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参考人(
藤井克徳君) お手元の私の
発言の骨子と、それから
資料集を参照願います。
私は、
日本障害フォーラム、
JDFの
立場を代表して
発言させていただきます。
JDFの紹介はお手元の
資料にございますので割愛させていただきます。なお、その
資料集の中に
JDFとこの
権利条約との
関係についても
資料が入ってございます。御覧ください。
今、この
障害者の
権利条約の
批准が近いという中で、私は
二つのシーンが思い起こされます。
一つは、
国連でのこの
権利条約の審議の特別
委員会の最終日の光景であります。二〇〇六年八月二十五日、この日は金曜日でした。時計の針は午後、二十時をちょっと回る前だったんですけれども、このときに、全会一致で特別
委員会としての採択がなされました。その瞬間、大きな歓喜の声、そして足踏み、口笛、これが議場全体を埋め尽くしました。私は目が見えませんものですから、この議場の揺れ動く空気、これを感じておりました。恐らく、そこに居合わせた者の全てが新しい時代の到来を予感したと思います。
もう
一つのシーンというのは、これは二〇〇九年の三月五日の緊迫した一日でした。翌日の閣議決定を目前にして、この
条約の
締結の
承認を求める案件、これをめぐって大きな変化がありました。結果的には、与党の勇断をもって、
政府の勇断をもって閣議の案件から外されました。今にして思えば、あの後の
障害者政策の推移をずっと見ていきますと、やはりあの判断は誤っていなかったというふうに思います。この場を借りて、当時の
関係者の勇断に感謝を申し上げます。
さて、私はここで
JDFを代表しまして改めて申し上げます。それは、今
国会において、この
権利条約の
批准を何としても実現してほしいということを申し上げます。
無論、今までもありましたように、現行の
国内法制が全て
条約の水準を達したとは思えません。また、公定訳、この翻訳に関しても問題があるというふうに思っております。むしろ、まだまだ
課題がいっぱいあるというふうに考えていいと思います。
しかし、
制度改革のこの間の経緯の中で、私
たちは懸命にこの
条約とのギャップをうずめてまいりました。そして、むしろこの段階では、
条約に法的な効力を持たせていく、あるいは政治的な効力を持たせていく、このことがこの国の
障害者政策の発展には近道であるという判断に立ちました。そういう点でいうと、要件を完全に満たしたという
意味ではなくて、むしろ期待を込めてこの
批准を
促進してほしい、これが私
たちの、あるいは
全国の
障害関係者の偽らざる心境だと思います。
本論に入りますけれども、私は私なりにこの
条約の総括的な観点を述べたいと思います。時間の制約もありますので、
二つに絞ってこのすばらしい面を述べたいと思います。
一つは制定
過程におけるすばらしさです。
先ほどもありましたように、
ナッシング・アバウト・アス・ウイズアウト・アス、私
たち抜きに私
たちのことを決めないで、このことを
国連の議場で実践したわけです。本来、
条約の制定というのは
政府間交渉でありますので民間が入る余地はないと思いますけれども、
国連の特別
委員会は、
権利条約の主人公である
障害当事者の代表を
発言に招いてくれました。この
国連の議場にしみ入るような
ナッシング・アバウト・アス・ウイズアウト・アス、これは私
たち日本の二百人を超える傍聴団、派遣団の耳に響き、これは本物だという実感をだんだん深めてまいりました。
もう
一つ、これは
内容面のすばらしさです。
先ほども
尾上参考人からもありましたけれども、他の者との平等を基礎として、このフレーズがしきりに繰り返されます。私の計算では三十四回繰り返されています。そして同時に、このフレーズはこの
条約の全体に通底している心棒のようなものだと考えております。この
条約には、
障害者に特別の
権利あるいは新しい
権利ということは一言も触れていません。専ら繰り返しているのが一般市民との平等性であります。このフレーズこそがこの
条約の生命線であろうと、私
たち障害当事者からしても我が意を得たりの思いを強くし、この上ない共感を覚えます。
この他の者との平等を基礎としてということから見て、我が国の実態を少し考えてみたいと思います。つまり、一般市民とまだまだ格差がある実態について、四点ばかりかいつまんで紹介させていただきます。
第一点目は、あの東
日本大震災において、
障害者の死亡率が全住民の死亡率の二倍に及んだことであります。
あれほどの震災であり、ある程度の被害はやむを得ないでしょう。しかし、二倍というのは余計な数値であります。天災という要因の上に
障害での不利益をもう一枚重ねたこの
障害ゆえの不利益を、私
たちは天災とは区別して人災と呼びたいのです。東海、東南海トラフの中で新しい震災が心配されています。また、異常な大規模台風によって風水害も現実味を帯びつつあります。まず
政府はこの二倍という数の検証を進めていただき、
条約の発効後、この二倍の不利益がないようにしていくということを求めていきたいと思います。
二つ目の問題現象、一般の市民とは違う問題現象を紹介します。それは、
障害者の所得が異常に低いということです。
一つの実態
調査を基にして説明させていただきます。
調査主体はきょうされんであります。
全国社会就労センター協議会の協力等を得まして、
福祉的就労に従事している者一万人余のデータを集約しました。これによりますと、
障害基礎年金、そして作業所の工賃、また親の仕送り、小遣い等を合わせて、全ての年収がこの国の相対的貧困線、百十二万以下という年収ですね、これを割っている者が八五%に上ります。国民全体の貧困率は一六%、これから見ると余りにも低いと言わざるを得ません。
と同時に、もう
一つ深刻なのは、こういう異常な低収入の中で、結局は家族依存、あるいは家族負担で
地域生活が維持されている。二十代で九〇%が家族同居、三十代で七七%が家族同居、四十代で六三%が家族同居、五十代にして、もう親も超高齢です、なお三六%が家族同居という状況にあります。これは、先ほど
川島参考人が言っていました第十九条の
内容と、恐らくこれに抵触すると思います。
三つ目の問題現象は、
社会的入院、
社会的入所の問題であります。
今日は、
社会的入院、
精神障害者の、これに焦点を当てようと思います。この
社会的入院の要因の
一つである在院日数、これが非常に長い。お手元の
資料でいいますと、お手元の
資料の九
ページに書かれています。一番新しい厚労省の病院
報告の
調査によりますと、精神科の平均在院日数は二百八十三・七日、これに対して一般病床、一般病院の一般科の平均在院日数は十六・七日、これを見ても異常に長いことがお分かりかと思います。あのナイチンゲールがかつて言いました、致命的な病気の大多数は病院でつくられると、まさにそういう感じを受けるわけであります。
さらに、この
社会的入院の大きな温床の
一つは、やはり病床数が多いということであります。お手元の
資料にも、これは八
ページになりますけれども、このようにして異常に多い病床数がほぼ横ばいでこの間何十年も変わっていないということであります。これらも第十九条に抵触するのではないでしょうか。
さらに
四つ目には、一般の市民との格差だけじゃなくて
障害種別間の格差が、あるいは
障害の中での格差があるということであります。これは谷間の
障害と言われている問題。高次脳機能
障害、発達
障害、難病等については、まだ完全には
障害者施策には包含されてはいません。難病につきましては、特に医療面では一部
障害者施策に入ったとはいっても、また別なコースを歩まざるを得ない状況が近づきつつあります。
また、お手元の
資料の
最後の
ページ、十
ページになりますけれども、同じ
障害者でも、一般
雇用と
福祉的就労では二十倍もの工賃、賃金の差があります。さらに、JR運賃等の交通費等の割引
制度は、
精神障害者等は置き去りにされております。
こうして、
障害の種別やあるいは程度別、男女別の格差がありましたけれども、昨今では年齢による格差がまた顕在化しつつあります。とりわけ十八歳以下の
障害児に対しては不十分な面が多いと言われていましたけれども、加えて、六十五歳を超える
障害者の問題が深刻化しつつあります。六十五歳を超えますと、
障害者政策が消える、高齢者
政策に言わば併合させられる、こういう問題も起こってきています。
以上、こうして述べてきたように、様々な
障害者をめぐる問題がございますけれども、こういった問題に対して、近々
批准される、あるいは発効後の
権利条約がこれにいかに効果的にこたえられるか、これは大きな期待を集めております。
最後に、この
条約の発効後、速やかに取り組むべきテーマを三つばかり述べさせていただきます。
一つは、第三十一条ですね、
条約の。ここには何があるかといいますと、
統計、そして
資料の収集。この国の
障害分野の
資料は極端に貧困な状況に置かれています。少なくとも一般市民の
生活水準との比較、また、
日本と同じような力を持っている、経済力を持っている国の
障害者政策との比較、さらには過去との経時的な比較、そして何より
障害当事者の
ニーズとの比較、これらが可能になるような
調査あるいはデータの集積を求めていきたいと思います。
さらに、この国には
統計法という
法律があります。残念ながら、この
統計法に基づく正規の
調査は一度も
障害分野は行われてはいません。
是非、
統計法にのっとった正規の
調査をこれも行う必要があるのではないでしょうか。
二つ目は、先ほど
尾上参考人が言っていましたように、第三十三条、これは
条約の実施及び
監視であります。この中で、とりわけ
条約履行後の実施の
促進、
保護、
監視、一体これはこの国のどの行政部署が担うんでしょうか。当面は
障害者政策委員会、
障害者基本法にのっとっています、これの
改正を含めて、ここを強化していくことを希望いたします。と同時に、
内閣における
障害担当部署の予算面と人員面の裏打ちを含めた体制強化を希望いたします。
三点目、これは
条約第三十四条の
障害者権利委員会について、
国連の
権利委員会に
日本の代表を送ることです。しかし、これについては選挙でございますので、これは結果は分かりません。しかし、
日本の
政府と民間を挙げて、また立法府のお力も得ながら、
是非とも立候補の条件を早期に整えていく必要があろうかと思います。
締めくくりに当たりまして一言申し上げます。
それは、この
条約の
批准を見ることなく先立たれた多くの
関係者への謝意であります。今日のこの日を恐らく非常に喜んでいるのではないか、
批准の日を楽しみにしているのではないかと、こんなことを申し加えておきます。
条約の
批准が成った暁には、恐らくこの国は新しいステージに入ると思います。私ども民間の方も、これまでにも増してやはり
社会から信頼される存在と活動を続けていこう、そういう決意でおります。その上で、立法府に対して、そしてこの際、
政府や司法府に対しても
お願いがございます。それは、
権利条約に恥をかかせないでほしいと思います。
障害者権利条約に恥をかかせないで、このことを訴えて
発言を終わります。
どうもありがとうございました。