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美根参考人 本日は、このような場で私の
意見を聞いていただきまして、大変ありがとうございます。
齋藤参考人と違いまして私は資料を持ってきておりませんので、口頭で
説明させていただきます。
AIIB、
アジアインフラ投資銀行ですけれども、この
構想が打ち出されました当初は、
国内ではバスに乗りおくれるなという論調がかなり強かったように思います。今はかなり鎮静化したようですけれども、しかし、では、
参加しないでいいか、
参加しないでいることについて
自信を持って言えるかといいますと、これもちょっとなかなか
自信がないという方が多いんじゃないか。これは一般の話ですけれども、そういう
考えが多いんじゃないかというふうに受けとめております。
そういうふうに思いますが、私
自身は、やはりこの
アジアインフラ投資銀行への
参加は慎重であった方がいいというふうに
考えております。本日、私から御
説明することは基本的にはその方向での話でございますので、
問題点の話が多くなるわけであります。
その前に、
中国の力といいますか
パワーというのはやはりすごいものがございます。この
AIIB、きょうは
AIIBと略称させていただきますけれども、
AIIB構想を打ち上げてから二年足らずの間に
設立協定の
署名式までこぎつけたというのは大変な力だと思います。
中国の
高速鉄道もそうです。それから、西部に多いんですけれども、パイプラインの建設なんかも猛烈な
速度でやっておりまして、ちょっと
日本では
考えられないような
速度で大きな
プロジェクトをどんどんとつくっていくというのは、さすが
中国だなというふうに思っております。
この
AIIBにつきましても、そういう短い期間ですけれども、六十カ国近い数の国を味方につけといいますか、巻き込んでといいますか、一緒になって
AIIBを設立するところまでこぎつけたというのは大変な力であると思います。まさにこれは
中国の
パワーでございます。
もう
一つ、
問題点の
お話に入る前に前置きとして申し上げておきたいんですけれども、
AIIBは、
アジアインフラ投資銀行ということで、これは
銀行なものですから、どうしても
各国においては、
銀行だからこれは
経済の話だというふうに振るといいますか、
担当を決めるようなところがあるように受けとめております。
日本のことについてはいろいろありますが、メディアの方を見ていましてもそういうふうに思います。これは
日本だけではありませんで、
各国ともそういう傾向がある。
つまり、
銀行だからこれは
経済問題だということで振る、そうしますと、それについての
分析はどうしても
経済的な
分析が多くなるということですが、私は、この
AIIBは半分以上政治問題じゃないかというふうに思っております。
最初に、
AIIB構想は確かに
各国を引きつけました。どうして引きつけたのかということをちょっとおさらいしておきたいと思います。
先ほども
お話がございましたけれども、
一つは、
アジアの
インフラ投資需要が巨大でありまして、
アジア開発銀行の試算によりますと、今後十年間で八兆ドルという有名な
数字がございます。これは
推計でございますけれども、これだけの大きな
需要があり得るというふうになっております。これがまず
最初の
魅力であると思います。
それからもう
一つは、
アジア開発銀行もそうですけれども、
既存の
国際開発銀行は業務のポリシーとマネジメントの両面で
改革が必要だということが従来から言われております。
改革案も出ております。G7では、
国際開発機関の
機構改革というのが主要な議題の
一つになっております。それほど議論もされておる、問題にもなっておるわけでございまして、
中国はかねてからこの
あり方についていろいろな
不満を持っておったわけです。したがいまして、
中国に限らず
各国とも多かれ少なかれそういう
不満というものがありまして、そこに
AIIBがヒットしたといいますか、応えたということが
一つの大きな
魅力だったと思います。
つまり、
中国は、
既存の
国際開発金融秩序に対する
各国の
不満を巧みに利用し、その欠陥を是正するという大義を掲げながら、
AIIBが設立されれば
大型プロジェクトが続々とつくられることになるという餌をぶら下げまして、言葉が余りよくないかもしれませんけれども、という形にいたしまして、早く
設立過程に
参加した方がいいよ、そういう印象をつくり出したのだと思います。
一つ注目する必要がありますのは、これは
日本にとっての大きな問題なんですけれども、ヨーロッパ、
欧州の
各国にとりましても
AIIBは非常に
魅力的だと映った、この問題があると思うんですね。
イギリス、
ドイツ、フランス、イタリーなど、かねてからこういう問題、
国際機関とか国際的な
交渉とかに非常にたけている
国々も
参加をしておるわけであります。
これはなぜかというところは確かにあります。強いて言えば、一般的に、こういう
欧州諸国にとりましてはチャイナ・
パワーというものがやはり大きな
魅力となった、
先ほどのことでありますけれども、それは確かにあったと思うんです。
それからもう
一つは、これから申し上げます、
中国だけが
AIIBにおきまして
拒否権を持つ、そういうことについての
警戒心は、
欧州諸国の場合は
日本や
アメリカとはかなり違うのではないかというふうに
考えられます。これが
一つです。
それからもう
一つ、多少この問題に
関係しております
欧州の方から聞こえてくる話は、
情報が欲しかったと。
AIIBに
参加することによって、
アジアにおける
投資に
関係する
状況、それに
関係する
情報が入りやすくなるという
期待感があったのではないかというふうに思います。
他方、
AIIBについては少し
考え直した方がいいのではないかというふうに思い直しつつある国があるのではないかというふうにも思われます。
これは、直接まだはっきりと、いや、
考え方を変えたということまでは言っておりませんけれども、例えば、先般
設立協定に
署名しました国が五十カ国あります。つまり、いわゆる
創設メンバーとして資格を持っていた国が五十七ありまして、そのうちの七カ国は
署名をしなかったというのがあります。フィリピンなど、デンマークも入っております。タイも入っております。この
国々が何を
考えているのかということは、さらによく見きわめなきゃいかぬというふうに思います。私は、この
国々は少し疑問を持ち始めているんじゃないかという気がします。
それから、
ドイツ。
ドイツは、これは後で
出資比率の
関係で申し上げますけれども、普通に計算しますとたしか四番目ぐらいの
出資比率になるはずなんです。そうであれば、通常は
理事を出す、当然
理事を出すというのが普通の
対応の仕方だと思いますけれども、
ドイツはこれを断っていると理解しております。
それから、
イギリス。
イギリスは、普通の計算でいきますとやはり六番目か七番目ぐらいになるんじゃないかと思いますけれども、自分のところは十番目でいいというふうに、少し腰が引けている
対応をしているようなところもございます。
ということで、確かにこの
AIIBは大きな
魅力がありますけれども、
各国においてはそういう
動きもあるということを
一つ申し上げておきたいと思います。
これから、
AIIBの何が問題かということについて、私の
考えを申し上げたいと思います。
AIIBの最大の問題は、
中国だけが断トツに大きな権限を持っているということであります。
先ほどもありましたけれども、
出資比率は、
中国が約三〇%、二位のインドは八%台です。三位のロシアは六%台です。韓国はたしか第五番目ぐらいではないかと思います。いずれにしましても、
中国と二位以下は非常に大きくかけ離れております。
各国の
議決権。
議決権は
決定権ですから、
AIIBの中で何が大事かというと、これをおいてほかに重要なものはないというぐらい、とにかく
決定的なものでありますけれども、この
議決権は
出資比率が
ベースになって計算されます。
AIIBの場合には、
先ほどもありましたけれども、二六・〇六%というのが
中国の
議決権であります。これは、
重要事項は四分の三必要ですので、
中国が仮に反対しますと二六・〇六%の反対になりまして、そうしますと七五%は達成することができませんので、成立しない。つまり、
中国のみが、一国だけが
拒否権を持つということになっておるわけであります。
中国は
米国や
日本に対して
AIIBに
参加するよう勧誘しておりますけれども、私は、
出資比率は変えないだろうと思います。なぜならば、この
出資比率というのは
AIIBの
中核中の
中核、最も重要な問題であります。
中国が
AIIBを提唱した
理由の
一つは
既存の
国際開発金融機関に対する
不満があると申しましたけれども、その
不満は具体的にどこにあるかといいますと、
中国の
出資比率がなかなか変わらないというところにあるわけです。つまり、
中国の
発言権が今までの
国際開発金融機関の中では変わらないというところに大きな
不満がある。つまり、それは、ほかの
機関ですけれども、
議決権というものを変えるということがいかに難しいかということをあらわしていると思います。
後で、BRICSというのもありますが、
銀行ですけれども、それとの比較でまたこの点については戻ってきたいと思います。
いずれにしましても、もし
米国が
AIIBに仮に
参加するということになりますと、
米国のGDPは
中国のまだ二倍近い、二〇一三年の
数字ですけれども、一・七倍ぐらいになります。そうしますと、普通に処理すれば
アメリカが当然第一の
議決権、
発言権を持つということになると思います。これは
中国は絶対のまないと思います。そういうふうにはならない仕組みもつくってあるんですけれども、こういう問題が
一つあるわけであります。
それから、
AIIBの
本部は北京に置かれます。これもよく御承知のことと思いますけれども、
本部をどこに置くかというのは非常に大事な問題であります。
私は、
AIIBほど大きな
交渉ではありませんでしたけれども、一次産品の
共通基金というものをやったことがあります。その
設立協定の
交渉に
参加したことがありまして、
本部の
決定というのがいかに大変かということを私なりに実感したことがございます。
いずれにしても、常識からしましても
国際機関においてどこに
本部を置くかというのは大事な問題でありまして、大事な問題であるがゆえに、皆が
参加して議論して
決定するということが必要であります。
ところが、
AIIBの場合にはどうなったかといいますと、
構想が発表されて約一年後、つまり二〇一四年の末にメモランダム、覚書というものができまして、その覚書が北京で
署名されたわけです。これは
中国を入れて二十一カ国、後に一カ国、インドネシアが加わったので全部で二十二と
考えてもいいかもしれませんけれども、この二十二の国で
最初の枠組みを決めてしまったわけであります。その中に、
本部は北京とするということが書いてあるわけです。もう決まってしまったわけです。
ことしの春先によく出ておりました話は、
日本も早く
参加しないと
創設メンバーにはなれなくなる、そういう
状況がありました。その
創設メンバーというのは、結局五十七カ国になったわけです。しかし、その
創設メンバー五十七カ国全てがこの
本部の
決定に
参加したかというと、今申し上げたように、せいぜい二十二しか
参加していないわけです。つまり、半分以下しか
参加していない。
創設メンバー国というのはそういうものなんだ、こういうふうに理解するしかないというふうに思います。
次に、総裁。総裁については、
中国は既に具体的な人、金立群という人ですけれども、候補を立てております。この方は世銀、IMFの経験が非常に長く、民間にもおられまして、いろいろな国際的な感覚もあるということでありまして、非常にすぐれた方らしいですけれども、総裁も
中国人というのはまず間違いない。どなたに聞いても、間違いないと。当然、最大の
決定権を持っておるわけでありますから、総裁も
中国人になるものと思われます。
したがいまして、私は、この
AIIBというものは、
国際機関として見ると非常に特異なものであるというふうに
考えます。むしろ
中国の
国内銀行に近いのではないか。私は実はほかのところでは
国内銀行だと断定しておるんですけれども、ここはもう少し慎重に申し上げなきゃいかぬと思いますので
国内銀行に近いと申し上げますけれども、
国内銀行として見ればそれほど不思議ではない。
国内銀行として、しかし、設立のときから
各国に声をかけてつくったんだ、こういうふうに見ると比較的わかりやすくなるというふうに思っております。
先ほどちょっと触れましたBRICS、ブラジル、インド、
中国、南アそれからロシア、ちょっと順序が乱れましたけれども、この五カ国がつくりましたBRICS
銀行が、BRICS開発
銀行とも言いますが、あります。これと比較してみますと、
AIIBの性格がかなり明確に浮かび上がってくるように思います。このBRICS
銀行の第一回の総会が開かれましたのは、
AIIBの
設立協定が
署名されたほぼ一週間後であります。
時間がありませんので、いずれにしましても、BRICSの経験がありまして、そのために
中国は非常に、BRICSの中においては実は
中国の
出資比率を非常に高くしたかったんです。
交渉においてそれを持ち出したんですけれども、それがうまくいかなかったということで、BRICSにおいては普通の
国際機関として
対応したということであります。その反省に立って
AIIBをつくったという経緯があります。
もし後で御質問がありましたらもう少し詳しく申し上げたいと思いますけれども、時間がありませんので、要するに、
中国としては、BRICSの轍を踏まない、そういう観点から
AIIBをつくったということがあります。
それからもう
一つ、これだけは申し上げる必要がありますのは、
中国には一帯一路という大きな
構想があります。つまり、陸上と海上のシルクロードを開発するという大きな
構想がありまして、これがこの
AIIBを設立する大きな動機になっております。
実際、習近平主席はある場で、博鰲フォーラムなんですけれども、
中国と周辺の国家が運命共同体の意識を樹立することが重要であると、驚く
発言をしておられます。しかし、これは
中国の主席の
発言としては何ら不思議ではないんだろうと私は思います。
しかし、私が言いたいのは、そういう発想もあるぐらい、
中国においては政治的な観点から、特にこの一帯一路という大きな
構想と結びつけて
AIIBというものを
考えているところがあるということであります。したがって、
日本は、そういう政治的な性格というものを正しく理解して
対応する必要があるというふうに
考えるわけです。したがいまして、私は、
AIIBについては慎重に
考えた方がいいということであります。
最後に、
中国の
銀行であるかどうかはともかくとしまして、
AIIBにこれからどのように
対応していくかというところが
考えどころであります。普通の
国際機関として
考えますといろいろおかしなことが出てくるので、慎重であるべきだというふうに思いますけれども、しかし、これは
中国の
銀行である、実態はそれに非常に近いというふうに
対応していけばいろいろ道が開けてくるのではないかというふうに
考えております。
時間がちょっとオーバーして申しわけございませんでした。
以上でございます。(拍手)