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参考人(後信君)
日本医療機能評価機構の後でございます。
本日は、私ども
医療機能評価機構で運営しております特に二つの事業について御説明をさせていただく機会を頂戴いたしまして、誠にありがとうございます。
私は、本日、パワー
ポイントのスライドのコピーをお手元に御用意しておりますのと、それから、
医療事故の収集事業の成果でございます年報や報告書、それから
医療安全情報集、パンフレットをお手元に、少し厚うございますが、御用意しておりますので、それを適宜参照しながら御説明させていただきます。
それでは、スライドの一ページ目、下の段を
お願いいたします。これはスライドの番号の二になります。スライド番号は右下に書かれております。
まず、
医療事故に占める死亡事例の割合でございますけれども、
医療事故収集事業のデータでは七%ぐらいにこのスライドではなっておりますが、このように
医療事故全体の一部を占めていると、そういう割合になります。
そして、次のスライド三を
お願いいたします。死亡した事例、あるいは大半の死亡していない事例、これらの事例の中で、特に死亡した事例が重要か、そうでない事例は重要でないかというと、決してそんなことはございません。死亡していない事例、これが九割を占めるわけですが、例えば、別の
患者さんの生検の検体でがんと診断して、別の方に肺切除術を施行したというような事例もございます。このような死亡していない事例であっても、これは二度と起きてはいけないと、これは再発防止を図らなければいけないという事例はたくさんあるという状況でございます。
これらの事例につきまして、スライド四でございますが、私ども
医療機能評価機構では、
医療事故全般を対象とする
医療事故の収集事業、それから重度脳性麻痺を対象とする産科
医療補償制度の原因分析、こういう二つの方法を運営しております。上の
医療事故収集事業でございますが、これは二〇〇四年に開始した事業でございます。そして、特徴的なのは、
医療事故を毎年三千件、それからヒヤリ・ハット事例を三万件、このような多数の事例を報告いただきましてそれらを分析しているという方法でございます。
それから、下の段の産科
医療補償制度は、無過失補償という性質もございますが、特に今日は、原因分析という
意味では、重度脳性麻痺という限られた事例でありますけれども、そこを詳細に分析していくと、こういう方法を取っております。こちらは
年間、現在のところ百三十件の報告書を作ることができます。
この方法論の違いについて少し詳しく申し上げたいと思います。スライド五を
お願いいたします。
スライド五でありますが、
医療事故の収集事業は、あらゆる診療領域の様々な
程度、これは死亡、死亡していない事例両方を含みます。これらを網羅的に分析するという方法論でございまして、
我が国で発生する様々な診療領域の
医療事故、ヒヤリ・ハットを対象として、重大な事象、死亡などが発生する前に予防することができると。例えば死亡事例が発生することを契機とせずに死亡しなかった事例、あるいはヒヤリ・ハット事例であっても、実行していたら死亡したかもしれないという事例に学んで将来起こり得る死亡事例を防いでいくと、そういうことができる方法論です。
それから、スライド六に参ります。次の方法は、産科
医療補償制度でありますが、重度脳性麻痺という限られた事例でありますが、詳細に原因分析を行っております。これは特定の限られた事例について、
患者、御
家族の真実を知りたいというお声に応えることができますし、また再発防止につなげることもできると、このような方法論でございます。
我が国では、方法の一と二と書きましたけれども、このような二つの方法が育ってきているというふうに御理解いただければよいのではないかと思います。例えば、右手に方法の一があり、左手に方法の二があり、目の前で起こってくる事象に対してどのような方針で対処するかによって得意な側の手を出していくと。このように処理していく、対応していくということが望ましいのではないかと
考えます。
そして、次、スライド七でございますが、予定されております
医療事故
調査制度は、どちらかというと産科
医療補償制度に似ているのではないかと
考えられます。死亡事例という限られた事例、
医療事故全体の一部ではございますが、その詳細な原因分析を行っていくという
意味で、限られた件数の特定の事例、死亡事例について、
患者、
家族の真実を知りたいという声に応え、また再発防止にもつなげることができると、こういう方法論であろうと思います。このような意義がございますので、是非この制度の創設を進めていただきたいと、そのように
考えております。
スライド八は
医療事故の収集事業の経験というタイトルでございまして、スライド九に参ります。
医療事故の収集事業の全体像を申し上げます。
まず、この事業は、
厚生労働省補助事業として二〇〇四年から運営されておりまして、長きにわたり
厚生労働省に補助事業として維持していただいておりまして、そのおかげをもちましてお手元の成果が生み出されております。九のスライドは左から右に流れます。
医療機関から
医療事故やヒヤリ・ハット事例を多数収集いたします。その収集の方法はウエブ報告、コンピューター上の報告になっております。報告するとそのままコンピューターのデータベースの中に入りまして、そのデータを使って報告書や年報、それから
医療安全情報などを作成しております。この具体的な内容は後ほど申し上げます。そして、それらの成果を
医療界に還元していく、あるいは、透明度高くホームページにも公表いたしまして、どなたでも見ることができるような形で公表しております。
スライド十でありますが、この事業の報告の範囲でありますけれども、これは
厚生労働省令に規定されております事業でありますので省令の中に範囲が書いてありますが、片仮名のイロハとございまして、イは誤った
医療が提供されたようなイメージです。それから、ロは、必ずしも誤った
医療が提供されていない、しかし
医療に起因して、あるいは起因すると疑われて結果が悪かった事例です。それから、ハは
医療事故の防止に資する事例です。このイロハのどれに該当するということは問うておりませんので、例えばイの誤った
医療に該当するということを
医療機関は決断して報告する必要はございません。
このようなイロハのいずれであるか問うていないということで、報告しやすい環境が
整備されているということが言えます。また、報告したからといって、その報告の内容は一定の
調査は必要でありますけれども、そのやり方は事細かく規定されてはおりませんので、
医療機関に委ねられておりますので、様々、多数ある事例をどのように
調査してこの事業で報告するかという点が
医療機関が判断できますので、その点でも
負担感の少ない報告の仕組みになって、そのおかげで事例が多数集まっていると
考えております。
そして、スライドの十一ですが、スライドの十一が
医療事故の報告件数でございますが、毎年増加しているという状況でございます。
そしてスライドの十二が、これはホームページ上で公表しているデータベースの事例でありますけれども、具体的にはスライドの十二にあるような内容が報告されます。特にスライド十二の下半分の赤く囲んだ
部分ですが、事例の内容は、何が起こったかということが報告されますが、それ以外に、背景、要因、つまりなぜ起こったかということと、それから改善策、どう防ぐかということも
医療機関に一定の分析をしていただいて、このような形で報告されているということでございます。
それから、スライド十三でありますが、先ほどのスライドに似ておりますけれども、この事業の特徴的なところは、報告がウエブ上の報告になっておりまして、つまりコンピューター上の報告で、報告した瞬間に、つまり送信ボタンを押した瞬間にデータベースに入るということになりまして、それを私ども基本的には三名の看護師がその数万の事例を扱いまして、選択項目を集計したり、それから類似事例を検索して探し出してテーマ分析を行っております。
そして、十四番のスライドですけれども、これは二十五年度に分析しましたテーマです。技術的、医学的ですので内容は割愛させていただきますが、お手元の報告書とそれから年報、厚い白い冊子がございますが、これらのページのちょうど中ほどでしょうか、最も多くのページを割いているのがこの分析テーマになります。事業開始後九年になりますけれども、これまでに累計百五十のテーマを取り上げております。
それから、スライドに戻っていただきまして、十五番でございますけれども、十五番は、これは私どもが次回報告書に取り上げようと検討しておる内容なんですけれども、十五の内容は、これは類似の事業を行っていらっしゃいます
日本医療安全
調査機構がお出しになっている警鐘事例でございます。
具体的な内容は、気管切開術後の一週間のリスク管理、つまり喉のところの気管を切開してそこにチューブを入れて呼吸を管理すると、そういう方法を行っている間に起こる危険な事例、死亡事例でございます。私も研修医の頃はこういう取扱いの中では死亡事例があるということを厳しく教えられましたし、現在も気管切開チューブの入替えをするときは
かなり注意して行っております。この事例はモデル事業の事例ですので、当然ながら死亡事例ということになります。
次に、スライド十六を
お願いいたします。この事例の類似事例を私どもの
医療事故の収集事業のデータベースで見てみますと、十八事例、類似事例がございます。死亡事例もございますけれども、それ以外に死亡していない事例もございます。
このように、死亡していない事例から死亡事例まで事象というのは様々あるものでして、死亡した事例とそうでない事例とに全くきれいに分かれるというものではございません。また、死亡を契機として
医療安全対策を図っていくという、これも現実としてあると思いますけれども、死亡を契機とせずに、その前に死亡しなかった事例に学ぶということも非常に重要であると
考えております。
それから、スライド十七ですが、十七は
医療安全情報と申しまして、毎月一回、それらの分析した内容を
医療機関に配信しているものでございます。
スライド十八にありますように、現在、全国の病院を中心に五千三百余りの施設にファクスで情報発信しております。全国の病院の六割、二つに
一つはこの情報を受け取っていらっしゃるということになります。また、ホームページにも掲載しております。
スライドの十九は、この事業で報告されました
医療事故やヒヤリ・ハットをデータベース化しましてホームページで検索できるようにしておりまして、現在では多数の事例を御覧いただくことができます。
スライド二十ですが、このデータベースを活用して、例えば薬の名前が似ているもののブランド名が終了したり、あるいは似ているものの注意喚起が盛んに行われるようになってきておりまして、
医療を取り巻く様々な業界の活動にもつながっております。
それから、スライド二十一でありますが、この有害事象の報告
システムはよく知られましたWHOの報告書におきましても紹介されております。
それから、スライド二十二ですけれども、
医療安全情報は英語版を作成しておりますが、海外でもいわゆるアプリが開発されておりまして、外国でも使用されているという状況でございます。
それから、スライド二十三は、この事業にはそのように海外からの関心も高まっておりまして、今年の九月にはアイルランドから講演依頼がございまして、この制度のお話をさせていただくということにしております。
続きまして、スライド二十四、二十五に参りますが、産科
医療補償制度の経験に参ります。スライド二十五にございますように、特に赤く大きく太く囲んでおりますように、産科
医療補償制度は詳しい原因分析を行って再発防止に結び付けております。
スライド二十六でありますが、原因分析を行うときには、たくさんの情報を使って、それから部会、本
委員会という二層構造の
委員会を設けて、それから助産師や法規に通じた事務系職員の支援をしっかり行いながら、報告書ごとにばらつきがないものを作ることに腐心しております。
スライド二十七ですが、これは報告書の一部を取り出してきたものですけれども、言葉遣いとして、一般的である、一般的でないという言葉にちょっと色を付けておりますが、これはスライド二十八にありますように、医学的評価、特に重要な
部分で使う言葉遣いは段階を既に作ってマニュアルに定めておりまして、また原則としてその中から選ぶというようなことをしております。これは、報告書を横に並べたときに相互比較可能なものになっている必要がある、それからばらつきをなくす必要がある、こういった目的で行っておりまして、このようなことが、予定されております
医療事故
調査制度などでも求められるものと
考えます。
そして、スライド二十九は、二〇一三年が一
年間の最新の
数字ですが、現在百三十件ほど作成することができるようになっておりますが、ここに掛かる労力も相当なものになってきておりまして、分析される
先生方も非常に苦労していらっしゃると、こういう状況です。ですから、これが余りに多くの件数になりますと、なかなか同じ方法論ではやっていけないというようなことが実感です。
スライド三十ですけれども、このような詳しい原因分析報告書がかえって紛争を増やすのではないかというような御懸念が制度発足当時ございましたけれども、現在のところ、損害賠償件数の増加などは観察されておりません。
また、スライド三十一ですが、訴訟の件数を見ましても、
医療分野全体は青い棒グラフも緩やかに減っておりますが、産婦人科の件数はもっと早く、急速に減っているということが観察されております。
スライド三十二ですが、原因分析が行われたことは良かったですかというアンケートを取っておりますが、分娩機関、保護者共に良かったとお答えになった方が多く、また、保護者は余り良くなかったというお答えも多かったわけですが、これは医学、助産学の限界で、どうしても原因が突き止められなかったということに対する御意見でありました。
スライド三十三は、このような事例を集積しまして、再発防止のために有用な情報を報告書にまとめております。
また、スライド三十四のように、この事業で集まってきた非常に重要なデータを集めて産科の
先生方の日常の診療に役立つ教材も作成することができております。
そして最後に、スライド三十四以降でありますが、
医療事故
調査制度の創設のことについて少し意見を申し述べたいと思います。
スライド三十六ですが、この制度に
関係する事業として、今日申しました二つの事業、それから
日本医療安全
調査機構のモデル事業があると
考えます。
スライドの三十七は、これは
厚生労働省の資料でございますけれども、これからガイドラインを作成することになっておりまして、
医療事故の収集事業の知見も踏まえつつ検討するとなっております。
それから、スライド三十八でありますが、これも厚労省の試算ですけれども、死亡事例の
年間発生件数は千三百から二千と、非常に多くの件数になっております。先ほど申しましたように、このような多数の件数が全国で同じような入念さで分析できるのかどうなのかというところはまだこれからよく
考えてみる必要があろうかと思っております。
それから、少し話はそれますが、この千三百から二千のデータは
医療事故の収集事業の結果に基づいて推計されたデータです。このように、一部ではなく全体を見る事業が並行して動いていることによって、仮に
医療事故
調査制度を今後改善していく、改良していく、拡大していくときに必要な基礎データを常に提供する、全体を見る仕組みが一緒に行われている必要があろうかと思います。
スライド三十九でありますが、これは今後起こり得ることを想像して書いておりますけれども、スライド三十九の中で、
医療機関や助産所の中では①から④のような事象が起こり得ると
考えますが、③が死亡以外の事例です。これは引き続き
医療事故収集事業に通常の分析が行われて報告されると
考えますが、①が
医療に起因する疑い含みの予期しない死亡事例です。これが千三百から二千と想定されるわけですが、これが詳しく分析されるのか……