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2013-11-01 第185回国会 衆議院 法務委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成二十五年十一月一日(金曜日)     午前九時三十二分開議  出席委員    委員長 江崎 鐵磨君    理事 大塚  拓君 理事 土屋 正忠君    理事 ふくだ峰之君 理事 盛山 正仁君    理事 吉野 正芳君 理事 階   猛君    理事 西田  譲君 理事 遠山 清彦君       安藤  裕君    池田 道孝君       小田原 潔君    大見  正君       勝沼 栄明君    門山 宏哲君       神山 佐市君    菅家 一郎君       黄川田仁志君    小島 敏文君       古賀  篤君    今野 智博君       末吉 光徳君    鈴木 憲和君       高木 宏壽君    橋本  岳君       鳩山 邦夫君    平口  洋君       福山  守君    宮崎 謙介君       宮澤 博行君    簗  和生君       郡  和子君    田嶋  要君       玉木雄一郎君    横路 孝弘君       高橋 みほ君    西野 弘一君       林原 由佳君    大口 善徳君       椎名  毅君    鈴木 貴子君       西村 眞悟君     …………………………………    法務大臣         谷垣 禎一君    法務大臣        奥野 信亮君    法務大臣政務官      平口  洋君    政府参考人    (内閣官房地域活性化統合事務局長代理)      富屋誠一郎君    政府参考人    (警察庁交通局長)    倉田  潤君    政府参考人    (法務省刑事局長)    稲田 伸夫君    政府参考人    (法務省矯正局長)    西田  博君    政府参考人    (法務省保護局長)    齊藤 雄彦君    政府参考人    (国土交通省自動車局次長)            清谷 伸吾君    参考人    (公益社団法人日本てんかん協会会長)      久保田英幹君    参考人    (公益社団法人全国精神保健福祉会連合会理事長)  川崎 洋子君    参考人    (公益社団法人日本精神神経学会理事)       三野  進君    法務委員会専門員     矢部 明宏君     ————————————— 委員の異動 十一月一日  辞任         補欠選任   小田原 潔君     鈴木 憲和君   門  博文君     高木 宏壽君   三ッ林裕巳君     福山  守君   田嶋  要君     玉木雄一郎君   林原 由佳君     西野 弘一君 同日  辞任         補欠選任   鈴木 憲和君     簗  和生君   高木 宏壽君     宮崎 謙介君   福山  守君     三ッ林裕巳君   玉木雄一郎君     田嶋  要君   西野 弘一君     林原 由佳君 同日  辞任         補欠選任   宮崎 謙介君     勝沼 栄明君   簗  和生君     門山 宏哲君 同日  辞任         補欠選任   勝沼 栄明君     門  博文君   門山 宏哲君     小田原 潔君     ————————————— 十一月一日  裁判官の配偶者同行休業に関する法律案内閣提出第一二号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  政府参考人出頭要求に関する件  自動車運転により人を死傷させる行為等処罰に関する法律案内閣提出、第百八十三回国会閣法第五二号)      ————◇—————
  2. 江崎鐵磨

    江崎委員長 これより会議を開きます。  第百八十三回国会内閣提出自動車運転により人を死傷させる行為等処罰に関する法律案を議題といたします。  この際、お諮りします。  本案審査のため、本日、政府参考人として内閣官房地域活性化統合事務局長代理富屋誠一郎君、警察庁交通局長倉田潤君、法務省刑事局長稲田伸夫君、法務省矯正局長西田博君、法務省保護局長齊藤雄彦君及び国土交通省自動車局次長清谷伸吾君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 江崎鐵磨

    江崎委員長 異議なしと認めます。よって、そのように決定しました。  なお、本日、参考人として公益社団法人日本てんかん協会会長久保田英幹君、公益社団法人全国精神保健福祉会連合会理事長川崎洋子君及び公益社団法人日本精神神経学会理事三野進君に御出席をいただくことになっております。     —————————————
  4. 江崎鐵磨

    江崎委員長 これより質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。古賀篤君。
  5. 古賀篤

    古賀委員 皆様、おはようございます。自由民主党の古賀篤でございます。  本日は、ここ法務委員会で初めての質問の機会をいただきました。ありがとうございます。また、谷垣大臣奥野大臣平口政務官、また局長皆様方法務省皆様方、よろしくお願いいたします。  今回のこの法案でありますが、継続審議ということになっております。通常国会、六月の十九日の質疑、また二十一日には参考人の方をお招きしての質疑が行われたわけであります。それから四カ月がたっておりまして、今回質問をさせていただくに当たり、改めて議事録を読み返させていただきました。各委員皆様から多くの論点について質問が行われ、それに対し、谷垣大臣初め法務省の方、また関係省庁の方から丁寧な御答弁があったというふうに承知しております。  そこで、きょうの私の質問でありますが、その二回の質疑前提に立って、つまり、重複の質問は避けるということで質問させていただきたいというふうに思います。  それでは、本法案について一点御確認させていただきたい点があります。それは、この法案の第三条であります。  準危険運転致死傷罪と呼ばれる規定で、第二項に「自動車運転支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの」という条文がございます。  一方で、きょう、皆様方のお手元にお配りしている資料でありますが、道路交通法第九十条の第一項ただし書き、また、それを受けた施行令というものの抜粋を用意させていただきました。  この規定に関しまして、六月十九日の委員会において、民主党の階委員、また公明党の遠山委員から、この条文の、いわゆるこの法案病気というのは曖昧な表現であり、広がり過ぎる懸念はないのかというような御指摘があって、また、病気というのは具体的にどういったものがあるのかというような御質問があったと承知しております。これに対して、谷垣大臣は、道路交通法運転免許欠格事由対象とされる病気という例を参考として検討していくというような御答弁をされたと思います。  今回のこの法案の第三条第二項における病気というものと、今紙でお示しさせていただきました道路交通法病気というものは、参考にしてというお答えでありましたので、イコールじゃないんだろうというふうに思いますけれども、どういった関係にあるのか、どのような考えによるのかということについて、大臣の御見解をお聞きしたいと思います。
  6. 谷垣禎一

    谷垣国務大臣 今おっしゃった、三条二項の政令で定める病気道路交通法九十条の運転免許欠格事由関係でございますが、今度の道路交通法は、病名というよりも症状に着目して、自動車運転支障を及ぼすおそれのあるそういう行為に限定しようということでありますが、基本的には道路交通法九十条一項の欠格事由を踏まえているといいますか、基本的にはそれにのっとって政令を決めていこうという予定でございます。  ただ、違いもございます。  一つは、この法律案の立案に先立って法制審議会で調査審議していただいたときに、運転免許欠格事由対象として、認知症と、それからアルコール、麻薬、大麻、アヘンまたは覚醒剤の中毒者というのが含まれておりますが、この二つは今度の三条二項で定めるものには対象としない。これは今度の御議論の中で異論がないものでございました。  それは、アルコール等中毒者については、別個に規定がもう既に今度提案させていただいているものには設けられております。また、認知症は、そもそも責任能力などが問えないような場合が多いわけでございますので、定型的に危険、悪質な行為と言うには少し無理があるなということで、この二つは外すということでございます。  それから、もう一つ無自覚性の低血糖症というのがございます。これは、道路交通法の方で、人為的に血糖を調節することができる低血糖症、これについては運転免許欠格事由対象とはなっていない、きちっと糖分をとればできるんだということで欠格事由にはなっていないんですが、今度の法案政令においては、自動車運転支障を及ぼすおそれがある病気として規定することを前提として議論をいただいた。その理由は、自分はそういう低血糖症なんだけれども、薬等も何も服用しないで、あえて事故を起こすことを意識して行動するような場合を外すことができないではないかということでございます。  いずれにせよ、政令で定めるに当たりましては、医学に関する専門家から、対象とする病気やその症状等について専門的な意見も伺った上で、対象とすべきものを適切に規定していきたい、このように考えております。
  7. 古賀篤

    古賀委員 大臣、丁寧な答弁、ありがとうございます。  今おっしゃられましたように、認知症ですとか中毒の方は外す、さらに、病気についても整理をしてこれから規定されるということであります。  そこで、今大臣からもお話ありましたけれども、専門家等意見を伺った上でということでありますが、今回、この政令を定めるに当たって、医療関係者方等専門家、また道路交通法を所管する警察庁初め関係省庁との調整、すり合わせということが行われると思いますが、ちょっとこの後の手順といいますか予定をお知らせいただきたいと思います。
  8. 稲田伸夫

    稲田政府参考人 お答え申し上げます。  今御指摘政令を定めるに際しましては、対象となる病気でありますとかその症状などにつきまして、運転免許欠格事由を定める道路交通法令を所管する警察庁と必要な協議を行うつもりでございます。  さらに、あわせまして、今御指摘のありましたような専門家の方々などから専門的な御意見を聞いた上で、三条二項の危険運転致死傷罪対象とすべきものを適切に規定していきたいというふうに考えております。  もとより、政令制定に先立ちましては、行政手続法の定めるところに従いまして、国民から広く意見を募集するいわゆるパブリックコメントを行う予定としております。
  9. 古賀篤

    古賀委員 局長、ありがとうございました。  今御答弁にありましたように、関係省庁調整をして、さらにパブコメを求めるということでありました。今回のこの法案については厳罰化を図るということであります。ですので、この政令の部分、大変重要になってくるかと思います。  その制定過程パブコメというお話がありましたが、なかなか我々議員にとっては直接関与できない作業になりますので、ぜひ、しっかりとした検討の上での政令制定をお願いしたいというふうに思います。また、その検討過程ですとか最終的に決まったものについては、広く周知していただきたいなというふうに考えるところです。  さて、今回のこの法案過程でありますが、今回の法案は、過去の法改正による罰則の強化が行われたにもかかわらず、各地域で、栃木や愛知、また京都で非常に痛ましい事故があって、子供を含め多くの犠牲者が出たということを受けての法案制定だというふうに認識しております。  私の地元福岡でも、二〇〇六年に事故がありました。飲酒運転加害者事故を起こして、家族五人が乗っていた車が橋から落ちまして、それで子供が三人とも亡くなったという大変痛ましい事故でありました。今回のこの法案厳罰化によって、そうした事故が少しでも減る、なくなるということを期待したいところであります。  ただし、一定の抑制効果というのは期待されるところでありますが、この法律のみでそういった事故をなくすということにも限界があるんだというふうに思っております。  そうした中で、では、どういうことをしなければならないかということでありますが、交通事犯を減らす、なくすというためには、その事件事故を起こさせない、そういう取り組みと、実際にその事故事件が起こった場合の後の対応ということが非常に大事になってくると思います。  その前提で、まず数値についてお伺いしたいのですが、直近交通事犯者の数、また、その交通事犯者の中で保護観察対象になっている人の数をお聞かせください。
  10. 稲田伸夫

    稲田政府参考人 まず私の方から事件数につきましてお答え申し上げたいと思います。  平成二十四年に検察庁において受理いたしました自動車運転過失致死傷危険運転致死傷、それから道路交通法違反、さらに業務過失致死傷重過失致死傷、この二つにつきましては必ずしも交通関係以外のものも含まれておりますが、それほど大きな数ではございませんが、いずれにいたしましても、これら五つのものの受理の合計数は、百四万四千四百十七件となっております。
  11. 齊藤雄彦

    齊藤政府参考人 お答え申し上げます。  保護観察の件数なんですが、業務過失致死傷、それから重過失致死傷自動車運転過失致死傷危険運転致死傷及び道路交通法違反による平成二十四年中の保護観察開始人員は、一万二千三百六十一人でございます。  なお、統計上、業務過失致死傷及び重過失致死傷には若干交通関係以外のものも含まれておりますが、その数はさほど多くないというふうに理解しております。
  12. 古賀篤

    古賀委員 ありがとうございました。  今のお聞きした数字交通事犯者数の数が百万人を超えている、また保護観察対象になっている人も一万人を超えているという数字でありまして、非常に私は大きい数だなというふうに感じているところであります。  このように、交通事犯者交通事故を起こした方がこの後どうなるのかということでありますが、検察、それから裁判を経て、刑務所に入るというような人も出てくるわけであります。  こうした交通事犯については、例えば千葉の市原刑務所ですとか、西は兵庫の加古川刑務所、こういった刑務所はいわゆる交通刑務所と呼ばれる刑務所だと承知しております。また、そういった交通刑務所以外も、それぞれの刑務所ではそういった交通事犯者に対する処遇、改善指導ということを行われていると思います。飲酒運転等を含めまして、こうした交通事犯者に対する改善指導内容についてお聞かせいただければと思います。
  13. 西田博

    西田政府参考人 お答えいたします。  先ほどおっしゃいましたいわゆる交通刑務所と呼ばれるものを含めまして、今、全国で五十四庁の刑事施設におきまして、交通事犯受刑者に対して、特別改善指導一つとして交通安全指導を行っているところでございます。  少し詳しく御説明いたします。  被害者の生命や身体に重大な影響を与える交通事故を起こした受刑者や重大な交通違反を反復した受刑者をその対象としておりまして、交通違反事故原因等について考えさせることを通じて、遵法精神とか責任観念人命尊重精神等を涵養することを目的として実施しております。  その指導内容といたしましては、講義、あるいは、小グループに分けまして、そのグループワーク等の手法によりまして、飲酒運転危険性あるいはその防止策被害者、その遺族への謝罪や賠償について考えさせるといったものとなっております。  なお、重大な交通事犯を犯す者の中には、飲酒運転常習者などアルコール依存の問題を抱えている者も少なからずおりますので、交通違反受刑者を多く収容する、先ほどおっしゃいました市原刑務所ほか三庁の施設では、断酒会等民間自助グループの協力を得ましてアルコール依存回復プログラムを開始するなど、その指導内容の充実に努めているところでございます。  少し実績を申し上げますと、交通安全指導は、平成二十四年度の実績でございますけれども、千六百八十六名に対してこういった指導を行っているところでございます。  以上でございます。
  14. 古賀篤

    古賀委員 ありがとうございました。  こういった刑務所での改善指導は、本当に大事になってくると思います。ぜひその効果というものもしっかりと検証していただいて、改善を図っていただきたいというふうに思っております。  次に、先ほど数値をお聞きしました保護観察対象者ということであります。  保護観察を開始する人員全体に占める交通事犯割合ということでありますが、これは、平成二十四年度、直近のデータで二八%、保護観察を受ける全体の中で交通事犯が二八%というふうに認識しております。また、少年の場合はこの割合が大きくなりまして、四三%も占めるというふうに聞いております。保護観察という分野においてしっかりと再犯を防止するというためにも、きちんと対応する、適切な対応をする、観察をするということが大事になると思います。  そこで、少年交通事犯保護観察対象者に対する保護観察内容、どういった保護観察を行われているのかということについてお聞かせください。
  15. 齊藤雄彦

    齊藤政府参考人 お答え申し上げます。  少年交通事犯保護観察対象者に対しましては、まず、ワークブックというものでいろいろ勉強させております。交通規則を学ばせるとか、それから運転技術も含めまして、そういうことの勉強をさせたりしております。  それから、交通規則その他、日常の生活態度も含めまして、そういうものについて講習会を開きまして、そういうところへ呼んで、それを受けさせるというようなこともしております。また、場合によりましては、場所によりましては、適性検査なども受けさせまして、その結果に基づいた指導などもしているところでございます。  また、遵守事項とは別に生活行動指針というものを定めることができることになっておりまして、その中で、交通規範をちゃんと学べよとか、免許を持っていない者に対しては、必要であればきちっと免許を取りに行きなさいといったことをするようにということを設定しておりまして、それに沿った指導をしているというところでございます。
  16. 古賀篤

    古賀委員 ありがとうございました。少年交通事犯に対する保護観察ということでありました。  昨年の四月、京都府の亀岡市の事故において、この加害者というのは以前から無免許運転を繰り返していたという者でありました。また、実際の事故の約二年前には道路交通法違反の容疑で逮捕され、家裁で保護観察の処分を受けたというようなことだったと聞いております。  このように、無免許運転を繰り返す者というのは、いずれ大きな事故事件を起こす兆候ということがあるわけでありまして、その前の時点での何らかの対策が必要と考えられますが、交通事犯保護観察を充実強化するためにどういった取り組みをされているのか、お聞きしたいと思います。
  17. 齊藤雄彦

    齊藤政府参考人 お答え申し上げます。  例えば、少年の無免許運転を繰り返す者といったものに対しましては、もちろん、きちっとそういうことはだめだよということは指導するわけなんですが、どうしても免許が必要な者に対しては、免許をきちっと取りに行きなさいという指導は当然いたします。  それからさらに、少年が、無免許運転にせよ非行にせよ、そういうものを繰り返すことになった経緯といいますか生活環境といいますか、そういったものに十分着目する必要があるんじゃないかなというふうに思っております。  そういうことから、保護者等対象にいろいろな講習などをしております。保護者少年のかかわり、それから生育関係生活関係環境関係、そういうことについて、いわば保護者会というようなものですが、そういうものを開いていろいろ指導等をしているところでございます。それからさらに、そういうものを通じまして、少年たち余暇にいろいろ遊んだりするんですが、正しい余暇の過ごし方とかそういったものも指導したりしております。  成人に関しましては、例えば飲酒運転につきましては、飲酒運転に関する認知行動療法に基づくプログラムなども開発しておりまして、平成二十二年からこれを特別遵守事項に定めて、必要な者には受けさせるというようなことをしております。  今後とも、このような形で適切に実施して、再犯防止に努めたいと思っております。
  18. 古賀篤

    古賀委員 ありがとうございました。本当にいろいろな取り組みをされているなということがわかったわけであります。  こうした保護観察ということでありますが、保護観察に当たっては、保護観察官という方が国家公務員としていらっしゃるわけであります。また同時に、保護司という非常勤国家公務員、この両者が協働して保護観察をしているということであります。  そういった中で、先ほど申し上げた、後者の保護司という存在が非常に大事なんじゃないかというふうに私は思っております。  保護司というのは、保護司法で五万二千五百人を超えないものというふうに規定されておりますが、実際何人の保護司の方がいらっしゃるかというと、これは年々減少傾向にあるわけであります。平成二十五年一月時点では、四万八千人を切って四万七千九百九十人の保護司の方がいらっしゃる。保護司の方の平均年齢が何歳かというと、この年齢も毎年上がっていて、足元は六十四・三歳という現状にあります。非常に高齢化も進んでいるということであります。  こうした保護司現状に対しまして、法務省としての取り組みをお聞かせください。
  19. 齊藤雄彦

    齊藤政府参考人 お答え申し上げます。  委員指摘のとおり、いろいろな課題がございまして、保護司さんは、保護観察更生保護のいわば基盤です。何としても、保護司さんの安定的な確保、保護司さんができるだけ仕事をしやすくするということが喫緊の課題になっております。  そういうことで、法務省といたしましては、平成二十三年に、保護司さんなど民間有識者から成る保護司制度基盤整備に関する検討会というものを立ち上げまして、昨年、実に多数の項目に関する提言をいただいております。それを今誠実に実行させていただいているところでございます。  その代表的なものを幾つか挙げますと、一番大きなものは更生保護サポートセンターということで、おかげをもちまして、今年度予算で九十カ所つけていただいておりまして、今年度末には全国で二百四十五カ所が設置されるということになっております。  そのほか、保護司さんが安心して仕事ができるように、対象者から被害などをこうむった場合の補償制度とか、それから、後継者の方に関する情報をいろいろ提供してもらういろいろな協議会なども全国で立ち上げているところでございます。
  20. 古賀篤

    古賀委員 ありがとうございました。非常にいろいろな取り組みをされているなというふうに考えております。  繰り返しになりますが、保護司の方というのは、非常勤国家公務員ということでありますが、実質、民間ボランティアというような位置づけになっております。  その実態、つまり、ボランティアでありますので給与が出ていないということでありまして、その活動については実費弁償金というお金が出ているわけであります。ただ、このお金についても、活動の全部を賄っている、補っているわけではなくて、一部だというふうに認識しております。  それだけではなくて、保護司の方が活動するに当たっては、保護司組織保護司会ですとか、さらに保護司会連合会という組織があって、この会の運営ですとか事業については保護司がみずから拠出をしている、負担しているといった状況にあるわけであります。  こうした保護司という非常に大変な、精神的な苦労も多い仕事ということでありますが、そういう方が、ボランティアだけではなくて自分で負担をしているということは、本当に大変なことだというふうに思います。  また、地元でお聞きしますと、更生保護施設という、刑務所から出て社会復帰する前の施設の改築とかも、今、国から二分の一という負担をいただいているところでありますが、残りの負担については保護司の方が一部を負担しているというようなお声も聞くところであって、本当にそんなに苦労されて、何でそういう保護司という仕事をお引き受けになるんだろうというふうに思うところであります。  どうして保護司を引き受けられたのかということをお聞きすると、やはり地元でそういう保護司を長くやられている方がいて、ぜひ引き受けてほしい、大事な仕事なんだ、みんなでサポートするからということで引き受けたと。ただ、実際やってみると非常に大変で、苦労されているということであります。  そういったお声もある中で、私は、党内で更生保護を考える会という会でちょっと活動させていただいておりまして、これは、田中和徳会長それから秋葉賢也事務局長のもとで、私も事務局次長という立場を拝命しまして活動しております。  やはりこうした分野、事件再犯を繰り返させないという意味においても、保護司活動というのは非常に大事だというふうに思っております。どんどん保護司の方が減っていく中にあって、こうした保護司の方、精神的な苦労以外にも金銭的な負担をかけるということについて、非常に私は心苦しく思っているわけであります。  こうした保護司の制度、各国、世界にも類を見ない制度でありまして、長期的には、やはり持続できるのかどうかということも考えていかなければならないと思いますが、今苦労されて保護司をされている方に対してどういった取り組み、支援ができるかということについて、最後に谷垣大臣の御見解をお伺いしたいと思います。
  21. 谷垣禎一

    谷垣国務大臣 今のお答えをする前に、先ほどちょっと私言い間違えまして、先ほど、三条二項の政令については症状に着目してと申し上げるべきところを、道路交通法症状に着目してと言い間違えたようでございますので、訂正させていただきます。  それから、今の御質問でございますが、古賀委員更生保護を考える会で非常に努力をしていただいているのはありがたいことだなと、心から感謝申し上げたいと思います。  それで、保護司制度というのは、今御指摘のように、我が国の更生保護の根幹をなすものだと私ども考えておりまして、刑事政策上、欠くことができないものでございます。  そして、今おっしゃったように、保護司の方々は事実上無給のボランティアで、昼夜を分かたず非常に難しいことに取り組んでいただいて、私は本当に心から感謝を申し上げたいと思っているわけです。  それで、その方たちの負担をどうしていくかというのは、この保護司制度が維持できるかどうかという意味では極めて大きゅうございます。  一方、我が国のこういう更生保護制度が、歴史的に、民間の篤志家の方々の発意といいますか自発性によって進んできた、そして、そういうことに保護司の方々が非常に誇りを持っておられる面がある、そういう歴史的な今までの流れも我々は十分尊重しなければならないところがあることは事実でございますが、他方、今おっしゃったように、非常に困難な仕事をしていただきながら、負担はどんどん重くなるというようなことでは、これはなかなか大変であるということだと思います。  ですから、こういう保護司の方々の御負担をできるだけ軽くするような努力は今後とも懸命に取り組まなければなりませんし、保護司の方に誇りとやりがいを持っていただけるようないろいろな環境についても、私ども、さらに努力していかなければならない、こういうふうに思っております。
  22. 古賀篤

    古賀委員 大臣、ありがとうございました。大臣が非常に深い認識に立って取り組まれていることに感謝するとともに、ぜひさらなる取り組みをお願いしたいと思います。  私がこの保護司、また更生保護になぜ力を入れているかということを最後にお話しさせていただきたいと思います。  私は、前職、財務省におりまして、十五年間いて、当時、谷垣財務大臣にもお仕えさせていただきました。その中で、主計局という予算編成をする担当をさせていただき、法務省の予算も担当させていただきました。そこで、保護司の方、また更生保護を初め法務行政についていろいろなことを勉強させていただきました。やはり、この国の安全、安心を守る、治安を維持するというために、この法務行政、また更生保護という分野は本当に大事だということであります。何とか多くの方のお力をいただきまして、更生保護の方の支援、また法務行政のさらなる発展ということに力を尽くしていきたいと思います。  最後になりますけれども、この法案、非常に大事な法案だと思いますので、速やかな成立を期したいというふうに考えております。と同時に、今申し上げました事前事後の対応ということについても、しっかりと、さらなる取り組みを求めていきたいと思います。そういった意味で、大臣初め法務省の方のこれまでの御尽力に対して感謝を申し上げるとともに、さらなる取り組みを期待いたしまして、私の質疑を終わらせていただきます。  ありがとうございました。
  23. 江崎鐵磨

    江崎委員長 次に、横路孝弘委員から発言の申し出があります。横路孝弘委員
  24. 横路孝弘

    ○横路委員 どうぞよろしくお願いをいたします。  本法案は、鹿沼の意識障害による事故、それから京都は、無免許で、過労による仮睡状態での事故ということで大変たくさんの小学生が亡くなるという、まことに痛ましい事故でございました。  こういう事故をなくしたいという思いはみんな共通のものだというように思いますが、しかし、本法案で本当に防ぐことができるんだろうか、逆にいろいろな問題が起きるんじゃないかという心配をされている方もたくさんおられます。  きょうは、法案三条の、病気として政令で定めるものという規定を中心に議論をさせていただきたいと思います。  きょうは、参考人の皆さんにおいでいただいています。日本てんかん協会副会長久保田英幹さん、全国精神保健福祉会連合会の川崎洋子さん、日本精神神経学会理事三野進さん。三野さんと久保田さんはお医者さんで、現場で非常に活動されている方です。  初めに、大臣に幾つかの点をお尋ねしたいと思うんですが、まず、今回の審議を行った法制審の刑事法部会ですが、精神科の皆さん方、神経学会を含めて七つの団体がございますが、その団体の総意で、何とか意見を聞いてもらいたいという申し出をしたんですが、残念ながら、そのヒアリングがありませんで、事前に警察庁はヒアリングしたという報告が審議会にあっただけです。したがって、議事録を見ても、例えば統合失調症と躁うつ病といった点についての議論というのはほとんどないんですね。これは、どうして呼んで聞くということをやらなかったんでしょうか。
  25. 谷垣禎一

    谷垣国務大臣 きょうは、横路前議長がみずから質問に立たれるというので、私も大変緊張して臨ませていただきました。  非常に大事な法案でございますが、今、横路先生から御質問の点でございますが、法制審の刑事法部会で、自動車運転による死傷事犯の実情等に鑑みて、事案の実態に即した対処をするための罰則の整備を早急に行う必要があると思われるので、その要綱を示されたいと当時の法務大臣が諮問をしたわけでございますが、そういう諮問に基づきまして、同部会の委員につきましては、いわゆる法曹三者、それから刑法学者、さらに警察関係者を中心として構成したわけでありますが、加えて、てんかんや認知症等の診療をしておられる神経内科の専門医、それから過労運転に知見のある専門家の方にも委員として常時調査審議に参加していただいて、また意見を述べていただいたわけでございます。  お尋ねの病気の患者団体等の方々については、確かに部会の委員として加わっていただいたわけではございませんが、この調査審議に際しまして、本日参考人として来ていただいております公益社団法人日本てんかん協会、それから全国精神保健福祉会連合会、あるいは日本精神神経学会等の団体から、審議内容に関して書面で御意見、御要望を提出していただきまして、事務当局において要旨を御紹介するとともに、書面を配付して審議の参考としていただいたということでございます。  こういった御意見、御要望を踏まえて、今度の法案三条二項、自動車運転支障を及ぼすおそれがある病気については、特定の病名だけで対象となるものではないことが明確になるように、運転免許欠格事由対象とされている病気の例を参考として、その症状に着目して、自動車運転支障を及ぼすおそれがあるものに限定することとされたわけでございます。  今後、政令を定めるに当たりましては、対象とする病気症状等について、専門的な意見も十分伺った上で適切に規定してまいりたいと考えております。
  26. 横路孝弘

    ○横路委員 法制審の議事録を読んでみますと、統合失調症、躁うつ病についてはほとんど議論されていないんですね。今大臣がお答えのように、道路交通法運転免許欠格事由対象とされているというように単純に考えて、それをみんな拾い上げたというような印象が非常に強うございます。  ちょっと背景で一つ質問したいんですが、国連の障害者の権利に関する条約というのが今国会で批准になります。これは、国連で採択されたのは二〇〇六年で、二〇〇七年にはもう我が国は署名しているんですね。  しかし、障害者団体から、ただ批准するだけではなくて、批准するにふさわしい内容を国内法でもって整備してもらいたいという非常に強い要望がございまして、二〇〇九年に障がい者制度推進本部というのができまして、そこで障害当事者が過半数入って、障害当事者が内閣府の責任者にもなって進めてきたんですね。その結果、障害者基本法を改正し、障害者総合支援法をつくり、さらに障害者差別解消法がさきの通常国会で成立をいたしました。  そこで、大臣にお尋ねしたいのは、この差別解消法などこういうことを背景にして、本年の九月に障害者基本計画というのが閣議で了解されています。その中の基本的理念は、差別の禁止と合理的な配慮をするということ、平等と社会参加ということで、その中で、障害者の自己決定の尊重及び意思決定の支援という名のもとに、障害者を施策の客体でなく参加する主体として捉え、障害者施策の策定、実施に当たっては、障害者及び障害者の家族などの関係者の意見を十分聞いて、その意思を尊重するというように基本原則が定められているわけですね。  これからのことなんですが、法務省が関連する障害者施策の推進に当たっては、この基本計画をしっかり踏まえて、障害者の関係者を参加させるとか、あるいは、その関係する団体、病気に関連することでしたら、それぞれの団体、たくさん医療関係の団体がございます、そういう専門家意見も聞く、あるいは、法制審の中にもそういう人たちにもっと参加してもらうというような配慮を、これからの施策選択に当たってやっていただきたい。  これは、非常に画期的な我が国の障害者施策の変化がこの間起きておりまして、今度の臨時国会で、超党派で、これは外務委員会ですが、何とか早目に成立させようということになっていますので、間違いなく成立するものと思います。その精神を既に受けて障害者差別解消法とか基本法の改正が行われてきていますので、ぜひ大臣には、今後の法務省の施策について、そのことをしっかり踏まえてやっていただきたいというように思います。
  27. 谷垣禎一

    谷垣国務大臣 今後、法制審等の審議に当たりましては、その内容に応じて、今、横路先生御指摘の点を十分に踏まえて、人選等、配意してまいりたいと思っております。
  28. 横路孝弘

    ○横路委員 それで、障害者差別解消法に基づいて基本計画がつくられるんですね。基本計画に基づいて、各省庁でそれぞれ対応することになっています。  法務省関係としては、紛争解決体制の整備、多分、合理的配慮をしなければいけないということになっていますので、いろいろな問題、相談そのほかあると思うんですね。これはやはり人権関係の相談がふえると思いますので、その体制を整備していただくこと。  それから、支援のための地域協議会をつくろうということになっています。各省庁ばらばらじゃなくてまとまって参加しよう、この中にぜひ法務局も参加していただきたい。人権問題の関連であります。  それから、司法手続における配慮というようなことが、これから、差別解消法に基づいて、総理大臣が基本方針を決めて、各省庁がそれぞれガイドラインをつくることになります。この点についても、ぜひ法務省としてしっかり対応していただきたいと思います。いかがですか。
  29. 谷垣禎一

    谷垣国務大臣 障害者基本計画、しっかり踏まえて対応してまいりたいと思っております。
  30. 横路孝弘

    ○横路委員 二〇〇二年に、政府が欠格条項の全体的な見直しを行いました、これに伴い道交法の改正も行われましたが、その基本方針は、次のことを対処方針としています。  現在の医学、科学技術の水準を踏まえて対象者を厳密に規定すること、もう一つは、本人の能力などの状況が業務遂行に適すか否かが判断されるべきものであるので、その判断基準を明確にするものということで、欠格事由としての、障害者、○○障害を有する者という規定から、心身の故障のため業務支障があると認められる者、あるいは、身体または精神の機能に着目した規定へ変えるということになりまして、医師法そのほか全て、精神病とか精神病者という表現がなくなりました。  今回、各団体がこの法案について意見を申し上げているのは、法律政令で病名を特定することになる、それ自体が差別ではないんだろうかと。  これまでのこういう流れ、欠格条項を絶対的な欠格事由から相対的な欠格事由に変えていった、しかも、障害者の権利条約もやがて批准され、それのもとでいろいろな政策が進展されるということの中で、あたかも特定の精神病の病名の者が自動車運転すること自体が危険であるかのような偏見をつくり出すことになるんじゃないか。  自動車を生活手段として生活をしている人々はたくさんいます。そういう人々で、もちろん、何の心配もなく運転できる人もいるし、やはり医者のちゃんとした管理が必要な人もいるわけで、それはこれから参考人意見を聞いていきますが、どうも今回の法案というのは、そういう欠格条項の見直しに沿った流れとちょっと反するんじゃないかという意見を各団体の皆さんが申し上げているわけなんですが、この点はいかがでしょうか。
  31. 谷垣禎一

    谷垣国務大臣 先ほど来から、私、前回の通常国会の審議のときも申し上げましたが、特定の病名に着目するというよりも、具体的に運転の危険となるような症状に着目して政令を定めなければならないと考えていると申し上げたのは、今委員のおっしゃったような趣旨を踏まえなければという思いでございます。  他方、刑事法でございますから、そのことによって適用範囲が不明確になるようでも困るという問題が生じてくるということもございまして、法制審議会でもいろいろそういった御議論をいただいたわけですが、今後とも、刑の構成要件を決めるときの明確性と今のような症状にきちっと着目しながらやっていくということに配意して政令をつくりたいと思っております。
  32. 横路孝弘

    ○横路委員 これから主に参考人の方にお話をいただきますので、それを踏まえて、もし必要があればお答えを求めることはありますが、参考人意見を十分聞いていただきたいと思います。  まず、久保田英幹さん、てんかん協会の副会長にお尋ねします。  今回の法案の根底は、二〇一一年の、てんかんのある人が起こしたクレーン車の事故がございます。てんかんというのはどういう病気で、どんな危険を伴うものなのか、また、クレーン車の事故を起こした人と皆さん同じような状態にあるのか、その辺のところを簡潔にお話ししていただければと思います。
  33. 久保田英幹

    ○久保田参考人 本日はこのような機会を与えていただきまして、ありがとうございます。ふなれですけれども、精いっぱいお答えしたいと思います。  まず、てんかんという病気についてでございますが、てんかんというのは、脳の神経が一時的に過剰に活動する状態を指します。その過剰な活動の始まる場所と広がり方によってさまざまな症状が出ます。てんかん発作の三分の一はただぼおっとする複雑部分発作という発作です、四分の一がけいれん発作で、六分の一は意識がありながら耳鳴りがしたり吐き気がするというような発作です。  てんかんの原因は、脳血管障害、あるいは脳腫瘍、外傷、さまざまです。あるいは生まれたときの脳の形成の異常とありまして、発病のピークは乳幼児期と高齢者で、特に最近高齢者のてんかんがふえているということが注目されています。  特定の遺伝子で発病するということは極めてまれであります。体質的な部分は、てんかんの発病しやすさという意味では誰もが持っているものであります。したがって、百人に一人という発病率の高さがそれを裏づけるということで、神経疾患の中では非常に患者数の多い病気であります。  患者さんの半分は発作もとまり、服薬もやめられる状態になります。残りの四分の一の方は服薬をしていれば発作がとまり、残りの四分の一の方が服薬をしてもなかなか発作がとまらないという状況です。  国際的な定義としては、五年以上発作がとまっていれば治癒というふうにみなされますけれども、医学的に治癒の状態であっても、社会的な状況を考えて服薬を継続することを希望される方は大勢いらっしゃいます。そして、そのような方は各界で大変活躍されている方が大勢いる。ノーベル賞のノーベル、あるいはドストエフスキーもてんかんだというふうになっています。  治療についてつけ加えますと、今日本では二千人の方が外科治療で治るというふうに考えられておりますけれども、実際には五百人しか受けていないということで、医療的な情報も不十分であるというふうな状況になっております。  また、日本てんかん協会の調査ですと、これは選挙人名簿をもとにした一般市民の調査ですが、九割近い方が、てんかん発作というと、けいれんして倒れる危険な病気というふうに理解されている。この辺が先ほど述べた発作の実態とあわせて患者さんの悩みになるところであります。また、別の調査では、八割近い方が病気を理解されて雇用されたいと願っていて、会社に病気を伝える必要がないと考えている人は一割にも満ちません。そういう意味では、病気を理解されて、病気を告げ、安心して仕事と生活をしたいというのが患者さんの願いであります。  てんかんのリスクですけれども、基本的には、意識がなくなるということ、そして倒れるという二つが主なリスクですけれども、これは、血糖であるとか電解質であるというような血液の病気、あるいは心臓の病気でも倒れてけいれんします。特別なものではありません。救急外来で、倒れてけいれんする病気の一番多いものは失神であります。  それから、事故を起こした方ですけれども、どんな病気でもそうですけれども、自己管理というのが非常に重要になります。てんかんでも同じで、服薬は大原則ですけれども、病況に応じた自己管理が求められます。そういう意味では、事故を起こした方は、特別に自己管理ができていない非常にまずい方というふうに考えております。  ただ、病気に伴う自己管理ということも運転に際しては非常に重要ですけれども、それは必ずしも病気のある人だけとは考えておりません。亀岡の居眠り運転あるいはドリフトして飛んでしまった運転手、若者たちですけれども、やはり車の運転ということに向かうには自己管理の意識ということが非常に欠けていた、そのような方というのは、決しててんかんという病気の方あるいはてんかんでない病気の方だけではない、どこにもそういうような方がいるというふうに考えておりまして、病気が悪いのではない、そういう自己管理をできなかった人が悪い。そういう方が一人いたということで、イコールてんかんイコール危険、規制というような短絡的な議論は私たちは不備であるというふうに考えております。
  34. 横路孝弘

    ○横路委員 自動車運転している人はどのぐらいいるんでしょうか。自動車事故がどんな状況なのか。また、事故を防ぐために協会としてどういう努力をされておられますか。
  35. 久保田英幹

    ○久保田参考人 患者数は先ほど百万人と申しましたが、これも推定です。そして、免許所持者の数も推定ですけれども、さまざまな統計を見ますと、三十五から六十万人の方が免許証を持っているであろうと。そのうち実際運転している方は、二十五万から五十万人ぐらいであろうというふうに推定しております。その中で、二十年以上の平均での事故件数は年間七十三件であります。死亡事故は三・一件程度になっております。  そして、てんかん協会は、二〇〇二年の法改正当時から機関誌等を通しまして制度の周知と法律の遵守ということを訴えてまいりました。また、事故後にも改めて機関誌で会員に呼びかけるとともに、全国の三千の病院に、ポスターをつくって配布いたしました。法の徹底そして遵守ということを訴えるとともに、全国で、四十都道府県必ず一回以上は講演会等々、相談会をしていますけれども、そこでも必ず運転免許のことを伝えるというような努力をしてまいりました。
  36. 横路孝弘

    ○横路委員 資料を配付していただければと思いますが、配付されていますか。  この資料の中の三枚目でしょうか、急病・発作に起因する交通事故件数という、警察庁から提出された、平成二年から二十三年までの事故があります。二十二年間の平均になりますが、発生件数が八十万件、うち発作、急病によるものが二百八十六件で、てんかんが五十七件、そして死亡発生事故がてんかんによるものが三件、こういうように事故の発生件数全体からいうと非常に低く抑えられています。  事故の状況を聞いてみますと、どうも、治療をきちんと受けている人が病気症状を原因として交通事故を起こすというのは極めてまれで、事故を起こすリスクが高いのは恐らく安定した治療関係を持たない人じゃないだろうかと。安定した治療関係を持たずに、医師からの助言を受ける機会もなく、病気に対する認識もなく、事故が起きてしまっているというようになりますと、今度の法案の有効性というのはどうなのかということになりますが、この点、久保田さん、いかがでございますか。
  37. 久保田英幹

    ○久保田参考人 自己申告、罰則が今度つくから自己申告ではなくなるわけですけれども、そこに正しく書こうと思わなければ、どんな罰則がついても正しく書かないことはできるわけで、むしろ、診察室できちっと一人一人に事故危険性、社会的な責任を訴えるということが非常に有効であるということは、これは海外の論文でも明らかであります。  そのような意味で、治療関係がきちっとするということは非常に重要ですが、必ずしもその辺のところがうまくいっていない、あるいはてんかんという診断そのものがきちっとなされずに見逃されているということもありますし、またその逆に、てんかんでない方がてんかんと診断されて、免許を失い、仕事を失うというような例も最近非常に多いわけですので、医療の中での指導というのが、事故を減らすという意味では罰則よりも極めて重要であるというふうに考えております。
  38. 横路孝弘

    ○横路委員 てんかんの場合は、診察と同時にてんかんだということになりますと、二年間の運転禁止になりますよね。それから、免許更新のタイミングによっては免許取り消しになる。そうすると、社会生活や職業生活に変更を余儀なくされて、大変苦労されている方もおられるということなんです。  お渡しした資料の中の、病気による取り消し処分件数、それからその事由がどういうものかといいますと、てんかんによる取り消しというのはこのごろふえていますし、なおかつ本人からの申し出というのもふえてきていますよね、免許のいろいろな取り消しなどについても。それはやはりお医者さん方のいろいろな活動というのが成果を上げてきている証拠だというように受けとめて、この資料を見ておりました。  また後でお伺いします。  それでは次に、三野先生にお尋ねをいたしたいというように思います。  まず、本法案三条の二にある、自動車運転支障を及ぼすおそれがある病気についてお尋ねしたいんですが、本法案では、これらの病気につきまして、道路交通法欠格事由に倣って幾つかの病気が示され、政令で定めるとされております。道交法の施行令で、運転免許の欠格として、統合失調症、躁病、うつ病を含む躁うつ病が明記されておりますけれども、精神科医として、これらの精神疾患にある人が自動車運転することが危険であるということでしょうか。その点、いかがでございますか。
  39. 三野進

    三野参考人 精神科医としてお答えを申し上げたいと思います。  結論から先に申し上げますと、こうした精神疾患にある人の自動車運転が危険であるとは言えないと思います。  まず第一には、臨床的には、これらの病気にある人は一時的に認知機能や感情や行動が不安定になることがあり、それらを我々は急性精神病状態というふうに呼んでおります。その際には、確かに運転をすることは危険を伴うということがありますけれども、それはあくまで一時的なものでございまして、一時的に危険になり得るという程度でございますと、例えば、健常者がインフルエンザにかかって高熱を出して意識もうろうとなったときに、危険であるから運転をやめる、そういうものと区別するものでは全くございません。  二番目に、これは印象でございますけれども、この問題が出たときに、多くの精神科医と私ども議論をいたしましたが、統合失調症や躁うつ病を有する通院患者が交通事故を起こした例というのは余り経験がございません。やはりこれは、みずからの身の危険を感じて運転を控える能力が当然おありになるというふうに考えるのが自然ではないでしょうか。むしろ、今まできちんと病院にかかったことのない方が交通事故を起こされて、それを契機に初めて、それが病気だということで精神疾患と診断されるという経験を私どもはよくしております。  それから、第三でありますけれども、こうした疾患にある人が交通事故を起こす率が高いというデータはどこにもございません。
  40. 横路孝弘

    ○横路委員 今のお答えの中に、急性精神病状態ということについて触れられましたが、その状態というのは、統合失調症や躁うつ病の病気の経過の中で必ず生ずる状態なんでしょうか。また、そのことを本人は予見し得るんでしょうか。
  41. 三野進

    三野参考人 急性精神病状態を生じないままに経過する人ははるかに多いというふうに思います。  例えば、さきに挙げられました病気の中で最も多数を占めるのは、現に今治療を受けている方で百万人を超える単極性のうつ病でありますけれども、つまり、うつ病だけで、時々繰り返しますけれども、躁の状態のないという方々ですが、その方の大半は急性精神病状態を一生涯経験いたしません。  急性精神病状態は、通常の運転のみでなく、ほかの生活機能にも影響を及ぼし、本人や周囲の苦痛を招きますので、通常は入院とかそれに類する医療行為を受けますので、それなりの対応がなされるだろうと思います。  予見できるかということですけれども、長く一人の主治医が経過を見ていて再発のパターンがわかっている場合は別ですけれども、その場合はある程度予見ができるかもわかりませんが、多くの患者にある程度の確度を持って予測、予見するということは極めて困難で、不可能であるというふうに言ってよいだろうと思います。
  42. 横路孝弘

    ○横路委員 特定の病気と危険運転との関係を示す根拠はあるんでしょうか。精神疾患のどの症状運転不適正となるのでしょうか。
  43. 三野進

    三野参考人 統合失調症や躁うつ病と危険運転との関係を示す医学的な根拠は、私ども何度も申し上げておりますが、ありませんし、運転不適正となる症状を特定するのは不可能であるというふうに思っております。  統合失調症や躁うつ病などの精神症状に限らず、病気であれば必ず多くの症状が出ます。例えば、統合失調症であれば、幻聴などの幻覚、考えが支配されるという妄想、被害妄想、激しい精神運動興奮、あるいは無気力、無為といった多くの症状があるわけでございますけれども、これらが常に同時に出るわけではないわけです。むしろ、このような精神症状が長く続くことによって睡眠不足になったり身体的な疲労が強くなったり、その結果、安全な運転に影響が出ると考えるのが普通の常識的な考えではないでしょうか。  このような病気運転に与える影響の仕方というものは、先ほども申し上げましたけれども、誰もが罹患する病気でも全く同じでございます。インフルエンザに罹患すれば急に高熱を発することもありますし、肺炎になれば意識もうろうとして安全な運転ができなくなる、こういったものだろうと思います。  精神疾患に限らず、全ての病気でもどのような症状でも、安全な運転を困難とさせる影響が出るということが言えるだろうと思います。
  44. 横路孝弘

    ○横路委員 次に、道路交通法の九十条では、幻覚の症状を伴う精神病が最初に挙げられて、政令でその病気は統合失調症とされています。幻覚の症状を伴う精神病というのはほかにないんでしょうか。また、躁うつ病と同じ症状を持つ精神病というのはどうでしょうか。
  45. 三野進

    三野参考人 幻覚の症状を伴う精神疾患は、ほかに多数ございます。  まず、道路交通法の別項で考慮されている疾患でいいますと、アルコールの乱用やその急激な中断によって引き起こされるいわゆる離脱症状の精神障害では激しい幻視が出ます。アルコール以外の違法薬物や最近はやりの違法ドラッグでもこうした症状が多く出ます。また、認知症の一部でもこうした症状が出ます。躁うつ病でもやはり精神症状としての幻覚が出ることがございます。  次に、道路交通法で考慮されていない疾患でもこうした症状が出ることがあります。PTSD、心的外傷後ストレス障害や多重人格などを含む解離性障害、人格の偏りをその特徴とするパーソナリティー障害でも、心理的な機制の中で一時的に幻覚を生じることは知られていることだろうと思います。  私たち精神科医から見ますと、ここであえて幻覚を強調するということに非常な不自然さを感じます。幻聴があって車の運転が普通にできる人はいます。逆に、幻聴がなければ安全な運転ができるということは到底言えないだろうと思います。
  46. 横路孝弘

    ○横路委員 確かに、精神科の患者や疾患を有する者は交通事故を起こしやすい危険な運転をしがちであるというデータは、私も探してみましたが、ありませんでした。それどころか、件数としてはかなり少ないんですね、発生件数そのものは。  それで、多くの精神疾患の中で、自動車運転支障を及ぼすおそれのある病気としてあえて挙げなければならない病気というのはあるんでしょうか。
  47. 三野進

    三野参考人 ございません。精神疾患に限らずどんな病気であっても、ひどく体調が不良のとき、不調のときには運転能力に支障を及ぼします。あえて病名を挙げるということは差別にすぎないと思います。
  48. 横路孝弘

    ○横路委員 政府は今まで、症状に着目したものであって病気に着目したものではないと説明されていますけれども、同じ症状が出る病気はあるわけですね。同じ症状が出る病気があるにもかかわらず、本法案予定されている政令に掲げられていない病気はたくさんあるわけですよ。  そうすると、政令で指定されている病気の患者だけは加罰される、それ以外は同じ症状をもたらしても加罰されないというのは、これはやはり一種の差別になるんじゃないかと思うんですが、この点いかがでしょうか、法務省の方で。
  49. 稲田伸夫

    稲田政府参考人 私の方から若干御説明をさせていただきます。  考え方として幾つかの問題があるのは、御指摘の点につきまして幾つかのところは申し上げられると思うんですが、一つ目は、症状から着目するということはそのとおり我々は考えているわけでありますが、その際に、では、どこまで症状だけで書き切れるか。つまり、罰則でございますし、しかもかなり重い法定刑を定める罰則でございますので、刑罰法規としての構成要件を一義的に明確なものにするということは、これはやはり罰則の定めとして重要なことであろうと思います。  そういう意味で、抽象的な症状のみによって処罰の範囲を画するというのはかなり難しいところがあるのではないかという意味で、まず、病気の中でその症状を有するものというふうに規定していくのが一つのやり方であろうというふうに考えているところでございます。  それと、先ほどお話のございましたものの中で、例えば薬物の関係につきましては、これは現行の危険運転致死傷罪の中で、薬物の影響により事故を起こした者については、既に危険運転致死傷罪処罰するというような取り上げ方をしているところでございます。また、認知症につきましては、もともと責任能力に問題があるのではないかということで、法制審議会議論で外すということになったというようなこともございまして、いろいろその辺につきましては、必ずしも幻覚症状等だけで規定できるものでもないというふうに考えているところでございます。
  50. 横路孝弘

    ○横路委員 今の点は後ほど久保田参考人三野参考人の方から、ではこうしたらいいんじゃないかということについて御答弁をしていただきたいというふうに思っています。  道路交通法の欠格条項でも、本法案政令で定める病気について、その病気症状に注目して、病気そのものを対象としているわけじゃないと今も答弁されました。  三野さんにお尋ねしますが、専門家の視点から見て、例えば道交法施行令病気の定め方というのは、安全な運転を不可能にする症状を明確に示していると思われますか。あるいは、運転免許欠格とならない統合失調症にある方は多数おられると思いますが、道交法はどのような症状であれば欠格とならないと定めているのでしょうか。躁うつについてもお答えいただければと思います。
  51. 三野進

    三野参考人 残念ながら、道路交通法はそのようなことは全く示していないというふうに私どもは考えております。  事前に資料としてお配りいたしました、道路交通法の欠格条項を書いたプリントをごらんいただきたいと思います。  横路先生が先ほどおっしゃられましたように、二〇〇一年の欠格条項の見直しで、それまで運転免許の絶対的欠格であった精神病者は、道路交通法の中で、幻覚を伴う病気症状規定されました。これは内閣府令のとおりでございます。  下にあります、道路交通法施行令では、本来ならばこれを、どのような症状が欠格であるのかを具体的に示さなければならないのでございますが、下線に示しましたように、統合失調症という特定の病気というものをまず全て欠格であるというふうにした上で、その中で限定する適性のあるものをある程度定義しております。その定義が、非常に長いんですが、例外的に免許を与えられるものは、安全な運転に必要な能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈しないものを除くと。何が悪いのかわけがわからないんですけれども、非常に長い表現で特定しております。  よくよく考えますと、能力を欠くこととなるおそれのある症状というのは、これは全ての病気症状であります。病気症状で、先ほどから申し上げておりますけれども、どのような症状であっても、それは安全な運転の能力を欠く可能性がございます。厳密にこの例外の状態を当てはめるためには、全ての症状がない、つまり病気ではないということを証明しなければできないということになろうと思います。  ここにも書いてありますが、躁うつ病でも同一の規定がございます。症状だけ問題にして、病気そのものを対象としていないという言い方は、私どもから見ると詭弁にすぎないであろうというふうに思っております。
  52. 横路孝弘

    ○横路委員 今治療を受けている人でも百万人を超えると言われておりますうつ病、気分障害の方々について、うつ病にある人、あるいは回復した人が安全な運転ができないという医学的な根拠はあるのかどうか。これもお答えいただきたいと思います。
  53. 三野進

    三野参考人 ございません。うつ病の極期、つまり最も重篤な時期であれば、抑うつ気分とか焦燥感で正常な判断ができないことがありますが、こうした場合には、通常、意欲の減退やうつの症状のために行動がうまくできませんので、運転をされない。専門的には制止と言いますけれども、運転ができない状態となろうと思います。  また、こういう時期に、残念ながら自殺をはかる方がおいでになりますけれども、例えば自動車運転してどこかにぶつけるとか他人を巻き添えにするということは、我々経験したことがございません。これを遂行しようという方はおいでになりません。どこか海や川に自分で飛び込むとか、そういうことはあるかもわかりません。わずかにおいでになるかもわかりませんが、多くの方が、大変残念ながら首をつられたり、大量服薬するなど、自動車関係ない方法を用いられます。  いずれにしても、こうした方々は、他人を危険に陥れるということはまずないと申し上げてよろしいかと思います。
  54. 横路孝弘

    ○横路委員 次に、第三条の、「自動車運転支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転支障が生じるおそれがある状態で、自動車運転し、」という規定なんですが、病気による運転適性というのは、病名ではなくて症状に依存すると。したがって、運転適性というのは個別に判断すべきものだと思います。  やや繰り返しの御質問になりますが、「病気の影響により」というようにありますが、統合失調症や躁うつ病の病気のどのような症状運転に影響を与えるというようにお考えでしょうか。また、この法律はそうしたおそれについての自覚が病気のある人に求められていますけれども、その判定というのは医学的に可能なんでしょうか。あわせてお答えいただきたいと思います。
  55. 三野進

    三野参考人 先ほどから申し上げておりますように、精神疾患の症状が正常な運転支障が出る経過や機序というものは、ほかの病気と何ら変わるところがございません。精神疾患に特異的な症状があったとしても、運転に与える影響は、寝不足であったり、慢性疲労状態であったり、不注意であったりするもので、特定できるものではないだろうと思います。  法制審議会刑事法部会で、精神疾患の症状が危険運転に与える影響について、言及はたった一度しか行われておりません。  長くなりますけれども、大変重要なことなので、刑事法部会の第七回の議事録にあります法務省の刑事局参事官の方の発言を読み上げさせていただきます。  例えば幻聴による影響を例にいたしますと、医師から幻聴による影響のために自動車運転を控えるようにと指導されていたのに、必要な服薬とかもしないで自動車運転し、その際、幻聴の影響で自動車運転に必要な注意力や判断力、操作能力が相当に減退した状態にあることを認識しながら運転を継続して、幻聴の影響が強くなって強迫観念に捉われて、正常な運転が困難な状態に陥って人を死傷させるということも考えられるわけでございます。 このような発言がございます。  私たち精神科医の常識から考えますと、大変失礼でありますけれども、少し首をかしげたくなるような理解からおそれの状態を規定されております。  そうは言っても、仮に「幻聴の影響が強くなって強迫観念に捉われて、」というこの表現をとっても、強迫観念というのは、これは医学的には間違った表現でございますけれども、気をとられて不注意になったといっても、そう言っているにすぎないわけでございまして、幻聴という問題でいえば、むしろ携帯電話で会話をして運転している方の方がよほど危険であろうというふうに私は思います。
  56. 横路孝弘

    ○横路委員 この法律は、そのおそれについての自覚が病気のある人に求められていますけれども、その判定というのは医学的に可能なんでしょうか。
  57. 三野進

    三野参考人 先ほどの法制審議会の例示でもわかりますように、おそれの状態というのは、通常の病気の状態、症状による影響と何ら変わることがございません。過労や寝不足、注意力の低下への自覚というのは極めて主観的な判断でございまして、到底医学的に判定できるものではありません。精神疾患だから特定できるものではございません。  医師の指導があるから、服薬をきちんとしているから、おそれの状態を自覚して避けることができる、このような注意義務を精神疾患にだけ求めるのはやはり精神疾患に対して危険なものであるとの予断と偏見があるからではないかというふうに私は考えております。
  58. 横路孝弘

    ○横路委員 今までのお答えですと、インフルエンザになって高熱を出したときとか強い疲労状態にあるとき、寝不足のときに運転するのは危険だと。おっしゃるとおりですね。精神疾患の影響もそれらと変わらないというように繰り返し御答弁いただいております。  そうすると、精神疾患にある方を一般の方に比べて重罰としなければならない根拠というのはなくなってしまいますね。この点、いかがですか。
  59. 三野進

    三野参考人 何度も申し上げて申しわけございません。  道路交通法の第六十六条で、過労、病気、薬物の影響による運転の禁止が定められて、あらゆる病気、疾患について危険な運転をしないように注意義務も課せられております。罰則も設けられております。  先ほどから何度も申し上げておりますように、精神疾患であっても、病気症状運転に与える影響は全く同じ経過で起きます。また、精神疾患の症状がほかの病気に比べて著しく危険に至りやすいという統計的な事実も医学的な根拠もないわけですから、特定の病気を挙げて重罰とするのは、根拠のない差別ですし、法のもとの平等に反すると思います。
  60. 横路孝弘

    ○横路委員 過労運転を排除した理由として三つ挙げられているんですね。  一つは、過労の定義が難しいということ。二つ目は、意識のある状態と無意識の状態、その状態を行き来しながら最終的に意識を失うというメカニズムであるということで、そのうちどの段階で過労運転の故意を認めるのか判断も難しいという点。それから三つ目、過労運転は非常に厳しい労働条件の中で働いて起こることでございまして、それを運転者本人だけの責任とすることができるのかという三つを挙げているんですが、どうも三つとも、いずれも精神病にも当てはまるんじゃないか。定義もなかなか難しいですし、どういう状況なのか、病気の経緯、経過。それから、これは、病気ですから、本人が努力しても、どうともできる問題じゃありません。  というような意味でいうと、過労を外した要件というのは精神疾患にも当てはまるんじゃないかと思いますが、この点、いかがでございますか。
  61. 三野進

    三野参考人 仰せのとおりで、過労運転を精神疾患による症状という言葉に置きかえれば三つの指摘は全て当てはまると思います。
  62. 横路孝弘

    ○横路委員 一つ法務省の方に、薬物についてなんですけれども、風邪薬の例がよく出されていますけれども、どうもいろいろとお伺いしますと、全部で、医者の処方それから市販されている薬を含めると、注意が必要だ、禁止した方がいいというのが千六百五十九ブランド、それから、注意をした方がいいというのは九百八十ですね。これらの薬は治療に毎日服用しているものもあるんですが、こういう薬物の状態、これは全部が対象になるんでしょうか。
  63. 稲田伸夫

    稲田政府参考人 お尋ねは、現行の危険運転致死傷罪でも規定されている薬物の解釈にかかわることだろうと思います。  ここで申し上げます薬物は、今回提案されている法案における、第三条第一項における薬物も同義でございますが、これまで適用された事例といたしましては、覚醒剤でありますとか睡眠薬、精神神経用剤、あるいは、いわゆる脱法ハーブ、脱法ドラッグなども含まれているところでございまして、そういう意味では、当該薬物が適法であるか違法であるかということにかかわらず、その影響について検討した上で適用するということにされているところであると承知しております。
  64. 横路孝弘

    ○横路委員 そうすると、数は限りなくあるわけですね。毎日、医者が処方している薬の中にもあると。
  65. 稲田伸夫

    稲田政府参考人 そのように理解しているところでございます。
  66. 横路孝弘

    ○横路委員 今まで議論してまいりましたように、いろいろな問題もたくさんあるということなんですが、この法案について、修正すべき点があるとか、あるいは具体的にこうしてほしいという意見がございましたら、三野参考人、久保田参考人、お二人からお答えいただきたいと思います。では、三野さんどうぞ。
  67. 三野進

    三野参考人 政令で明記されるとされた統合失調症、気分障害については、現時点の患者だけでも二百万人に近い多数の患者さんがいるのに、法制審議会では全く、ほとんど議論がなされませんでした。精神疾患では、急性精神病状態にあっても意識障害は認められず、意識障害を伴う疾患、てんかんと同列には考えられません。刑罰の適用条件とされている服薬状況についても病気症状とは相関しませんし、病気への認識についても精神疾患特有の病識の問題があり、無責任性の要件とするわけにはまいりません。  精神疾患への適用について議論がほとんど行われず、我々精神科医から見れば首をかしげたくなるような影響やおそれについての議論があり、結論を出されたことは大変残念でなりません。  もう一つ重要なことがございます。  法制審議会の刑事法部会の議論の結果、運転免許を適正に保持している者、つまり運転免許の更新時、取得時に欠格には当たらないとして運転免許を保持していると認められた現に運転免許を持っている方でも、事後に病気が悪化した結果、本法の、本法案の適用となるということは明言をされております。  つまり、運転免許の欠格条項以外に、別の要件があるとしているわけですから、その条件、具体的な症状病気の経過について、何ら議論が行われていないと思います。にもかかわらず、この第三条の二項は、道交法の政令に倣ってということになっております。  僣越ながら、精神科医の総意として、この法案について意見を申し上げます。  この法案の第三条二項、「病気として政令で定めるものの影響により、」とある項を削除していただきたいというふうに考えます。また、実質的に統合失調症やてんかんという病気全体を明記している規定を改めて、運動、意識、精神の機能の障害による症状の影響によりと最初の部分を修正していただき、どのような症状をこの三条の適用要件とするのか、妥当であるのか、医療専門家、当事者、法の専門家を集め、国民に開かれた検討の場を設けるべきであると考えております。  以上でございます。
  68. 横路孝弘

    ○横路委員 では、久保田参考人
  69. 久保田英幹

    ○久保田参考人 さきの道交法改正のときの参議院の内閣委員会で、道路交通法はもう少し数が多く、十の疾患が具体的に挙がっていますけれども、それらの病気あるいは健康状態が他の状態と比べて科学的、統計的に事故率が高いのかという質問に対して、警察庁からは、そのような統計はないけれども、医学的に危険であることは定まっているというような御答弁がされております。今、三野先生からもお話がありました。  そして、今回、この委員会には、日本神経学会、日本精神神経学会、日本てんかん学会、日本うつ病学会、日本不整脈学会等七つの学会から連名で、科学的、医学的根拠はないので、三野先生がおっしゃった三条の二項は削除していただきたいというような同様の要望が出ております。  私たち日本てんかん協会も全く同じことを考えております。そして、さらに議論を進めていただいて、本当に、交通安全を高めるということは誰も同じ願いですので、誰もが納得できるような基準ができるまでは、その項はぜひ棚上げしていただきたいというのが切なるお願いでございます。
  70. 横路孝弘

    ○横路委員 川崎さん、お待たせいたしました。  皆さんの組織は、三万人の全国組織で、主として統合失調の家族の皆さんの会と承知しておりますが、ふだんどのような活動をしているのか、御紹介いただきたいというように思います。そして、今の時代ですから、自動車運転が必要な人というのは多いと思うんですね。そういう人々も、今までのお答えですと、大部分の人は、医師の指導のもとで、病気とつき合いながら生活しているというように思いますけれども、どんな状況なのか、お話しいただければと思います。
  71. 川崎洋子

    川崎参考人 川崎でございます。  今御紹介いただきましたように、私どもの会は精神障害者を家族に持つ全国組織でございまして、四十七都道府県にそれぞれ連合会を持ちまして、その連合会の下に各地域の単会の家族会が属して、会員として三万人ということになっております。  私どもの会は、実は、私どもの会の前に全家連という全国組織がありまして、七年前に解散いたしまして、その後を受けて立ち上がりまして、ことしで七年目に入っているところであります。  会の目的といたしましては、精神障害を抱えている家族の大変さをお互いに理解し合って支え合っていこうと。やはりこれは家族でないとわからない問題がたくさんありまして、家族同士で支え合って、そこで元気をもらっていこうというのがまず一つの目的であります。  二つ目といたしましては、実は、いろいろな精神に関する情報がなかなか家族には行き届いていない。特に、病気を正しく理解することとか、それから、どのように当事者と対応していいかとか。そのようなものを、この家族会で講師に医師などをお招きして勉強して、正しい理解をしているところであります。やはりどうしても精神障害というのは、なかなか治らない病気とか、わけのわからないことを言うとか、そういうお話の中で、しっかりと正しく理解をしていくということを今やっております。  三つ目といたしましては、このような活動を広げていく意味におきまして要望活動とか請願活動をしておりまして、それを含めて、偏見の多い精神疾患の啓発活動をしております。私ども、どうしても精神障害者は当事者も家族もなかなか外に出ないねと言われておりますけれども、実は昨年、署名活動をいたしまして、ある制度を実現するための署名活動で、全国の多くの家族、当事者が街頭で署名活動をいたしました。三十万筆という数を集めまして、今私たちは、これからしっかりと私たちのことを世に訴えて、偏見をなくしていこうということをやっております。  そういう中で、先ほど横路先生からのお問い合わせの、道路交通法の改正のあたりから、実は相談が多くなりました。僕たちはこれから運転ができなくなるんじゃないかという不安を持った声が家族からも当事者からも届いております。  といいますのは、都心部においてはそれほど問題ではないんですが、全国を回っておりますと、公共交通機関がないところ、そういうところでは、車が生活の足になっております。  精神障害の方は、やはり通院をして服薬をしていくということが必要と言われておりまして、二週間に一回から一カ月に一回通院をしております。それも、そのような地方におきましては車を使っておりますし、また、作業所とか、出かけるときにもやはり車で通っているわけなんですが、これでそういうことができなくなると、まず、通院がなくなれば、私たちがすごく心配するのは、医療中断になって状態が悪くなる人もふえるんじゃないかとか、また、せっかく社会参加できる場として作業所等に通えている人たちも、これでまたそれができなくなって、ひきこもりになってしまう。  今いろいろと国の方の方針として地域で障害者が生活するようにしよう、そういう声の中で、何か逆の方向に進んでしまうんじゃないかという思いがしております。  以上でございます。
  72. 横路孝弘

    ○横路委員 自動車運転についてはどうですか。何か特に会として活動されていますか。
  73. 川崎洋子

    川崎参考人 自動車運転に関しましては、実は、精神障害者は、地域で生活している方は八割強が家族のもとで生活しております。そういうときに、かなり多くの人が二十前後の発症ということで、運転免許を持っている方がかなりおります。数字的にはちょっと把握しておりませんけれども、かなりいるということは私は知っております。  状態が悪くなるということは、家族が日常生活をしておりまして、やはりすごくわかるわけです。きょうはちょっと疲れているねとか、きょうはちょっと何かいらいらしているねというときには、運転はやめた方がいいんじゃないのとか、そういう助言をし、しっかりとそれを聞いておりますし、医療にかかわって医師といろいろと相談をできる方におきましては、医師のいろいろな指導もあって、そんなに大きな、ひどい状態で運転するということはないのではないかと思っております。  以上です。
  74. 横路孝弘

    ○横路委員 もう時間が来ましたが、最後に、久保田先生と三野先生に、この法案の影響、患者に対して、患者からどんな声が寄せられているのかというようなことを御紹介していただければと思います。
  75. 久保田英幹

    ○久保田参考人 先ほど申し上げましたように、八割以上の方が、病名を伝えて、理解されて、安心して暮らしたい、仕事をしたいと願っております。しかしながら、そういう人たちが、もう一生話せなくなった、誰にも言えない、隠し通すしかないというようなことを次々と口にしております。先頭に立って伝えよう、社会に理解を求めようという人たちが、これはもうだめだなというようなふうに、この法案の与えている影響というのは、法律にとどまらず、社会全体が、てんかんの患者さんは極めて危険であるというような風潮が生まれている。それが、就労あるいは学校、さまざまな場面で不利益な事例が生じております。そういうものを見ながら、患者さんたちは非常におびえて、さらにこもってしまうというようなこと。  そしてもう一つは、てんかんという診断をされたくない。実は、悲しいことに、大勢の人がそう思っています。てんかんと診断すると、まさか私がそうじゃないでしょうというようなことをおっしゃいます。その診断さえなければいいということで、先ほど川崎さんもおっしゃいましたように、医療から離れる、あるいは疑わしくても治療を受けないというような人がふえることも懸念されます。  もう一つは、厳罰化に対して医師の責任を負い切れない、もう診れないということで、現に、私は静岡の専門、てんかんセンターに勤めておりますけれども、大勢のお医者さんから、この一年、紹介がふえています。それは、運転免許に関することです。責任を負い切れない、この患者さんの人生には自分は責任を負えないので診てもらいたい、あるいは診断を告げてほしい、あなたは運転はだめだと宣告してほしいというような役割が専門医に求められるというような形での医療のゆがみということも影響としてあると思います。
  76. 江崎鐵磨

    江崎委員長 三野参考人、時間が来ておりますので簡潔にお願いします。
  77. 三野進

    三野参考人 この法律の刑罰の本質というのは、精神障害にある方の立場から見ますと、病気にある人は危険運転をする可能性が高いので、重罰化されるので運転はすべきでないというふうな、そういう考えに至ると思います。  定期的に通院をされている方から、やはり真面目な患者さんほどそのことを深刻に受けとめていて、免許を返上すべきじゃないか、そういう声が出ております。  私は香川県高松の診療所の医師でございますけれども、そういうところでも、運転免許がなければ通院ができない方が百人ほどおいでになります。そういう意味からいえば、受診抑制や通院の中断ということが切実な問題になります。  それから、就労、雇用にも深刻な影響が出ます。運転業務に従事している人が多数いると思いますけれども、雇用の側からしますと、酒気帯び運転に相当するような方が要するに精神障害ということになるわけですので、そういう方は雇用できないということで解雇されることになりますし、新規の雇用にも大きな影響を与えるだろうと思います。せっかく精神障害者の雇用率がカウントされようというこの時期にこのようなものが起こるということは、私どもにとっては心外でございます。  それと、これはどうしても申し上げておきたいんですが、刑法罰に対する国民の法律の意識というのは、社会規範に対するあらゆる行動の心理的な前提条件として働いているわけで、精神疾患にある人は危険な運転をするに違いないというに等しいこの法律規定は、長い時間を経て、疾病観の変化をもたらして、新たな偏見を生むことになります。私たち精神科医はそういうことを懸念しております。  ありがとうございました。
  78. 横路孝弘

    ○横路委員 最後に、法務大臣、このような医師の、専門家の、しかも現場で活動されている方の声、本当はこれは法制審議会の中で今のようなお話を十分して、今度は法律家との間で議論していただきたかったというように思いますが、感想はいかがでしょうか。
  79. 谷垣禎一

    谷垣国務大臣 今現場におられる方からいろいろな懸念が寄せられまして、私も真剣に耳を傾けさせていただきました。  いずれにせよ、三条二項の政令を定めるときには、専門家等意見も十分お聞きして、適切に決めていかなければならないと思います。  そして、今伺って感じましたのは、政令の決め方もさることながら、やはり、今度の改正が何を意図しているのか、その適用範囲はどういうところにあるのか、差別と偏見が起きないようにするにはどういうふうにしたらいいのかというような、広報活動といいますか、そういうところにも一層力を入れる必要があるなということを改めて感じた次第でございます。  いずれにせよ、御懸念が払拭できるような形になるように、我々懸命に努力したいと思っております。
  80. 横路孝弘

    ○横路委員 終わります。
  81. 江崎鐵磨

    江崎委員長 どうもありがとうございました。  それでは次に、椎名毅君から発言を求められております。椎名毅君。
  82. 椎名毅

    ○椎名委員 おはようございます。  本日、自動車運転により人を死傷させる行為処罰する法律案について質疑する時間をいただきました。本当に感謝を申し上げたいというふうに思います。また、横路前議長の格調高い、非常に勉強になる質疑の後に私のような若輩者が質問をするので、大変緊張しておるというのが正直なところでございます。どうぞよろしくお願いいたします。  私自身もそうでしたけれども、六月の十九日に質疑をしまして、それから、二十一日に、参考人として被害者団体の方々から質疑をお伺いしました。論点は大分整理されてきたというふうに思っておりますので、最終確認の意味を含めまして、幾つか重要な点を質疑させていただければというふうに思います。  本日、私自身も、横路先生と同じように、被害者の方だけではなくて、今回、政令で指定される病気ということで幾つか例が挙げられている中で、そういった関係者の方々からもお話を聞く必要があろうかという思いから、てんかん協会の久保田参考人にいらっしゃっていただきました。どうぞよろしくお願いできれば大変幸いでございます。  先ほど来、横路先生も問題にされておりましたけれども、三条二項の「自動車運転支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの」ということで、これに対しては、基本的には道路交通法の定める政令に準拠をするというか、それに準じた形でつくられる、基本的に病気については症状に着目をする。他方で、大臣おっしゃっているように、罪刑法定主義の観点から、刑罰法規の内容ということで明確性が必要であるということから、病気を含めて幾つかリスト化をされることになるわけでございます。  今回の法律が定められることによって、特定の病気がリスト化されるということで特出しをされるわけでございます。特に、てんかんというのは、非常に痛ましい事故ではございましたけれども、鹿沼の事故で、てんかんの発作によりましてクレーンの車の事故がございまして、子供たちが亡くなるという非常に痛ましい事故があったわけで、表現はちょっと悩ましいですけれども、どうしてもやり玉に上げられるというようなところで特出しされてしまう部分もあるのかというふうに思います。  しかし、法制審の中でも議論されておりましたけれども、過労運転による交通事故というのは、結局、検討の結果ということで、重大な処罰として特出しをされることはなかったわけでございます。  過労運転については結局適用されないけれども、てんかんそれから精神疾患等、こういった他の病気の発作による交通事故を特出しして、特にこれらを重大な処罰対象とされていることについて、御見解を久保田参考人にいただきたいと思います。
  83. 久保田英幹

    ○久保田参考人 先ほど来述べておりますように、特定の病気による事故が非常に注目され、マスコミに取り上げられました。しかしながら、この二十年間、てんかん発作に関して、てんかん発作による事故の件数というのはほぼ一定であります。二〇〇二年に絶対欠格から相対化されたから、見たことじゃない、事故がふえたじゃないかというような指摘もあります。全く当たっておりません。ただ注目されている。  そのことで、もちろん、お亡くなりになった方の御冥福を改めてお祈り申し上げたいと思いますけれども、マスコミの影響、それが国民感情を動かし、そしてついに政治まで来たというふうに私は考えております。  先ほどおっしゃいました過労運転についてでありますけれども、その前に、危険運転致死傷罪というのは故意性が肝心なわけですけれども、この準危険運転致死傷罪というべきものの故意性の要件というのは、まず、病気でいいますと、病気の認識、つまり前提ですね。そして、その病気が理由で正常な運転支障が生じるおそれがある状態の認識。これは、さまざまな御議論を読ませていただきましたが、最終的には道交法で定めるところの運転適性を欠くというようなことにほぼ落ちついているというふうに理解しております。これは、いわば蓋然性というふうに考えていいと思います。しかしながら、正常な運転が困難になったということの認識は不要というふうに結論づけられているというふうに理解されております。  しかしながら、法制審での専門の先生の御意見では、読ませていただきますが、睡眠不足や、深夜、早朝の運転、長時間運転などは、過労運転につながりやすく、運転者はその危険性の理解が重要であるというふうに議事録では書かれております。  この睡眠不足、長時間運転等々は病気の認識と同じ、つまり、過労運転イコール居眠り運転というふうに定義されていますけれども、その前提としての状態は既に認識されているというふうに思います。そして、そのことで、運転者はその危険性を理解する必要があるというふうに述べられております。もしそれを理解していながら運転していたとすれば、これは正常な運転支障を生じるおそれがある状態を認識したということでありますので、過労運転を、しかも第二回という早い段階で除外したということに関しては耳を疑います。  と同時に、その後薬物の話がありますけれども、薬物の影響は、薬物特有の中枢神経系等への影響だけではなくて、眠気も関与するというふうになっておりますが、眠気の定義ができないというのが先ほどの横路先生の御意見でも外された根拠ですけれども、一方で、眠気の定義ができないので外すとしながら、薬物の影響では、眠気をもとに、あらゆる処方薬、市販薬、処方薬が千六百以上、市販薬で千五百以上の品目が運転を禁じているわけです。  そのような意味で、これは、法制審はもう一度改めて眠気に関する議論をするチャンスがあったにもかかわらず、風邪薬等ではこんなことにならないよねというような形で議論は済まされてしまいました。そのような意味で、法制審は非常に議論が拙速で、かつ結論は安易だというふうに考えております。  なお、医薬品に関して言いますと、本年三月に総務省は、医薬品等の普及・安全に関する行政評価・監視結果に基づく勧告ということで、「自動車運転等の禁止等の記載がある医薬品を処方又は調剤する際は、医師又は薬剤師からの患者に対する注意喚起の説明を徹底させること。」ということが出ています。これを受けて厚生労働省は、本年五月二十九日付で各都道府県衛生主管部長宛てにその旨を通知しております。  したがって、これからは、医師あるいは調剤師は確実に、運転をしないようにという指導をすると思います。そして、それを受けてもかつ事故を起こした場合に、そのことは本法の対象になり得るということにもなるわけですので、この影響は非常に甚大であるというふうに考えております。
  84. 椎名毅

    ○椎名委員 ありがとうございます。  先ほどの横路先生の質疑のときにも出てきましたし、今の久保田参考人の御意見でもそうですけれども、過労と病気というのはそこまですごい区別をすることができるわけではないというのが、現場で活動されていらっしゃる方々の御意見なんだというふうに思います。私自身も、それは本当に重大な指摘として認識していきたいと思いますし、今後、この政令内容を定めるに当たって、役所の方にもぜひとも御検討いただきたい内容ではあるというふうに思います。  そして、引き続き久保田参考人に伺いますけれども、今回、病気内容政令で定めることになっておりますけれども、それは結局、道路交通法に準拠した形でということで、おおむね六つこれを指定することになるというふうに言われています。この六つだけを特出ししているということ、それが果たして適切なのか、それとも平等なのかという観点から伺いたいんです。  例えば、ほかの国ではどういった定め方になっているんでしょうか。病気等の影響によって交通事故が起きた場合、これをそもそも処罰しているのかどうかというところから、処罰するとしても幾つかの定め方の例というのがあるかと思いますけれども、お調べになった範囲でぜひ教えていただければというふうに思います。
  85. 久保田英幹

    ○久保田参考人 道路交通法に関してはいろいろ調べる手だてはあるんですが、刑法は非常に深く広いということで、なかなか困難な道でございます。  道路交通法に関して申し上げますと、これは、先ほどからありますように、一般的な表現にするのか、病名を特定し、かつ、それは病気ではなくてその症状に注目し、その症状を呈するような病名に注目していくか、これは技術的な問題等も含めていろいろな議論があると思います。  しかしながら、私が調べた範囲によりますと、例えば英国では、運転に不適切な状況、これは、まず運転免許申請の段で二十項目以上のチェックリストがあります。そこに、病名、そして、あらゆる不適切な状態がありますかという質問があります。そして、別表には百五十三の病気が具体的に羅列されております。そして、そこに虚偽の申告をした場合には千ポンドの罰金、あるいは、事故を起こした場合には罪が加重されるというようなことがインターネット上では警告されています。  あるいは、オーストラリアでも五十の疾患に関しての具体的なガイドラインがあります。例を挙げますと、血圧ですけれども、収縮期圧が二百ミリメートルHg以上、あるいは拡張期圧が百十ミリメートルHg以上の高血圧の方は、コントロールされるまでは運転は不適切である、あるいは、胸腹部大動脈瘤の直径が五センチ以上の場合には、これは破裂の危険があるということで、医学的にコントロールされるまでは運転は不適切であるということが具体的に挙げられています。  一般的な表現にするのか、あるいは、取り上げるのであれば、リスクをきちっと評価して、危険性のある病気をきちっと管理していく、これが全体としての交通事故のリスクを社会として下げる方法であるというふうに考えております。  それから、刑法に関しては、日本てんかん協会は国際てんかん協会の日本の唯一の支部であります、国際てんかん協会を通して全世界の状況を今調査していただいておりますが、残念ながら、まだちょっと回答は間に合っておりません。  ただ、法制審議会の資料の中にドイツの例が挙げられておりました。それが私が目にした唯一でありますけれども、それの翻訳ですけれども、その中にはやはり具体的な病名は書いてございません。精神もしくは身体の欠陥の結果、事故を起こしたような場合にはというような刑法がある。これもドイツの知り合いに今問い合わせていますけれども、残念ながら答えは間に合っておりません。
  86. 椎名毅

    ○椎名委員 ありがとうございます。  そもそも、その病気によるものを特出しして処罰をするかどうかというところ、そこにも争いがありますし、かつ、リストの挙げ方というところについても、小さな数ではなく非常に大きな数を挙げている国もあるということで、定め方についてもいろいろあるんだというふうに思います。  必ずしも、この六つ、それこそ、統合失調症、てんかん、再発性の失神、無自覚性の低血糖症、躁うつ病、そして重度の眠気の症状を呈する睡眠障害、こういったようなことだけを特段に、殊さら取り上げるということについては、やはり法のもとの平等という観点からも少し疑問がある部分もありそうだというふうに、私自身もお話を聞いていて思ったところでございます。  道路交通法等こういった免許欠格事由等について定められたこと、それで、病気の名前等が特出しをされていることによって、てんかんの方々、学生や労働者、それからその雇用主等の方々が、実際に、具体的に、こういった事案で差別をされたとか、こういった事案で不利益をこうむっている、そういったような事案がもしあれば教えていただければというふうに思います。
  87. 久保田英幹

    ○久保田参考人 まず、てんかん協会、電話相談ということで全国から相談が参ります。二〇一〇年までは大体年間七百件、それが二〇一一年、一二年とふえまして、一二年には千六百件ということで、てんかんを持つ方あるいはその御家族が非常に不安を強めているということが事実としてあります。  相談内容も、それまでゼロ件だった免許に関する相談が、昨年は数十件、八十件以上来ています。それから、仕事の問題、学校の問題等々が特にふえているということで、これは、数字からも、いろいろな方がさまざまな場面で不安を覚えているということは間違いないと思います。  そのような中で、具体的な事例でございます。  例えば、まず学校ですけれども、プールに関して、よいのかというようなことは日常的にありますので、そのような相談は省いて、なおかつ、この事故後の相談についていいますと、例えば、家庭科や技術の実習や理科の実験に参加するのをとめられた。あるいは、宿泊研修、修学旅行や林間学校などの参加をとめられた、あるいは親の同行を求められた。  あるいは、発作が頻発したときに座薬あるいは経口薬を頓服するというようなことを主治医が依頼をする、あるいは御家族が依頼をしても、それを断られて、家族が学校へ出向いてこいというようなことで、御家族はそれ以来、電話から離れられなくなってしまったというような事例もございます。  あるいは、専門学校の話ですけれども、医師の確認を得てスキューバダイビングのスクールに入った。そして、授業は受けられたけれども、潜水士の資格の受験はとめられたというようなこと。あるいは、看護学校で、実習に入るとき、あるいは国家試験を受けるときに実習の参加をとめられる。これは卒業できないということになります。こういうようなことがあります。  あるいは、就職を希望する高校生に対して、これは県の労働局が就職の進路担当の先生に対して、てんかんと特別に名前を挙げて、てんかんのある子供は全員、就職面接のときに病名を告知させるよう御指導ください、そして、そういう方はハローワークが障害者雇用で面倒を見ますというようなことを全県の進路担当者に指示したというようなことがありました。  これは、てんかん協会が厚生労働省にお願いしまして、訂正の指示を出していただきましたけれども、非常に驚いた次第であります。そのときの指示は、単に病名でした。病気がとまっている、とまっていないにかかわらず、てんかんの形ということに関して、支部も大変力を入れて交渉をしたというようなことがあります。  あるいは、特別支援学校のスクールバス。もしてんかん発作が途中で起こるとバスの運行に遅延を生じるので乗らないでほしい、かつ、送り迎えするようにというような事案もありました。  あるいは、発作もとまって薬もとめて、良性小児てんかんの患者さん。高校のスキューバダイビングクラブに入って、それまで許可されていたのに、事故後、合宿への参加をとめられた。主治医は、自分は、薬もやめて治癒なんという診断書はついぞ書いたことがないけれども、そう書いても受け入れてもらえなかったというような、非常に多くの悲惨な相談が寄せられております。  就職に関しては、ある会社の人事担当者がてんかん協会の支部に、発作のある人は、電車通勤途上のホームで発作を起こして、並んでいる前の人を突き飛ばして事故になったら会社の責任が問われかねないので、通勤をやめてもらいたいがよろしいかというような相談がありました。  あるいは、運転適性があって、警察に届けているにもかかわらず、事故が心配だからと、事故後、車での通勤をとめられている。  あるいは、発病して、二年間我慢して、家族が会社に送り迎えをしている。二年たったので、改めて自家用車による通勤を会社の人事に頼んだところ、とめられた。理由は、もし通勤途上で事故を起こしたら事業主が責任を問われる、これは弁護士にも相談していることなので、訴えても無駄だと。彼は、私が主治医ですけれども、主治医にも産業医にも労働局にも相談して、それは会社がおかしいと言ったけれども応じてもらえず、いまだに御家族が二十何歳の青年を会社に送り迎えしているというような事例もあります。  あるいは、五年間発作もなく、雇用主から信頼されて仕事を任されていた、ところが、事故報道の後で解雇されてしまった。理由は、運転適性があるということを医師に相談した、五年間発作がとまっていて、適性があるにもかかわらず、その医師が運転を禁ずるという診断書を書いてしまったためである。残念ながら、専門医の、我々同業の人の中でも制度が周知していないというような事実もあります。  あるいは、発作は抑制されていたにもかかわらず、採用後に健康診断で、持病にてんかん、そのために九十日に一度通院の必要がありますと書いたら、解雇された。理由を聞いたら、健康診断の結果としか言ってもらえないというような事例もあります。  また、発作はなく、病名も伝え、十八年間勤務している会社から、事故報道の後、車の運転をしない部署にかわるようにと言われた。しかし、車の運転をしないと給料が下がってしまう、それでは家族を養えないので、もとのそのままの場所にいさせてほしい、自分免許証も正規に持っていると言ったにもかかわらず、では、リスクが高いのでやめていただきたいということで解雇されたというようなこともあります。  定期健康診断で、それまでなかった年一回の診断で、常備薬ということで具体的薬品名を書きなさいというようなことを言われてびっくりした、自分は病名は会社に言っていないけれども、発作もとまっている、書かなきゃいけないんだろうかというような相談もありました。  あるいは、てんかんを発病して運転ができないので内勤を依頼したら、うちにはそんな余裕はない、だったらやめていただきたいということで解雇されたというようなこと。  あるいは、就活、就職活動の段階で、一次面接で診断書を出すように言われて、見ると、入社後、入院あるいは通院で会社をやめるような必要のある病気にかかっていますかというような質問があって、非常に当惑した。これは発病して間もない大学生の例であります。  等々、非常に影響が、特に京都で事業主の方が逮捕されたというようなことで、特に事業主の方たちは雇用責任ということを過重に考えて、てんかんの患者さんが非常に危険な人たちだというようなことが表面的に起こり、そして、だんだん潜在化しながら、巧妙に患者探しが始まっているというふうに感じております。
  88. 椎名毅

    ○椎名委員 ありがとうございます。  てんかんという病気は、薬で抑えることもできますし、発作が出なければ普通に暮らしていけるわけですけれども、大臣は、その症状に着目をするということで、個別に病気を非難しているわけではないともちろんおっしゃっているわけですけれども、それを受ける周りの人たちというか一般の人たちは、どうしてもてんかんそのものに着目をしてしまう傾向がやはりあるんじゃないかなというふうに思います。その典型的な幾つかの例を参考人にお話ししていただいたところかなというふうに思います。  特定の病気をリスト化するということについては、ぜひとも慎重にしていただきたい。  それから、先ほどの横路先生の質疑の中でも、削除をすべきであるみたいな御意見もありましたけれども、この三条二項の政令の定め方について、ぜひ大臣の御所見をいただければというふうに思います。
  89. 谷垣禎一

    谷垣国務大臣 きょうは参考人からいろいろな御懸念を伺いまして、何とかその御懸念を払拭できるような状況に持っていかなきゃいかぬと改めて思った次第でございます。  それで、先ほど来、ある病気そのものに着目しているのではないんだ、道路交通の、自動車運転支障を及ぼすような、その症状に着目しているんだということを繰り返し申し上げているわけですが、まず、こういった立法の考え方を十分に理解していただくように我々はさらに努力しなきゃいけないと思います。  それから、政令で定める自動車運転支障を及ぼすおそれがある病気の影響によって、実際に運転支障の生じるおそれがあるという危険性がある状態が生じた、そして、そのことを認識しながら運転して、つまり、そのことを全然認識していなかったというんじゃそもそもこの罪の対象にはならない、その危険性自分でも認識していて、そして、その危険性が顕在化して正常な運転が困難になって事故を起こしてしまった、人を死傷させた場合、そのときにやはりこの法律は適用されるんだ。単に、どこそこのお医者様にかかっていた、あいつはあの病気じゃないかということだけで罰しようというわけではないんですね。そのあたりも十分に御理解をいただくことが必要なのかなと。  そして、もし現実に、そういう病気を持って、場合によっては自分がそういう交通というか運転支障を生じる状態があって、危険なことになるということを認識しながらこの結果を起こしたというような場合であると、それはやはり処罰を考えておいた方がむしろ私は差別、偏見ということにならないのではないかと。  ですから、本罪を設けないという方法ではなくて、この罪の適用の限界、目的、こういうものをはっきりさせる。それから、もちろん、先ほどから参考人のお話を伺ってつくづく感じたんですが、その病気の治療方法とかいうようなものの十分な理解、そういうようなことがあわせて必要なのかなと思った次第でございます。  政令の定め方、もちろん、これからも専門家等々の意見も伺いながら、適切なものになるように努めていかなければならないと思っております。
  90. 椎名毅

    ○椎名委員 ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします。  時間の関係もあるので、幾つか順序を組みかえて、最後、少し質問させてください。  項目で一番最後に置いておいた九番ですけれども、今までの参考人質疑の中で、結局、精神疾患であったり、てんかんであったり、さまざまな病気による影響の事故と過労による事故というのは余り大差がないんじゃないかというようなコメントも幾つかあったかというふうに思います。  その中で、今回、法制審の中で、過労運転による事故というところについては結局検討はしないということで先送りされたわけですけれども、今後、この過労運転による事故で人を死傷させた場合について、将来的に類型に加える、ないし新しく重罰化していくことについての検討ということについて、改めて大臣にもう一回お伺いできればというふうに思います。
  91. 谷垣禎一

    谷垣国務大臣 過労運転については、先ほどから横路先生も、どういう理由でということを質疑の中でもおっしゃいました。  今にわかに、この過労運転ということ、場合によってはやはり過労運転というのは極めて危険なものであり得るわけですが、どういうようなものに限定していくかということは必ずしも明確にできているわけではありません。  したがいまして、これについては、今委員の御質問は、これからどう考えていくのかということでございましたけれども、今一定の結論を持っているわけではありません。以上、申し上げたような点については、慎重な検討が必要であると思っております。
  92. 椎名毅

    ○椎名委員 ぜひ、今後、類型に加えることについても引き続き検討することをお願いしたいかなというふうに思います。  では、まだ三分あるということで、次に事務方の方に幾つか伺わせてください。  それでは、予定していた質疑の八番というところに書いていたことですけれども、四条の過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪、こちらについては、この一番最後、免脱する行為の中で、「更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為」ということをしたときに、この罪が成立するということが書かれています。  このいわゆる典型的な例は、追い飲みというふうに言われるものだというふうに思いますけれども、しかし、その他その影響の有無、程度が発覚することを免れるべき行為というと結構広く見えるので、例えば、要は車で人をはねて逃げてしまったような場合、こういう場合は、それこそ免れるべき行為に該当しそうな気がします。そうすると、道交法の不救護との関係というのがやはり問題になってくると思いますが、道交法の不救護との関係をぜひ教えていただければというふうに思います。
  93. 稲田伸夫

    稲田政府参考人 四条の免脱罪で申しております、構成要件上免れるべき行為ということでございますが、これにつきましては、確かに、道路交通法上の不救護、不申告の罪のように、事故現場から立ち去ることによる場合は考えられますけれども、その場合でも、道交法のように立ち去ることにより即時に既遂に達するということではなく、免れるべき行為と言える程度の行為が行われることが必要であろうと考えております。  したがいまして、その場から離れる行為につきましては、その場から離れた後に、時間が経過してアルコールなどの濃度に変化が生じ、運転時のアルコールなどの有無または発覚に影響を与えることができる程度に達したときに既遂になると考えております。  そういう意味では、行為として両罪は必ずしも同一のものではなく、いわば一定の範囲で四条の場合は作為犯と考えますし、救護義務違反の方は不作為犯というふうに考えているところでございまして、両罪は刑法上の評価でいいますと併合罪という関係になるのではないかと思っております。
  94. 椎名毅

    ○椎名委員 どうもありがとうございます。  時間も来ましたので、これで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
  95. 江崎鐵磨

    江崎委員長 次に、林原由佳君から発言を求められております。林原由佳さん。
  96. 林原由佳

    林原委員 日本維新の会、林原由佳でございます。  自動車運転により人を死傷させる行為等処罰に関する法律案について、これまでの審議を踏まえて質問いたします。  まず、四条の過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪についてお伺いします。  この条文は、アルコールまたは薬物を摂取して死傷事故を起こした後に、危険運転致死傷罪による重い処罰を免れるため事故現場から逃走することを防ぐ、いわゆる逃げ得を防ぐために新たにつくられたものです。この条文がつくられたこと自体は大変意義あることだと私は思っているのですが、その内容について、飲酒ひき逃げで息子さんを亡くされた参考人の佐藤悦子さんは、二点、不安、疑問を述べていらっしゃいました。  一点目は、四条が、「その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、」と規定して、目的を限定している点です。佐藤さんは、これだと、被疑者が怖くなって逃げたと供述した場合には四条が適用されず、量刑の軽い過失運転致死傷罪になってしまうのではないかと危惧されていました。  この点につき、四条の、発覚を免れる目的の立証はどのように行われるのか、また、怖くなって逃げた場合は四条が適用されないのか、お伺いいたします。
  97. 稲田伸夫

    稲田政府参考人 ただいま御指摘のございました、四条の罪が成立するには、その運転のときのアルコールまたは薬物の影響の有無または程度が発覚することを免れる目的があったことが必要であるところは、そのとおりでございます。  ただ、この目的につきましては、被疑者あるいは被告人の供述だけで認定されるものではないということは、これは一般の刑事手続と同様であろうと思います。  したがいまして、御質問につきましては、個別具体的な事案において、証拠によってどのような事実が認定されるかということになりますけれども、仮に御指摘のような主張がなされたとしても、例えば、事故の態様、その場を離れるまでの状況、離れた後の言動などの関係証拠によっても、この目的の認定は可能であると考えております。  特に、現場を離れてアルコール濃度を低減させる行為を、その旨を認識して行ったときは、通常は、アルコールの影響が発覚することを免れる目的であったことも推認できることが多いのではないかと考えております。  御指摘のような、怖くなって逃げたという主張がなされた場合には、その怖くなっての具体的な内容が、飲酒運転して事故を起こしたことが警察に発覚することが怖くなってというものであることが立証されたり、あるいは、免れる目的を否定するようなほかの合理的な目的が存在しないことが立証できれば、本罪の免れる目的があったと認められるものと考えております。
  98. 林原由佳

    林原委員 ありがとうございます。  被疑者の供述だけで安易に認定されるのではない、こういうことでございますね。  佐藤さんが危惧されていたことの二点目は、四条の法定刑ではまだ逃げ得の余地が残っているのではないか、こういうことでございました。  前回までの質疑の中では、四条の免脱罪と二条、三条危険運転致死傷罪との適用関係が余り明確にはなっていませんでしたので、ここで確認させていただきます。  例えば、飲酒運転でひき逃げした犯人が飲酒の事実を隠すために現場から逃走した後に逮捕され、二条一号または三条一項の事実が立証され、危険運転致死傷罪が成立する場合、四条の免脱罪は同時に成立するのでしょうか。成立しない場合は、理由もあわせて教えてください。
  99. 稲田伸夫

    稲田政府参考人 今回、この四条の罪を設けました理由は、道路交通法に定められました救護義務違反、いわゆるひき逃げを犯してでも、現行の危険運転致死傷罪の適用を免れようとする者が生じやすくなるのではないかという御指摘、いわゆる逃げ得の状況が生じているということに対処するために定めたものでございます。  すなわち、本罪は、自動車運転に必要な注意を怠って人を死傷させた上に、二条や三条危険運転致死傷罪における正常な運転が困難な状態の重要な証拠でありますアルコール等の有無、程度の発覚を免れるべき行為によってその適用を免れてしまうことになってしまうという点に、その当罰性といいますか責任の、非難の根拠があると考えております。  このように、四条の罪は、二条や三条危険運転致死傷罪が成立しない、あるいはその立証ができないという場合に適用されるという関係に立つものとして設けるものでございますので、御指摘の場合、すなわち二条一号あるいは三条一項が成立する場合には、四条の罪は成立しないというふうに考えております。
  100. 林原由佳

    林原委員 それでは、四条の免脱罪と道路交通法七十二条の救護義務違反は、同時に成立するのでしょうか。
  101. 稲田伸夫

    稲田政府参考人 四条のアルコール等影響発覚免脱罪でございますけれども、これは、先ほども御答弁申し上げましたけれども、その場を離れて、そして結局、最終的に、そのアルコールの影響の発覚を免れさせるような事態に至らせるというところに意味があるわけでございまして、単にその場を離れるだけという救護義務違反とはやはり関係が、そういう意味では作為犯と不作為犯という違いがあるというふうに思いますし、今申し上げましたように、本罪は、単にその場から立ち去っただけで直ちに成立するわけではない。  しかも、一般に、罪数の考え方で最高裁がとっております、それぞれの行為を、法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価できるかどうかという、メルクマールとされておりますけれども、これに照らしたところ、今申し上げましたように、やはり作為犯と不作為犯ということになりますので、それぞれ成立し、併合罪の関係になるというふうに考えております。
  102. 林原由佳

    林原委員 ということは、四条の免脱罪と道交法七十二条の救護義務違反は併合罪ですので、実際の量刑は最高で四条の懲役十二年の一・五倍の懲役十八年、こういう理解でよろしいでしょうか。
  103. 稲田伸夫

    稲田政府参考人 そのとおりでございます。
  104. 林原由佳

    林原委員 懲役十八年というのは、確かに三条一項の懲役十五年よりは重いんですが、二条一号の懲役二十年よりは軽くなってしまいます。これだと、まだやはり逃げた方が得というようなことになるのではないか、佐藤さんはこのように思われていたわけですけれども、どのようにお考えでしょうか。
  105. 稲田伸夫

    稲田政府参考人 今御指摘の四条の罪と申しますのは、酒気帯び運転の罪、それから自動車運転過失致死傷罪、その上での証拠隠滅罪、こういう三つの現行の罪の複合形態の罪というふうに考えられるところでございます。  現在の法定刑は、酒気帯び運転が三年以下、自動車運転過失致死傷が七年以下、証拠隠滅罪が二年以下というようなこともございます。  さらに、証拠隠滅罪につきましては、刑法上、犯人がみずから行った場合には処罰対象とはされないというふうになっているということもございますので、それを考えますと、先ほど申し上げましたように、それぞれの罪の法定刑の上限が三年、七年、二年ということで、それを合算した十二年より重いものを規定するのが相当ではないのかなというふうに考えたところでございますし、また、自動車運転過失致死傷罪につきましては、被害者が亡くなった場合と被害者が負傷された場合とで法定刑が同じであるということも考慮いたしまして、法定刑を人の死傷の別にかかわりなく十二年以下というふうにしたところでございます。  ただ、救護義務違反の罪との併合罪加重で、処断刑が十八年以下ということになります。確かにその意味では、二条一号の危険運転致死罪との間で差は残ります。二十年と十八年以下というところで残りますが、いわゆる逃げ得が生じている状況は、これにより一定程度是正されるのではないかというふうに考えているところでございます。  またさらに、これまでは、ひき逃げの自動車運転過失致死傷につきましては、自動車運転過失致死傷が七年以下の罪であり、救護義務違反が十年以下の罪でございましたので、併合罪加重をする際にはこの救護義務違反を基準にして十五年ということになっていたわけでございますが、本罪は人の死傷を評価したという罪である、この罪を基準にして併合罪加重がされるようになりますので、その点にも一定の意義があるのではないかというふうに考えております。
  106. 林原由佳

    林原委員 いろいろな法律的な理論があるのはよくわかるんですけれども、飲酒運転で人をひいたときに現場にとどまった人間よりも、逃げた人間の方が軽くなる可能性があるということは、素朴な感情としてちょっとやはり納得いかないものがございます。四条の法定刑については再度検討していただきたい、このように強くお願い申し上げたいと思います。  続きまして、これまでもさんざん議論になってまいりました無免許運転についてお伺いいたします。  無免許運転には、一度も免許を交付されたことのない者が運転する純無免と呼ばれるものや、免許を取得はしたものの取り消された者が運転する取り消し無免、また、更新を忘れて失効した者が運転する場合など幾つかの類型がございます。世論やこれまでの審議経過を見ますと、特に問題となっているのは、無免許運転の中でも、一度も免許を取ったことのない者が運転するような悪質な行為です。  京都・亀岡の事件少年は、一度も免許を取ったことのない、いわゆる純無免でしたが、運転技能があったために危険運転致死傷罪で起訴はされませんでした。この結論については、国民の多くが疑問を持っているところですし、私自身も素朴な感情としておかしいのではないか、このように感じております。  運転免許の試験では、単なる運転技能だけではなく、交通ルールの知識や視力などの肉体面もはかられることとなっております。自動車はとても便利なもので、現代生活には欠かせません。他方、使い方を誤れば、運転を誤れば、いとも簡単に人を殺せてしまう、そういう凶器でもございます。自動車運転に求められるのは、単なる運転技能だけではなく、知識や肉体面を含めた総合力と考えております。  今回の立法過程で、無免許運転危険運転致死傷罪に含められなかった理由については、これまでもさんざん答弁いただいておりまして、答弁が変わることはないと思いますので質問はいたしません。  ただ、前回までの経過で出てこなかった点で、大変気になっていることがございます。それは、無免許運転危険運転致死傷罪に含めることを困難にする免許管理行政上の問題です。  先ほど、無免許運転には、純無免や取り消し無免など幾つかの類型があると申し上げましたが、現在の警察庁のコンピューター管理システムでは、一度も免許を取ったことのない者を区別することができないと聞いております。本法案の第三回法制審議会において、警察庁の当時の交通局長がそのように述べています。  この点につき、現在のシステムでは、なぜ一度も免許を取ったことのない者を区別できないのか、また、区別できるようなシステムにすることはできないのか、お伺いいたします。
  107. 倉田潤

    倉田政府参考人 お答えいたします。  現行の運転者管理システムでは、一度運転免許を受けた者であっても、例えば、違反歴等はなく運転免許を失効させた場合には、その者のデータを失効から三年三月で削除することとしております。したがいまして、現行のシステムでは、運転免許が失効した者と一度も運転免許を受けていない者とを区別して把握することはできないため、御指摘のような区別をすることはできない状況でございます。  そしてまた、こういった区別ができるようにシステムを変更できないのかというお尋ねでございますが、システムを変更し、運転免許が失効した者のデータを永久に保存するということにすれば、一度運転免許を受けた者のデータについては、何らかの形でシステムに残ることとなりますので、御指摘のような区別を行うことが可能になります。  もっとも、システム変更の時点で、既にシステムから削除されているものにつきましては、データの復元ができませんので、御指摘のような区別をシステム変更以前にさかのぼって完全に行うということはできないところでございます。
  108. 林原由佳

    林原委員 では、これまで削除してしまったものは諦めるとしましても、今後区別できるシステムに変えようとする場合、コストはどれぐらいかかるのでしょうか。
  109. 倉田潤

    倉田政府参考人 お答えいたします。  システムを変更するためには、記憶容量の拡大等に予算措置が必要となります。正確な額についてお答えすることはなかなか困難ではございますが、仮に、現行のシステムの記憶容量を単純に拡大することとした場合、少なくとも、警察庁では年間一千五百万円程度の予算措置が必要との試算もございます。  なお、都道府県警察でもシステム変更が必要になる可能性もございますが、その額については、現時点では把握をしていないところでございます。
  110. 林原由佳

    林原委員 年間一千五百万、多いと思うか少ないと思うかですが、私はやれない額ではないのかなというふうな気がしております。  無免許運転による死傷事故について、どのように処罰していくかを検討するに当たっては、無免許運転の類型ごとの現在の事故状況を分析して、類型ごとの危険性をきちんと判断していく必要があると考えております。  ここで、法務省にお伺いします。  交通事故全体における当事者の死傷結果別の事故割合と、無免許運転時の交通事故における当事者の死傷結果別の事故割合について、直近平成二十四年の数値と、平成十年から平成二十四年までの平均値を教えてください。
  111. 稲田伸夫

    稲田政府参考人 警察庁から御提供いただいたデータでございますが、まず、平成二十四年の数値で申し上げますと、当事者のいずれかが死亡した事故につきまして、交通事故全体に占める割合は〇・六%でございます、無免許運転時の交通事故に限りますと二・六%。それから、当事者のいずれかが重傷を負った事故につきましては、交通事故全体に占める割合が六・四%、無免許運転時の交通事故に限りますと一三・六%というふうになっているところでございます。  次に、平成十年から平成二十四年までの十五年間の平均値を申し上げますと、当事者のいずれかが死亡した事故につきましては、交通事故全体に占める割合は〇・八%、無免許運転時の交通事故に限りますと三・三%。当事者のいずれかが重傷を負った事故につきましては、交通事故全体に占める割合が七・二%、無免許運転時の交通事故に限りますと一七・三%となっております。  なお、御紹介した数値は、原付を含む自動車が第一当事者となった交通事故に限ったものということになっております。
  112. 林原由佳

    林原委員 今の内容は、皆様にお配りした資料に載っております。  これを見ると、無免許運転時の死亡事故は全体に比べて約四倍高く、重傷事故は全体に比べて約二倍以上高いということがわかります。しかし、この統計は、純無免も取り消し無免も失効無免も一緒くたになっておりますから、無免許運転の類型ごとの数値というのはわかりません。  大切なのは、先ほども申し上げましたが、無免許の類型ごとの危険性を吟味して刑事罰に適正に反映していくことだ、このように考えております。そして、類型ごとの危険性を吟味するためには、純無免か取り消し無免か失効無免かといった、無免許の態様ごとに死亡事故、重傷事故の実態を把握する必要があると考えます。実態調査の必要性について、法務大臣の御見解を伺います。
  113. 谷垣禎一

    谷垣国務大臣 今回提出している法案は、今委員がおっしゃったような、無免許の形態によって分けるということにはなっておりません。  要するに、免許を取らずに運転をするというのは、最も基本的な義務を欠いているものであり、反規範的である、それが現実に顕在化して事故が起こった場合には併合罪以上、重くしよう、こういう考えで、区別することは現時点では特に考えていないわけです。  今後、施行された場合に、その施行状況については、法務省としては十分注意して実態を見ていく必要があると思っておりまして、その適用状況やあるいは量刑といったものがどういうふうになっていくかということも追跡していきたいと考えているわけでございます。  そこで、今委員のおっしゃったようなあれを可能にするためには、今警察庁から御答弁があった、いろいろな技術的な問題あるいは予算的な問題もあるように思います。したがいまして、そういったことが可能かあるいは必要か、そういったことについては私ども十分これから議論してまいりたいと思っております。
  114. 林原由佳

    林原委員 実態調査の前提として、先ほども申し上げた、免許管理システムの見直しが必要になってまいりますが、この点について警察庁にお伺いします。
  115. 倉田潤

    倉田政府参考人 仮に、一度も免許を受けていない者を例えば危険運転致死傷罪等の対象とされた場合には、警察の保有する運転免許に関するデータが一定の役割を果たし得るとも考えられます。  したがいまして、今後、御指摘のようなものを危険運転致死傷罪等の対象とする方向で検討を進めるということとなる場合には、警察庁としても必要な検討を行ってまいりたいと考えております。
  116. 林原由佳

    林原委員 ぜひ、法務省警察庁と連携していただいて、前向きに御検討をいただきたいと思います。  どうもありがとうございました。
  117. 江崎鐵磨

    江崎委員長 次に、高橋みほ君から発言を求められております。高橋みほさん。
  118. 高橋みほ

    ○高橋(み)委員 日本維新の会の高橋みほと申します。  私は、本日、法務委員会で初めての質問となります。不手際が多々あるとは思いますけれども、初めてということで御容赦いただければと思っております。よろしくお願いいたします。  まず、今回の自動車運転により人を死傷させる行為等処罰に関する法律案につきましては、過去二回、既に審議が行われたということは存じ上げております。議事録を読みましたが、既に細かいところまで御質問いただいたということを了解しておりますので、今回は、私が思います根本的なところと政策的なところで質問させていただきたいと思っております。  まず、議事録を拝見させていただきまして、御親族などを車の事故、いえ、事件と言っても過言ではないことで失った方々の無念さは、いかばかりかと存じます。御遺族の方々は、このような悲惨な事故が起きないで、被害者の方が今でも元気でそばにいてほしいと思うのが本心であると思っております。ただ、それがかなわないからこそ、少しでも事件を減らすために、今回の法改正、法の整備、厳罰化を望んでいるのではないかと思っております。  そこで、そもそも、この法改正を一番願っている御遺族の方の御意思、今回の法改正、重罰化等の改正によって、実際に飲酒運転などによって引き起こされる死亡事故などが減るということがきちんと検証されて法改正がなされているのかということが一番大事なことだと私は考えました。  先ほど横路先生が同様の資料によって数値を挙げられていましたけれども、平成二十三年の死亡事故発生件数は四千四百八十一件で、そのうち発作、急病によるものは十九件、平成二十二年は四千七百二十六件中九件となっております。このような発作や急病による事故の場合、大惨事となることが多くて新聞にも大きく載りますので、たくさん発生していると一般の方々は思われるかもしれませんけれども、十九件や九件というのは、実は数としては余り多くないという印象を持っております。  もちろん亡くなられた方々は無念でしょうし、その御親族の気持ちというのは痛いほどわかります。しかし、たとえ死刑制度があっても、悪質な殺人事件は減らないということもよく言われております。厳罰化をすることによって、これら悲惨な事故事件が減るということが立証できるならば、私はこの法律の改正に大賛成なのではありますけれども、この改正、実際にどのくらいの実証性をもって今回の改正に踏み切ろうとしているのか、谷垣大臣にお尋ねしたいと思います。
  119. 谷垣禎一

    谷垣国務大臣 悪質、危険な自動車運転による死傷事犯、これはもうできるだけ減少させていきたいですし、一件もなくしたい、そういう強い思いを私も持っております。ただ、今お尋ねの点、さまざまな要因によって自動車運転による死傷事故というのは起こっておりますので、この法律でどれだけ具体的に減少するのかというのは、なかなかお答えができないんです。  ただ、申し上げられるのは、この法律案だけで自動車運転による死傷事犯の防止、抑止が実現されるわけではないんですが、悪質、危険な運転行為に対して、この法案が成立すれば、前より重い刑によって罰するわけでございますから、特に悪質、危険な運転を行う運転者に対して、自覚を促して抑止する効果は十分期待できるのではないかと思っております。  過去の統計を見ましても、平成十三年や平成十九年に、平成十三年には危険運転致死傷罪を創設しましたし、それから十九年には自動車運転過失致死傷罪をつくりまして、その後、明らかに数字は落ちてきておりますので、抑止効果は私は十分期待できるのではないかと思っております。  ただ、もう一つ申し上げておかなければならないのは、自動車事故による死傷事犯の抑制に関しては、法律ももちろん大事でございますが、同時に、道路や交通安全施設をどう整備していくか、それから交通安全教育をどう充実させていくかというようなことも極めて大事でございまして、第九次の交通安全基本計画等々ございますけれども、これに基づいて総合的に施策をやっていかなきゃいけないことである、こう思っております。
  120. 高橋みほ

    ○高橋(み)委員 ありがとうございます。  確かに過去の法改正によって犯罪というか事件事故が少なくなったということはもちろん存じ上げております。ただ、そのときは、まだ規範意識が高い人たちが飲酒運転、ちょっと飲んでしまったけれども運転しちゃおうかなというのをやめたという方が多いと思いまして、今結構、悪質というか、根本的にアルコール依存症なりなんなりで、なかなか一般的に、法の厳罰化をしたからといってお酒を飲むのをやめようとか、そういうふうに思う人がちょっと少なくなっていて、法を厳罰化しただけでは、こういうような事故が起こるのは、ちょっと少なくならないんじゃないかと危惧しております。  ただ、今さっき谷垣大臣がおっしゃられたように、この法律だけではなく、本当にほかのものも全て総合的に考えてやっていくんだという言葉につきまして、また後でちょっと質問もさせていただくんですけれども、いろいろその点に関して配慮をいただければと思っております。  そしてまた、私が今、谷垣大臣質問いたしましたのは、やはり厳罰化ではなく、ほかの手段をもっともっととっていくべきだと私は考えたからです。今、科学技術が大変発展しております。それらを導入して被害を防止する方が、被害者の方々や御遺族の方々のお気持ちに沿うではないかというふうに考えたことによります。  例えば、先回の議事録にも、誰か発言されていたんですけれども、アルコールインターロックというシステムがございます。これは、皆様御存じのように、呼気のアルコールを検知すると車のエンジンがかからなくなる装置で、アメリカなどで導入が進んでおります。運転席に装着した手のひら大の機器に息を吹き込んでアルコール濃度を測定し、一定基準を超えるとエンジンがかからなくなる仕組みです。  これを、私、静岡県の富士市の東海電子さんというところが、日本で一つだけつくっているというところだそうなので、拝見させていただいたんですけれども、このロックシステム、一台何と税抜きで十二万八千円で購入できるんですね。取りつけ費用が一台二万円前後。そして、この東海電子さんが予定しているものは、企業が何台もトラックを持って、それを一括的に管理するシステムというのを採用するようにしておりますので、一社に一セット、三十万円ぐらいのデータ確認ソフトということが必要なんですけれども、値段としては、私は結構安いなというような印象を受けました。もちろん、もっと普及すれば半額ぐらいにもなるというふうなことも伺いました。値段を聞いたとき、ちょっと高目のカーナビぐらいかなというような印象だったんですね。  このアルコールインターロックシステムをちょっと調べてみますと、海外では、今アメリカやカナダ、オーストラリアの州において州法として採用されております。そして、アメリカでは、近年、全ての州で二回以上の飲酒運転違反者に装置を義務づけており、二〇一〇年現在では年間約二十二万台が使用されているということを伺っております。さらには、ニューヨークやコロラドでは初犯者にも一回目から義務づけがふえてきているということも伺っております。  六月二十一日の本委員会では、司法権の概念が違うので、日本で導入するのは難しいというような今井参考人のお話があったんですけれども、例えば、今体にハンディキャップを有する人に免許証を与える際の附帯条件に、専用車に限るというような文言を付するようですけれども、それと同様に、飲酒運転をして事故を起こしてしまったような場合に、免許の附帯条件として、アルコールインターロックシステムが装置されている車に限るというような条件をつけることも可能じゃないかとちょっと考えたんですけれども、いかがお考えでしょうか。お尋ねいたします。
  121. 倉田潤

    倉田政府参考人 お答えいたします。  アルコールインターロックにつきましては、飲酒運転防止装置として、欧米の一部の国におきまして、主に飲酒運転違反者に対し、免許停止処分にかわる措置として位置づけられているものと承知をしております。  しかしながら、アルコールインターロックにつきましては、運転者と、自動車が認識している飲酒の有無を確認する対象者との同一性をどのように確認するかという本人確認に係る技術面の課題、また、本人確認のための装置の装着、維持管理に要する費用を誰が負担するのかというコスト面の課題などがあるものと認識をしております。  なお、昨今、飲酒運転を許さない機運が強まっている中で、たとえアルコールインターロックの装着という負担を強いるとしましても、飲酒運転者に対する処分を緩和するというような形での施策になるとすれば、国民の理解を得られるかどうかについて慎重な検討が必要じゃないかというふうに考えております。
  122. 高橋みほ

    ○高橋(み)委員 ありがとうございます。  ただ、今さっき伺った日本でつくっているインターロックシステムは、ちゃんとカメラがついているみたいなんですよね。カメラがついていた上で、そこで息を吐いてもらうというシステムですし、コスト面もそれほど高くないので、これは違反者に負担してもらえば十分ではないかと思いますので、ぜひこれから御検討いただければと私は思っております。  ところで、平成二十三年から、自動車運転事業者の点呼をするときに、運転者の酒気帯びの有無を確認する場合は、目視で確認するほかアルコール検知器を用いてしなければならないと決められています。これは、飲酒運転の根絶という観点から、私は一歩前進だと思っているんですけれども、これでは、例えば長距離の運転手さんのように泊まりで仕事に行った人たちのような場合は、点呼では目的を達することは困難であると考えております。  もう一歩進めて、アルコール検知器の使用だけではなく、インターロックシステムの導入を図るべきだと私はちょっと思っているんですけれども、できましたら国土交通省さんにお答え願いたいと思いますが、いかがでしょうか。
  123. 清谷伸吾

    清谷政府参考人 国土交通省では、事業用自動車における事故削減を図るために、事業用自動車総合プラン二〇〇九を定めまして、これを踏まえて、事業用自動車飲酒運転ゼロの目標達成に向けて、点呼が義務づけられている全ての運送事業者を対象に点呼時にアルコール検知器の使用を義務づけております。  この中で、今御指摘のございました遠隔地における点呼、こういった場合におきましても、電話点呼ということをいたしまして、運転者にアルコール検知器を携行させて検知結果を報告させるなどの対策を講じるよう指導しているところでございます。
  124. 高橋みほ

    ○高橋(み)委員 ありがとうございます。  国土交通省さんでは、最近では、先進安全自動車、ASVの導入、例えば衝突被害軽減ブレーキや車線維持支援制御装置を一定のトラックやバスにつける場合に補助金などを出していると伺っているんですけれども、これを広げて、いろいろな事業者以外の一般の人にも補助金を出して、アルコールインターロックシステムとか衝突を回避するシステムなどの導入というのを促していけば、交通事故の撲滅という意味ですごく効果が出るんじゃないかと私は思っておるんですけれども、いかがでしょうか。
  125. 清谷伸吾

    清谷政府参考人 お答えいたします。  先ほどおっしゃいました被害軽減ブレーキ等に関する補助金、これは私どもが今出させていただいておりますが、あいにく予算の額、総額の都合もございまして、よく走る車あるいは大きな車、これに対して、特に加害性の強い車だとか、そういうことを中心にやらせていただいているところでございます。  したがいまして、現時点アルコールインターロックにつきましては、国の方からの補助はいたしておりませんが、私どもといたしましては、アルコールインターロック装置のガイドライン、技術指針を定めまして、これを周知しているところでございます。これに基づきまして、このガイドライン、この技術指針に適合している車につきましては、全日本トラック協会などが購入補助を行うといったようなことをしているというふうに伺っているところでございます。
  126. 高橋みほ

    ○高橋(み)委員 ありがとうございます。  予算の制限というものがあるのは重々承知しておりますが、なるべくそういうところに補助金を出すのは、日本の科学技術が発展するというところにも資する可能性もございますので、ぜひ検討していただければと思っております。  少し話題をかえまして、六月十九日の会議におきまして遠山議員が、法律が施行された後に、こういったてんかんの方々に対する不利益や、あるいは、場合によっては差別が助長されるのではないかという懸念が指摘されているという御質問に対して、谷垣大臣が、「特定の病名に着目しているのではないんだ、症状に着目しているんだということは正しく理解していただく必要がある。ですから、この運用に当たっては、まず周知、啓発という点が極めて重要なのではないかと考えております。」というような御答弁をいただいたと存じ上げております。  先ほどいただいた御答弁でも、こういうことが重要だ、頑張ってやっていただくというお話を伺ったんですけれども、この法律は、公布の日から起算して六カ月を超えない範囲内で政令で定める日から施行とされています。ということは、六カ月を超えない範囲で正しく理解していただけるような周知啓発ができるんだろうかというのを私は少し心配いたしました。  谷垣大臣予定して、先ほどもおっしゃっていただきました周知啓発とは、具体的にはどんなことを予定しているのか、それは予算を伴った、きちんとした大々的なもので周知啓発をしていただけるのかということをちょっと伺いたいと思っております。
  127. 谷垣禎一

    谷垣国務大臣 今回の法律に関しては、先ほどのような考えで成り立っている、それから、どういう適用の限界があるのかというようなことに関しては、法務省のホームページであるとか、あるいは、これから政令をつくるに当たっては通達を出さなければいけませんので、そういう通達等々でよく説明をしていきたいと思っております。  ただ、先ほどからの御議論は、要するに、事柄は、例えば統合失調症であったり、あるいはてんかんであったり、特定の疾病に対する理解全体がどういうふうに進むかということと非常に密接に関連があるように思います。必ずしも道路交通あるいは自動車運転危険罪の規定の説明だけでそういった理解が完成するというわけのものでもないと思いますので、こういった問題に政府全体としてどう取り組んでいくかという視点が同時になければいけないのではないかというふうに私は感じております。  実は、まだ予算措置等は我が省としては特にないんですが、必要であれば、そういうものをとらなきゃなりません。
  128. 高橋みほ

    ○高橋(み)委員 ありがとうございます。きちんとした周知徹底というものをぜひお願いしたいと思っております。  最後なんですけれども、先回の六月十九日の本委員会で、警察庁交通局長倉田政府参考人の方から、一定の病気等の症状が生ずることを理由として免許が取り消される等の方々につきましては、社会生活等に支障がないようにするため、いろいろな措置というもの、例えば公共交通機関の利用の促進等の措置、これを政府全体としてもいろいろやっていくことは大変重要な課題であるというふうに考えておりまして、警察庁といたしましても、関係省庁と連携をしながら、そうした施策の推進につきまして努力をしてまいりたいというふうに考えておりますという御答弁がございました。  これは、言葉にするとそうなのかなというような気がするんですけれども、では、実際には何をやるのかということをお尋ねしたいと思います。具体的には、例えば公共交通機関の優待パスを発行するというようなことを考えているとか、これは実際にはどのような施策を考えているのか、お尋ねしたいと思っております。
  129. 倉田潤

    倉田政府参考人 お答えいたします。  昨年、警察庁では、一定の病気等に係る運転免許制度のあり方を検討するため、有識者による検討会を開催したところでございます。検討会の提言におきましては、患者差別を助長しないための配慮や広報啓発、患者のモビリティーの確保等については、ひとり警察が取り組みを強化するのみならず、国全体で取り組んで初めて解決できるものとの御指摘を受けているところでございます。  警察庁におきましては、この御指摘を踏まえ、改正法の円滑な施行に向けまして、改正趣旨について広く広報啓発を行いますとともに、一定の病気等にかかっている方に対する理解の促進や差別を助長しないための配慮、移動手段の確保等支援対策につきまして、雇用、教育、公共交通に関連する機関に働きかけているところでございます。また、都道府県警察に対しましても、現場レベルでの関係機関等との連携を強化するよう指導してまいりたいと考えております。
  130. 高橋みほ

    ○高橋(み)委員 ありがとうございました。言葉はいろいろおっしゃっていただいたんですけれども、実効ある施策をしていただきたいと思っておりますので、よろしくお願いします。  きょうは、ありがとうございました。
  131. 江崎鐵磨

    江崎委員長 それでは次に、西野弘一君から発言を求められております。
  132. 西野弘一

    西野委員 六月に引き続きまして、この法務委員会、レギュラーの委員ではないんですけれども、質問をさせていただく機会を得ましたことを、まず冒頭、江崎委員長初め各委員の先生方に感謝を申し上げたいと思っております。  昨日、この質問のいろいろと精査をしておりまして、インターネットを見ておりましたら、たまたま見つけたんですけれども、谷垣大臣も御存じかどうかわからないんですが、車の後ろにベビー・イン・カーと書いたステッカーみたいなのを張っている車があるんです。それ自体、英文法として正しいかどうかも疑わしいところもありますが。  何でそのステッカーができたかということがそのインターネットに書かれていまして、何かアメリカで高速道路で事故があった。その中に女性が倒れておられたので、女性を救出されて、救急で運ばれて、三日間意識が戻らなかったそうなんです。やっと三日後に意識が戻ったんですね。そのときに、私の赤ちゃんはということで病院で聞かれたそうなんです。車の中に赤ちゃんがいたんだということで、慌ててその車を見に行ったときには、もう赤ちゃんが車のシートの下の中で亡くなっていたということで、そこから、ベビー・イン・カーというステッカーを張ることで、万が一事故があったときに、この車には赤ちゃんが乗っているんですということをわかってもらえるようにということで、そのステッカーを張るようになったんだということが載っていました。  インターネットの情報ですので、事の真偽は正直どうかはわかりませんが、ただ言えることは、我々は、こういう悲劇を繰り返しながら、そのたびにいろいろな法改正を行ったりとか、また、いろいろな設備を整えたりとかインフラをきちんと整備したりとかいうことを重ねて、悲劇が二度と起こらないという努力を続けてきたということだと思っています。今回の法改正も、いわばそういった流れの中にあり、無免許運転のあの亀岡の事件がありましたけれども、ああいったことを受けて今回の法改正が出てきているんだというふうに思っております。  ほかの犯罪に遭われた被害者の遺族の方もそうですけれども、例えば、私がお話をよく伺っている犯罪被害者の方は、ずっと時効撤廃の運動をされてきました。奥様が通り魔的に襲われて重傷を負っておられるんですけれども、その犯人が見つからなくて、でも、その方は、自分のためというか、そういう重大事件には絶対時効を撤廃するべきだとずっと訴えてこられました。  ようやくそういった時効が撤廃されたんですけれども、実は、その時効撤廃の改正がなされる直前にその犯人の時効は成立してしまいまして、何か皮肉なことなんですが、その後、その犯人が誰だかはわかったんですけれども、そういうこともあり、それでもずっとその方は手弁当で続けられました。  今回の法案の審議の中で、参考人で亀岡の事件被害者、また被害者の遺族の方も来られていましたけれども、インターネット上、本当にあろうことか、いろいろな誹謗まで受けられているんです。本当に全然事実に関係のないことで誹謗中傷を受けて、それでも、そういったことを乗り越えて、また、つらい悲しみ、苦しみを乗り越えながらこの国会まで来て、参考人としていろいろな自分の思いを訴えられてきたんです。やはり、そのこともしっかりと僕らは心にとめながら、この審議をしなければいけないなというふうに改めて思っております。  その観点で、まず冒頭伺いたいんですが、今回、無免許運転についてどう扱うか、無免許運転による交通事件をどう扱うかということで出されましたけれども、まず亀岡の事件にしましても、国民の誰もが危険運転致死傷罪が適用されるだろうと思いながら、適用されませんでした。これは、審議の中でもいろいろとその理由も述べられておりますけれども、では、そもそも、運転免許制度というのは何を担保するために生まれているのか、何を実現するためにこの運転免許制度があるのかということをまずお答えいただけますでしょうか。
  133. 倉田潤

    倉田政府参考人 お答えいたします。  自動車等の運転は、それ自体、危険を伴う行為でございます。これを誰もが自由に行えることといたしますと、道路交通の安全と円滑に支障を及ぼすおそれがあるところでございます。  そこで、道路交通法におきましては、運転免許制度を設け、一定の欠格事由に該当せず、かつ、運転免許試験に合格した者に限って運転免許を与えることとして、運転免許を有しない者の運転を禁じることにより、道路交通の安全と円滑を確保してきているところでございます。
  134. 西野弘一

    西野委員 お答えいただいたとおりだと思いますよ。単に、ハンドルをどれだけ切ったら車がこれだけ動くんだとか、アクセルはどれだけ吹かしたらいいんだとか、ブレーキをどれだけ踏んだらいい、こんなことだけを求めているんじゃないんですね。いろいろな知識であったりとか、例えば遵法精神であったりとか、そういったその方の資質そのものをこの免許制度によって担保しているんだというふうに思いますよ。  車は、先ほどの質疑でもありましたけれども、大変便利なものですけれども、使い方を間違ったり使う者が間違っていたら、完全な凶器です。だから、無免許で車を運転するということは、いわば渋谷のハチ公前で日本刀を振り回しているようなものですよ。全く同じなんですよ。それぐらいの感覚で、無免許運転は絶対にやってはいけないんだということをしっかり、この法案の審議も通じて、また法案成立後にいろいろな啓蒙活動ということも通じてやっていかぬといかぬと思っているんです。  そこで、お尋ねしますけれども、例えば、無免許で全く道路標識が読めない方が、今回の法改正の中で通行禁止道路の通行というものが危険運転致死傷の中の類型に追加されていますけれども、その道路標識を勉強したことがない方が、通行禁止区分に入っていって、いや、この標識は何の標識かわかりませんでしたと。これはでは故意にはならないということなんですか。もしくは、免許は一度取られたけれども、全然資質がないということで免許を取り消されて、その者が運転していて、ああ、そういえば、免許を取ったときにこの標識が何かを習ったけれども、今は全然覚えていなかったです、意味がわからぬかったんですと言えば、これは故意には当たらないということになるんですか。
  135. 稲田伸夫

    稲田政府参考人 まず、危険運転致死傷罪そのものは、故意に危険な自動車運転を行い、その結果、人を死傷させた者を暴行に準じて処罰しようとするものでございますから、第二条第六号の危険運転致死傷罪につきましても、通行禁止道路を進行することについての故意、認識が必要でありまして、運転免許の有無を問わず、通行禁止道路を進行することについて故意がなければ、この二条六号の危険運転致死傷罪が成立しないということになるわけでございます。  ただ、もっとも、第二条六号の危険運転致死傷罪は、通行禁止道路を進行することについて、未必の故意でも故意に欠けるところはなく、通行禁止道路の認識については、道路標識等によって具体的な規制内容まで認識している場合に限らず、道交法などについての具体的な知識によらなくても、一般常識として当該標識により通行が禁止されていることを認識している場合や、道路の幅員や対向車からの合図などによって通行禁止道路であることを認識している場合においてもこれを認められ得ることから、無免許の者が道交法等の規制の知識がないことをもって、それだけで本罪の成立が否定されるというものではないと考えております。
  136. 西野弘一

    西野委員 まさにそのとおりだと思うんですよ。だから、亀岡の事件なんかにしても、本人は、故意ではないというか、無免許運転したことが直接的にその死傷の原因になっていないとかいうことをおっしゃっていましたけれども、そうではなくて、無免許で乗っているということは、まず全く資質がないんですよ。僕は、その時点でこれは何で認定されなかったのかといまだに疑問を感じています。  その部分はまたかみ合わない議論になりますので、次に行きます。  今回の亀岡の場合は技能を有していたということになったんですが、普通に考えると、免許を持っていない人間が技能を有するまでにということは、今回の犯人もそうですけれども、何度も何度も不法行為を行って、技能だけは、技能というか、ハンドルを切るという狭義の技能は習得したんでしょうけれども、では、いきなり何か魔が差して免許がなくて車を運転して、結果、人を死傷させてしまったという者と、ずっと不法行為をして技能を有して、結果、それでも今回のような事件を起こしたという者と、どちらが罪として重いんですか。
  137. 稲田伸夫

    稲田政府参考人 お尋ねが、現行法にもございます、進行を制御する技能を有しないでという構成要件に当たるのか当たらないのかということでありますれば、それはまさに、従前から申し上げておりますように、当該者のその段階における技能というものに着目し、その技能を有しないということを合理的な疑いを超えて立証できるかという点に帰するだろうと思います。  その上で、そのことが本人の犯情にどの程度影響を加えるかということにつきましては、それはもちろん、それ以前の無免許運転を積み重ねていたこと等がその犯情に影響を与えることは当然でございますので、従前から無免許運転を繰り返していたことについては、それなりにその処罰の際には勘案されているというふうに考えております。
  138. 西野弘一

    西野委員 そうではなくて、無免許運転を繰り返している、処罰に勘案されているというふうにおっしゃいましたけれども、無免許運転を繰り返すことで技能を有した結果、危険運転致死傷罪が適用されなかったわけですよね。では、無免許運転を一回だけして事故事件を起こしたんだとしたら、これは危険運転致死傷罪が技能を有していないので適用された可能性があるんですか。
  139. 稲田伸夫

    稲田政府参考人 まことに申しわけありませんが、個別の事件の際にどういう証拠関係かということによって変わってきますけれども、その進行を制御する技能を有しないというふうに認定できるのであれば、そういう場合には当然危険運転致死傷罪は成立するというふうに考えます。
  140. 西野弘一

    西野委員 もしそういうふうに制御する技能を有しないと判断された場合に、そういった繰り返してきた者よりも、たまたま一回だけ不法行為をした者の方が罪が重くなるというのは、やはりそれこそ世間の感覚とは大変ずれたものになってしまうのではないかなと思っております。そのあたりのこともしっかりとこれから精査をしていっていただかなくてはならないのではないかなと思っています。  そういう観点で、私、思ったんですけれども、そもそも、技能を有するという、その技能という言葉がこの法律自体のいろいろなことを、根本をねじ曲げてしまっているんじゃないかと思いまして、例えばその技能というものの捉え方をもう少し広い観点、広義で、そういった知識であったりとか、そういったものまで含めるとかいうことも考えるとか、もっと言えば、技能という言葉をかえてしまって、例えば資質を有しない者がというふうにかえればいいんじゃないでしょうか。この点についてはいかがですか。
  141. 稲田伸夫

    稲田政府参考人 従来から御答弁申し上げておりますように、この危険運転致死傷罪というのは、あくまで暴行に準じるような特に危険な運転というものを行ったというところによって規定しているわけでございまして、その際に、その進行を制御する技能を有しないということがまさにその危険性を顕著にあらわす類型の一つということで、この類型の中に取り込んできたわけでございます。  今、資質という表現をおっしゃられました。にわかに資質ということで、どこまで含めるのか、法律の、特に刑罰の構成要件としてどういう意味を持ち得るのかということについて、今ちょっとこの場でお答えを申し上げることはなかなか難しいところがございますけれども、いずれにいたしましても、技能ということによって運転が危険になるかならないかという点に着目して解釈をしていかなければいけないというふうに思っております。
  142. 西野弘一

    西野委員 済みません、答弁調整していないんですが、大臣、今私の使った資質という言葉がそのままこの法律の言葉としてふさわしいかどうかは私ももう少し勉強しないといけないと思っていますが、ただ、やはりこの技能というものを余りにも狭い観点で捉え過ぎているのではないかなとは思っているんですが、この点についてはいかがですか。
  143. 谷垣禎一

    谷垣国務大臣 今質疑を伺いながら考えていたんですが、資質であったり、時々我々は反規範的人格とか反規範的態度とかいうことを言いますね。やはりその反規範的人格態度が、委員のおっしゃった資質というのもそういうところに関連してくる概念としておっしゃっているんだろうと思います。反規範的人格態度というのが刑罰を与えなければならない一つの理由であることは事実ですが、しかし、その反規範的人格態度なり資質というのを判断するのは非常に難しいだろうと思います。  それで、こういう法律学の考え方が市民感覚に受け入れられるかどうかは別として、私どもが大学時代教わった刑法では、やはり刑罰を与えるときに、人の内面にわたってまで調べて、捜査して、立証して刑罰を与えるというのは極めて難しいし、個人の内心に対する重大な侵害になるおそれがあるから、できるだけ外形的な事実に基づいて犯罪を客観的に記述していけというようなことを教わった記憶がございます。  そういうことばかり言っていますと、法律家は頭がかたいなと言われる一つのゆえんでもございますが、しかし、私は、今委員のお話を、委員通常国会の問題意識をずっと伺いながら、その問題意識はわかるところがあるんですが、やはり資質なり反規範的人格というものを直接判断するのはなかなか難しいなという思いは捨て切れません。
  144. 西野弘一

    西野委員 まさに大臣のおっしゃっていることが、この法案に対しての国民の感情と、我々のこの審議に当たってのジレンマの部分だと思っています。  もっと言えば、恐らくこの事件に当たった、私、心情的に事故と言うのが嫌なんです。だから、ずっと事件と言っているんです。この事件に当たった検察官の方も、恐らく同じ感覚をお持ちいただいていると思っています。思っていますが、なかなか、今おっしゃったように、では、その直接的な原因となったかどうかということを、無免許運転が結果、原因となったかどうかということを例えば立証するにしても、なかなかこれは技術的に難しいんだという御判断もあって、今回の法改正で後段に出てくる加重という部分が設定されたんだなというふうに思っています。  ですから、被害者の方、遺族の方にも、そのあたりのことをもう少し丁寧に説明をいただけていればいいのではないかなと思っておりますし、国民の皆様にもそういったところを、こういった機会も通じてぜひ丁寧に説明をいただくことが必要なのではないかなというふうに思っております。  もう余り時間がないようなので、あと何点かにかえさせていただきます。  先ほど酒気帯び運転、酒酔い運転質疑もありましたけれども、この加重に当たって、その加重の度合いというものが三年に引き上げられたんですね。ごめんなさい、無免許運転自体の罰則が、今まで一年だったのが三年に引き上げられた。そういったことも勘案しながら、今回のこの法改正の加重の重さというものも決められたというふうなことも伺いました。  その点でお聞きしたいんですが、そういった流れの中で今回の加重の部分を考えられたということがあったのかどうかだけ、まず確認をさせてください。
  145. 稲田伸夫

    稲田政府参考人 今回の改正の中で加重の規定を設けましたのは、まさに御指摘のとおり、無免許運転による悪質な交通事犯が後を絶たないというようなところに着目したところでございます。
  146. 西野弘一

    西野委員 先ほどの資料とも重なる部分があるかもわからないんですが、法務省の資料によれば、ここ十五年平均の無免許運転による交通事故における当事者死亡率が三・三%、交通事故全体の当事者死亡率が〇・八%になっていますから、無免許運転の方が約四倍あるんですね。  そういったことも考えられての恐らく引き上げだったというふうにも思っておりますが、要するに、無免許運転と酒気帯び運転が同じなので三年となったんですね。これが、酒酔い、完全な酩酊状態で運転されたものについてだったら、五年なんですよ。  僕は、きょう、これから検討いただきたいのは、そもそも、何で酒酔い運転といわゆる酒気帯びで、アルコールの入っている度合いが重い、軽いからといって、この辺の長さが変わってくるということは、けしからぬことじゃないかと思っているんです。  酒を飲んだら乗るな、もうこれは世間の常識になっているので、酒気帯びとかいうカテゴリーの部分もなくしてしまって、一滴でも飲めばもう全部だめですよということにした方が僕はいいと思いますし、そうした上で、この無免許運転も、酒酔い運転と同じように五年ぐらいに引き上げるべきだと思いますが、いかがでしょうか。
  147. 倉田潤

    倉田政府参考人 お答えいたします。  まず、酒酔い運転と酒気帯び運転とで刑罰の軽重を分ける理由ということでございますが、アルコールの影響によりまして車両等の正常な運転ができないおそれがある状態にある酒酔い運転については、酒酔いに至らない程度の酒気帯び運転、これは三年以下の懲役または五十万円以下の罰金でございますが、それよりも重い罰則である五年以下の懲役または百万円以下の罰金が設けられているところでございます。  刑罰につきましては、その行為による危険性の程度も踏まえつつ軽重が定められているところでございまして、酒酔い運転につきましては、酒酔いの状態に至らない酒気帯び運転と比較して交通事故を起こす危険性がより高いと言えるため、罰則が強化されているというふうに理解をしております。  なお、無免許運転に対する罰則につきましては、本年六月に、一定の病気等に対する運転者対策や無免許運転等に係る罰則の強化等を内容とする道交法の改正の法律の成立を図っていただきまして、一年以下の懲役または三十万円以下の罰金から、酒気帯び運転と同水準の、三年以下の懲役または五十万円以下の罰金に引き上げたところでございます。  この引き上げ幅に係る立案の考え方につきましては、二十四年中の無免許運転による交通事故の死亡・重傷事故率は一六・二%であり、酒酔い運転による交通事故の死亡・重傷事故率二六・四%と比べれば低いものの、酒気帯び運転による交通事故の死亡・重傷事故率一六・〇%と同程度であることを考慮したものでございます。  また、他の法令における無許可、無資格行為、例えば銃砲の無許可所持、医師でない者による医業について三年以下の懲役が科されていることとのバランスも勘案したものと承知をしております。
  148. 江崎鐵磨

    江崎委員長 西野弘一君、時間が終了いたしております。
  149. 西野弘一

    西野委員 はい。もう時間が過ぎていまして、済みません。  最後に、お願いだけして終わらせていただきますが、飲酒運転ももともとは罰則とかがなくて、その時代には飲酒運転が横行していたと思いますが、いろいろな悲惨な事件を受けて法改正が重ねられて、だんだんお酒を飲んで運転することがいかに悪いことかという認識が広まって激減しているというふうに聞いておりますので、同じように、今回、無免許運転についても法改正がなされていく中で、しっかりと無免許運転飲酒運転と同様に、大変これは危険なことなんだ、だめなことなんだということの認識を広めていただきますように、また我々もしっかりと審議もしていきますが、努めていただきますようお願いしまして、質問を終わらせていただきます。  ありがとうございます。
  150. 江崎鐵磨

    江崎委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。  次回は、来る五日火曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後零時三十七分散会