○石原(慎)
委員 この事態の中で、陸幕は、官邸に対して
防衛出動
命令書を下令するように申し上げましたが、もともと国防問題に暗い三木総理は、政争に追われて、
自衛隊はシビリアンコントロールに従うようにと指令するだけで、坂田
長官もそれに追従するだけでありました。この結果、機能しない
政府、つまり愚かな大将はむしろ敵より怖いという、そういう非常にパラドキシカルな事実というものを
国民に突きつけたわけであります。
そしてその結果、三好幕僚長の決断のもとに、田中北部方面総監、
近藤師団長、高橋連
隊長へと、
命令書ではなくて口頭による
命令が伝えられ、事実上、現場にいる
自衛隊の独断専行で事に対せよという形になりました。
実際には、ソ連の奇襲はなくて、陸上
自衛隊の出撃態勢は敵との交戦という事態になりませんでしたが、問題は、事実上の
防衛出動がなされなかったにもかかわらず、三木政権はこれを隠蔽し、対処に当たった陸自に、同事件に関する記録を全部廃棄するようにと指示したことであります。これに対して、陸上幕僚長の三好秀男氏は、みずから
辞任をすることで抗議しました。
ミグ25の進入は
防衛体制の不備を露呈しましたし、より深刻な問題は、こうした突発事件に対する法的な不備が明らかになったにもかかわらず、残念ながら、
自民党の
政府は、それを認識することなく、本質的に何も改めないままに時間を空費し続けてきたわけです。
そして、この二年後、
内閣はかわりましたけれ
ども、昭和五十三年に、当時の栗栖統幕議長は、概略で、現行法では総理が
防衛出動を下令しない限りいかなる緊急事態でも
自衛隊は
作戦行動ができない、しかし、いざとなれば、閣議が
防衛出動を決定するまでの間、その時間的ギャップの間に
現地部隊が手をこまねいていることはできない、
部隊幹部は、やむにやまれぬ独断専行、超法規的な措置をとるであろうと発言したんです。
これは、ミグ25事件に対する
政府の対応の不備を踏まえてのものでありましたが、この発言はたちまち政治問題化して、栗栖議長は、シビリアンコントロールの観点から不適切として、当時の
防衛庁
長官の金丸信氏に
辞任に追い込まれました。
こうして、大事な
自衛隊の幹部というのが、この事件の中で数人、その職から追われたわけでありますけれ
ども、ただ、これによって
国民の間で有事法制の問題がようやく認識され、次の福田
内閣で、福田総理が閣議で、有事立法、有事法制の研究促進と民間
防衛体制の検討を
防衛庁に指示し、国防論議のタブーがようやく破られて、以後、多くの国防論議が起きるきっかけとはなりました。
次いで、これに似た同種の事件が幾つか起こったわけでありますけれ
ども、例えば平成十一年、一九九九年三月二十三日に、能登半島沖で不審船が領海を侵犯する事件が起こりました。この侵犯した不審船を、その逃走時、これが逃走する最中、海上
自衛隊及び海上保安庁による追跡が行われましたが、有事法制の不備によって、工作船が追及の
海上自衛艦に発砲することはなかったために、強制力を使っての臨検もできずに、船内にどうやら
日本人の拉致
被害者がいたかもしれないのに、結果的にはこれを取り逃すという失態となったわけであります。当時の野中広務官房
長官は海上警備行動の発令に反対をしたという事実があります。
この事件の後、海上
自衛隊に、強行臨検を任務とする特殊
部隊、特別警備隊、SBUと、
護衛艦ごとに臨検を任務とする立入検査隊、立検隊が編成されました。
また、追及の際に、海上保安庁の船艇の速力が不審船や
護衛艦に比べて大幅に劣っているという事実が露呈して、不審船事案に有効に対応できないことが露呈したために、以降、新造される巡視艇の能力が大幅に向上されるようになったほか、平成十三年に海上保安庁法の改正が行われまして、この改正で、第二十条二項において、一定の条件に限って、巡視船等が、停船
命令を無視して逃走し抵抗する船舶に対して射撃し、乗員に危害を加えても、海上保安官の違法性が阻却されることが明定されたわけであります。
こういった類いの事件、それから次々事態が起こるわけですけれ
ども、そもそも、武力攻撃事態対処法ではとても事足りるものではないと思いますね。平成十五年の六月、有事法制の第一段階と言える武力攻撃事態対処関連三法、
安全保障会議設置法一部改正法と武力攻撃事態における
我が国の平和と独立並びに国及び
国民の安全の確保に関する
法律、武力攻撃事態対処法、
自衛隊法及び
防衛庁の職員の給与等に関する
法律一部改正法が
成立して、有事法制の基本法であります武力攻撃事態対処法が施行されました。
しかし、依然として、現憲法のもとでは、
日本国の自衛権は、
防衛出動が発動された時点でのみ行使が許されるという事態は変わっておりません。
防衛出動
命令が出ない平時においては、
自衛隊には自衛権がない、警察官職務執行法七条に基づく警察権の行使だけしか認められていないという原則に一向に変更はないわけです。したがって、相手方に攻撃された場合は、正当
防衛の考えに基づく反撃か、非常な危険に直面して緊急退避を可能とするための攻撃以外は許されないというわけでありまして、こういった事態がいまだに続いているわけです。
いずれにしろ、その事態の延長の中で、先般も、中国海軍のフリゲート艦に射撃管制用のレーダーを照射されても、尖閣領空を中国機に侵犯されても、現在の
自衛隊に許されるのは警告射撃のみでありまして、相手が警告に従わない場合には、
自衛隊に許されるのはただの追尾に限られて、相手が
日本の領空、領海から退去するのを待つしかないという事態が続いています。また、漁船に偽装したゲリラの侵犯、上陸も傍観する以外ない。
こういったものに対して、米国初め諸
外国では、平時において自衛権行使は当然でありまして、個々の
部隊指揮官には
部隊を守るための自衛権行使が認められておりまして、指揮官は状況に刻々対応する。その場合、
部隊には厳しいルール、交戦規定が適用されておりまして、自衛権行使とROE、つまり交戦規定が諸
外国の軍隊の行動基準になっておりますけれ
ども、これに比べて
日本の場合には著しい差があるわけで、そういう格差の中で、
日本の
自衛隊はこれからもいろいろ苦労せざるを得ないということであります。
さらにまた、最近、非常に滑稽なといいましょうか、驚くべき事態が起こりました。
かつて、ソマリアの狭小な海峡で暗躍する海賊に諸国が手を焼いて、これを排除するために
日本の海上
自衛隊が派遣されました。これに対しては左翼の反戦運動家たちからもいろいろ強い反発がありましたが、その当初は、
自衛隊法八十二条の海上警備行動を根拠とする派遣でありました。それ自体がどういうことかといいますと、警察官職務執行法の準用で海上
自衛隊が行動する。これは、正当
防衛か緊急避難か、相手が禁錮三年以上の罪を犯している場合に限り攻撃してよいとされているものでして、これは冗談でなく本当の話でありますが、一体、
現地に出向いた自衛官が、相手が犯している行動が禁錮三年以上の罪に該当するかしないかというのをどうやって
判断するんですか。こんなばかな規制で
自衛隊員を
現地に派遣して、何ができるというんですか。こういったものが依然として続いているわけですよ。
そしてこのとき、ここに出向いて、これに反対して監視していた左翼系の反戦運動家たちとピースボートが
現地におりまして、海賊におびえて何を言ってきたかというと、
政府に打電して、どうか
現地にいる海上
自衛隊に自分たちを守ってほしいという要求をした。それで、海上
自衛隊がそれを受けて、彼らをガードするために周りを周遊したら、この連中は、自分の言っていることの建前と現状が違ってきたので、何を言い出したかといったら、
海上自衛艦じゃなしにぜひ保安庁の船に来て自分たちを守ってほしいというばかな要求をした。大体、
日本の海上保安庁が領海を出て
外国の海域で警護活動をできるわけがない。
こういうおかしな事態が実際に続いたわけでありまして、早急にこの警察官職務執行法の枠を取り去って、
自衛隊の規定をポジティブなものからネガティブリストに変えていく論議をすべきだと思いますが、
防衛大臣、いかがお思いですか。