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折木参考人 おはようございます。
折木でございます。
きょうは、この場を与えていただきまして、ありがとうございます。
現役を退官いたしまして三年半
たちましたけれども、この間、
日本や
自衛隊を取り巻く環境というのは非常に大きく変化をして、国内外でも何が起こるかわからない
時代になってまいりました。
私も、四十年間、自衛官として勤務させていただいたんですけれども、私の自衛官人生の半分、二十年ですけれども、これは昭和と冷戦の
時代でありまして、後半二十年がちょうど平成と冷戦後の
時代に勤務させていただきました。その中で、前半と後半では
自衛隊の役割も大きく変わってまいりましたし、平成元年には、地中海のマルタで米ソの首脳会談が行われて、冷戦が終結したわけです。
しかしながら、その翌年には、
国連憲章と戦後秩序の根本をなします、
武力で国境を変更しないという
国際社会のコンセンサスが破られてしまいます。イラクのクウェート侵攻であります。これを受けて、
国連安保理が決議案を採択し、翌年の一月には湾岸
戦争が始まるわけです。
資源小国の
日本にとって命綱であります石油が存在する中東で戦乱が起こったわけですけれども、
日本は、資金提供のほかに物資の輸送支援等を要請されましたが、もともと、いずれの態様にしても
自衛隊を派遣するという
法律的な枠組みもありませんでしたので、
皆さん御案内のとおり、かわりに百三十五億ドルの資金拠出を行いました。
翌年には、
戦闘が終了したということで、
自衛隊の機雷掃海は可能であるということで、ペルシャ湾に海上
自衛隊の掃海
部隊が派遣されたわけですけれども、これで、一カ月かけて
現場に進出をして、
アメリカそれからイギリス等から派遣をされました九カ国、約四十隻の掃海艇と共同しながら、四カ月半かけて、イラクで敷設をされた千二百個の機雷を処分しました。航行の安全回復ということに関して大きく貢献をしたわけです。そして、
参加をして行動するということによって、
日本の国際的な名誉の回復に貢献したというふうに思っています。
その次の年に
PKO法が成立をしまして、この
法律に基づきまして、カンボジアに関西の
部隊、隊員を、
自衛隊史上初めてですけれども、派遣することになりました。当時、私は大阪で隊員の募集をしておりまして、国内で多くの反対もありましたし、この派遣の説明のために父兄の会合に行きますと、どうしてうちの息子
たちがカンボジアに行かなきゃいけないんだと問い詰められたこともたびたびありました。
その十年後、私は、中部方面総監として兵庫県の伊丹の
司令部に赴任しました。ちょうど、当時、イラク・サマーワに派遣していた
部隊が伊丹に帰ってまいりまして、そのときに、伊丹の商店街には何と、お帰りなさい、御苦労さまの横断幕が張られておりました。この変化に、涙が出るぐらいうれしかったことを覚えております。
この
時代は、当時の冷戦の
時代からポスト冷戦の
時代への大きな
安全保障環境の変化を受けて、
日本の役割、そして
自衛隊の役割が変わる転機の時期でありました。大きな政治決断、それから転機の時期であったわけです。振り返りますと、その
時代の国際情勢に強く要請されながら、おくればせながら法整備が進み、
現場が成果を残していくというパターンが続いてきたように思えます。
しかしながら、今回の法整備は、
日本の
憲法の範囲内で、
主体的に、前もって
活動する範囲とか権限を法制化するという極めて意義のあるものだというふうに思っています。しかも、いずれの場合も国会の判断と承認を必要としますし、
国際法上正当な場合しか
参加できないことになっています。
事前の幅広い法整備というのは、
部隊、隊員にとって最も大事な、日ごろから十分な訓練ができて、これは共同訓練も含みますけれども、準備を行い、あるいは必要な防衛力整備ができるということです。そして、
活動あるいは派遣される場合、
国家としての
大義、目的を明確に与えられるというふうに私は理解をしています。これは、第一線で
活動する隊員、そしてそれらを身近で支える家族にとっても、最も重要なことだというふうに思っています。
そういうふうに変わってきているわけですけれども、特に、
日本を取り巻く
安全保障環境の変化、変化というよりも悪化だというふうに思いますが、それに触れさせていただきたいというふうに思います。
まず、
国家間のパワーバランスの変化です。そして、地域的にそれが緊張の高まりを招いています。
少々具体的に見てみますと、まず、北朝鮮ですけれども、二〇一二年に世襲の三代目として金正恩が
政権をとり、体制移行したわけです。核開発、弾道ミサイルの能力増強とか挑発行為は繰り返されておりますし、緊張感が一層増大させられております。
去年の三月には、朝鮮半島の東海岸ではなくて平壌の北方から初めて、移動式の車載装置に搭載をしたノドンと見られる中距離の弾道ミサイルを発射しました。これは、車載化により位置の特定などがより困難になって、脅威がさらに高まったということを意味しているというふうに思います。
そしてまた、ことし五月には新型潜水艦から弾道ミサイルの発射実験が行われ、初期の段階ですけれども、成功したのではないかという報道があります。要するに、脅威も質的に深刻化しております。
さらに、北朝鮮の場合は、特に保有する核の管理というものについて、東アジア全体の
安全保障における最大の課題だというふうに思いますし、いずれにしても、北朝鮮は、東アジアで最も不透明、不安定な国であるということは間違いないと思います。
次に、中国ですが、
日本周辺における中国の海空軍の動きというのが活発化をしています。太平洋で行われる訓練も年々増加しており、常態化しているわけですけれども、二〇一三年には、東シナ海に防空識別圏を設定しました。
こういう中国の軍事動向は、その不透明性とも相まって、
周辺国にとって大きな懸念材料、不安定要因となっているところですけれども、それを裏づける中国の二〇一五年度予算の
国防費は、
日本円で約十六兆九千億円、
日本の防衛費の約三・四倍であります。
五月には二年ぶりに
国防白書を発表して、軍事戦略をテーマにしたものですけれども、それによると、局地
戦争の脅威、それから核戦力、宇宙とサイバー空間等について述べるとともに、海軍については、近海防御から、近海防御と遠海防御の結合型に転換するということを明らかにしました。これは、海洋進出の拡大を宣言しているところです。これからも積極的な
活動が継続するというふうに思います。
東シナ海でも、
皆さん御案内のとおりですけれども、昨年は、一年間で延べ八十八隻の中国公船が領海侵入しました。
また、最近では、大きく取り上げられております、南シナ海における、強引とも思えるスピードでパラセル、スプラトリー諸島での埋立工事を進め、実効支配を進めております。
五月には、
アメリカのケリー国務長官が中国の外相や習近平
国家主席と会談をし、またシャングリラでカーター
国防長官も演説され、懸念を表明しましたが、中国側は、主権の問題として、一向に向き合っていません。習近平主席に至っては、南シナ海問題について、もう既に何度も言ってきたことだけれども、広大な太平洋には中米二つの大国を受け入れる十分な空間があると述べたとの報道があります。これは、既に中国が自信を持って南シナ海政策を進めているというふうに思えるところです。
もちろん、
日本も
中谷防衛大臣初め、
関係国も同様の懸念を表明しましたけれども、これらに対して、軍の
関係者であります、シャングリラに
参加をしていた孫建国副総参謀長は、中国の主権の範囲内であるということを主張しましたけれども、軍事目的でもあるということを認めたわけです。
中東の混乱もおさまりません。ISILの
活動も活発化が続いています。
アメリカのデンプシー統合参謀本部議長は、ISIL掃討
作戦には三、四年かかるというふうに発言していますが、中東地域全体を見れば、混乱はいろいろな要素があって、もっと長期的に続くと判断した方が妥当ではないかというふうに思います。これがヨルダン、サウジアラビアの混乱に展開するようであれば、最悪の
状態だというふうに思います。
いずれにしても、
安全保障環境は大きく変動し、不透明、不安定でありますけれども、亡くなられた京都大学の高坂教授が述べておられました、国際
関係を律する力と利益と価値の体系が複雑に絡み合って、各国が相互に深く影響し合っています。
日本の
安全保障にとっても機微に影響してきているというふうに思いますし、特に東アジアではその不安定さが強いというふうに認識をしています。
そういう変化の中で、今回の
安全保障法制の評価と言いますとちょっとあれですけれども、発言させていただきますと、この
閣議決定をされて、
自衛隊がさまざまな脅威に対して切れ目なく
活動するということを狙いとして、基盤となる制度を整える、そういうことによって、最終的には
抑止力の向上が図られるものだというふうに思っています。
安倍総理の発言の中で、もはや一国のみでどの国も自国の安全を守ることのできない
時代という情勢認識、
時代認識に対して、私は全く同感するものであります。
安全保障環境を概観しましたが、今や、迫りくるさまざまな脅威に対して、
日本が一国で行えることは極めて限定をされています。それは、他国の
立場もそうだというふうに思います。
日本も、世界の平和と安定のために積極的に役割を果たすことが期待をされています。今の
時代は、
紛争対応ということだけではなく、国際的な平和維持
活動、災害対応、海賊対処、そして途上国の能力構築支援等、幅広い分野で多国間の取り組みが求められています。それぞれの国が、その能力と特性を生かして
活動しております。
そういう中で、四月には十八年ぶりに日米防衛協力のための指針が
合意をされました。同盟調整メカニズムを設置する等、いろいろな方向性が示されたわけですけれども、これらの実効性の向上のためにも、今回の
安全保障法制の早期の成立が望まれると思っております。
米国とは、戦後数十年にわたり、
自衛隊も共同訓練や
海外での
活動等の場を通じて連携を深めてまいりました。東
日本大震災においても、トモダチ
作戦のもと、約一万六千人が発災と同時に駆けつけてくれました。今回の法整備で、さらに緊密な連携ができる基盤が整うというふうに思っております。そして、これが対外的にも大きな
抑止力になるというふうに思っています。
日本の国際平和協力
活動等の観点から見ますと、今まで、約三十カ国にわたり、延べ約五・三万人の
自衛隊員を
海外に派遣してまいりました。
現場に派遣されている他国の軍人は、
最初は
自衛隊のことを当然ながら自分
たちと同じ軍隊とみなしています。
ところが、他国軍といろいろな
任務上の調整を進めていると、
自衛隊は、いや、我々はそれはできない、自衛のための武器使用しかできない、だから自分からは撃てない、治安
活動は無理だといった話が必ず出てきます。もちろん、各国それぞれにいろいろな事情や制約はあります。
自衛隊についても他国の軍隊は一応理解はしてくれますけれども、正直なところ、内心でどう思われているかはわかりません。
約十七年間派遣をされたゴラン高原の
PKOの例を挙げれば、他国と同じキャンプに宿営しているにもかかわらず、もし万が一他国がゲリラに襲われたときには
日本は支援できません。もちろん、逆の
立場の場合は他国が
日本を支援してくれるという、何とも言えない
状況が生じる可能性がありました。
これは、国際常識であり、派遣された
部隊同士の信頼に基づく人道上、道義上の問題が不可能だったということです。
日本の威信失墜と国際問題に発展しかねないことでした。今回の法整備で、
現地邦人の救出と同様に、実行するには条件はありますが、可能になることは国際的にも大きな前進だというふうに思います。
最後に、今後の検討と課題でございますけれども、重要な課題が残っているというふうに思います。
それは、一つは、
部隊行動基準の抜本的な見直しと、
部隊、隊員が自信を持って
活動できる、徹底した訓練のための時間です。
防衛省には
部隊行動基準があります。国際的な標準では
交戦規定、ROEといいます。この内容については詳細に申し上げられませんけれども、一般的なROEとして、行動できる地理的な範囲とか、使用できる武器とか、この武器の使用方法とか、そういうことを定めるのが通例ですけれども、この場合は絶対に武器を使用してはならないというネガティブリストの基準とする必要があるというふうに思っていますし、
海外の軍隊もそうです。生死がかかわるかもしれない厳しい
状況の中で、即断即決、柔軟性が求められる第一線の
部隊、指揮官にとってはネガティブリストが望ましいというふうに思っていますし、それを徹底する時間が必要だというふうに思います。
もう一点は、
武力攻撃に至らない侵害への対処であります。
今回の法整備におきましては、シームレスな警戒
監視とか対処体制の強化、共同訓練の推進等々によって連携強化に取り組むことになりました。新しく
法律はつくりませんが、
運用手続とか実施要領を細部まで詰めていくという
考え方ですけれども、それに伴って、五月には、総理のもとで電話等により必要により
閣議決定できるように決まりました。これは一つの大きな改善だというふうに思っています。
一方、
平和安全法制を特徴づけるキーワードの一つが切れ目のない対応ですけれども、例えば尖閣諸島などでの島嶼防衛は、まず、法的執行機関である海上保安庁そして警察が警察力で対応し、その能力で対応できない場合、
自衛隊が治安出動や海上警備行動として出動します。そして、それでも対応できない
事態になって初めて防衛出動となるわけですけれども、
法律の枠組みとしてはそれで連続性や
整合性がとれるのですが、いざ
運用するとなると、
事態認定を踏まえ、いつ海上保安庁や警察から
自衛隊に移行するのか、特に防衛出動の発令になると、ハードルが高く、厳しい高度の政治判断が求められます。
一方、相手側から
日本側の対応を見ると、
自衛隊の艦艇が
現場付近に進出してきた場合には、治安出動か海上警備行動か、あるいは防衛出動か判断できないでしょうし、判断しようとすら思わない場合もあると思います。海上保安庁という機関の補完ではなくて、
日本の海上
自衛隊、軍隊が出動してきたと考えるのが当然だというふうに思います。
そこで偶発的な
武力衝突が発生するリスク、あるいはエスカレーションを考えなければなりません。平時と有事の間にグレーゾーンがあるだけではなく、警察権と自衛権という
運用上のグレーゾーンがあるということも強く意識する必要があります。
政治の決断は大きいと思います。いずれの権限で派遣するにしても、
自衛隊を派遣するにはハードルが高いということです。したがって、広い地域の
責任を持つ海上保安庁の巡視体制とか権限をふだんから一層強化しておく必要があるというふうに思っています。
また、
自衛隊が治安出動や海上警備行動に出ないというわけではありません。現在の検討に加えて、グレーゾーン対処の切れ目をできるだけつくらず、
運用のリスクを減らすためにも、具体的なシミュレーションによる検討がぜひ必要です。こうした検討に基づいて、連携を強化し、連携要領の改善を行う必要があります。将来的には、その結果として法整備が必要かもしれません。
これまで
自衛隊は、
自衛隊でなければできない
任務を、
国民の支持を得ながら誇りを持って行ってまいりました。これからも、
自衛隊の諸官が厳しい
任務により一層謙虚、誠実に
任務に取り組み、
国民の期待に応えてもらうためにも、今回の
安全保障法制が整備をされ、また隊員の名誉や処遇も改善されていくことを願っております。
どうもありがとうございました。(拍手)