○原
参考人 政策コンサルティングの会社を運営しております原でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
政府関係では、昨年から産業
競争力
会議のサポート、また
国家戦略特区のワーキンググループの
委員などを務めておりまして、昨年秋には、この
委員会で、産業
競争力強化法についての
意見を申し述べさせていただきました。今回は、
電気事業法改正案に関して、こうした
機会をいただき、大変ありがとうございます。
既に御
意見を述べられたほかの
参考人の方々とは異なり、私は、今回の
電力自由化の検討プロセスに直接参画などしてきた
立場ではございませんので、少し違った視点から何点か
意見を申し上げたいと思います。
まず、
電力自由化と、成長戦略、アベノミクスの第三の矢の
関係について申し上げたいと思います。
アベノミクス全般について、内外の
関係者の目は、残念ながら、決して好意的なものばかりではありません。特に、第三の矢に関して、どうなっているのか、もう飛ばないのではないかといった声も少なからずあるわけであります。
その中で、世界の期待をつなぎとめているのが、安倍総理の強いコミットメント、とりわけ、ことし一月に、スイスのダボス
会議の場で、世界に向けて大変意欲的な方針と決意を示されたことだと思います。
このスピーチで、この
資料にも書いておりますが、安倍総理は六つの大きな方針を示されています。第一に岩盤
規制の
改革、第二にTPP、EPAの推進、第三、GPIF
改革による成長への
投資、第四、法人税
改革、第五、女性活用、雇用
市場改革、それから第六にコーポレートガバナンス
改革ということでありました。
昨年、私は、産業
競争力強化法の
参考人質疑でこちらに伺った際にも申し上げましたが、産業
競争力の強化のためには、民間部門がいかに活動しやすい
環境をつくるか、不合理な制約を取り除くかということが大変重要であり、
規制改革は成長戦略の最も重要な柱であると考えます。
この観点で、安倍総理が第一の柱としていわゆる岩盤
規制の
改革を掲げられたということは、的確な方針であると思います。
その上で、第一の柱である岩盤
規制の
改革に関して、安倍総理がイの一番に触れられているのが
電力自由化であります。
少し引用いたしますと、「昨年終盤、大
改革を、いくつか決定しました。できるはずがない——。そういう固定観念を、打ち破りました。」として、最初に
電力市場の完全
自由化について取り上げられています。スピーチでは、その後、農業や医療について触れられた上で、「既得権益の岩盤を打ち破る、ドリルの刃になる」、そして、向こう二年間で、少なくとも
国家戦略特区では全ての岩盤を打ち破るという宣言をされたわけであります。
この今後二年間という期限を切った大変意欲的な宣言は、ダボスのスピーチ会場はもちろん、世界でも大きな期待を持って受けとめられていると承知をしています。
ただ、今後二年間に向けての約束の
前提となるのが、先頭を切って進行中であるこの
電力自由化であります。
万一にも、これが失敗するようなことがあれば、すなわち、二〇二〇年に日本の
電力市場は完全に
競争的な
市場になっていますという総理の宣言に疑いが生ずるような
事態に仮になれば、これは、
電力分野だけの問題にとどまらず、アベノミクス全体に対する世界の信頼を損なうことにつながりかねない。これが最初に申し上げたい点であります。
電力自由化の合理性、必要性については改めて申し上げるまでもないかと思いますが、簡単に言えば、かつては、
規模の経済の働く構造で、世界じゅうどこでも、
電力分野は公営または
独占形態で
規制がなされていたわけでありますが、技術革新によって、送電部門を除いて、
規模の経済が消失をし、従来の
規制の合理性はなくなっている。ところが、既に合理性を失った
規制がそのまま維持されて、世界の多くの国々と比べて二歩も三歩もおくれて、ようやく完全
自由化に取り組まれている、そういう
状況だと思います。
いわゆる岩盤
規制と言われる分野でしばしば見られる典型的な事象の
一つということではないかと思います。
この観点で、今回、この第二弾の法案で示されている小売参入の全面
自由化という方向については何ら異論なく、ぜひしっかりと進めていただきたいと思います。
ただ、その際に留意しておくべき課題として、三点申し上げたいと思います。
第一に、これはもう既にほかの
参考人からも御指摘があった点ですが、
自由化によって現実に
競争が生ずるかという点であります。
これまでの大口部門を対象とした
小売自由化では、
自由化という
制度改革はなされたものの、残念ながら、
競争環境は極めて乏しい、現実の新規参入もごく限定的でありました。事実上の
独占という
市場構造は基本的に変わっていないと
電力システム改革専門
委員会報告書でも指摘されていたような
状態だったわけであります。こうした結果に終わらせてはならないと思います。
現実に新規参入する
事業者があらわれ、活発な
競争がなされることが重要であります。特に、これまでの垂直一貫の
電力供給という
制度的な制約が取り払われることにより、
電力事業やガス
事業といった縦割りを超えて、新たな参入、業界再編が起こっていく可能性に大いに注目すべきと思います。
さらに、
エネルギーという枠も超えて、通信あるいは上下水道といった領域ともまたがって、新たなサービス、インフラ産業が生まれていく可能性もあろうと思います。例えば、フランスのヴェオリアは水道
事業の会社として知られますが、実際には、
エネルギー、廃棄物処理なども扱う総合インフラ企業なわけであります。
このように、業種の枠を超えて、共用できる設備や技術を共用して効率化する、あるいは
消費者向けにセットメニューを提示するといったような、さまざまな形で新たなサービスや業態が生まれていく可能性があろうと思います。
今回の
電力自由化は、こうしたインフラ産業全体の進化ないし再編に向けた出発点になるものであり、また、そうなって初めて十分な実効性を伴うものと思います。
他方で、こうした業種を超えた展開を本格化していく上では、
電力自由化以外の
制度的な課題も出てくるかと思います。
例えば、既に経済産業省で検討が開始されていると承知していますが、ガスについての
システム改革もあわせて必要でしょう。熱供給についても課題があろうかと思います。また、上下水道など公営インフラの民間開放について、これは産業
競争力
会議の立地
競争力分科会で、ことしの二月以降、集中的に
議論を行っております。二〇一一年のPFI法
改正で、いわゆるコンセッション方式、運営権を設定する方式での民間開放が可能になりましたが、実際上の課題は少なからず残されている
状態であります。
こうした課題は、日本では、
電力分野などがたまたま歴史的に公営でなかったため、別のカテゴリーの課題として扱われがちなわけでありますが、実は、インフラ部門への
競争導入という意味では、共通の課題と思います。
こうしたインフラ部門への
競争導入にかかわる課題を一体的に、整合性を持って解決していくことにより、部門を超えた相互参入と
競争促進、新たな総合インフラ
事業の創出、さらに、将来的には新たなインフラ
システムの輸出や世界展開にもつながっていくものと思います。
ただ、こうした多様な領域にまたがる
改革を一斉に進めるということには困難が伴うのかもしれません。この場合は、最初に触れましたが、まずは、
国家戦略特区のような枠組みを活用して、地域を限った実験を先行してみるといったことも一案ではないかと思います。
次の
ページに移らせていただきます。
第二に、独立性と専門性を有する
規制組織への移行の重要性であります。
現実に
競争を起こすという観点で、
市場が正常に機能しているか、あるいは
競争阻害的な行為がなされていないかといったことを的確に監視する機能が重要であります。この点、昨年成立した第一弾の
改正法の附則でも、平成二十七年をめどにというプログラム規定が定められていると承知していますが、早急に検討、準備が進められるべきと考えます。
その際、特に、従来、
独占的な地位を有していた
電力会社からの影響を十分に排除できるような独立性を持たせること、また、
金融規制などでの例も参考に、専門性ある人材を十分に確保、育成できるように設計する、こういったことが重要ではないかと考えます。
また、先ほど、
電力だけでなく、より幅広くインフラ分野への
競争導入全般が課題であるということを申し上げました。今回設けられる
規制機関は、恐らく、
電力だけではなく、より広範な
競争規制機関に発展していく可能性があるものと思います。こうした可能性も視野に検討がなされるべきかと思います。
最後に、第三点ですが、
自由化プロセスの停止、逆行を生じさせないことが重要であります。
何より、まず、今回の法案で第三
段階として積み残しになっている
発送電分離、
料金規制の撤廃まで、確実に、十分な措置が実行されるべきであると思います。
また、今後、例えば、一時的に
電気料金が上昇したとか、たまたま停電が発生したとか、あるいは原発に関する何らかの事情変更があったといった、本質的ではない理由をつけて
自由化プロセスを停止、逆行させようとする動きが生ずる可能性は否めないのではないかと思います。こうしたことを起こさないようにしなければいけないと思います。
過去のほかの分野での
規制改革に関して、二つこれまでの例を申し上げたいと思います。
まず、航空
自由化についてであります。
航空分野は、かつては、国際線と国内線でのすみ分け、同一路線には一社だけといった
競争回避措置がなされていました。一九八〇年代以降、これが徐々に緩和、撤廃され、運賃
規制についても
規制緩和がなされました。
規制緩和がなされた当初の文献を見ますと、
規制緩和がなされて以降、むしろ運賃が上昇したといった指摘もあります。
しかし、現時点になってこれを振り返ってみれば、こうした
規制改革の成果として、多様な運賃メニュー、LCCの登場などが実現したわけであります。もちろん、LCCも順風満帆ではありませんし、解決すべき課題もあると思いますが、少なくとも、今となって、やはりかつての同一路線一社体制を維持しておけばよかった、
規制改革は失敗だったと言われる方はほとんどいないのではないかと思います。
次に、タクシー
規制についてであります。
こちらは、九〇年代から二〇〇〇年代の初めに
規制緩和が進みましたが、その後、行き過ぎた
規制緩和であった、運転手さん
たちの労働
環境悪化や事故が起きているといった
議論が出てきて、再び需給調整と厳格な運賃
規制の方向へとかじが切られつつあるようであります。
きょうはテーマが違いますので、この話は余りいたしませんが、本来、労働
環境の悪化や安全上の問題というのは、これは労働
規制、安全
規制で対処すべき問題であって、本件で、これらを理由に需給調整あるいは運賃
規制の復活が必要というのは筋が違うと考えております。
ともかく、申し上げたいのは、
自由化の成果、
規制改革の成果が十分にあらわれる前に、何らかの理由をつけて停止、逆行させようという動きが生ずることは危惧すべきことであって、防ぐ必要があるということです。
これを防ぐための
一つの方策が、所管省とは切り離して、
改革プロセスにつき提案、監視をする機能を設けるということだと思います。例えば、かつて、道路公団民営化推進
委員会、郵政民営化
委員会など、担当省とは切り離して、別の担当大臣のもとに第三者機関を設けた例がありました。
こうした
議論を経済産業省の方
たちにすると、いや、自分
たちはそういう
改革反対の役所とは正反対で、むしろ自分
たちこそ
自由化推進の本丸なんだということを言われるわけですが、確かに、そういう方
たちが頑張っていることはそのとおりであって、だからこそ、今この法案を審議されているんだと思います。
ただ、仮に、今後そういった逆向きの動きがあらわれたり、あるいは
自由化プロセスが迷走するような
事態が想定されるとすれば、
政府内でチームを二つに分けるというのは、過去にもこうした難度の高い
改革プロセスでとられてきた
一つの
知恵だと思いますということを
最後に申し上げまして、私の
意見陳述を終わらせていただきたいと思います。
御清聴ありがとうございました。(拍手)