○アインゼル
参考人 皆さん、よろしくお願いいたします。
何でここに外人が出てきたのかと多分皆さん疑問に思われているかもしれないですが、別に僕は外圧をかけに来たわけではないので、そこら辺のことは御了承いただけたらなというふうに思っています。
うちは明治
時代からある
法律特許事務所でして、主として欧米のクライアントをずっと代理してきた経緯があるんですね。その中で、百十年以上なぜこうやってやってこられたのかというふうに考えたときに、やはり、何か彼らにとっての大きな文化的なメリットとかそういうものがあったんだろう。
きょうは、僕は外国人の
立場として、今回の
法改正というよりは、今後
日本が
法改正をするに当たってどういうところの視点で考えていけばよろしいのか、
一つの提言みたいなものをちょっとしたいなというふうに考えています。
その提言はどういうところからくるかというと、これは別に僕の
意見だけではなくて、大体僕は年に二、三回、ここ二十年間ずっと欧米
企業を回ってきて、いろいろなインタビューをしてきたわけなんですね。そのときにそれをまとめたもの、
日本の
制度に対してこういうふうに考えていますとまとめたものとして考えていただければなというふうに思います。
日本の
産業財産権
制度の今後の
課題なんですけれ
ども、これは釈迦に説法になってしまうんですけれ
ども、そもそもよい
産業財産権
制度というのは何なのか。これは当然、自国の
産業を発達させ、外国からの投資を呼び込む
制度ということになるかと思います。そのためには、まずは投資の回収が図れる、すなわち投資以上のリターンがあることが重要であろう。
あともう
一つは、予見可能性の存在ですよね。例えば裁判所はどう判断するんだろう、
特許庁はどう判断するんだろうといって、ある程度の予見可能性があって、それに対するリスク判断が
企業ができること、これが非常に重要になってくるのではないかなというふうに考えております。
一般論としては、
産業の発達を図るために、皆さん御存じだと思うんですけれ
ども、
発明の保護と利用という両方の側面があるわけです。保護が強ければ当然利用が弱くなる、利用が強くなれば保護が弱くなるという関係にあると思うんですけれ
ども、一般的に、先進国は保護に重きを置いて、発展途上国は利用に重きを置く、そういう関係があるわけですね。
その中で、どうしても
日本の
特許制度に対して、先進国の中では、保護がまだまだ弱いんじゃないのかというイメージが特に欧米の中にある、そういう現実が今あります。
ただ、ここ二十年間の
特許庁さんの取り組みというのは、僕は本当に見事だなというふうに実は思っております。小泉首相のもとでのプロパテント
政策もそうですけれ
ども、それにのっとって、ここ二十年間で
相当なまでに
発明の保護というものに重きを置くようになってきて、
審査期間についても、今、十カ月とか十一カ月、非常に短くなってきて、非常にいい
制度になってきているんじゃないのかというふうに考えています。
その中で、投資の回収が図れること、これは
発明の保護の側面の強化なんですけれ
ども、
審査段階で今後ちょっと考えてもいいのかなというふうに思うのが、補正におけるいわゆる主位的請求、予備的請求の導入。これは多分、
特許庁さんはすごく嫌がると思うんです。何でかというと、
審査官の仕事がふえるからです。
要するに、我々、一番
最初、
発明というのはある程度広く出すわけです。そこから取れるところに落とし込んでいくんですね。その落とし込みの過程において、補正というのは、要するに減縮していくわけです。減縮というのは、
一つしか提出できないんです。
それを、例えばヨーロッパ
特許庁とかドイツなんかでもそうなんですけれ
ども、幾つでも、これがだめだったらこれ、これがだめだったらこれというふうに、徐々にこうやって減縮していくという
制度があるんですね。
そういうものは、当然これは
特許庁の
審査官の負担にはなるんですけれ
ども、要するに、なるべく広い範囲で取るためには、その
一つの提案だけでは、ここだったら拒絶されるかもしれないからも
うちょっと減縮しようかな、どうしてもそういう
方向に出願人の考えが働いてしまう、そういうことをさせないためには、そういう
制度というのは僕は非常にいいんじゃないのかなというふうに考えています。
あとは、補正です。要するに、
審査をやっている間に、補正の時期的制限というのが
日本は実は非常に厳しいんですね。審判請求の段階から、その後はもうほとんど補正ができない、基本的には補正ができないという
方向性となっているので、そういうところを、
審査に係属中ないしは審判に係属中の間は、やはり補正の機会というのはずっと認めてもいいのかな。補正というのは、さっき言ったような減縮です。要するに、クレームをいじるということです。
あとは、補正の
内容的制限の緩和です。
二つ目の、
最後の拒絶
理由通知が出た後に、いわゆる我々の業界で限定的減縮というふうに言うんですけれ
ども、要するに、上位概念を基本的に下位概念に変えるしかなくなるんですよ。そういう補正ではなくて、も
うちょっと幅を持たせた形の補正というのは認めてもいいんじゃないのか。
何でそういう限定的減縮をさせるかというと、要するに、例えばこの範囲からこの範囲に変えたときに、もう一回先行
技術の調査が必要になってくるんです、
特許庁にとっても。だから、
手続的な負担がすごくふえるわけです。それをしないためにそういう縛りをかけているんですね。そういうことは果たしていいのかなというところはちょっと疑問があるところです。
あとは、分割出願の時期的制限の緩和。これは補正と同じような感じで考えてもいいんですけれ
ども、Aという親出願があって、そこから分割ができる
制度。要するに、もう一回
最初からやり直そうよという
制度があるんですね。それを
日本では、時期的制限、やはりその審判請求段階から後は認めない。そうすると、補正もできない、分割もできないという
状況があって、非常に出願人にとっては厳しい
制度かなと。
あと、もう
一つは特実。これは、実用新案という
制度を皆さん御存じかと思うんですけれ
ども、
特許で実用新案というのがあって、
特許はいわゆる大きな
発明、実用新案というのは小
発明というふうに言われていますけれ
ども、同じ
発明を同日に出願して、それで両方で登録を得られるという
制度がある国がヨーロッパではあるんですね。
これはなぜいいかというと、実用新案というのは無
審査で登録されるんですよ。要するに、出願から二カ月ぐらいでぽんと登録されて、とりあえず
自分のコンペティターにプレッシャーをかけられる。
特許出願を、そのようにコンペティターの製品に合わせるような形で後から変えていく。早期の保護と、あとは合わせるような保護、これも
特許権者の保護に資する
制度だというふうに考えています。
あとは、投資の回収が図れることで、これは
権利行使の段階。残念ながら、裁判所は、ここ二十年、
知財高裁ができたりとかいろいろプラスの側面はあったんですけれ
ども、思ったほど改革が進んでいないかなというのが僕の個人的な
意見です。
例えば、よくあるケースなんですけれ
ども、
企業さんというのは展示会で
自分の製品を一番
最初に出すわけです。その展示会で出したときに、そこに、例えば
自分の
特許の侵害品が他社さんからいきなり展示された。それを早急にとめたい。当たり前ですが、展示会が終わってしまったら、それは全部世の中へ出るわけです。世の中に出る前にとめたいといったときに、仮処分という手法があるんですけれ
ども、その仮処分で、残念ながら、
日本は、債務者審尋とかいろいろそういうことをやることによって、下手すると、
特許の場合、七カ月、八カ月、九カ月とかかってくる。そうすると、もうそもそもそのダメージというものは回復不能になってしまっているんじゃないか。
特に、
日本みたいに
中小企業が多くて大
企業が少ない
産業構造を持っているところというのは、そういう
一つの製品、それを侵害されたものによるダメージというのは、僕は非常に大きいんじゃないのかなと。
そういうことを考えたときに、債務者審尋をしないでも、本当は、二、三日で仮処分決定を出すようなもの、そのかわり、それが間違った判断であった場合は、ちゃんと、間違った判断であったのだから、その損害賠償義務を負いなさいよ、仮処分決定を出した方、債権者の方がと。そういう
制度を持ってくれば、余り問題がないのかなというふうに僕は考えています。
それ以外にも、敗訴者負担の原則。要するに、負けた方が勝った方の例えば
弁護士費用だとか弁理士
費用を払ってあげるべきじゃないか。損害賠償額が低い
訴訟だと、やはり何だかんだ言いながら、
特許侵害
訴訟というのは何千万とするわけです、
弁護士費用、弁理士
費用だけで。それよりも損害賠償額が低かったときに、余りやる
意味がなくなるということがよく起こる。それが、やはり
日本において、出願件数は非常に多いんだけれ
ども、
特許の侵害
訴訟の件数が百件とか百五十件にとどまっている
一つの原因になってしまっているんじゃないのかなというふうには感じています。
あと、予見可能性で、
審査段階なんですけれ
ども、請求主義などの原理原則の不存在。
日本はドイツ法を継受しているんですけれ
ども、これはおもしろいんですが、条文は継受しているんですけれ
ども、原理原則というのはほとんどすっ飛ばしたんですね、当時。それがいまだに続いている
状況なんです。
原理原則というのは何のためにいいかというと、例えば、
法律が全くないときに、原理原則にのっとって、今回裁判所や
特許庁はどういう
方向性に判断をするかというリスク管理ができるんです。そういうものが残念ながら今の
法律にはない。
あとは、進歩性判断です。進歩性というのは、
特許が、
発明が取得可能かどうかというところの一番の要件になるんですけれ
ども、これは、基本的に客観的な判断というのはなかなか難しいんです。何でかというと、結局は
価値判断だから。それを、ある程度、事実に基づく主張、立証というものを認めていってもいいのかなと。例えば、引例の数が物すごく多かったとか、長らく未解決であった
課題、八十年間みんなこぞって研究していたのにできなかった、その
発明をした、その事実をもって進歩性を認定するという、も
うちょっと、
価値判断だけじゃなくて、事実に基づく主張、立証というのもいいんじゃないのかというような気もします。
それと、一番
最後に、これは
日本の
産業界にとって、今、ASEAN諸国や東南
アジア、
中国を含めて、いろいろな
企業が出ていって、そこで
特許を取って、かつ、そこでいろいろな
RアンドDをやる、開発をやって売るということをやっているわけですが、そのときに、いいパートナー、いい
特許事務所、
法律事務所がそこの地元で必要なわけですよね。
そういうときに、何らかの国際的な取り決めをやって、
日本の
特許事務所が、外国の
特許事務所、特に東南
アジアにおいてオーナーになれるような
制度というのを今後設けていく
意味というのは、僕はあるんじゃないのかなと。そのことによって、例えば、国際的な
特許事務所、
法律事務所が
日本においてもできるようになって、それで総合的に
産業というものをバックアップしていけるんじゃないのかな、そういうことを今後考えてもいいのかなというふうに思っております。
ありがとうございました。(拍手)