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小黒参考人 法政大学経済学部准教授の
小黒でございます。
本日は、貴重な
意見陳述の場にお呼びいただきまして、ありがとうございます。
持ち時間は十五分ぐらいだと思いますので、簡単に御説明させていただきます。
お手元の方に資料が配られていると思いますが、全部で五点セットになっております。一番表の表紙に一枚紙でございまして、二枚目が「
経済教室」、昔の、今の法政大学の職ではなくて一橋大学にいたときに書いておりましたものでございます。それから、もう
一つおめくりいただきますと、週刊エコノミストの記事がございます。こちらも一橋大学の時代に書かせていただいた資料でございます。
それから、次の資料でございますけれども、「
世代間格差を
改善するための事前積立方式の可能性」という資料になってございます。こちらの方はちょっと大部になっておりますが、両面資料になってございます。
それから、最後になりますけれども、「
年金給付一%削減で特養待機待ちは解決できる」というような資料をつけさせていただいております。
お手元の、
最初の資料に従いまして説明させていただきます。
まず、
社会保障改革の工程表を定めるプログラム法でございますけれども、これは、冒頭の方からきょうの
意見陳述の先生方が発言されておりますように、
社会保障費が急増している、他方で、公的債務は二〇〇%に迫るような形で増大するというような形になっている中で、こういったプログラム法を制定するという試みについては、基本的には賛成ということでございます。
しかしながら、財政の
持続可能性や
世代間格差との関係で幾つかの懸念を持ってございますので、順次、説明させていただきます。
まず、一点目でございますけれども、釈迦に説法でございますが、二〇二五年には団塊の
世代が後期
高齢者、七十五歳以上になるというような
状況になっております。そうしますと、
医療とか
介護費の急増が予測される。基本的には、
年金につきましては、二〇〇四年の
年金改革で、一応、その財政はある
程度、
年金財政の方は健全化しているという話になっておりますが、そこもちょっと後の方で説明させていただきます。
そういった中で、現在、内閣府が、二〇一三年八月にも中
長期の
経済財政に関する試算というものを出してございますけれども、実は、この試算は、二〇二三年度以降の推計というのは公表していないという形になっております。実は、二〇〇九年ぐらいから似たような試算を出しておりますが、常に、いつも二〇二三年度でとまっているというような
現状でございます。例えば、二〇一〇年度に出せば、次は二〇二四年度まで一年延伸して延ばすというのが普通でございますけれども、実は、二〇二三年度以降はずっと公表されていないという
状況です。
このため、政府の公式資料は出ておりませんが、仮に内閣府と似たような手法で中
長期試算の
参考ケースを延伸した場合に、どのような姿になるのかということを、先ほどのプレゼン資料のところに番号が振ってございますが、二十三ページ目をちょっとごらんいただければと思います。
この資料を見ていただければわかりますように、左側の方が、国、地方の基礎的財政収支の対GDP比での目盛りですね。それから、その財政収支の目盛り。それから、右側の方が、公債等残高の対GDP比の目盛りになってございます。赤い線と黒い線がございますが、上から順番で、一番上のグループが基礎的財政収支のグループになってございまして、黒い線が内閣府が推計したものになってございます。それから、二番目のグループが財政収支、それから、三番目の下側にあるグループが公債等残高の推移になってございます。
見ていただければおわかりになりますように、二〇一五年以降、増税した後ですけれども、内閣府の方の試算では、一応、いろいろ、
政策経費での刈り込み等がございますので、若干その後も
改善していくということになっておりますが、私の簡易試算と内閣府の方で、ある
程度同じような推移をたどってございます。そこから延長していきますと、二〇五〇年度でどうなるかといいますと、大体、対GDP比で基礎的財政収支が八%ぐらいの赤字になりますというような推計結果になってございます。
この均衡には、消費税換算で大体一六%ぐらいの追加増税が必要ではないか。理由としましては、消費税一%で大体二・七兆円もしくは二・五兆円ぐらいの追加増収があるということですので、GDPを大体五百兆円としますと、〇・五%ぐらいのGDP比での増収があるということになります。そうしますと、八%を均衡させるためには、二倍の一六%が必要ということです。
しかも、内閣府の推計では、実はもう既に消費税が一〇%になっているということを
前提にしてございますから、つまり、
社会保障を抑制しない場合、どういうことになりますかといいますと、消費税で二六%ぐらいの
負担を覚悟する必要があるというような推計結果でございます。
次に、二点目でございますけれども、今、
年金のところについて、ある
程度改革が進んで、
マクロ経済スライド等が入ることによって
年金財政は健全化するというようなシナリオになってございますが、この中
長期試算のインフレ率というものを見ていただければわかるんですけれども、ここには
二つ、ケースが載ってございます。きょう、ちょっとお手元に資料はお配りしてございませんが、
経済再生ケースと呼ばれるものと
参考ケースと呼ばれるものの二種類でございます。
経済再生ケースではどうなっているかといいますと、実は、二〇一四年度から既に二%以上のインフレ率が達成できるというようなシナリオになってございます。他方で、
参考ケースではどうかといいますと、二〇一四年度から一・二%以上のインフレ率が実現するというのが
前提になってございます。
そうしますと、例えば、
経済再生ケースでは、
年金の
マクロ経済スライドが順調にある
程度発動し、その分、基礎的財政収支は
改善するというシナリオになっているはずでございますけれども、過去のインフレ率をちょっと見ていただきたいんです。先ほどの資料の上側、二十一ページ目にございますけれども、これは消費者物価指数、コアの方、コアCPIと呼ばれるものの対前年比の推移になってございます。
お手元の資料を見ていただければおわかりになりますように、例えば、一九八五年を除きまして、それ以外は、特異的な事例を除いては、二%を超えることはないようなインフレ率になってございます。
例えば、八九年では、消費税が初めて導入されて引き上がったわけですけれども、このときには二%を超えております。あと、九〇年、九一年、これは湾岸戦争等の影響で原油価格が高騰したことが関係している。それから、九七年も、ここは消費税を三%から五%に
引き上げたことによって二%に近いインフレ率になったわけです。それから、二〇〇八年もそうですけれども、原油価格の高騰があります。それ以外を見ますと、ほとんど二%になかなかならないというような形になってございます。
そうしますと、今、アベノミクスの三本の矢ということで、一本目の矢で異次元緩和ということでいろいろやってございますが、なかなか、
経済再生ケースというようなシナリオというのは難しいのではないか。そうしますと、内閣府が出しております中
長期試算の基礎的財政収支の推移というものは、もうちょっと厳しい感じになる可能性が高いということではないかというふうに懸念してございます。
そうしますと、三点目でございますが、将来の財政危機を回避するためには、最終的な増税幅と
社会保障の抑制幅というものを政治主導で決めていただくしかない。
この辺の話をしますと長くなりますので、お手元の資料の「
経済教室」とかを見ていただければわかりますけれども、段階的な増税や段階的な
給付削減というのは、基本的には若い
世代や将来
世代ほどだんだん
負担が重たくなっていくし、先ほどちょっと
意見陳述でもあったところでございますけれども、
給付が次第にどんどん切られていくというようなことを意味します。そうしますと、財政の
持続可能性はたとえ高まったとしても、
世代間格差は
改善しないというようなことになるのではないかということを懸念してございます。
そうした中で、財政の
持続可能性を
確保しつつ、かつ、
世代間格差を
改善するためにはどうすればいいのかということでございますけれども、お手元の資料の、プレゼン資料もしくはお配りしました週刊エコノミストの記事を見ていただければ幸いでございますが、プレゼン資料の場合は三ページから十四ページになってございます。ここで挙げられておりますような事前積み立てというものを導入することによって、少し
改善したらどうかということでございます。
ちょっと簡単に事前積み立てだけ御説明させていただきますけれども、プレゼン資料の四ページ目をちょっと見ていただきたいんですが、詳しい説明をしますと長くなりますので、四ページ目のところで簡単に説明させていただきます。
現行制度では積立金を持っておりますが、単純化のために積立金は除くという形で、左側の下側の賦課方式と書いてあるところをちょっと見ていただきたいんですけれども、今は大体、現役三人で一人の
高齢者を支えているというような形になってございます。
計算上、簡単にするために、
年金を仮に三百万円というふうにちょっと考えていただくと、大体、一人百万円ずつ拠出すればいいというような形になります。これが、二〇五〇年ぐらいになりますと、一人の現役で一人の
高齢者を支えるというような形になりますので、そうしますと、もし
年金三百万円を維持しようとしますと、三百万円拠出しなければいけないというような形になります。
そうしますと、だんだんその
負担は重たくなるし、もう
負担を上げないんだとすれば
給付を削減するというような形で、
社会保障の不安定性が増すという形になるわけですけれども、実は、これを解決する方法はそんなに難しくございません。
実は、厚生
労働省が当初積立金をとった理由も、
保険料平準化方式というものを採用していたわけですけれども、もうちょっと多目に、例えば、右側になりますけれども、各現役は、二〇一一年時点で、百万円を拠出するのではなくて百五十万円ずつ拠出する。そうしますと、全体で四百五十万円手に入るわけですが、
給付は三百万円して、残りの百五十万円は積み立てておく。この百五十万円を、例えば、二〇五〇年時点で、三百万円
負担しなければいけない人の
負担を百五十万円に引き下げるために使って、
負担を百五十万円にして、全体としては二〇五〇年で三百万円
給付するというようなことにする。
従来、厚生
労働省は、積立金を持っていた理由として、こういった
負担が上昇していくことを抑制するために積立金を持っていたわけですけれども、こういったものをちゃんと
現行制度などで
拡充して、
負担の
水準と
給付の
水準をなるべく一定にするということをすれば、
世代間格差も
改善できるのではないかということでございます。
それから、今みたいな説明をしますと、二重の
負担の問題とか積立金の運用問題等についていろいろ懸念が出てくるわけでございます。
お手元の今の資料の十五ページを見ていただければと思いますけれども、両面になってございますのでわかりにくいかもしれませんが、ここで書いてありますように、例えば、積立金の運用が巨額になるのではないかというような懸念もございますが、実は、今御説明したのは、基本的には
現行制度でございます。
賦課方式の
部分と、あと積立金の
部分があって、賦課方式の
部分というのは、現役から取った
保険料とか、もしくは税もあるとすれば、税金の
部分も右から左にすぐ渡してしまうということですので、積立金というのはそんなにたくさんになるわけではない。そうしますと、ピーク時の積立金というのを、
学習院大学の鈴木亘先生とかが推算されておりますけれども、実は二百兆円ぐらいだという話でございます。
現行制度の積立金が、例えば厚生
年金では二〇〇六年で百四十兆円ぐらいあったということを考えますと、まんざら運用不可能な話ではないということになろうかと思います。もし
リスクを嫌うのであれば、例えば、全額を国債で運用するなりという選択肢もあるということでございます。
それから、インフレに対する懸念もございますけれども、
現行制度の積立金でも同じような規模の積立金は持っていたということですから、この問題がネックになるというのはちょっと奇妙な話になってくるかなというふうに思ってございます。
もしインフレになったとしても、通常はフィッシャー方程式がありますので、フィッシャー方程式では、名目金利というのは基本的には実質利回りに期待インフレ率がくっつくものという形になっている。そこでインフレ率が上昇すれば、積立金の名目利回りが上昇することで対応可能なはずということになると思います。それでも、もし不安だということであれば、物価連動国債を財務省に発行していただいて、それを購入するというような枠組みにしてはどうかというふうに考えてございます。
それから、ここが重要なんですけれども、今みたいな話をしていると、
現行制度で十分じゃないかという話があるかもしれませんが、そこも完全な誤解でございまして、今の場合は、先ほど御説明しましたように、
負担はだんだん上がっていく、他方で、
給付はどんどん切られていくという形になりますと、若い
世代もしくは将来
世代になればなるほどその
負担が重たくなっていくということになります。
ですので、なるべく
負担を平準化していただき、
給付水準もなるべく一定にしていただくというような形で、二〇一四年にまた財政検証があると思いますけれども、そこできっちりやっていただくということが重要ではないかというふうに考えてございます。
なお、最後になりますけれども、あと、
社会保障の総額を適切に管理するということは非常に重要でございます。そういった
社会保障に関する受益と
負担の均衡を透明化するという意味で、現行では積立金も含めて
年金の特別会計なりいろいろな会計がございますけれども、一般会計とのやりとりが不明瞭になってございますので、できればここは政治主導できちんと、外から見たときに見やすい会計
制度にしていただくということがまず一点目と、
社会保障予算のハード化という概念がございますけれども、きちんと、
負担が一〇〇であれば受益を一〇〇にする、
長期的にですね。もし
負担が八〇であれば
給付を八〇にする。一〇〇にしたいのであれば、八〇の
負担を一〇〇にするというような形で、適切な財政のメカニズムが働く会計
制度をぜひつくっていただければなというふうに思ってございます。
以上でございます。(拍手)