○
和田(吉)
参考人 本日は、このような
機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
きょうの話に近い内容は、文芸春秋の「二〇一四年の論点一〇〇」という本にも書きましたので、参考までに配付させていただきました。それから、私がどういう人間かというのは、話の信憑性にも関連しますけれ
ども、レジュメの略歴と書いたところに譲りたいと思います。
2ですけれ
ども、
法曹養成制度についてはよく御存じの方が多いと思うんですけれ
ども、一応確認のために図を載せておきました。
かつての
法曹養成制度では、誰でも
司法試験が受けられた。約五百人合格していた。
平成二年ころ以降、次第に
増加しましたけれ
ども、
司法試験に合格すると司法
修習を受ける。これは二年間で、後に一年半になりました。
修習生は給料を受け取れる給費制というのがとられていて、終了時のいわゆる二回試験に合格すると
法曹になれる、そういう
システムでした。
現在の
法曹養成制度は、
司法試験の前に、
法科大学院に原則行かないといけない。そこを卒業するか、あるいは
予備試験に合格した人が
司法試験を受けられる。
司法試験は、五年で三回のみ受けられるという期間制限、回数制限があります。これは今後五回となる見込みです。現在、約二千人が合格しています。
司法試験に合格しますと司法
修習を受けるんですけれ
ども、かつてあった前期
修習はなくなりまして、期間は一年間。給料は払われない、必要な人に対してはお金を貸与するという貸与制がとられています。終了時の二回試験に合格しますと
法曹になれるんですけれ
ども、現在は深刻な就職難の
状況になっているというわけです。
それで、今度はレジュメの3のところです。
よい
法曹養成をするためには二つ必要だと思うわけで、一つは、よい人材を集めるということ、それからもう一つは、よい
教育をする、そういう必要があると思うんですけれ
ども、現在、この二つともうまくいっていない
状態にあります。
まず、人材の点について言いますと、
法科大学院全体の
志願者数が御存じのように激減しています。
平成十六年度には延べ七万二千八百人の
志願者がいたのに、今年度は延べ一万一千四百五十人で、六分の一以下になっています。
入学者についても、今年度は、
法科大学院全体の実に九一%である六十一校で定員を割っていました。例えば、早稲田
大学でさえ、定員二百七十人に対してことしの
入学者は百七十九人、明治
大学は、定員百七十人に対して今年度の
入学者が五十人という異常事態になっています。
志願者の激減に応じて有為な人材も集まりにくくなっているということになります。
また、
法科大学院の不人気は広がりを見せておりまして、法学部への進学を希望する高校生が減って、法学部の偏差値も低下傾向にあるというありさまです。
レジュメの裏の(2)のところに行っていただきまして、
法曹養成としての
教育の点について言えば、もちろん
法科大学院でよい
授業もありますけれ
ども、
法科大学院の多くの学者
教員は、狭い自分の研究分野を中心に
授業を行いがちである、その結果、
法科大学院での
教育は、実務にも
司法試験受験にも余り役立たない
授業が多いということにもなっています。
かつての司法
修習では、実務
修習に入る前に、司法研修所の教室で行う前期
修習というのが三カ月程度ありました。ところが、司法
修習の期間が、以前の二年間が一年半になりまして、
法科大学院制度の創設とともに一年となりまして、その前期
修習というのが廃止されました。その際、大方の認識では、前期
修習に相当するものは
法科大学院で肩がわりするというふうに考えられていたんですけれ
ども、ほとんど肩がわりができていないというのが
現状です。
前期
修習がないために、いきなり実務
修習に入って戸惑う司法
修習生が多いようで、この点でも
法曹養成過程が劣化しているというふうに言えると思います。
「4 主な原因」ですけれ
ども、米印のところに、「司法
制度改革審議会の
意見書の立場」というのを書いておきました。
現在の
法曹養成制度のもととなりましたのが、御存じのように、
平成十三年に作成されたこの
意見書です。その
意見書には、
法科大学院の必要性についても書かれてありました。つまり、今後、
法曹需要は量的に増大して、それとともに質的に
多様化、高度化するんだ、だから、
法曹人口を大幅に
増加させる必要があるんだというふうにした上で、それを前提に、
法曹人口の大幅な
増加というのを
法曹の質を維持しつつ図るためには、
法科大学院を設ける必要があるというふうにしていたわけです。
つまり、
法曹がたくさん必要な時代になるんだけれ
ども、
司法試験の
合格者数をふやすだけだと質の低い人も合格してしまうので、そうならないように
法科大学院でいい
教育をしよう、そういう話だったわけです。
ところが、現在まで
法曹需要の量的増大等は見られず、むしろ減少したと言うべきであるにもかかわらず、
司法試験合格者数は年間約二千人と大幅に
増加されたままです。人の方だけが一方的にふえたわけですから、
弁護士一人当たりの収入が激減しまして、司法
修習終了時に
弁護士登録できない司法
修習生が五百人を超えるなど、深刻な就職難も発生しています。
そのために、
弁護士という職業が、
法科大学院と司法研修所で多額の費用ないし借金と長期の時間をかけるほどの魅力があるものではなくなってきています。
(2)ですけれ
ども、私は、
法科大学院の
教員によってはいい
教育も行われているというふうには思いますけれ
ども、
法科大学院全体としては、
法曹の質を維持できるような
教育体制にはなっていないと思います。
一つは、学者
教員のほとんどが
司法試験に合格していません。司法
修習も実務も知らない、そういう事情があります。そのために、先ほど
お話ししましたように、実務にも
司法試験受験にも余り役に立たない
授業が多いということになります。
また、そういう学者
教員は、特に、
司法試験受験を指導する意欲も
能力も余りないということが多いために、それに呼応するように、文科省も
法科大学院で
司法試験受験に役立つような指導というのを禁止してきました。この点は、その後、文科省が
司法試験の
合格率を問題にするようになってから、やや曖昧なものになりましたけれ
ども、正面から解禁してはいません。
学生としては、
法曹になろうと思って
法科大学院に入学したのに、
法曹になるために合格しなければならない
司法試験とかけ離れた勉強をさせられるということに不満を感じる人が非常に多いです。
「5 あるべき方向の提案」ですけれ
ども、まず、人材
確保のためには、
弁護士として参入する者の生活が成り立つように、
司法試験合格者数を減少させるほかないように思います。
その数ですけれ
ども、毎年五百人以上の司法
修習終了生が就職できない、その数が毎年上昇しているということや、形式的に就職できても著しく悪い条件で
弁護士登録している人も多いということから、現在の二千人から五百人減らして千五百人とするだけでは足りず、千人程度かそれ以下にする必要があると思います。少なくとも、結果的に認識が誤っていた司法
制度改革審議会の
意見書が出された
平成十三年当時の
合格者数が約千人でしたので、とりあえずそれに戻すということにも
一定の合理性があるように思います。
イですけれ
ども、
司法試験の受験回数制限は、五年で三回から五年で五回に緩和される見通しですけれ
ども、多額の借金を抱えた受験生に大きなプレッシャーとなるものですから、制限自体を撤廃すべきであると私は考えます。
制限すべきであるという立場の人は、
法科大学院の
教育効果というのは五年程度で消えるんだというふうにも主張するんですけれ
ども、もしそうであれば、
法科大学院の
教育効果は
司法試験合格者についても消滅するはずで、その主張は全く合理性がないと思います。
ウの
予備試験ですけれ
ども、最近、
法科大学院擁護の立場から、
予備試験の受験資格を制限すべきだという主張があります。
論拠ですけれ
ども、論拠は大体二つで、一つは、
予備試験というのは、経済的事情で
法科大学院に入学できない人とか、あるいは十分な
社会経験があるということで
法科大学院に入学するまでもない人のための例外的なものであるというのが一つの論拠。それからもう一つは、
予備試験合格者の中に多数の
法科大学院在籍者がいる、そうすると、
法科大学院の
授業運営に弊害が出ているんだ、そのために、
法科大学院在籍者の
予備試験受験資格を否定すべきであるというようなことも言われています。また、
予備試験の
合格者数を削減しよう、そういう動きもあります。
しかし、
法科大学院の
教育の方こそ、本来
期待されたものになっていないということですね。また、
弁護士という職業も、それほど費用や時間をかけるのに見合わないものになっているというのが
現状です。
そういう
現状からしますと、
予備試験の受験資格を制限したり、あるいは
予備試験の
合格者数を削減したりするのは、私は合理性がないと思います。
エの貸与制ですけれ
ども、司法
修習が給費制から貸与制になったという点も
法曹志願者を減らす一因になっていると思います。
法曹は社会のインフラとして国家が
責任を持って養成すべきであって、その
意味で給費制をとるべきであるのは私は当然であると思います。また、貸与制にする際は、
弁護士になれば当然十分な収入が得られるという前提があったように思いますけれ
ども、現在の就職難の
状況というのは、その前提とは全く違ったものになっていると思います。
法曹志願者の減少を阻止するためにも、給費制を復活すべきであるというふうに思います。
(2)ですけれ
ども、
現状では、
法科大学院の基本科目の
教員に
法曹資格は要求されていません。それから、
司法試験受験の指導は禁止されていますけれ
ども、それでは
法科大学院の修了を
司法試験の受験要件とすることに合理性がないと思います。したがって、その要件は撤廃すべきだと思います。その場合には、先ほどの(1)のイとかウは問題外ということになります。
それから、先ほど
お話ししましたように、
法科大学院で肩がわりができるとの予想のもとに司法
修習の前期
修習を廃止したのに、その肩がわりができていないという
状態にある以上、司法
修習の前期
修習を復活させるべきだと思います。
現在は、司法
修習の前に三週間程度の研修を設けようという話があるようですけれ
ども、私は三カ月程度は必要だと思います。また、民事
裁判所、刑事
裁判所、検察庁、
法律事務所での分野別実務
修習は現在約二カ月程度ですけれ
ども、これも最低でも三カ月ずつは必要だと思います。
「6
法曹養成制度検討会議について」ですけれ
ども、
法曹養成制度検討会議についても二点指摘させていただきたいと思います。
まず、
検討会議は、パブリックコメント
募集を行いました後、
意見分布の割合、つまり、どういう
意見が何%だったかということを明らかにしない概要のみを発表しました。その後、そのパブコメの結果も踏まえたとする座長試案をもとに、
現状のほとんどの問題を先送りにする取りまとめをしてしまいました。
ところが、
検討会議終了後に情報公開などで判明したところでは、
法科大学院制度に反対の
意見が約八割、司法
修習生の給費制の復活を求める
意見が九割以上でした。
検討会議は、パブコメの結果を意図的に無視して取りまとめをしていたことになります。私は、これは不公正な態度だと思います。
それから、私は、その
検討会議の
委員になりますときに、なぜその前身であるフォーラムの
委員十三人はかえないで四人のみ追加したのかということについて
事務局の人に尋ねました。そうしましたら、こういう
説明がありました。つまり、国会が緊急な問題として一年という短期間で結論を出すようにというふうにしたけれ
ども、
法曹関係者以外の一般の人を新たに入れると
制度の基本的な理解をしてもらうのに時間がかかり過ぎるんだ、だから、十三人にはそのまま
委員を続けてもらうことにした、そういう
説明でした。
ところが、結局は、
検討会議の最終的な取りまとめでほとんどの論点が先送りにされてしまいました。この点について、私は、現行の
法曹養成制度を維持しようとする
人たちは、
現状でさまざまな問題が生じていて、
現状維持を積極的には主張しにくくなっているために、先送りという形で
現状をいわば消極的に維持しようとしたものだと思います。結局、一年で結論を出すようにという国会の要請も、メンバーをかえないで
現状維持を図るという方向で利用されたことになるように思います。
私は、ここに
出席している
皆様には、このように劣悪となった
法曹養成制度について、
法曹志願者のために、日本の司法のために、日本の国民のために、ぜひ抜本的に変えていただくよう心からお願いしたいと考えている次第です。
私の話は以上です。御清聴ありがとうございました。(拍手)