○小池晃君 私は、
日本共産党を代表して、
医療・
介護の総合的
確保を推進する法案についての反対の立場から討論を行います。
反対の理由の第一は、
介護保険利用料二割
負担の根拠が完全に崩壊したにもかかわらず、
政府がこれを撤回しようとしないことです。
政府は、
年金収入二百八十万円の世帯では平均的な消費支出をしても年間六十万円が余るので、
介護利用料の二割
負担は可能だということを唯一の論拠にしていました。しかし、参議院での
質疑でその説明は完全に崩壊し、六十万円余るという説明は撤回され、
大臣は反省していると述べました。昨年の
介護保険部会でこの説明に疑問を投げかけていた
委員は、参考人
質疑で、驚きと怒りを覚える、
介護保険部会に差し戻すべきだと述べられました。
このような法案をこのまま採決にかけるなど、国会の自殺行為と言うべきであり、法案は断固として撤回すべきです。施設の食費、居住費に対する補足給付の大幅縮小も、高齢者の
生活に深刻な打撃となるもので、認められません。
第二に、要
支援者への訪問・通所
介護を保険給付から外し、
市町村の
地域支援事業に置き換えることが受給権の剥奪にほかならないからです。
これもまた参議院での
審議の中で、
地域支援事業に移行した場合の専門的
サービスは、多くとも現状維持であり、二〇二五年度には五割程度になるという試算が示されました。これでは新たに要
支援とされた人にはボランティアなどの
サービスしか
提供されなくなるおそれがあります。
また、要
支援者の数を減らしていく方針も示されました。
介護予防の
充実で
状態が改善して非該当と認定されるならば大いに歓迎すべきことですが、実際にモデル事業が行われている
地域では、
地域ケア
会議で
介護保険からの卒業と称して
サービスの打切りを強制する例が多数報告されています。これは卒業とは程遠い強制退学にほかなりません。
また、
基本チェックリストによって要
介護認定を受けさせない手法も広がっています。これは
医療保険に例えるなら、
病院に来た人に受付で問診票を書かせ、この程度の症状なら医師に見せるまでもない、薬局で薬を買いなさいと追い返すようなものであります。
今の
制度ならば要
介護認定を受け要
支援と判定されるはずの人が認定抜きで
サービスを割り振られていき、その人はもはや要
支援者とも扱われない。このやり方が広がれば、確かに
厚労省が示した文書のように要
支援者に至らない者が増加し、要
支援者の数の伸びが低下していくこととなります。しかし、これでは保険
制度の根幹が壊されてしまいます。
政府は
地域支援事業になっても適切な
サービスが維持されると言いますが、今回の
制度改変により、毎年五・六%の要
支援者への給付費の伸びを三・七%に抑制することになります。その結果、二〇三五年で二千六百億円の給付費抑制になってしまいます。大規模な給付費削減が
サービス単価や人件費の切下げ、
利用者の
負担増につながり、
介護サービスを量、質共に低下させることは明らかです。
しかも、要
介護認定には大きな
地域格差が存在します。とりわけ要
支援二と要
介護一の判定は認定審査会によって左右される極めて微妙な境界であるだけに、これが保険給付の対象になるかどうかの境界になってしまうことは、
介護保険
制度に対する信頼性を根底から崩すものだと
指摘せざるを得ません。
第三に、特養老人ホームへの入所を原則として要
介護三以上に限定することに何の道理もないからです。
五十二万人の特養待機者のうち十七万八千人は要
介護一、二です。現在でもこうした方々は入所待ちの行列に並んでも後回しにされていますが、今後は行列に並ぶことすら許されなくなってしまいます。本法案では、要
介護一、二の方の特養入所の権利を奪いながら、それに代わる施設
計画は一切示されていません。
大臣も、特養待機者の増大の背景に低所得高齢者の増加があることを認めながら、低所得者には利用できない有料老人ホームや
サービス付き高齢者住宅の建設を民間に依存するだけで、特養建設のための抜本的対策は示していません。
このままでは、都市部を
中心に
介護難民化、老人漂流社会は一層深刻にならざるを得ません。特養ホームの抜本的増設に背を向ける一方で、要
介護一、二の人を待機者にカウントしないことで待機者の数を減らす、
余りにもこそくなやり方だと言わねばなりません。
法案には、住所地特例を
サービス付き高齢者住宅に拡大することも盛り込まれています。
地域包括ケアの名で住み慣れた
地域で最後まで暮らすという理念を掲げながら、他方で、住所地特例を拡大し、要
介護高齢者の遠隔地への移住を促進することは支離滅裂な
政策と言うほかありません。
介護福祉士の専門性の向上のための資格一元化は、法制定後五年の準備期間があったにもかかわらず、実施を三年先送りしていたものを本法案で更に一年先送りすることについて、参考人
質疑でも中央公聴会でも関係団体から厳しい批判がありました。
以上のように、本法案は、
介護保険の根拠なき
負担増を押し付け、給付範囲を大幅に狭めるなど、あらゆる面で
制度の根幹を揺るがす歴史的な大改悪であると断じざるを得ません。
反対理由の第四は、上からの強権的な
医療計画の押し付けで
国民の
医療を受ける権利が侵害されるからです。
医療法の改定により、
都道府県主導で病床の再編、削減を推進する
仕組みには与党
議員からも懸念の声が出されました。
厚労省は、
都道府県の病床
計画に
病院が従わない場合、
医療機関名の公表、各種補助金や融資対象からの除外などの制裁措置をとるとしていますが、中央公聴会で公述人から、
医療機関同士の信頼関係を壊すものという
指摘もありました。
日本の
国民皆保険
制度を支えてきたのは、自由開業
制度とフリーアクセスの原則の下での質の高い開業医と民間
医療機関の献身的な努力でした。上からの強権的なベッド規制は、世界に冠たる
国民皆保険
制度の根幹を揺るがす危険をはらむものであり、到底容認できるものではありません。
医療事故
調査のための第三者機関についても様々な懸念が示されました。
医療事故再発防止のための公正中立な第三者組織の設立は我々も求めてきましたが、遺族側からの発議が生かされないこと、
医療者側への責任追及につながる懸念、第三者機関に対する
公費負担が条文上明記されていないという問題点も解決していません。
看護師による特定行為の実施についても、
医療現場に
混乱をもたらすおそれがあります。今、看護
現場で何より必要なのは安全で行き届いた看護の実現のための看護師の
確保であり、それなしに医行為を拡大することは更なる労働強化をもたらし、
患者に寄り添う本来の看護を困難に導く懸念が拭えません。
何よりも、これら一つ一つが
医療制度や
国民の生命、健康にとって重大な
制度改変であり、本来なら別々の法案として十分な時間を掛けて慎重に
審議すべきものでありました。改めて、十九本もの法案を一括して提出したことは国会の
審議権を奪うものだと言わざるを得ませんし、個々の問題についての
審議は全く不十分だと言わざるを得ません。このままでは
国民に対する立法府としての責任を果たすことができず、
質疑終局、採決など言語道断です。
以上、あらゆる点から本法案には大きな問題があり、採決に付すこと自体に強く抗議をし、反対討論を終わります。