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参考人(
渡邊浩君) 皆さん、おはようございます。久留米大学の
渡邊でございます。本日はお
招きいただきまして、ありがとうございました。
私は、
日本渡航医学会の理事として、海外渡航者の健康管理を扱うトラベルクリニックというものを全国に普及するという活動を主にやってまいりましたので、今日は、お
手元の
資料にあります海外渡航に関連した
感染症対策の課題ということで
意見を述べさせていただきます。
資料一を御覧ください。
これは、
我が国の海外旅行者数の推移を示した図であります。いわゆる海外旅行の自由化というものが
日本で行われ、
日本人が外国に自由に行けるようになったのは一九六四年のことでありますので、ちょうど今年で五十年ということになります。
御覧のように、海外に行く人の数というのは右肩上がりで増えまして、一昨年初めて年間千八百万人を超えておりますし、一方、海外から訪れる外国人旅行者数も同様に伸びておりまして、昨年初めて年間一千万人を超えております。単に観光地に行くわけではなく、辺境の地域に行かれる方も増えておりまして、
日本人が渡航先で
日本には余りないような
感染症に陥ったり、あるいはそのような
感染症がこういった
方々とともに国内に入ってくると、そういうリスクが高まっていると思っております。
資料二を御覧ください。
これは、途上国に大体一か月程度訪れたときに旅行者がどのような
感染症にどのような頻度でなるかというものを示した表であります。
旅行者
下痢症という一番上にあるもの、これが大体二〇から四〇%と、非常に外国に行って
下痢をするという方が多いわけであります。そして、中ほどにありますA型肝炎とか腸チフス、このような
病気は数千人に一人と比較的多い。このように食べ物が原因でなる
病気というのが一番多いわけでありますけれども、上の方にありますマラリアとかデング熱、蚊に刺されてなる
病気も数%で比較的高いですし、人から人にうつる
インフルエンザのような
病気も比較的多い。特に
インフルエンザは、
我が国においては主に冬季に
流行するわけですけれども、熱帯地におきましては一年中
流行が見られるということですので、時期が外れても外国から帰ってきて熱を出せばこういった
病気を疑わなくてはなりません。
それから、
我が国において八年前に、フィリピンで動物にかまれて帰国後に狂犬病を発症して二人亡くなるという事例が起こりましたが、狂犬病のリスクのある動物にかまれるという事例が近年非常に増えてきているというのが最近の傾向であります。デング熱の下のところにあります狂犬病のリスクのある動物咬傷というのは、これは
世界的に頻度が増えてきているというふうに言われております。
資料三を御覧ください。
福岡県の久留米市、人口三十万人の地方都市でありますけれども、久留米大学病院での海外旅行外来、いわゆるトラベルクリニックというものは七年前から御覧のような
状況で始めているわけでございます。
資料四を御覧ください、次の
ページです。
診療内容をそこに記しております。
このトラベルクリニックでは、渡航国別の治安、あるいは国別で
流行している
感染症に対する
情報提供を来られた方にちゃんと行った上で
ワクチンを接種しております。それから、当然
ワクチンで
予防できない
病気もあるわけです。そういうものをどのように防ぐかという指導も行います。その表の下にあるような、マラリアの
流行地に行くときは蚊帳をちゃんと買って持っていく、あるいは
下痢をしたときの脱水
対策としてOS—1、こういったものをどのように入手するかということも指導します。それから、高山病あるいはマラリアの
予防内服の処方も行いますし、留学目的で来られる方などを中心に英文
診断書の作成なども行っております。
資料五を御覧ください。
我々の外来の受診者数の推移を示したものであります。
三十万の地方都市でありますけど、年々その受診者数というのは増えまして、今、年間延べで約二千人程度の方が受診されるようになっております。海外渡航に対する健康管理に対する意識がやはり高まってきていることの表れではないかというふうに考えております。
資料六を御覧ください。
これは、我々の外来の受診者の居住地域を示したものであります。
久留米市というのは九州の北部に位置しますが、約三割の方というのは県外から来られているのが現状であります。また、県内におきましても、久留米市よりも人口の多い福岡市
周辺から大勢の方が来られている。なぜこのように遠くから来られるかというと、地方においてはこのようなトラベルクリニックが近くにないからであります。
しかし、苦労してわざわざ遠くまで来られている方の裏側には、そんなことまでできないということで、無防備に、必要な
ワクチンも打たずに海外に行っておられる方も相当数いるんではないかというふうに思われるわけであります。
資料七を御覧ください。
我々の外来に来られる受診者数の内訳を示した図でございます。
約半数の方というのは、企業派遣でいろんな途上国に行かれる方が半数であります。こういった
方々は、現在、半年以上海外に赴任させる場合には健康管理をしないといけないという決まりがございますので、こういった方は企業派遣で、
ワクチンとかの費用
負担というのは会社が主にされている方であります。
一方、留学あるいは観光、比較的短期間の海外旅行、
ワクチンを接種するにも自己
負担で行わなくてはいけない方というのは、それぞれ一四%から一二%と、そんなに多くない。恐らく、
一般の方の認識としては、長期間海外に、途上国に行く場合はそういった
ワクチンも必要かもしれないけれど、短期の観光目的ぐらいだったらそこまで必要じゃないんじゃないかと、そういうふうに思っている方が多いんではないかと、そのように推察しております。
資料八を御覧ください。
これは、我々のところは海外渡航後の
感染症に対する帰国後診療も行っておりますが、その
感染症の内訳を示したものであります。
頻度と同じように旅行者
下痢症というのが最も多くて、海外で動物にかまれて狂犬病の
ワクチンを打ちに来る、こういう方が多いわけですけれども、マラリアやデング熱のような
日本には余り存在しない、デング熱は最近
流行がありましたけれども、これまで余り
日本では
流行がなかった輸入
感染症も含まれております。三年前は、
リベリアから帰国して熱帯熱マラリアであったという症例も二例ほどこの中には含まれております。そして、経時的に示しておりませんけれども、このような
感染症の
患者さんというのは年々増加していると、そういう傾向でございます。
資料九を御覧ください。
このように、帰国後、
症状があって我々の外来を受診される方の海外滞在期間を示しておりますが、一週間以内の方が二五%、それから一週間から二週間の間という方でも三七%。結局六〇%ぐらいの方というのは短期の観光目的の海外渡航者でありまして、恐らくこういった
方々というのは、そんなにリスクが高いと御本人では思われていないんでしょうけれども、実際は長期間渡航されている方というのは現地の病院にかかられることが多いわけで、帰国後、我々のような海外診療をやっているところに来られる方というのは、そういう長期の方よりも短期の方の方がむしろ多い。こういった方にもっと啓発していかなくてはいけないんだと思っております。
資料十を御覧ください。
日本渡航医学会としまして、やはり
ワクチンを渡航者に過不足なく打てるように
ワクチンを整備しないといけないということで、海外渡航者の
ワクチンガイドラインというものを作成しまして、四年前に出版しております。それから左側、
日本内科学会も二年前に成人
予防接種のガイダンスというものを出しまして、この中に海外渡航時の
ワクチンということで私、掲載させていただいております。
資料十一を御覧ください。
しかし、
ワクチンがいろいろこんなガイダンスやガイドラインができて打てるようになったと申しましても、都市部はともかくとして、地方ではこういうトラベルクリニックというのがまだそれほど多くはございません。それで、近くにないとどうしても遠くまで行って打てるわけではないということで、学会として三年前からトラベルクリニックサポート事業というものを開始しております。
その内容は、全国に七人の
委員を配置しまして、ホーム
ページにトラベルクリニックの開設マニュアルというのを公開しまして、主に見学を受け入れる、トラベルクリニックをやりたいという
医療機関の方を招いて見学、どういうものが必要か、立ち上げからうまくいくまでサポートする、こういう事業をやって、いろんな病院を受け入れて、そして開設をさせていく、こういうことを三年ほど行って、地方の方にでも、徐々にではありますけれども、トラベルクリニックというのはだんだん増えてきております。しかし、
ワクチンとかそういったものはなかなか保険が利きませんので、そういったものがもう少し
一般の方に安く打てるような、そういう
対策づくりができるとなおこういったものは活性化されていくんではないかと考えております。
しかし、まだ問題がございます。それは、トラベルクリニックの多くは、今から外国に渡航しようとする方が渡航前に
感染予防のために訪れているところであります。ところが、帰国後に
感染症の診療ができる
医療機関というのはそれほど多くないのが現状であります。
理由は明確でありまして、マラリアとかデング熱とか、そういったものに対する
検査というのは限られた
施設しかできませんけれども、そういうものに全く保険点数が付いていませんので、つまり病院の利益になかなかつながらない、あるいは
専門家がいない。
感染症の
専門家自体は少ないんですけれども、国内で例えば
感染症の
専門であったとしても、海外に行くと
感染症の種類が全く違いますので、たとえ国内で
専門家であっても、海外から帰ってきた人の輸入
感染症に対して
専門性を持っているかどうか、それはまた甚だ疑問になるわけであります。
資料十二を御覧ください。
これは、以前私が所属しておりました長崎大学で国のCOEプログラムの支援を受けて行っていた熱帯
感染症研修コースの案内を示したものであります。
コンセプトは、
日本に存在しない、あるいは
日本ではめったにない
感染症を現地に連れていって見せると、そういう
研修でありました。
感染症の
専門医を目指す、国内だけではなく輸入
感染症にも
対応できる
専門医を目指す
方々を現地に連れていって、フィリピンやタイに連れていって、
日本で見られないような
感染症を見せると、こういうコースを行っていたわけであります。フィリピンでは、
日本でも死亡例が出ましたけれども、狂犬病を見ることができますので、
日本で
発生した狂犬病の
診断にもこういった
研修コースに参加した人
たちが関わっていたわけであります。
こういった
研修コースというのは、短期的に行うものではなくて、長期的な視野に立っていろんなコースをつくっていろんな国で行うようにする、それが
感染症の
専門家、輸入
感染症にも
対応できる
感染症の
専門家を育成するための大事なプログラムであるというふうに考えております。
感染症は国や地域によって
流行している
病気が全く異なりますので、一か所だけに行ってそういったものを全てカバーできるというわけではございません。
資料十三を御覧ください。
海外渡航に関連した
感染症対策の課題ということで、そこにまとめを記しております。
一、海外旅行者及び訪日外国人旅行者の急速な増加に伴い、旅行者が渡航先で
感染症に罹患したり、国内では余り見られない
感染症が持ち込まれるケースが増えているということであります。
二番目、海外旅行者の健康問題を扱う
医療機関であるトラベルクリニックは、地方ではまだ少ないんですが、渡航医学会のトラベルクリニックサポート事業などのかいもあって、徐々にではありますけれども増加しております。
三、企業派遣による海外赴任者のトラベルクリニック受診は増加しており、
感染症予防の意識は高くなってきているとは思います。しかし、短期の海外渡航者のトラベルクリニック受診はまだ少ない。自分でお金を払って来なくてはいけない人はまだ少ない。しかし、実際に帰国後
感染症で受診する人の多くは短期の観光目的の旅行者でありますから、こういったところに啓発をする、あるいはこういった方がトラベルクリニックに受診しやすくするような方策が必要であると考えます。
四、海外旅行者が旅行前に受診できるトラベルクリニックは増えてきていますけれども、帰国後の
感染症に
対応できる
医療機関は少ない。その主な理由は、
先ほど述べましたように、輸入
感染症に関わる
検査の多くに保険点数が付いていないことや
専門家が少ないということが原因であります。
五、輸入
感染症に
対応する
医療機関への予算措置や
専門家を育成するための海外
研修制度を確立していく必要があると考えられます。
先日、今度、東京オリンピックをにらんで外国人診療ができる拠点病院を全国に増やしていくというようなことが示されておりますけれども、必ずしも
感染症に
対応できるところとリンクしているかどうかは定かではありません。地方でも、いろんなところからいろんな国際空港を通じて海外にどんどん出ていっているのが現状ですので、都市部ではなく地方でもこのようないろんな輸入
感染症に
対応できる
医療機関が、可能であれば拠点病院のような形でもいいのかもしれませんけれども、いずれにせよ、そういった病院がどんどん増えていくような方策を望みたいと思います。
以上でございます。