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引原政府参考人 お答え申し上げます。
まず、
CSCの趣旨というものを申し上げた上で、メリット、デメリットについて御
説明を申し上げたいと存じます。
CSCといいますのは、きょう何度も出ておりますように、
原子力損害についての国際的なルールを定める、それとともに、最低
賠償措置額の設定、無差別原則等、
締約国に一定水準の共通の
原子力損害賠償制度の
構築を求める、それがこの
条約の趣旨でございます。
まず、メリットでございますけれども、
CSCの
締結のメリットとして、まず、
事故の際の
被害者への
賠償の充実というのが挙げられます。具体的に申し上げれば、
原子力事故の
被害者は、例えば外国で生じた
原子力事故によって国境を越えた
原子力損害を受けたような場合でも、迅速かつ公平な
賠償を受けることができる、そういうルールが適用されるようになります。
そしてまた、
原子力事故の
被害者は、
事業者の過失を立証する必要がなく、あるいは、
事業者以外の者が
事故の
責任を負うか否か、そういうことを問うことなく、
事業者に
賠償を求める、
賠償責任の
集中ということでございますけれども、そういうことができます。
また、公平取り扱い義務により、同じ基準に基づき内外無差別に
賠償を受けることが確保される、こういったようなメリットがございます。
こういうことで、
CSCの
締結を通じて、
原子力損害に関する国際的な
賠償制度の
構築というものへ
貢献がなされるということになります。
他方、今
委員御
指摘ありましたように、
CSCの
締結に当たって考慮しなければならない要素というのは幾つかございます。例えば、今申し上げました、
CSCが定める
裁判管轄権の
集中ということを
考えますれば、外国で
原子力事故が発生する、これによって
我が国に
越境損害が生じたような場合のことを
考えますと、
CSCの
締結によって、
我が国の
被害者は
我が国の裁判所で訴えを提起できなくなる、そういうことについての御
指摘をいただくということもございます。
この点でございますけれども、まずちょっと申し上げたいことは、
CSCの
締結によって、どの
締約国であるにしろ、
裁判管轄権を
集中させた上で、無過失
責任の原則の
もとで、内外公平の
賠償を確保する、そういう仕組みが設けられる、そういう共通のルールがつくられるという、これは、それ自身、
被害者救済の観点から有
意義であるということは申し上げられると思います。
それで、
裁判管轄権の
集中ということでございますけれども、
CSCにおいては、こういうルールの整備、国際水準に適合した
賠償制度の整備ということもございますし、それから、一定額の
賠償水準の義務づけというのもございますけれども、それとあわせて、
条約に基づいて
裁判管轄権を特定する、そこの裁判所が下した判決に基づいて、
事業者に対してその執行を確保するということになっております。
それで、
CSCが未
締結の
状況であれば、先ほど申し上げましたような御
指摘、つまり、
我が国に
越境損害が発生したような場合に、
日本の裁判所で訴えを提起できる、そういう可能性は確かにございます。そういう訴訟を提起することは可能でございます。
ただ、その際に
考えなくてはいけないことは、これはあくまでも外国で起きた
原子力事故でございますから、
我が国の
原子力損害賠償法が適用されるということにはなりません。したがって、
日本で裁判が行われるということになりますと、民法に基づいて不法行為
責任を追及する、そういうことになるわけでございます。これは、一般的な民法に基づく不法行為
責任ということでございますので、例えば、
原子力損害賠償法にあるような無過失
責任というのは、当然のことながら適用されません。したがって、
被害者は、当該外国
原子力事業者の過失を主張し、立証しなければならないということがございます。
他方、
原子力というのは、もう御
承知のように、高度に科学的、専門的な分野でございますし、特に外国で起きた
事故ということであれば、証拠は外国の
事業者側に偏在をしているということでございますから、原告が
事業者の過失を特定してそれを立証するというのは、往々にして極めて困難でございますし、訴訟の長期化や敗訴のリスクということもあるわけでございます。
それからさらに、仮に勝訴判決を
日本の裁判所で得たということでございましても、当該判決に基づいて、この場合、被告、
事故を起こした当事者は外国におるわけでございますが、その外国にある被告、
事業者に対して、当然に執行ができるというわけでも必ずしもないわけでございます。
そういうことを勘案いたしますと、この
裁判管轄権の
集中というのは、
締約国全てに一定のルールに基づいた
賠償の水準を保障する、そういう共通のルールを創設するということを勘案すれば、やはり
被害者の保護に資する、そういうことではないかなというふうに
考える次第でございます。