な
働きかけがされるおそれはかなり少ないというふうに言っていいと
思います。
一方で、
事件が決まって、六週間前から、
裁判所にいつ来てくださいという
呼び出し状を受け取ります。この
時点からは、担当する
事件が
特定されますので、場合によっては不当な
働きかけのおそれもある。
そういう
趣旨からすると、
裁判員候補者通知を受け取ったこと
自体は、
本人が公表したいと思えば、それは禁止するというふうにはしないで、
呼び出し状を受け取ったことについては公にしてはいけないというふうに、ぜひこの
規定を改めていただきたいなと
思います。
裁判員ネットで
裁判員制度に関するシンポジウムをやっていて、終わった後にこっそりと寄ってきて、実は私、
候補者なんですけれども、
お話ししてもいいですかと、何かすごくいけないものを受け取ってしまったみたいな形で来るんですね。
ここは、国民が
司法に
参加をするという、まさに
法律の
制度趣旨からしても、
候補者であることを公表してはいけないというのはやはりおかしいのではないかというふうに思っております。
また、
守秘義務についてですが、
裁判員の
経験の
中心部分、
核心部分というのは、まさに
評議の中にあります。
裁判官と
裁判員とがどういう話をしたのか、どういう
意見が出たのか、そこの
部分が今、
守秘義務によって全く話せない。感想は言えるというふうになっております。
資料の中に、
裁判員経験者、二十代の
男性の方の
お話を引用しておりますが、「
評議の
内容の中には
守秘義務があるとされていますけど、
評議の
内容にこそやっぱり一番いろいろと感じたことだったりとか、考えさせられたことというのが詰まっていました。ですから、そういったことを
公開できないとなると、やっぱり
経験を話すことは、少し窮屈といいますか、萎縮してしまう
部分はあると
思います。」という
お話をされています。
関係者の
プライバシーを守ることや
裁判員の
意見を自由に言う、
評議の自由を守るというために
一定程度の
守秘義務はもちろん必要ですが、例えば、誰が
発言をしたのか
特定をしないとか、多数決であったのか
全員一致であったのか、そういったことについては、
守秘義務の範囲を縮小して、
守秘義務の
対象から外すべきだというふうに考えております。
この
二つによって、
社会の中で、
裁判員を
経験するとこういうことになったんだ、
自分はこうやって感じたんだということも伝えられますし、次に
裁判員になる方が、
自分は全く
法律の素人だけれども、
裁判にかかわってどういうことができるのかというのを
自分の問題として考えることができるようになると思っております。
次に、
裁判員の
心理的負担についてですが、
裁判員経験者ネットワークでは、
裁判員を
経験された方に心の
負担についてのアンケートを行いました。四十二人に回答していただいたうち、三十人の方が、心の
負担があると感じておりました。特に、いつ感じたのかという
質問については、
審理前、
審理中、
審理後とそれぞれいて、
審理中が一番多いんですが、しばらくたってから
負担を感じましたという方もおります。例えば、
被告人が控訴をしたということを知ってからとか、
一定程度時間がたって
自分の出した判決を考える中で思うことが出てきたという方もいらっしゃいます。そういう
意味では、各
段階において心の
ケアをしっかりとしていく必要があると
思います。
裁判員になる前の
段階は主に心の準備ということになると
思いますが、今回、
改正案の中に、著しく
長期にわたる
事件は外すというふうにありますが、ここについては、
裁判所が、仮に恣意的にであるとか安易に
裁判員の
対象事件から外すようになってしまうと、逆に、
市民の側からすれば、重要な問題は
裁判官に任せておいて
自分たちはそうでない問題をやるんだというふうにもし捉えられてしまえば、それは
制度の本質を損なうことになると
思いますので、仮にこういう
規定ができるとしても、慎重に
判断できるようにすべきだと思っております。
また、現在、百日を超える
長期の
裁判というのが何件か行われておりますので、特にそういった
長期の
事件についてどういった運営上の問題があるのか、もしくは
裁判員にどういった点が
負担になっているのかということを集中的に検証することが必要だろうというふうに思っております。
裁判員を務めている間の心の
ケアなんですが、これはぜひ、
裁判所に
臨床心理士を配置して、何かあればすぐ相談をできるようにしていただきたいと
思います。昨年、国賠が起こってから、
裁判所ではかなり運用に気を使っているようですが、
裁判官は
法律の
専門家であって心理の
専門家ではないですから、やはりその
事件の
内容ではなくて、
自分の体調とかを見て、こういう
状況なんだけれども続けても大丈夫かというようなことがすぐ相談できれば、安心をして
審理に集中できると
思います。そんなに難しいことではないと
思いますので、ぜひこれは実施をしていただきたいと思っております。
次に、
裁判員を務めた後の
段階ですが、これは、
守秘義務の問題がここでも関係をしてまいります。やはり、何か悩みがあるときに、
守秘義務があって
自分の親しい人に相談できないということが一つの
負担になっているというのもアンケートで浮かび上がってまいりました。
今、
裁判所は
裁判員メンタルヘルスサポート窓口というのを設けておりますが、これは利用率が極めて低いんですね。
負担を感じていないのであれば利用率が低くても構わないですが、アンケートの結果、三十人の
負担を感じる人の中でも、この窓口を利用したのはお二人だけでした。しかも、お二人の自由記述を見ると、特にそれによってよくなったということはなくて、むしろ
裁判員制度のことをちゃんとわかっている人に相談をしたかったというように書いている方もいるので、この窓口の改善というのは極めて重要だと
思います。
特に、現在、五回まで無料という回数制限があるのが、本当に
負担を感じている方はかえって相談しにくい。その後はどうなるんだろう、有料になるのかとか、放り出されるんじゃないかとなるので、濫用されるかどうかではなくて、本当につらい
思いをしている人に寄り添うような
制度にしていただきたいというふうに考えております。
最後に、
市民の
視点から検証する体制をつくるということで、今
お話ししてきたこと以外にも、
裁判員経験者の
お話を聞く中で、
裁判員の役割というのは判決までなんですが、その後、控訴されたかどうか非常に気になるという
お話をよく伺います。これは、
裁判体によっては、控訴がありましたというふうに
裁判長が教えてくれる
ケースもあるようですけれども、
制度上はそうはなっていないので、判決を出したらもう
裁判員の役割は終わりというふうになっております。ただ、
被告人がどうなるのか、もしくは、
被害者も含めて
事件の
関係者のために
自分が出した判決がどうなっていくのかということを知りたいというのは極めて当たり前だと
思いますし、そこの点については、今の
制度では抜け落ちているというふうに考えております。
被告人のその後が気になるというのは、判決のその後だけではなくて、特に更生の問題、有期懲役の場合には刑務所に行く、もしくは、執行猶予の場合には保護観察がついている
ケースがとてもふえております。そういう
意味で、
裁判員としてかかわることで、
裁判所での判決だけではなくて、
刑事司法全体についての関心は非常に強くなっているというふうに
思います。
その中で、
自分がいる
社会の中で犯罪が起こらないようにどうしたらいいのかとか、家族のことを考えたりというふうに、
経験した御自身が変わってくるということも多く見られます。
これはある
裁判員経験者の言葉で、職業
裁判官の方は何度も判決を書いているけれども、
自分は人生に一度だけだ、やはりそこをすごく考えます、
被告人のことも
被害者のことも考えると。何で犯罪が起こってしまったのか、そういう
社会的なことも
自分が
裁判員になったことで初めて真剣に考えるようになりましたという
お話を聞いています。
こういった声を、個別の
裁判の適正さだけではなくて、
裁判員制度自体にもぜひ反映していくような
仕組みづくりをしていただきたい。
そのために、一つは、今、
裁判員法では附則九条に従って見直しが行われていますけれども、ここが終わると、
裁判員法自体には見直しの
規定がなくなってしまいます。
制度が始まって六年ですが、なかなか予想もしなかったようなことというのはこれからも出てくるでしょうし、
制度がスタートしてまだ間もないですから、これからしっかりと見直しをしていくというのはむしろ求められると
思います。そういった
意味で、ぜひ、この附則九条にかわる見直しの
規定というのは入れていただいて、立法府からもしっかりと見直すというような形にしていただければと
思います。
それとあわせて、
裁判員経験者も含めて、
市民の
視点から
裁判員制度を検証する
仕組み。
例えば、
裁判員を
経験された方というのは、御
自分の
体験とか御
自分の
事件はわかるんですけれども、
制度全体について何か
意見を言うというのはなかなか難しいんですね。そうすると、
市民の
視点を集約していくような検証機関とか
委員会というものがあれば、ではインタビューを
一定程度しましょうとか、アンケートをしましょう、これは今、最高裁を
中心にやっていますけれども、職業
裁判官の
視点とはまた別に、本当に
市民の
視点が反映できるような
仕組みづくりはぜひお願いをしたいというふうに思っております。
私からの
意見陳述は以上にしたいと
思います。どうもありがとうございます。(拍手)