○
参考人(
加治佐哲也君) それでは、どうも失礼いたします。
私は、
教育行政の
研究者として、また現在は国立大学の学長職にあります。国立の
教育大学ですので、
日本全体の学校や
教育行政の改善に貢献すると、そういう
立場からも申し上げてみたいと思います。
レジュメを用意しておりますので、それに即してお話ししていきたいと思います。ページは打っておりませんが、この順番でお話ししていきますので、どうぞ御参照いただきたいと思います。
大きなタイトルとしましては、今回の
教育委員会改革と、特に
教育長の、今もお話がありましたけれども、力量向上に焦点を当ててお話しいたします。
具体的には、次のページを開けてください、
二つのテーマを設定いたしました。
一つは、
教育委員会制度の基本理念であるレーマンコントロールですね、これと新しい
教育委員会制度がどういう関わりを持っているのかということです。それから
二つ目が、これまでもそうでしたけれども、特により重要になります
教育長の力量向上を図るためにはどうしたらいいかと、このことについて少し踏み込んで
発言したいと思います。
教育長の力量向上については、昨年十二月の
中教審の答申でも、自己研さんに励むような学び続ける
教育長像と、そういうところが提唱されたところでもあります。
その
二つのテーマに入る前に、次のページを御覧いただきたいと思いますが、簡単にちょっと原点に返って、
教育委員会制度の理念を振り返ってみたいと思います。もう御承知のことだと思いますが、私は四つほどにまとめております。
一つは、今回テーマといたしますレーマンコントロールですね。これは
合議制教育委員会が具現化しなきゃいけない。要するに、民意を代表する、民意を吸収して
教育委員会の
意思決定に反映させるという
役割であります。
それから、
教育行政の特質は、二番目ですけれども、学校
教育に対して
専門的な指導が特徴であります。学校の教員も当然学校
教育をつかさどりますから
専門職ですけれども、それを指導する
教育長や指導主事はもっと
専門職であると、そういう位置付けが基本的に要るんだということです。これも理念になっているということですね。
それから、
地方分権です。
地方の公
教育は、全ての
自治体に
教育委員会を設置して、そこが専ら担当するということになっているところにこの分権化が表れているということです。
それから、
教育行政の一般
行政からの独立は、
日本では
行政委員会として、
首長部局から一定の独立を持つ機関として
教育行政を行っていると。つまり、
教育委員会が
行政委員会として行っているというところに表れているということであります。
私は、この理念のうち一番と二番について
検討してみたいということであります。
それでは、まず一番目のレーマンコントロールと新しい
教育委員会制度ということですが、
合議制教育委員会の
運営の実態、つまりこの
合議制教育委員会によってレーマンコントロールが
機能しているのかどうかということですね。これはこれまでも物すごく
議論されてきたところですけれども、その下に書いてある私の、少し古い本ではありますけれども、私これしっかり研究しまして、はっきり申し上げます。概して
機能しておりません。捉え方はいろいろあると思いますけれども、
機能しておりません。
ただし、少数ではありますが、それなりに活気を持って
教育長等に
影響力を持っている
教育委員会がないわけではありません。
機能しているところもあります。そういうところの
教育委員というのはどういう特性があるかというと、年齢とか女性が多いとか、そういうことではなくて、要するに内面的、本質的特性だと。簡単なことです。つまり、
教育委員になりたいと思ってなった人です。それから、なって何をするか、教科書問題に取り組みたいとか、コミュニティ・スクールに取り組みたいとか、統廃合の問題を
検討してみたいとか、そういう具体的な目的を持ってなった人がいる
教育委員会は当然ながら活気があるということであります。これもある意味当然のことかもしれません。だけれども、はっきり言って、概して
機能していないということですね。
次のところを見ていただきたいんですが、なぜ
機能しないのかということですね。
これは、実はここが非常に大事なところなんですが、はっきり結論を申し上げます、
機能しないと思います。なぜかといいますと、
一つの理由は、昔と違って、
教育行政、学校
教育というのは極めて高度化、複雑化、
専門化しているわけです。いじめ問題、不登校の問題、解決、簡単ではありません。
教科書採択するのに難しい教科書を読み込まなければいけない、何種類もある。ICT
教育も導入される等々、さらにはまた、小学校に外国語活動もある。つまり、先生として優れた人はどういう人か、例えばそういうこと
一つ取っても、全て高度化、複雑化していて、これをいわゆる非常勤で情報量の少ない
教育委員が正確に把握して、一定の判断をして、
教育長等に一定の示唆を与えていくということは極めて至難であるということですね。これはある意味やむを得ないという面があると思います。だから、相当優れた人々を集めれば別ですけれども、そうでない限り難しいということですね。
それから次は、これは少し皮肉的な言い方になると思うんですが、
教育行政に
政治的中立性はこれは絶対的に大事です。これはもう言うまでもありません。ただし、
現行法規にもありますように、
教育委員の政治的活動はある程度制限されているわけですね。ですから、おのずと地域の名士ではあるけれども政治的力があるというふうな方は選ばれておりません。
教育問題について
住民の方々の
意見を聞いて、それを
教育委員会とかに持っていって意思表明ができるような方というのは、言わば政治的力量の高い方なわけですね。これが皮肉なことに
政治的中立性と相入れない。この問題があるものですから、どうしても活気が出てこないということになります。これはある意味もう仕方がないのかなという感じです。ですから、
合議制教育委員会はもう現代社会では難しいというふうに思っております。
ところが、その次にありますように、じゃ、それに国や
自治体が手をこまねいてきたかというと、そんなことはなくて、国の方も
中教審答申等で様々な活性化策を、そこにずらっと書いてありますけれども、出しているわけですね。
自治体によっては非常に努力しているところもあるわけです。毎週のように
教育委員会を開いて活気を出そうというところもあります。ありますけれども、それはあくまで少数派であって、極めて限界があるんだということであります。
そこで、次の紙になりますが、レーマンコントロールと新
教育委員会制度ということです。じゃ、この新しい
教育委員会制度の下でレーマンコントロールをどう考えるべきなのかということですね。
合議制教育委員会によってレーマンコントロールが実現できない以上、やっぱりその代替措置が要るということですね。さんざん
議論されておりますように、
首長は明らかに民意の代表者であります。これがより
関与できるようになったということは、その点ではプラスであるということですね。同時に、全ての
教育委員が、何といいますか、民意を反映できないということではなくて、一部にはやはり意欲的で就任目的が明確な方もおられますので、そういう方による民意がやっぱり
地方教育行政へ反映される可能性はあるということですね。さらには、民意代表者である
首長と
教育行政の
専門職である
教育長との協働による効率的で
住民に対する
責任の明確な
地方教育行政も期待されるというところであります。
それでは、続いて、時間の
関係上、その次のテーマですね、もう
一つの、
教育長の力量向上と育成の方です。
実は、
制度を変えるときには、今回の場合もそうですけれども、誰が決めるのか、つまり
首長なのか、
教育長なのか、
教育委員会なのか、これが争点になるわけですね、
政治的中立性と絡んで。そのこと自体も大事ですけれども、もっと大事なのは、その決めたことがどういう結果や成果をもたらすのかということです。つまり、
教育行政の場合でいいますと、
教育委員会で決められたことが、あるいは
首長と一緒になって
総合教育会議で決められたことが現場に下りていって、先生方の資質をどう高めたのか、
子供たちの学力をどう上げたのか、そこにまで踏み込まないといけないということであります。つまり、アウトカムといいますか、成果が大事なんだということですね。それが検証されていかなきゃいけないんですが。
ただ、その成果を上げるのに、今回の
改革でやはりポイントを握っているのは、先ほどの御指摘もありましたように
教育長や
事務局であるわけです。具体的に
教育行政を遂行する
教育長や
事務局であるということになります。今回、
教育長は
教育委員長も兼ねるということになりますので、ますますその重要性が高いということになります。
教育長に絞ってちょっとその育成の
在り方についてお話ししてみたいと思います。
次のページに
教育長の
役割、職務ということで二枚ほど、十ページと十一ページ、⑩、⑪ということで、六つほど掲げてあります。私がいろいろ法令や実態を見ても、これぐらい広いということですね。極めて広範多様でかつ高度な職務を遂行する職であるということです。これは明らかに高度
専門職です。
次の二のところを見ていただきたいんですが、そういう職務を遂行する
教育長に必要な能力、力量を私は四点ほどにまとめてみました。
一つは、
教育長として学校
教育、社会
教育の改善能力、こういうものが求められるということですね。学校や社会
教育機関に対して指導能力がないといけない。もちろん、これは学校の主体性や自律性を生かすということが基本になります。それから、当然、自分が統括する
事務局への指導能力も要ります。それから、学校の校長などの管理職とか教職員、
教育委員会事務局職員の職能向上を図る能力、こういうことも要ります。
二番目の能力としては、これが大事だと思います、ますます大事になると思います。要するに、ビジョン創造能力、政策やビジョンを作る能力があるかどうかということですね。
地方教育行政機関として
教育委員会の政策や予算、将来構想、ビジョン、これを作り出す力、あるいは
評価して改善する力ですね。同時に、それが
機能するためにはコミュニケーション能力が必要です。共有化しないといけません。
さらには、三番目には、これが昨今問題になったわけですけれども、合理的
組織運営能力となっていますけれども、
教育委員会を安全に効率的に
運営する能力とか、学校、社会
教育機関を安全に効率的に管理する能力、具体的には教職員人事とか学校予算、そういうことになります。さらには危機管理能力ですね。やっぱり
教育法規や財務その他等々の知識に、あるいはその応用能力に通じていないとこれはできません。
さらに四番目が、これが特に今回の
改革で必要になると思っていますが、様々なステークホルダーとの
関係構築能力、これは言わば政治的能力だと言っていいと思います。
首長と協働して、議員、
関係団体、地域
住民、保護者などと交流し、政策や事業への支持、
支援や信頼を獲得する能力ということであります。
このように、非常に幅の広い高度な能力が求められるのが
教育長職です。繰り返しになりますが、明らかにこれは高度
専門職だということですね。今回の改正法では、以前になかった
教育長の資格要件ができました。これは、要するに
教育行政に対して識見があることと、こういう表現になったわけですね。抽象的ではありますけれども、一歩前進であるというふうには思っております。
そういう
教育行政について高い識見を持った方をこれからつくっていかなきゃいけないんですが、それにはどうしたらいいかということですね。戦後すぐは
日本にも
教育長の資格要件とか免許状というのがあったんですね、アメリカの
制度に倣って。これを復活するということもあると思います。そうしかし、簡単にはいきません。それから、
教育委員会によっては選考
方法を
工夫しているところもあります。推薦制、公募制ですね。
特に私がこれから簡単に申し上げたいのは、現職の
教育長の研修を充実させる、特に新人
教育長ですね。それから、
大学院においてこれからの
教育長候補者を
計画的に養成すべきじゃないかということであります。
その下
二つにつきまして、次のページから兵庫
教育大学の取組ということになります。
国立の教員養成大学としてこういうことに取り組むことは
一つのミッションだろうというふうに考えて今やっているところです。ずっと、時間がありますのでざっと見ていただくだけになると思いますが、
教育長能力開発研究、文科省から委託研究を受けましてやっているところです。
ちょっと注目していただきたいのは、その
教育長能力開発研究というスライドの右側のところに縦軸、横軸書いたものがあると思います。つまり、維持、変革、横棒ですね。それから、縦のグリーンが統率、
調整ですね。全国の
教育長や
首長さんにアンケートを取ってこれ分析してみると、こういう結果が出るということですね。つまり簡単に言うと、
日本の
教育長の過半数は維持型です。変革型は少ないんですね。だから、変革型にまずは変えないと
教育行政は変わらないということになります。
それで次に、学びの流れとありますが、こういうことで、Cプログラム、Bプログラム、Aプログラムですね。Cプログラムというのは大体全員の方に受けていただく、さらに、その中から
教育長候補者になる方にB、Aを受けていただくということになります。
次の紙になりますが、Cプログラムではこういった内容のものをやるということです。さらに、Bプログラムではこういう知識や理論をこういう多様な科目についてやるということです。Aプログラムは実際に実習をやっていただく、インターンシップをやっていただくと、そういうことになります。
そして、
最後の紙になりますが、実施のシステムとしては、兵教、兵庫
教育大学を拠点にして、Cプログラムは様々な大学と、あるいはセンターと協力しながらやっていきたいということです。Bプログラムにつきましては、兵庫
教育大学の神戸のキャンパスを拠点にライブ講義や、ビデオのオンデマンドの講義等でいながらにしてやるようなこともやっていきたいということです。
こういう
計画的な育成への議員の方々の御理解、御
支援をお願いいたしまして、私の報告といたしたいと思います。