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寺西参考人 全国過労死を考える
家族の会の
寺西笑子です。
本日は、このような場を与えていただき、心より感謝申し上げます。
また、先日は、
過労死防止対策推進法を可決いただき、まことにありがとうございました。
本日は、
過労死問題ともかかわりの深い
労働安全衛生法の一部を改正する
法律案について、
過労死の
遺族の
立場、また、
遺族から相談をお受けしている者の
立場として
意見を申し上げます。
なお、
意見の中心は、今回の
法案で新たに
規定される
メンタルヘルスに関する事項と、
企業名の公表にかかわる
部分に絞らせていただきます。御了解いただければと存じます。
過労死は、近年ふえ続けています。詳細はお配りした資料をごらんいただければと思いますが、
労災認定件数が大幅にふえ続けています。特に心配されるのが、若者の件数の伸びが顕著なことです。
さらに御理解いただきたいのが、
労災認定されているのは
過労死の氷山の一角にすぎないということです。これは、内閣府の自殺統計との比較から見ることができます。
続いて、具体的な事例に即して
労働安全衛生法への
意見を述べさせていただきます。
内容は、私たちの会員で、随行席にお座りの西垣さんが作成したものを読ませていただきます。
私の息子は、大手電機メーカーIT関連子会社、千人規模にシステムエンジニアとして就職しました。
入社二年目の三十七時間連続勤務を含む長時間、過重労働によりうつ病を発症し、二度の休職、復職でもうつ病が
改善せず、さらに達成不可能なノルマを課せられ、四年目の二〇〇六年一月、治療薬を過量服用し、人生これからという二十七歳の若さで亡くなりました。
息子は、入社当時トップクラスの技能を持っており、即戦力として会社の利益優先で働かされました。
親の命にかえても守ってやりたかった息子がなぜ
過労死しなければならなかったのか、
労働安全衛生法とのかかわりについての問題点などを述べさせていただきます。
第一は、復職時において、
産業医がチェック機能としての
役割を果たせなかったことです。
息子の会社の
産業医は、
精神科医ではなく、復職の判断は
本人に任されていました。
本人たちは、復職しなければ退職を迫られるので、かかりつけ医に勤務可能との診断書を書いてもらい、無理をしてでも復職していたようです。
また、上司には、システムエンジニアはうつになるのが当たり前、治療しながら、薬を飲みながら、仕事をしながら、五年くらいで治すものだとも言われていました。会社にうつ病に対する正しい理解が欠けており、労務管理が適切になされていませんでした。
第二は、過労による体調不良を、仕事ではなく
本人の勤務怠慢として捉えられていたため、
本人がますます追い込まれる結果になったことです。
息子の会社には
健康管理室があり、過労で出勤不可能などになれば、医者にかかることを勧められ、その後も定期的に
健康管理などが行われていたようですが、常に問題になるのは、会社の利益にかかわる遅刻、欠勤などの
状況であり、過労による
本人の
健康管理は二の次でした。
息子は、一回目の復職後、やや緩やかな勤務についていたのですが、破綻しそうなプロジェクトに二カ月間投入されて、再び早朝までの勤務につき、息子のシステム開発能力が高かったこともあり、プロジェクトは仕上がったそうですが、
本人は二回目の休職に入り、その復職二カ月目に亡くなりました。
同期入社七十四人中十二人、約二割が一カ月以上の休職、退職になったとの報告を
裁判中にもらいました。
つまり、会社内部の
健康管理では会社の利益優先になりがちで、
労働者の健康を守る上で限界があるということです。
これと同様に、
ストレスチェックを行うことは必要かつ大切なことだと考えますが、その
医師、保健師が
労働者の健康を第一に考え得る
立場かどうかが問題になると考えます。
さらに、過労による体調不良に陥った
労働者が、身分上の
不利益をこうむらない保証があるのかどうかも大切です。
第三には、労働災害を発生させた
企業に対し、国の
責任で速やかに
改善指導をしていただきたいと考えます。
息子の労働災害が東京地方
裁判所で認定された後、会社の
民事責任として、一年余りの和解交渉の後に、労働
条件の
改善についても約束していただきました。それは、真の謝罪とは息子を死に至らしめた勤務実態を変えていただくことであり、
労災認定を応援してくださった息子の同僚たちを守ることだと考えたからです。
その和解
内容の公の
部分とは、会社は「労働時間の短縮、休憩設備の設置、
労働法や
メンタルヘルスについての講習会の
実施等の労働
条件の
改善について引き続き取り組み、長時間労働による
健康障害ないし労働災害の撲滅に向けて取り組む旨の決意を表明した。」です。
かなり
改善されたと聞いていますが、いつまでも私がその会社を見守ることは困難です。
特に、命にかかわる労働災害を出した会社については、国の
責任において、すぐにその
改善を
指導していただきたいと切に願います。再び同じ過ちが繰り返され、とうとい命が失われてからでは遅過ぎます。
過労死は避けることのできる人災です。
また、労働災害を発生させた
企業へ、
遺族や
本人からも労働
条件改善を要求できることが保証されるべしとも考えます。
懸命に育てた息子や娘の
過労死は、親の生きる望みを奪い、夫や妻の
過労死は、
家族の生きるすべまでも奪います。私の老後に、愛する息子はおりません。
少子化で働き手の減少が問題になる中、働く人の命を守ることは、
企業の
リスクを減らし、
日本の未来を守ることでもあります。
そして、何より、懸命に働く者の命が粗末に扱われる貧しい
日本であってはなりません。息子が願った健康的に働ける
社会の実現を願います。
労働安全衛生法改正に当たり、
過労死初め労働災害をこれ以上出さないよう、労働現場の実態を御
参考の上、御論議くださいますよう切にお願い申し上げます。
以上です。
今回の
労働安全衛生法改正で導入される
ストレスチェック制度は、
過労死防止に向けて有益だと思います。取り返しのつかない事態が起こる前にチェックする仕組みで、
本人、
家族以外に、
専門家や
職場の第三者の目が行き届く
可能性が高まります。
一方で、西垣さんの手記にもありましたが、
産業医などが、第三者的に結果を評価し、適切な
対応を
事業者にアドバイスできなければ、せっかくの
ストレスチェックも意味がありません。
ストレスチェックに限りませんが、
産業医などのポジションにある方が、
事業者にしっかり物申せる力を持ち、それを担保する仕組みが構築されることで、
労働者を守るとりでになり得るのだと思います。
何より重要なのは、適切な労働環境の整備と労務管理の
実施ですので、
ストレスチェックがそれらを怠ることの言いわけにならないような運用を切に希望いたします。
今回の
労働安全衛生法改正では、重大な労災を繰り返し発生させた
企業名の公表
制度が盛り込まれています。これは非常に重要な仕組みです。
過労死が
労災認定された後、三六協定によらない残業を強いるなどの違法労働が明らかになり、
企業の
責任が
裁判などで認められても、
職場の長時間、過重労働は何ら
改善されない事例を多く見てきました。社内で
過労死を出し
労災認定されたことさえも社員には知らされず、今までと同じ長時間、過重労働に従事させられている
企業や、訴訟で和解解決の際に再発防止を約束させても、実際には何も
改善せず、
状況を放置している
企業も多くあります。
過労死をなくすために
遺族が
裁判を起こして、
企業責任を認めさせ、
職場改善を約束させても、継続した監視はできません。
社会全体が
過労死を出した
企業を監視できる仕組みが必要です。
企業名の公表は、国民が誰でも問題のあった
企業を監視できる方法です。
社会からの監視は、
企業が
改善に尽くす第一歩になります。また、就職活動をしている人にとっても重要な
情報になります。ある高校の就職担当の先生は、生徒を
過労死させる会社へ送ってしまったと自責の念に苦しんでいます。
企業名の公表は、その
企業の労働環境の実態を示す重要な
情報です。
一方、
課題として、今回の改正では、重大な労災を繰り返し発生させた
企業に限られる点です。再発の防止や
改善を
促進するためには、一回でも重大な労災事故を発生させた
企業名を公表すべきです。また、労
安衛法のみならず、
過労死が
関係する労働基準法などへの違反についても、
企業名を公表する
制度を導入すべきと思います。
このように、
労働安全衛生法による
労働者の健康づくりについて
意見を述べさせていただきましたが、そのうち最も重大な
過労死の原因としては、まず、
企業の利益優先の姿勢が挙げられます。利益を上げることは必要かもしれませんが、働く人の体、命が大事であり、優先させるべきことを、経営者、働く人、そして
社会全体で認識しなければなりません。
企業が利益を優先する余り、通常の労働ではこなし切れない業務やノルマを課せば、真面目な
労働者ほどそれに応えようとして無理を重ね、あるいは無理を強いられ、結果として身を削り、命を失うことになります。
また、そうした強力な圧力から一時的にでも逃れようとしても、
労働者と雇用する
企業の力
関係は全く対等ではなく、
企業が非常に強い
状況です。
企業の要求に無理をしてでも応えなければ、仕事を奪われ、不安定な職につくことを余儀なくされ、そしてそこでまた無理を重ねることになります。この恐怖から逃れるためには
企業の要求に応えるしかないという、まさに八方塞がりの
状況が、多くの
労働者にとって
現実となっています。
こうした
状況から
労働者を救い、
過労死や
健康被害をなくすためには、今回の
労働安全衛生法改正を適切に
実施するとともに、労働基準法などの現行法にのっとった正しい労働時間の設定や労務管理、サービス残業の撲滅、長時間労働の
規制を確実に
実施することが求められます。
さらには、インターバル
規制、年休取得の
推進などを、
実効性や
一定の強制力を持った形で進めていくことや、
企業の内側だけでなく外にも相談できる窓口を整備することが必要です。このような
企業と
労働者という
関係の外側から
過労死を防止する仕組みの必要性を痛感しています。
労働者が安心して働ける、
実効性のあるルールを整備して、機能させていくことが重要です。
以上、
労働安全衛生法改正についての
意見と要望を述べさせていただきました。
御清聴ありがとうございました。(拍手)