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参考人(
土居靖範君) おはようございます。
立命館大学の経営学部の
土居なんですけれども、大学では
交通システム論とか
交通政策論あるいは
交通まちづくりとか、そういった授業を担当させていただきながら研究も同時に並行的にやっています。
今から三十年ほど前に勤務し出したんですけれども、ちょうどそのころに、お手元のメモの四ページ、五ページのところに挙げていますけれども、フランスで国内
交通基本法というのが制定されたということが話題になりまして、
交通基本法自体も初めてだったけれども、その中に
交通権というタームが入っているということで、それで関西における
交通研究所とか様々な人が取りあえずその研究を始めないかぬということになりまして、そのとき、関西の大阪市大とか立命、ほかの
先生方も含めて
交通権を考える会という小さな研究会を発足させまして、フランスのこういう原文を取り寄せていろいろ翻訳をやってもらって、どんなことが書いているかとか、そういう形で
交通権を考える会というのが発足したのが今から約、この
交通基本法ができてからの一年ぐらい後なんですけれども、それで非常に面白い
政策だということが分かってきまして、それで学会ができているんです。余り小さな学会で
社会的にはインパクトがないかもしれませんけれども、
交通権学会という学会で、
交通を権利として探求する学際的、実践的な学会であり、一九八六年に発足したんです。
それで、そこの中ではもう実践的に、いわゆる
交通関係の
労働者の方も入りながら、
研究者も含めて、それから
地域住民の方も含めて、どういうふうに
交通を考えていったらいいかとかいうようなこと。それから、
障害者の方が車椅子で町に出たいと言われても、もうバリアフリーになっていなくて当時はなかなか出れない。それから、
障害者の方が私も外に出たいとか、様々な要求が分かってきたわけですね。そして、これをどういうふうにまたやっていったらいいか。そのとき、やはりモータリゼーションの様々な弊害も出てきていまして、そういうのをいろいろ研究する学会として
交通権学会というのが発足しまして、これ一九八六年で、私もその当時、研究会から引き継ぎまして学会活動に貢献してきたといいますか、いろいろ研究を重ねてきています。毎年一回、やはり学会ですから、各大学を持ち回りに発表会、大会というのをやっています。
それで、そういう
意味で、私の研究のルーツがフランスの国内
交通基本法だったもので、かなり
交通権というのに、かなりそういう形で、
実現という形で、ライフワークと言ったらちょっと語弊がありますけれども、何とか
交通権を我が国でも導入したいという思い入れが物すごくきついんですね。それで、そういう
意味で、様々な
交通権のことをこれまでもいわゆる「
交通権」という雑誌とか
交通権憲章とかでいろいろ発表しているんですけれども。
フランスの
交通基本法も、最初から国とかが
交通権を認めるという形で
目標としてあるので、それに国とかそういう
地方自治体はできるだけそれを保障できるように近づけていくといいますか、そういう
規定になっているんですね。最初からもう天賦のもので、与えられたものでなくて、国なりいわゆる
地方自治体がそれを
獲得できるようにいろいろ準備していくといいますか、そういうことがうたっていますもので、だからその点ではやはり
目標なんですね。だから、
交通基本法もやっぱりそういう
意味では
目標を高らかに掲げないと、この
目標自体が曖昧だと
基本法としての役割が果たせないんではないかという私の考えです。
それで、
一つ、この四ページのところに、
交通基本法を作るときの
目標というのが四点書かれています。これ、ル・モンドという新聞の記事らしいんですけれども、四点ですね、
目標の中の①人間性豊かな
社会進歩に
参加すること、②
社会的な効率性を
確保すること、③空間の整備に資すること、④
計画化と民主主義を調和させることと。こういった形でフランスで最初に、資本主義の国では初めて
交通権というのを取り入れたわけですけど、かなり高らかなことを考えながらそれを
目標にしてやっていこうという形で。
それからもう三十年たってそのフランスがどうなっているかということですね。
先生方いろいろ視察に行かれて、パリとかいろんな形の
都市を見られていると思いますけど、私もそういう形でストラスブルグとかリヨンとか、様々なフランスの
都市を見に行きますと、やはりそういう
意味では、すごく成功事例として、フランスの
都市が生き生きと人々が
移動できるような形になっていると思っています。
そういう形で、私の方の今回の
交通政策基本法に対するスタンスなんですけれども、主要な点、メモに戻りますけれども、三点の問題があるというふうに考えています。
交通権保障を盛り込んでいない、二点目、抜本的な
地域主権が盛り込まれていない、三点目、
交通安全対策
基本法とのかかわりで
交通安全面の追求上問題があるという形で、かなり大きな問題を
現行出されている
政策基本法にあるということで、
基本的にはこの成立に関して反対という立場を取っています。
今後の我が国の高齢、超高齢化
社会に
対応が非常に急がれている問題、本当にもう高齢者の人があふれ出て、本当に家にじっと閉じこもっているとか様々な問題があるのをこの
交通政策基本法では解決できないんではないかという形で考えています。
それでは、順次一ページの方から御説明したいと思いますけれども。
交通権を盛り込んでいない。先ほども言いましたけれども、今非常に高齢の方を中心に
移動の制約者の方があふれています。それは
一つは、これまでマイカー運転というのが前提にあって、
まちづくりにしても、マイカーがあるから郊外に住んでいいとか、マイカーがあるからスーパーでも遠くても郊外のモールとかに行っていいとなっていた方が、今は、七十五歳になったらやはりそういう
意味ではもう後期高齢者になりますし、家族も物すごく心配して、もう乗ってくれるなとか。家族がそれを支援していたらいいんですけど、かなりもう核家族化して独居老人が多くなっていますから、ほとんどもうそういう郊外のスーパーとかに行けなくなっているんですね。地元のそういう商店街も本当にもう寂れてしまって商品も置いていないとか。
公共交通があったら、そういうことで
バスとか
鉄道に乗っていってもいいわけですけど、それも非常に不便になってきたり、それから買物の帰りがまた大変なんですね。
バスが停留所に止まっても、それまた延々と荷物を持って帰らないかぬとか。そんなことが現実にもう日常の各
地域で見られるという、買物難民問題という形で言われていますけれども。
あとは、病院にも行けない。病院も、大きな病院が、立派な病院がありまして、それがまた立派だから新しく郊外の方に新設されてしまって、ほとんどそこにも通えないといいますかね。あとは、お風呂に行けない人も何かいてるみたいですね。もうお風呂屋さんがなくなって、都会でしょうけれども、入浴ができないとか。様々なそういう
移動の制約がたくさんなっているということです。
その
交通権というのは、
交通権学会でいろいろ
議論してこういうふうに文言としてうたっています。
交通権は
国民の
移動する権利であり、
日本国憲法の第二十二条、二十五条、十三条などの
基本的人権を
実現する権利だということなんですね。ですから、特にそれを
交通権という形で文言を明らかにしなくても、
基本的人権が保障されているわけですから、
交通権はちゃんと
国民にあると考えているんですけれども、そういう
交通権を高らかにうたうということがやはり今後の
日本の、我が国のそういう、
アジア諸国に対しても、やはりそういうリーディングカントリーとしての
理念という形では非常に大事ではないかと思います。
やはりフランスが、EUに関して物すごくインパクトがあって、ほかの
スウェーデンとかいろんな国に対しても、イギリスとかに対しても、やっぱり
交通権の保障、実質的なことをちゃんとほかの国も横並びでやっているわけですね。ですから、同じように
日本でも
交通権というのを高らかに打ち立てて、中国とか韓国とか様々な、ベトナムなどに関してもそういう
交通権の保障を、
日本でもちゃんとやっているように、そういう経済発展の中で取り残された人を救うといいますか。
それで、
交通権のモデルというのが図の一に書いていますけれども、ひとつこういう形の
理念ですね、盛り込むべきではないかと考えています。
理念があって、あと下の方に
交通関連の個別法といいますか、それも整合性あるものにするという形で、全て
日本のこれまでの
交通関係の分野を整合性あるものとして統一化した再編をすべきではないかということが。
まず、
理念のところでは、これはあくまでも
一つの案ですけれども、国及び
自治体は
国民が自由に
安心、安全に
移動できる権利を
基本的人権として保障する
責務を負う、二、全ての人と環境に優しい
交通の
実現、三、それぞれの
交通手段の長所を生かし
連携した効率的な
総合交通体系の
実現、四、
地方交通に関する権限と
財源を基礎
自治体に全面的に移管する、すなわち
地方主権の確立といいますか、そして、それぞれを
実現するためのこれまでの個別の在来法とか新しい
法律を総合して抜本的に再編を図る、こういったイメージで今後あるべきではないかと考えています。
次の二ページに行きますけれども、
地域主権が盛り込まれていないという点です。
やはり
交通というのはいろんな局面で、国際
交通とかありますけれども、
国民の一番の
交通の行動の多くは、日常的には
生活圏といいますか、
生活圏で行われています。ですから、その
生活圏の一番身近なところにある
地方政府ですね、そういうところが
地域の住民のまず
交通要求とかいろいろな事情とかも様々知っているわけですから、ですから、やはりそういう
意味で、
地域固有のいろいろな事情をきめ細かく
対応するためにはやはり
地方政府自体がその第一線に立つべきではないかという、そういうコンセプトで。
非常に
地域交通に関してはそういういろいろな
施策が、各
自治体はいろいろな
施策を持っています。医療とか福祉とか教育、
観光、商工業、縦割りの、その
地域を発展させるために、福祉とか教育、
観光、商工業、それがなかなか現実にはうまくいっていないのが現実なんですね。先ほど挙げましたけれども、やたら郊外のところに立派な病院ができているとか、それから学校にしても統廃合で、立派な校舎ですけれども、そこに通うのにも親御さんが朝夕車で連れていっているとか、そういうこともありますので、やはり
公共交通を
投資として、その土台の方に
投資すれば全体の
自治体の
政策自体も
効果があるものではないかというふうに考えていますので、その辺が図の二のところに書いています。様々な
施策を作っても、
公共交通がなかったらばらばらになるということです。
それから、三点目の方は安全の問題なんですね。
この新しい
政策基本法では、
交通安全対策
基本法というのを書かれていますけれどもやはり昭和四十五年の
法律ですし、一定もう役割自体を終えて、
基本的には
交通基本法自体に入れ込むといいますか、そういったことが必要ではないかと思います。やはり安全問題ですね、
国民の
交通権にかかわります、そういう点では、やはりその安全を担保するのは
交通事業者とそこで働いている
交通のいわゆる
労働者ですから、そういう人たちの雇用とか賃金
条件とかをちゃんと保障していかないと現実には
交通の安全が担保できないのではないかということで、大きく三点の理由で今回の
交通政策基本法に関して私は反対の立場を取っています。
以上です。