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参考人(
駒村康平君) 慶應義塾の
駒村でございます。よろしく
お願いいたします。
最初にお断りしておかなければいけないのは、私は
財政学の専門家でもマクロ
経済学の専門家でも金融論の専門家でもないと。私のメーンは
社会保障、社会
政策という
分野でございます。そういう意味では、ちょっと今日のこの
調査会の御下問に直接お答えできるようなスピーチができるかどうか分かりませんけれども、これから
調査会が数年にわたって議論されていく
一つの切り口と、こういう切り口も、こういう議論の見方もあるんだなという材料を提案させていただきたいと思います。社会
政策、
社会保障というのはどちらかというとお金を使う研究を主にしておりますので、そういう意味ではちょっと、もしかしたらこの
財政再建という議論とうまく合うかどうかはやや心配ではございます。
それから、今、
青木先生の
お話もございましたが、今の
お話というのは、恐らく
経済学の中でも大論争になっている、
一つの問題になっている、いわゆる
主流派経済学と言われている、新
古典派経済学とも言われている
考え方、方法論的
個人主義とも言われているんですけれども、合理的な家計や
個人が集まったのが
経済だと、市場だと、こういう見方を取っているわけです。おまえはどうなのかと言われると、実は私は、方法論的には
経済学という手法を使ってはいますけれども、いわゆるミクロ
経済主体、合理的な家計の、あるいは
企業の
集合体が
経済だと、こういうふうに完全に割り切っているわけではございません。
当然、
経済学者の中には、サッチャー首相同様に、社会なんかないんだみたいな
考え方ですね、そういう概念なんか要らないんだ、みんな
個人の
集合体なんだと。あるいは人間特有の、人と人との
関係の問題、あるいは
制度が与える
影響、文化が与える
影響というのを非常に
無視して、非常に抽象化された理論フレームの中からいきなり
政策を出すケースが多いわけですね。私は必ずしもそういう方法論は取らないというふうに考えております。この方法論になると、答えは明確でありまして、市場メカニズムに全て任せればいいんだということになってしまいます。あるいは、私が専門としている年金についても、現在のような賦課方式の年金というのはそもそもあり得ないんだと、そんな仕組みなんというのは本来はなくて積立方式しか選択肢はあり得ないんだと、こういう答えになってしまいます。
私は市場が万能とは思っておりません。もちろん、私の
社会保障の
分野というのは、国、
政府の
役割は大変重要でございますが、もちろん、国、
政府が間違ったことをしないというふうに考えているわけでもないと。どちらも得意、不得意の
分野があるし弱い
分野があるんだろうと、これを補っていろいろな
経済政策が行われていくんだろうと思います。
それからもう
一つ、またこれも
青木先生とつながる部分もあるわけですけれども、
経済政策の目標とは一体何なんだろうということなんですけれども、これも主流の
経済学をやられている方は、
効率だけでいいんだ、成長だけでいいんだという
考え方でありますけれども、私は、この
社会保障という
分野をやっている以上、当然別の
政策目標も大事であると、そこは公平公正であり、あるいは安定であるというものも大事なんだと。
これも
ケインズ経済を、かつて
ケインズ経済が主流だった時代は、
経済政策の目標というのは、
経済成長あるいは
効率的な目標と、それから公正なあるいは公平な社会、そして安定している社会と、この三つをいかにバランスを取って
経済政策を運営するのかという議論が主流だったわけですけれども、これは私が昔、
経済政策をもう二十年も三十年も前に学んだころはそういう議論だったんですけれども、今はどちらかというと
青木先生おっしゃるように
効率一辺倒の方に向かいがちであるというのはかなり通じる部分もございます。
ただ、一方で、当然、国が
政策を行えば
国民は何らかの対応をすると。今の社会に対して
国民がどう感じているのか、何を不安に思っているのかというのも把握しなければいけないと。国に
政策あれば
国民に対策ありと言われているわけですから、
政策に対して
国民はどう感じてどういう不安を持っているのかというのを、少し今日、最初に材料を御覧いただきたいなと、こういうふうに思います。(
資料映写)
大変申し訳ないんですけれども、ちょっと手を動かしていただきたいのは、番号を振ってくるのを忘れてしまいました。したがって、後の議論のために、このページから番号一と付けていただければ幸いです。パワーポイントに番号を振ってくるのを忘れてしまいましたので、これはナンバー一というふうに見ていただきたいと思います。
そういう意味では、今日考えるのは、
景気、
雇用・労働条件、
経済成長、物価、
財政、医療・福祉に対する
国民の評価、危機感は、この二回の政権交代あるいは
デフレの期間どういうふうに揺れ動いたのかというのを御紹介したいと思います。
さらに、実は、こういう問題に対して社会が、有権者の年齢によって、
国民の年齢によって実は関心の強さがかなり違ってくると。場合によっては、世代間でかなり
認識のギャップが生まれているようなところもありますねと。それから、私の専門である年金を例に挙げながら、
デフレが続くとどういうことが年金
財政上起きていくのか、それが若い世代と高齢世代にどういうインパクトを与えていくのかということを御紹介してみたいなと、こういうふうに思っています。
以上、これがまず今日の概要でございます。
大体、どこに行っても、こういうスピーチをするときはもうどこかで二、三回話した話でして、四、五回話した話で、聞いている人が違うだけで私もスムーズに話せるわけですけれども、今日これは私も初めて話すような話なので、スムーズに話ができるか分かりません。詰まるところもありますけれども、御容赦ください。
これから使う資料は、これは二枚目でございますが、これから使う今映っている資料は、これ二枚目と番号を打ってください。ちょっと注意しなければいけないのは、表記が誤ったところがありますので、これも今から修正しますけれども、この
調査は、内閣府の社会意識に関する世論
調査ということで、毎年一月あるいは二月に
調査する項目であります。項目の中に、あなたは今現在の日本の問題で、いい方に向かっていると思いますか、その項目を挙げてくださいと、それから逆に、悪い
方向になると思っていますか、それを挙げてくださいと、こういう質問をしているので、これでいい
方向に思っている人と悪い
方向に思っている人の差を取ってみて、
国民全体としてその
制度、
政策に対してどっちに向かってどう評価しているのか、これがその間どう変化しているのかというふうに見てみたいと思います。
三枚目になりますけれども、ここから「度」が付いていますけれども、この度はちょっと、申し訳ない、取っていただければと思います。これは平成二十一年の二月に行った
調査というもので、度ではありません。ワープロが勝手に度を打ってしまいましたのにちょっと気付かなかったんですが。平成二十一年の二月の
国民の評価ということであります。
私が取り上げたのは、もちろんこの中には治安とか
国民の
考え方とか国防とかいろいろな
政策が聞かれています。何十項目も聞かれているんですけれども、私は、この
調査会のために、
関係するだろうと思ったのは、医療・福祉だろうと、それから
景気であろうと、
雇用・労働条件であろうと、国の
財政の状況であろうと、物価の状況であろうと、
経済力に関する評価であろうと、こういうふうに幾つかピックアップをしております。
全部マイナスに出ているということは、
国民は悪い方に向かっていると、こう評価しているんだと。だから、下に行けば行くほど悪く評価をしているんだと。だから、平成二十一年の二月のころに
国民は何に対して一番大きく危ないととらえていたのかというと、
景気とそれから賃金の下落ということになるわけです。このときには
経済成長も非常に低い
状態でございました。それから、失業率はそんなに高まっているわけではないんですけれども、賃金上昇率が極めて低いような時期であったということですね。
この
二つが
国民は非常に敏感に感じているということと、これから同じパターンが出てきますのでこれも見ていただければ分かると思いますけれども、実は世代によって感じ方が違うと。非常に、若い世代は
景気とか
雇用に関しては危機感がどんとあるけれども、高齢世代は
社会保障に守られている分もあるわけですから余り、そんなに危機感が相対的には高くないという
状態になっていると。ただ、若いところは若干危機感が弱い
分野もあると。これはまだ一緒に家族と暮らしているので、学生だったりして、それほど
経済活動としてビビッドに反応しない可能性もある。大体、今、世帯をつくるのは三十前半ぐらいからつくりますので、三十前半ぐらいからのところは独立した
経済人になっているということなのかなと思います。
四枚目として、これは平成二十四年、この間、ほかの年も全部つなげてありますけれども、内閣府のデータが手に入る
範囲でありますけれども、それは後の資料に付いていますので、一応、平成二十四年というところを見ていただくと、ここでは
景気、賃金、
財政、この辺がやっぱり悪いままになっているということです。
二十五年になるとこういう形でなっているわけで、これだけ見るとよう分からんわけですね。どれが、何がどう動いているか分からないということになりますので、項目別で少し分け直してみました。今のものを項目別に見ると、こんな感じになるわけですね。
まず、
景気についてはどういうふうに評価が下がっているのかというと、これは
景気ですから六枚目ですか、番号が六枚目になる、ナンバー六が
景気になっていると思いますけれども、実はこの間、二十一年
調査以来のころからずっと下にいたんですけれども、どうもここはかなり、安倍政権発足後の一月はどんと変わってきているということ。これはほかのいろいろな
調査でも同じようなことが言われてはおりますけれども、どうも雰囲気はかなり変わってきている。期待が出てきているんではないかと。
景気回復に向けての期待、これは実体よりも先に期待が上がってきているんじゃないか。これは消費者動向
調査とかいろいろな市場のデータを見てもやっぱり期待はこういうふうな形で、この数年間に比べると大きく変わってきているように思えると。
景気についてはこういう感じだろうと思います。
次に、労働条件の方、これが、七枚目ですね、番号の七枚でありますけれども、これもかなりこの数年間に比べると期待は上がっていると。ただ、平成十八年に比べるとまだの
状態になっているということで、そこからぽんと上がってきているような雰囲気にはなっていますねということが分かるわけです。
次に、八枚目で、これは物価ですね。それぞれ
国民がどういう意味でそれを答えているのか、なかなかこれはそこまでは分かりません。物価についても、
デフレがいいと評価しているのかインフレがいいと評価しているのか、これは正直言って分かりません。
財政についてもどっちに評価しているのかは分かりませんけれども、これから
財政を見ますけれども、恐らく
財政については、
財政赤字、やっぱり膨らみ過ぎると問題なんだろうなと思っているんだと思いますし、物価についても、恐らくこれは
デフレが続くということに対してやはり余りよろしくないと思っている可能性があるわけでありますが、確かに物価の上昇が可能性が出てきたということで、評価もそういう意味では改善をしていると。平成二十五年かな、ちょっと色が私の方から見づらいんですけれども、に比べると大きく変わってきているということです。
財政はどうでしょうかということで、
財政の方は、九枚目が
財政になっていますけれども、
財政は実は余り良くはなっているとは思えないと。この辺は、その年その年にどういう状況であったのかというのは、事務局の方でこういう、巻末に資料がございますので、事務局の方で用意していただいたその巻末のピンク以降にその年その年の
経済状況や
財政状況といったものがありますので、それと照らし合わせながら考えていくと、過大な評価なのか、やっぱりそれはかなり
財政の膨脹に関してビビッドに反応したという結果なのか、これは大体傾向は読み取れるんではないかなと思います。
財政については
国民は依然として高い危機感を持っているということが分かるわけであります。
医療・福祉についてはどうだったのかというと、実は、これは平成二十一年の
調査がボトム、一番最悪の評価になっていると。これは、この二〇〇八年に後期高齢者医療
制度が発足して、スタートして、かなり批判が浴びたので恐らくぐっと下がっていると。その後、ほぼ、民主党政権時代を通じて、あるいは新政権のところも通じて徐々に評価は改善傾向になっていると。こういう
国民のいろいろな項目に対する危機感あるいは問題意識というのが持たれているということです。
要約すると、
経済項目については平成二十五年で大きく回復している、特に
景気への期待は二十一年から二十四年の雰囲気と大きく変化していると。平成二十五年の
調査では相対的に評価がまだ心配な
分野として残っているのが
財政と
雇用、これが非常に相対的には低い。それでも二十一年—二十四年よりは若干回復していると。ただ、構造問題である
財政への評価はやっぱり改善は遅れていると。医療・福祉は毎年今言ったように回復傾向であると。それから、中高年と高齢世代で危機感に大きな差があるものがあるというわけです。それは、物価と
雇用と
財政については特に二〇%ポイントぐらい中高年と引退世代で差が出てきているということであります。そういったことを、だから、年金なんかである程度守られている高齢者にとってみると、
景気やその問題みたいなものは余り反応は弱い、物価に対する反応は余り弱いということがあると思います。
あと、こういうのを今後どう考えていくのかということで、必ずしも
デフレ、インフレの話につながらないわけですけれども、世代によって
政策目標、
政策評価は多様であるということを考えて、じゃ今後
政策作るときに何にウエートを持っていくのか、どの世代にウエートを持っていくのかというのは考えなきゃいけないことになります。
もちろん、政治家の皆さんが、
国民の単に心配な方に向いた
政策をひたすら行うのではなくて、どういう社会をつくるのかという確固たるものが持たれて、こういう
政策を、社会をつくるんだということで説得していかなければいけないのは当然だと思いますけれども、しかし、先ほど申し上げたように、
社会保障の方で比較的、相対的には守られている、物価の
変動とか
景気の
変動に対して守られている高齢世代のウエートというのは、今後、有権者に占めるウエートというのはどんどん上がっていきまして、ここに出ているのは二〇〇九年の衆議院、二〇一二年の衆議院の投票率、年齢別投票率でウエートを取った有権者の構成比であります。
現在はこの辺ですので、まだ六十歳以上の有権者の割合は五割を下回っていますけれども、今後高齢化になることによってこの五割を大きく超えて、高齢者が、六十歳以上が
政策に非常に大きな
影響を与えていくと。そうなってくると、どうしても高齢者の方が利害
関係としては目先の議論に寄りがちになってしまうということ、あるいは
経済成長、
雇用の問題も相対的には関心が弱い、福祉充実の方にどうしても動いていってしまうと。
そういった
状態のままで年金はどういうことになっていくんでしょうかという話を最後に少ししたいなと思いますけれども、年金というのは御存じのとおり百年有限均衡方式、百年間の
財政収支をバランス取るようにセットされています。ただし、それをやるためには、保険料も上げないでそれを維持するわけですから、高齢化が進んだ分だけ年金は引き下げるということになるわけですね。ただし、その引き下げる条件としては、インフレのときしかやらないということになりますから、
デフレがずっと続いてくれると、マクロ
経済スライドというこの引下げが起動しないんですね。だから、
デフレがずっと続くと、高齢者はそっちの方が実は年金削られなくてラッキーになるわけであります。
そうすると一体何が起きるかというと、そのひずみは、仮に
デフレ分だけ年金が下げられても、マクロ
経済スライドが毎年〇・九%あるいは一%効かないことによるメリットが発生しますので、その分だけ実は若い世代に全部ツケを押し付けていくということになるわけですね。つまり、
デフレというのは、今の年金
制度の下では、
デフレというのは高齢者にとってみればメリットになって、できたらインフレになってくれない方がいいと。しかし、そのコストは全て若年世代に押し付けられていきますということになるわけであります。
デフレが起きることによってそのリスク、負担は若い世代、若い世代へとこの現行の年金
制度の中では構成されているというのがこの
デフレが続くことの
問題点だと思っています。
最後に、実際に最近の日本
経済がどういう状況になっていて、年金
財政上どういう課題があったのかというのは、これは厚生労働省の資料の十五枚目にありますけれども、これを見ると、実は
財政的にまずいのはこことここです。こことここは極めて
財政的にはまずい
状態になります。若い人の賃金が落ちているのに年金の落ち方がそれよりもちっちゃい、あるいは年金が維持されてしまいますから、それは当然、年金
財政的に危なくなっていきます。
これは実際に、平成二十一年がこの
状態、ここでした。平成二十一年はこの
状態に陥っていたわけですね。そして、平成二十三年はここです。ここに入って、悪い
状態よりはまあまあ、ややましになったけれども、それでも実はマクロ
経済スライド、年金の給付の実質給付水準引下げは動いていないと。だから、若い世代にツケを回すという
状態は続いていると。
さすがにこの
状態は、長いこと遡ればもしかしたらこういう時代もあったかもしれませんけれども、さすがにこの時代はないですけれども、平成二十二年でもこの
状態です。平成二十二年でもここに来ているということで、これでもマクロ
経済スライドは効かないと。平成二十四年がこの原点にほぼ近づいているという
状態になっていると。
ただ、それでも物価上昇が大体一%以上出てこないと、賃金と物価が両方一%以上出てこないと実はマクロ
経済スライドは動きませんので、実はマクロ
経済スライドという年金
財政を長期的に安定させる条件というのは物すごく厳しいと、今の
状態では厳しいと。つまり、これは一%の上、こっちが一%の上で、まずここが一番マクロ
経済スライドが効いている部分になるわけで、実際のこれからのアベノミクスの効果を見ていくと、恐らく、うまく効けば、うまく
財政、このまま
政策が有効になっていけばこういう、若干もしかしたら賃金の方より物価の方がやや先に動いていって、それでその後、上のこの部分にたどり着ける可能性は出てきているわけだと思います。
ただ、今後の日本の
経済成長というのが名目的にそれほど安定したものになるかどうか分かりませんので、これがまた、こっちがこっちに落ちればまた年金
財政は不安定になっていき、そしてそのツケは若い世代に全部押し付けるという構造になっているということですので、
デフレの継続というのは世代によって利害
関係が年金を通じても大きく発生しているということで、これを年金
財政上どうにかしろと、もしいうことになるならば、答えは簡単で、インフレでも
デフレでもマクロ
経済スライドをやればいいということになるわけですね。
デフレのときに年金を
デフレ分下げて、更に一%マクロ
経済スライドで下げるということですので、これはかなり政治的には負担が大きい問題になると思いますけれども、そのことによって年金
財政は
安定化して、若い世代のコストは軽減されるという効果はありますけれども。
一番いいのは、
デフレが、いかに防止するのかと、それは年金
財政上極めて重要だと。ただ、そういうことも起き得るんだと考えれば、
政策の選択肢としては
デフレでもマクロ
経済スライドを効かすと。ただ、その場合の政治的なコスト、それから、もしかしたらそのこと自体が
デフレをスパイラル化してしまう可能性もあるという問題も伴うということで、次のページにはその功罪というのを少しまとめてみました。
マクロ
経済スライド以外に何かあるのか、方法はあるのかという話は、もし今日そういう議論がありましたら次のページの方に用意はしておりますけれども、取りあえず中心の話は以上にさせていただきたいと思います。
どうもありがとうございました。