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古賀友一郎君 今、分からないという声が出ましたけれども、本当に分かりませんよね。要するに、相矛盾するという司法の強制力が働く判断がありながら、この
関係が分からないわけですよ。要するに、両方やれと言っているんですね。それに等しいわけです。開けるなという命令もあるし、開けろという命令もある。だから、今この
二つの相矛盾する法命令が定立しているわけですね、
二つ並び立っているわけです。ただ、今までは片方だけだったんです。開けろという命令しかなかったわけですね。これが
二つ並んだということで、言わば、ある
意味法的にはイーブンになったということだろうと思うんです。
今回の仮処分決定は、開門反対の方々にとってはまさにこれは全面勝訴と言える判決なんですね。ただ、これはあくまで仮処分です。あくまで仮処分ですから、今おっしゃったように福岡高裁の確定判決がなくなるわけではないということです。したがって、今、法的にはイーブンになったという状況ですから、これから政府が右に行くのか左に行くのか、今まさにその分岐点に立っている状況ではないかと、こういうふうに思うわけであります。
現在のところ、政府は、福岡高裁の確定判決があるのでその履行をしなければならぬということで開門をしたいという立場を取っているわけではありますけれども、私は、この際、政府は開門しないという立場に立ち返って方針転換する必要があるというふうに考えております。
そう考える理由を、主な理由を幾つか申し上げた上で質問させていただきたいと思うんですけれども。
まず一点目は、信頼
関係を再構築するという
観点です。もはや話合いすらできない、そういうほどに徹底的に農水省と地元長崎県との信頼
関係は破壊されています。
そもそも、かつて二人三脚で干拓
事業をやってきた農水省と長崎県の信頼
関係を破壊してしまったのは、言うまでもなく、菅元総理がまさに地元の哀願ともいうべき声を一切無視して、上告をせずに判決を確定させてしまったと、これがスタートになっているわけです。政府と地元長崎県との信頼
関係を再構築していくためには、開門前提では話にならないんです。今そういう状況にあります。今、菅元総理の判断については、農水省も恐らくじくじたる思いがあると思うんです。今年一月十一日の
新聞報道によりますと、林
大臣御本人も、福岡高裁判決を確定させてしまったということについて、何であんなことをしちゃったのかと、そういうコメント、批判をされていたということが
報道でなされておりました。
もちろん、前の民主党政権のことではありますけれども、信頼
関係破壊の原因をつくったのはあくまで政府なんですね。そのことには変わりないんです。開門を前提とする政府とは話合いをしない、そういう立場を堅持する地元との間で信頼
関係を再構築するには、政府の方が姿勢を転換すべきであるし、するほかない。農水省はこの先もずっと、地元長崎県と一緒になってこの諫干
事業をやっていかなきゃいけないんです。これから先のこともよくお考えいただきたいというのが一点目であります。
次に二点目でありますけど、これは高裁判決の
内容にかかわる話でありますけれども、私は重大な問題があるというふうに思っています。
そもそも、この開門請求のその法的な根拠になっているのは、個々の漁業者の方々の漁業行使権に基づく妨害排除請求権です。そして、福岡高裁は、漁業補償契約というのは国と漁協との間の債権的
合意にすぎないのであって、個々の組合員の漁業行使権は別に放棄されているわけでもなく生きているんだから、物権的請求である妨害排除請求はできるんだと、こういう論法で開門を認めたわけです。
しかし、実際には、漁業補償契約締結の際に、原告の方々を含む個々の組合員の方々は、漁協に対して契約を締結する権限を委任しているんです。そして、実際にも潮受け堤防の外の漁協だけ取って見ても、総額約七十七億円の補償金が長崎県内外の各漁協に支払われています。
各組合員の皆さんは補償金の受領権限も漁協に委任していますから、もし個々の組合員への補償金の支払に問題があったとしても、それは漁協内部の問題です。したがいまして、たとえ組合員の漁業行使権が生きているとしても、原告を含めた個々の組合員の皆さんも委任という
法律行為を通じて漁業補償の債権的
合意の言わば法的拘束の枠組みの中に皆さん入っておられるわけですから、当然、組合員が漁業行使権に基づく妨害排除請求権を行使するということが、債権的
合意の法的拘束に従ってこれは行使されなければいけないわけですから、制約、制限を受けるのは当然であるはずです。
もちろん、中には、その補償契約締結後に組合員になった方もいらっしゃるでしょう。相続とか新しい新規就業とかですね。しかし、そうした後から入ってこられた方々についても、漁協と国との法的拘束の枠組みの中に後から入ってこられたわけですから、妨害排除請求権の行使が制限されるのは当然です。しかも、そうでないともう漁業補償なんかやっていられませんよね。
ところが、こういう状況であるにもかかわらず、福岡高裁判決はこの点を考慮していないんです。なぜか。政府が委任の事実について証拠を出してきちんと主張をしていないんですよ、裁判の場で。だから、福岡高裁の論法を許す、そういうすきをつくっちゃったんですよ。
そもそも、福岡高裁判決でも、この干拓
事業と諫早湾それからその近傍部以外の、まあ要は大部分の有明海の環境変化との因果
関係というのは認めていないんです。そこに来て、この諫早湾そしてその近傍部については、今申し上げたように漁業補償がきちんと成立しているんだと、妨害排除請求は認められないんだとするならば、開門請求が認められるような法的な余地がないじゃないですか。政府の、まあ言わば守備の穴、これをついて福岡高裁は判決を認めたということなわけです。
今、政府は、遅ればせながらではありますけれども、別の裁判の福岡高裁の場で委任の事実を主張、立証し始めたということは聞いていますけれども、この今確定している福岡高裁判決を許してしまったということは、私はこれは政府の重大なミスだと思うんです。ですから、その分、政府にはリカバーする責任があると思うんです。
そして、この漁業補償の在り方については、事実上大きな禍根を残すという問題点も私は指摘したいと思うんです。福岡高裁判決のこの論法を容認してしまうと、これまで国あるいは自治体がやってきた漁業補償の蒸し返しが幾らでも可能になってしまうんですよ。それに加えて、今後の補償についても一々個別の各組合員の方々と契約を結ばなきゃいけなくなってくる。もう膨大な手間暇が掛かります。そういう事態は自治体も非常に迷惑するでしょうし、農水省としても是非避けなければならないはずなんですね。何といっても、これは確定判決の理由なんです。判決理由になっているわけです。
現に、その開門請求を認めなかった長崎地裁においても、実は同じ論法で損害賠償請求を認めているんです。これは、私はこの漁業補償の在り方に非常に悪影響を及ぼしていくんじゃないかと、そういうふうに思うんですね。
福岡高裁判決の
内容については、これ以外にもいろいろ指摘はされているようです。しかし、私は今ちょっと絞って申し上げましたけれども、そういった事情、理由から、政府はこの際、開門しないという方針に転換した上で、この福岡高裁判決、確定判決との決着を付けるべきと、このように考えているわけですが、今回、自民党が政権に復帰をいたしまして、そしてまた、今この開門差止めの仮処分決定が下ったということで、その方針を転換する私は環境が今整ったと思っているんです。まさに時は今だと思うんですね。
そこで、林
大臣にお伺いしたいと思うんですけれども、地元との信頼
関係再構築の第一歩として、まずは福岡高裁判決を上告せずに確定させてしまったことは、あれは誤っていたんだということをまず率直にお認めいただきたいと思うんですけれども、いかがでしょうか、お伺いいたします。