○長島昭久君 民主党の長島昭久です。
ただいま
議題となりました
国家安全保障戦略、
防衛計画の
大綱並びに
中期防衛力整備計画につきまして、
安倍総理大臣初め担当大臣に
質問いたします。(
拍手)
我が国を取り巻く
戦略環境は、昨今、急速に悪化しております。
北朝鮮では、横田さん御夫妻がモンゴルでお孫様のウンギョンさんに面会をされるなど変化の兆しもあるものの、最高指導者の親族が処刑されるなど、権力内部の不安定な
状況がますます深刻化しているようであります。
その
北朝鮮は、累次にわたる核実験や
ミサイル発射実験などを通じて、既に
弾道ミサイルに搭載可能な核の小型化に成功している可能性も指摘されており、予断を許しません。
また、
中国は、さきの全人代において国防予算の伸び率を一二・二%と公表。軍事費は、過去二十五年で三十四倍にまで増大、公表ベースでも
我が国防衛費の三倍近くの規模に膨れ上がっております。
海洋
活動も拡大の一途を続け、今や、沖縄の尖閣諸島や南西諸島が連なる第一列島線をはるかに越えて、グアムを含む第二列島線に至る広大な海域を、ほぼ恒常的に
中国海軍の艦隊が縦横に動き回る
状況となっています。
米軍の接近を拒否する、いわゆるA2AD能力の近代化も目覚ましく、
弾道ミサイルや巡航
ミサイルの射程距離や命中精度の向上は加速化し、第四世代の戦闘機や潜水艦、洋上艦艇の増強にも著しいものがあり、アジア太平洋
地域における
抑止力のかなめである米軍のパワープロジェクションに支障を来しかねない情勢であります。
また、ソ連邦崩壊直後には四分の一にまで
経済規模が縮小したロシアも、昨今急速に国力を回復し、軍の近代化や軍事
活動の拡大が顕著となり、二〇〇八年のグルジア紛争に続き、今度は、ウクライナをめぐり、軍事力による一方的な現状変更を試みる姿勢を鮮明にしております。
このように、
我が国を取り巻く
戦略情勢がかつてないほどに不安定で不透明な
状況に陥る中、
我が国の
安全保障政策の抜本改革は喫緊の
課題であります。
その意味で、昨年末、
総理官邸にNSCが創設され、
我が国初の
国家安全保障戦略が公表され、
防衛計画の
大綱の見直しとともに、新たな
中期防衛力整備計画が
策定されたことは、時宜にかなったものと評価しております。
ただし、この安保
戦略にも、新しい
防衛大綱や
中期防にも、看過できない深刻な問題が内在しております。
まず、新たな
防衛大綱について伺います。
新
大綱で採用された基本コンセプトである
統合機動防衛力ですが、これは、民主党政権で
策定された前
大綱において、基盤的
防衛力構想から転換を図る際に掲げた動的
防衛力のコンセプトを継承し、さらに発展させたものであると評価いたします。
すなわち、冷戦期以来続いていた北方重視、基盤的
防衛力整備の
考え方から、南西方面へ
戦略重心をシフトさせ、想定される事態に適時適切に対処し得る所要
防衛力の
整備という
考え方に転換したものであります。
民主党政権時、この
戦略コンセプトの実現を担保する予算や兵力構成上の裏づけは、必ずしも十分ではありませんでした。厳しい
財政状況とはいえ、当時、政務三役の一人としてじくじたる思いをした私としては、このたび、
平成二十六
年度防衛予算で前
年度比二・八%の
増額が実現されると知ったときには、安堵したものでございます。
しかし、その内実を知って、落胆を禁じ得ませんでした。公務員
給与復活分を除けば、実質的には、たった〇・八%の
増額にとどまるからであります。これでは、羊頭狗肉と言わなければなりません。しかも、財務省が要求するような調達
合理化計画七千億円が達成できなければ、
中期防は、文字どおり絵に描いた餅にすぎません。
ますます厳しくなる
安全保障環境の中で、今そこにある危機に対処するための所要
防衛力の
整備には、遅滞や未達は絶対に許されません。
そこで、
総理に二点お伺いいたします。
第一に、
総理は、このような予算構造で、
大綱や
中期防が目指す所要
防衛力の
整備を期限内に完成させることができると本気でお
考えなのでしょうか。この点は、
計画実現の責任者である小野寺
防衛大臣にも、明確に御答弁いただきたいと思います。
先ほども申し上げたとおり、所要
防衛力というものは、冷戦期において
我が国防衛のための最低限の基盤を整えることを目指した基盤的
防衛力とは異なり、定められた期間内に所要の
防衛力が構築されなければ国を守れないということを意味するものであります。
したがって、この
中期防には、その実効性を担保するために、三年後の見直しが明記されております。
そこで、
総理にお伺いいたしたいと思います。
三年が
経過した段階で、
計画達成のため必要であれば、予算規模の上方修正を行うこともあり得るというお
考えでございましょうか。
次に、安保
戦略にも
防衛大綱にも決定的に欠けている重大な
課題を二つ指摘させていただきたいと思います。
第一に、武力攻撃に至らない侵害行為が生じる、いわゆるグレーゾーン事態への対処の問題であります。
今日の
安全保障環境は、冷戦期のような、有事と平時との間に明確な境界を画することはできません。毎日のように、
中国政府の公船による
領海侵犯にさらされている尖閣諸島周辺における緊張状態は、まさにその典型であります。
武力攻撃が生じていないため、国連憲章五十一条に規定する自衛権は行使できません。だからといって、
我が国の主権と
領土を守るための実力の行使が認められないと解することは、余りにも不合理であります。
警察権と呼ぶか、マイナー自衛権と呼ぶかが問題ではありません。グレーゾーン事態に対処して
我が国の主権と
領土を守るためには、国際法上行使することが認められる正当な権限が、国内法上、
海上保安庁や
自衛隊に認められていることが最低限必要であります。
これは、主権と
領土にかかわる火急の
課題であります。したがいまして、
シームレスな対応などというスローガンを繰り返していても、全く意味はありません。
そこで、
総理に伺います。
グレーゾーン事態に対処する上で、
海上保安庁や
自衛隊に国際法が認める正当な権限は付与されるのでしょうか。権限のすき間は放置されないのでしょうか。あす危機が起こるかもしれないとの
認識に基づき、グレーゾーン事態に対処する法
整備に関する
総理の御覚悟とともに、明確な御答弁を求めたいと思います。
第二に、冒頭に触れた
中国のA2AD能力への対応策についてであります。
安保
戦略のどこを読んでも、
防衛大綱のどこを読んでも、日米でどのような役割分担をして、第一列島線を守り、第二列島線との間の広大な海域における
安全保障を確立し、ひいては米国の持続可能な前方プレゼンスを
確保しようとしているのか、明らかではありません。
今日の
日米同盟協力の核心ともいうべきこの論点は、年末までに作業を完了するとされる日米
防衛協力のガイドラインの改定と密接にかかわるものであり、不明確なまま放置することは許されません。与党内の協議が停滞している集団的自衛権の行使をめぐる問題にも、早急に決着をつけるべきであります。もちろん、閣議決定の前に国会できちんと議論すべきことは言うまでもありません。
日本が、できることとできないことをはっきりさせてほしいというのが、米国の本音であります。集団的自衛権をめぐる
我が国のスタンスが曖昧なまま時を浪費すれば、ガイドラインをめぐる実質協議の時間がどんどん減ることになります。共同作戦
計画が立てられないままでは、日米
防衛協力が有事の際に機能することはありません。そうなれば、日米共同の
抑止力も張り子の虎となってしまいます。
そこで、
総理に伺います。
集団的自衛権の行使をめぐる今後の議論の見通し、そして、
抑止力構築のかなめである日米ガイドラインとの
関係においてどれほど切迫感を持っておられるのか、
総理の御
認識を明確にお答えいただきたいというふうに思います。
最後に、
国家安全保障戦略といわゆる歴史問題との
関係について取り上げたいというふうに思います。
私は、
安倍総理が先週参議院予算委員会で表明された、日韓
関係の改善に向けた
戦略的な決断を率直に評価いたします。
日本の名誉のために河野談話の見直しを求めてきた人々は、検証すると決めたはずの談話について、検証もしないうちに、見直しはしないなどと明言するのは到底理解できないとして、
安倍政権の姿勢を軟弱だと非難するでありましょう。期待を持たせてしまった分だけ、反動は大きいと思います。
また、この間の米国からの働きかけをやり玉に上げて、またしても対米追従ではないかと失望する声が広がっております。
しかし、これらはいずれも、木を見て森を見ない議論だと私は
考えます。
国家は、主権と独立の
維持、
領土、
領空、
領海の保全、
国民の
生命、身体、
財産の安全といった基本的な利益を
確保するために、絶えず変化する
安全保障環境の中で、あらゆる手段を尽くしていく必要があります。これが、
国家安全保障戦略の根本であります。
歴史問題と称される個々の論点について、
我が国が声を大にして主張すべき事柄が少なくないことは、私も十分承知しております。しかし、
国家の
安全保障にかかわる大局的、
戦略的判断の
もと、場合によっては過度のこだわりを拭い去ることが求められることがあるのだというふうに
考えます。
時あたかも、来年は、第二次世界大戦終結から七十年、日韓基本条約締結から五十年、そして、大正四年の対華二十一カ条要求から百年という、少なくとも三つの意味で歴史的な節目を迎えます。
そこに、
中国が、一方では米軍に対する接近拒否能力を拡大
強化し、尖閣諸島の
我が国領海に対する公船侵入などを繰り返しつつ、心理戦、
法律戦、世論戦から成る三戦を、世界規模で執拗にしかけてきているのであります。ゆめゆめ、
中国の術中にはまってはなりません。
国家の名誉をかけて、民族の誇りをかけて、言いたいこともある、正さねばならないこともある。しかし、戦後、
国際社会に復帰して以来、先人たちが営々と積み重ねてきた苦心の
外交努力の結果を後戻りさせ、
国家の
戦略的利益を失ってはならないと
考えます。
歴史修正主義とのそしりを受けたり、
我が国が戦後秩序への挑戦者であるなどという、あらぬ誤解を拡大させることが、最優先
課題である
安全保障分野の構造改革を進める上で大きな障害になることは、昨今の国際世論の動向を見ても明らかです。
今大事なのは、孤立化と破滅の道を突き進んだ昭和の過激なナショナリズムに戻るのではなく、屈辱の不平等条約改正に五十三年の月日を費やしながら粘り強くこれを実現した明治のリアリズムを思い起こすことだというふうに
考えます。
すなわち、特定の問題については
戦略的な忍耐を
維持する一方、喫緊の
課題である
安全保障政策の改革を最優先に推し進め、
国際協調主義に基づく
積極的平和主義の旗を高く掲げ、プロアクティブな
外交を展開していくことこそが肝要であると
考えます。
最後に、この
国家安全保障戦略と歴史問題の微妙なバランスにつきまして、
安倍総理並びに
岸田外務大臣の御所見を承って、私の
質問とさせていただきます。
御清聴ありがとうございました。(
拍手)
〔
内閣総理大臣安倍晋三君
登壇〕