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永野参考人 法政大学の
永野と申します。
本日は、本
委員会にお招きいただき、感謝しております。
私は、日米比較を専門にしておる者です。これまで、本
法案に
関係する米国における
制度の論文を二本公表いたしております。ただ、それぞれ百ページを超える論文でありまして、きょうお配りするのもいかがなものかというふうに考えまして、いずれもネット上で
公開されていますので、もしも御興味のある先生方におかれましては、参照していただければ幸いです。
また、おとといの晩、こちらの事務局から
参考人として出るようにという依頼を受けまして、きのう一生懸命レジュメをつくろうと思ったわけでありますが、間に合いませんでした。それで、申しわけございませんが、本日は口頭で発表させていただきたいというふうに思います。
私は、本日は、
特定秘密保護法案について賛成する
意見とともに、民主党が
提出された
情報公開法改正案につき、
制度的不備があることから臨時国会では成立し得ないという点につき、日米比較法の
立場から
意見を申し述べさせていただきたいと思います。
まず、
特定秘密保護法の諸点から
お話しさせていただければと思います。
まず、
特定秘密保護法を制定する意義について述べたいと思います。
国は、
国民の生命や利益を確保するために、一定の
秘密を保全しなければなりません。その一方で、国の
秘密が必要以上に拡大されますと、
民主主義の存続、発展にとって脅威となることから、国会により
行政機関を民主的に統制することが必要となります。これが、今回の
法案の大きな意義であると思います。
これまでこのような
法律がなかったこと、すなわち法の欠缺こそが本
法案の立法事実であり、何か特定の
秘密漏えい事案が
法案提出の立法事実として必要であるという見解は誤りであるというふうに思います。
なお、本
法案につきましては、
憲法にかかわる重要な争点がございます。私からは、これらの争点を
議論する際に、現実に、外国のインテリジェンス機関が存在していることを踏まえて
議論していただくことを
お願いしたいと思います。これらの争点につき、知る
権利を初めとした
人権論の
枠組みの中だけで
議論するのは現実的ではないというふうに考えます。かえって
国民の生命財産を危うくする結果を招きかねないと考えます。
次に、
特定秘密の範囲につきまして
意見を述べさせていただきます。
現在、本
法案の
特定秘密の範囲が広がり、
国民の知る
権利が侵害されるのではないかという懸念が
報道されております。この点につきまして、
幾つかの
意見を述べたいと思います。
まず、知る
権利は、
日本国
憲法に直接的な
規定がありません。しかし、
憲法に直接的な
規定がない場合でも、米国の
憲法判例で認められ、我が国の
最高裁判例でも認められているプライバシー権のような新しい
人権があることは事実でございます。
それでは、新しい
人権としての知る
権利は、我が国の判例や米国の判例で認められているのでしょうか。
結論から申しますと、我が国の判例において、新しい
人権としての知る
権利を認めたものはなく、具体的な請求権としては、
情報公開法における
情報開示請求権として認められるにとどまります。あとは、
憲法学者の先生が、
憲法二十一条との結びつきにおいて、抽象的な
権利として主張されているにとどまると思います。この知る
権利は、環境権と類比していただければわかりやすいというふうに思います。
米国では、私が本年公表した論文で証明いたしましたとおり、判例法において
憲法上の知る
権利は一切認められておりません。かつて、連邦
憲法上の知る
権利が黙示的に認められているとする論文が
幾つか存在していたにすぎません。逆に、一九七二年の連邦控訴審判決では、その
情報開示が国益と一致しないと合理的に考えられる
分野の諸活動について、連邦
政府には、内部の
秘密を保持する
権利と義務があると判示されております。
このように、我が国では、知る
権利は
憲法二十一条に結びついた観念的な
権利の域を出ていないものでありますので、本
法案では、第二十一条で「
国民の知る
権利の
保障に資する
報道又は
取材の自由に十分に配慮しなければならない。」として、知る
権利を
報道または
取材の自由に係らしめる
規定となっております。知る
権利の利益は
報道または
取材を通じて実現され、
国民の知るところとなりますので、この
規定には賛成したいと考えます。
なお、知る
権利は、
配慮規定で定めるだけでは不十分であり、直接的に
保障するというような形で
規定すべきだという
意見がございますが、そうしますと、逆に、
特定秘密の
指定により、知る
権利自体が縮減してしまうということに理論上なるかと思います。
次に、本
法案と
情報公開法との
関係について
意見を述べさせていただきますが、この点につきましては、本
委員会において、
情報公開法改正案の
提出者の一人であられる民主党の
枝野幸男先生に対する公明党の大口善徳先生の質疑応答を通して、ほぼ全ての争点が明らかになったというふうに考えておりますので、省略したいというふうに思います。なお、
特定秘密の内容によっては、
行政機関の長により存否応答拒否、米国で言うグローマー拒否がなされる事案もあるかと思います。
次に、本
法案について、
特定秘密の解除が
規定された意義について述べたいと思います。
秘密保護法制の基本は、機密を
指定し、保全し、そして解除することであります。
現在、我が国において、
秘密の解除を直接的に
規定した
法律はなく、あくまでも裁量的な解除がなされているにすぎないというふうに考えております。また、
国家公務員法第百条第一項等の
秘密漏えいの禁止をしている
条文の
対象となっている
秘密につきましては、その
指定範囲がこれまで
国民に明らかにされてこなかったばかりか、
行政機関は、みずからの裁量により開示する場合を除くと、永遠に
秘密にしておくことができるのが現状ではないでしょうか。
この
秘密の解除を
法律で定めてこなかったことが、我が国の大きな問題であると考えております。特に、機微性の高い機密であればあるほど、これを扱う官僚の皆さんは、みずからの裁量により
秘密の解除をすることをちゅうちょするのではないでしょうか。
本
法案では、このような現状を改め、
国家公務員法等で守秘義務が課されている
秘密の中に、
国家安全保障にとって特に重要な一定の類型となる
情報、すなわち
特定秘密を設けて
秘密の範囲を限定し、一定の期間制限を設けて
秘密を解除することを予定しております。これが本
法案の大きな意義であります。
なお、一言つけ加えますと、本
法案における
秘密指定の範囲は、米国における大統領令による
秘密の
指定の範囲に関する
規定よりもかなり厳格なものとなっております。
以下、時間の
関係から、本
法案におけるポイントについてのみ
お話しさせていただきたいと思います。
まず、本
法案では、
特定秘密の
指定が
行政機関の長により行われることから
特定秘密の範囲が広がるのではとの懸念から、第三者機関による
チェックが必要だとの
議論がございます。
この点につきまして、米国においては、行
政府内部での
チェックがなされており、
幾つかの
制度が、先ほど
春名先生が
幾つか御指摘なさいましたけれども、設けられております。
私は、このような
制度の一部を我が国に導入することは可能であると考えております。例えば、
内閣官房において、各
行政機関の長による
秘密の
指定が適切であるか否かを
チェックする組織をつくることが考えられると思います。
ただし、この組織の
メンバーは、米国でもそうですが、やはり
国家機密、本
法案では
特定秘密を扱う行
政府内部の
人間に限られるべきだと考えます。なぜなら、この
チェックをマスコミ
関係者、学者、弁護士等の
有識者に委ねますと、これらの
有識者が外国のインテリジェンス機関に狙われることになるからです。これらの所属機関は、カウンターインテリジェンス能力を持っておりません。また、適性評価をこれらの
有識者に課す
必要性も、必要となります。
次に、国会における
チェックですが、一定の保全
措置を定める立法や議院規則の改正等がなされた場合、
行政機関による本
法案の運用につきまして、一定程度
チェックすることは可能であろうというふうに思います。いわゆる
秘密会であります。米国ではそのような運用がなされており、かつ厳格な
秘密保全体制がとられております。
最後に、司法機関に
チェックさせるということは可能でしょうか。
米国では、連邦
裁判所の裁判官として任命されるためには、大統領が指名し、上院の承認を得る必要がございますが、大統領による指名がなされる前に、実質的にセキュリティークリアランスと同様な
チェックが行われております。また、連邦
裁判所における
秘密保全も厳格なものがございます。これらが整備されない限り、我が国では、インカメラ審理を通じた裁判官による
情報公開法に基づく審査はできないと考えます。
次に、本
法案の適性評価
制度について触れたいと思います。
これは、
特定秘密を保全するための予防的な
制度であります。現在、
内閣決定で運用されている
制度が、その濫用を防ぐため、
法律でこれを定めることには大きな意義があると思います。
米国では、連邦
公務員のうち
国家安全保障職につく個人等や、米国
政府の機密
情報に接することになる
民間人、請負人等の被用者等に対して、厳格な適性評価
制度が運用されております。このような
制度は、
国家安全保障にかかわる重大な
秘密を保全するために、必要不可欠な
制度であると考えております。
なお、米国では、閣僚等、PAS官職と言われている
人々に対してもセキュリティークリアランスがかかっておりますが、本
法案では、
行政機関の長等に対しては適性評価を不要としております。第十一条に
規定がございます。確かに、我が国でこれを実施しようとすると総理大臣による国務大臣の任命権を制約することになるので、困難な事態が生じるかもしれませんが、いわゆる身体検査は厳格に実施されるべきだと考えております。
次に、本
法案の罰則についてです。
秘密漏えいを防ぐためには、一定の刑事罰を科す必要があると考えております。この点、本
法案における第七章の
罰則規定については、
懲役十年といった刑期が、
国家公務員法における現行の罰則との比較で厳罰化であるという
批判がございます。
しかし、この刑期の長さを国内法の現状比較だけで行うのは無理があると思います。外国のインテリジェンス機関や軍等との
情報共有を考えれば、相手国と同じレベルの実効性のある刑事罰は必要となるからです。このため、本
法案の原則を
議論する際、
日本国内における厳罰化という視点だけではなく、外国による
法制度をあわせて検証する必要があります。
なぜならば、相手国が自
国民に非常に重い刑罰を科しているというほど
秘密を守ろうとする
制度が整っているわけでありまして、これに対して、我が国の現行の
国家公務員法等における刑罰は相当軽いというふうに思われてもいたし方ないというふうに思います。
最後に、民主党が
提出された
情報公開法改正案について
意見を述べたいと思います。
本改正案に関する問題点の多くは、先ほども触れましたが、公明党の大口善徳先生が指摘してくださったとおりであると思います。私は、大口先生の指摘に加え、本改正
法案におけるインカメラ審理に対する問題点を指摘したいと思います。
このインカメラ審理
制度は、米国の
情報自由法における同
制度を参照したものだと思います。しかし、先ほど述べましたとおり、米国では司法府においても厳格な
秘密保全
制度が運用されており、そのような司法府における
秘密保全
制度がないままで本改正案を施行することはできないというふうに考えております。
なお、米国のように、例えば、
最高裁判所の裁判官に実質的な適性評価を実施する場合には、
内閣による指名、
憲法七十九条にございますが、に制約を課すことになりますし、
裁判所における
秘密保全等においても、多くの法改正が必要となります。私
自身は、インカメラ審理の導入に賛成ではありますが、これらの課題が残されたままで本改正案を施行することはできないと考えております。
以上で私の
意見陳述とさせていただきたいと思います。御清聴ありがとうございました。(拍手)