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参考人(
冨山和彦君) ありがとうございます。
冨山でございます。
まずは、本日はこのような機会をちょうだいしたことを深く感謝しております。
産業競争力強化法という重要な
法案について、微力ながら
委員会の
審議にお役に立てれば幸いと存じます。
私は、ちょうど今から十年前は
産業再生機構というところにおりまして、
政府部門だったわけですが、当時は
産業再生が今回は
産業競争力強化ということになったので、そういう
意味でいうと、すごく十年たって前向きな
議論ができることをそういう
意味でもうれしく思っております。
とりわけ、今回の
法案は全
産業を展望した
競争力強化の
条件整備という非常に大きな
法律でありますので、そういった
意味でも、私もちょっと
政府部門にいた関係で、
法律を作るのがいかに大変かというのは、ちょっとかじったものですから、これだけの短期間でこれだけ大きな
法律を準備された各位の皆さんの御尽力には心より敬意を表したいと思っております。
まず、中身に、ちょっと総論的なことに入っていきたいんですが、実は
産業的な話は
伊丹先生、私、大ファンなものですから、ほとんど本を読んでいるものですから似たような話になっちゃうんで、ちょっとそこはできるだけ省きます、
重複になるところは。
ただ、
幾つか述べておきたいのは、まず、アベノミクスの三本目の矢と言われているものの担い手は、もうこれは明々白々、
民間企業でございます。これは明らかでありまして、要は、今回の
産業競争力強化法案の評価というのは、そのための
環境整備あるいは
フレームワーク整備になるかどうかというのが多分
基本的な論点だと思っています。
そういった観点でいえば、
規制改革の
議論とか新陳代謝とか、あるいは一部
税制、
税制はちょっと微妙なものもありますが、ちょっとターゲティング的なにおいがするのであれですけれども、
基本的には
フレームワーク型になっているということは私は高く評価しております。
ちょっと
フレームワークの
議論をしましたが、私はいわゆる古典的な
フレームワークポリシーというのは余り賛成していない立場でありまして、
インダストリアルポリシーというのは余りサポートしていませんで、むしろ
ターゲテッドフレームワークポリシーみたいな方が正しい言い方ではないかという気がしております。要は、むしろ実際その
企業がどの領域で自由かつ闊達に
イノベーションを志向するような活動をしやすくするかということが実は大事な問題で、そういった
意味合いでいうと、
ターゲテッドフレームワークポリシーという
立ち位置が正しいと思っておりますので、
基本的には今回の法はその枠内に入っていると思っております。
これもちょっと
伊丹先生の話とかぶりますが、
民間企業の
底力、実は非常に
日本の
企業はレベル高いです。失われた二十年間であるとか
バブル崩壊後の
三つの過剰を克服するとか、あるいはデフレの中の円高等の逆風とか、あるいはリーマン・ショックやら
東日本大震災と、もう大変な厳しい
環境を生き残ってきた
会社が今
基本的には存在しているわけで、本来
底力は強いと思っています。ただ、結果的に今、
トヨタみたいな、さっきもありましたように、
グローバルトップに加えて、
ニッチトップの高収益、高
成長企業群というのはまさに
複雑系のところにいっぱい実は存在します。そういった
意味で、
ポテンシャルは高いと思っています。
ただ、問題はその
ポテンシャルをどう引っ張り出すかという、実際の
雇用や賃金にしていけるんですか、あるいは
企業の価値に転換できるんですかということが問いなわけで、そういう
意味でいうと、そこは今まさに課題になっているということであります。
ちなみに、ちょっと
環境論で申し上げると、私は別にまた
日本の
企業には追い風が吹いてきていると思っていまして、
一つは、
新興国経済と
企業はいわゆる中
進国のわなにはまりつつありまして、明らかに
変調モードです。私はあのままずっと行くと実は思っておりません。それから、
デジタル革命と言われているものも、いわゆるラディカル
イノベーションといって、一人の天才的なお兄ちゃんが
世界変えちゃうという段階はそろそろ過ぎていると思っていて、だんだんと連続的な
イノベーションといいましょうか、むしろ複雑化する、洗練化する
プロセスに移ってきていますので、どっちかというと
日本企業は得意な領域なので、これは追い風かなと思っています。
それからもう
一つ、これは皆さん御存じのように、
世界の課題解決型
産業というのは、いわゆる医療、介護とかのヘルスケア、ライフケア、あるいは
環境エネルギーといった
分野です。こういった
分野の製品や
サービスは、結局のところ、これも
伊丹先生の話とかぶるんですけれども、要は複合
技術的な、あるいはメカトロ的なすり合わせ系、
複雑系なんですね。これは本来、
日本企業のお家芸でありまして、これは製品にせよ
サービスにせよ
日本企業のお家芸です。それから、かつ、そのホームマーケット、
日本のホームマーケットがまさにその大規模な課題最先端市場になるわけで、そうすると、問題は、これらの市場あるいはその市場の
競争のルールのデザインというのがどれだけ上手にできていて、
日本企業がより闊達に
競争し
イノベーションを起こしていく、あるいは、さっきありましたけど、ダイナミックな淘汰、再編が起きていくかというのが、多分これが鍵なんだと思っています。
ただ、こういった市場が難しいのは、素朴なレッセフェールで機能する市場でもないので、要は社会保障関係の市場であったりとか、いわゆる貿易財のように割と素朴にレッセフェール、まあ貿易財でさえもさっきの
議論でいうとそう簡単にレッセフェールで機能しないという
お話でしたが、そう簡単に機能する市場ではないので、それをどういうふうに上手なルールデザインをしていくのかというのが非常に重要な鍵になると思っております。
これはもう皆さん共有しているように、二〇二〇年に東京にオリンピックがやってまいります。そういった
意味でいうと、こうした領域を
中心に
日本企業が、
日本はもちろん
世界で金メダルをどれだけ取れますかというのが非常に重要なテーマになるわけで、私は相当数の
日本企業はもう一度金メダルを取り戻すことができると思っているので、是非是非今回の
法案がそういった活動をスタートする
環境整備になればいいなと思っております。
ちょっと各論に入っていきます。
まず、今回の
法案の中身で言うと、
一つの目玉はグレーゾーン解消制度と
企業実証特例制度関連になります。いわゆる抽象的な
経済学の
議論はともかくとして、私のような
経営をやっている人間の現場感覚の
経済学で言うと、よく需要サイドか供給サイドかと
二つに割る
議論はぴんとこないわけでありまして、要は、ちゃんと需要をつくり出して、それと供給がバランスして初めて
会社も
企業も
成長するわけで、そう考えますと、大事なことは、新たな需要創造と同時に新たなビジネスモデルや
産業創造をしていくような市場のルールになっているんですか、どうですかというのが
基本的な問いだと思っております。
そこで、問題なのは、ちょっと先ほど申し上げましたが、規制の強弱というよりは規制の出来不出来と予測可能性、透明性が大事だと思っています。ですから、何かやってみたら実は違ったとか、OBぐいが刺さっていなかったのに、飛んだら、いや、実はOBですと言われると、これ一番困るわけで。かつ、規制を弱めればいいという単純な話でもなくて。
実は、私どもの
会社、東北地方で今五社ほどのバス
会社を
経営しています。バス
会社の関連で、例の高速ツアーバスの問題が出てきて、規制がまた変わって、今新高速乗り合いバスという形に変わっています。これは、実は割と乱暴なルールにしちゃった典型的失敗例なんですが、結果的に何が起きたかというと、私どもがやっているようなちゃんとした路線バスの
会社とそれから後から参入してきたツアーバスの
会社と実質的に
競争上のいわゆるレベル・プレイング・フィールド、イコールフッティングになっていなかったという問題です。全く違う条件で同じ高速道路を走っているバスが
競争しなきゃいけなかったということになっていて、要は結果としていろんな事故が起きているわけですが、これに関しては今回の新高速乗り合いバスのルールの方が私はよくできたルールだと思っています。要は、完全に平等な条件でお互いに創意工夫を切磋琢磨するというルールに変わっていますので、ですからこういったことは
一つ大事なのかなと思っています。
あと、例えば今後、予防、医療、介護のすき間にいろんな
産業が出てまいります。あるいは、ビッグデータ関連でも、多分ビッグデータを活用するということになると、恐らく個人情報保護法との関係でいろんな問題が出てくるはずで、そうすると、これいわゆるグレーゾーンなんですね。そういった領域で自由闊達に
事業を起こすということになると、やっぱりグレーゾーンをいかに解消するかというのは非常に大事な問題です。
企業というのはもちろんいろんな
会社があるが、大半の
会社というのは非常に真面目でございます、
日本企業というのは。コンプライアンスに対しては
基本的には真面目です。そうすると、グレーゾーンがあると、グレーゾーンはやっぱり黒とみなして行動しますので、そうすると、このグレーゾーンをクリアにするというのは、こういった領域で新しい市場、新しい
事業をつくる上で非常に重要な
役割を果たすと思っています。
もう
一つ、こういう時代のレギュレーションが、私はこれをスマートレギュレーションという
言葉と一生懸命あちこちで言っているんですが、要するにスマートなレギュレーションがいいわけで、ところが、市場というのは、事実は小説よりも奇なりで、スマートかどうかというのは実はやってみないと分からないところがあるんですね、そのルールがどう機能するかというのは。以外な機能をする場合が多いわけです。要は一生懸命考えていろいろなシミュレーションしてもですね。
そうすると、やっぱりある種の社会実験的アプローチというのがどうしても有効な方法にならざるを得ないということなので、そういった観点からすると、この
企業実証特例制度のようなアプローチも
一つの有効な考え方、要するにある種の特区的アプローチですが、これも非常に
事業化の有効なアプローチなので、仮にこれ弊害が出てきてもすごく限られた状況でしか弊害が出てきませんし、それは途中でやめちゃえばいいわけですから。そういった
意味で、こういった仕組み、グレーゾーン解消制度も
企業実証特例制度も
意義は私は大きいと思っています。
ただ、問題はこれが運用面でも
本当に使いやすくなるかどうかでありまして、
法律というのは運用が全てですから、これが簡便で迅速でクリアな運用がされないと、要は張り子の虎になってしまいますので、
法律の段階はこれでいいんでしょうが、問題は、実際どういう運用がされていくのかと。これはもう行政サイドでやっていくわけですけれども、そこが一番大事なところなので、そこを是非是非国会の方からもウオッチしていただくとうれしいなと思っております。
それから次に、新陳代謝の促進の話に話題を移します。
持続的
成長にとって、新陳代謝の重要性は論をまちません。ところが、この新陳代謝、要はコンソリデーションが非常に大きな要素なんですが、このコンソリデーションに関しては、要は弱体化している、あるいは負け戦になっている
企業が撤退して、あるいは
事業を売却して
事業統合が起きていくという
プロセスに関しては、今、
伊丹先生からありましたように、実はこれは市場が完全に失敗をしております、
日本の場合は。
どう失敗しているかというと、いろんな
理由があるんですが、このコンソリデーションの
議論、私も随分かかわったことがありますが、大手
企業さんの皆さんはかなり早い段階からコンソリデーションが必要だと頭では分かっているし口ではおっしゃいますが、大前提は、自分の
会社が他社をコンソリデートすることが前提になっているんです。死んでも自分の
会社の
事業を売却するのは嫌なんです。そうすると、結局みんな買い気配のまま、MアンドAが成立しないまま、
本当に追い詰められてどうしようもなくなってから、しようがないから切り出しをしようかということになるんですね。これはやっぱり明らかにある種の市場の失敗なわけで、そこをどういうふうにスムーズに進めていくかというのは、あめとむちと両方とも必要だと思います。
ある種、今回の
政策の中にあめは入っているんですが、それだけでは私は十分じゃないと思っていて、やはり
企業の側の選択と集中をめぐる
経営規律やガバナンスがちゃんとしっかりしていないと、結局、
企業の中の空気と、要するに
日本の
会社って村型社会なので、その村の中の空気としては、自分の仲間の何割かの人がよその
会社に買収されて、勝っている
会社のところに何か引き連れられていっちゃうというのは物すごい抵抗感があるので、結局、もうしようがないよねというところまで追い詰められて初めてそういうリストラというかコンソリデーション、
事業売却をやるんですね。
これも、やっぱり村の空気に流されてそういう不作為が進むというのは
日本の
企業の典型的な負けパターンなので、これについては、やっぱりガバナンスを含めた
企業経営の在り方、統治の在り方というものを見直していかないと、結果的にだらだらとやって、みんな負け戦になって
雇用を失うということを今後も繰り返すことになるので、そこは是非是非この
法案に加えて考えていっていただきたいと思っております。
経
済同友会の中でも、これも皆さん御存じかもしれませんが、
産業競争力会議の中で坂根さんがおっしゃっていたドイツのシュレーダー改革なんかはそういった
意味で非常に
一つの
参考になるアプローチですので、そういった
議論もしていただければうれしいなと思っています。
それから次に、
ベンチャーです。
ベンチャー育成の件も、随分、
伊丹先生に先に言われちゃったので余り言うことないんですけど、大事なことは、
世界に打って出られるような
ポテンシャルを持っているメガ
ベンチャーをどうつくるかというのが非常に大事な課題で、これは結局、本格的な
技術ベースのグローバル
ベンチャーということになります。やっぱりこの規模のものが出てこないと、さっき申し上げた
世界での金メダルにつながってこないというのが
一つの課題です。
雇用もまとまったものが出てきません。
それからもう
一つは、ただ、これを、
日本というのはいろんな
意味で社会
環境がシリコンバレーとは違いますので、
日本型の、どうやったらそういう、エコ
システムですね、そういうものが継続的につくられる
システムをつくれるかというテーマです。
それで、実はここも鍵は、
一つはやっぱり
人材の問題です。これももう先生おっしゃったとおりで、一生懸命お金を用意する側を
中心に
日本の
ベンチャー政策は打ってきたわけです。その結果として、一番お金を持っているのは大手金融機関ということになるので、大手金融機関の関連
会社に
ベンチャーキャピタルをつくってもらってきたわけです。
ところが、大手金融機関に勤めておられる皆さんというのは、
基本的にはこれ、ローン、お金を、銀行業をやっているわけで、銀行業というのは金融機関の中で最もリスクアバースな、要するにリスク回避的な
タイプの金融機関です。
ベンチャーキャピタルというのは金融の中では最もリスクシーキングな、リスク寄りに偏った金融機関といえば金融機関なんですね。ということは、一番最も向いていない人たちに向いていないことをやらせているということになります。これは別に優秀、優秀じゃないの問題じゃなくて、
ベンチャーキャピタリストに銀行業をやらしては駄目です。とても危ないです、逆な
意味で。ですから、非常にミスマッチが起きているわけで、ここをどう解消していくかというのが
一つの鍵です。
ですから、今後、
ベンチャーキャピタルをもしもう一度育成し直すということをゼロベースで考えるのであれば、
日本に必要なのはアーリーステージのハンズオン型のVCモデルです。要するに、アメリカのクライナー・パーキンスはみんなそうなんですが、こういうところはどういうところかというと、
基本的には超トップエリート、ほとんどが博士を持っている人たちです。超トップエリートでかつプロフェッショナルでかつ独立型の組織です。ですから、独立共同
経営型のモデルですね。大体その持っている資本力というのは、やっぱりこれ、本格
ベンチャーというのはお金が掛かるので、そこそこのやっぱり数十億のお金を大体集めるわけです。
そうすると、問いは、
日本でも
幾つか出てきています、そういうプロ集団の独立系の
ベンチャーキャピタルが。そういう人たちがどうやったら四十億、五十億のお金を集められるような社会
環境をつくるのかというのがチャレンジです。要するに、本格
ベンチャーって、何千万だとちょっと話にならないので、
一つ一つの案件が。大体アメリカでIPOまで行っている、いろいろな
調査があるんですけれども、
一つの
調査では、IPOまでに大体十億円必要とされると言われています。そうすると相当なやっぱり
投資規模なんですね。となると、かつ、それを今申し上げたようなハンズオン型のプロの人たちがしょっているという状況をつくらなきゃいけないわけで、
日本では、今非常にこのケースは少ないです。ということで、これをどうつくるかが鍵だと思っています。
それから、あと
三つ目、ちょっとこれは今日は詳しくは述べませんが、今回の
法案で一部触れていますが、もう
一つ、ちょっとこの後、是非是非
政策上突っ込んでほしいのが、
サービス産業掛ける
中小企業掛ける地域
企業の問題です。
これももう皆さん御存じのとおりで、
日本の
会社の九九%は
中小企業です。
雇用の七〇%も
中小企業です。実は第三次
産業で働いている人がやっぱり七〇%なんです。ですから、この掛け算のところが実は低賃金、低生産性のところでありまして、かつ
企業による生産性のばらつきが非常に激しくて、かつ地域の
雇用はほとんどこの
企業が支えております。
ちなみに、ちょっと私どもが今バス
会社をやっているということを申し上げましたが、今うちは福島と茨城と岩手県と栃木県で三千五百人ぐらいの
雇用を維持しております、バス
会社です、地域の。おかげさまで、ちゃんと利益を上げている、かつちゃんと正規
雇用でちゃんと給料も払えるバス
会社になっていますが、要は、みんなこれ、前、
会社がおかしくなっちゃったケースです。要は、大事なことは、自分で言うのはちょっと言いにくいんですが、しかるべき
経営者の下で
経営をしていけば、典型的なもうからない
産業と言われている地域のバス
会社もちゃんと黒字で
経営できるということであります。
ということなので、実はこの
議論についても、ここはこれからの
議論ですので、実はこの七〇%のところにそのアベノミクスの効果が及ばないと
本当の
意味での持続的な
経済成長につながりませんので、そこを是非是非今後
議論してもらいたいなと。
最後に、今回の
法案の中で、
日本再興戦略の実行計画の閣議決定とPDCAの枠組みというのが設定されることになった、これは非常にすばらしいことだと思っております。同友会でも以前から、やっぱり
政策のPDCA、この持続性、継続性が極めて大事だと。特に、
経済成長というのはオーバーナイトサクセスはないので、やっぱり持続性が大事なので、これはたしか国会も今回かかわるような形になっていると伺っていますが、是非是非これは実際に実行していただけるとすばらしいなと思います。
以上でございます。